光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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このサブタイトルめっちゃふざけてるように見えますが大真面目ですよこの回、てなわけでドドン!と続きをどうぞ!


52話「THE・お話ししましょう?」

それから、雪泉たち率いる死塾月閃女学館は決着は後日…と言い残し、半蔵学院から去って行った。

 

「雪泉、お帰りなさい」

 

校門前には夜桜、叢、美野里、四季の四人が既に待っていた。最後なのが雪泉だったというわけだ。

 

「皆さん、お疲れ様でした…」

 

「ええ、雪泉の方こそ…しかし、決着は付けなかったのですか?」

 

「はい、とんだ邪魔者が入ってしまったので…」

 

雪泉はまたもや表情を怒りの色に染める。

 

「成る程…そうでしたか」

 

「それに、飛鳥さんにはまだ何処か力を隠している…死の美を交わして分かりました…」

 

雪泉は何処か薄い笑みを浮かべていた。それが一体何の力か分からない…だが、それでこそ潰し甲斐がある。何故なら飛鳥は半蔵の孫なのだから…

そして私は黒影の孫…

孫対孫の戦いなんて生温い、孫対孫の戦争…そのくらいの戦いでなくては困る。その力を完膚なきまでに打ち砕く為に…我々も力をつける必要があると悟った。

 

「そういえば…あの葛城とか言うヤツ、変な人でした…強い者がどうのこうのとか、生死を分ける戦いが楽しいだの、嬉しいだのと…儂には分かりませんでした…あの後拳と蹴りを交わしても…分からずじまい……」

 

「アタシは柳生ちんの強さの秘密が分かっちゃったけどね〜♪隠鬼の目…でも柳生ちんは違うって言ってたし、じゃあ答えはなんなんだろう?教科書通りの答えだったのにさ〜…それにラブリーな眼帯チョー欲しかったし!」

 

「皆さん、余計なことは考えなくていいのです…ただ、私たちの思いは一つ、黒影お爺様の願いを叶えるため、悪を滅ぼす…それが私たちの生き方なのですから」

 

「す、すみません雪泉、敵とはいえ少し戸惑ってしまいました…」

 

「そうだね〜…ゴメンごめん、でも欲しいものは力づくでも手に入れる、それが私の常識だしさ〜、まっ!柳生ちんの眼帯はまた今度手に入れれば良いわけだし!」

 

夜桜と四季は謝るようにそう言うと、すぐに気持ちを切り替えた。一方、叢は…

 

「……我は、エンデヴァーの息子と会った…」

 

「!」

 

叢の言葉に雪泉はまたしても表情が歪む。轟の時と会った時と同じくらいの険しい顔つきだ…

 

「それなら私も会いました…いえ、邪魔をされた…と言ったほうがいいですね」

 

雪泉は飛鳥にトドメを刺そうとしたところを轟によって邪魔されたのだ、()()彼らを傷つける訳にもいかない…

だから、雪泉は腹が立っている。いや、それともう一つは言葉もそうだが…何にも知らないとはいえ他人の事情を聞き出そうとするところに思わず苛立ってしまった。

 

「まあ轟さんの話は良いとしましょう…問題なのは、美野里さんです…」

 

「えっ…!?」

 

突然名前を呼ばれた美野里は、ポカンと口を開き、目を丸くする。まるで小さな小動物が驚いてるように見える…

 

「貴方は半蔵学院の連中に負けたようですね?そのうえ、敵である彼女たちと遊んでた…」

 

「そ、それは…!美野里は…ただ、遊びたかっただけだし…戦いたくないし…それに、他のみんなは強いから…勝ってくれると思ったから…だから」

 

美野里はおそる恐ると声を振り絞り、雪泉に反論する、しかし雪泉にはそんな言い訳は聞かない…何より彼女の性格なら尚更だ。

 

「言い訳は聞きたくありません…それに、貴方は雄英の生徒に泣かされたのですよ?悔しくないのですか?」

 

「ひ、雲雀ちゃんが言ってたけど、あの人は別だよ…あの人はあれが素だし…何より恐竜さんみたいに怖いもん…」

 

「……成る程、それなら美野里さんはもう学炎祭に出なくて結構です」

 

「「「「!!??」」」」

 

雪泉の言葉にその場の全員が彼女に視線を向ける。

 

