光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

60 / 253
今思ったことなんですが、言い忘れてました。余談ですけど、当たり前ですけど、漆月は敵連合のボス、『あのお方』のことを先生と呼んでいましたね?アレは実際、死柄木に似せるとか、そういうのじゃなくて、『名前』が分からないため漆月は先生と呼んでいるのです。だって死柄木に黒霧が先生と呼んでたらそりゃ呼ぶしかないでしょう。死柄木の過去はともかく、黒霧は分からないんだよなぁ…


59話「正義に輝く忍の少女たち」

「これで、儂の勝ちですね…」

 

夜桜と葛城は決着がついたようだ。葛城はかなりボロボロだが、それは当然夜桜もボロボロであり、かなりのダメージを負っている。何方かが倒れても問題ない程の勝負であった。

 

「へっ…やるじゃねえか……」

 

「葛城さんこそ…」

 

葛城の笑みに、夜桜も微笑む。そういえば、こんな風に戦いが終わった後に笑ったことはあんまり無かったな…と、心の中で呟いた。だがこうして笑えるのも、葛城のお陰なのかもしれない…そう考えると、もし葛城と会ってなかったら、こんな感情は無かっただろう…

 

「そうだ葛城さん…一つ聞いても良いですか?」

 

「ん?なんだ?」

 

「葛城さんは強いやつと戦って嬉しいと仰ってましたが…その経緯はなんです?どうして、そこまで強さに拘るのでしょうか?」

 

夜桜は少し前から疑問に思っていたことがあった。強いやつと戦えば強くなる。それは分かる…今までに相手にしたことない敵や、自分より上にいる者と戦えば、その壁を越えられる…強くなるのが嬉しい…しかし、何故強くなるのか?忍は強さが全て……それは当然だ、生きる為には強くならなければならない。しかし、夜桜は葛城と拳と蹴りを交わして分かったのだ。葛城には、他に何か別の事情があるのではないか?と…強さを求める理由は、他に何かあるのでは?そう思ったのだ。

 

「ハハッ…夜桜にはバレちまったか……いや、お前ら月閃なら丁度良いよ」

 

葛城はボロボロなのにも関わらず、立ち上がる。夜桜は「立ち上がると危険じゃ、ボロボロですし」と言うが、「お前こそボロボロじゃねーか」と笑いながら答えた。

 

「アタイの両親さ…抜忍なんだ」

 

「え…?」

 

葛城の両親が抜忍…その事実に夜桜は息を呑む。

抜忍は知っての通り、善忍悪忍問わず忍という存在から追われる存在。漆月なんかはその象徴だ。今でも自分たちが知らない間に、抜忍は何十人か何百人か存在するだろう…忍の世界から追放された忍は後を絶たない…その為抜忍は滅多に見ない。だから、葛城の両親ももしかしたら死んでしまってるのかも知れない…そんな仮説もあり得ることだ。

 

「厳しい世の中、忍の世界で抜忍という存在は許されない…そりゃあ勿論分かってる…けどよ、アタイはだからこそ思うんだ……抜忍になったのには何か理由があるんじゃないかって……だから、もっと強くなって、両親を救いたいんだ…強くなりゃあ、皆んなから認められるから……けど、その理由が、ようやく分かったんだよ」

 

葛城の目には少し涙が浮かんでいた。その涙は嬉しさから来るものなのか、または悲しさから来るものなのか……夜桜はいつになく真剣な葛城の話に夢中になって聞いていた。

 

「黒影は抜忍で、忍の世界から追われてた…そんな黒影を暗殺しようとしたのは…アタイの両親さ…」

 

「は…?」

 

夜桜は葛城の衝撃な告白に、頭の中が真っ白になる。夜桜の脳裏に浮かぶ一つの光景は…自分が幼い頃、夜桜は黒影を暗殺しようとした葛城の両親を止めたのだ。止めれるとは思ってなかった…まだ忍としての実力もなければ、力も無い…そんな子供が止められるわけがないと……仮にそうだとしても、聞いてくれるはずがなかった…そう思っていた。葛城の両親は、黒影と子供達を見つめ引き返し、抜忍黒影の暗殺失敗と報告したのだ。

