しかし日にちは守ったので、最低限として許して欲しいです…ではどうぞ…
「ここが、保須市かぁ〜」
東京、保須市はいつもより街が賑やかだ。
この地域でヒーロー殺しの事件があったからなのか、街への警備が一層と厳しくなり、ヒーローたちが街を巡回し見回っている。
4、5人のヒーロー集団が街を歩いてる姿を見受けられれば、忍っぽい雰囲気を漂わせている人間も…
自分と同じく忍の独特とした雰囲気を漂わせてる人間は大抵忍だ。
一般人やそこらのヒーローが気づくはずがない、ため一般人に紛れて強化パトロールを行なっている。
人の影に忍び寄る者、それが忍。
「浅草より、賑やかだね。でも、あの事件のことがあったから当然なのかな?」
飛鳥は浅草にいた時を思い出し、保須市と比べてしまう。
この地域でインゲニウムはヒーロー殺しにやられたのだ。
やられたと言っても殺された訳ではなく、一命を取りとめた為、不幸中の幸いではあるものの、喜べないものだ。
「ヒーロー殺し…一体どんな……」
これまでに幾多ものの事件は聞いてきた。
事件を起こせば起こす程に名は上がり、社会へ悪影響を与えていた。
この一週間、ヒーロー殺しにどのような動きが見受けられるのだろうか…?
これだけの街の警備、捜査網に引っかからないとはいえ、忍も派遣している。
いつも以上に厳しいこの街で、彼は現れるのだろうか?
「何としても、止めないとね…!」
飛鳥は風でたなびく赤いスカーフを揺らし、パトロールを開始した。
保須市同時刻。
飛鳥と同じくこの街で飯田も、マニュアルと同じくパトロール活動を行なっていた。
「いやぁ悪いね!昨日に続き今日もパトロールさせちゃって、代わり映えなくて…」
「いえ…パトロールは大事ですから…」
コスチュームを着用してる飯田は、別人のように見える。
スッポリと顔を覆う白いヘルメットアーマーを被ってる為なのか、表情は見えない。
マニュアルは少し間を置き沈黙する。
「……あのさ、聞きにくいんだけど……もしかして君、ヒーロー殺し追ってるだろ?」
「!」
マニュアルの唐突な言葉に飯田は体を反応し、慌てふためき首を横に振り否定する。
「そ、それは……」
「ああ!いや別に良いんだよ?!ホラ、ただちょっと疑問に思ってさ、君がウチに来る理由が見当たらなくて…ホラ、君他にも上から指名入ってると思うし、どうして態々についたんだろ…って思ってね……
いや、来てくれたのは嬉しいんだよ!?でもさ…
私怨で動くのはいけないよ?」
「!」
この世代、ヒーローが個性を使用できるのは、ヒーロー免許、国による使用許可、それがあってこそヒーロー活動が行える。
つまり、ヒーローが個性を使って活動を行えるのは、国による許可があってこそ成り立つものであり、私怨や許可無しに個性を使う権利はない。
個性が規制化された世の中、刑罰や逮捕はヒーローには無いわけで、本来個性の使用は許されていない。
仮にもしそう捉えられた場合、重罪となり処分が下される。
USJで13号先生が言ってたのはこの事だ。
一見世の中成り立っているように見えるが、実際この社会は複雑な形で出来ている。
その一つが個性の規制化…世の中一体誰かどのような個性があるのか分からない…法律が無ければ超常黎明期と同じく社会はより混乱に陥り、犠牲者も絶え間無く増える。
増幅する
犯罪者じゃなくとも、個性で悩まされる人間もいれば、罪や悪意がない人間とはいえ、人を簡単に殺せてしまう個性を持ち、それを人に向けてしまう…
そうならない為に、個性の厳しい規制が存在する。
実際爆豪なんかは忍学生に個性を使ったのだ。
幸い処分にはされなかったものの、それでも本来ならば警察の事情調査をされる身になるものだった。
「飯田くん、君の兄、ヒーロー殺しの件に関しては辛いこともある…
でもね、自分の私怨で個性を他人に傷つけてはいけない…例え相手が許されない犯罪者だとしても、人間だ。
犯罪者を傷つければ、君も犯罪者になる……
あっ!でもね!ヒーロー殺しに罪がないとかそう言うんじゃなくて!君超が付くほど真面目だし、視野が狭かったから!だからその…うん、案じた!」
「…ご忠告感謝致します」
「良かった〜…」と一息つくマニュアル。
彼はインゲニウムに比べて然程大した功績や名誉が無ければ、名前は余り上げられていないヒーローだ。
実力も、個性も、全て普通。
ノーマルヒーローの名に相応しい彼だが、相手を思いやる心や、他人を気にかける精神は一流のプロヒーローと言っても過言ではない。
飯田のことを思って言ったのはいいが、当の本人は…
(……じゃあ…どうすれば良いんだ……
この怒りを…この抑えられない衝動を…どうすれば良い!?)
