光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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じ、時間が欲しい…!
小説書くとアレだね、眠たくなるね。


67話「雅緋 オリジン」

「……」

 

この男は、伊佐奈は莫大な金を利用し、幾多ものの忍学生を買ってきた。

買えば買うほど、使えない忍学生を漏り出し、それから雅緋を使って部屋に連れて行き、容赦無く処分する。

忍の血は他の人間とは違う、特殊なものであり、一定量の血を集めれば妖魔を造ることが出来る。

 

忍同士で戦わせることよりも、使えなくなった人間を処分し、妖魔の生贄として捧げた方が効率が良い。

だから伊佐奈は、学炎祭が起きる前から計画を進めていた。

妖魔を世界中に売り、(ヴィラン)がそれを買い、世界中を暴れまわり、戦争を起こし、社会を壊す。

そして秩序が亡くなった世界で、敵と悪忍を我が手中、部下に収め、自分が頂点に立つ。そうすれば、再び(ヴィラン)となり、暴れることが出来る。

王となり、自由に生きることが出来る。その為ならば、自分の利益となるならば、他人の命など容赦無く利用する。

 

「にしても…今何時だ?」

 

魔門から貰った説明書を読み終え、壁掛けの時計を見た。魔門が出てから時間は経っている…にも関わらず選抜メンバーから一向に連絡がつかない…

これは明らかに可笑しいと判断した伊佐奈は、顰めた面で念話に近い、エコーロケーションで選抜メンバーと連絡を取る。

 

『おい、お前らまだか?遅いぞ…何してる?一向に連絡がない…報告を入れろ。焔紅蓮隊はどうなってる?』

 

しかし、返事がない。

 

『応えろ』

 

それは無理もない…他の四人は焔紅蓮隊と戦い、敗北し、心を救われたからだ。

やれ両備と両奈は、涙こそ少しずつ流れてこなくなったが、それでも甘えたいと言わんばかりか、二人は詠から離れない。

忌夢は日影に負けてしまったものの、悔いはなく、恨みも復讐も何もかも消えていた。

紫は目の前に、自分の大好きなネット小説『忍の家のラプンツェル』の作者が未来であり、こうして出会ったことに喜ばしい笑顔を浮かべ、未来と仲良く談笑している。引き篭もりをしてから、紫がこんなに笑ったのは見たことがない…と言える彼女のその素敵な笑顔は、とても可愛らしいものであった。

 

 

『返事をしろ』

 

 

だから、彼女たち四人はもう伊佐奈への忠誠心など毛頭ない。

術から覚めた忌夢と紫、目的を知り、無理やり自ら覚めた両備と両奈の双子、どの道伊佐奈の素性を知った彼女たちは、伊佐奈の道具ではなくなった。いや、そもそも最初っから彼女たちは伊佐奈の為の道具ではない。

 

彼女たちは、己の抱えた想いと、信念の道、忍の誇りとして、彼女たちは蛇女に在籍し、忍となったのだ。

 

伊佐奈の道具じゃない。

 

(…?おかしいな……返事がない…普通なら真っ先に雅緋から来るはずなんだが……なのに連絡がつかないだと?こんなこと初めてだ……

 

どういうことだ?)

 

エコーロケーションで通信できるよう彼女たちに特別な術も掛けていた。

本来彼は個性を使う為、忍術といったものは大してないが、それでも多少の術は習得していた。

個性との相性が良かったのは、念話の類に近い通信。

本来彼の個性ならば、水中限定での通信が可能、陸上での通信は不可なのだが、特殊な術を得た伊佐奈は、陸上での通信も可能になったのだ。

 

『雅緋、応えろ』

 

『……ザザ…ザ……は…い……ザザザザ…』

 

多少ノイズは掛かってるものの、ようやく雅緋から返事が聞こえた。

この雑音と彼女の声からして恐らく、派手にやられてることが伝わって来る。

 

