光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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かっちゃんがかっちゃん!!あと眠い…


55話「かっちゃん」

飛鳥たちが蛇女子学園と戦っている真っ最中、寿司屋の衣装を身に纏った半蔵は、違う服を素早く着用する。

 

「さて…と、ワシも早く戻らねばな…」

 

オールマイトに連絡し終わった半蔵は、何処か誰かに似てる姿をし、寿司屋を閉店すると、何処かへ姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バレなきゃ…って」

 

「確かに今の所人居ねえけど、それヒーローが使っちゃいけねえ言葉だろ」

 

両奈を爆破で殴り飛ばした光景に引き気味になる緑谷の横に、轟が突っ込みをいれる。

 

(まあでも確かに爆豪の言う通りだ、此処でうじうしてたってこっちがやられる一方だ、応援なんて呼べねぇ…オマケに人気のないところでの戦闘…こりゃあ…最悪な状況だな……)

 

轟はこの理不尽な状況に舌打ちをする。応援は呼べない、人の気配は一切ない、更にはルールに縛られてたらこっちがやられる一方、最悪死んでしまったらそれこそ終わりだ…殺さないとは言ったが悪忍の言ってる言葉に信憑性がないし、まず命の安全の保証が見えない…

だったらここで抵抗して生き延びた方が良いに決まってる。

 

「仕方ねえ!今は人がいない!許可はないとはいえ抵抗しなけりゃやられる!!俺も手を貸す!息合わせるぞ爆豪!」

 

「はあぁ!?俺が合わせんじゃねえ!テメェが合わせろや!」

 

ここでも轟に苦手意識の持つ爆豪は、相変わらずと言ったところだ。だが轟はスルーして氷の壁を何重にも貼る。

 

「と言っても、相手は銃撃…防壁だけで充分だとは思うがな…」

 

(もう一人のアイツ、両奈とか言ったか?アイツは爆豪がダメージを与えた…つーことは、ヤツは暫く動けないハズ…そのうちに少しでもこの状況を打開できる方法を考えねえと…何かこう…)

 

「凄いんだわ〜ん♪」

 

「「!?!」」

 

氷の壁の先から聞き覚えのある声、そんなまさか…と思いたいものの、その考えは氷の壁とともに打ち砕かれる。

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドン!!!

 

なんと、何重もの重ねた氷の壁にヒビが入った。この激しい銃声は両備のものではない、ならもうわかるハズだ。

 

バコオオオオォォンン!!

 

氷の壁が粉砕された。粉々になり砕けた氷は崩れていく。そんな魅力な幻想的な光景とともに、目の前映るのは、ライフルを構えて狙撃しようとする両備、そして二丁拳銃で氷の壁を壊した、何ともない様子の両奈の姿であった。

 

「なに…!?」

 

「えへへ♪両奈ちゃん再登場で〜す」

 

爆豪に殴り飛ばされた両奈は何ともない様子だ。殴ったとはいえ、横腹を思いっきり爆破で飛ばしたのだ。倒せなくとも多少のダメージは効いてるハズ…なのに両奈は何ともありませんと言わんばかりの表情を浮かべ、ご主人様を求めるような可愛らしい目つきで三人を見つめる。

 

「マジかよ…」

 

「かっちゃんの攻撃が、効いてない?」

 

「クッッソ野郎がああぁぁ〜…!」

 

冷や汗を流す緑谷は思わず唾を飲み込む。轟は目の前の光景に信じられんとばかりの顔をし、爆豪は自分の攻撃が効かなかったと理解し怒りを蓄える。

両奈は自分を殴った爆豪を見つめる。

 

「両奈ちゃんさっきの気に入っちゃったよ〜♪殴ると同時に爆竹のような爆弾攻撃!一粒で二度美味しい!両奈ちゃんとっても気持ちよかった〜!だから、今のもう一回やって〜♪かっちゃ〜ん♪」

 

ピキッ!!