「え、あ…あのさぁ、雪泉ちん、流石にそれはやり過ぎじゃない?というか、言い過ぎじゃ…」

 

「やり過ぎ?何を言ってるのですか四季さん、これは寧ろ親心ですよ?学炎祭は下手をすれば命を落とす危険性だってある。いえ、忍とは常に死が付きまとっている…そんな生半可な想いで学炎祭に出られてもこっちが困ります。違いますか?」

 

「うっ…」

 

流石にやり過ぎではないか?と四季は言うものの、雪泉はさも当たり前のように言葉を流した。言い返す言葉もない四季はぐぅの音もでない。

 

「そんな…」

 

「それが嫌なら精進し強くなりなさい。黒影お爺様の為に、そして…平和のためにも……戦う決意があるのなら話は別ですが…」

 

「わ、分かったよ!美野里、戦うのは嫌いだけど、皆んなの足引っ張るのはもっと嫌だし、それに…一人だけ仲間はずれなんて嫌だから……だから、美野里こらからはちゃんと戦う…!何より黒影おじいちゃんの為なら…!」

 

美野里は涙を必死に堪えながら、そう言うと、雪泉は安心したように頭を撫でる。

 

「それでこそ美野里さんです。学炎祭、期待してますよ?」

 

「うん!えへへぇ〜♪」

 

頭を撫でられた美野里は、とても嬉しそうだ。その笑顔は無邪気で純粋な子供のように可愛らしいものだった。美野里はいつも黒影にこうして頭を撫でていた、美野里はそれがいつも嬉しくてしょうがなかった。黒影もまた、美野里の笑顔が嬉しくて…

 

「では、帰りましょうか…」

 

雪泉はそう言うと、月閃は半蔵学院に背を向け、去って行った…

 

「………」

 

ただそんな中、雪泉の心には轟の言葉が引っかかっていた。

 

『悪がなくなったとしても、そこに正義はないぞ?』

 

気にしないようにと思っても、何故か頭の中に、その言葉が鮮明に蘇る。雪泉は首を横に振る。

 

(いえ…そんな言葉などただのまやかしに決まっている……悪と関わりを持ち、悪に染まった偽善者だ…)

 

心の中で無理やりその言葉を掻き消した。黒影お爺様の意思を全うするのが私たちの役目であり、私たちの悲願。お爺様もそう願っているに違いない。だから私はその言葉など信じない、悪や、それに蝕られ悪として染まってしまった者の言葉など…

 

しかし…

 

『悪いな、目の前に困ってるヤツがいた』

 

悪と関わり、悪に染まった者と言うのなら、目の前で倒れてた飛鳥を救うだろうか?確かに同じ仲間なら心配するのも無理はない…しかし向こうは忍とは訳が違う…

そもそも悪が誰かを助けると言った光景を一度も見たことがない。

本当に心が悪に染まっているのなら、助けないはず…しかし轟は飛鳥を助けた。

 

では、誰かを助けることは悪なのだろうか?

 

 

(轟さんにはああは言ったものの、彼の行動は悪ではなかった…いえ、悪を感じなかった…いえ、寧ろ彼の行動は正義、と言った所でしょうか…?)

 

では、悪とは一体何なのだろうか?

 

歩いてるなかただ一人、雪泉だけがそう深く考えていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、半蔵学院の方では…傷だらけになった彼女たちを医務室に運び込んだ。

怪我は致命傷ではない為よかったものの、結果は負けたようなものだ…今回は彼女たちが引いてくれた為に良かったものの、もし引かなければ半蔵学院は廃校になり、忍の資格が永遠に取れないことになってただろう…

 

「しっかし、月閃のヤツら、想像以上に強かったなぁ…アタイは結局勝負がつかなかったぜ…」

 

葛城はあの後、ずっと夜桜の相手をしていたそうだ。葛城のその底知れぬ闘志は賞賛するに値する。

 

「ええ、それにまさか大狼財閥のご令嬢である叢さんが、忍だったなんて…正直驚きを隠せませんでした……何よりも、強い…!」

 

斑鳩は先ほどの都市再開発計画を止めれなかったことに、悔やみ歯をくいしばる。そう、友人である詠の故郷を守りたいのに…今のままでは彼女に勝つことは出来ない…

 

「雲雀も、美野里ちゃん思ったよりも強かったなぁ…見た目は小さな子供だったのに…」

 