抑えられない怒り、湧き上がってくる殺意の衝動、それらのドス黒い渦巻く感情が飯田の心を支配していた。
拳を強く握りしめ、息を押し殺し、平然な態度を保っていた。
(分かっている!これが、僕のやってる行為がヒーローとして相応しくないことなど、本当は…分かっている……
でも、追わずにはいられない。
兄さんの希望を、ヒーローとしての夢を、全て踏み潰し否定したアイツを…僕は許せない)
飯田は、身も心も、復讐心に染まっていた。
その危険な闇に近いドス黒い復讐心は、新・蛇女子学園の、かつて復讐に身を染めていた両備と両奈と同じく、禍々しい殺意を抱いて……
同時刻、保須市。
廃墟の屋上ビル。
不穏な風が騒めくように吹き始め、人気のない場所に黒い空間が広がる。
そこに現れるは、血に染まった赤いバンダナに、ボロ雑巾のような布が風で揺らぎ、全身に携帯した刃物を持つ男、今や全国指名手配犯、ヒーロー殺しステインが姿を現わす。
「保須市って、思いの外栄てんな」
その後ろから、首を掻き毟る死柄木弔も現れ、それに続くかのように漆月も出てくる。
ステインにより傷つけられ、治療を受けてないせいか、腕の切傷から血がポタポタと滲み出る。
「ちょっと死柄木腕出して、傷の治療してあげるよ」
「ハァ?要らねえよ、つかお前今になって急になんだ、あの時動かなかったじゃねえかよ」
「だからだよ死柄木、そんな怒んないでってば」
あの時自分が死柄木を救けてあげれられなかった事に悔いがあるのか、彼の傷を治療してあげると言ってるものの、死柄木は忌々しそうな目でギラリと彼女を睨みつけ、断固拒否する。
漆月はぷくぅ…と頬を膨らませ、胸から包帯、懐から消毒液など取り出し、強引に治療しようとする。
ステインは後ろにいる二人の喧騒を気にせず、ヒーローや警察が巡回してる街を見下ろす。
「この街を正す。
そして、己の過ちや愚行、偽物だと分からせる、その為には、犠牲が必要だ」
「それは先ほど仰ってた、やるべき事…ですか?」
「ああその通りだ、
ステインはワープゲートを閉じる黒霧に一切目をくれず、ただ何も知らずゆくゆくと愚者が生きるこの街を、睨んでいる。
ステインの視界に映るは偽物。
談笑しながら街を徘徊している黒スーツを着た二人組の男女ペア。
パトロールの警備が緩く、やる気が見出せないヒーロー。
欠伸をしながら眠たそうな気怠げヒーロー。
視界に映る度に殺意が湧いてくる。
ああ、殺したい。
直ぐに血に染めてやりたい。
誰かが血に染まねばならない、一般人を巻き込む気など更々ないが、偽物は別だ。
粛清し、正してやる術がある。
偽物がヒーローを語るなど許されれはずがない。
なぜ偽物を殺すか?偽物が偽物を造るからだ、悪影響を与える社会のガン、汚物だからだ。
人が何故ヒーローに憧れるようになったか?それは、ヒーローが存在するから。
弱きを救け、強きを抉る──
世界に羽ばたき、脚光を浴びせた一人の男、平和の象徴オールマイト。
オールマイトが大きな理由の一つとなる。
彼に憧れ、彼のような人間になりたい、ヒーローになりたい。
そう思う人間は幾らでもいる。
数えきれない程に、それこそ指が幾つあっても足りない程に……
彼は素晴らしく、ステインもまた憧れていたからだ…
彼のような、誰もが認める最高のヒーロー。
彼だけだ。
正義を名乗って良いのは、本物のヒーローを名乗って良いのは彼だけ…
彼こそが本物であり、本来あるべきこの社会は、彼のように清く、正しく、強き信念、曲がることのない正義の意思、折れない柱、英雄の光、それらを兼ね合わせた者、それこそオールマイトのような人間がヒーローとして世界を成り立てる、あるべき真の姿。
ステインは、そんなヒーローに憧れた。
だから許せない。
今この世界にいる英雄は、この社会に生きるヒーローは何だ?