まさか、あの忍が葛城の両親だとは、夢にも思ってなかった。それを聞いた夜桜はいつの間にか、目から溢れんばかりの大量の涙を流した。葛城の両親がもし、引き返してなければ、もし葛城の両親ではなく違う忍の者だったら、五人はまたバラバラになり、良かれ悪かれ、今の自分たちはなかったのだと思う。

 

「そうか…貴方の両親が……」

 

「ハハッ…何泣いてんだよ……我慢して堪えてたのに……アタイも涙が出て来ちまったじゃねーかよ……」

 

人生とは不思議なものだ。人とは思わぬところで出会う…

 

夜桜と葛城は、静かに涙を流し、微笑みあった。そして、葛城の具足と夜桜の手甲が、二つで一つだということは、彼女たちはまだ知らない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じく、斑鳩と叢では…

 

「はぁ…………はぁ………」

 

「……ここまでだ」

 

同じく決着がついたであろう、叢は鉈と物騒な巨大包丁を下ろす。そのことに斑鳩は首を横に振る。

 

「いえ!まだです…!私は…まだ…戦えます…!ですから…」

 

「もういい…これ以上体を動かすな…」

 

「しかし…このままでは…」

 

友人の詠や恵まれなかった子供達の居場所がなくなってしまう。それだけはあってはならない…何としても、あの居場所を、守らなくては……

 

「………お前の友人とは、一体誰だ?」

 

「……詠さんです……」

 

「……ソイツはもしや、金髪の…」

 

「はい…貴方が何故それを?」

 

「そうか…やはり……いや、なに…気にするな」

 

叢は何かが分かったかのように納得した。そして叢は思ったのだ。自分の命が危険に陥ってるにも関わらず、斑鳩は自分の故郷でもないのに、自分と友人の住んでいた貧民街を守ろうとしているのだ。普通の人は愚か、名のある善忍だってそんなことはしない…そこまでして守ろうとする姿も見たことないし、何より斑鳩が初めてだった…

一方、自分はどうだ?大狼財閥の任務に従ってるだけではないか…忍の世界はヒーローとは違い非情で残酷で殺伐としたものだ…そんな世界でも、斑鳩は身を挺してまで貧民街を守ろうとする……そこまでして、斑鳩が守るもの…詠…まさか、自分の『友人』が……いや、そんなものはもう関係ない……

 

だから、叢は…自らの手で面を取り、素顔を見せた。少し恥じらい頬を赤くするその叢の可愛らしい顔に、斑鳩は目を丸くし驚く。

 

「わ、我も…頼んで見ます……大狼財閥に……貧民街都市開発計画を…中止にするよう頼んで見ます……」

 

自分も変わらなければ…そう思ったのだ。斑鳩の目には涙が溜まり、頭を大きく下げた。

 

「ありがとうございます…!!」

 

これで本当に貧民街都市開発計画が中止になるのかはまだ分からない…しかし、それでも叢の心が変わったことと、何よりも叢のその言葉が、とても嬉しかったのだ。

 

 

 

 

 

「終わったんだな…」

 

遠くで見てた飯田は、万事解決した二人を見て大きく頷く。

 

「オレも緑谷くんや轟くん、ついでに爆豪くんに負けないように、もっと精進せねば…!!」

 

プルルルルル!

 

その時、携帯から着信音が鳴った。飯田は直ぐにポケットからスマホを取り出し着信の相手を確認する。母からだ。

しかし、と飯田は思った…確か兄を含めて家族皆んなは出張のはず…何でもあるヴィランがうろついてるため、パトロールをするとか言っていたのだが…

飯田は掛かってきた一つの着信、電話を出た。

 

「はいもしもし、母さんどうしたんだ?今日は出張で忙しいんじゃ…」

 

『天哉!病院に来て!!早く!』

 

「…母さん……?」

 

電話越しから聞こえる母親の焦った声に、飯田の表情は一層曇らせる。病院?何かあったのか?