 

「……ハァ?」

 

「あ、えっと、両奈さんだっけ?……あの〜…かっちゃんって……」

 

「え?だってさっきそう言ったじゃん?だから、両奈ちゃんもこれからそう呼ぶね〜♪かっちゃん♪」

 

 

かっちゃん

 

 

両奈は知らない。かっちゃんと呼ぶということはどういうことなのか…かっちゃんと呼んでるのは緑谷だけだ。そして爆豪は緑谷を嫌悪してる、また何処か後ろめたい気持ちもある、そして緑谷が成長するとともに爆豪は焦り、苛立ちを覚える。いや、そもそも幼馴染だったためなのか、緑谷のことになると無意識に、癖で怒ってしまう習性があるのだ…

緑谷の存在どころか、名前を聞くことでさえ怒りが上昇する。

そんな爆豪に、両奈は「かっちゃ〜ん♪」と小生意気に、でも愛くるしい声で彼をそう呼んだ。つまり、緑谷のことを思い出させてしまったのだ…そして、自分が完全にバカにされてるのだと…両奈自身は爆豪の名前が知らないため、緑谷がかっちゃんと呟いた声を聞いて、彼の名前がかっちゃんなのだとそう認識したのだが、それが間違いだったのだ。爆豪は目がイかれてしまい、額に血管を浮かび上げる。

 

「コイツ、コ・ロ・ス!!!」

 

爆豪は掌を爆破し素早く両奈に接近する。

 

「きゃう〜ん!」

 

「掛かったわねイガグリ頭!」

 

両備は待ってました!と言わんばかりに爆豪の接近に歓喜の顔を浮かべる。ライフルで爆豪の額を撃とうとする。両備はスナイパーとしてとても優秀であり、かつて最高ランク以外の順位を取ったことなど一度もないくらいだ。

両備が「いける!」と思った途端に引き金を引いた。爆豪の目には両奈にしか眼中にないことは知っている。だからこそ、視界が狭まってる爆豪は両備の存在を認識してない。その今がチャンスだ。スナイパーとは、存在を認識されてない時こそ、狙撃する絶好のタイミング、正に狩りの基本。

両備が狩人なら、爆豪は獅子だ。

 

(さぁ、脳みそブチまけな!!)

 

だが、狩りとは必ず成功するとは限らない。常に平常運転という訳でもない…環境が悪ければ、風向きが変われば、当然狩りの仕方も変わる。また、獲物が違えば尚更だ…特に、状況が急激に変われば当然。

 

 

「【閃光弾(スタングレネード)】!!」

 

 

「「「!?!」」」

 

爆豪は両手の掌で発行性の爆破で眩い強い光を発生させる。いわば目眩まし。

これは体育祭で常闇戦に見せた必殺技だ。ただ単に光を苦手とする者だけでなく、一般人はおろか、忍に対しても効果は十分にある。両備と両奈はその眩しさに直視できない為か、目を瞑ってしまう。

一瞬の隙が出来た所を爆豪は逃さない。爆豪はそのまま突っ込むかと思いきや、爆破を上手く使いこなし、応用して両奈の背後に回る。対人戦闘訓練の緑谷戦で見せたあの動きだ。

そして…

 

「死ねええええぇえぇぇえええ!!!!」

 

ボボボボボボボボボボボボボボボボボボオオオオオオオオオオオオオオォォォオォォン!!!!

 

「ッッ!!きゃうううううぅぅううううぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん♪!!」

 

爆破の連打、爆破ラッシュ攻撃が炸裂。両手で高威力の爆破を叩き込む。と言っても何故か両奈の歓喜の悲鳴が上がってるのだが…

爆煙が周囲に漂う…閃光の効果が切れた両備は目を開けるが既に遅し、爆煙で周囲が見えないうえ、爆豪と両奈の姿が見当たらない。

 

「ちょっ!何よこれ?!」

 

「次はテメェだ!!」

 

「!?」

 

爆煙から突然飛び出てくる爆豪、反応が遅れた両備。その隙も逃さない。

爆豪は両腕を大きく振り掛かり、両手の指を三つ、鉤爪の如く爆破させる。

 

「【爆指斬】!!」

 

爆破する両爪が、両備に襲いかかる。だが両備は辛うじてなんとかライフルを盾に構えて防御する。防御したとはいえ、威力が高く、思わず後ろによろめく。

 

(ッ!コイツ凄い厄介だわ!本当に高校生なの!?)

 

両備達は知らない、爆豪の実力を。いや、雄英生の実力を…

そして両備たちは、個性を使う者の戦いは初めてなのだ。つまり、個性有りの戦闘は未経験ということ。

それでも細心の注意は充分に払ってるし、月閃にいた時や蛇女に転入しても戦闘訓練は怠らず努力した。

しかし、才能に恵まれ、努力を怠らず、更には体育祭一位となった彼とでは相性は悪かったのかもしれない…

 

「オラァ!」

 

ボオオオオォン!

