(最低限、一週間に必ず一回は投稿する)
それはそうと今週のジャンプ、敵の三人が可哀想でした…
分かるぜその気持ち…てかあの三人の中でオリジナル個性(自分で考えてた個性)がまさかいたなんて…応募ではありません、偶然です。
「気配に敏感な私だから分かりました……この不穏な嫌な殺気、街で繰り広がる被害…」
少女は氷を纏った冷気の風を操り、ある少年は燃え盛る炎の熱を操り、真逆な風と炎の力が相性を最高に引き寄せ、これまでにない最大火力を解き放つ。
冷たい氷の破片が散らばり、炎の火種が散らばり、氷山の一角を思わせるような美しく鮮麗な氷に、灼熱の炎の海が全てを明るく照らすかのように、氷を包み込む。
氷と炎は対極にあり、相性が悪いと聞く。
しかし、目の前の光景を見れば、その考えは全て否定されることになる。
氷と炎の融合…メタンハイドレートという燃える氷の名を呼ぶに相応しい、見てるだけで、不思議な感覚に身を包まれるようなこの幻想的な光景――
氷と炎の対極な存在が最高にマッチングし、冷たい冷気と熱い熱気が混ざり合い、温度が不安定になる。
しかし目の前の美しい光景に、その場に倒れてる皆んなは目を奪われ、心なしか見惚れてしまう。
「その正体が、貴方と聞けば尚更納得がいきます…」
その炎と氷の後ろには、氷の女王とでも呼ぶべきか、美しく、清らかな声が路地裏に響く。
「一括送信…可笑しいと思ったんだ……お前みたいな大真面目なヤツが、急に訳分からんメッセージ、送ってくる訳無いもんな……」
同じく、聞き慣れた声も聞こえる。
冷たいようで、でもそこには確かに以前とは違う、温もりが込められてる声…
「遅くなっちまったろ、緑谷――」
「轟くん!」
「雪泉ちゃん!?それに轟くんまで…どうしてここに?」
次第と視界が晴れ、煮えたぎる炎と、冷気で霜が降りかかってた氷が晴れ、そこに映る人物は、轟焦凍と雪泉――
「ハァ……邪魔を……そろそろ、
対するヒーロー殺しのステインは、又も飯田を殺すことができず思わず舌打ちをし、二人の救助に忌々しい目付きで睨みつける。
――何故あの二人がここにいるのか?
雪泉も飛鳥達と同じく強化パトロールで保須市へやって来た。それも、夜桜や叢とは別々で…
その理由は無論、ヒーロー殺し――
ヒーロー殺しが保須市にいる確率があると推測しやって来たのだ。
とは言ったものの、ヒーロー殺しが他の地域に逃亡し犯行を行なってる場合も考えられたが、どうにも胸騒ぎがしてならなかった。
だが、もしかしたら保須市でまだヒーロー殺しがいる確率も考えられる…ヒーロー殺しを見たという反応は一切ない、それらしき人物も、似たような人物も――
轟の研修先は驚くことに、エンデヴァー事務所、もとい実の父親…今まで憎み、否定して来た父親の事務所を選んだのだ。
そこからここに結びつくのには理由が存在する。
エンデヴァーはインゲニウムの事件があってか、パトロールをより厳しく強化し、
そしてその警備に轟も入っていた。
しかし昔の轟から考えれば、研修先がエンデヴァー事務所だなんて考えられないだろう…
何より母親に危害を加え、大好きなお母さんを目茶苦茶にしたエンデヴァーの所業は当然許されるはずがない、でも…轟は、第一志望をエンデヴァー事務所として入った。
轟が彼の事務所に入った、その理由は――
「緑谷から偶々連絡入ってな、そしたら意味が分からんメッセージが送られて来た…数秒意味を考えたよ。
そして調べた結果、ここへやって来てみればまさかのヒーロー殺し…こりゃあ偉い大物が現れたもんだ…雪泉とは…別々でやって来たけどな…
大丈夫だ、数分もすりゃあプロも現着する…!幾ら相手がヒーロー殺しでも、俺らはさておき、多くのヒーローたちが来たら話は別だ…そうだろ?」
轟が右足を出すと、地面を這うように氷が出現し、路地裏の道を凍らせる。
ステインは瞬時に避け素早くジャンプをするものの、雪泉は鋭い氷のクナイを形成し数本、ステインに飛ばす。
ステインは長刀を軽々と扱い、氷をバッサバッサと切り捨てる。
一本もミスることなく全て斬り捨て、キラキラと輝く氷の破片が散らばり、風に身を乗り消えていく。
轟はステインが着地する前に氷を上手く使って、倒れてる飯田、飛鳥、緑谷、ネイティヴを救出する。
