光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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はい、この話しはちょいと衝撃的な設定があります。重要なことなので、よぉ〜〜く見ておくんだよ。


60話「焔の決意」

「いやぁ〜!強かったなあ〜」

 

月閃と戦い終わった飛鳥は、屋上で太陽の光を浴びながら背伸びした。飛鳥にとって元気の源は太陽の光だ。彼女はそんなお日様を見て思わず笑みを浮かべる。

雪泉に負けたのは悔しかった。どうしても勝ちたかった…だが、雪泉たちの心が変わっていたのならそれはそれで良かった…元は負けられない理由は、学校を守るためでもあったが、もう一つは雪泉たちを救うためであった。悪の憎しみに囚われた彼女たちを救けるためにもどうしても負けられなかった…しかし、雪泉たちは何があったのか知らないが、悪に対する憎しみが無くなっていたのだ。あの一週間で一体なにがあったのかは知らない…でも、これで良かったのだと思う…学校も失わず、雪泉たちの心は救われ、最強の友達ができた……この日でこれ以上嬉しいことはそうそうない。だから飛鳥は、負けてもそこまで落ち込むことはなかった。負けたのなら今度は負けないくらい修行を積めばいい。雪泉や焔、雅緋にも負けないくらい、修行を積めばいい…強くなればいい。

 

「あれ?雪泉ちゃん達の戦いで夢中になってて忘れてたけど…焔ちゃんたちはどうしたんだろ?」

 

焔紅蓮隊がそう簡単にやられるとは思ってない。だが、雅緋たちも強い。お互い何方が勝ってもおかしくない…だからこそ不安なのだ…心配なのだ……

 

大丈夫だよね…と、そう心の中で言い聞かせた途端、後ろの扉が開く音がした。振り返るとそこには、半蔵学院の四人…ではなく、血相を変えた飯田だった。後ろの方では、緑谷と轟がいる。どうしたんだ?と聞くと…

 

「すまない…飛鳥くんたちに皆んな…俺は帰らせてもらう…」

 

「あっ、丁度よかったよ…僕たちも今帰ろっかって話してたところだし…」

 

「そうか…なら良かったが…では俺は一刻も早く帰らせてもらう!」

 

飯田の表情、その焦り声に遠くで聞いてた飛鳥も「珍しいな」と首をかしげた。そんなに慌ててどうしたのだろうか…轟が「そんなに焦ってどうした?」と聞くと…信じられない言葉が彼の口から出て来た。

 

 

 

「俺の兄さんが…ヴィランに…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所変わり…焔紅蓮隊たちは…完全に復興させた新・秘立蛇女子学園の校舎を見上げていた。そびえ立つその天守閣…そして中からは物騒な気配が放たれている。

 

「ここか…『旋風』と『鈴音先生』の言ってた通り、中からはかなり嫌な気配が放たれてるな…」

 

焔紅蓮隊リーダー筆頭の焔が口を開く。

 

「ええ…そうですわね……感じたことのない気配を感じるのは気のせいでしょうか?」

 

ここでお淑やかな性格をした、お嬢様口調のもやし大好き100%、詠も焔の横にたち口を開いた。

 

「いや、これ気のせいじゃないで…」

 

「やっぱりあの噂は本当なんだね…」

 

感情ないと言いながらも実は感情あるのでは?と疑われている日影と、幼い子供と見間違えられる未来は、訝しげに天守閣を見上げる。

 

「ええ…『妖魔』を売ってるって話ね」

 

同じくマッドサイエンティスト、春花も…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは一週間前、飛鳥と共に修行をし終わった後、買い物に行ってアジトへ帰ったある日のこと…

焔は久しぶりにバイトの収入が入ったため、夕食の食材を買うべく買い物に行った。因みに焔が働いてるのは引越し屋のバイト…バイトの場所では皆一般人のため、個性を持ってる人は当然だ。やはり不慣れな場所は好きじゃない…別に嫌いというわけではないのだが、焔は忍であり個性がない。忍の者は個性という人間が持つ能力の代わりに、忍は忍法と言った力を持っているのだ…