 

兄さん(天晴)が…ヴィランに!!』

 

 

この事件が、少年少女を巻き込むことになるなんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保須市…

 

「お前らは気づきもしない…」

 

忍学生の少女たちが戦い、涙を流してるなか、ヒーロー殺しと名乗る一人のヴィランは保須市を高い建物の上からジッと眺めていた。被害にあった路地裏では、警察が調査の為に包囲している。相棒(サイドキック)であろう複数のプロヒーローたちもその場に駆けつけに来る。

 

ヒーロー殺しステインにとって、今のヒーローたちはヒーローではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偽物。

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に尽きる。彼にとって今に生きるヒーローたちは偽物でしかない。それはまた、忍もまた同じこと。ヒーロー殺しはどう言う経緯か、善忍と悪忍を殺害しているのだ。また襲いかかって来る忍など後が絶たないなんてのは忍側からよく耳に聞く噂。

 

「偽善と虚栄で覆われた…歪なる社会……ヒーローと忍は…全員偽物だぁ………彼だけだ…本物のヒーローは…彼だけ…」

 

オールマイト。ステインにとっての本物のヒーローはオールマイトであった。いや、オールマイトしかいないと考えている。確かに彼は平和の象徴と呼ばれ、誰もが認める最強のトップヒーローだ。それは分かる…しかし、だ。忍はどうなのであろうか?

ステインは忍の知識は殆ど知らない為、伝説の忍、半蔵を知るわけがなく、またオールマイトと半蔵が仲の関係だと言うのも、知るわけがない。

 

「だから粛清だ…偽物が運びるこの社会も……本物の正義を知らないヒーローも忍も…全員粛清対象だぁ…」

 

だが、忍と交わして思ったのだ。忍は善忍と悪忍と言うものが存在する。悪忍は悪。即ちヴィランと変わらないであろう…善忍は正義。即ちヒーローと同じだと言うこと…だから思ったのだ。ヒーローと忍は変わらないのだと……本物のヒーローと言えばオールマイト。では、本物の忍とは一体誰なのであろうか?共通点があるのであれば、必ず本物の忍だって存在するはずだ…

 

 

だからステインは、忍を幾度もなく斬り殺してきた。それは当然ヒーローもまた然り…

いや、もしかしたら本物の忍は既にいなくなってしまってるのではないか?とも思った。だがやることは変わらない…もしいなくなってたのであれば、本物の忍を生み出せばいい。この粛清がそれに繋がっている。粛清し続ければ、自らが偽物だと言うことに気づき、考え改めるハズ…そうすればきっと…本物の忍は……

 

 

忍。そういえば、忍を知ることが出来たのも、こうして新たな信念を抱き、己の新たな道に進めるのも、ある抜忍のお陰だった。その名も『漆月』。アイツの性格は一言で言えばよく分からない…

お調子者で、ヘラヘラとしていて、自分の信念というものが空っぽのような存在だ。無論そんなヤツも粛清する。しかし…漆月だけは何かが違ったのだ…

その何かという答えもまた知らない…だが、少なからずそこに信念があった。空っぽだったハズのヤツには、信念というものが微かに見えたのだ。それが一体何の意味になるのかは知らない…だが、見届けるのも悪くはない…そう思えたのだ。

それとヤツを生かした理由はもう一つ、それは…彼女は忍の存在を否定してた。

ヤツに一体何があったのかは知らない。だが、自分には今の虚ろに塗れた忍は消えなければならないと思っている。偽物にまみれてる忍もヒーローも…その為には…

 

 

今の(ヒーロー)()の社会を壊す。今の社会は二つで一つとなっている。

 

 

壊すものが増えただであって、やることは変わらない……

そういえば、漆月とは最近会っていない…ヤツは一体今頃何をしてるのか…?死んだら死んだでそこまでの人間だったということになるのだが…

 

 