『他の奴らと連絡が繋がらない…一体何があった?お前ら何してる?焔紅蓮隊はどうした?さっきから随分と時間が経ってるぞ…』

 

『もうし…ザザ…ません………ザザザ…連隊が……抵抗し……ザザザザザザ……処分を……』

 

『もういい』

 

 

────プツン

 

激しいノイズで彼女の声は聞こえなかったが、大体の状況は掴めた。

焔紅蓮隊が抵抗し、彼女は処分しているのだろう…

となると、他の連中が繋がらないということは、勝負が決まり、焔紅蓮隊に負けたという意味になる。

他の連中が繋がらない、雅緋の声、いつまでも無駄に時が過ぎていく時間。

 

 

今まで伊佐奈が頼れると信頼して来た選抜メンバー…

 

 

「どいつもこいつも……使えねえな!!!」

 

 

ここで初めて、激しい怒りの色に染めた伊佐奈であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(くっ!やはり連絡が取れなかったか……大分深傷を負ってしまったからな…)

 

雅緋は通信が切れたこと、伊佐奈が確実にキレているであろうと想像し、思ったよりも深い傷を負ってしまってたことに、雅緋は思わず心の中で舌打ちをする。

 

雅緋の忍装束は大分傷が付いており、火傷も少々負っていた。

この火傷は焔の炎によるもの……

 

「雅緋いぃぃ!!」

 

焔は獣の咆哮に似た覇気を孕ませ、六つの刀を軽々と扱い襲いかかる。

雅緋は焔を激しく睨み、黒刀から黒炎を纏わせる。

 

雅緋と焔は、お互い敵同士でありながら、何処かよく似ている。

蛇女で育ち、悪の誇りを掲げたり、同じ悪忍同士だったりと…

 

焔が紅蓮の炎なら、雅緋は地獄の炎を表す。

 

「悪いが焔…貴様を殺さなければ私は殺される!私はまだ悪の誇りも取り戻せていない…伊佐奈を止めなければならい…カグラにならなければならない…やることが山程ある!!」

 

「そうか!奇遇だな!私もお前には負けられないな!飛鳥との勝負もまだ残ってる、蛇女を救うべく伊佐奈を倒す、カグラになる……私も同じだああぁぁ!!」

 

黒き炎と、紅き炎が激しく唸り、お互いの力がぶつかり合う。

他のメンバーたちの死闘も素晴らしいものだった…だがリーダー同士の戦いは、その戦場を遥かに凌駕し、死闘なんて生易しいものではない戦いだった。

 

衝撃の余波のあまり、地面には亀裂が生じ、訓練用の傀儡たちは吹き飛ばされ、木々は炎の風により燃え上がる。

言葉で表せない少女たちの闘い…これをもし身近で見ているのならば、その人物は間違いなくタダでは済まないだろう…

 

紅い閃光が無数の線を描くかのように光だし、黒き邪悪な刀は、全てを飲み込まんとするばかりか、紅き炎を飲み込み、四方八方焔に襲いかかる。

 

「舐めるなああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

焔は紅き炎の渦を巻き起こし、黒き炎を浄化するかのように吹き飛ばす。

炎の渦が焔を中心に守るかのように、上昇する。

 

(これはまずいな…アイツにまだあんな力が…)

 

雅緋は焔の実力を認めざるを得なかった。今まで焔は蛇女を守れなかった弱き者…と称していたが、焔の実力は、雅緋の常識を遥かに上回っていた。

普通なら、強いやつがいれば大歓迎…と言えるところだろう。だが、今は違う…

 

死んだ母のこと、伊佐奈の妖魔大量生産計画、自分と父の立場…あらゆるものが心を縛り付けていた。

 

 

「私は絶対に…アイツらのためにも…負けられないんだあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

雅緋の髪の色が少しずつ漆黒の黒色に染まってきている。その漆黒の色は、漆月の持つ闇とは違う。

黒刀が焔へと狙いを定めると、遠くから斬撃を飛ばそうと斬りかかる。焔も当然炎の渦からでも見えるらしく、雅緋に襲いかかる。

 