 

「!?」

 

爆撃で更に押す。爆豪は両備の銃を掴むかと思いきや、思いっきし首を掴み、地面に叩き込む。

 

「先に仕掛けて来たんだ、文句はねえよなぁ?」

 

「……んの野郎!!」

 

それも、足で乗っかり銃を使えなくするように固定し、もう片方の手で爆破を使おうと構えて…

常闇戦の最後に見せたアレと同じ光景だ。

 

「っと、動くな!少しでも怪しい動きと判断したら、完膚なきまでにブチのめしてやらぁ!!」

 

形勢逆転、狩るものと狩られるものの立場の逆転。爆豪は獅子から狩人となり、両備は狩人から鹿へと変わった。それにしてもこのシチュエーション、何処かであった気が…

ヒーローらしかぬ言動に今まで黙って見てた二人は、悪忍並みにタチが悪いんじゃないか?と思ったはずだ…

 

「相変わらずヒーローらしかぬ言動だな…まあ、これ位までやらねえといけねえのかもしれねえし…」

 

「うん、でもかっちゃん…凄いや!」

 

しかし、二人の安堵をついた表情は、一瞬にして変わる。先ほど爆豪が個性を使って周囲に爆煙を漂わせた場所から、人影が…

 

「ッ!爆豪!あぶ──」

 

「ッ?!」

 

爆煙から姿を現したのは、忍転身し終え、手に二丁拳銃を構えた両奈の姿であった。身体についてる傷は多少ボロボロだが、忍装束には傷一つ付いていない。恐らく爆豪が攻撃し終わった後からなのだろう、煙の中で忍転身をしたに違いない。

爆豪は反射的に、瞬時に転がるように素早く避ける。

 

「両備ちゃん大丈夫?」

 

爆豪が避けたため、拘束していた両備を離すことになる。そのため身体が自由になった両備は咳き込みながらムクリと立ち上がる。

 

「ええ、大丈夫よ……それにしても、忍相手に此処までやるなんて……大したヤツねアイツ…」

 

心配する両奈に両備はそう言うとサドッ気の目つきで、爆豪を睨みつける。すると両備も秘伝忍法書を取り出し、忍転身する。

普通の忍転身…かと思いきや、両備だけは今までの忍とは違った。なんと、貧乳だったちっぱいが、大きな山、桃…いいや、巨乳。つまりデカイ立派なおっぱいへと姿が変わったのだ。

 

「えっ!?!」

 

「なんか変わったな」

 

「別に大した事ねえだろうが」

 

緑谷は予想通りに驚いたが、轟と爆豪はそういうのにはあまり興味ないのか、へぇ〜、という反応だった。

 

「雅緋のやつ、殺すなって言ってたけど、この二人殺していいわよね?ぶっ殺していいわよね?脳天ぶちまけても良いわよね?」

 

「はうぅうぅ〜〜ん♪両備ちゃん、両奈ちゃんにもそれやってえぇ〜!」

 

「アンタは黙ってなさいよこの雌ブタ!!」

 

「ブヒイイィィ〜〜〜ん!!」

 

何やかんやでお前らノリいいな。と三人は思った。両備と両奈は爆豪を狙う。両備は分かるが、両奈は驚きだ。アレだけの攻撃を食らったというのにまだ動く、それも何ともない…と言ったら嘘になるか、寧ろ喜んで爆豪に突っ込んでくる。攻撃を食らうたびに喜ぶ彼女のその姿は、もはや恐怖でしかなかった。

 

「待てよ…あの人かっちゃんの攻撃をアレだけ食らってるのに何ともない様子だ…!いや、寧ろ喜んでる?かっちゃんは個性なしでも戦闘スタイルも身体能力もかなり優秀…それに派手で強い爆破という個性を加えたら、ひとたまりもない…コスチュームを着用してなくたってかっちゃんは今出せる力を全力で出している…なのに効いてない…?もしかしてあの両奈さんって人、USJに襲ってきた脳無と同じ能力…?!」

 

即ちショック吸収。両奈の体質はそれと似ている。いや、もしかしたらショック無効という体質だってあるはずだ…つまり物理攻撃は彼女には聞かないということになるのか?それはそれでとても厄介だ。

爆豪は上手く避けてるが、両備も両奈も本気で突っ込んで来てる。相手の攻撃を喰らわずかつ、どう動きどうするべきか、こんな状況の中で冷静に考えれる爆豪は流石は試験入学者一位と言ったところだ。

 

「チッ!ありゃ不味いな…爆豪やられちまう!」

 