結婚したい、金が欲しい、家族の為、名誉が欲しい、地位が欲しい、認められたい、モテたい、
私利私欲、欲望、我儘、自己満足、自身への利益、そんなゴミのように汚れた偽物ばっかりだ。
いつからヒーローは堕落したのだろうか?
ヒーローが職業だと?アイドルや芸能人とは違う。
ヒーローとは見返りを求めない者。
他の為に命を削り、拳を握り、笑顔で人の命と心を救ける、正義を名乗るに相応しい人間、それがヒーローだ。
命を救けるだけでなく心をも救い出すオールマイトを見て、何度感激したことか、未だに忘れない、あの正義感からくる高揚感、抑えられない正義への衝動。
オールマイトという存在は、神がこの世界に与えた、希望とも呼べる眩い光。
神が与えた、大いなる聖なる光と謳歌しても過言ではない。
ああ、なんて素晴らしいんだろうか。
何故オールマイトのようにならないのか、それこそ疑問を抱いてしまうくらいに、オールマイトの大きな正義の存在が、彼をヒーロー殺しへと変えてしまったのだ。
憎くて許せない。
そんな神聖な光に、英雄の元にゴミのような存在が、汚物が、偽物が、ヒーローという皮をかぶり英雄として褒め称えられ、脚光を浴びている。
ソレは英雄を愚弄してるに過ぎない。
本物の英雄ではない、ヒーローを侮辱してると同等だ。
そんな幼気な子供たちが、今の偽物のヒーローを見ればどうなるか?
否。
ソレに憧れ、自身も偽物へと変わる。
偽物になってしまう…悪影響を与えてしまう…
だからこそ、この社会を正すべく、何が何でも偽物は犠牲となって罪を償わせなければならないのだ。
行き過ぎた正義。
雪泉たち月閃女学館の五人がああなったように、ステインは雪泉たちの師匠にして彼女の祖父である黒影と似ていたのだ。
ステインは彼と同じ道を、歩んでしまったのだ。
行き過ぎた正義は悪になる。
半蔵の言う通り、笑えぬ話……だが、ステインは自分の行いを罪だと知っても、許されることのない行為だと言うのも、誰にも言われなくても分かっている…
ヒーローに憧れた自分が、一番よく知っている。
知ってるからこそ、粛清するのだ。
本当にヒーローを憧れ、ヒーローのことを思うのなら、粛清し続けなければならないのだ。
本物のヒーローを取り戻す為に…
そして忍も同じだ。
ステインが今まで見てきた忍もヒーローと同等…偽物だらけだった。
何より信念が見えない…忍が存在するその理由が見受けられない…
暗殺、諜報活動、隠密、etc…
確かに忍と言えばこう言った手を汚した任務を行うのは当然だろう……
だから何だ?
それが人として、世の為になるのか?
