光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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今思ったこと。これヒロアカなのに、主人公が全く出てない回なんて聞いたことないぞ…あと何話くらいかな、3、いや…四話くらいで終わりそう…多分。最悪5話まで続くかもしれない…


65話「相性バカ」

両備と両奈、詠と春花が死闘を繰り広げると同時に、 忌夢は日影と、紫は未来と対峙する。

忌夢の目には、ドス黒い怒りと憎悪を混ぜたオーラを感じる。でもって忌夢の表情は不敵な笑みを浮かべており、口の端を吊り上げる。

 

「待ってたよ日影……僕はお前にずっと復讐したかったんだ……だからこうして僕の目の前にお前がいることが、嬉しくて仕方がない……」

 

「わしにか?」

 

日影は何のことだ?と、心当たりもへったくれもない状況に首をかしげることしかできず、対して日影の反応を見た忌夢は「チッ…」と舌打ちをし、益々怒りを込み上げる。

 

「あくまでしらばっくれるつもりか…まあ良いだろう…そんな余裕もいつ迄続くことか……ふふふ、ようやくお前を殺すことが出来るって思うと、喜びが止まらないよ…!」

 

本来伊佐奈から受けた命令は『焔紅蓮隊』の捕獲。と言う任務……だが忌夢の頭の中は日影を殺すことだけでいっぱいだ。それに、伊佐奈はこうも言った。『抵抗するようなら迷わず殺せ』と…そして日影は無感情、だから絶対にこちら側にはつかないということが嫌という程よく分かる。何故なら、忌夢は日影をよく知ってるからだ……

それに他の奴らの事などどうでも良いし、日影の相手は自分だけで充分、他の奴らは誰かがやってくれる。忌夢はそう判断した。

 

「ほぉ…」

 

「何にせよ、ここで会ったが100年目!今日こそ数々の恨みを晴らさせて貰うぞ!」

 

忌夢は日影に宣言する。数々の恨み…なんて言っても心当たりがない日影は当然忌夢の言ってることが分かるはずがなく…

 

 

「どちらさん?」

 

「──は?」

 

 

また、忌夢が誰なのかすら分からない始末だった。

 

「というか、何でわしのこと知っとるん?わしには親戚いないで」

 

「お、おい…ちょっと待て日影、何を言ってるんだ?僕だぞ?僕…日影、お前にしては随分とぶっ飛んだ冗談をつくんだな??昔はそんなこと言うヤツじゃなかったのに……抜忍になってから変わったのか?」

 

「オレオレ詐欺の次はボクボク詐欺かいな?わしゃあ生憎知らんヤツとは連絡とらん主義での、それに冗談なんてわし生まれてこの方一度も言ったことないで?」

 

それこそ冗談ではないかと疑ってしまいそうな言葉だが、日影の表情は感情こそないものの、表には疑問を抱く表情でしかなかった。だが日影は感情がない(或いは自覚してないだけかもしれない)為か、嘘をつくことはないし、まずあり得ない。あるわけがない。だからつまり──

 

「ちょ……っとまて日影……まさかだとは思うが…お前、僕のこと…

 

 

忘れてるわけないよな?」

 

「だからどちら様や?」

 

忌夢が誰なのか日影は本気で知らないということだ。

 

「というか、何でか知らんがアンタ、昔っからわしのこと知ってそうやな?何でわしのこと知っとるん?わしは孤児院で育ったから、アンタみたいなデコ晒したメガネそうおらんで?まさか、これが未来さんの言ってたストーカーってやつか?」

 

「失礼だな!?抜忍になったから辛い人生送ってるのかと、敵でありながら少しでも考えてた僕がバカに思えてしまうくらいだ!って、本当に僕のこと覚えてないのか!?忘れてしまったのか!?」

 

「らしいのう」

 

「らしいのうじゃない!!お前は何をそんな呑気な言葉を垂らしてるんだ!僕のこと、忘れたとは言わせないぞ!そりゃあまあ…僕は雅緋の世話をしていたから、長い間休学をしていたけど……

 

それでも最近は少しずつ学校に顔を出していたんだ!」

 

「はぁ…」

 