忍術、召喚術、瞳術、傀儡の術、他にも焔のように炎を出したり、雪泉のように氷風を出したり…遁術だってそうだ。忍が持つ力は特別な力…その特別な力によって個性が発現しないのだ。その力が強かれ弱かれ関係ない…忍の家系は数知れず、世界中には何万も何百万もの家系が存在するのだ。とにかく、忍の忍法も、個性と余り変わらないものだ。そのため…焔は忍法を個性と言い過ごしてきた。でなければこの先やっていけない。きっと他の忍たちもそうだろう…

 

 

焔は食材などいっぱい入ったビニール袋を手に持ちながら、アジトへ帰っていくと、ふと何者かの視線を感じた。気配は全くない…だがこの独特とした感じは…気配を消している。

 

(この気配は……やはり忍か…)

 

焔たちは抜忍となった後、忍に追われる身になったのだ。そのため、いつ何処で誰が見てるのか分からないし、油断をすれば死ぬことなど戦場と同じ…それは焔だけでなく、詠、日影、未来、春花も同じだ。

抜忍というのは忍の世界から追放された者…または裏切りや反逆、違法を犯した者のことだ。

即ちヒーロー側で言うヴィランと同じ存在だ。そんな風に見られたり扱われても、私は別に文句はないし構わない。自分のやったことに悔いはないし、間違ってるとも思ってない…寧ろ正しいことだと思っているから。

 

焔はその路とは違う角へと曲がった。そして静かに身を潜める。相手は此方に近づいて来てる。気配を感じるあまり未熟者…下忍と言ったところだろうか……この忍の気配は独特とした感じに漏れていて、逆に分かりやすい…だがまあ悪くはない…100歩譲って良しとしよう…しかしだ…殺気があふれでんばかりに漏れている。殺気とは、気配を消すように隠すものだ。殺気が漏れていては意味がない。今の忍学生はどうなってるんだ…と逆にこっちから乗り込んで言ってやりたいくらいだ。振り切れるものなら振り切れるが、私の命を狙うものなら誰であろうと容赦はしない…相手にしないこそ、逆に失礼だ。だから、私は…隠れるのをやめて堂々と姿を現した。

 

「忍の者だと言うのは分かっている。さっさと出てこい」

 

そういうと…物陰から忍学生が姿を現した。見た限り一年生…蛇女子学園の者だった。蛇女子の制服を着ているので、見ただけで直ぐに分かった。それにしても、と焔はこんな状況のなか、思ったことが一つ…それは、

 

 

この少女、何処かで見たことがある。

 

 

そう思ったのだ。よく見てみると見覚えのある顔だ……そう思ってると一人の少女は刀を取り出す。

 

「さすがと言ったところか…抜忍の焔…」

 

「一人で抜忍狩りか?」

 

「ああ、私は旋風…蛇女の学生だ」

 

旋風は怒りに燃えた目で、いきなり忍者刀で突いてきた。

 

「『()()()』の仇!焔、死ね!」

 

 

兄さん…兄の仇、その言葉に私は全て理解した。そう、脳裏に浮かぶは…思い出したくもないヤツの顔。

 

 

()()()だ、旋風の妹はアイツだ。

 

あいつの妹が私の首を狙ってやって来たのだ。

 

旋風の忍者刀による突きは鋭かった。だがそれはあくまで学生レベルの話…私は刀を抜くともなく、旋風の切っ先を難なくかわす。

 

「くっ!なんでだ!?」

 

なんで?

逆に聞くが、なんでこの腕っぷしで私を殺れると思ったんだ?本気で私を殺せるとでも思っていたのか…?その程度の実力では、何百回やっても、私には傷をつけるどころか、掠りもしない。

私は旋風の背中に回ると、延髄に手刀を軽く入れた。

「あっ!」

と旋風は弱々しい声を残して路上に倒れた。まるでよく漫画やテレビでやる、首を軽くトンと叩いただけで気絶した…に近い感じだった。実際気絶はしていない。

 

「お前…『()()』の妹だな?」

 

焔は旋風に近づき、見下ろしながらそう言うと、彼女は悔しそうに唇を噛み締めながら、鋭い眼光で焔を睨みつけた。

 

 

 

小路、まさかその名前をまた口にするなんて……思い出したくもないものだ……

何にせよ、アイツのせいで自分の人生を狂わせられたのだから…

 

 

