光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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えーっと、ですね。なんか凄いこと起きてました。なんと!この作品『ヒーローと忍 絆の想い』のお気に入りが100を到達しました!!読んで下さってる皆様、誠に有難う御座います!私は嬉しゅう御座います!!いやあ、テンション上がりすぎて『!』マークをいっぱい付けたいくらいですよ。いやぁ、嬉しいですね、この調子で頑張っていこうと思っています。
あっ、そうそう。お気に入り100になった記念として何かやろうと思っています。(この前も言ったよなそれ)
と言ってもまああれですよアレ、直ぐに99とかになって消えちゃうんですけどね。
まあ、この話が終わってから記念ストーリーやろうかなと考えてはおります。作者の気分によりますがね…その時はスミマセン。ってなワケでどうぞ。


57話「善善善」

雪泉たち月閃の目の前にいるのは、強大な力を持った正体不明のヴィラン()。正直雪泉たちは敵との戦闘は今日で初めてであって、個性を持つ者の勝負もこれで初めてとなる。

けど、

 

 

だからなんだ?

 

 

今ここで、戦って負けなければ良い。勝てば良い、たったそんだけのことだ。

 

 

「さぁ…行くぜ!!!!」

 

大男が軽く身を構えると、一瞬にして、一秒も経たずに雪泉たちの目の前に現れた。突然目の前に現れた大男。しかしここで怯んではいけない。まず雪泉の目の前に夜桜が現れ、両手の手甲を合わせるように構える。

 

「秘伝忍法!【地獄極楽万手拳】!!」

 

激しい闘気のエネルギーを圧縮させ、巨大な黄色い球体を作り、キャノン砲の如く放つ。その黄色い球体を大男は拳で相殺させる。

 

「そんなんでオレは仕留めれんぞ!!」

 

「ええ、知ってますよ!!」

 

しかし夜桜は口角を上に釣り上げる。夜桜はこれが狙いだった。秘伝忍法が通じないのは先ほどの攻撃で充分に伝わった。だから、秘伝忍法を利用して、足止めする。拳と球体がつばぜり合いをしてる間、雪泉たち他の四人は、素早く移動し大男を囲む。距離もそれほど遠くなく、かと言って短すぎるわけでもない…

 

「なるほど…そういう感じか!」

 

包囲。どれだけ強くても、こっちは五人。バラバラに包囲すれば、必ず一人を相手にしなければならない。その間他の皆んなで大男を仕留める。即ち袋叩きと言ったほうが正しいだろう。

 

「だがな、スピードで勝負して、一瞬で決めれば問題ねえよな!?!」

 

この大男はパワーだけでなく、スピードも早い。強いて言えば…USJで戦った脳無と似ている。と言ったほうが良いだろう。

スピード勝負で決めれば問題ない。まさにその通りだ。だがそれは…

 

ガシッ!

 

あくまで夜桜が居なかったらの話。

 

「なっ!?」

 

「儂がいること、忘れてはいけませんよ!!」

 

夜桜は両手でその大男の屈強な片腕を全力で掴む。その大男から初めて、焦りの声が聞こえた。

 

「離せっ!って、そんなものがどうした!?お前ごときに止められるハズが…」

 

「ええ、そうですよ。悔しいことに、儂ではお前を止められん。倒すこともできん……ただそれは……

 

 

 

 

()()()()()()です」

 

「なにっ…!?」

 

ガシッ!

 

ここでもう片方の腕にしがみつくは美野里だった。恐怖を乗り越え、目にはまだ涙を浮かび、それでも美野里は皆んなの為にと言わんばかりに、力を込めて腕にしがみつく。

 

「美野里もいるもん!美野里は、皆んなのために戦うんだ!!」

 

「クソッ!離しやがれ!!」

 

両腕を封じられた大男、しかし彼にはまだ足がある。大男の強靭なるパワーにどれ程警戒しようとも、圧倒的な力の前では意味がない。そう言わんばかりに大男はもがきながらも雪泉の方へと走っていく…が。

 

「そうはさせん!」

 

「あたしも張り切っちゃうから!!」

 

右足に叢、左足に四季が全力で動きを止める。

 

「なっっ!?」

 

流石に予想外だったのか、二人の行動に思わず困惑色の声を出す。初めて見せるこの動揺、この焦り…大男は首から冷や汗を垂らし、両足を止めてる叢と四季を引っ剥がそうとするも、夜桜と美野里が両腕を封じている。そのため両足を引っ剥がすことが出来ない。

 

「うおおおああああぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!」

 