「とにかくだ…
コイツらは殺させねえぞヒーロー殺し――」
そして四人は無事、二人の元に転がるように助かる形となった。
「飛鳥さん…他の方々もご無事でしょうか…?」
雪泉は心配そうな目で四人を見渡す。
緑谷は大して問題ないように見えるが、他の三人は血を流していた。
飛鳥は「私は…大丈夫…!」と声を張り、飯田は小さな声で「僕も大丈夫だ…」と小声で呟く。
皆んなの反応を見た限り、どうやら命に別状はないようで、雪泉は一息つく。
「ヒーロー殺し……忍やヒーローを幾多もなく殺害する貴方の犯行に、一体どのような意図があるかは存じませんが…
私たちが来たからには、もう好きにはさせません」
雪泉は冷気な眼光を解き放ち、扇子を広げ、優雅な体勢でステインに向ける。
二人の登場に、ステインは舌を出したまま見つめている。
「……小娘…お前も忍…か」
ステインは雪泉の言葉から察し、彼女も忍だということを知る。
いや、雪泉の名前を聞いただけで直ぐに分かった。
コイツも忍であることを――
飛鳥が話してた人物…
飛鳥の最強の友達。
飛鳥と同じく、正義を志す少女――
「轟くん!それと雪泉さん!アイツに近づいちゃダメだ!
ソイツに血を舐められたら体の自由が奪われる!
僕や飛鳥さんも…それでやられた!」
「血の摂取…つまり経口摂取か?
――それで刃物か!成る程…それなら納得がいく…だが安心しろ緑谷、俺と雪泉の二人なら…!」
「距離を保ったまま完封でき――「っつ!?」
――!?轟さん!!」
突如、雪泉の隣にいる轟が悲痛の声を上げる。
振り向くと、肩にナイフが突き刺さり、赤い鮮血が広がるように染まる。
雪泉は少し驚愕に染まった顔で轟からステインに視線を向ける。
するとステインも今度は小型のナイフを数本投げつけ、雪泉はかろうじて扇子で凶刃を弾く。
「――ハァ、いい戦友を持ったじゃないか、インゲニウム――」
ドス黒い殺意に身を染めたステインは、鋭利な刃物で雪泉に斬りかかるも、彼女は扇子を剣のように氷で形成し、ステインの斬撃を止め、鍔迫り合う。
ステインは自身と渡り合える人間を目の前に微笑み、雪泉は相手の微笑みが気味が悪いと思ったのか、鋭い眼光を放つ。
「――ハ、ハァ……いい動きだなぁ…俺のこの動きについてこれるとは…飛鳥と良い、緑谷と良い……他の偽物よりかは楽しめそうだ……」
「そう言ってられるのも、今の内です!」
雪泉は剣に風を纏わせると、ガラスの破片のような無数の氷の破片が風に乗り、剣に氷の風が纏わりつく。
暴風…とまではいかないが、それでも相手にダメージを与えられる程の威力はある。
雪泉は氷風の剣に強い力を入れると、剣は刀を弾き、上に飛んだ。
ステインは瞬時に地面を蹴り、その場から離れ、着地点にあるゴミ袋をクッション代わりに蹴ると、勢いよく轟に斬りかかる。
しかし轟は肩の傷など関係なく、地面から突起物の氷を形成させ盾として身を守る。
だがそれもまた愚か、ステインの刃物はバターをスライスするように、氷を斬り捨てる。
その素早い動き、轟は反射的に避け、刃物の刃先が轟の頬を僅かに掠め、血が殘る。
ステインが上をチラリと余所見し、釣られて轟も雪泉も見てみると、そこには先ほど雪泉が弾き飛ばした刀が、車輪でも回るかのように、轟目掛けて降りかかる。
轟は軽く避けようと数歩下がるものの、胸ぐらをステインに掴まれた。
ステインは長い舌をレロリと伸ばして轟の傷口を舐めようとする。
――血の経口摂取がヤツの狙い。
身体の自由を奪われば、簡単に殺される。
つまり、血を舐められたら終わりだ。
「ちぃっ!」
轟は咄嗟に炎を出し、ステインに近付けさせまいと威嚇する。
危なっかしい炎はまだ慣れてないのか、多少大雑把に見えるのは仕方ない…
ステインはその場からジャンプをし、空に降りかかってくる長刀を再び手に持つ。
――強い。
たった一つの動きが、二択三択を迫ってくる。
少しでも気を逸らせば簡単に殺される。
コイツは個性を出してなくとも十分強い…
ヒーロー殺しの実力に、悍ましさを感じながらも、相手の強さを身をもって噛み締めた。
「お前ら…ハァ、忍とヤケに仲が良さそうだな?知り合いか…?