「自分たちの前の選抜メンバーの名前も知らないのか…?」

 

「うん」

 

「なんだよその間の抜けた顔は!やる気のない声は!僕を侮辱してるのか!?い、いや違う…コイツはいつもそうだ!僕に対していつもふざけた事や、舐めた事ばかりするんだ……と言うよりも!何で覚えてないんだよ!いつも僕から逃げてたお前が、どうして…?」

 

「もしかしたら、気づかんかったか、ただ興味がなくてめんどくさかったとか…そういう事かもしれんなぁ…逃げてたつもりはないんやけど…」

 

本気だ、本気で忘れてるぞコイツ。と忌夢は思ったことを顔に出す。まるで仲の良かった友人に久しぶりに会って「どちらさん?」と言われるくらい、忌夢にとってはとてつもなく衝撃的な事だった。

 

なんてことだ、感情がないだの何だのと抜かしてたが、最早そんなレベルじゃないぞ…

 

「ああ、そういやわしそん時抜忍の漆月を探してたり、半蔵学院の戦いとかでそれどころじゃなかったんや」

 

「いや、多分その前から僕のこと知ってると思うぞ…その時半蔵学院の『は』の字も出てなかったからな…」

 

「そうなんやね」

 

「………」

 

自分は必死に話してるというのに、日影のこの塩っ辛い塩対応。忌夢は思わず額に血管を浮かばせる。

忌夢が一体どんなことで、どんな理由で日影を恨んだり、復讐をしようとするのか分からない。しかし、だ…

日影は三年で忌夢も三年(現在忌夢の年齢は21才)。つまり、日影が一年の頃に忌夢とは既に会っていたのだ。しかし忌夢はとある事情により、雅緋の世話をしなくてはならなかった。だから良い歳した大人になっても、三年生…つまるところ留年し、こうして蛇女にいる。雅緋の世話をしながらも多少は学校に顔を出している。だから日影とは会っていたのだ。

 

なのに覚えてないというこの反応。

 

同じ学校に在籍し、ましてや選抜メンバーなら名前こそは覚えてる筈なのに、日影は「うん」という超軽いノリで返事をしたのだ。覚えてないうえにこの始末…怒らない人などいる筈がない。

 

「で?僕のことは思い出したのか?」

 

「どうなんやろうね?」

 

(コイツ…)

 

心の中で思わず殺意溢れた言葉を呟く。今すぐコイツを殺したい。

本当なら今頃、日影を苦しめながら戦ってるか、もしかしたら死闘を繰り広げ、今頃日影を倒してるのかもしれないというのに……

 

ただ単に殺すだけではダメだ。忌夢は日影に対し数々の恨みを晴らして殺すことこそ、忌夢の復讐は完遂する。

 

だから、日影には思い出させて欲しい。忘れたまま殺すわけにはいかないし、戦う気もない…いや、思い出してからでないと戦えない。でなければ恨みを晴らしたくとも晴らすことができない。だから日影には何としても自分のことを思い出させて欲しいのだ。

 

「日影、お前には何としても思い出して貰わなきゃ困る……じゃなきゃ僕が君を殺したとしても意味がないんだ…」

 

「なんでや?」

 

「良いから思い出せって言ってるんだ!」

 

「う〜ん…せやけどなぁ…」

 

「何か一つでも心当たりとかないのか?」

 

マイペースな日影に対応するだけで、会話をするだけで怒りや疲れが出てくる忌夢は、激しく睨みつける。日影は「考えるのはあんま得意じゃないんやけど」と屁理屈言いながら考え始める。そして数十秒後、日影は「あっ!」と声を上げ思い出したかのように目を大きく開く。

 

「おっ、思い出したか?」

 

「ああ、思い出したで。アンタか」

 

忌夢は「やっとか!」と胸が高鳴り思わずガッツポーズを決める。これでようやく恨みを晴らすことが──

 

 

「アンタ蕎麦屋の店員やろ」

 

「はぁ?」

 

出来なかった。

 

「やっぱり、アンタどっかで見たことあるような無いような、そんな風に引っかかってたけど、まさかアンタ蕎麦屋で仕事しとったとはね。メガネ見て思い出したわ。すまんな、最近蕎麦屋に行けなくて。わしゃあ抜忍になってから行く暇もお金もないんよ」