怒気を含んだその大声が、獣王の咆哮のように部屋中に轟く。と、ここで大男はふとある事に気が付いた。夜桜と美野里が両腕を、叢と四季が両足を止めてる…四人が動きを封じている。なら、最後の一人、雪泉はどうするのか?と…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

何故だろう…先ほどまで心に靄が掛かったようにモヤモヤしてたのに、今はどうだろうか?全身に力が流れ、冷たい冷気が体に纏っている。私の心には、まだ少しだけ迷いがある。その迷い、それはお爺様の理想、信念、何よりお爺様の意思に反してないのか?と…

お爺様の意思は、本当に悪の殲滅なのか?と…迷い、悩み、悪に苦しんだ……そしていつしか、笑顔というものを忘れていた。

ではお爺様は一体、何を望んでいたのか?今はまだハッキリとした答えが出てこない…どれだけ考えようとも、答えはきっと出ないだろう……けど、今はどうだろうか?私はこの大男と戦って思ったのだ…

 

悪は何故生まれるのだろう?

 

人の心によって悪は生まれる。しかし、この大男は善を憎んでいた…その理由は、私たちが悪を憎み、倒し、殲滅しようとしたからだと。だからこそ思ったのだ…私たちが幾ら悪を殲滅しようとも、また悪が芽生える。いや、寧ろ…悪を生んでいるのでは?私たちが原因で悪が産まれるというのなら、私たちのやってることは殺戮兵器と何ら変わらない……では、正義とは何なのか?正義とは一体……そんな時、美野里さんが涙を流してこう言った…

 

 

 

 

 

『だ、誰か……助けて……』

 

 

 

 

 

あの言葉を聞いた時、私の凍てつく氷の心が、一瞬にして壊れ、光り輝く氷の闘志が、私をここまで強くしてくれた。忍の強さは想いの強さ…それは善忍も悪忍も関係ない…何より思ったのが、何故美野里さんのあの『助けて』という言葉を聞いて、体が勝手に動いたのか…不思議でならない……でも、何故だろう…それが、私の求める『何か』に近かったのだ。

 

 

 

 

 

 

「雪泉!!今だ!我らが食い止めてるうちに!!」

 

ここで声が聞こえた。いつもお面を被ってる叢さん…

 

「雪泉ぃ!儂らの想いを受け取ってくれ!!」

 

責任感が強く、大真面目で家族が大好きで、大切に思う夜桜さん。

 

「雪泉ちん!!アタシたちのリーダーなら、出来るよね!!」

 

見た目に反して、皆んなをよく見てる、皆んなを支えてくれる四季さん。

 

「雪泉ちゃん!!頑張れ!頑張れ〜!!」

 

純粋な心を持ち、平和を望み、皆んなを明るく幸せにしてくれる美野里さん。

 

 

 

 

 

 

そうだ。私は一人じゃない…皆んながいる。私の周りには、家族とも呼べる大切な仲間が、側にいる。

 

 

だから、私は…

 

 

 

 

皆んなの為にも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に負けられない!!!」

 

 

 

 

 

 

 

雪泉の闘気が氷のように青くなり、そして髪を結んでいた白いリボンが解いた途端、周囲に激しい衝撃波が放たれ、氷が飛び散る。そして、短かった髪が長くなり、氷のように青く染まった。そして、氷の扇が剣となる。

 

 

 

「雪泉…月の正義に舞い忍びます」

 

 

 

その名も【氷王】

 

 

 

秘伝忍法ではなく、これは絶・秘伝忍法と呼ぶ。

絶・秘伝忍法とは、普通の秘伝忍法とは違い、いわば最終必殺技や最終奥義、奥の手と言ったものだ。しかし絶・秘伝忍法はお互いが対立する、正反対の者と戦わなければ発動することは出来ないのだ。ましてや、発動出来たとして、体力はかなり消耗することになる。しかし雪泉はこれを発動することができた。ではなぜ絶・秘伝忍法の習得に成功し、発動することが出来たのだろうか?

