光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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えー、私は嬉しいです。開いたらなんと、評価が赤くなってました。オレンジ色から赤に変わり、思わず大はしゃぎしました。凄く嬉しい余り、もうほぼ冷静になっちゃいました。
誠にありがとうございます。(と言いつつ、オレンジになるのがオチだけど)
えー、それで私色々と考えて思ったのです。自分が初めて小説投稿したのがこの作品で、初心者のため下手な所もありこれから成長していこうと執筆を続けてきたのですが、そのたびに思うのです。「これはこうした方がもっと面白くなったかもな〜」とか、「ここちょっとやらかしちゃったかな〜」とか、後々のことを毎日思うのです。そして投稿していくウチに、少しずつ丸くなっていくというか、小説らしいというか…自分なりにですけど…
何が言いたいかというと、評価が赤くなった今、もっと多くの皆様が読んでいただけれる、面白い小説投稿をしていきたいなと思っております。過去のことは変えられない、しかし未来は変えられる。つまり、これからこの先もっと精進して皆様に愛読していただけれるような作品にしたいという気持ちです。また、過去で小説が下手な所は、自分の勲章としても取っています。昔はこんな風で、今はこんな感じだよという、成長を思い感じさせるアレですね。「何言ってやがんだコイツ」と思っていただいても結構です。ここまで読んでくださってる方がいるだけで嬉しいのですから。長文になってしまいましたね、申し訳ありません。これは私としてのケジメであり、もっと頑張っていこうという意気込みです。ではどうぞ…


62話「復讐に染まった姉妹」

焔紅蓮隊が攻めてくる前のこと、両備と両奈は焔達の戦いに準備を整えながら、ある計画を進めていた。

 

「良い両奈、焔紅蓮隊が攻めに来て、無事生き残ることができたら……やることはもう分かってるわよね?」

 

「わかってるよ両備ちゃん。両備ちゃんが雅緋ちゃんを、両奈ちゃんが忌夢ちゃんを殺るんだよね…?」

 

「そうよ」と両備はこくりと頷いた。二人のその目には、雅緋たちへの友情という文字はなく、寧ろ殺意剥き出しの復讐の色に染まっていた。

 

 

両備と両奈は、復讐の為か、雅緋を殺そうとしている。同じ選抜メンバーでありながら…では何故、両備と両奈は選抜メンバー筆頭である雅緋を殺そうとするのか?復讐とは一体?それは、過去の話になる…

 

 

両備と両奈には姉がいた。その名も両姫。とても美しく、爽やかで、幸せな笑顔で満ち溢れている、優しいお姉ちゃん。

両親は元は善忍だったが早く亡くしてしてまった。しかし両親の記憶がない為、物心付く前に、事故で亡くなってしまったらしい。それでも、不満はなかったし寂しくなかった…両備と両奈の面倒を見てくれたのが、5歳年上の両姫お姉ちゃんだ。

お姉ちゃんはとても面倒見がよく、家事や洗濯、ご飯の支度など、自分のことは全て後回しにして、両備と両奈の面倒をよく見てくれた。

 

とても優しかった、そんなお姉ちゃんが大好きだった。だから、()()()()()()()()という言葉を聞いて、二人は首を横に振らず、満面な笑みで縦に頷いた。

 

『挑戦させてほしい』というその言葉のその意味は、忍になりたいことだった。

両親と同じ善忍としての道を歩む、それが両姫の願いであり、夢であった。勿論お姉ちゃんが大好きな二人は、反対するわけがなかった。今まで自分のことを後回しにし、夜遅くまでバイトをし、二人に勉強を教えてくれた、母親とも言えるべき両姫の願いを反対するなど、あるわけがない。

寧ろ大好きなお姉ちゃんの夢をいつも応援していた。おやつの時間が月に一回になっても良い、両姫は自分の道を歩んでほしい。

それが、二人の願いだった。そしてその夢が、ようやく叶ったのだ。

 