何故ガキどもが忍の存在を知ってるのだろうか…疑惑が浮かび上がってくるな……」
「そうか、なら知らなくても良い…!」
轟が炎を飛ばすもステインは軽々と後方に下がる。
「轟さん…血、大丈夫でしょうか?」
「ああ、俺に関しちゃ問題ねえ…けどあのヒーロー殺し……個性なしであれ程の動きが出来るなんてな…
もしかして、アイツも実は忍だったりとかするのか…?」
「いえ…それはあり得ません…」
雪泉は警戒しながら、ステインを一瞥する。ステインは距離を詰めようとするものの、雪泉の氷風でろくに近づけない。
「彼の気から、そのような気配を感じません…忍には忍の独特な気配を感じることができます……
しかし、彼には異常な殺気が漂ってるだけで、忍の気配はありません」
「となると…素であれで動いてんのか……」
身体能力強化の個性でなければ、忍でもない……
素でアレ…ということは、イレイザー・ヘッドと同じ…一体どのような鍛錬をすればあんな動きが出来るのやら…
「ハァ……二人とも同じ属性…厄介だな……だが、それもまた良い…」
ステインは二人を見つめ吐息を漏らすと同時に、狂人っぷりな動きで二人に迫る。
氷の壁を作るものの、ステインは片手に長刀、もう片方にサバイバルナイフを…二つの凶刃を上手く使い、豆腐のように簡単に氷の壁は斬られてしまう。
雪泉が攻撃する前に、ステインは足のスパイクで腕を突き刺す。
「ッ――!」
「動きは悪くはないが……自らの視野を防ぐ行為は…愚策だ……カウンターを決めようものなら、他の立ち回り方をすれば良いものを…
二人とも、愚かだ」
「そりゃあどうかな!」
轟が炎を出そうとするも、ステインは隠し武器のナイフを三本飛ばし、轟の腕に鋭利な刃物が見事に突き刺さり、血が滲み、溢れ出る。
苦痛の表情に染め、それでも怯むことなく屈しず、炎を操り攻撃する。
しかしステインはそれを避け、
来ると分かり、雪泉が迎え撃とうと一歩足を踏み入れるが…グサッとした嫌な音が足元から響き、雪泉は思わず苦痛の表情を立て、僅かに怯む。
一体何が…と見てみると、地面には黒くて刺々しいまきびし、本来忍が使う道具が撒き散らかしていた。
雪泉の足から僅かに血が流れ、ステインは雪泉の一瞬の油断を見逃すことなく突っかかって来る。
雪泉は何とか氷の剣を駆使してステインの乱れる狂人たる剣技を見事に防ぐ。
「忍の道具……何故貴方がそれを…!」
「愚問を……俺は忍を殺害してる身だ……殺した相手の道具位は盗むさ……ハァ……
偽物を粛清するのが俺の務めであり役目……飛鳥のような本物の忍へと正すことが俺の使命だ……」
「飛鳥さんの……」
雪泉は飛鳥に視線を合わせば、ステインが何を言ってるのかも、何が言いたいのかも少し理解した。
飛鳥をよく見ると、彼女は確かに血が付いてるものの、殺されてる訳ではない。
また、飯田と比べてそこまで傷が深くない。
ステインは彼女を本物と謳い、他の忍を偽物と名付けてる。
雪泉はステインの考えこそは完璧に理解できないが、彼が何故忍を殺すのか…少しだけ分かった気がする。
「……貴方が何故忍を殺すのか…何となく分かってきました……
貴方が忍を殺すのは…正義を求めて…ですか?」
「……まあ、正解だな」
本物の社会へ、本物の光と影を取り戻すことが可能なら、例え自分がヒーロー殺しというヴィランに、犯罪者として見に染めようと構わない。
それで本物が増え、社会を変えてくれるのならそれで良い。
人殺しが悪いことであり、ヒーローを追い求めた人間がヴィランに身を堕とすなと言われても仕方がない。
だが、本当にヒーローを、正義の為だと思うのなら、憧れてるのなら、こう言ったやり方でしか方法はない。
人は死を前にして初めて、本意を露わにする。
人の死を世に知らしめることで、ヒーローとは何なのか、ヒーローとは一体…正義とは何か?何が正義なのか…考え改めさせる。
ステインの思想はそれだ。
少しでも本物が増えてくれるのが、ステインの悲願である。
ステインは以前の雪泉と同じ、歪んだ正義を持っていた。
――だから、ステインの言ってることが、雪泉には何となく分かるのだ。
「貴方の仰ることは分かります……乱暴に力を振る舞う犯罪者が許せないのも、信念を持たない惰弱な正義が許せないのも…
貴方の怒りも、共感できるものがあります…
私たちも昔そうでしたから……」
黒影おじい様の為に、悪を滅ぼす。
惰弱な正義など目障りだ、悪同様に滅ぼすのみ。
黒影おじい様に拾われたあの日から、ずっとそれをバネにして生きてきた。
悪を憎み、全てを正義に変える。
五人とも、黒影おじい様の悲願のためにと、そうやって生きてきた。
だから分かる。
「ハァ……誰かが正さねばならない…この偽物に塗れた社会を…ヒーローと忍も、皆んな多すぎるんだよ!!