轟は氷を出して両奈に襲いかかる。まずは倒さなくても動きを封じればこちら側の勝ち…氷結攻撃で凍らせようとするが…

 

「シャララララ〜〜〜〜ン♪♪」

 

「なっ!?」

 

なんと轟の氷結を両奈はあっさり避けてしまい、氷結を滑るように、華麗に、美しく舞い踊る。その姿はまさしく白鳥、フィギュアスケートだ。いや、正確にはバレリーナだろうか…とても嬉しそうに、幸せそうに踊っている。

 

かっちゃん(ご主人様)の物凄く気持ちよかったけど〜、でも君も良いね!貴方も両奈ちゃんを気持ちよくしてるのかな?両奈ちゃんね、バレリーナが趣味なの!」

 

「知ら…ねえよ!」

 

パキィン!とまた氷結を繰り出す。そしてまたもや華麗に避けられ氷の上で遊び回る。二丁拳銃で氷の壁を撃っていく。どうやらあの二丁拳銃は近距離戦向きらしく、遠距離射撃というものではないようだ。それについては両備とは正反対だ。

轟は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、若干体が氷で覆われていく。

 

(あの野郎……一見ふざけてるように見えるが、かなりのやり手だ。まず強え…爆豪の攻撃を受けてなお、効いてないってのは予想外だ……氷結攻撃も直ぐに避けられて効かねえ…壁作っても二丁拳銃で跡形もなく壊されちまう……蛇女って悪忍は、こんなのがいたのか…!)

 

因みに両奈は両備と同じく一年生、つまり同級生。しかも両備と両奈は双子でありながら、性格も真逆だという。

両奈はドM、両備はドS。武器も同じ銃なのにスタイルも全く反対。とにかく、色々反対なのだ。

 

「緑谷!これじゃあ埒が明かねえ!頼む、助けを呼んでくれ!」

 

「えっ、でも!」

 

「今この状況を打開するには俺たちじゃ無理だ!だから他のヒーローか誰か呼んでくれ!何なら半蔵(爺さん)でも良い!」

 

棒立ちで自分が一体どうすれば良いのか分からなかった緑谷に、轟は助けを呼ぶよう声を掛ける。確かに今の状況は最悪だ、なら助けを呼んで抵抗した方が良い。しかし、それだと自分たちが個性を使ってることがバレてしまう。そうなればどんな処分が下されるか分からない。最悪、退学ということもあり得るのだ。

 

「だ〜め〜だ〜よ!二人とも両奈ちゃんと遊ぶの〜!」

 

「「!?」」

 

そして両奈はバレリーナ(遊び)を終えると…

 

「秘伝忍法!【スケーターズワルツ】!!」

 

「やべぇ!」

 

両奈の秘伝忍法を発動させると同時に轟は巨大な氷を作り出す。両奈は周囲を薙ぎ払う回転キックを数回、そして、氷属性の攻撃で氷の壁を削っていく。両奈の属性も氷、つまり轟や雪泉とは少し違った能力を持っているのだ。

両奈の秘伝忍法と轟の巨大な氷は相殺。強烈な冷風が吹く。

 

(んでこれで相殺か!相手の攻撃が効かない上に秘伝忍法っつういわばゲームでいう必殺技…!それがアイツか……攻撃が効かないっつったら、USJの化け物とまんまじゃねえか!)

 

柳生を一撃で仕留めるような怪力は持っていない、目にも止まらぬスピードを出せる訳でもない、それでも両奈はその化け物に少し似ていた。相手の攻撃が効かないのと、秘伝忍法という強力な必殺技、それだけでそこらのプロヒーローをいとも簡単に仕留められそうな彼女…

 

「ねえねえ〜〜、もっと両奈ちゃんを虐めてよ〜!」

 

「悪いな、俺そういうのサッパリ分からん!」

 

轟はそれでも諦めなかった。そんな彼にも少しだけこの状況を打開できる希望が少しだけあったからだ。それは──

 

──時間稼ぎ。

 

今人がいなくとも、いずれ人がやって来るだろう…なら此処で仕留めることよりも、時間稼ぎをした方が良い。轟はそう判断したのだ…

 

 

 

一方…

 

「オラオラ!さっきの威勢はどうしたのかしら!?」

 

「チッ…!んのクソドS野郎がああぁぁぁ!!」

 

両備は先程とは違い、銃で乱射している。爆豪は爆破を上手く酷使して避けてるのだが、それでも両備も両奈に負けず劣らず充分に強かった。

一度飛ばした弾丸は、壁や地面やそこらにぶつかっては跳ねている。つまり両備の撃ってるこの弾は、普通の拳銃使いやスナイプ先生とは違った能力を持っていたのだ。

 

(個性の代わりが秘伝忍法だぁ?秘伝忍法使わずして能力があるってことは…こいつらまんま個性使ってるようなもんじゃねえか!)