そしてお姉ちゃんの選んだ道が、死塾月閃女学館。それが両姫が忍になる善忍養成機関育成学校であった。

半蔵学院とは違い忍学生のみのエリート学校。両姫がその道に進めたことは、何よりも嬉しかった。喜びのあまり、二人で抱き合ったこともあった。

そして帰って来た両姫に思いっきり抱きしめた。

 

 

おめでとう、お姉ちゃん。

大好きだよ、お姉ちゃん。

 

 

二人は両姫にそう言った。この気持ちを、言えずにはいられなかったから、この嬉しさを、この大好きな気持ちを……

 

その気持ちに、両姫は余りの嬉しさに涙を流して、二人の頭を優しく撫でてあげた。世界一優しいお姉ちゃん…

 

 

 

 

 

だから、雅緋だけは許せなかった。両姫お姉ちゃんを殺した雅緋だけは絶対に……

 

 

 

ある日、お姉ちゃんの帰りがヤケに遅いので、二人は心配して帰りを待っていた。昨日の夜、お姉ちゃんは言ってた。明日の帰りはかなり遅くなるから待っててね。と…

忍はヒーローと同じみたいで、遅くなることが多いらしい。なんでも、大事な任務があるからだとか……

 

玄関からドアのノックの音と同時にチャイムが鳴った。

二人はやっと帰って来た!と、目を輝かせ玄関に走って行った。しかし、だ…

何か引っかかる、何かおかしい……何だろうこの違和感……

これは、お姉ちゃんか?もし、お姉ちゃんなら、ドアのノックなんてしないし、まずチャイムも鳴らさない。鍵を使って開けば良い話。あのしっかりものの両姫お姉ちゃんが忘れ物なんてしないし、忘れ物なんて一回もしない……仮に忘れていたとしても、普通なら開けてと言えば良いだけの話である。だが、玄関の扉から聞こえてくるのは激しいドアを叩く音、チャイム音…これは、両姫お姉ちゃんじゃない……

一向に止まないチャイムとノックの二つの音の嵐に二人は段々怖くなっていき、体が震えた。

 

 

これはもしかして…(ヴィラン)

 

 

(ヴィラン)は外で暴れるだけでなく、人の家に急に入って来て、なんの理由もなく人を殺すことがあるため、両備と両奈は思わずヴィランだと思い、恐怖を感じた。

 

どうしよう…どうしたら良いんだろう……こんなに怖いと思ったのは三人で夜遅い時間にホラー番組を観た時以来だ。

これが、お姉ちゃんなら……

 

だがその恐怖も、扉越しの声によって消される。

 

 

『すみませ〜ん!両姫のご家族の方はいますか〜?』

 

 

「「!?」」

 

この声は…と、二人は体の震えが一瞬で収まった。聞き覚えのない声、だが…この声の主は少なからずヴィランでないことが判明した。なぜなら、その声の主は両姫と呼んだからだ。お姉ちゃんの両姫という名前は忍名であり、知ってるのは身内の人だけである。だから、知らない人がその名前を知ってるわけがないのだ。

 

二人は勢いよく玄関の方へ走って行った。本当はお姉ちゃんから留守番してる間、チャイムが鳴っても決して開けないでね。と、言いつけられてるが、今はそんな事ではないと二人は直感で判断し勢いよく玄関のドアを開けた。

 

そこには、見知らぬ大人……幼い子供の二人には分からなかったが、その姿は忍装束というものを身に纏った上忍の大人が何人かいたのだ。悪忍…という訳ではなさそうだ…二人は首をかしげると「おお、この二人は間違いない…」「ああ、両姫さんの…」と深刻そうな顔で大人たちは顔を見合わせた。

恐怖から疑問へと一転した二人は、何のことかわからず、ただ首をかしげることしかできなかった。

 

「あの…両姫お姉ちゃんのこと言ってますが……両備たちに何か用でしょうか?」

 