(クソッ!まずい!私はまだ、やられるわけにはいかないんだ…!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、雅緋!』

 

『ん?どうしたの忌夢?』

 

雅緋の幼い頃の記憶…雅緋と忌夢は幼馴染のため、二人でよく遊んでいたのだ。忌夢の妹である紫は引っ込み思案で、人前で遊ぶのが好きではなく、どちらかと言えば家の中でおままごとをしている方だった。

雅緋と忌夢の憧れは忍…そのため早く忍になりたいと昔からよく『忍ごっこ』で遊んでいた。

 

「いつまでも忍ごっこだなんて、つまらないと思わないかい?」

 

「そう言えば…」

 

父や母のような一流の忍になりたい、忌夢だけでなく雅緋もずっとそう思っていた。しかし、忍ごっこでは一向に強くなる気配がしない、何よりも飽きてきた…

 

そこで、忌夢から提案があった。それは裏山で本物の忍ごっこをするというもの。

裏山は本来立ち入り禁止区域になっており、忍や上級ヒーロー、警察の捜査すら無理だそうだ。

しかし幼いためか、二人にはそれがどれ程危険な意味を表すのか分からなかった。だから本物の手裏剣やクナイを手に持ち、裏山へ行き、本物の忍ごっこをした。

 

と言っても、ただ単に手裏剣やクナイを投げ合ったりとか、木登りしたりとか、自分たちの忍ごっことは大して変わらなかった。

でも本格的な感じがして楽しかった、これが忍なのか…と。

 

日が暮れそうになり、二人は遅くなるといけないため、帰ろうとしたその時だった。

 

「「え?」」

 

二人は異様な空気に包まれたことに気がつく。辺りに漂う異様な気配、腐った肉に近い腐臭、血生臭い匂い…当時の子供の頃からは吐き気がしたことでさて覚えている。

 

「なに…これ?」

 

二人が目の前にした光景は…

 

「グギャ……ガガ………ギギギ……」

 

人間のような腕が何本もあり、蜘蛛のような昆虫形の顔、背中から飛び出てる棘、体は狼のようなものに近い、この世のものとは思えぬ化け物が、雅緋と忌夢、二人の目の前に突然姿を現したのだ。

見ただけでハッキリと分かる。

 

 

これはヤバイ。

 

 

この化け物は間違いなく危険だ。この生物を知らない二人ですら直ぐに分かった。

 

そう、この異形な姿をした化け物こそ、忍が倒すべき存在、妖魔なのだ。

妖魔は涎を垂らし、二人をマジマジと見つめると、急に奇声をあげ、物凄いスピードで走り迫って来た。

 

「ひっ!!」

 

二人はその化け物がこちらに来たことに思わず弱々しい声をあげ、腰を抜かして地面に尻もちつく。

 

『逃げろ』と、生物的本能がそう言ってるが、恐怖のあまり体を支配し、動くことができなかった。いや、逃げるにしろ逃げないにしろ、この化け物からは逃げられないだろう。

蛇女や家までは険しい道のりになってて遠く離れている。

とてもではないが逃げても助からないし、まずこの存在から逃げ切れる気がしなかった。

 

そして雅緋の目の前にやってくると、その妖魔は嘴を大きく開き、横の体についてる長い豪腕な腕を伸縮自在に伸ばし、襲いかかる。

 

 

 

ああ、もう駄目だ──

 

 

 

────死んでしまう────

 

 

 

 

頭の中に浮かぶは、忌夢、紫、そして…お父さんとお母さん……

 

 

ああ、自分は死んでしまうんだ…怖いけど…でも、どの道もう救からない…

 

 

 

 

 

このまま──

 

 

 

 

 

「雅緋!!危ない!!」

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

聞き覚えのある声が聞こえ、目を開けるとそこにはなんと、雅緋の目の前に立ち、妖魔から守る、雅緋の母親であった。

 

 

 

ザブシュッ!!