国からの命令?それで人を殺して良い理由にはならない。
自分が言うのも何だが、忍が人を殺す…しかしそれは一般的に放送されてるニュースは愚か、表社会は何も告知しない…
それどころか自分が殺害した忍すらも、世間には流されてないのだ…
つまり国は、上層部は、忍の命など唯の駒、どうでも良いのだ。
忍とは言え人間、その命の死を隠密にするこの腐った社会…
何をどう言おうと、今まで見てきた忍は全員、犯罪者であり偽物だ。
「ヒーローとは、偉業を成し遂げた者にのみ許される称号!
ヒーローも忍も偽物しか存在しない…多すぎるんだよ…私利私欲に塗れた英雄気取りの拝金主義者が…!!どいつもこいつも腐っている…腐敗した社会だ!!
この世が自らの誤りに気付くまで、俺は現れ続ける――」
禍々しい殺意を、信念をその身に宿し、背中に収めてた刀を抜刀し、彼はヒーロー殺しとして粛清する。
さあ、今日は一体誰が犠牲となり、血に染まるだろうか…
「なぁにが俺は現れ続けるだよ気に入らねえ、そのまま死ねよ…
結局やること草の根運動…健気で泣いちゃうね」
そんな彼を殺意ある目で遠く睨み付ける。まだ先ほどのことを根に持ってるのか、声を荒げている。
「ですが死柄木弔…彼をそうバカにもできませんよ?」
「どう言う意味だ?」
黒霧の体は靄なので、どう言った体の構造か分からないが、人差し指らしき靄を立てる。
「事実今までに彼が現れた街は、軒並み犯罪率が低下しています。
ある評論家や上層部が『ヒーロー達の意識向上に繋がっている』と分析し、バッシングを受けたこともあります」
「あ〜、それ知ってる。忍側もそうらしいよ?」
黒霧の丁寧な解説に続き、死柄木の腕を治療している漆月も解説する。
「何でもヒーロー殺しが現れる理由、そして忍を殺害する動機を探った結果、『我々は何か大事なものを見落としてないか…
今の忍達では彼の思う壺、我々もヒーロー達と同等に変わらなければならないのでは?信念を持たない者は彼にやられてしまう、我々忍側にとって、彼は忍殺しのステインと名付けましょう…』って、何たら星導…
ああっ!思い出した、ゾディアック星導会の『
「成る程、それは素晴らしい!ヒーローと忍が頑張って食いぶち減らすのか!
ヒーロー殺しはヒーローブリーダーでもあるんだなぁ!
回りくどい!!」
ヒーローと忍、お互いの社会にとって彼は驚異な存在でしかない。
このまま続けば、二つの社会に益々悪影響を与えてしまい、彼の思う壺になってしまう。
それなりの対策をしなければと向こうにも考えがあるのだろう。
「でもなぁ…やっぱ合わないんだよ根本的に…ムカつくし、ウゼェし…
オイ黒霧、
彼は又も黒い靄を増幅させ螺旋状に歪み、黒い渦を連想させ黒い空間が広がる。
「俺に刃ァつき立てて、タダで済むかって話だ…アイツみたいな回りくどい説明なんていらないんだよ。
ようはブッ壊しいたいならブッ壊せば良いって話…ハハハッ…!」
そして黒い空間の中から、異形で禍々しい、怪物と思わせる改人・脳無が
目が四つの腕が長い、関節一つ多い細マッチョな体つきの脳無。
上顎が無ければ顔もない、下顎から上が全て脳で埋め尽くされ、目が無い…下半身はUSJの改人と同じ体を持つ脳無。
口部分が黒い金属製のマスクで口元を隠し、屈強な身体に巨大な翼を持つ、飛行型の脳無。
右目に刀の傷痕が残ってるのか、右目は白目をむいており、屈強な身体に口か白い吐息を吐き、唾液を垂らし、まだ安定してないのか、脳無の口から「コロ…ス!」と、僅かながらに呟いてるのが聞こえる。
下半身はジーパンを履いており、肩から突起物が出ている。
「さあ大暴れ競争だ。
アンタの面子と矜持ブッ潰してやるぜ悪党の大先輩」