礼儀正しく質問すると、大人たちは両備たちを見てようやく此方に体を向けた。何か嫌な予感がする…だって、両姫お姉ちゃんのことを知ってるのに、姉の姿が見受けられない。何かあったのか……

両備と両奈は恐怖から疑問へと一転し、更に嫌な予感を感知した。

 

 

 

そして、その予想が的中した。

 

 

 

なんと、両姫お姉ちゃんは目を閉じたまま、目覚めなくなってしまった。冷たい白い肌。閉じた瞼、動かない唇、そう…両姫は亡骸となってしまったのだ……

 

 

それを目の前で見た両備と両奈は、信じられなかった。

 

うそだ、ウソだ、嘘だ。

 

 

こんなこと、ある訳がない…だって、そんな……

 

 

 

二人は言葉が出なかった。それと同時に、二人は段々と、姉の死の現実に目の前が真っ暗になった。

 

 

そして……

 

 

「う、うあぁ……お姉……ちゃん………」

 

「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

二人は大声を出して泣き出した。どの位泣いただろうか、一日中泣き止むまでずっと泣いてただろう…

目は赤く腫れ、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになった……

葬式の時は泣かないようにと表には出さなかったが、心の中は悲しみに満ち溢れ、人気のないところでは二人とも顔をくしゃくしゃにして泣いていた。

この悲しみは永遠に晴れることはないだろう……

 

 

悪いのはアイツだ……優しいお姉ちゃんを殺した雅緋が悪いんだ。

 

 

両備と両奈はあの後、月閃の教師である王牌先生から事実を聞いた。

どうやら深淵結界という禁術を使った雅緋が暴走してしまい、姉を殺したとか…

それを聞いた両備と両奈の心には、良からぬ感情が芽生えた。それは、両姫が生きていた頃には無かった感情……

憎悪を募らせた、復讐という感情……

 

 

復讐しよう。雅緋を殺してやろう、だが…ただ殺すだけではない……雅緋には死以上の辛い思いをさせてやろう……そう、雅緋が夢を叶えたその直後、夢を叶えた喜びから、絶望という地獄のどん底に叩き落としてやろう。その為には秘立蛇女子学園に入り、雅緋に近づけなければならなかった。

その為、両姫お姉ちゃんがいた善忍学校、死塾月閃女学館から離れなければならなかったのだ……だから、何も言わずに雪泉たちと別れた。

正直言って、雪泉たちと一緒にいるのは嬉しかった。楽しかった。悪の殲滅…という言葉を除いて……

 

悪の殲滅、その言葉を聞くと何故か知らないがムズムズするのだ…この言葉では言い表せないようなこの気持ち、なんて言えばいいのか分からない。少なからず鬱陶しいと思ったことは何度もある。まあ、事情が事情なので仕方ないが……だから楽しかった仲間たちと別れるのは、胸が痛んだ。

 

月閃から離れた両備と両奈は姉の復讐をする為に蛇女に転入した。そこから、信頼させる為に手合わせしたり、敵連合と漆月の詮索活動をしたり、そして半蔵学院に立ち向かい、雄英高校の生徒たちとも戦った。両備からして特に爆豪に対しては苛立ちの余り殺してやりたいという位、怒りが頂点に達したが……

だが、復讐の為とは言えど少なからず雅緋と一緒に過ごした時間は本物だ。そこには嘘偽りないし、自分でもそれは認める…

何より生と死を分けた戦場のなかで、共に生き抜き戦ってきたのだから……

 

そこには確かに絆はあったのかもしれない……だが、忘れるな。相手は姉を殺したヤツだ。復讐するんだ、殺すんだ……二人は雅緋を恨みながら、武器の手入れをする。

 

そして、両備と両奈は顔を見合わせ、頷いたその途端…

 

 

「両備、両奈、こんな所にいたか」

 

「「!?」」

 