 

 

 

刹那──

 

 

「え?」

 

雅緋の母親は、妖魔の豪腕な手に頭を掴まれ、トマトをすり潰すかのように潰された。雅緋の目の前に映る光景は、頭がなくなり、首から血の噴水が吹き上げられ、体全身が血に染まり、その場で壊れた人形のように、ドサりと倒れた。

雅緋はなにが起きたか一瞬理解ができなかった。しかし、血飛沫によって体についた、自分の手と体を見ると、今度こそハッキリと理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お母さんは、自分を守るために殺された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この醜い化け物の、妖魔に──

 

 

 

「お、母さん…?」

 

おそる恐る震えながら近づき、遺体の母親に近づく、美しく、優しかった母の顔はもうない、見ることすら出来ない。

息の根を吹くことも、動くこともない…死んでしまったのだ。

 

 

 

 

 

自分の生半端な心のせいで、お母さんは死んでしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

「う、ああ…あ」

 

目には大量の涙を溜めて、やがてポロポロと自然と流れていく。

殺された、大好きなお母さんが妖魔に殺された。

 

しかも当時は4歳の頃だ…残酷な世界も何も知らない彼女は、目の前で母親が死んだのだ。

 

 

 

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

余りにもの衝撃な出来事に、雅緋は自分の置かれてる立場を忘れ、その場で大きく泣き叫んだ。

 

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 

「ギギギャバァーーーーーー!!!!」

 

それに応じるように、妖魔は雅緋に負けずと奇声を上げる。この世のものとは思えない声だったが、母親を殺された雅緋としては、妖魔の声など聞こえるはずもなく、どうでもよかった。

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 

「ギャババーーバ!!ギィギーーィィ!!」

 

豪腕な腕が再び雅緋に襲いかかる。

 

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ────

 

 

ズバッ!!!

 

 

「ギィッ…??」

 

「え?」

 

何かを斬り裂いた音が聞こえた。心の底から謝ってた言葉を止めると、目の前にはなんと、信じられない光景だった。

 

あの化け物、妖魔が首を斬られ、頭が宙に回り、ボトッと地面に落ちたのだ。妖魔自身自分が何をされたかのか分からず、思考停止状態に陥り、そして…

 

ズババッ…

 

閃光が乱れ、妖魔の体はバラバラに斬り刻まれ、ボロボロと斬り裂かれた体が落ちていく。

その化け物を斬ったのは、父親であった。父親は自分の妻を殺されたことに、死体の妖魔を激しく睨み、そして母親に視線を戻すと、悲しい表情を浮かべていた。

 

「お、父さん……」

 

「雅緋…」

 

怒られる。それも当然だ…あれだけ両親から口酸っぱく立ち入り禁止区域に入るなと言われたのに、その言いつけを破ってしまい、更には自分たちの身勝手な行動のせいで、大好きな母親まで死んでしまったのだ。

雅緋は怒られる覚悟をしていた。

 

「……無事でよかった…」

 

「え?」

 

すると、お父さんは雅緋に怒らずに、抱きしめたのだ。

優しく、そして背中をさすり…雅緋の頭を撫でた。

 

「もしあと少しでも遅ければ…母さんだけでなく、お前も死んでしまっていた……」

 

その言葉に、雅緋は自然と涙が溢れていた。怒られると思っていた、でも父親は怒らずに、自分が無事でいることに安心し頭を撫でてくれた。抱きしめてくれた。

 

尤も、大好きな妻を殺されたことが一番苦しかったのに、自分の心に来る苦しみを無理やり抑え込み、雅緋に心配かけまいと、優しく抱きしめてくれたのだ。

 

「う、ううう…お父さん……

 

うわああぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 

そしてその日はとにかく泣いた。

ただ、ひたすら泣いた…一日中泣き止むまで泣いたであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、母親の葬式が終わり、雅緋の父親は、彼女に忍の真実を全て話した。

 

雅緋と忌夢が遭遇したあの化け物は、妖魔と呼ばれる存在であり、本来忍学生を卒業した者にしか、知ることが出来ないこと。

 

妖魔とは忍の血が一定量集まり、そこから生まれる存在。

妖魔は各地にありとあらゆるところに出現し、被害も出てたという。

超人社会に起きる、大事故、大震災も、妖魔によっての影響らしい。

 

 

しかもその頃にはなんと、『神威』と呼ばれる厄災が存在していたらしい。忍と超人を超えた災厄の存在…ソイツは数々の最強の妖魔を作り出し、かつてカグラの称号を超え、古の妖魔『心』を討ち滅ぼした忍『陽花』という忍が、その災厄と謳歌された『神威』と死闘を潜り抜けたそうだ。

 

そう、カグラこそ忍の頂点と呼ばれる存在。カグラこそ、妖魔を滅することが出来る唯一の存在。

 

雅緋は様々な真実を突きつけられ、自分が忍となって何をするかが、ハッキリと分かった。

 

 

 

 

 

 

──カグラになる──

 

 

 

 

 

 

 

 

そう決意した雅緋は、幼馴染の忌夢と話した。彼女は、あまりの罪悪感に雅緋にただひたすら謝罪していた。

元はと言えば、忌夢が言い出したことなので、彼女は「雅緋のお母さんが死んだ原因はボクだ!」と何度も謝ってきた。

 

だが雅緋は、無理やり笑顔を作り「忌夢だけが悪いんじゃない…原因は私にもある」と言った。

だから雅緋はこう言った。

 

 

 

 

 

 

「もし、本当に罪を償いたいなら、母のために…カグラになろう…」

 

 

 

 

 

 

そう約束したのだ。

 

 

これが、雅緋にとって、齢4歳にして知った、忍の残酷な世界。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそ、負けるわけにはいかない。

 

「私は!!私のやり方で蛇女を救う!!!」

 

これが、雅緋の原点(オリジン)であり、今に至った訳なのである。

忍として、お母さんやお父さんのためにも…今苦しんでる忍学生のためにも、自分はもっと強くなり、蛇女を救わなければならない。

 

だから、伊佐奈だけは許さない。蛇女の出資者とはいえ、自分の母の仇である妖魔を売り捌くことなど論外。

しかし、どうすることもできないのだ…伊佐奈に逆らえば、自分は抜忍になる。それは良い、別に問題ない…自分一人で抜忍になったとしても、カグラへの道が閉ざされることはない。

しかし、父はどうだろうか?父親には色々と面倒を焼いたし世話になった。忍の道がいくら非道だと言っても、父親までは巻き添えにしたくない。

任務なら兎も角、自分のわがままを通すがために伊佐奈に刃向かうなど、果たして本当に救われるのだろうか?

 

 

もう何が正しく、何が間違ってるのか分からなくなってしまったのだ。

 

 

それでも、忍は強く生きなければならないのだ。だからこ──

 

 

「それが、お前の本当に望むべきものなのか?」

 

 

「?!」

 

 

焔が突然問い出してきた。

黒い瞳には、揺るぎのない熱き闘志を感じとれる。

そんな真っ直ぐとした瞳で、雅緋を見つめる。

 

「お前がソレを望んだ結果、伊佐奈は蛇女を支配し、お前たちは伊佐奈の思うがままに従い、妖魔を手放してるじゃないのか?それが、お前の本当に望んだ、蛇女の誇りか?」

 

「ッ!!お前に何が分か──!」

 

「じゃあなんで…

 

 

 

 

お前は伊佐奈を斬らないんだ?」

 

「ッ―――!!」

 