 

それでも彼女たちには個性なんてものは存在しない。忍の彼女たちは、個性がない代わりが秘伝忍法なのだから…

 

「こんの貧乳スナイパーがあああぁぁぁ!!!」

 

そしてブチ切れた。

 

「はッッ!?はあああああぁぁぁああああぁああ?!!」

 

そして両備もブチ切れた。

 

 

キレやすい性格は、ある意味お互い似た者同士なのかもしれない…といっても両備がドSなだけであるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雅緋と飛鳥は…

 

 

「秘伝忍法!【悦ばしきinferno】!!」

 

「ッッッ!きゃああああぁぁぁぁああぁぁぁーーーーーーー!!!!」

 

七支刀に似た黒い刀に黒炎を纏い、数回斬りつける。素早い斬撃に飛鳥は避けれず、雅緋の秘伝忍法を食らってしまう。地獄の黒炎の斬撃、飛鳥の体はその黒炎に飲まれ込み、その場に倒れてしまう。タダでさえ月閃との戦いで体力を消耗したというのに、蛇女子

 

「ハァ……ハァ………つ、強い……!」

 

「これが貴様の実力か……大したことなかったな…」

 

ボロボロの飛鳥に雅緋は訝しげに目を細め、見下す。雅緋の手からは黒炎が燃え続いてる。これも一種の能力だとでもいうのか…

 

「蛇女の人たちが、こんなに強いなんて…」

 

「こんな奴らに焔たちは負けたのか……アイツら蛇女の面汚しと言わざるを得ないな…」

 

「ッ!」

 

焔を、いや…焔たちを侮辱した雅緋のその言葉は、飛鳥の逆鱗を触れてしまった。飛鳥はヨロヨロになりながらも、怒りを燃やした眼差しを向ける。が、雅緋は表情一つ変えずにただ見下している。

 

「雅緋ちゃん……いま、何て言った?」

 

「何とでも言ってやるさ、アイツらは使えない忍のクズ同然だということをな…!!」

 

「っ!!」

 

その言葉を聞いた飛鳥は頭に血が上った。自分の最強の友達を、貶め、侮辱し、そしてクズ呼ばわりした。

 

「私のことを悪く言うのはいい……でも、焔ちゃんを悪く言わないで!!」

 

「お前は一々不愉快だ、友情ごっこで弱さを誤魔化すな…」

 

飛鳥の脳裏に浮かぶは、天守閣が崩れるなか、仲間たちと共に他の生徒を救出に赴いた焔の姿。

 

そして、またいつか…と最後に言った焔の姿。

 

「友情ごっこなんかじゃない!私と焔ちゃんは…!!!」

 

「お互いを高め合う存在だとでも言うのか?」

 

「ッ!」

 

「下らん、本当に下らない。お前ら、忍を何だと思ってる?スポーツ漫画の読み過ぎじゃないのか?お前らのような奴らを世間では何と言うか知ってるか?甘いんだよ、お前たちは全てに於いて甘い、そして弱い……そんな奴等は忍の世界には必要ない」

 

「そ、そんなこと…!」

 

雅緋の非情で無慈悲な言葉。地獄の炎のような闘気を放ち、冷酷で残虐な殺意が飛鳥の言葉を一蹴した。雅緋の実力は並みの忍とは訳が違う。それもそのはず、雅緋の父親は世界の忍の中でも五本の指に入る実力者なのだから…雅緋は昔、子供の頃から命を懸ける程の訓練を受けいたのだ。辛かった、でも耐え抜くことが出来た。そう、ある目的が…いや、目標があったからこそ、雅緋はそんな毎日が苦しい鍛錬にも耐えることが出来たのだ。

 

「今日のところは命までは…とは思ったが気が変わった、ここで始末してやる。忍の弱さとは罪だ、その罪は死んで償え!!」

 

だめだ、やられちゃう。

 

「ゴメン…みんな!!!!」

 