金や名誉なんて下らねえ物で、私欲を満たそうとする愚か者が…!
利益となる言葉に心を踊らされ、偽善者が正義を胸に掲げる者……愚かにして粛清せねばならない…
小娘、飛鳥からは詳しいことまでは聞いていない……だから、例え飛鳥の友でも…お前もそこらに転がってる偽物と何ら変わらないのであれば…
お前も殺す――」
「――!?」
ステインの禍々しい殺意の視線が、雪泉の心に恐怖を与える。
――殺す。
多分、今まであまり言われたことがないからかもしれないが、その言葉を聞いてゾッとしたのは彼が初めてかもしれない。
その悍ましさ故、軽く体を震わせてしまった。
だが、直ぐに意識を集中すると、雪泉は冷たい目線でステインに語る。
「……貴方の境遇や、過去に一体何があったのかは存じません……
しかし、貴方の行為は何があっても見逃すことなど、あってはならない……
確かに、私欲に塗れた人間は少なくはありません…人の数だけ存在する…と言っても間違いではない……
しかし、哀しいではありませんか…?」
「はぁ…?」
哀しい?
雪泉の目は何故だか潤っており、純粋で綺麗な青い瞳が震えている。
今でも涙が零れ落ちそうな雪泉のその表情に、ステインは疑問を抱き、ため息をつく。
「私も…昔は貴方と同じく社会を変えようとしていました…
悪のない…誰もが幸せに生きる世界……私もそれを望んでいました……
そうすれば、悪によって悲しむ人間はいなくなる…涙を流す人間も…何もかも……悲しみを振り払うことが出来る…と。
しかし、それではダメなのだと、飛鳥さんや
だから分かったのです、私たちのやってることも、私欲を満たす行為でしかない…
それに、哀しいじゃないですか…?ただ粛清するだけでは…ただ悪だからという理由だけで、何もかも傷つけ、殺し…結局残るは虚しさだけ……私はそれが、怖いのです……
だから、そんな悲しみに染まらない為にも、ステイン…貴方を止める――!!」
もうこれ以上自分たちと同じ道に歩ませたくない。
例え相手が敵であろうとも、正義を求める者であれば、間違った道を正す。
歪んだ信念や正義を正す、それは雪泉にとって過去へのケジメであり、新たな正義を証明する為でもある。
黒影が雪泉に伝えたかったこと、今なら分かる、目の前に昔の自分がいるように思えてしまう。
「言葉では不要…なら、命懸けで俺を止める…と?
ハァ…成る程……
――お前らも
相手の事を思いやり、愚行を止める。
私怨ではなく、己の内から湧く正義が彼ら彼女らを動かしてる。
まさか、本物の忍がもう一人いるとは…今日は何という日だ、本物のヒーローに忍が二人、四人とも居るとは夢にも思っていなかった。
今まで探し求めてた、本物の可能性に近い、本物になりうる忍とヒーロー…
確信した。
やはりヒーローと忍は何ら変わらない、己の信念をよく理解している。
己が何をどうすべきか、何が正義なのかを…
ステインは、狂った笑顔を見せる。
――コイツはマズイ。
そう判断した轟は直ぐに炎を出し威嚇する。
焔に触れれば火傷を負う、ステインは直ぐに雪泉から離れ、携帯ポーチに入ってたナイフを轟に飛ばし、又しても腕をくらい、俯きに倒れてしまう。
「チィッ――!!」
「ッ!」
俯きに倒れた轟、その場の地面が真っ赤な血に染まる。
雪泉は隣にいた轟に心配の眼差しを向けるが――真上にはステインが長刀の刃先を彼女目掛けて降りてくる。
雪泉は轟から直ぐにステインへ視線を変えるものの、反撃や防ぐことももう既に遅し、雪泉は思わず目を瞑ってしまう。
「ハァ…!お前も止まれ!」
ステインの言葉が合図になるように、刃先が雪泉に遅いかか――
「でりゃあ!」
「――ッ!?」
――ることはなかった。
突然誰かの声が聞こえ、薄っすらと目を開けると、先ほどまで体が動けず倒れていた緑谷が、ステインの後ろ襟を掴み、壁際に走り思いっきし頭を擦るようにぶつける。
初めて痛撃を受けたかのような表情に染まるステインは、緑谷を一瞥する。
(コイツ…O型か…!)