小路の妹が蛇女に編入予定だったのは知っていた。まだ蛇女にいたころ、中達入学者の書類チェックも、筆頭の役目だったから…しかしこうして私は今抜忍となったので結局当たることはなかったが…まさか此処で、こうして会うとは…まあ、抜忍となったため仕方ないか…

 

「焔、お前のせいで……私の兄さんは…悪忍を追われたんだ…!!」

 

旋風は立ち上がると忍者刀を構えた。その目には消えることのない激しい憎しみがこもっている。

とは言え、もはや実力は完全に見切った。この勝負は私の勝ちだ。今の旋風の実力では決して、私を傷つけることなんて出来ないのだから…あの雄英高校の生徒たちにも傷一つ付けられないだろう…

 

「中学生の女子にやられ、任務を失敗したようでは忍も務まるまい……で?アイツは今どこだ?何をしている?」

 

私の質問に、旋風は歯軋りした。

 

「今は…貧民街にいる……」

 

「そうか…私の仲間、詠が貧民街の生まれだが、あそこは中々どうして住めば都らしいぞ。街の人たちは優しいし……」

 

そういえば、貧民街はどうやら都市再開発計画をするとか言っていたが…大丈夫なのだろうか?詠からその話はまだ聞いていないが…

 

「ふざけるな!」

 

旋風は怒気を孕んだ声で焔の言葉を遮った。

 

「兄さんのことだけじゃない!!お前は自分のわがままを通す為に蛇女を捨てたんだ!」

 

……確かに私は自らの意思で蛇女を去った。捨てた、と言われても仕方がないのかもしれない。だがさっきも言った通り、誰に何をどのように言われても悔いはない、自分で正しいことをしたまでなのだから…

 

「ふむ、お前の怒りは分かる。だが、兄貴の仇を討つにはまだまだ力不足のようだな。もっと蛇女で鍛えてこい」

 

私は背を向けその場を去ることにした。小路に対しては悔いはないし悪いとは思わない…

ただ、妹が兄貴の敵討ちをしたいというのならいつでも受けて立つ。まあ、負けるなんて微塵も思ってもいないが。

焔はため息をつき帰ろうとすると、旋風の声が背中から聞こえた。

 

「焔、今のお前の生き方は…本当にお前が望んだものなのか?……忍ですらないのに…お前は…お前は本当にこれでいいと思ってるのか?」

 

ピタッ!と、焔は足を止めた。旋風の言葉に、心の何処かにその言葉が突き刺したのだ。抜忍の道は思っていたよりも厳しい…迫ってくる忍から常に身を守り、食料を調達するべくアルバイト生活を送ったりなどと、色々と忙しい。そのため今までそんなこと考えてもいなかった……今の自分に満足している。と言えば嘘になる…今の私には信念を貫く道がない。

 

「私だって強くなりたいさ!強くなってお前を倒したい!……だが、()の蛇女では強くなれないんだ…強くなれないどころか、下手をすれば殺される……」

 

「おい待て、それはどういう意味だ?」

 

今の?殺される?鈴音先生は蛇女に残ってるはずだ。もう道元も存在しない今、蛇女は立派な悪忍養成学校のハズ…鈴音先生が物騒なことをするのはまずあり得ない。元より善忍だ……道元なら話は別だ…更に言えば叩き斬ってやるところだ。

 

「蛇女は…出資者の『伊佐奈』によって支配され、洗脳されてるんだ……」

 

伊佐奈?聞いたことのない名前だ…道元がいなくなった後の、新たな出資者か?随分とまた物騒な輩だな…と私は心の中でそう思った。

 

「詳しく話してみろ」

 

「私も詳しくは分からない、しかし、とにかく皆んな変なんだ…こないだまでマトモだった人たちが、兵器が妖魔だのとか戦争がどうなのとか、社会を壊すのとか、新たな改革が必要だのとか、ブツブツと呟いているんだ」

 

兵器?

戦争?

社会を壊す?

新たな改革?