 

「待て日影、自分の世界に入り込むな。何の話をしてるんだ?は?僕が蕎麦屋の店員だと?」

 

「最近蕎麦屋に行ってないから怒ってるんちゃうか?」

 

「全然違うわ!!!何だよ蕎麦屋の店員って!どう考えたら僕が蕎麦屋の店員さんになるんだ!?」

 

「メガネ掛けてるやん」

 

「共通点メガネだけだろ!?」

 

「アンタ女やろ?」

 

「煩い!もう黙れ!!」

 

話しても埒が明かないと判断した忌夢は、息を荒くする。思い出せないうえにこの侮辱するかのような仕打ち。きっとこのまま続けば「蕎麦屋の側にいなくて悪かったなぁ」とか上手くない親父ギャグでも言いそうだ。これ以上怒りたくない。

 

「何でそんなに怒っとるん?何なら逆にこっちが聞きたいわ、わしがお前さんに何したのか」

 

はっ!とここで忌夢は「その手があったか!」と手のひらをポンと叩く。思い出せないのなら、キッカケとなった原因を話せば、もしかしたら思い出してくれるかもしれない。それで思い出したなんてことはよくある話。

 

「そうだな…その方が手っ取り早い。じゃあ、あの忌々しいボクサーパンツ事件のことを話すか……言いたくないし思い出すだけで腹が立つが…」

 

「なんやそれ、メッチャ面白そうやん。是非聞きたいわ」

 

日影がここで初めて興味深そうな表情を浮かべる。忌夢は「何処が面白そうなんだ…」と小声で呟くも日影は忌夢の言葉に気づかない。

 

「あの日僕は偶々下着を全部洗ってしまってて、替えの下着が無かったんだ…

それで僕はコンビニでパンツを買いに行ったけど、女性用の下着は全部売り切れてて…」

 

「ノーパン?」

 

「うん日影、取り敢えず人の話はちゃんと最後まで聞こうな?」

 

日影の言葉に思わず眉をひそめる。ちょっとした怒りを抑え、堪え冷たい言葉を投げかける忌夢のその顔は、最早「黙ってろ」というようなオーラに染まっていた。

 

「それで僕は…仕方なく男性用のボクサーパンツを買ったんだ…

バレるはずがない…バレる筈がなかったんだ……なのに、なのに…!廊下を歩いている時にお前とぶつかって…その場で倒れたボクは、皆んなにボクサーパンツを見られてしまったんだ…!!」

 

「あっちゃぁ〜、それは災難やったなぁ」

 

「災難ですむか!それからボクのあだ名は『プロボクサー忌夢』だぞ!」

 

「カッコええやん、スタイリッシュなあだ名やん」

 

「うるさい!それに屈辱な事件はそれだけじゃない…!

メガネがサングラス化事件になったり、制服がいつの間にかシースルー事件だったり…全部何もかもお前が原因じゃないか!!」

 

幾度のない事件を思い出しては日影を八つ当たり?にし激怒する。日影は勿論感情がないため「そりゃあすまんかったな」と、何の悪気もなく謝る。実際自分が本気で悪いとは思っていないため、忌夢の八つ当たり?というのが分からない。だから、日影は何も悪くないにも関わらず誤ってしまうのだ。まあそこが日影らしいといえば日影らしいので何とも言えないが。

 

「それから僕は幾度となくお前に果たし状を送ったんだぞ!選抜メンバーの座をかけて戦え!って!なのにお前は…!!ボクに逃げてばっかりだったじゃないか!」

 

「もしかしたら気ぃつかんかったか、或いは興味が無かったんやね」

 

「お前は何処までマイペースだったんだ??」

 

ありえない。そんなバカな…今まで逃げてきたのではないのか?