一番心に引っかかってたこと、一番苦しいこと、一番に悩んでたことを、焔は何の躊躇いもなく、真正面から質問された。

それが癪に触ったのか、逆鱗に触れたのか、雅緋は表情を歪ませ、完全なる怒りに染まった瞳で焔を睨みつける。

 

「知ったような口を利くなあぁぁ!!!」

 

雅緋は黒い炎をより一層激しく燃え上げ、秘伝忍法を放つ。

秘伝忍法【善悪のPurgatorio】は、自分を中心に、周囲に蛇が具現化したような黒き蛇が六つ回り始め、標的の焔に目掛けて襲いかかる。

焔は一斉同時に六爪で斬りかかるも…

 

ドガアアァァン!!

 

「ッ!?」

 

刀で斬りつけた途端、黒炎の爆発が発生した。

六つの蛇が連鎖するように爆破し、焔はその予想外な雅緋の秘伝忍法に、ガードする術もなく食らってしまう。

 

 

だがそれはあくまで、食らった話であって…

 

 

「負ける…かああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

焔が倒れることはなかった。

 

焔の底知れない力、闘志、信念、それらの全ては、雅緋ですら軽く身震いしてしまうほどだった。

 

 

「秘伝忍法!【響】!」

 

六つの刀を巧みに使いこなし、紅き煉獄の炎が焔の気持ちに応えんと言わんばかりか、雅緋の黒炎よりも熱くなる。

その六つの刀で、紅き斬撃の閃乱を描く。雅緋はガードするも、一撃目にして崩され、がら空きとなった状態へ、二撃、三撃、四、五、六撃食らわせる。

 

「ッッッ!!がああぁぁッ…!!」

 

雅緋は焔の秘伝忍法を喰らい、地面に膝をつけてしまう。そして刀を地面に突き刺し、杖代わりとして体を支える。

体には、かなりの火傷と斬り傷が見受けられる。

 

(こいつ…さっきよりも…?)

 

戦闘での焔の急成長。

雅緋と戦ったことにより、成長した焔に対し驚愕を隠せなかった。

焔は元・蛇女子学園選抜メンバー筆頭だ、多少の警戒はしていたが、まさかここまでやるとは、自分でも思わなかった。

 

「今だ!」

 

驚愕していると、焔は雅緋に隙が出来たことに動き出す。

雅緋はこれは不味いと判断し、立ち上がり焔の攻撃を防ごうとする。

 

 

しかし──

 

 

焔の狙いは雅緋ではなかった。

 

「なぁっ!?しまっ──」

 

「大将の首さえ取れば問題ない…!悪いがお前との決着は後だ…!」

 

 

焔が動いたのは、雅緋に隙が出来たから。しかしそれは雅緋へのトドメではなく、伊佐奈がいる天守閣へと向かうためのものだ。

 

「くそッ!これはやられた…私としたことが!!」

 

焔のスピードは凄まじくもあるが、雅緋は負傷してるため、思うように体が動かない。焔も傷こそは見えるが、思うように…というような状態ではなかった。

 

(ならば…最短ルートで…)

 

雅緋は壁にある仕掛けを見つけ、伊佐奈の元へ向かう。

一刻も早く、報告しなければならない…伊佐奈が狙われてるだけでなく、もう既にこちらに向かっているのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、本当に大丈夫なの?」

 

一方、復讐から目を覚めた双子の両備と両奈は、詠の体を支えながら立ち上がり、心配する表情を顔に浮かべいた。

 

「ええ、ご心配なく、それよりも両備さんと両奈さんの方が心配ですわ」

 

「私は…大丈夫よ…ねえ?両奈?」

 

「両奈ちゃんは大丈夫だけど、お仕置きは欲しいな〜♪」

 

「こんな状況でドMを発現させるな!!」

 

「きゃう〜〜ん!!」

 

相変わらずの平常運転。二人の仲良しさに詠は苦笑を浮かべる。

けど、これが何時もの二人なんだな…と思うと、もう復讐のことは心配ないし、もう二度と復讐の道に染まらないだろうと確信した。

 