ここに居るはずのない声に、聞き慣れた声に、両備と両奈は驚き、声に出すのを堪えて後ろを振り向く。するとそこには、凛とした表情を浮かべる鈴音先生が立っていた。二人は「なんだ…」と声に出さず心の中の隅っこで呟いた。もしこれが雅緋だったら声を上げてパニックになる所だった。

 

「す、鈴音先生…どうしたんですか?」

 

「焔紅蓮隊がもう時期此処に来ると聞いてな、お前たちの様子を見にきたんだが……準備は怠ってないようだな」

 

「は、はい…」

 

鈴音先生の言葉に二人は浮かない表情を立たせながら、曖昧な返事をした。ハッキリ言って鈴音先生の前では流石に気まずい、この人は蛇女の担任の先生であり、両備たちを鍛え上げてくれた。それは両備や両奈だけでなく、雅緋だってそうだ。

両備と両奈は先生には感謝してる。先生の指導は厳しく、時には死にかけることも多々あったが、それでも此処まで生きていられるのは、雅緋への復讐心だけでなく、先生の教育と訓練のお陰であったのだ。今は伊佐奈が訓練をより厳しくしたため、ついていけれなかった忍学生は多く存在するが……

鈴音先生が訓練を厳しくするのは、愛情を持ってだろう…だって、鈴音先生は厳しい一面はあるが、とても生徒思いであり、根は良い人なのだ。それは元・善忍のためなのか……今は何故か悪忍となって教師を努めてるらしい…理由は分からないが。

だからこそ、気不味く思うのだ。二人は、鈴音先生が最も大切に、親しみを込めてる生徒を、自分たちの仲間として行動して赴いた雅緋を、殺そうとしているのを……

 

「どうだ、雅緋がどんなヤツか分かってきただろう…」

 

「………」

 

「え、ええ…そうですね…」

 

 

その言葉に、二人は冷や汗を垂らしながら目そらす。両奈は無言で視線を逸らし、両備は目を細め、気まずそうに、そう答えた。

正直言って復讐心に囚われてた為なのか、雅緋のことなど余りよく知らない。ただリーダー的な存在で、胸さえなければ完璧に美男と間違えられてしまう程のイケメンで、あとは悪の誇りを取り戻す為しか頭に入ってない……二人はそんな風に思っていた。事実、本当にそれしか知らないのだから。

 

「それなら良かった…流石は選抜メンバーであるだけのことはあるな……お前たちも辛かったろうな…雅緋一人に、辛いことを任せて…」

 

「…えっ?」

 

「辛い…こと?」

 

両備と両奈は目をまん丸として鈴音の言葉を疑った。

辛いこと…?自分で言うのもなんだが、アレだけ自己中だった雅緋が、辛いことがあるだと?記憶の中では余りそういう表情は出してなかったので分からなかったが…

 

「伊佐奈、アイツの行動は雅緋だけでなく私も知っている……」

 

「えっ?ちょっ、なんの話ですか?」

 

「ん?なんだ、お前達まさか聞いてないのか…?伊佐奈のことを…」

 

そして両備と両奈はここで初めて伊佐奈の野望について知ることになる。

伊佐奈は莫大なる金を使って蛇女の生徒を編入させ、使えなくなった忍を殺し、その血を集め兵器を作ってることを、戦争を起こし、忍の社会を崩壊し、蛇女子学園を自分の根城にし新たな改革を築け上げようとしてるのを…

雅緋は、それを一人で何とかしようと、悩みを抱えて生きてきたのだ。雅緋が他人に話さなかったのは、もしかしたら、他の者たちを巻き込ませたくない為だったのかもしれない…もしそうなれば、伊佐奈に反逆しようとする者が出てきて、その者はなす術もなく殺される危険がある、或いは抜忍となってしまうからか……何方にせよ、救済という文字はないだろう…

 

「そんな……アイツが………」

 

「くぅ〜ん…雅緋ちゃんが、そんなこと…」

 