日影には嘘をつく理由はない。だって、日影は自称、感情がないのだから。

だから嘘をつく必要も、理由も何処にもない…つまり、日影の言葉は全て本当だということだ。

 

「そもそも、アンタがわしのこと知ってるのなら、わしがこう言う性格だったってことを把握してなかったんか?」

 

「うっ、御免なさい…って!何で僕が謝らなきゃならないんだよ!謝るのはお前だろ!?」

 

「なんでやねん」

 

「ボケてない!!ボケてるのはお前の方なんだよ!!」

 

お前らお笑い芸人か。とツッコミを入れてもおかしくない二人組。忌夢は髪をくしゃくしゃと乱暴に掻き回す。

ここまで日影が恐ろしいくらいバカだとは思わなかった。感情がないとか何とか言ってるが、アレはもうそんなレベルではない。

そもそも日影が何故感情がないのか逆に疑わしく思えてしまうくらいだ。

 

「あっ、ちょっと待ち…アンタもしかして忌夢さんか?」

 

「なっ!?」

 

ここで初めて名前を呼んだ日影。忌夢の発した声は思い出してくれた喜びではなく驚きだ。しかしそれは決していい事ではない…

 

「アンタの顔を見てちょっと思い出してきたわ」

 

「ななっ!?」

 

「わしの周りにうろちょろしとった先輩がおったんやけど、それがアンタだったのか…知らんかったわ」

 

忘れてた訳ではない、知らなかったのだ。この人が忌夢であり、忌夢が誰なのか…

だから日影は今まで思い出すことが出来なかったのだ。

つまり、覚えるもなにも、忌夢という存在そのものを知ったのが今日で初めて。という意味なのだ。

その意味を瞬時に見解した忌夢は、驚愕のあまり声にすら出せず、口をポカンと開けていた。

知らず知らずに忌夢を傷つけてた日影は「すまんかったの」と軽く頭を下げ謝る。だが既に遅し、忌夢の怒りゲージはMAXに達していた。

 

 

「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、ふざけるなああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「!?」

 

 

忌夢の大声が響き渡り、羽を休んでた小さな小鳥たちは驚き空を飛び逃げていき、草はらに隠れて動いていたネズミでさえも忌夢の激しい怒りを孕ませた声に素早く逃げる始末。

空を、海を、大地を轟かせるような忌夢の怒鳴り声に、日影は思わず、咄嗟に耳を抑えていた。

 

「誤って済むとでも思ってるのか!!水着上下反対事件だって、ハンドタオルが油揚げ事件だって…ボクは1日たりとも忘れはしてないぞ!!」

 

「物覚えが良いんやね、流石パイセンやな」

 

「良い加減にしろ!お前はボクを侮辱して楽しいのか!?お前はいつもそういう間の抜けた性格だとは前々から知ってはいたが…まさかここまで酷いとは…重症ものだぞ!」

 

「わし病気かかってへんで、健康診断でも異常なしと言われてるから」

 

「そう言うお前の間抜けな所を世間では病気と言うんだ!!」

 

日影が何かを言えば忌夢がツッコミを入れる。

メガネを掛けた忌夢がまるで何処ぞのあの有名なダメガネツッコミ担当に見えるのは気の所為かもしれない。

 

「何と言うか、忌夢さん面白いなぁ、会話して全然飽きないわ」

 

「お前が勝手に面白がってるんだろ!会話のキャッチボールにもならないし!」

 

「当たり前やん、だってボールないんやから、何を言ってるん?」

 

「こっ…のっ……!!」

 

何処か抜けてるような日影に、忌夢は思わず拳を強く握り、思いっきりブン殴ろうかと思ってしまった。

 

いや、落ち着け……

 

そう言えば自分は言ってたではないか。思い出して貰わないと恨みを晴らせれない…と。

思い出して貰わなければ殺すどうこう以前に闘うことが出来ない…しかし、日影は僅かながらに思い出してくれた。

今までの事件を覚えてないのが未だに腹が立つが、しかし自分のことを思い出させるだけでここまで一苦労してるのに、全部の事件を思い出させるというのも無理があるし、1日掛けて話しても時間が足りないだろう…

それにこれだけ自分が真剣に自分のことを思い出させようとしてるのに、ほんの少ししか思い出してない(知らなかった)ため、きっと全ての事件を言ったとしても骨折り損のくたびれ儲けに等しいだろう。

 

だが、日影はそれでも一応忌夢を思い出してくれた。自分の周りにうろちょろしてた先輩がいたと言っていた、そこも気に入らないが、忌夢だということを知ってくれたではないか。つまり、もう話さなくてもいい。だって思い出してくれたのだから。

 

「まあいい……お前は僕のことを思い出してくれたんだよな?ほんの少しでも…

なら問題ない…これでようやくボクはお前を殺すことができる!復讐することができる!ボクがこの日をどれだけ待ち望んでいたことか!