「緑谷さん!?先ほどまで動けなかったはずでは…」
「なんか急に動けるようになった!!」
緑谷自身も不思議でならない。
先ほどまで自分は体を動かすことは無理だったのに、突然体が動くことができたのだ。
どういう理由かは分からないし、相手がどのような個性かも分からない…
ただ個性の効果、時間切れによって体が自由に動けるようになったのは確かだ。
その信憑性は極めて高い。
ステインは緑谷の横腹に肘で突くと、「がっ!?」と声を出し体勢を崩しては落っこちてしまう。
ステインは難なく無事に着地し、緑谷はゴミ袋の方へ落っこち、クッション代わりとなったお陰か、怪我は無い、無傷だ。
「……血液摂取、体の自由を奪う、時間経過で動ける……
なるほど、奴の個性…なんとなく分かって来たぞ」
「ぼ、僕は最後に血を舐められて体の自由が奪われた…!でも先に解除できたのは僕だから……つまり、考えられるパターンは三つ!」
一つ、人数が多くなる程効果が薄くなるか。
二つ、相手の血を摂取したその量に応じるか。
三つ、血液型によって効果に差異が生じるか。
因みに緑谷はO型、飛鳥はA型、飯田も同じくA型、ネイティヴはB型。
因みに今まで黙ってたネイティヴさんの目の前で忍の名前を暴露してるが心配はご無用、彼も忍の知識を知ったばかりであり、特に警戒することはない。
「血液型かぁ……察しが良いな……正解だ…!」
ヒーロー殺し ステイン 個性『凝血』相手の血を舐めることで体の自由を最大8分間奪えることが可能。
O・A・AB・Bの順番で奪える時間は短い。因みに彼はB型である。
つまり血液型の順に沿うと、2分・4分・6分・8分ということだ。
「血液…それが分かった所でこの状況を打破するのは困難……平たく言えば、血を舐められたらそこで終わり…と言えば宜しいですね」
「ああ、問題が時間継続にある……
俺や雪泉はいつ血を奪われたのか見てねえし分からねえ…
それにどのくらい効果が生じるのかも不明だ……
ここは一旦撤去して増援呼びてえ所だが…街に被害が出る確率も極めて高い…何より俺の氷と炎、雪泉の風をも凌ぎ避ける実力がコイツにはある…そう易々と逃がしてくれる相手じゃねえってことくらい、分かってる……」
実際不意打ちとは言え二人のコンビ技もあっさりと躱された。
とてもではないがヒーロー殺しに勝てる確率はほぼ低いと断言しても良い。
それでも轟の目は屈しない、雪泉も覚悟を決めた視線を向ける、緑谷も「僕まだ動ける…戦える…!」と声を張り上げ、弱々しく立ち上がる。
雪泉は轟の腕に突き刺さってるナイフを取り、轟は立ち上がる。
三人は諦めない。
例え相手がヒーロー殺しでも…それでも──
「俺たち三人で、皆んな守るぞ――」
轟は二人にそう言った。
雪泉と緑谷も、無言で頷く。
今この場でやれること、出来ること…飛鳥たちに危害を加えることなく守り抜くこと。
ヒーローたちの増援が来るまで、ステインという強敵と対峙する。
勝ち目はない…でも、負ける気もしない。
ステインを前に、或る者は拳を握りしめ、或る者は氷の剣を生成し、或る者は氷と炎を出すタイミングを見計らう。
「雪泉ちゃん…」
今まで黙って見つめてた飛鳥は、ソッと声を出す。
雪泉は後ろを振り向くと、ニコッとした笑顔を見せた。
その美しく、柔らかい、優しい笑顔は、学炎祭にいた頃の雪泉とは大幅に違った。
「大丈夫です飛鳥さん、私は死にません…絶対に、死にません。