 

 

それは、(ヴィラン)と戦ったからである…いわば、悪の存在が、雪泉の新たな力を生み出したのだ。またこうも言える…

 

 

悪の存在がなければ、雪泉はこの力を得ることもできなかったのだ。

 

 

 

 

皆んなの想いが、雪泉に力を与えた。

 

 

 

「怒りも哀しみも、喜びも楽しみも一つに」

 

 

雪泉の閉じてた目が、そっと開く。そして、四人が抑えつけてる大男を睨みつけて…そしてその肝心の大男は…

 

「………」

 

抵抗しず、微動だにしず、ただただ覚醒した雪泉を見つめていた。

 

「アレが、絶秘伝忍法か……氷の王…目の前に映るものは全て凍てつき氷と化す……その圧倒的な力…

 

 

やるじゃねえか」

 

大男がそう言うと、雪泉は一瞬にして大男の目の前に現れた。そして…

 

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

氷の剣に風が纏う。氷と風が激しく混じり合い、絶対王者の氷風が、大男を襲う。氷の剣が閃乱を描き、大男は大きな悲鳴をあげる。

 

「っっっっ!!!がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

そして、その大男は前へ、ゆっくり…ゆっくりと倒れていく。

倒した。今度こそ、倒した。手応えはあった、大きなダメージも露わになってる。マスクがほんの僅かにヒビが入ってる。それでもよく見えないが、これで何とか倒したはず…それだけは今ハッキリと言える。

 

「「「「雪泉!(ちゃん)(ちん)!!!」」」」

 

四人は大男から離れると、雪泉の方に駆けつけた。雪泉の体は氷王から元の姿に戻り、短髪にリボンも元に戻っている。それでも、雪泉の体力は大分消費していた。どれだけ強くても、どれだけ皆の力を合わせても、それでも雪泉は立ち上がれず、その場に座り込む。息も荒く、汗が垂れ落ちている。雪泉自身、アレほど強力な力が出るとは思ってもおらず、内心驚きを隠せない。

 

「はぁ……はぁ………」

 

勝った…これで、やっと勝てた…私は、皆んなの笑顔を守れ──

 

「ふううぅぅぅぅ〜〜〜〜!!!!」

 

「「「「「!?!」」」」」

 

聞き覚えのある声…この猛獣の唸る声…何よりもこの威圧感…そんなバカな……嘘だ、ありえない。雪泉は目の前の光景にもはや恐怖を覚え、身を震わせる。四人も同じく、その光景を目にし雪泉に固まるようにその場に座り込んでしまう。

 

立っている。

 

その男は、まだ立っているのだ……傷だらけになりながらも、その大男は荒い呼吸を立てながらも、雪泉たちにゆっくりと歩んでいく。もはやホラー系のレベルを超えている。

 

「あっ……ああ……あ………」

 

雪泉は余りにもの恐怖と絶望に、目の前が真っ白になる。この大男は、なぜ倒れない?この大男の強さの源は一体何なのだ?

 

「やるじゃ…ねえか…!効いたぜ!」

 

そしてゆっくりと腕を上げ、殴りかかろうと襲いかかる。流石の五人も体力が残ってない。秘伝忍法を使うこともできないし、何より体が言うことを聞かない。雪泉は思わず目を瞑る。

 

 

ここまでか──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでネ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピタッ!!

 

「……え?」

 

聞き覚えのある声に、私は目を開ける。すると…なんと言うことだろう。私は今目の前に映る光景に思わず息をのんでしまった。

今までどこにも居なかった、不在だったあの王牌先生がいるではないか。そして、大男は拳を止め、そして信じられないことに…手を差し伸べてきた。

 

「これは…一体……?」

 

雪泉だけでなく、叢、夜桜、四季、美野里も今の状況がどうなっているのか分からず、また一体何が起きたのかも分からなかった。なぜ、王牌先生が此処に居て、さっきまで戦ってた大男はこうして私たちに手を差し伸べてるのだろうか?

 

「全く…幾ら()()()()()()とは言えど度が過ぎるネ!もう少しで全員学炎祭に出れなかったよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オールマイト!!」

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

今なんて?

 

 

「え……?」

 

雪泉だけでなく、全員その大男に視線を集める。

 

「………ふふふ…」

 

大男は少し体を震わすと…

 

「HAHAHAHA!!!」

 

突然豪快に笑い、なんと少しヒビが入ったマスクを取り外した。その素顔はなんと、いつも笑顔を絶やさない、アメリカンなあの誰もが認めるNo. 1ヒーロー、平和の象徴オールマイトだったのだ。

 

「いやぁ少女たち、初戦にしちゃあよくやったぜ!!特に雪泉くん!いやぁ素晴らしかった!君の力に感動を覚えた位だよ正義に輝く少女よ!いや、雪泉くんの為にと頑張り最後まで戦った君らもまた、立派な正義の一員さ!!」

 

今でも信じられない、さっきまでの大男が、オールマイトだったなんて…余りにもの衝撃の真実のあまり、逆に真実を疑ってしまう。だが目の前には正真正銘、本物のオールマイトの姿だ。しかし雪泉たちは生身のオールマイトに会うのは初めてだ。