これでもう長々と話さなくても済むし、伊佐奈様に仕打ちを受けることはまずない…!では日影…勝負だ!行くぞ!」

 

 

「ボクシングでか?」

 

 

ドンガラがっしゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!

日影の予想外のアホっぷりに、ぶっ飛んだ発言に、忌夢は壮大に、 派手にコケだしてしまう。ギャグ漫画などにはよくあるベタなコケ方だが、そこらのズコッ、デデ〜ん、などの弱々しいありがちなズッこけ方など比にはならない、世界一とも呼べるのではないか?というような超ド派手なズッコケであった。

忌夢は直ぐに起き上がり、ズレたメガネを掛け直し、怒りのコスモを燃やした眼光を放つ。

 

「違うわ!!ふざけるのもいい加減にしろ!!!嫌味か?嫌味なのかそれは!?ボクへの嫌がらせか!?敵でありながら幾らなんでも失礼すぎるだろ!

 

ハァ〜〜……闘う前から疲れるなんて…コイツは何処までも僕の神経を逆なでするヤツだな…!」

 

先ほどまで心を落ち着かせ、ようやく闘えると思い胸が高鳴り、闘う決心がついた矢先にこの日影の何とも言えない対応。

この怒りを誰かに知って欲しい、これまでにない怒りを早くぶつけたい。

 

「いやぁ、すまんすまん、ボクサーパンツの話ししてたから、ボクシングで決着つけるのかと思っとったわ」

 

「そんな決着嫌だわ!……はぁ、もう良い。さっさと始めるぞ!っと言いたい所だが…一つ疑問に思ったことがある…」

 

「ん?なんや?」

 

「今まで下らない話をして来たからこそ思ったんだが…お前は確かに感情が無いんだよな?なら、どうしてお前は闘うんだ?何のために此処へやって来た?」

 

先ほどまでのお笑いコンビのような空気は毛頭ない。忌夢のその表情は先ほどのようにツッコミを連発してたあの突っ込み担当役の表情とは違い、いつも以上に真面目で、とても険しい顔立ちだった。

 

「何や急に?」

 

「良いから質問に答えろ。益々分からなくなって来た…お前みたいに感情がないうえに、闘う意思すら感じ取れないお前が、何で此処にやって来たのかを……

だってそうじゃないか。お前は僕の果たし状にだって来なかったし、あんだけ挑発してたのに一向に僕に構わなかったお前が、何で今回に限って此処にやって来た?ボクはお前が行動を取った原因を知りたい」

 

どれだけ挑発し、どれだけ果たし状を送っても、その時の日影は本当に感情というものを知ろうとすら無かった。だからそのため日影は相手にしようとは思わなかったのだろう。

だが今こうして日影はここへやって来た。だから知りたいのだ、何の感情もなかった日影が何故、ここへやって来たのか、して日影を動かした原因とは一体何なのか?そして日影がそこまでして闘う目標は?理由は?

分からないからこそ忌夢は問う。

 

「理由は色々あるけど、一先ずわしの闘う理由は、仲間と一緒に生きたい。そして目的は今の蛇女を助けて伊佐奈をブチのめす。ただそれだけや」

 

日影のその表情も、忌夢と同じく真剣な顔立ちでありながら、先ほどのボケみたいな感じとはいかないのか、偉く真面目な表情をしている。

それに対し忌夢は──

 

「ふっ…ふふふ…はははは──

 

はっははははははははは!!!