その言葉と同時に、四体の脳無は四方に飛ぶよう姿を消した。
さぁ、始まりだ。
死柄木弔のデスゲームが、ヒーロー殺しという悪夢が、保須市を襲う。
同時刻、渋谷へと向かう新幹線は、豪速で走り出している。
その新幹線の中の乗客は、緑谷出久とグラントリノが座っていた。
「えっと、着く頃には夜ですけど本当にいいんですか?」
「ああ、夜だから良いんだよ。
その方が敵は出やすくなるしな!何よりその方が小競り合いあって楽しいだろ?」
「た、楽しくは無いけど、良い職場体験にはなるかと…納得です…」
なぜ緑谷たちが渋谷へ行くのか、それは
いつ迄もグラントリノの所で修行を受けては意味がない、元言えば職場体験、指名したからにはこう言ったヒーロー活動をさせるのも必要だ。
緑谷は知識や敵の分析、吸収力は凄まじい。だからこそ、グラントリノの所ばかり戦っていては全く違うタイプへの対応でつまずいてしまう。
そうならない為に渋谷へ向かって様々なタイプと状況の経験を積むフェーズとなったのだ。
と言ってもプロヒーロー達が相手にする強力な敵や事件には触れず、チンピラ程度の為そこまで気にする必要はない。
本当ならこの地域で敵退治を進めるのも良いのだが、それは出来ない…
ここの地域は過疎化が進み犯罪率も低い。
都市部のヒーロー事務所が多いのは、それだけ犯罪が多いからであり、人口密度が高ければそれだけトラブルも増える。
その為自分たちは渋谷に向かうのであった。
渋谷、保須市を横切る場所…
緑谷は保須市のことと、飯田のことを思い出し、不安な顔立ちでスマホを手に取る。
LINEで飯田と連絡をするも、既読がつかない…何時もなら3分以内に既読が付くという自動設定にでもなってるのかと疑わしく思えてしまうくらい、彼な既読は早いというものなのに、30分経っても返事がないのだ。
多分気付いてないのか、或いは職場体験で忙しいからなのか…
そう思ったが、何やら少し違う違和感を感じた。
「おい小僧!座りスマホか!くぅ〜…!近頃の若いもんは!
で、誰と連絡してるんだ?半蔵の孫か?飛鳥と付き合ったのか?彼女か?」
「えっ!?あっ、いや違います…!てかてか!僕が飛鳥さんとなんて!!そんな、そんな…!」
「何を動揺しとんだ小僧は…
カァ〜!これだから近頃の若もんと来たら!青春楽しんでるみてぇだな!」
「だから違いますって―――」
――ドガアアアァァァン!!
「「!?」」
瞬間。
新幹線のアナウンスが流れることなく、新幹線の横扉が爆破しそこからヒーローと一般人らしき人間が中に吹き飛ばされた。
一般人らしき…と言っても本当の正体は忍なのだが…一般人やヒーローには知るはずがなく、傷だらけの二人は痛手を負っていた。
爆発の後からアナウンスが遅れて流れ出し、乗客達や緑谷はこの瞬間に一体何があったのか思考が追いつかず、目を丸くする。
「ぅ…あっ…!まさか…あの化け物…」
「んだよアイツ!なんだあの化け物!見たことねえぞ!」
ヒーローがむくりと起き上がった瞬間、乗客の皆は大きな悲鳴を上げた。
――ドッ!
そしてヒーローの顔を何者かが手で鷲掴みし、乗客席に思いっきりぶつける。
乗客席に血が染み着き、ヒーローを投げ捨てるかのように乗客側に投げ込んだ。
その正体は…
(嘘だろ…!脳無!!?)
先ほど死柄木が保須市へと送り込んだ改人・脳無だった。
一般人に装った下忍は乗客たちを気にせず素早く瞬時にクナイを取り脳無の心臓部分を目掛けて凶器を振るおうとするも…
ガシャアアァン!
脳無は女性の下忍を掴み、新幹線の窓ガラスを思いっきり叩き込むかのようにぶつけ、破片が忍の身体に突き刺さり、向こう側へと放り投げる。
姿が途方もなく消えていく。
「キャアぁぁぁぁぁ!!