黒影様のこともありますが、飛鳥さん…私には守るべき存在があります。
大切な友達、最強の友達がいるから、私は負けられない…絶対に負けられない…
だから飛鳥さん、もう大丈夫です。安心して下さい」
雪泉の言葉から、初めて守るべき者が存在すると聞いた飛鳥は、目をまん丸にする。
雪泉のこれまでにない急成長、それに戸惑う反面、雪泉の優しさが、月に照らすかのような正義が、何よりも嬉しかった。
「――三対一か、甘くはないな…」
表情が先ほどまでとは全く違う。
ステインの表情は、一段とドス黒い何かに変わる。
嵐の前触れのような、嫌に静かな空間に包み込まれる。
その中で、雪泉は悪とはなんなのか、正義とは何なのか…これからそれらをどう向き合うのか…頭の中でその考えが過った。
轟も雪泉と似たように同じく、飯田を見て自分がこれから何と向き合えば良いのかを、頭の中で考えが過っていた。
――昔の自分なら、悪に対する者は全て処分…滅することだけを考えていた。
悪こそが悲しみ、怒りの原因であり、悪が無くなれば全てが平和に暮らすことが出来る。
今まで、ずっとそう考えていた。
しかし、黒影おじい様の悲願は、何かを犠牲にして世界に平和をもたらす、そんなことじゃない…
黒影おじい様の本当の願いは、自分たちが一流の忍になれること…
悪の殲滅なんかじゃない。
――簡単だったんだ。
何で、簡単で、大事なことを今まで気づけなかったのだろうか。
学炎祭、飛鳥さんの決着の前に、轟さんとある話をした。
自分がまだ本当に我々のやってることが本当に正しいか、黒影おじい様の意に反してるか否か…悩んでいた時。
轟さんは言ってくれた…
『アンタ達がつらみ恨みで動くのは、俺も知っている。
俺もそうだったから……母を苦しめ父は俺を道具としてしか見てくれなかった……
アイツを赦す気なんざ更々ない……今でも、俺はアイツを赦さない…でも、そんな憎悪に染まったままじゃ、ダメだと思う。
もっと大切なものを、見落としてるんだ……俺もそうだったから……
黒影さん…だっけか、俺はその人に会ったことないし、どんな人かは知らないが、話を聞いた限りだと、その人は多分理想を叶えたいわけじゃ無いんだと思う』
『もし本当に悪の殲滅だけを望んでいるなら、アンタ達は俺と同様に、恨んでいるはずだから…
けど、アンタ達は黒影さんのこと、好きだろ?
それってさ、黒影さんは理想を叶えたいんじゃなくて、アンタ達が、幸せに生きることを願ってるんじゃないか?
例えば…笑顔…とか?』
―――それを聞いた時、自分たちはようやく、その大切なものを見つけることが出来た…!
悪に対する憎しみの余り、忘れていた…
自分たちの本当に大事なことを…
黒影おじい様が、大好きなものを。
そうだ、もし黒影おじい様が理想を優先するのなら、黒影おじい様は私たちに優しくしてくれなかった…
黒影おじい様と過ごしていた時間そのものが、大好きだなんて思いもしない…
皆さんと、轟さんと会い、私たちは救われた。
今思えば、悪を殲滅する。
悪に対する者は何が何でも滅する…それは、自分たちの弱さではないか?と疑ってしまう。
だって、何の理由もなく、ただ悪を殲滅するだけでは、殺戮兵器…人形と何も変わらない…私達には意志がある。
ただ悪を殲滅するのは、それは悪に染まるのが、怖いからではないか?
自分たちが悪と関わるのが嫌だからという理由も一つ当てはまる、しかし、悪と向き合うのを、逃げてたからではないか?