 

「な、なぜオールマイトが…ここに?」

 

「ワシが連絡したんだネ」

 

「えっ!?」

 

なんと、オールマイトにここの居場所を教えたのは王牌先生だったのだ。これについても驚きのじじつだ、まさか王牌先生とオールマイトが繋がって居たなんて…夢にも思って居なかった。正真王牌先生はかなりのやり手、しかしそれはあくまで教師だったからとずっと思っていたのだ。しかしまさか、オールマイトと繋がっていたとは…

 

「で、でも待ってください!声が全然違うではありませんか!」

 

「そうだよ!アタシだってよくニュース観てちゃんと声聞いてるんだからさ!」

 

雪泉に続き四季も信じられないという顔でオールマイトにそう言うものの…この平和の象徴はハハハ!と笑いながらマスクを掲げる。

 

「それはね〜、ジャジャン〜〜ン!これだぁ!」

 

「マスク?それが、どうしたのですか?」

 

「いやぁそれがさ、王牌先生が君たちのために相手をしてって言ってきてね、その際に思ったんだよ…アレ?ヴィランっぽくするって言っても、声はどうすれば良いんだ?ってね、私の声を聞いてる人はよく居る、だから声を変えてなければ簡単にバレてしまって君たちの為にはならんと思ったのさ…そこで!雄英高校サポート科、発目くんに頼んだのさ!」

 

発目明。あの雄英高校のサポート科であり、かつて自分のサポートアイテムを大企業者に見せつける為に飯田を利用した胸のデカイ女の子だ。あ、胸は蛇足だった。

発目にこのアイテムを作るように頼んだそうだ。なんでもマスクに声を変えれるマイクを付けたとか…因みに彼女は『良いですよ!どっ可愛いベイビーの為ならなんでも!!』と返答してくれた。何でもって…

しかし、マスクにマイクを…声を変えれるように改造すればそれは納得がいく。

 

「では、あの(ヴィラン)の言動は何だったのです?明らかに平和の象徴とは思えませんでしたが…」

 

「いや、それはえっと…夜桜…くんだっけ?それはまあ……その、アレだよあれ!ヴィランっぽい雰囲気出すために……勉強したのさ!」

 

夜桜の目線に、兎のように震え縮こまるオールマイト。先ほどのヴィランとは全く違う。だが、納得いく点があった。

どれだけ攻撃しても倒れないのは、彼が平和の象徴であり、No.1ヒーローだからだ。平和の象徴は、悪に屈しない。何より折れた姿を見たことがない。

それに、スピードやパワーも忍の領域を超えていたのは、彼の実力だから…それなら納得がいく。だが、悔しいことにオールマイトはあれでも全然トップギア、やはりまだ本気ではなかったらしい。さらには加減が難しいと言われた…少し何処か凹むものや自分たちと彼の差に大きな溝が空いてるため思うこともあるが、彼のNo.1という平和の象徴の実力を、認めざるを得なかった。オールマイトは「ごめんよぉ、大丈夫かい?」と皆の安否を確認する。

 

「儂らが死ぬ確率だってあったのですよ?もし死んだらどうするんです?」

 

と、夜桜は言うものの、オールマイトは「そ、それは…更に向こうへ(Plus Ultra)さ!限界という壁を超えさせる為に…!ね?流石に殺しはしないさ!」と、冷や汗をどっと垂らし、苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

 

「全く。頼んだとはいえ、オールマイトは加減を知らないネ!サポート科になんとかして貰わなかったのかネ?」

 

「げげっ!え、え〜っと…それが…まだ作成中とのことでしてね〜…『超圧縮おもり』がまだ出来てないんですよ…」

 

オールマイトは謝るように言うが、王牌は「そんなもん知らないネ」と答えた。

 

「いやぁ、本当に申し訳なかった!私だって心痛めながらやってたんだよ?未来ある子供達に、私はこんなことしてしまって良いのやら…とか、こんなの私じゃない!とか…更には必殺技まで叫びそうになったよ!」

 

そこまでか。と一同は思ったものの、もしこれがオールマイトでなく本物の悪だと考えると、少しゾッとする。オールマイト並みの(ヴィラン)…考えただけでも恐ろしい。いや、しかし…まさかな。なんてもひ思った。それならこの世界は終わってしまってる。何よりニュースで騒がれてもおかしくはない。

ん?と、此処で雪泉は思った。では、あの言葉は何だったのだろうか?と…あの正義を憎む言葉、アレは…彼の本音なのだろうからそれとも、ヴィランと似せるための演技だったのだろうか?