飛鳥は思わず目を瞑った。瞼の裏には、色んな人物たちが浮かび上がってきた。

じっちゃん、雄英の生徒たち、爆豪くん、轟くん、緑谷くん、そして半蔵の仲間たち…

 

そしてその現状を見た緑谷は、飛鳥が殺されることに気づく。

 

「!!飛鳥さん!!おい!やめろ!!」

 

言葉遣い悪くなってることも気付かず、緑谷は冷や汗を垂らし、必死になって駆けつける。しかしもう遅い、距離が離れてるうえに雅緋の刀は既に振られていたのだから。ワンフォーオールでも届かない。

 

「これで終わりだ!!」

 

このままでは本当に、飛鳥は死ぬ。

 

 

そして飛鳥が最後に思い浮かんだ人物。それは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焔ちゃん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキイィン!!

 

「「ッ!?!」」

 

しかし、雅緋の刀が飛鳥を斬ることは決してなかった。目を開けると、飛鳥の目の前には見たことのある人物の背中が…

遠くで駆けつけようとした緑谷もその人物に驚きを隠せない。

 

「えっ!?」

 

「貴様は…!」

 

「ま、まさか……」

 

見たことのある背中、逞しく、熱く、闘志を感じるこの背中…

黒いポニーテールを揺らし、背中には六つの刀に紅い刀が一本。

 

「漆月と敵連合について詮索していたのだが、これはとんだ大物だな…」

 

聞いたことのある声、忘れるはずがない。死の美を交わした彼女を、飛鳥は忘れるわけがない。

 

「何をやってるんだデカ乳女!お前は私以外に負けるんじゃない!」

 

「「焔(ちゃん)!!」」

 

元・蛇女子学園にして、今は()()、焔であった。

 

「うん!って、違うちがう!私は焔ちゃんにも負けないよ!」

 

「ふっ、それでこそ飛鳥だな」

 

焔は前に蛇女にいた時とは違い、雰囲気も随分と変わっていた。だが、強き闘志を燃やした瞳と、近くにいるだけで感じるこの闘気は変わらないままだった。

 

「焔…善忍を助けるとは、蛇女の誇りを捨て去ったか」

 

「捨てた?私が?馬鹿を言うな。蛇女の誇りとはそんな安っぽいものではない」

 

「そうそう、善忍を助けても悪の誇りまでは失わないわよ」

 

こっちも聴きなれた言葉が聞こえた。この声は春花だ。と言うことは…

 

「悪は自由だから良いんだ!こうだなんて決めつけるなんて馬鹿馬鹿しいよ!」

 

「そんな頭の固い人たちに食べさせるもやしはございません…それが例えもやし好きでもです!」

 

「新しい選抜チームはイライラした連中多いなぁ、わしが言うのもなんやけど、少し感情を抑えた方がええで」

 

未来、詠、日影。元蛇女子学園の選抜メンバー全員が揃っていた。つまり、皆んなあの後無事だったと言うことだ。

そして向こう側からボロボロになった忌夢がやってきた。

 

「すまない雅緋、思ったより手強かったよ…甘く見すぎた。それに他の忍の気配を感じからやって来てみたら…お前たちか……探す手間が省けたよ……」

 

目を細め睨みつける。特に日影を…日影自身睨まれてることも知らず、何をしたのか覚えていない。

忌夢だけでなく、焔たちがやって来たことに、両備と両奈も引く。

 

 

「あっ!テメェ逃げてんじゃねえぞスナイパー野郎!」

 

「うっさいわよこのクソ犬!!本当はアンタをぶち殺したいけど、今はそれどころじゃないんだから!」

 

「ああ!?!」

 

 

両備と爆豪は相変わらずといった様子だ。

 

「両奈ちゃん戻りました〜♪」

 

「戻ったか、助かったな…」

 

 

一方、轟は両奈が引いてくれて助かったという様子。

皆んなが集まり、雅緋は歯を食いしばり、苛立つ目で焔たちを睨みつける。

 

「この抜忍共め…!!」

 

「さて、と。此方も5人揃ったところで、高らかに宣言するか…

 

 

 

 

 

私たち、『焔紅蓮隊』は秘立蛇女子学園に学炎祭を申し込む!」

 

「ええ!?それって、つまり…蛇女対蛇女ってこと?」

 

飛鳥たちと雪泉たち善忍同士が戦うように、焔たちと雅緋たちも悪忍同士で戦うということだ。いや、焔たちは今はもう悪忍ではない。元・悪忍、今は抜忍だ。そして焔たちのチーム名は、焔紅蓮隊と呼ぶらしい。

 

「学校はないが抜忍になったとしても、蛇女の魂は私たちにある。それをお前たちに証明してやろう……」

 

「上等だ、受けて立ってやる。半蔵は後回しだ…まずは抜忍の首から刈ることにしよう…」

 

そう言うと雅緋たちは一瞬にして、物音立てず姿を消した。辺りには焔紅蓮隊、半蔵学院、そして雄英生3人となった。

 

飛鳥さん!