自分たちですら気付かなかった…復讐心に囚われてる余り、雅緋どころか蛇女の現状すら見えていなかったなんて…

復讐の為に蛇女に転入したとはいえ、周りすら見えていなかったことに、自分たちは心の中で反省する。

「でも、何で鈴音先生はそれを知ってて伊佐奈さ…伊佐奈を止めなかったのですか?」と、聞くと、鈴音先生は何でもそのことを上層部に伝える為に言わなかったそうだ。上層部は伊佐奈には少し目を付けていたらしく、鈴音に依頼したそうだ。伊佐奈の行動に調査をしろとのこと…しかし伊佐奈は下忍ならまだしも、上忍や選抜メンバー、そして鈴音には用心深かいそうだ。その為、中々調査が捗らず、手を焼いていたとか、大切な生徒を殺されたことに、鈴音も本当は怒りを燃やしていたのだ。しかし、忍の任務は私怨で動いてはいけない。それが忍の世界だ、その為鈴音先生の行動は流石と言って良いほどだろう。

 

だが、衝撃の真実はこれからだった。

 

「まあ良いだろう……でだ、本題はここからだ。お前達に話しておくべきことがある」

 

「話しておくべきこと?」

 

「ああ、お前達の姉、両姫の死についてだ」

 

「お姉ちゃんの…?」

 

「両姫は雅緋に殺されたのではない…妖魔に殺されたのだ」

 

「妖魔…?何ですかソレは…?」

 

「伊佐奈が作ってる戦争兵器とも言える化け物だ」

 

「……は?」

 

妖魔。そのことについては今ここで初めて聞いた……そんな二人は愕然としていた。

いや、二人は今の会話に完璧についてけれてない。

両備と両奈の聞いた話では、雅緋が両姫を殺した。確かにそう噂を聞いたし、月閃に入って王牌先生にもちゃんと聞いた。

しかし、鈴音先生はこう言った。

 

両姫を殺したのは雅緋ではなく、妖魔という得体の知れない化け物であり、また伊佐奈が造っていると言われるもの……

 

話が矛盾しているではないか…と二人は思うものの、鈴音の言葉にその考えはなくなる。

 

 

「どうして暴走してしまったのかを、雅緋は深淵血塊や妖魔についてその理由をお前達に話したか?」

 

「い、いえ…聞いてません……」

 

「任務の現場に突然、妖魔という化け物が現れて、善忍も悪忍も関係なく殺されていった……そこで、雅緋は自らの命を省みず、深淵血塊というリスクの大きい禁術を発動して妖魔と戦ったのだ」

 

「………待って、それじゃあ…雅緋ちゃんが暴走した時には、両姫お姉ちゃんは既に…妖魔ってのに殺されたの?」

 

「そうだ…」

 

「そんなの嘘よ!」

 

鈴音の告発した真実に、両奈はおそる恐る表情を曇らせ、両備はその真実を否定する。

 

「そんなの…嘘に決まってる!!そんな話し、信じられないわ!だって、私たちが聞いた話に全員、雅緋が殺したって言ってたんですよ!?それなのに何をそんな……そもそも、どうして鈴音先生がその話を知ってるのですか?!」

 

「雅緋が封印した記憶を知るために、催眠療法を行ったことがあるからだ」

 

催眠療法とは、ヒプノセラピーと呼ばれており、最新の心理療法の一つとして取り上げられている。

普段人が閉じている潜在意識の扉を開け、その中に眠る膨大な記憶の中から、必要な記憶をすくい上げ、問題解決や自己成長といったものへ繋げる心理療法である。

一般的に使われてる所もあるらしいが、忍の扱う心理療法、催眠療法は一般人とは並が違う。

 

「なら……どうして、どうしてそんな大事な話を早く言ってくれなかったんですか!?」

 

「伝えれば、お前達は直ぐにでも妖魔へ駆けつけに向かっただろうからな」

 

鈴音の言ってることはごもっともだ…それで自分たち二人はこうして雅緋へ復讐する為に蛇女にやって来たのだから、否定は出来なかった。

 