 

妖魔?妖魔といえば、かつて古くから存在したあの怨楼血のことか…道元が復活したとのことだそうだが…

だが確かに私が前にいた蛇女とは違う。だが、妖魔、兵器、戦争…社会を壊す、そして新たな革命……なるほど…道元並みにタチが悪いようだ。

 

「雅緋は承知の上でやってるのか?」

 

「それはまだ分からない…聞き出す時間もないし…ああ、あとそうだ!もう一つ思い出した!お前たち焔紅蓮隊を捕獲しろという命令があったんだ!」

 

「…なに?」

 

私たちの捕獲?処分ならまだしも、捕獲だと?一体なぜそんなことを…

考えても分かるわけがない。心当たりがなければ、当然分かるはずがない。聞けば聞くほど謎が深まる。

 

伊佐奈…一体何者なんだ?本当なら今すぐ突っ込んでやりたいが、策や準備もしてない、何より体力が残ってない…充分な情報だってない、そんな状態のまま突っ込んではダメだ、無謀すぎる。それに情報が不十分すぎる。

 

 

「よく分からんが…旋風、抜忍となった私が言える立場ではないが、お前も蛇女の生徒なら、蛇女のことを思うのなら、蛇女について詳しく調べてくれ、その情報を私に聞かせてくれ」

 

「なんだと!?抜忍であるお前が、蛇女を捨てたお前が今更何を言う!」

 

「旋風!!!」

 

「っ!」

 

焔の覇気を孕んだ一喝に、旋風は思わず腰が抜けそうになった。なんとか耐えたものの、体の震えは僅かでありながら止まらない。

 

「いいか、よく聞け…上層部や本部、そして出資者や上の者から下された任務に従うのは、忍の生き方として当然だ…間違いだなんて言わない…だが!!上層部に誰か一人でもそんな腐ってるヤツがいれば、私みたいに抜忍になるヤツだっているんだ!少なくとも、道元というヤツはそうだった…」

 

自分の野望の為に蛇女を利用し、使い捨ての駒のように捨てた…そんなヤツがいるから、私たちみたいな悲劇を生んでしまうんだ…それだけはもう何があっても、二度と起きてはならない。それだけは絶対にあってはならないんだ。

 

「また、蛇女が酷い目にあうぞ…下手すれば今度こそ、蛇女子学園は崩壊し、二度と生まれ変わらないだろうな…

だから、それを止める為にも…お前の力が必要なんだ。本当に蛇女を語るなら、想うなら、生徒なら……な」

 

焔はそう言うと、「待ってるぞ」と言葉を残し、歩みを止めてた足を再び動かし、その場を去っていった。旋風は焔の背中を、歯を食いしばりながら見つめることしか出来なかった。

 

 

なんなんだ、アイツは……

アイツは兄さんを傷つけたんだ…

 

 

 

私はアイツを殺すんだ。

 

 

 

それなのに…何で私は……

 

アイツの言葉に……ここまで心が動かされるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃蛇女子学園では…

雅緋は、過酷な訓練を受けボロボロになって倒れてる一人の忍学生を肩に背負い、出資者、伊佐奈がいる部屋に入り込む。伊佐奈は背を向けており、新聞を読んでいる。雅緋が口を開くも見向きもしない。

 

「失礼しました……」

 

伝えることを話した雅緋は軽く頭を下げ、扉を開け、去っていく。部屋から出た雅緋は、扉越しの伊佐奈を思いっきし睨みつける。その目には憤怒と殺意を蓄えた目で…

 

「あの、化け物め…!!」

 

忌々しく、伊佐奈が聞こえないレベルの小声でそう言った。

 

 

 

 

 

「す、すみません……伊佐奈様……体が……もう………言うこと聞かなくて……」

 

忍の訓練についてけれなかった忍学生は、体がボロボロで、傷だらけだ。もはや立ち上がる力すら持っていない。何とも可哀想な忍学生のことか…忍の訓練が過酷になったのも、原因は伊佐奈にあった。なんでも今のままでは雅緋の言う悪の誇りを取り戻せない。と言う理由で訓練をより過酷にしたとか…いや、違う…理由は別にもう一つあった。それは、己の野望の為でもある……

伊佐奈は読んでた新聞を机の上に置くと、水族館をモチーフにしたヘルメットを取り外す。

そして──

 

 

「そうか……

 

 

 

 

使えねえな」

 

 

刹那。異形な化け物の姿に変え、全てを飲み込むかのように広がる大きな口が、その忍学生に襲いかかる。

 