「やっほ〜!今日も派手にやってるんだ?ステイン!」

 

 

噂をすれば…と、ステインは呆れながらも彼女の声を聞き流していた。声の主は漆月、この声を聞くのも久しいな…とステインは心の中で呟いた。しかし、今日は違う。漆月とは違うもう一人の人物の声が、ステインの耳に聞こえたからだ。

 

 

「これはこれは、貴方様があのヒーロー殺しステインですか…お初目に掛かります」

 

 

「!?」

 

その刹那。ステインは背中に装備してある長い刀を瞬時に抜き取り後ろを振り向くことなくその声の主を斬る。

 

ブワァ…

 

しかし、手応えがない。空振り?そんなハズはない…知らないもう一人の声の主は確かに今、自分の真後ろに聞こえたのだから…聞き間違えるハズがない…何よりも、後ろにソイツの気配がする。だが斬った手応えが感じられなかった…どう言うことだ?と後ろを振り向く。

 

「落ち着いて下さい。我々は漆月の仲間であり、貴方の敵ではない…また、貴方も我々の敵ではない。寧ろ、『悪意』を培う同類」

 

「!」

 

そこには、黒い靄を纏った何かが蠢いていた。そしてその横には「やあ」と手を挙げ挨拶する漆月。この黒い靄を纏ったこの男は一体?

 

「申し遅れました、初めまして…私は敵連合の黒霧と申します。貴方のような悪名高い輩に是非ともお逢いしたかった…」

 

黒霧は、直ぐに空間と空間を繋ぐワープゲートで出入り口を開く。

 

 

「少々お時間宜しいでしょうか…」

 

そして…ほんの数秒後、漆月とステインは、繋がっている空間へと足を踏み入れる。そして、誰にも知らされることなく、誰にも見られることなく、その黒い靄は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い部屋の中で、パソコン画面をジッと見つめる一人の男性、主犯格の死柄木弔は、ある動画を観ていた。それは…

 

 

『ハアアァーーー!!』

 

『せいっ!はっ!やぁっ!!』

 

屋上で飛鳥と雪泉が戦う姿。他にも、お互い涙を流しながらも微笑み合ってる夜桜と葛城に、勝負が終わった叢と斑鳩、戦闘中の四季と柳生、美野里と雲雀。

 

ニューチューブ。

 

それは忍専門の動画配信サービスのことである。本来忍の者でしか見ることが出来ないネット動画なのであるが、漆月のお陰でこうして観ることが出来たのである。

今映し出されてるこの動画は全国の忍たちに観られている。では何故ニューチューブに映し出されてるのか?それは学炎祭だからだ。学炎祭は古くから伝わる学校行事…学炎祭の勝者には、負けた校舎に火を放つ事が出来て、廃校にする事が出来るらしい。廃校になり負けた忍学生たちは永久に忍の資格を失うことになる。忍の学校に存亡が掛かってる為、当然ニューチューブ動画にアップされるのは当然なのかもしれない……それ位学炎祭は大きな行事なのだ。敵連合が観るのはあくまで忍の実力、そして漆月の話した通り、障壁は何方になるのか…だ。

半蔵か?それとも月閃か…

 

 

「あの…ガキィ…!!」

 

 

死柄木は、ニューチューブで生放送されてる飛鳥を忌々しく、血走った目で睨みつけたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真に賢しい敵は、悪という闇に潜むものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学炎祭に戻り、決着がついた美野里と雲雀。どうやら勝ったのは美野里の方らしい。二人ともボロボロだ。

 

「美野里…勝った…かったよ…」

 

「うん、とっても強かったよ…美野里ちゃん……あの時とは違うくらい、凄かったよ」

 

雲雀は美野里の頭を優しく撫でる。美野里よりも雲雀のほうが身長が大きいためなのか、姉妹に見える。

 

「戦う決意が出来たんだね」

 

「うん!美野里は、戦うよ…確かに、皆んなと遊んでいたいし、戦いは怖いし…死にたくないけど……でも、誰かが傷ついたり死んじゃったりするのはもっと嫌だから…だから…美野里は戦うよ…!例えこの先どんな辛い事があっても…」