憎しみが無くなった今なら、色んなものが見える。
視野が広がり、色んな物に対する考えを持つことが出来た。
ありがとう、飛鳥さん。
ありがとう、轟さん。
ありがとう、半蔵学院の皆さん。
ありがとう、雄英高校の皆さん。
貴方達と会っていなければ、今頃私達は、ステインと同じ道を歩むことになってたのかもしれない…
今目の前に映るのは、絶対正義の為に刃を振るう、狂人。
ステインは走り出したその途端、まず雪泉を狙った。
きっと忍が厄介だと判断したのだろう、優先順位を雪泉にした。
雪泉は氷と風を放出するが、ステインは氷を、凶刃で砕き、斬り捨てる。
それも、的確に、素早く、空振りをすることなく…
風は何ともないと言わんばかりに近づいてくる。
雪泉は距離を保とうとバックステップするものの、ステインは数本のナイフを投げつける。
しかしそれを扇子で弾き払う。
ステインは追ってくる。
バックステップした彼女に、二刀の凶刃を手に持ち、先ほどまでのスピードとは全く違う、本領を発揮した。
雪泉がカウンターを取る前に、ステインは縦横無尽に凶刃を振るい、その刃先が雪泉を掠め、血が滲みでる。
あの雪泉の動きを、ステインは上回ったのだ。
掠めたとはいえ、雪泉は僅かながらに苦痛と驚愕の表情に染める。
自分のこの動きを、追いつける者など、忍しかいないと思っていた。
しかし、雪泉の考えはステインによって打ち砕かれた。
雪泉は歯を食いしばり反撃を仕掛けようとするも、ステインは蹴りで腕を蹴り飛ばし、スパイクが腕を突き刺す。
「――ッ!!」
「雪泉ぃ!」
雪泉の悲痛に轟は叫ぶ。
雪泉はヴィランとの戦いはこれで初めてだ。オールマイトヴィランを除いて…彼女の腕から血が出て、ステインは瞬時に雪泉の腕を掴み、長い舌で彼女の血を舐めようとする…が。
「させねぇ!」
轟は炎を出しステインはそれを避ける。
雪泉は辛うじて舐められることなく、無事ステインとの距離を離れる。
これがヴィラン。
雪泉はヴィランという存在が、如何にどれ程凶悪なものか、残虐なものか、悪忍とは違うものなのか、より身をもって理解した。
一方轟は――
――俺は今までヤツを否定してきた。
炎を使わない、氷の力だけで、母さんの力だけで上に進み、勝ち上がり、頂点を取る。
それが俺がヤツに対する否定だ。
アイツは家族のことなど何とも思ってない、微塵たりとも…家族の愛情なんてものはない…あるのは、己の私欲を満たす、オールマイトを超えさせる、それがヤツの野望だ。
俺はそんな道具にならない為に、アイツを否定する為に、今まで炎の力をずっと封印して来た。
けど、緑谷と戦って分かったんだ。
このままじゃダメなんだって…ようやく、自分がヒーローになる理由を、見つけることが出来たんだ。
何でヒーローに憧れたか、その理由すら忘れちまってた…
――俺は本当に馬鹿だった…
大切なもんまで忘れて、何がヒーローだよ。
父親の否定より、まず大切なことがあった、やるべきことがあったんだ。
それを、緑谷のお陰で一歩前に踏み出ることが出来た、そして――
――母さんに会って、ケジメつけることが出来た。
あの時体育祭が終わって翌日、俺は母さんのいる病院に行き、会った…
最初、母さんは凄い驚いてた。
『焦凍…?焦凍なの…?』
それも無理もない…もう10年も会ってないんだから…けど、俺が頷くと母さんは、目にいっぱい涙をためて、号泣し出した。
俺は涙が出るのを堪えた、母さんはすごく嬉しがってた、俺も嬉しかった。
大好きな母さんと再会できて、久しぶりに母さんを見ることが出来て、話すことが出来て、昔の自分では想像もできない程に…
母さんは泣いて謝って、許してくれた。
『ゴメンね焦凍…貴方に辛い思いをさせて……
ずっと、辛かったね…ゴメンね、
焦凍が悪いんじゃない……でも、ありがとう……謝ってくれて…良いんだよ、もう悩まなくても……
大好きだよ、焦凍――』
泣いて、笑って、その後、色んな話をした。
体育祭のことも、左を使ったことも…そして、緑谷のお陰で助かったことも――
――全て簡単だったんだ!
でも、簡単なことが、大切なことが目に見えていなかった…!
そして、俺はようやくヒーローになる為に、スタートラインに立つことが出来た。
その為に、ヒーローなる為に俺は、職場体験で親父の事務所を選んだ。
親父と向き合わなければならない…そう思ったから…
確かにアイツはクズだ。
でも、それでもアイツは腐ってもNo.2ヒーロー、実力は確かにある。判断力、観察力、勘の鋭さ、それらを持ち備えていた。
職場体験で観てきたが、アイツの実力は全て本物だ、その事実は例え相手がクズでも認めざるを得なかった。
俺がこの先成長する為に、ヤツの姿を観て、成長し、経験を受け入れること。
簡単だった…何もかも…だがそれを見えちゃいなかった…だから――
『君の力じゃないか!!』
――嬉しかった!