「って、そんなところじゃないや…アンタらが行くなら…私も行くわよ」

 

「両奈ちゃんも、救けて貰ったお礼がしたい…!」

 

「お二人とも、気持ちは嬉しいですが…貴女たちはまだ傷が癒えていません…確実に治るまで安静してなくては…」

 

「あ、アンタだって全身傷だらけじゃないの!私も行くって…!アタシも伊佐奈ぶっ飛ばしたい…アイツ、お姉ちゃんの仇を増やそうとしてる…私もそれ止めたい!」

 

「両備さん……

 

ええ、分かりました…そこまで言うなら…」

 

「本当!?良かったぁ〜…」

 

詠のオーケーに、両備は嬉しく、子供のように頬を赤らめ歓喜な声を上げる。詠は両備の姿がなんだかとても微笑ましく見えた。

 

「本当にこれで良かったの?」

 

ここで少し離れたところからやって来た春花は詠にそう言うと、彼女は笑顔を絶やすことなく微笑んだ。

 

「言っても、きっと無理してついて来ます……それならいっそ、一緒について行けば良いかと…ホラ、色々と心配ですし…」

 

「プッ…!詠ちゃんったら、もう立派なお姉ちゃんなのね〜、感心するわ!」

 

「なっ!?ちょっ、春花さん!?」

 

頬を赤らめ動揺の色を見せる詠に、春花は彼女の可愛らしさと面白い反応に、思わず笑みをこぼしてしまう。

 

「まあでも、良いんじゃないかしら?私も詠ちゃんの立場ならそうするかもしれないし…」

 

 

このまま二人にさせておくことよりも、一緒になって行動した方が心配はないし、何よりも二人の気持ちを考えてそうせざるを得ない形となる。

 

「問題は他のみんなは…何してるのかしら?上手くやってくれてるといいけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、わしもそろそろ行こうかの」

 

忌夢との戦闘を終えた日影は、パンパンと汚れた忍装束を払い、天守閣を睨みつける。日影も同じく、天守閣に向かうそうだ。

 

「待て日影…もう行くのか?」

 

ここで声をかけたのは忌夢、彼女も日影と同じくボロボロだ。

 

「せやな、悪いけどそんなに悠長にのんびりしてられへんからなぁ」

 

「なら僕も行く…お前が行って、僕が行かない訳にはいかないからな」

 

「おっ、忌夢さん今の上手いの」

 

「黙れ!というか今のは狙ってやったわけじゃない!!」

 

この二人も相変わらず平常運転?で何よりのご様子。忌夢は日影が嫌いだという事実は変わらないが、先ほどよりかはかなりマシな様子だ。

 

 

 

他にも、未来と紫も日影たちと同じく、天守閣を見つめる。普段の紫なら、やる気のなさで行く気はないが、隣にはあの仏麗がいる、恐怖などもうない。

 

「伊佐奈に…立ち向かうのは……怖い…ですけど、未来さんが、仏麗さんが、いますもんね…」

 

「そ、そんなこと言われると…恥ずかしいじゃないのよ…!」

 

嬉しさのあまりか、それとも慣れていないのか、紫の言葉に赤面する未来は、見た目からして子供っぽい印象が強い。

それでも、紫にとってはかけがえのない存在で、唯一尊敬してる人なのだ。

ネットもゲームも遊べなくなるのは困るが、側にいる尊敬の人と離れるのは、もっと嫌なのだ。

 

だから、嫌なことがあっても立ち向かう。

 

 

そう決心できたのも、焔紅蓮隊と、未来と出会ったからなのかもしれない。

ダメな自分を変えれた未来に対して、紫は心の底から「ありがとう…」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…ハァ……どうやら、焔はまだなようだな…」

 

傷だらけの雅緋は、何とか最短ルートを使って焔よりも一足先に早く、伊佐奈の居る最上階に上がり込み、扉の前に立っていた。

 