「あの四季という奴もな…月閃、侮れんな…」

 

柳生と雲雀も月閃の強さに内心驚いている。こんなに強い忍が蛇女子学園以外にも居たなんて…いや、日本中を探せば幾らでもいるのかも知れない…

そう考えると、まだまだ未熟だなという気持ちが伝わってくる…

 

「皆んなぁ…」

 

飛鳥は心配そうに皆んなを見やる。自分も怪我をしてしまったが、自分の体よりも、仲間たちの方が心配だ。

 

「あ、飛鳥さんも休まないと…」

 

「そ、それはそうだけど…」

 

自分よりもまず他人の心配をする。それが飛鳥であり、彼女の良いところだ。

雪泉は一体何故悪と少し関わっただけでこんなことになるのか…考えても答えは見つからない…それもそうだ、向こうのことなど一切知らないのだから、だがそれは逆の立場でも言えるのだが…彼女たちは気にも留めないだろう…

そんなシンミリとした話をしていると…

 

「おお、お主ら無事かの?」

 

「え?」

 

渋い、老いた声が聞こえた。声の主に振り返ると、なんと扉を開けて入って来た…半蔵の姿であった。

 

「「「「「は、半蔵(様)!?」」」」」

 

皆は半蔵が現れたことに、一瞬背筋を凍らせた。別に気まずい訳でもないし、なんの問題もないのだが、声をかけられるまで気づかなかった…まるで幽霊みたいになんの気配もなく話しかけられたので、心臓が止まるかと思った。その相手が伝説の忍であるのなら納得は出来るが…

 

「霧夜から話は聞いておる、お主ら…月閃から学炎祭を申し込まれ、戦ったようじゃな?」

 

「うん……ごめんねじっちゃん、負けちゃって…」

 

「なぁに!まだ学校があるということは勝負は終わってないということじゃろ?今回負けたのなら、次は勝てばええ話じゃ!」

 

落ち込む半蔵学院のメンバーに、半蔵は豪快に笑う。

 

そういえば、今思えばじっちゃんが怒ったことなんて一度もないな…危ないことや、怒られるようなことはしたこと無いからなのかもしれないけど…蛇女子学園に襲われ負けてしまった時や、今みたいに学炎祭で月閃に負けてしまったことなど、一度も起こった姿を見たことがない。

 

いや、一つだけある…半蔵が初めて怒ったのは、敵連合が襲撃して来た時以来だ、それ以降は見たことがない。

半蔵の優しい心はオールマイトと同じだ、オールマイトもどんな時も笑顔を絶やさない心優しきヒーローだ。

そう考えると、オールマイトと半蔵は共通点がかなり多く存在する…まあ、お互いトップの座にあたるので当然なのかもしれないが…

 

「まあそんなことより、儂が来たのは他でもない…雄英の諸君達がいるのも丁度良いのう…」

 

「え?俺らっすか?」

 

半蔵の言葉に、雄英生は息を飲む…伝説の忍が一体自分たちに何ようなのか…?もしや、爆豪と轟が個性を使ったことを知って…?

 

「体育祭お見事じゃったの!てな訳で、寿司をご馳走しようと思ってな!」

 

「「「「学生っぽいのキターーー!!!」」」」

 

なんと、半蔵自らが寿司を握り皆にご馳走してくれるそうだ。しかも話によると全てタダ、店も貸し切り、こんな上手い話はそうそうない。美味いだけに…

 

「本当は儂も見たかったんじゃが〜…生憎忙しくてのぅ、どうしても手の離せない用事があったんじゃ…なに、結果は知ってるし大丈夫じゃよ」

 

「いえいえとんでもねーっす!!アザーす!やったぜ!打ち上げだ打ち上げ!」

 

最初はシンミリとした暗いムードだったが、半蔵が来てくれたことにより、一気にスーパーハイテンションへと変わった。天国から地獄という言葉があるが、コレはその逆だ。

半蔵学院の皆も、気を取り直して半蔵のお誘いに乗ることにした。飛鳥なら尚更だろう…

 

「でもじっちゃん、急にどうしたの?」

 

「ん?」

 

喜ぶ飛鳥は半蔵に疑問を抱き問いかける。

 

「だって、急に現れたかと思ったらご馳走しようとするし、そりゃ雄英の皆んなの打ち上げは良いことだけど…でもじっちゃん、本当は何の用があったの?」

 