「そもそも妖魔のことは忍学校を卒業した者にしか教えられない決まりになっているのだ。未熟な忍を、妖魔へ向かせるわけには行かないからな…」

 

もし、未熟なままの両備と両奈が妖魔に会ったとしよう、結果は見えなくもない…言い表せないような残酷な死を迎えるだろう……

なんでも、妖魔は忍の血によって生み出されたモンスターなのだから…

 

「どうして、そんな話を…今ここでするんですか…!!?」

 

両備の言い分は尤もだ。今ここで話さなくても…違う時に話せば良い。鈴音先生は復讐のことなど知らないハズ…

 

「伊佐奈がもう時期戦争を始めようとしてるからだ…妖魔を世界中に売ってな」

 

「なっ…!?」

 

そう、伊佐奈は妖魔をヴィランや闇組織、裏社会に売り込もうとしている。鈴音先生の調べによると、伊佐奈はもう時期各国に妖魔をばら撒き、戦争を起こし、新たな改革を築き上げようとしているのだ。

その為、どうしても両備たちに知らせておきたかったのだ。

 

「選抜メンバーのお前たちにだけ伝えている。他の下忍たちにこのことは伝えれないからな……」

 

そんな…嘘だ……

じゃあ、自分たちの今まで信じて来た道は?復讐は?全て無意味だったのか?

 

今まで雅緋を殺したいとどれほど思ったか…自分たちの姉を殺したヤツが目の前で、ヘラヘラとしているのを見て、湧き上がる殺意を抑え付け、どれ程我慢したことか……

 

「……嘘だ……今更そんな話し…絶対に信じない……信じるものか……!」

 

だが両備は信じるわけにはいかなかった。今の両備たちの生きる道は、復讐という道…仲間を殺し、その後誰かに殺されても別に文句はない…だって、それが自分の生きる目標なのだから……そうやって今まで生きて来た。

 

だが鈴音先生の言葉に、今まで信じてた真実が嘘だと知り、両備たちはただただ苦悩するしかなかった。

 

「仮にそうだとしても……もう手遅れなんだ……!!後戻り出来ないんだ!!」

 

 

両備は憤慨し、目には涙を浮かべた。今更誰かにそんなこと言われても信じない。だって、両姫を殺したのは雅緋なんだ…雅緋なんだ……!!

それを、変えられることは出来ない……もう遅いんだ……

両備はその場を去るように、思いっきり走り出した。

 

「あっ!待って両備ちゃん!」

 

その後ろ姿を、跡を追うように、両奈は妹の背中を見つめ、走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

両備は走り疲れたのだろうか、息を切らして汗を垂らす。頭の中がごちゃ混ぜになってるためか、或いは先ほどの真実がよほど衝撃だった為か、両備の目には大きな迷いが見える。

もし、本当に妖魔という化け物が殺したとしよう…当然普通なら復讐相手は妖魔という化け物になる……だがしかし、妖魔は鈴音先生から聞いたのが初めてである為、遭遇したことがない。まぁ、先ほど鈴音先生からの話からして当然なのだが……

 

では、この復讐はどうすれば良い?普通の周りの人間から見てすれば…『物騒だな、そんなことやめちまえ』『復讐なんてしても良いことは何もない』口を開けば皆んなそればっかだろう……何も知らないくせに、自分たちの大切なものを奪われ、残された人間の気持ちなどいざ知らずに……

 

「両備ちゃん!!」

 

後ろから両奈の呼び声が聞こえた。今まで一心不乱に走っていた為気づかなかったが跡をついて来たらしい…両備は両奈に視線を移すと、両奈も自分と同じく迷いが見える。

 

本当にどうすれば良いのか…と。

 

 