そんな理由で?お前は命を捨てに来たのか!今回はボクも笑えるぞ」

 

「何処が面白いのかさっぱり分からんわ、それに別にわしは命を捨てに来たわけじゃないで?わしだって生きたいし死にたくない」

 

「死にたくないだと?ふん、所詮はその覚悟か…少しは強くなったかと思ったが…ガッカリ、つくづくお前は残念だよ…」

 

「蕎麦屋の店員に似てる忌夢さんに言われてもなぁ」

 

「これ以上お前の下らないボケはもう聞きたくない、だから真剣に話せ」

 

やっぱり言っちゃうのか、或いは癖になってるのか、ついつい巫山戯たことを言ってしまう日影。そんな彼女にはもう慣れたのか、忌夢の心の中に怒りが込み上がらない。

 

「ボクは命など惜しくない!伊佐奈様のためならこの命、幾らでも捨ててやる!!」

 

「伊佐奈のためにねぇ、それがアンタの闘う理由か?」

 

「当然だ」

 

「そっか…」

 

伊佐奈の為なら命を軽々と捨てようとする忌夢の決意に、日影は呆れたようなため息をつく。日影のその表情から察するに、怒りを堪えている。

 

「わし、戦う理由がもう一つ増えたわ」

 

「──は?なんだそれは──?」

 

「思いっきりブン殴って、アホウの目覚ましてやるわ!」

 

日影は瞬時にナイフを手に取る。忌夢も日影が突然攻撃態勢に入るとは思わなかった為か、反応が遅れる。

 

 

間違ったことを正す。日影のやるべきことがもう一つ増えたのはソレだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……お姉ちゃんも始めてるね………」

 

一方で、紫のロングをした根暗な女子、紫は忌夢を見つめてため息をつく。

実は紫と忌夢は血の繋がった姉妹であり、紫は忌夢の妹なのだ。外見的にはあまり似てはいないし、両備と両奈の双子姉妹のように、オッドアイの特徴もない…しかしそれはあくまで見た目の話。

紫と忌夢の特徴…それは──

 

──禍魂──

 

禍魂とは、ある忍家に代々伝わり発現する拒絶の力。怒りや拒絶といったネガティブな感情により発現し、扱う者は上位の忍でさえも恐れられている。

因みに、紫が引きこもりな原因も、根暗で常にネガティブな原因も、それにあった。

だがそのお陰で、彼女は引きこもりが出来たのもこの力のお陰だと心の隅ではそう思っている。

もう一つ思うのは、姉を傷つけてしまったことだ────

 

──幼い頃、無理やり訓練をさせられ、妹のやる気のなさに、忌夢は紫の愛用として扱ってる人形、『べべたん』を強引に奪い、引きちぎろうとしたのだ。

その頃からなのか、紫は思わず禍魂の力を発揮してしまったのだ。

それも、自身も気付かずに──

 

例えでいうなら、個性の発現と同じだ。個性は4歳の頃になると発現する。4歳でなくとも、赤子の頃から個性が発現するといった現象がある為、4歳から、とは言わないが…

個性とは自然に発するもの、だからこそ紫の発現も、それと同じだ。

禍魂とは、ある意味個性と変わりないように見え、また禍魂は個性と類似していると、忍学科の教科書に載っている。それは無理もない、個性もまた、代々引き継がれてきたものが多いのだから(また、轟みたいに、個性婚で混ざり合った個性もあるが)。

 

気がついたら、姉は目の前で倒れていたのだ。それもボロボロな体で、地べたに…紫にとって忌夢とは自慢の姉であり、大切な姉、大好きなお姉ちゃんなのだ。両備と両奈と同じ、姉想いなのである。

 

 

だから姉が傷ついた時は、紫もショックを受けた。自分の所為で、姉は傷ついてしまった…

 

そしてそれを見た父親や、禍魂の力を見た蛇女のスポンサーや試験官などは、姉の忌夢よりも強いと称賛された。

だけど紫は嬉しくなかった。どんなに強い力があったとしても、姉を傷つけてる事に変わりはない…

そんな紫に、忌夢はこれまでに無い屈辱を受けたような顔で、紫を避けていた。

そんなことからか、紫はこの力でこれ以上姉を傷つけたくなかった。

だからこそ紫は身も心も、閉じ込めるように引きこもりをしたのだ。

 

 

紫はこの力のせいで自分の人生が狂ってしまったのだ。

 

 

超人社会──ヒーローが個性を使って活動すれば、個性のせいで人生が狂ってしまった人間など少なからずこの世界には存在する。

 

紫はそのうちの一人の人間である。

 

 

この力さえ使わなければ、姉は何も傷つかない…本当に姉のことが好きならば、傷つけずに穏便に済ましたい…そうすればお姉ちゃんも許してくれるのかな?