 

飛鳥!

 

と、二人は駆けつけてくる。爆豪くんは不機嫌そうに歩いて来てるけど…

そんな三人も焔たちを見て驚く。いや、正確には二人といった方がいい。緑谷はすでに知っていたのだから。

 

「焔ちゃん…まさか私たちを助けるために?」

 

「勘違いするな、私の最強への道を邪魔する奴等は蹴散らすのみ。雅緋たちを倒したら次の相手は、飛鳥、お前だ」

 

「……流石は焔ちゃんだ…」

 

自分の道を突き進もうとする焔の姿に、飛鳥は心が熱くなる。自分も負けていられない、そんな風に思えて来た。三人はポカンとしており、空気を読んでるのか、その間に入り込まない。いや、入れる空間ではない。ATフィールドでも貼られてるのでは?と思えるほどだ。

 

「でも、焔ちゃんたち…どうして此処に?」

 

「いや、色々と事情はあるが……漆月と敵連合を探しててな」

 

「えっ!?」

 

焔の言葉に驚く声を上げる飛鳥。漆月なら蛇女が襲いかかる前に一度だけ遭った。しかし彼女が去った跡、直ぐに蛇女が襲いかかって来た為、言えなかったが…

 

「そ、それなら…少し前に遭ったけど…直ぐに逃げられちゃって…」

 

「なに!?此処に来たのか!?!逃すとは飛鳥、それでもお前忍か!」

 

「うぅっ!御免なさい!」

 

焔の厳しい言葉に、飛鳥は目を瞑り謝罪する。だが彼女も何かしらの理由で逃してしまったのでは?と、または飛鳥でも仕留められなかったのか?と心の中で言い聞かせ、余り怒鳴らなかった。

 

「まあ、良い…過ぎたことは仕方ないからな…」

 

「う、うん…けど…どうして探してるの?抜忍になったから焔ちゃんたちはもう任務なんて関係ないはず…」

 

焔は道元を斬ったため、抜忍としての道を歩むことになった。それが例えどんな理由であれど、上の者を斬るということは、反逆、裏切りとみなし、忍の世界から追放されるのだ。それでも焔は悔いはないし、残ってもいない。

 

「ああ、確かに関係ない…だが私はさっきも言ったはずだ。蛇女の魂は私たちにある…と。仲間たちや未来がネットで調べてくれたんだ、私がいない間に抜忍と敵連合が私たちを襲ったことをな……同じ抜忍とはいえど、漆月は許さん、道元も、そしてその主犯格である死柄木とか名乗る奴もな…」

 

焔のその強い眼差しは、怒りの闘志を燃やしている。蛇女の崩壊は二つにある。一つは敵連合、もう一つは道元。道元は禁じ手の術で皆の命を人質にとり、終いには蛇女を裏切り化け物、怨楼血を復活させたのだ。怨楼血には散々な目にあわされた。

 

「まあ、何はともあれ、焔ちゃんたちが無事で本当に良かったよ…」

 

飛鳥はそう言うと、笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、死塾月閃女学館では…

 

「………」

 

何気ない一つの修行部屋に、雪泉は一人で鍛錬していた。学炎祭で半蔵を確実に潰すために…

雪泉たちの目的は悪を滅ぼすこと。純粋過ぎかつ、単純な目標…だが、それが雪泉たちにとっての理想であり、祖父である黒影の悲願なのだ。お爺様のためならどんなことだってする、と言わんばかりのその姿勢は、違う正義…いや、いき過ぎた正義と呼んでも過言ではなかった。

半蔵学院を潰す。なのに、彼女の心は何処か引っかかっていた。

 

 

それは…

 

 

 

 

 

 

 

『悪いな、目の前に困ってる奴がいた』

 

『何がそんなに気にくわない?何でアンタ達は悪をそこまで憎むんだ?何かされたのか?』

 

『悪がなくなったとしても、そこに正義もないぞ?』

 

 

「ッ!!」

 

パキィン!!