「えっ…?あっ、……っ!!!!」

 

叫びも届かず、悲鳴をあげる寸前、その少女はその口に襲われ、この部屋だけが、血の海と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから日にちが経つにつれ、焔と旋風の接触は一向に多くなって来た。それが良いのか悪いのかと言ったら、よく分からない。旋風は焔を殺そうとするべく、人気のないところで待ち伏せし殺そうとするも空振りに終わったり、更にはアジトに潜入し、食料に毒物を盛るも見破られ、更には寝ている間に忍者刀で刺そうとするも当たらず、終いには爆弾をアジトに設置して爆殺させようとするもこれもまた毒物と同じく見破られ、結局言葉通り、焔を殺すことは敵わなかった。焔はまるで旋風の行動を知ってるかのように、予知でも見てるのか?と疑問を抱いてしまうほどだった。「いっそのこと私を殺せ!」と涙を流して逆に頼むくらいだが、焔は気にしてないようで殺さない。これもまた旋風の導火線に火がつくのだが……

 

そんなやりとりをして一週間が経とうとしたある日のこと…旋風から連絡があったのだ。何でも伊佐奈は焔紅蓮隊をどうしても蛇女に入れたいとか…

それと、根本的に活動して来たようだ…何でも学炎祭やら何やらと計画を立てたり、闇市場との交流があったり、闇アイテムを購入しているとか…

闇アイテムは蛇女なら問題ない。蛇女は悪忍養成機関、違法を犯したりするのが当然であり、また悪は善よりも寛大とのこと…どんなことをしても許されるのだ。だからそこについては余り触れなかったのだが……ここで、とんでもない事実が突き立てられた。これは蛇女の忍学生には誰も知らされてないのだが、何でもあの妖魔を兵器として売ってるそうだ。旋風は下忍…そのため伊佐奈は選抜メンバー以外の忍学生は興味もなく見てないため、旋風は簡単に調査することが出来たそうだ。まさか、今の蛇女はこんなにも腐敗していたとは……雅緋は悪の誇りとかなんとか言っていたが…これが悪の誇りなのか?これが雅緋の求めてた悪の誇りか?疑問が浮かび上がるにつれ、怒りを覚える。

何でも伊佐奈に歯向かえば躊躇なく殺されたりするらしい…そして使えなくなった忍はどうされたのか分からないが、近々減ってってるらしい、更には金を使って蛇女に生徒を編入させるなど、とにかく正気の沙汰ではない。伊佐奈のやり方に、焔は心の底から炎が浮かび上がるかのように熱くなっていた。まるで道元だ…いや、それ以上だ…これが今の蛇女だと思うと、心が痛くなる。

旋風から連絡を受けた焔たち紅蓮隊は、蛇女に乗り込むべく準備を整える。武器の手入れ、他にも必要なものは何でも持っていく。

 

 

焔もひと準備しようと思ったその矢先だった。

 

 

「成長したな、焔」

 

 

聞いたことのある声が聞こえた。感じたことのあるこの懐かしい気配。間違いない、この人は…

 

 

「鈴音先生!?」

 

突然声をかけられ振り向くと、そこには確かにいた。死んだと思われてた鈴音先生が……蛇女は今も健在してると言うので生きてるとは思っていたが、確かな確信もなく、また会ってなかったので曖昧だったのだが……

話に聞くと、鈴音先生は蛇女を助けるべく、道元と共に道連れの道を選んだ。

 

「伊佐奈のことについては聞きました…なんでも、妖魔を戦争の兵器として売ってるとか…」

 

「よく調べたな…そうだ、私はお前たちにそのことを伝えるためやって来たんだ」

 

妖魔…それが一体なんなのかは分からない。しかし、妖魔とはあの怨楼血のような化け物のことを言うのだろう…あんなものが何体も戦争の兵器にされたりしたら、ひとたまりも無い。鈴音は焔が事情を知ってることに安心したような表情を浮かべる。

 

 

「それよりどうだ?抜忍の生活は…」

 

 

鈴音は懐かしき生徒を見つめ質問する。その言葉に焔は口をもごもごとさせたまま、何も答えなかった。これで本当に良かったのか…自分の選んだ道が正しかったのかと悩んでしまう。