 

「あ、あの…オールマイトさん……」

 

オールマイトは雪泉の言葉に反応し、こちらを見つめる。雪泉は一呼吸整えると、疑問に思ってたことを聞く。

 

「では、あの正義を憎む言葉…あの言葉はどうだったのですか?やはり、ヴィランと似せるための演技…なのでしょうか?」

 

「……」

 

すると、オールマイトは少し黙り込み、先ほどの不真面目…と言うわけではないがアメリカンなお調子者の顔ではなく、真剣な顔立ちになった。

 

「アレは、演技と言えば演技だが…けど実際君たちのために言った言葉…でもある」

 

「え?」

 

「雪泉くん、自分たちの目の前に何かを憎む敵がいて正直どう思った?君たちだけではない、全ての正義を憎む者がいてどう思った?」

 

オールマイトの言葉に雪泉は少し考えた。確かに許せない、そんなものがこの世にいてはいけない…と思った。しかしさっきも言ったように思ったのだ。その憎しみの原因は、私たちにあるのでは?と…

 

「許せない…この世にいてはならない…と思いました。しかし…よくよく考えてみれば、その憎しみや悪は、私たちに原因がある。と…そう思いました」

 

その言葉に、オールマイトは軽く頷いた。

 

「その通りさ。どれだけ悪を憎もうと、憎しみは憎しみを産む……それはね、絶対にあってはならんのだよ…君たちのやってる事は、アレと同じだ……そうすれば君たちを憎む悪が増え続ける。つまり、悪の殲滅は出来ないんだよ……それが例え、私でもね。それにこれは、王牌先生だけじゃない…君たちの大切な、そして大好きな()()さんの為でもある」

 

「「「「「え!?!」」」」」

 

オールマイトの口から黒影が出たことに、五人は目を見開く。まさか、そんな…黒影お爺様は、オールマイトとも関係を築いていたとは…衝撃な事実が連続で続き、頭が混乱してしまいそうだ。

 

「そんな…黒影様が…」

 

「ぶっちゃけね、王牌先生の頼み事ってだけじゃなくて、私は私自身で君たちと黒影さんを救うためにやって来たんだ」

 

「救う…ため?」

 

「悪の憎しみからさ」

 

と、オールマイトは雪泉に近づく。

 

「悪を許さない…それは別に良い。私だって同じだ、悪を許すことは出来ない…身勝手な悪のせいで罪のない人の命を奪ってるのは事実だ。君たちと同じように両親がいなくなってしまったなんて、世界中に何処もかしこもいるだろう…けどね、悪の憎しみに囚われば、その内必ず後悔する。悲しいかな、悪というものは…考えるだけで恐ろしい…人を蝕むだけでなく、その人の人生そのものを狂わせてしまう……だからこそ、悪に屈してはいけないのさ…!」

 

オールマイトはニカッと笑う。雪泉は色々考えた。確かに…憎しみに囚われていれば、何か大事なものを見落とし、そして悪に蝕われ、自分自身悪に染まっていく。行き過ぎた正義は悪となる。とはこのことだ…

 

「悪だって人の心さ…忍が善忍と悪忍に別れたのも、善と悪という心が別れたものだ。そう、悪だった人なんだ。人の心の一部なんだ…それを否定するということは、人の心も、存在も否定してしまう。それは、正義とは思えないだろう?」

 

言われてみれば確かにそれもそうだ。私たちの原因で悪が生まれることだったある。悪を殲滅しても、また悪が増え続ければ意味がない…それはただの殺戮であって、正義とは言えないだろう…いわゆる自己満足というやつだ。

 

では、正義とはなんなのだろう?雪泉だけじゃなく、他の四人も同じことを考えていた。正義とは何なのか?戦ってみれば分かる…しかし、短時間で色んな出来事が起きたため、答えは見つからないどころか、分からないことが増えた。

 

「で、では…正義とは、何なのでしょうか?」

 

迷い、悩み、困惑に染まった顔色を浮かべる雪泉。分からない…今まで自分たちが信じて来た『悪の殲滅』という意思が違うのなら、一体何が正義なのか…

 

「では、雪泉くん。質問を質問で返すようで悪いが、一つ君に聞く。美野里くんがピンチになった時、君は駆けつけに来たね?あの時どう思った?なぜ動いた?」

 

「えっと…」

 

答えが見つからない。何故だろう、アレだけ答えが見つかりそうだったのに、今は見えない。答えが見つからない…でもあの時美野里さんが言った言葉を聞いて、居ても立っても居られないなかった…雪泉はようやくもごもごとした口を開く。