 

純粋な子供に宿る決意。美野里の成長に、雲雀は微笑んでしまう。

月閃の彼女たちに一体何があったのか分からない。それでも、雲雀は嬉しかった。雲雀だけではない、皆んなもそう思ってる。

前の美野里ならそんな言葉絶対に口には出さなかった。

美野里はまだまだ子供らしい…でもそれで良い。彼女の明るくて元気な正義の光は、周りの人間を笑顔にしてくれる。それはとても良い事だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柳生と四季では…

 

「はぁ……ハァ………柳生ちん…マジで強すぎるんですけど………」

 

「お前もな…悔しいことに…勝ったのはお前だ……」

 

お互い息遣いは荒く、その場に立ってるのがやっとであった。柳生は突如襲いかかってくる疲労感とボロボロな体で倒れそうになるものの、番傘を杖の棒のように自身の体を支える。

 

「いやいや…柳生ちんもマジでヤバかったって……ていうか、今でも信じられないし…」

 

「……お前はこのオレに膝をつけさせたのだぞ?今目の前にあることを信じないでどうする……お前は強い、お前は勝ったんだ…黒影も喜んでくれてるハズだ…」

 

「うん……だと良いんだけどね…」

 

柳生がそう言っても、四季の表情は変わらなかった。その顔は、まだ何処か迷いがあるように見えた。勝負はついたと言うのに、一体何にを迷ってるのだろうか…?

 

「実際さ、本当にこれで良かったのかなって思ってね……黒影様は私たちを育ててくれた…忍に善も悪も関係ないことも充分理解したよ。でも…もしこのまま進んだら、黒影様の意思に反してるんじゃないかなって思うとちょっとね…」

 

「………」

 

柳生は今ある力を振り絞り、番傘に力を入れると、立ち上がり四季に歩み寄り、肩に手を置く。

 

「心配するな…黒影がお前たちのことを大切に思ってたのなら、お前たちの選ぶ道こそ、黒影が望むものだ。黒影がお前たちより自分の描いた理想を選ぶことはまずないハズ……お前はもっと自分を誇れ…」

 

「……うん、そう…だよね。ありがとう、柳生ちん」

 

自分に自信を取り戻した四季は、柳生の顔を見つめ、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、最後は…

同じリーダー同士、飛鳥と雪泉。

 

「ハァ……ハァ……」

 

雪泉と飛鳥はお互い息が切れながらも、ボロボロになりながらも、倒れることは決してなかった。

 

「飛鳥さんが……ここまで強いなんて……」

 

(この前とは明らかに違う)

 

先週学炎祭で戦った時とは大違いだ。あの時感じた微かな力が、今ではここまで強いなんて…オールマイトのような絶対的強さを持つわけでもない…それでも、何故飛鳥はここまで強いのだろうか…この短期間で一体…

 

「まだ…だよ…雪泉ちゃん!」

 

「何故です?なぜ、飛鳥さんはそこまでして立ち上がることができるのですか?貴女の強さの秘密が分かりません…」

 

「私の強さに秘密なんてないよ…」

 

飛鳥の言葉に雪泉は首をかしげるしかなかった。

 

「私が戦う相手は皆んな強くて、私は皆んなに離されないようにって、必死に食いついてるだけだから……離れて差が広がったら、皆んな私と戦ってくれなくなるでしょ?皆んなを支えることだって出来ない……そんなの私、嫌だから…」

 

ああ、そっか。そうなんだ……

 

飛鳥はそうだ、そういう子だったんだ。誰かのためにと戦うその姿はまさしく、光り輝く太陽だ。

 

 

雪泉が月なら飛鳥は太陽。つまり、同じ正義であって、違う部分がある。そう言ったら良いのだろうか…

 

何故だろう…飛鳥、悪と少しでも関わったというだけでアレほど憎んでいたのに…今は全くそうではない。そもそもこの勝負の由来は半蔵にある。元は半蔵のために仕掛けたのだった。

祖父である黒影の大好物であるイチゴ大福を奪われてあれだけ頭に血が上ったというのに…今はもうそんなのどうでも良いのだ、

 

「ならば、全力を超えた全力のチカラをお見せしましょう…!!」

 

 

飛鳥の気持ちに応えるためにも…

 

 

ビュアオォォォォォォオォォオオオォオオオォォオオォォ…!!!