こうさて紫は、引きこもり生活を始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当は戦いなんてしたく無いし…争いごも好きじゃ無い……

でも、お姉ちゃんの頼み、って言うよりも無理やりって感じに付き合わされたし…伊佐奈様の命令だし……それに逆らったら、ネット解約したり、またゲームも全部取り上げられちゃう……あと少しで、クリア出来そうなのに……」

 

禍魂の力は伊佐奈も勿論知っている。何よりも伊佐奈は紫のその力を充分、期待するほどだ。

 

「できれば、早く終わりたいなぁ……捕獲なんて…殺すことよりも難しそう……」

 

そして紫は嫌々な気持ちで正面の未来に視線を戻す。紫は「始めますか…」と呟くが、肝心の未来が何やらえらく真剣にこちらを見つめている。

 

「ねえ、アンタ…まさかだとは思うんだけどさ…」

 

「…?はい?」

 

未来は深呼吸する。

まさか、そんなことがあるわけがない…多分気のせいなのだろう…気のせいに決まっている。この世界の何千人、何万人の確率として、まさかそんなことあるわけがない…

でも、聞かずにはいられなかった。

 

「アンタさっきさ、忍の家のラプンツェルって言ってたじゃん?もしかしてだけどさ…アンタ…『cute__hikky』?」

 

「!?な、なんでそれを知ってるんですか!?!」

 

 

え?

動揺してるってことは…まさか?

未来は目をまん丸にし、顔を赤くしてる紫を目の前にして呆然としている。紫自身、顔を赤くし、恥ずかしさのあまりなのか、涙目になっている。こんな紫は姉でも見たことがないと言うだろう。

 

しかし、だ。問題はそこじゃない…自分の出してる小説を愛読してくれてる大ファンがまさか紫だとは思わなかったのだ。

未来の出してる小説はとても有名で、アクセス回数なんてとんでもない数なのだ。

 

「まさか……やっぱアンタが…ねぇ…」

 

引きこもり生活を送ってるならそりゃあ小説を出した途端「いいねボタン」が100を超える訳だ。

だがコメントの内容は、ネットと現実でのキャラがかなり違うしそこら辺についても驚きを隠せないけど。

 

因みに未来のネームドは「仏麗」。由来は未来からだ。未来を英語でfutureと呼ぶ。それをローマ字にして読むと「仏麗」になることから、小説での名前はそのようにしてある。

 

「ど、ど、どうして!?なんで!?私の秘密をあなたが知ってるんですか!?!」

 

「だって、私は」

 

──仏麗だから。

そう言いかけた時だった。

 

 

「……そうですか、まさかクラッカーなんですね…」

 

 

だが紫の言葉が未来の言葉を遮った。未来は思わず「えっ?」と声を漏らし、視可できるドス黒い紫色の、負のオーラを漂わせていた。これは禍魂から来るものなのか?それともただ単なる怒りによってのものなのか?それは分からない…ただ──

 

「そうやって、私の秘密を奪っていくんだ──」

 

「え?ち、違うわよ!話をちゃんと聞いてよ!わ、私は…」

 

「私の秘密を知ってる者は、絶対に生かしてはおけません──死んでもらいます!!」

 

話し合いで分かち合えるような状況でもないというのは確かに分かった。

 

「ちゃんと最後まで聞いて〜!!!」

 

未来の言葉など紫には聞こえるはずがなく、今の紫は完全に勘違いをしている。暴走状態だ。未来は色んな意味でこの状況に困っていた。




あれ?これギャグ漫画か?あっ、違うギャグ小説か?いいえ、違います。ちゃんとした青春バトルストーリーです。
日影と忌夢…お前ら絶対にやっていけそうだぞ。SVでの日影のあのボケっぷりは大好きです。大爆笑しました。
未来と紫…未来は呪いら紫は禍魂。そう考えると戦う相手としては当然なのかな?

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