 

「気持ちは何なのか分かりません…答えは見つかりそうなのに答えが出ない……ただ、美野里さんがピンチになった時、私は考えるよりも先に体が動いていたのです……これは、一体何なのでしょうか?」

 

「………」

 

雪泉の言葉にオールマイトは黙り込む。雪泉のその言葉に、緑谷出久の姿を浮かべたからだ。そう、あの時爆豪がヘドロ(ヴィラン)に捕まった時、緑谷出久は爆豪を助けるため駆けつけたのだ。当時の緑谷は『無個性』と呼ばれており、皆からいつもバカにされていた。特に爆豪勝己には尚更だ……そんな無個性で力もない彼は、考えるよりも先に体が動いていた。彼のその面影が、雪泉と重なったのだ。

 

 

(なんてことだい、こんなことがあるんだな…緑谷少年と同じこと言ってるぜ……だが…彼女はまだ()()を見つけてない…)

 

 

 

しかし、それで良い…答えを見つけるべき時は今ではない…そう、それは私の役目ではない……雪泉くんたちの答えは…半蔵学院で見つけるんだ。

 

 

「それなら良かった…なら私の役目はこれで終わりかな…では半…じゃなかった、ごほんゴホン!王牌先生!私はこれにて失礼するよ!」

 

オールマイトはそう言うと、王牌は笑顔でコクリと頷いた。しかし、雪泉は…

 

「ま、待ってください!!答えはまだ聞いていません!」

 

雪泉は先ほどの質問の答えを聞いておらず、オールマイトを呼び止める。するとオールマイトは後ろを振り向くことなくこう言った。

 

 

「それは自分で考えなさい…君たちが、もう二度と悪への憎しみから囚われないためにも、黒影さんのためにも…自分たちでその答えを見つけなさい…」

 

「…っ」

 

オールマイトはそう言うと、歩みを止めてた足を再び動かす。前へ歩き、背中が縮んでいくかのように…

 

「……」

 

すまないね雪泉くん。本当は言いたいんだよ、今すぐ…答えを教えてあげたい…しかし!私だって教師だ…

 

答えを教えるだけでは意味がない。だからこそ、自身でお互いぶつかり合い、考えるんだ。教育とは、そう言うものだ。

 

今の忍たちは、考えを持たずに上への命令を聞き任務を実行している。忍の世界からすればそれは当然かもしれない…しかし、考えを持たずして命令だけを聞くというのは、傀儡とは何ら変わらない…君たちは人間、忍だ。だからこそ、考えるんだ…

 

 

そうだろう?

 

 

 

 

 

 

陽花くん…

 

 

 

 

 

 

「あの、オールマイトさん!」

 

「!」

 

後ろから雪泉が後を追うように走ってやって来た。オールマイトは「どうしたんだい?まだ何かあるのかな?」と首をかしげ、彼女を見つめると、雪泉はこう言った。

 

「貴方は……なぜ、平和の象徴と呼ばれるようになったのですか?貴方のようなヒーロー…一体誰が貴方をそうさせたのですか?なぜ、そこまでして貴方はヒーローを……貴方は、なぜヒーローになったのですか?」

 

雪泉の純粋な質問に、オールマイトは一瞬表情を曇らせた。

 

 

 

 

 

 

『人を助けるってことは、つまりその人は怖い思いをしたってことだ、命だけじゃなく、心も助けてこそ真のヒーローだと、私は思うんだ。例えそれが忍だとしても、私は助ける。()()()もそう言ってただろ?どんだけ怖い時でも「自分は大丈夫だ」っつって笑うんだ。世の中笑ってるやつが一番強いからな。だから、お前もそんくらい強い、カッコいいヒーローになれよ、いや、なれるよ。だってお前は、平和の象徴になるんだろ?』

 

 

 

『誇れ俊典!最初っから持ってるやつとじゃ本質が違う!お前は力を勝ち取ったんだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『次はお前の番だ。頑張ろうな俊典』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脳裏に映るは、笑顔でこちらを見つめる…志村(お師匠)の姿。

 

 

 

「オールマイト…?」

 

「っ!」

 

雪泉の言葉にハッと我に返ったオールマイト。いつの間にか考え事をしていたらしい…雪泉は首をかしげたままこちらを見つめている。そんな彼女にオールマイトはこう言った…

 

「それは…言えないな……個人情報がアレでね…昔のこととかあって、こう…言えないんだ。ゴメンな雪泉くん…」

 