飛鳥の言葉に半蔵は少し黙り込む。確かにご馳走は有難いし、雄英生への打ち上げは納得がいく。しかし、飛鳥にはそれ以外のものを感じたのだ。それに、『丁度良かった』ということは、本来は飛鳥達に用があったのだろう…

 

「まあ、それは後で話す…という訳で、待っとるからの」

 

半蔵はそう言うと、扉を開けて出て行った。

 

 

 

「いやぁ、学炎祭はヒヤッとしたけど…飯おごってもらえるなんて良いな!」

 

「こんな機会滅多にねーぞ!アレだろ?伝説の忍って、飛鳥達で言うオールマイトみたいな人なんだろ?そんなスペシャルリストにただ飯食わせてもらえるなんて…太っ腹じゃねーか!」

 

皆はわっしょいわっしょいと子供みたいに大はしゃぎしてる。

 

「ま、まあ…私のじっちゃん、寿司屋で経営してるからね〜…」

 

「へ〜、半蔵って飛鳥のじっちゃんなんだな〜…しかも寿司屋経営か〜!まあ良いんじゃねーの?………ん?」

 

「え?」

 

「ゴメン今なんつった?」

 

切島は目をパチクリさせ飛鳥を真顔で見つめる。

 

「え?半蔵は私のじっちゃんでって…

 

あ」

 

「は?……え?」

 

飛鳥は思わず手を口に当てる。しまったと思った時にはもう遅かった。知ってる人以外の皆んなは一斉になって大きく叫び出す。

 

「え!?えぇ!?あ、飛鳥って伝説の…え!?」

 

「え!?が多いけど俺も言うわ!え!?」

 

「飛鳥って、伝説の忍の孫なんだ…??」

 

「はあぁいぃ!?なんですかぁそれぇ!!」

 

「ちょっ、おまっ、将来有望!」

 

「衝撃なる事実」

 

「凄いわ飛鳥ちゃん!全然知らなかった!初耳だー!」

 

「伝説の忍の孫ってことは…つまり飛鳥は…伝説のくノ一!?!」

 

皆は一斉になってワイワイと騒ぎ出し、ゾロゾロとマスコミ集団みたいに飛鳥に寄ってくる。あっ、最後の質問、気絶から回復した峰田ね?

 

「落ち着いて皆んな!落ち着いて!」

 

飛鳥は一先ず皆を落ち着かせることに集中した。勿論他の四人は苦笑しながら彼女と彼らのやり取りを遠く見守っていた。

 

落ち着いた皆んなは、まだ興奮こそは残ってるが落ち着いて来たようだ。

 

「私はまだまだだよ…じっちゃんの名に恥じぬようって、いつも頑張ってるんだけどね…」

 

飛鳥は顔を赤く染め、恥らないながらそう言った。

 

「いや、でも、なぁ?」

 

「あんな話しされたら誰もが驚く」

 

「てか半蔵寿司屋経営って、忍は引退したの?」

 

皆んな色んな声が上がってる。正直この話はなるべくしたくなかったんだが、飛鳥はついつい言ってしまったのである。元は飛鳥は真面目でお人好しな性格のため、隠し事はあまり好きではないし得意でもない。そのため嘘をつくのだって苦手だろう。エイプリルフールなんかは可愛い嘘を付きそうだ。

 

「まあ、じっちゃんアレでも歳は行ってるし…5年前か6年前くらいまでは活動してたらしいよ?」

 

なぜやめたのか、それは歳のせいであると言ってるが、現状今でも充分強い。とても歳の所為だとは思わないのだ。その為詳しい内容はよく分からない。

 

「そ、そんなことより!早く行こうよ!……あれ?」

 

「?どうしたの飛鳥さん?」

 

「轟くんいないね?」

 

「え?」

 

気がつけば轟はこの部屋には居なかった…既に帰ったのか、もしかしたら…

 

 

 

 

 

 

 

飛鳥は一人で半蔵学院の屋上に向かっていった。もしかしたら轟くんは屋上にいるのかもしれないと、そう直感で思ったのだ。扉を開けると…そこに映っていた光景は…

 

「ハァ……ハァ……」

 

「え?」

 