確かにあの時のことは悔いはないし、間違ってるとは思わない…それだけは今ハッキリと言える。しかし、その後はどうだ?旋風も言っていたが、これが自分の求めた道か?と聞かれると、頷くことは出来ない。

 

抜忍になれば、命令に従われることなく、自由に好きなことができる。いわばヴィランや抜忍の漆月と同じようなことだ。

………そんな開放的な気持ちになったのも最初だけだった。

 

バイトで生活費を稼いでる私たちは、果たして忍と言えるのだろうか?忍養成学校を辞めてしまった者に、忍の仕事が回ってくるわけでもない。隠れ家も数ヶ月ごとに変えなければならないし、場合によっては数日で変えなくてはならない。かつての仲間に追われ、戦いになることもある。安住の地など、夢のまた夢だ。そう考えると、ヴィランや漆月の立場も、少しは分かるような気がする。

 

どうしても忍のような仕事をしたければ、裏社会の中でも、更に汚い案件に手を染めることになる。そして、そんな汚い仕事の報酬は、仲間たち五人全員の数ヶ月分のバイト代よりも遥かに高いだろう。

裏の汚い仕事をこなし、それなりの報酬を得る。もしかしたら、そのほうが自分たちが忍であることを実感出来るかもしれない。

 

……しかし、だ。

 

そんな生活に誇りはあるのだろうか?私は自分の誇りを守る為、道元を斬り、蛇女を去ろうと決めたのだ。

もしそんなことをすれば、私たちの誇りは無くなってしまう……

それこそ、私たちは漆月や敵連合と変わらないものだ。それこそ、ヴィランも私たちと変わらない。と言われても何も言い返せれない。私たちはアイツらじゃない。

出来ることなら、忍の誇りを持って生きていきたい。

そうやって生きていられるのなら、私は命を賭けて戦う事が出来るのに……

 

 

「どうした焔。そんな顔では、これからの戦いに勝てないぞ?」

 

ふと、鈴音先生が口を開いた。私の悩みが顔に出ていたらしい。なるべく表に出さないようにしていたのだが…鈴音先生は全てお見通しのようだ。

 

「伊佐奈…と、蛇女の戦いですね」

 

「それだけか?」

 

「え?」

 

鈴音の言葉に、焔は思わず目を丸くする。それだけ?いや、蛇女との戦いが終わったら、次のバイトを探すだけだ。特にこれといった目標はない。

 

「焔…怨楼血は見ただろ?」

 

「はい…」

 

「では、怨楼血とはなんだ?」

 

「妖魔という化け物…ですよね?」

 

「では、妖魔とはなんだ?」

 

私は答えられなくなってしまった…そう言われてみれば、妖魔について深く考えた事がなかった。

 

「本来なら、忍学校を卒業した者にしか話してはならんが、まあ良い…抜忍なら問題ないだろう」

 

そして鈴音先生は真剣な顔立ちで話してくれた。妖魔について…

 

妖魔とは、多くの忍の血で生まれた、膿のようなものである。かつて、あらゆる災厄を引き起こした古の妖魔『心』なんかもそうらしい。忍学校を卒業した一流の忍たちやヒーローからも、ただの噂話、または都市伝説なんかと言われている程の化け物らしい…その気になればこの世界そのものを滅ぼしかねない…と。

しかし、古の妖魔『心』を討ち取った存在がいたという…

その化け物じみた忍は、半蔵をも超える程だったらしい…なんでも戦った際に、現実に引き戻し、災厄が起きたとか…

 

それでも妖魔は存在する。妖魔を倒す。善忍と悪忍が、忍が今も存在するのは、その為だ。

 

まさかそんな事があったなんて…鈴音先生の言葉に、なぜか全身の血が滾ってきた。

 

 

「その忍は、世界を救ったのですね?」

 

「その通りだ、そして…最前線で妖魔と戦う忍集団を、『カグラ』と呼ぶ」

 

カグラ。その称号を持つ者こそが、妖魔を滅する唯一の存在。カグラとは、善忍、悪忍、抜忍問わずなれるらしい、なるには、ただ最強という証を待つのみだとか……シンを滅ぼしたカグラと呼ばれる忍…私もソイツと是非一度手合わせ願いたいものだ。因みに、妖魔を倒す者は忍であろうと、抜忍であろうとも、ヒーローであろうとも関係ないらしい……いわゆるヴィランのような対象を取っても良いとのこと…