オールマイトの言葉に、雪泉は「そうですか…」と呟いた。雪泉の気持ちもわからないでもない…雪泉は昔オールマイトのような正義に魅かれた時だってあったのだ。だが、今は黒影だ…そのためオールマイトのことはあんまり考えなかった、自分の正義の道を歩むのに必死だったから…

 

「それはそうとな雪泉くん、私だって昔は、君たちと同じ悪を憎んでたんだぜ?」

 

「……え?」

 

初めて聞くその言葉に、雪泉は目を丸くする。知らなかった、あんな能天気でお調子者みたいなアメリカンな人が、まさか自分たちと同じ悪を憎んでたなんて…

 

「と言っても一部の悪さ、だからさっきも言ったろう?悪を許さないのは否定しない。ってさ…けどな、憎しみを持ってはそれこそいけないものだと分かったのさ…だから、雪泉くんたちも絶対に分かるさ…半蔵学院できっと…」

 

「っ!」

 

オールマイトの言葉に雪泉は学炎祭のことを思い出した。そうだ、まだ終わってない…決着はついていない。先ほど色んなことが起きたので忘れていたが、学炎祭の途中だったのだ…

 

しかし、オールマイトの言葉に私はふと思った。半蔵学院…そこに自分の求めてた答えが見つかるのでは?と…そう言えば飛鳥は悪忍と関わりを持っていた。抗争から共闘へ…最初は悪に染まったのだと思い込んでいたが、それは違うのかもしれない…

雪泉は心の底から闘志が湧き上がってきた。

 

「では今度こそ私は失礼するよ…!」

 

オールマイトは「アデュー!」と叫び走り去っていった。オールマイトの後ろ姿を見つめ、私はこう言った。

 

 

 

「ありがとうございますオールマイト…」

 

 

迷いはない、半蔵学院と決着をつけるまで…そこにきっと答えが見つかる。いや…違う…自分の道が何なのか、考えを改めるには、半蔵学院…飛鳥と勝負をしてからにすると。そこで、証明する。

 

 

自分の本当の正義を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

オールマイトは走りながら雪泉のことを考えていた。

 

(雪泉くん…いや、月閃の君たちは黒影さんの意思が、価値観が引き継がれている。そして黒影さん自身もその悪の憎しみに苦しみ悩んでいた……それが今、ようやく長年続いた憎しみの呪縛から解放出来るかもしれない……ああ、良かった…本当に良かった!だから敢えて言おう…

 

 

 

 

 

 

()()の思うようには絶対にさせないぞ!お前が残した爪痕は必ず駆除してやるさ)

 

 

オールマイトは心の中でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘立蛇女子学園では…

天守閣の最上階の部屋で、蛇女子の選抜メンバー雅緋、忌夢、紫、両備、両奈が揃っていた。その部屋には水族館のヘルメットに、ぶ厚い灰色のコートを着用した出資者が椅子の上で座っていた。

 

「それで?お前らは半蔵学院に学炎祭を仕掛けるも失敗してこうしてノコノコと帰ってきたってわけか……」

 

「……申し訳ありません…」

 

出資者と思われるその言葉に、雅緋は悔しさの余り歯をくいしばる。出資者と思われる男は表情を変えない。

 

「お前のためにリハビリの時間もくれてやった、お前をわざわざ筆頭にさせてやったんだ…それなのにこの有りざまか…」

 

「し、しかし!半蔵学院を潰そうとした矢先に焔たちが…!」

 

ピタッ…ここで出資者の男は忌夢の言葉に反応した。

 

「なに…?焔たち?」

 

「はい…ああ、そう言えば言ってませんでした…焔たち抜忍の連中、焔紅蓮隊が姿を現したんです…」

 

焔紅蓮隊。元蛇女子学園であることは調べがついていた、しかし目撃情報がないためてっきり死んでしまったのかと思っていたのだが、半蔵学院と戦ってる最中に姿を現したらしい…それを知った出資者は先ほどの不機嫌な顔から、興味深い顔に変わった。

 

「つまり、邪魔が入ったと言うわけか…成る程、焔紅蓮隊ねぇ…」

 

暫く考え込んだ後、出資者は雅緋たちにとって、衝撃な言葉が投げられた。

 

「分かった、じゃあ焔紅蓮隊を見つけ次第…捕らえろ」

 

「「「「「!?!」」」」」

 

その言葉に五人は驚きの表情を浮かべる。あの両奈でさえ目を丸くしてるほどだ。

 

「ほ、焔紅蓮隊を捕まえて、どうするのですか?」

 