 

轟の数々の言葉。その言葉が雪泉の心を突き刺していたのだ。自分たちのことを、何にも知らないクセに、何もわかってないクセに、偉そうに、何の躊躇もなく自分たちの事情に首を突っ込もうとするその姿、思い出すだけで頭に血が上り、巨大な氷を出してしまう。つららのようなその氷は、もはや凶器と呼べるものであり、部屋に氷の音が響き渡る。

 

「私は…正しい。私は今まで、お爺様にそう教えられてきた……お爺様の本望でもあるはず…悪の必要としない世界こそが…人々を救い、笑顔を守ることが出来る……それこそ真の正義……」

 

呪文を唱えるかのように、何度もなんどもそう言い聞かせた。だが、ひたすらそう言い聞かせる、ということは、自分の心には何処か迷いがあるからだ。

それは、自分のやってることが本当に正義なのか?ということ、よくよく考えたら、目の前に困ってる人間がいたら助ける。それは立派な善だ、また悪がなければ正義はない…

認めたくはないがこれも分かる。

正義は悪を倒すことで、自分たちが正義だということを証明できる。また、悪がなければ正義とは何なのか、何になるのか…

そう思えたのだ。だが、認めたくない。自分たちの信じてきた道が、たかが知らない赤の他人の言葉に惑わされることなんてあってはならないんだ。

だからこうして、体だけでなく、心も強く鍛えるために鍛錬しているのだ。

 

私は何も間違ってない…そう思いたい。いや違う、そうでありたい。

 

悪がなくなれば、悪に苦しみ涙を流す人間はいなくなる。

それこそ理想とする世界…何がいけないことなのだ?だから、自分たちは間違ってなどいない。なのに、心の何処かでそれを否定してるような自分がいる。だから、雪泉は悩んでいるのだ。

 

 

「お爺様…私は、どうすれば……」

 

雪泉は自分の手を見つめる。すると、脳裏には黒影が手を差し伸べる姿が…思わずこちらも手を差し伸べてしまう。

 

「……っ?」

 

その時…感じたことのない気配を感じた。そう、此処には忍学生しか存在しないはず、なのに見知らぬ誰かの気配を感じるのだ。忍の気配は一切ないし、微塵たりとも感じない。ではなんだこの気配は…?

その強烈な気配が素早い位にこちらに向かってきてる。

雪泉は思わず声を上げる。

 

「…誰です!?!出てきなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

ドガアアアアアアアァァァァァアアアン!!!

 

 

 

 

強烈な大爆発。修行部屋の扉が開くことなく壊れ、煙が発生し人影がうっすら見える。

雪泉は警戒態勢に入り、冷や汗を垂らす。はっきり言える、この気配…半蔵学院なんてレベルじゃない。今までに感じたことないオーラが伝わってくる。

近くたびに恐怖を覚えてしまう…体が僅かに震える。雪泉自身震えてることに内心驚いている。自分の心を保とうとしても、震えが止まらないのだ……この気配は、黒影、いや…それ以上の気配…

 

煙がやがて晴れると、その姿が露わになる。

 

「なんだ、お前一人か……氷の音がしたんで、せめてもう一人いるかと思ってたんだがなぁ…」

 

大柄で頑丈で屈強な体、見た感じ如何にも悪どんな思えるその姿、そして顔はマスクを被ってるためよく分からない。だが、この人物が只者でないことは確かに分かった。それ以前にここに侵入してる時点で、既に危険人物だと言える。何故なら、ここのセキュリティーは半蔵学院とは違い厳しく、見回りの忍学生が何十人も見回ってるのだ…だが警報もないとなると…警報が掛かる前にヤツは止め、見回りの忍学生を倒し、全ての難問をくぐり抜けて来たのだ。

 

 

「さあて、久しぶりに暴れるかぁ!!!」

 

 

それも、見たことのない(ヴィラン)が、凶悪な(ヴィラン)が、雪泉の目の前に……




ここでまさかのヴィラン登場。えー、話的にはこれ全然グダグダではありませんし、ちゃんとしたエピソードであって物語もきちんと進むようになってます。相手はヴィラン、ヴィランと戦うのは初めてな彼女、さぁどうなるのだろうか?
次回も楽しみに!
あっ、因みにヴィランのイメージはもう大体分かってると思います…分からない場合はお任せで、言ってもいいのですが、ただそれだとネタバレになって直ぐに分かっちゃうので、秘密にしておきます。まあネタバレと言ってもちゃんと後々言いますのでね…!

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