「おいここ新幹線だぞ!?」
「外からやって来たのか!?ヒーローと一般人がやられた!!?」
乗客席にいる人たちはパニックになり混乱している。
悲鳴を上げるあまり、耳がつんざいていたい。
しかし今はそんなの気にする場合ではない、問題はあの脳無がなぜ此処に―――
「―――座ってろ小僧!」
最初に脳無に飛び込んだのは、隣に座ってたグラントリノだ。
彼は小さい身体ながらも、忍や脳無に遅れを取らない、猛スピードで脳無に体当たりをかまし、乗客や新幹線から離れるよう、被害が広がらないよう離れさせる。
「グラントリノ!」
ワンテンポ遅れて緑谷が叫び、壊れた扉から見える外を覗き込む。
ここは保須市だ、その街は景気の良い街ではなく…
ドガァン!
ボガァン!
爆発の連鎖が続くかのように、街の被害、爆発が四つ。
一つはグラントリノが脳無を引き連れ建物に当たったのだろう…
他の三つは、同時に爆発を引き起こした。
―――何だよ…これ。
殺風景。
そう呼ぶに値する。
あの三つの爆発は?この街で一体何が起きてるんだ?あの脳無はなんだ?
脳無、敵連合?
おいおい、嘘だろ?
―――飯田くん!
この爆発の騒音と共に、忍のみならず、忍学生たちも…
「な、何今の爆発?」
街への巡回をしていた飛鳥は、爆発の方に視線をやる。
新幹線から煙が巻き起こる、どうやらあそこで事件があったようだ。
すると考える時間すら与えてくれないのか、突如窓ガラスの破片が飛び散ると共に、高いところから血だらけの一般人…いや、この気配は忍だ。
忍が空から降ってきかのように、落ちてくる。
「!?」
飛鳥は考えるより先に、反射的に体が動き出し、降り落ちてくる忍をキャッチする。
お姫様抱っこのような形になり、傷は見た所酷い有様だ。
おでこから血が流れ、激痛に悶えている。
身体には所々、ガラスの破片が刺さっていた。
「大丈夫ですか!?一体何が…?!」
「あぁ……うっ…くっ!!
ハァ…ハァ……に、逃げろ……ヤバイ…、アイツは……ヤバイ………逃げろ……殺されるぞ……」
傷ついた彼女は目を瞑り、気絶した。
呼吸や脈はある。
治療を受ければ問題ない…だが、忍をああも容易く倒すとなると…考えられるのは……
「敵…」
「ちょっと君!もしかしてこれ…」
後ろ振り向くと、ヒーローや一般人の服に装った大人の忍が4、5人。
爆発の騒音に駆けつけに来たのか、忍だと瞬時に理解した彼女たち五人は飛鳥が抱えてる、ボロボロに傷ついた忍を見つめる。
「これは!」
「忍…一体誰がこんなことを!」
飛鳥は彼女たちに引き渡すように忍を授けた。
彼女たち二人は忍を抱きかかえ、治療を受けさせるよう仕向け、残りの三人は「すまない、感謝する」と言い残した後、姿を消し事件に嗅ぎつけ調査し始める。
「一体何が…起きてるの?この保須市で…一体…」
突如ヒーローと忍に降りかかってくる理不尽という名の火種。
警備が手強いこの状況の中、一体何がどうなってるのか…
飛鳥は嫌に冷たい冷や汗を頬に伝わるよう滴り、事件の元へと駆け寄り走り出した。
「おいおい、こんなご時世に…馬鹿な奴もいたもんだ…」
遠く離れた場所には、街のパトロール活動を行なっていたノーマルヒーロー、マニュアルが冷や汗を垂らし、事件が発生した場所を目を細めて見つめる。
後ろには白く逞しいアーマーを着用した飯田天哉もいる。
「天哉くん!現場走るよ!!」
単直に、簡潔にそう言い走り出す。
しかし後ろにいる飯田から走り声が聞こえない、マニュアルはそんな飯田の様子を気にすることなく、走っていく。