 

「して、そのカグラと呼ばれた者はどうして?」

 

「……死んだ、いや…殺された。と言った方が良いか…」

 

「え?」

 

その言葉に、焔は呆気を取られた。まさか…古の妖魔『心』を滅ぼした忍を殺した者がいるなんて…上には上がいるというが……これはもうそんな言葉に表せるようなものではない。

 

カグラの称号を殺した者…

 

「ソイツの名前は…?」

 

「『()()』だ」

 

神威?なんだそれは?そんな者が存在するのか?

 

「神威と呼ばれる者は、多くの忍とヒーローを殺害し、(シン)のように、あらゆる災厄を起こした者だと、今でも語り継がれている……」

 

忍とヒーロー、そしてありとあらゆる災厄を招き、人間を、忍を凌駕した危険人物、そのことから上層部たちはソイツを『神威』と呼んでた。現在は姿を現さない為、封印されたか…或いは滅んだか…何方にせよ、上層部たちは『神威』は滅んだ。と言っている。何より今平和であるのがその証拠……それもそうだ、もし神威と呼ばれる者が生きてるのなら、今頃どうなってるのやら…想像出来ない。

自分たちの知らない間にそんなことがあったなど…思いもしなかった。そして更に神威は、そのカグラと呼ばれた忍と戦い追い詰められたとも言っている。

 

 

「焔、私はなぜ善忍から悪忍になったと思う?」

 

「え?」

 

 

突然話が変わった…そういえば、聞いたことがなかった。昔は半蔵学院の生徒だったということは知っていたが、何故悪忍になったのか、詳しくは知らなかった。何でも本当の強さは悪忍にこそあるとか言っていたが…違うのだろうか?

 

「私は、善忍だった頃…ある重要な任務に赴いたんだ」

 

「重要な任務?」

 

鈴音が善忍だった頃に受けてた任務、その任務は霧夜先生に止められたらしい…だが、鈴音は絶対に成し遂げてみせると言い、霧夜は彼女を信じ、行かせたとのこと…その任務は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『神威』の討伐だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?!」

 

先ほど話した、災厄を司る忍を凌駕した化け物…鈴音はその討伐に赴いたらしい…だから、神威という存在を知っていたのか…いや、鈴音先生の実力なら納得がいく。

 

「だが、ほぼ再起不能にされてしまった……その時には確か『()()』という忍もいたな…」

 

神威。一体何者なのだろうか…少なくとも私では歯が立たないだろう…

ただでさえ鈴音先生が再起不能にさせる程だ…今の私では返り討ちどころか、本当に殺されるだろう。

 

「私は神威に為すすべもなくやられ、虫の息になりながらも、なんとか一命を取りとめた……が、もう昔のように忍として戦うことは出来ない…そう言われてな。その際私を助けてくれた、『雅緋の父親』が蛇女の教師をやらないか?と言われてな…」

 

「なっ、雅緋の父が!?」

 

これもまた驚いた。まさか雅緋の父親が出てくるとは…雅緋の父親は忍の世界でもかなり有名であり、またかなり腕が立つとか……雅緋の父はなんでも、蛇女の学園長をやってるとか…しかし、そんなあの人までも神威には対抗できなかったそうだ。

 

「私は何度泣いたか……二度と忍の道を歩むことが出来ない…何よりも霧夜先生にも会えない…とな」

 

鈴音のその目には、少し目が潤っていた。悲しみを思い出すかのようなその目、焔は初めて鈴音先生の意外な一面を目の当たりにした。

 

「まさか…そんなことが…」

 

「焔…今のお前は抜忍だ。だが、今私と話して、何か思うことはあるか?」

 

「思うこと…?」

 

なんだろう…答えが分かってるようで、分かってないようで…でも、見つけられそうなこの感覚……

そんな焔に、鈴音はこういった。

 

 

「私は蛇女の教師…だが、私は妖魔と戦いたいというやつの仲間だ。ソイツと一緒に戦う…お前はどうだ?」

 

 