「決まってる、蛇女に入れるのさ」

 

「なっ!?!」

 

「安心しろ、金はある。上にはなんとか交渉してやるさ。まあ、抵抗するようなら殺して構わん。俺の部下にしてやりたいが、やむを得ないからな…」

 

「しかし!」

 

「雅緋…」

 

ゾッ!とした殺意が部屋中に放たれる。雅緋は思わず体が硬直する。いや、動かない…これだ、出資者のこの男は、忍術は全くないが、それでも実力は想像以上のものだ。気迫だけでわかる…五人が束になっても勝てない…と。

 

「お前が俺に逆らうのか?なぁ、忍が俺に逆らっていいのか?筆頭になったからといって、調子に乗ってんじゃねえぞ?誰がここまで再建させたと思ってるんだ?誰のおかげでこうして生きてると思ってるんだ?」

 

「っ……!!………申し訳……ありま……せん…でした……」

 

「分かればいい…」

 

雅緋はその男に思わず身体が震えてしまう。悔しい以前に、生きるか死ぬかの道に左右されてるんだ…コイツに、全てこいつに……でも、忍として逆らうわけにはいかない…

 

「では追加の任務だ…焔紅蓮隊を捕らえろ。抵抗するようなら殺せ」

 

「「「「「御意」」」」」

 

そう頭を下げると、雅緋はこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しました…………『伊佐奈』様」

 

 

ガチャッ

 

 

 

 

 

 

 

扉を閉めた。

 

 

 

 

「………」

 

そして、それをこっそりと聞いていた一人の少女は、唾を飲み込む。

 

「…これは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてアレから一週間が経ち…

 

少女たちは立ち上がる。

 

「さぁ、皆さん…行きましょう。半蔵学院へ…」

 

月閃の雪泉たちは、半蔵学院へ…

 

半蔵の連中は…雪泉たちを待ち…

 

 

「さあ、掛かってきて…雪泉ちゃん」

 

屋上で雪泉たち月閃を待機している飛鳥。

 

 

 

 

 

紅蓮の道を歩む少女たちは…

 

「さぁ、行くぞ!」

 

焔たちは蛇女へと向かう…その一方、蛇女子学園では…

 

「……はぁ…はぁ…」

 

「雅緋、大丈夫かい?」

 

「ああ、何のことはない…少し色々と溜まってるんだ……それより、焔たちが攻めてくる…私たちも向かうぞ…」

 

「う、うん…!」

 

走る雅緋たち…そして

 

「……両奈、わかってる?」

 

「うん、両備ちゃん……伊佐奈様に気づかれる前に…ね?」

 

「ええ…今この時がチャンス…()()を果たす時よ…!」

 

両奈と両備はなにやらコソコソとしている。そしてそんな二人にある人物がやってきて…

 

 

「両備と両奈、話がある。良いか?」

 

「え?なに?鈴音先生?」

 

そして鈴音先生の言葉によって、衝撃なる真実を知らされる。そして思ってもなかっただろう……蛇女子学園自体が、とんでもない状況になってることを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっさと働け雑魚ども」

 

伊佐奈は天守閣を見下ろし、そして違う部屋に行くと…カプセルの入った異形な姿をした化け物を見つめていた。

 

「コイツらは幾ら稼げるんだろうな?」

 

 

 

 

 

正義と悪、陽と陰、光と影、それぞれが対となっている二つの存在は、この日激しくぶつかり合う。少女たちの行く道は果たして…?




はい!まさかのオールマイトでしたぁ!!いやぁ私さりげなく伏線張ったんですがね…まず始まりは、53話「二つで一つ、一つで二つ」の最初のあらすじのオールマイトですね、そこから次の話、半蔵の連絡し終わった後、は。先ほど言ってたのと繋がってました。そして更にマスクを被った正体不明の謎のヴィランは、ヒロアカOVAのやつでした。デザインもそのまんまです。だから、バレる可能性があったと言ったのですよ!OVA買ってる人だっているんですから。
そしてとうとうアイツの名前が来た!!伊佐奈、覚えていますか?あの男を…そうです、道元を退場させた理由はその一つ、こいつを出したかったから!という理由がありました。まあ退場させたのには他にも理由はあるのですが…
ああ、因みに伊佐奈というのは忍名であって、『あの名前』はちゃんとありますよ?

久しぶりに感想、評価お待ちしております!!あっ、誤字報告があれば宜しくお願いしますね。そして何か指摘があれば、優しくお願いします。作者豆腐メンタルなので。更には楽しいことが好き。うん、これイラネェ

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