この扉の前に立つと、必ず嫌な気持ちになる。雅緋は冷や汗を垂らしながらも、深呼吸して心を整理してから、ドアを開ける。

 

ガチャッ…

 

「失礼しま「遅い」…!」

 

するとそこには、机の上に腰掛けて、顰めた表情を浮かべてる伊佐奈。

この黒い影からして分かる、これまでになく怒っている。

 

「申し訳ございま「遅い、連絡はつかない、ボロボロの傷…なんだこれは?なぁ…その傷はなんだ?お前ともあろうことが、深傷を負うなんてな?焔紅蓮隊にでもやられたか?肝心の紅蓮隊と選抜メンバー(他のヤツら)はどうした?」

 

雅緋のセリフなど聞く耳持たず、伊佐奈は苛立ちながらも、怒りを孕ませた声で、冷静に話す。

 

「他は分かりません…ただ、焔とは会敵したものの、ヤツは伊佐奈様を狙い、此方に向かって来てます…逃げた方が宜しいかと…」

 

「……は?」

 

雅緋の言葉に癪が触ったのか、あるいは雅緋が焔を食い止めれなかったことに苛立ったのか、焔が此方にやってくることに疑問を浮かべたのか…険しい表情を見せる。

 

「一人も倒せずお前らは焔紅蓮隊に負けて、お前は誰一人も仕留めれず、ノコノコと帰って来てご丁寧に報告か?

 

 

 

雅緋、俺はお前ならもう少し使えるヤツだと思ってたよ…

悪の誇りのためとやらに、金を使って忍学生買ったり、このオンボロ校舎に金投資したり、お前の入院額も払ったりと…色々金は使ってやってるんだがな…恩も返せねえのか?なぁ雅緋」

 

「ッ──!」

 

伊佐奈の言葉に息を詰まらせる雅緋、もうこうなってしまった以上、機嫌を取り戻すには到底不可能に近い感じだった。

 

「しかし、先に上への報告が必要と、状況を見て判断し…」

 

 

ズドォン!!

 

 

「ッ!?ガァッは!!?」

 

瞬間、雅緋は訳が分からず、何かに捻り潰される形となった。

 

 

 

伊佐奈の攻撃──

 

 

 

まさか突然攻撃が来るとは思わなかったので、防御する事すら出来ず、押しつぶされるかのように地べたにこすりつけられた。伊佐奈はコートの丈から脊椎動物が見せる尾びれへと変化し、襲いかかって来たのだ。

 

 

「言い訳なんざ聞きたくねえんだ、何の価値もねえ…

焔紅蓮隊をどうしたかっていう問題だ、分かれよ…なあ?

 

 

 

 

 

死にたくなけりゃ、命削れよ?」

 

トントン、と親指で自分の胸元を軽く叩く。ここまで清々しい程に非道な人間はほうそういないだろう。

伊佐奈は雅緋を見下す。

 

 

 

その時、遠くから何やら呻き声が聞こえて来る。それが段々と近づいていくかのように…雅緋と伊佐奈は、周囲を見渡すものの、それらしき人物など見あたる筈がない、一体どこから来るのだろうか…

 

 

ズバアアアァァァァン!!

 

 

バラバラに斬り刻まれ、四角形のサイコロのように転がり落ちてく天井に穴がぽっかりと空く。

 

 

 

 

──空。

 

 

 

 

真上…いや、空からなんと、黒髪のロングを後ろに束ねたポニテの少女、雅緋と先ほど死闘を潜り抜け、ここまでやって来た、焔であった。

そんな焔に対し、伊佐奈は不機嫌な表情を浮かべる。

 

「伊佐奈ああぁぁぁ!!」

 

「お前らが使えねえから…こういうバカが湧いて来る」




ようやくここまで来たなぁ、それにしても早くヒロアカ本誌に追いつきたい。
ここ数週間、ずっと堪りませんもの。

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