アイツの言葉で、俺は救われた。
そう、アイツの力じゃない、俺の力なんだ……母さんが言ってた言葉をわせれちまうなんて……
でも、緑谷がそれを思い出させてくれた…心の底から、改めて礼を言おう――
――ありがとな、緑谷。
炎の動きになれたのか、ステインは炎に当たらない程度のギリギリに沿い、轟に詰めていく。
轟は氷を出すもステインは軽々しく避け、もう残りのナイフがないのか、投げナイフを繰り出さず、長いナイフを手に持ち氷の壁を無残に斬り捨てる。
(こいつ…やっぱり……明らかに動きが違う、様子も違う…焦ってやがる……
もう直ぐ増援が来る…その事実をステインに焦りを与えてる)
「想像以上に…厄介だ!」
轟や雪泉は血を流しながらも、ステインに立ち向かう。
どれだけ傷つけられても、どれだけ悲痛な思いをしても、それでも辞めない、諦めない…
――後ろには、守るべき友がいる。
「……もう、やめてくれ………」
ふと後ろから、涙混じりの弱々しい声が聞こえた。
轟や雪泉は目の前のことに集中し、振り向かないが、声は確かに聞こえている。
「もうやめてくれ!!コイツは僕が倒すんだ!君達には何も関係ないだろ!!
もうこれ以上、関わらないでくれ!!僕が…僕がアイツを…兄さんの夢を潰し、苦しめたアイツを…僕がこの手で……!!」
その言葉を聞いた途端、二人の表情は一瞬にして怒りの表情に染め、何かが切れた。
二人同時に…そう…
「――良い加減になさい!!!」
「――やめて欲しけりゃ立て!!!」
「!?」
雪泉と轟の二人の怒号が同時に飛び、飯田を叱る。
轟は最大級とも言える氷の壁を作り出し、自らの視野を遮りながらも、目の前のことに集中しながらも、二人は言う。
「飯田さん、貴方のお兄様が彼の所為でやられたしまったその怒りは、憎しみは、哀しみは私にも分かります!!
悪の所為でその人が苦しむ辛さも、両親を亡くした私が一番知っている!!」
緑谷はワン・フォー・オールの5%でステインに殴り掛かるも、長刀で足を斬り、血が吹き出て、血を舐める。
「ごめん!轟くん、雪泉さん…!!」
緑谷は又しても行動不能に陥る。
体の力が入らなくなる…ステインはその気になれば緑谷を直ぐに殺すことが出来るが、ステインは彼が動けなくなる程度に済ませ、標的を再び雪泉と轟に変える。
彼の悍ましい表情は、まるで野生に生きる獣そのものだ。
「ですが、その所為で自分そのものが犠牲となり、死んでしまったら誰が責任を取るのですか!!
それが貴方の望んだヒーローですか!?違うでしょ!!
私も一度悪の憎しみに囚われ、悪を否定して来た私が言うのも無理があるかもしれません!しかし、今の貴方は私たちと同じ滅びる道に歩んでいる……
貴方がその道に歩んでどうするんですか!!
貴方の兄は、それを望んでいますか!?違うはずです!
もうこれ以上私たちの、あの時のような歪んだ正義にはなって欲しくないのです!!」
雪泉の叫び声。
その声は、哀しみと、両親を亡くした苦しみが混ざり、路地裏に彼女の叫び声が大きく響く。
「貴方の歪み、復讐に身を染めた貴方は、見ていられない…!!」
だからこそ、叱る。
叱らなければならない、昔の自分と同じ道に歩ませない為にも。
雪泉に続き、轟も叱る。
「目の前の現実に目ぇ逸らすな!!自分の大切なもんまで忘れちまってどうする!俺が言えたことじゃない、それは分かってる…
けどお前まで忘れちまってどうすんだ!目を覚ませ!!
――なりてえもんちゃんと見ろ!!」
友の為に怒り、友の為に、全力で叱る。
昔の轟から考えられない、彼の成長。
友の友情、絆…
――轟から、飯田へ。
『天哉、お前は凄えヒーローになれるよお前は…だってお前は――』
―――僕の名前はインゲニウム、生涯僕の名前を忘れるな――
(僕は一体……何を、どうすれば……何が、ヒーロー………兄さん……)
友の怒りに、飯田は目から涙を流し、俯せたまま静かに己の未熟さを、弱さを、愚行を悔やみ、復讐心が静まると共に、忘れていた飯田の兄、天晴の言葉を、少しずつ思い出す。
轟と雪泉って本当に境遇が似過ぎだなぁ…自分でもまさかこんなに共通点多いとは思わなかったぞ…
アニメでもステインのあのキチガイっぷりの表情が放送されるのか…なんか別の意味で楽しみですww