その言葉に、焔は鈴音の言ってることがようやく理解できた。つまり…

 

 

「焔…カグラとなれ」

 

 

そういうことだ。その言葉を聞いた途端、私の血は滾り、全身に力が入ったような感覚が研ぎ澄まされた。

 

カグラ。その忍こそ妖魔を滅する存在であり、忍の象徴に近づく存在。この溢れてくる高揚感、この漲ってくる闘志、焔は不敵な笑みで鈴音先生を見つめる。

 

「私の道…それは、カグラを目指す!」

 

決意を決めた焔の言葉に、鈴音先生は軽い笑みを浮かべる。

 

 

そうだ、これだ…何を悶々としていたのだろう……今まで迷っていたことが、悩んでいたことが、全て吹っ切れた。たった一つの揺るぎない信念の道を見つけた今の私なら、誰にも倒されない気がして来た、

 

「だが、カグラへの道は険しいぞ…?思っただけでそう簡単になれるものではない。お前にカグラへの可能性があるとすれば……何か分かるか?」

 

 

妖魔の売買、蛇女の支配者、伊佐奈を止めること。どんなやつかは知らないが…少なくとも道元のような人の道を外した外道だということは分かる。

 

「伊佐奈の野望を阻止して、今の蛇女を救う!!」

 

伊佐奈によって洗脳された蛇女の生徒たち、そして雅緋率いる選抜メンバーとの戦闘も絶対避けられないだろう…伊佐奈を倒す前に、まずは雅緋たち…と言ったところか。

 

 

「雅緋も大切な生徒だ…だからこそ、間違った道を正さなければならない。だがそれが唯一出来るのはお前だ焔。いや、お前でなければ意味がない」

 

鈴音先生は意味深くそう言うと、「お前たちの戦い、しかと見届けさせてもらうぞ…では、さらばだ」と言い去って行った。焔はその場でポツンと一人で立っていながら、一呼吸する。

鈴音先生との話をして、頭の中がごちゃついてる、新事実が出て来たり、自分の信念の道が出て来たり…

 

 

「さて、皆んなを連れて行くか…」

 

 

これが、蛇女に乗り込むまでの出来事だったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んで現在。焔はこうして蛇女子学園の前にいるのだ。

 

「それにしても、ここまで再建してるなんてビックリね、私たちが前にいた時とはほぼ変わらないじゃない」

 

春花は改めてそびえ立つ天守閣、そして校舎を隅々まで見渡す。

 

「しかし、見た目は元どおりになっても、内情が酷ければ元も子もありません…」

 

詠の言葉に全員が頷いた。正にその通りだ、今の蛇女は誇りを取り戻すどころか、蛇女は腐敗し、忍の道を外している。そんなことあってはならないし、許されるはずがない。

 

「さぁ…行くぞ!」

 

 

私が声を上げた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と仲が良いんだな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?!」」」」」

 

聞いたことのない声が、五人の耳に聞こえた。校門の出入り口から姿を現したのは、ヘルメットにぶ厚い灰色のコートを着用した一人の男、出資者と思われる人物…伊佐奈だった。

 

焔たちは突然伊佐奈が現れたことに驚きの様子を見せるものの、この男が出資者なのだと直ぐに気づいた。

 

 

「写真で見たことはあるが、こうして逢うのは初めてだな。まさかお前たち焔紅蓮隊の方から来てくれるとは驚いた。逢えて嬉しいな」

 

「お前が…伊佐奈か…」

 

「まさか俺のことを知ってくれてるとはな…話す手間が省けた」

 

 

焔は伊佐奈に鋭い目つきで睨みつける。焔の目つきを気にすることもなく、伊佐奈は悠々と歩き話し出す。

 

 

 

 

「知ってるなら話は早い、改めて言おう焔…いや、お前たち…

焔紅蓮隊よ、蛇女に入り全員俺の部下になれ」

 

 

 

悪と悪の激突。




とうとうここまで来たあああぁぁぁぁぁぁ!!伊佐奈!逢えて嬉しいよ!こんにちは!初めましてって人もいるから教えてあげて!丑三つ時水族館の館長さん!あなたは逢魔ヶ時動物園から出てきたんだよ!そして今は…!!?

「煩え、雑魚はさっさと働け」

すいません。

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