 

 

氷と風が、青白い光が、雪泉を包み込み、姿を変える。雪泉の姿は、オールマイトヴィランとの戦いで見せた覚醒した姿だ。いつ見てもその姿は美しく、氷王の名に相応しい風格だ。飛鳥は雪泉の覚醒に驚きつつも、思わず不敵な笑みを浮かべる。

 

「流石だね……雪泉ちゃん……」

 

「はあァァァァァァァァァァーーーーーーーー!!」

 

「でりゃあァァァァァァァァァァーーーーーーー!!!!」

 

そして、雪泉と飛鳥はお互いぶつかり合い、その二つの衝撃により、二人は光に包み込まれた。衝撃の余波によるこの波動、遠くにいた轟と緑谷でさえも吹き飛ばされそうになる。しかしなんとか堪えた。そう言えば、体育祭で緑谷と轟の戦いの時も、こんなことがあったな…あの時はお互い必死で夢中になってたため思ってもなかったし分からなかったが…今目の前にある出来事は、緑谷と轟の戦いに似ている。

 

やがて衝撃が収まると、白い霧が辺りに漂わせていた。雪泉の氷の力によるものだろうか、周りの空気はとても冷えている。夏に近いというのに風邪を引きそうだ…ジャンバーや何か羽織るものが欲しいくらいだ。そして白い靄が消えていくと、人影が一つ。それはもう言うまでもない…雪泉の姿であった。そして、倒れてるのが飛鳥…流石に絶・秘伝忍法で覚醒した雪泉には敵わなかった。

 

「さ…すがだね……雪泉ちゃん……もう、立たないや……私の負けだよ……」

 

「いえ、体が動かないのは……私も同じ…です……」

 

雪泉も絶・秘伝忍法の力による体力の消耗が激しかったのか、立っていられるのがやっとのようだ。

 

「ダメだよ雪泉ちゃん……無理しちゃ……何をする気なの?」

 

雪泉が飛鳥に歩み寄り、飛鳥は首をかしげる。すると雪泉は飛鳥の目の前で手を差し伸べた。

 

「握手…です」

 

雪泉は飛鳥に笑顔を見せた。いや、雪泉はここで初めて、笑顔を見せたのかもしれない。いままでずっと笑わなかった雪泉のその顔は、初めて笑顔を見せた。飛鳥は「雪泉ちゃん…」と差し伸べた手を掴み、立ち上がると、優しく握手をした。

 

これで、雪泉も飛鳥も、最強の友達だ。

 

 

「……おじい様、ごめんなさい…私はおじい様の悲願を叶うことは出来ませんでした……」

 

雪泉は黒影に謝るように目を瞑る。

 

「それでも、私は私…おじい様の孫であり、黒影様の弟子です……そのことには変わりはありません……おじい様の愛を胸に抱き、忍の道をまっすぐ進みます……」

 

雪泉のその目からは、涙が溢れていた。

 

「そのことだけは、命に代えても、必ず守り通り抜きます……そしてようやく、私の答えが導き出せました…」

 

 

雪泉が探し求めてた答え…本当の正義…それは…

 

 

「弱きを守り救ける……それが、私が導き出した答え…」

 

 

雪泉は、ここで初めて、新たな信念と新たな正義を見つけ出した。本当の正義とは、強き悪を討つだけでなく、皆んなを守り、支え、誰かを救ける。彼女たちと、ヒーロー学生…そしてオールマイトと関わったことにより、その答えを導くことが出来た。絆を結びついたことで、今までに出さなかった答えを見つけ出すことが出来た。あの時、美野里の『救けて』という言葉に