ううん、本当は分かってる……復讐の道に進み、自らの命を落すことなど、お姉ちゃんが望んでるわけないって…でも、どうしてもこの怒りを抑えつけるわけにはいかない……

本当は分かってるんだ……姉の仇、復讐するべき存在は雅緋ではなく、妖魔ということを……

伊佐奈は何でもその姉の仇である妖魔をばら撒こうとしてるらしい。そんなことをすれば、自分と同じ境遇を持つ者や、雪泉たちのような悲しみを生むだろう……

 

だが、雅緋を殺す。と決めてしまった復讐の呪縛が、それを許さない。雅緋を殺せと言っている。

 

 

「両備たちは……どうすれば良いのよ……」

 

 

もう何もかもが滅茶苦茶だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

両備と両奈が涙を流してる時、見知らぬ二人の不慣れな声が聞こえた。

 

(…なに?この声は……)

 

だが、何処か聞いたことのある声…両備と両奈は頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、木々を潜り抜けると、そこには…焔紅蓮隊の抜忍、詠と春花の姿だった。

 

「!?」

 

両備と両奈は、思わず叫びそうになる声を手で抑えつけた。

抜忍…?そんな……そう言えば焔紅蓮隊が来ることは、先ほど鈴音先生と話していてすっかり忘れていた。

 

(そう言えば……もう時期来る頃だって、鈴音先生が来る前に雅緋が言ってたけど……何でよりによってこのタイミングで…!!)

 

良かれ悪かれ、遅かれ早かれ、時はやって来る。両備は思わず最悪な遭遇に心を痛める。出来ればこの気持ちを何とかしたい、更に言えば雅緋に復讐したい。だから今は抜忍狩りとか、そんなことする暇などない……

 

だが、もしここで退いたとしよう…伊佐奈に殺される確率がある。伊佐奈はよく言っていた、俺の命令に従えないヤツは殺す。と……何より抜忍狩りをする理由は、雅緋の夢を叶えたところで、彼女を殺し、夢を叶えてから地獄の底へ落っとこす。姉の苦しみを分からせるためにやるだけであって、真実を知った今、そんな気乗りではなかったのだ。

 

「……両備ちゃん…」

 

両奈は目を細め、訝しげにあの二人を見やる。両奈はなにをすべきかを理解している。両備も腹をくくるしかなかった。

 

(……作戦通り…なんて言わないけど……)

 

両備と両奈の作戦は、抜忍の誰か一人でも倒すことが出来たら、後は雅緋の所へ行き、抜忍を倒したところでトドメを刺す。という作戦だった。

だが今はもう作戦もクソもない…自分がやるべきことは、使命を全うする……

 

そのために、抜忍を処分する。

 

 

 

 

そして、両備は引き金を引いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう回り始めた復讐の歯車は、止められない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在に至った訳だ。

両備は詠に銃口を向け、詠は重々しい大剣を手に持ち構える。

 

「ここは私に任せて、春花さんは…!」

 

「ええ、分かってるわ!私はこの子と遊ばなきゃいけないみたいだし…!」

 

春花も同じく、詠と両備と同じように、両奈はトリガーの二丁拳銃を手に持ち、春花は傀儡衆で購入した最新型の傀儡を使う。木製ではなく、サイバー感ある機会型だ。

一見何ともないように見えるその傀儡には、色んな武器を所持している。

 

「そうはさせない!」

 

だが両備は、スナイパーライフルで春花を撃つべく、背中目掛けて銃弾を飛ばした。当然背中を向けてる春花は反応が取れるわけがなく、避けることは出来ない……しかし、その弾が春花の背中に直撃することはなかった。その代わり、その弾は…

 

「ッ!!」

 

「え?」

 

詠の肩に直撃した。

 

春花を庇うべく、詠は身を呈して背中を預けてる仲間を庇ったのだ。詠の肩から、赤い血が流れ、上半身の緑の安っぽいジャージに、赤く鮮明な血が広がるように染み込む。

 

「なっ…んで…?」

 

「詠ちゃん!」

 

両備は詠の行動に理解できず、春花は撃たれ痛みに苦しむ表情を浮かべる詠を心配する。

 