飛鳥の知ってる屋上は、温かいお日様が当たってとても気持ちよく、そよ風が吹くいい場所だった。

しかし目の前に映ってる光景は、全てを凍らせていた。

ベンチや柵は氷漬けにされており、床はスケート靴で遊べそうなスケートリンク場になっている。少しでも気を抜いたら足を滑らせそうだ……空気も雪泉と同じ、いやそれ以上に冷たい。

何より氷山の一角に驚いた。瀬呂や爆豪に見せた大規模な氷までとはいかないが、それでも充分デカイ、その氷山とも思わせる氷の一角は、まるで天をも貫くように思わせるものだった。そして、その場にただ一人ポツンと立っているのは…

白い息を荒くし、全てを凍てつくかと思わせる氷を身に纏っている、轟焦凍の姿であった。

 

「はぁ………はぁ………クソ!クソ!!親父のことは乗り越えたはずだ…!親父のことなんて…もう、あの時誓っただろ…あの時!!」

 

轟は氷漬けにされてる柵に頭を思っきしぶつける。それでもまだ怒りは抑え切れていないようだ。

雪泉の言葉は轟にとって逆鱗を触れたようなもの…込み上がる怒りを無理やり押さえ込もうと必死になっている。

 

「とど…ろき…くん」

 

飛鳥に言葉をかけられた轟はようやく気付いたのか、ハッと我にかえる。

 

「ああ……飛鳥か……」

 

「………」

 

「悪いな、見苦しい姿、見せちまって…」

 

轟は軽くそう言うと、左手から炎を出す。炎の熱により氷漬けにされたこの場は一気に熱で蒸発し溶けていく。それを見た飛鳥は、ジッと轟を見つめる。

 

「轟くん、やっぱり…」

 

「雪泉ってヤツの言葉、気にしないようにって思ってたんだがな…忘れようとすると何故かクソ親父が思い浮かんでくる……それを忘れようとすると今度はまたアイツの言葉が鮮明に蘇ってさ……どうすれば良いんだって思って、ひたすら悩み続けて、こう…頭の中爆発した」

 

彼は彼なりに気にしないようにと努力したが、結果こうなってしまった。轟は己の心の弱さに情けなさを感じる。

 

「他人の言葉に惑わされる俺は…まだまだ未熟だな…何も進歩してねえ…」

 

「そんなことないよ!!」

 

暗くて氷のように冷え切った表情を浮かばせる轟に、飛鳥は抗議した。

 

「轟くんはあの時とは違ってもう変わったよ!緑谷くんと闘って、様子は少し変だったしその後何があったのか分からなかったけど…少なくとも、轟くんは変われたよ……ちゃんと、進歩してるよ!」

 

飛鳥の気遣う言葉に轟はグッと心に嬉しさがこみ上げてくる。昔の自分なら目障りだと思ってただろう…しかし今は違う、素直に嬉しいと思える。それを今ならハッキリと言える。そう、轟はちゃんと真っ直ぐ成長している。進歩してない筈がない。

 

「飛鳥は、優しいんだな…」

 

「優しいって、私はこれがいつも普通だよ…?」

 

「これがいつも普通なのか…」

 

裏のない拍子抜けな彼女に、轟は思わず苦笑した。さっきまであんなに悩み苦しんでたのに、何故か飛鳥のお陰でスッキリした。先ほどまであんなに悩んでた自分がバカらしく思えてきた。

 

「なんか、悪いな…」

 

「いいよ、雪泉ちゃんに言われて悔しいっていうのは、私もそうだから…それより、早くこれなんとかしよっか?」

 

「おう…」

 

今までずっと拒んできた轟の炎は、とても優しく暖かく、彼の凍てつく心を、溶かしていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後から事情を知った轟はすぐに準備をし、半蔵が兼業してるという寿司屋へと向かっていった。賑やかな商店街に、幾つもの店が並んでいる。幾つもの店を見ている間に着いた。

 

「此処が寿司屋か?」

 

「んー、ちょっと想像してたのと違うような…」

 

「ばっか、お前こういうのこそ結構美味いんだぜ?」

 

「てか、寿司屋って大体こんな感じじゃね?」

 

それぞれの意見が飛び交うが飛鳥は気にしない。見た目は少しボロくてとても一流の寿司屋とは言えないが、飛鳥にとって半蔵じっちゃんの寿司屋は世界一なのだ。

中に入ると、寿司職人とも思わせる半蔵の姿があった。どうやら寿司のネタを準備してたらしい。

 

「おお、待ってたぞ!寿司のネタもいっぱいあるから遠慮せず食え!」

 

ガッハッハ!と豪快に笑う半蔵は、まさしく寿司職人そのものだ。伝説の忍?なんて忘れてしまうくらいに、

それにしても伝説の忍がどうして寿司屋を兼業しているのか?