肝心の飯田は、何かを見つめていた…飯田が向けてる視線の先は建物の路地裏…
飯田はマニュアルのことも、事件のことなど気にせず、彼は走り出す。
路地裏に。
そこに何があるのか、飯田は見てしまったのだ。
薄暗い路地裏、地面にはベットリと塗られた赤い血、そこには、長い刀を手に持ち、ヒーローの首を斬ろうとしていたステインが、苛立ちの目でよそ見する。
「……今の騒ぎは…騒々しい阿呆が出たか?まあいい……後で始末してやる…今は…
俺が、為すべきことを成す」
ステインは再びヒーローへと視線を戻し、相手の首に刀を当てる。
白く輝く純白の刀…その刀はどこかボロ臭く、先ほどヒーローを斬った為なのか、刀に赤い血がくっきりと映し出される。
「身体が動かねえ…クソ!クソが!死ね!くたばれ!」
「ハァ……偽物とはいえ、ヒーローを名乗るならせめて…死に際の台詞位は選べ…」
ネイティヴというヒーローの言葉に心底呆れたため息をつくステインは、勢いをつけるためか、一度首から刀を離し、勢いよく凶刃を振るう。
その時、後ろから白いアーマーコスチュームを着たヒーロー学生がやって来──
ガシャアアン!
「!」
刀はネイティヴの首を斬ることなく、白アーマーのヘルメットが斬られ、飛び跳ねメガネが吹き飛ばされる。
その顔が明らかになる…
「白いスーツを着た子供?ヒーローか?何者だ?」
飯田は勢いよく後方に飛ばされ、尻餅をつく。
金属音が嫌な音を上げ、静寂な空気と共に直ぐに消え去っていく。
「子供が立ち入っていい場所ではない…直ぐに消え去れ」
ステインは敵。
ヒーローや忍を幾多もなく斬り殺して来た正真正銘の殺人鬼。
しかし、ステインは他の敵とは違い罪のない一般人にまでは刀は振るわない…
それは自分の意に、信念に反しているからだ。
そう考えてみると、他の敵に比べてまだマシ…の部類に入るかもしれない。
「お前だな……ヒーローのみ狙う犯罪者…ヒーロー殺しステイン!」
「!」
「お前を追って来た……保須市…僕の推論通り、お前は保須市に再び現れた……もう少し時間は掛かるかと思っていたが…
まさか、こんなに早く見つかるとはな!僕は――」
「――おい小僧、その目は何だ?」
「!?」
チャキ…と凶刃が飯田の目の近く、丁度少しでも動いてしまったら目を刺されてしまう程の、それほどに近距離で刃物を近付けさせられた。
「言葉には気を付けろ…
これは、忠告だ」
ステインのその目は、今にでも偽物を排除しようとする殺意爛漫な目付きだった。
これは忠告…もし今仇討ちをやめて、大人しく引き返すのなら、お前は標的にはしない…という意味が込められていた。
そして、お前は眼中にないという意味も裏付ける。
「インゲニウムを…知ってるか?お前が再起不能にしたヒーローだ…!」
「インゲニウム…」
ステインはこの白アーマーコスチュームを着用した飯田と、血に染まったインゲニウムの姿を重ねる。
「聞け!犯罪者!僕はお前にやられたインゲニウムの…その弟だ!
最高の
『この名前を、受け取ってくんねえか?』
受け継がれる名前、兄の言葉…
「僕の名を生涯忘れるな!!
俺の名は『
飯田天哉。
ヒーロー名、インゲニウム。
兄の名がこの時引き継がれ、彼は自分の名を叫んだ。
「……そうか、では死ね!!」
ステインの異常な殺気が、怒りの矛先が、飯田へと向けられた。
その血走った狂った目は、
そう言えば今日ステインの声出てくるなぁ…アニメも漫画も楽しみです!
ただ、ジャンプの方は来週休載なんだよなぁ…
ホリー大丈夫かな…無理しないで無事を祈ります。まあアニメのこともあるし、仕方ないかもしれませんね。