「だ、大丈夫ですわこれ位……お気になさらず、それより春花さんは…」

 

春花は振り向くと、両奈が二丁拳銃で襲いかかって来た。春花は咄嗟に傀儡を使って盾にし防御して、両奈の攻撃を防いだ。

春花は詠を信じて両奈と対峙する。詠は肩から来る痛みを堪えながらも、闘志を宿した目で両備を睨みつける。

 

「さぁ、やりましょう…!!」

 

「………」

 

詠の覇気のある声に、両備は黙っていた。ただそれは…詠の気力に気圧された訳ではなく、あることに気付いたからだ…

 

「……仲間のために、身を呈して自分を犠牲にするとは……

 

 

本当に腹が立つ」

 

嫌味ったらしいものでも見てるのか、詠の行動に両備は思わず声を漏らした。

 

「どうしてですの?仲間を思いやるのがいけないのですか?」

 

両備の言葉を聞いた詠は抗議する。仲間を思いやることに、苛立つ両備に詠はそう言った。

 

「そうよ…本当にタチが悪いわ!あなたは自分のことなど省みず、人に優しく接するのでしょう…!?」

 

「…ッ」

 

何故それを?とまでは言わなかった。実際自分では言わないため頷くことは出来なかったが、詠は他人には優しい人だ。特に貧民街で恵まれない子供達になど、蛇女にいた頃は寄付をしていた。

それだけでなく、詠は仲間を大切に思いやる根の良い子だ。だから両備の言葉は間違っていない。

 

「そうやって、突然目の前からいなくなるのよ!残された人間の気持ちも考えずに!!そんなの勝手すぎると思わないの!?」

 

「……あなた、一体誰のことを言ってますの…?」

 

詠には分からない…両備の言ってるその人が、大好きな両姫お姉ちゃんの事だということを……

 

「うるさい…うるさい五月蝿い!!」

 

ごちゃついてるなか、自分自身訳が分からなくなってしまい、どうすることも出来なくなっていた。無理やり心に復讐を抑えつけ、抜忍を狩ろうとするも、目の前には…

 

 

「お前を見てると、お姉ちゃんのことを思い出す……!!」

 

 

両姫とそっくりな詠。

 

「お姉ちゃん…?伊佐奈に洗脳されても、家族のことはちゃんと覚えてるんですね」

 

「クソッ!黙れ!!だまれ黙れ黙れ!!!!」

 

心の底から湧き上がる怒りを露わにし、拳を強く握りしめる。

やっと決心したのに、自分の目の前にはお姉ちゃんに似ている詠がいる。両備の目から一筋の涙が流れた。

 

「……お前だ、お前が悪い……お姉ちゃんを思い出させるお前が……憎くてどうしようもない!!

 

 

お姉ちゃんを思い出させるお前は、今日ここで始末する!!」

 

お姉ちゃんが大好きだからこそ、死んだ悲しみは大きい。

お姉ちゃんを思い出させると同時に、今の両備は悲しみを生み出すのと同じこと…

 

 

復讐に焦がれた姉妹は、復讐から暴走へと変わった。

そんな両備に、詠は無言で彼女をジッと見つめていた。

 

「…なるほど、事情は分かりました。何やら訳ありのようですね…」

 

「分かりました、行き場のない思いなら…私が全力で受け止めてあげましょう!」

 

暴走する復讐心、回り始めた歯車を、詠は全力で受け止めるべく、両備に刃先を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして天守閣の中、伊佐奈は自分の部屋に戻り、窓越しから皆の闘いを見下ろしていた。

 

「とっとと働け雑魚共…」




復讐に身を焦がした姉妹、そして詠は両備を止められるか?
それはそうと両備の心境を考えると、両備ってある意味ヒロアカの光汰くんに似てるんですよね。復讐を除いて…そう考えると、両備と光汰もある意味似た者同士なんだなぁ〜って思います。

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