 

 

「それで、許して貰えますか?…()()のおじい様……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪泉よ…

許すも許さないもない…謝らなくて良い…寧ろ頭を下げるのは俺の方だ。俺は悪を憎んでいた。その憎しみの残り火が、雪泉たちを黒く染めてしまったのだ。

俺は本当に愚かだった…しかし雪泉たちはその憎しみの闇を払い、自らの手で光を掴むことが出来た。

 

あの子達は俺を超えたのだ。

 

 

良かった…本当に良かった。俺は…

 

 

『ねえ黒影、いまこの忍の世界は殺伐としてるでしょ?死ぬのが当たり前…弱い者は忍になる資格はない……私はそんなことないと思うんだ…だって、忍もヒーローも何も変わらない…忍だって、元は一つだったんだから……きっと、正義と悪は分かち合えると思うんだ……私はそう思う……だから私は…忍を救い出す!どんな辛いことでも、誰も死なずに、不幸にならずに、解決したい!私はそう思ってるんだ!』

 

 

アイツの笑顔は正しく太陽そのものだった。いや、彼女の名前は陽花であり、忍の象徴と呼ばれた少女だった。

 

それは、『カグラ』を超える程の……とても強き少女だった。あの子の笑顔と、彼女たちの笑顔は、それと似ていた。そして、救うという答えに、俺は導き出すことが出来なかった…だが、雪泉…お前の見つけ出した答えは、間違っていない。俺になかったものを、雪泉は得ることが出来たんだ。

 

 

そして俺は、彼女の輝かしい笑顔を見ることが出来た。

 

 

雪泉の笑顔を見ることが出来て、俺は幸せだ…もう悔いはない…雪泉、叢、夜桜、四季、美野里……ありがとう…俺は、お前たちに救われた。だから、言おう…

 

 

 

『心からありがとう…そして、おめでとう…』

 

 

俺は悔い残すことなく、成仏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学炎祭が終わり、叢、夜桜、四季、美野里の四人は、半蔵学院の校門で雪泉の帰りを待っていた。四人とも体はボロボロになりながらも、それでもその傷を背負い、彼女たちは雪泉を待つ。そして暫くすると、雪泉の姿が見えてきた。

 

「見えて来たな…」

 

「雪泉ぃ〜!!」

 

「お疲れ雪泉ち〜ん!」

 

「雪泉ちゃぁ〜ん!」

 

迎えるは叢、夜桜、四季、美野里。彼女たちだ。雪泉は健気で光り輝く笑顔を浮かべる少女たちに、思わず笑みを浮かべる。

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

雪泉は皆に軽く頭を下げる。

 

 

これからこの先、まだまだ辛いことや、苦しいことがあるだろう…だが、それでも忍は乗り越えなければならない…忍は、世のため人のために動き出す…誰かを支える影が必要だ。

雪泉たちなら、きっと出来るだろう…どんな困難が待ち構えていようとも、雪泉たちならその困難を乗り越え、強くなる…

彼女たちならきっと……

 

「雪泉ちん、そんで、学校はもちろん、()()()()()んだよね?」

 

「ええ、半蔵学院の彼女たちは、最強の友達であり、もう立派な仲間です…お互い高め合い、精進する正義…燃やすわけがありません…」

 

学炎祭に勝利した者は火を放つ権利が得られるだけで、それを放棄してもルール違反でもないし、問題ないこと…その為負けた半蔵学院は廃校にならなければ、忍の資格を永遠に失うこともない。雪泉は「帰りましょう…」と言い、皆、半蔵学院に背を向けた。

これにて、半蔵学院と死塾月閃女学館の、熱き少女たちの戦いは、これにて、幕を閉じた。




月閃と半蔵…終わったなぁ…なんか長かったようで短かったような…そんな気がします…
黒影って検索して画像見たことあるけど、ハッキリ言います。食戟のソーマのえりなの爺さんに見える……それ、我だけ?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。