飛鳥から聞いた話しらしいが、忍とは常に隠れながら生きなければならない。だから忍を引退した彼は寿司屋で余生を過ごしている。寿司屋は元々半蔵が建てたもので、今は半蔵だけでなく、飛鳥の父親に、忍だった母親も寿司屋の仕事をしている。今は両親はいないし、二人とも忙しい時があるけど、飛鳥は寂しくなかった。何故なら仲間がいるから…

 

「さて、と!何がいい?」

 

それぞれのテーブルの位置についた皆んなは子供がはしゃぐかのように騒ぎ出す。

 

「イクラ!」

 

「大トロ!」

 

「マグロ!」

 

「イカ、タコ」

 

「たまご!」

 

「おっぱい!」

 

皆んなそれぞれ注文する。こんなに忙しいのはそうそう見たことがない。

ここの店は余り繁盛してないらしく、また状況が厳しいとか…それでもここに来る常連さんたちのお陰でなんとか保つことが出来てるらしい。しかし半蔵はそれでも構わない…と言っている。

 

そう言えば、寿司屋のお陰で飛鳥はこうして生きることが出来ているのだ。飛鳥の母親は忍だ。しかし父親はそうでもないただの一般人、そんな父親はある日母親に恋をしたのだ。それから懸命にプロポーズしたとか、でも半蔵はそれを許さなかったらしい、なんでも半蔵も譲れないものがあったし、プライドというものがあった。

どれだけ頭を下げようとも、半蔵は許可を出さなかったとか…そんなある時、父親は自分の夢である弁護士を辞めると言った、そしてその代わり寿司屋を経営すると言い出した。愛する人と一緒に過ごすことが出来るのならそれで良いと……そして半蔵はようやく二人の交際を認めたのだ。

この寿司屋が、家族の始まりであり、きっかけだ。飛鳥にとっては、もう一つの家のようなものである。

 

皆んなはそれぞれ配られた寿司を食している。うん、美味い という言葉に尽きる。飛鳥は太巻きを思いっきりかぶりつく。

口の中にいっぱいに広がり、お酢が疲れ切った体に染み渡る。飛鳥は太巻きが大好きなのだ。だからいつも此処に来る時は必ず太巻きを食す。

 

「それで飛鳥よ、どうじゃ?雄英は楽しいじゃろ?」

 

ふとじっちゃんが私に声を掛けてきた。私は思いっきり頷くと、半蔵はさぞ嬉しそうににっこりと笑みを浮かべた。

 

「そうかそうか!それは良かったわい」

 

「あっ、ねえじっちゃん…そう言えば聞きたいことがあるんだけど、オールマイトってどうして教師やってるの?」

 

ビクッと反応したのは半蔵だけでなく、黙々と食べてた緑谷も思わず反応した。半蔵は目を丸くする。

 

(飛鳥…お主何も聞いてないのか?)

 

半蔵は心の中でそう呟いた。

 

(いや、オールマイトの性格上仕方ない…なら……緑谷、この少年にはもしかしたら、()()のこと…言っとらんのかのぅ?)

 

オールマイトは隠し事が多い、大半は世間には知られてはいけないビックニュースなどだが、もう一方は個人的に()()()()()()ことだ。

 

「それは()()分かる……」

 

深いため息をついた半蔵の表情は、何だかとても悲しい顔だった。飛鳥は半蔵の顔を覗き込む。

 

「じっちゃん?」

 

「ん?おおっとと、いかんいかん、ボーっとしておったわい…」

 

「飛鳥、テメェのじいさんボケてんじゃねえか?」

 

半蔵は苦笑いを浮かべながら寿司のネタを作りに掛かる。飛鳥はそんなじっちゃんの様子に、疑問を浮かべるのであった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆は半蔵が握ってくれた寿司を食べ終わると、大満足した様子を浮かべていた。

 

いやぁ美味かった!

 

ごちさんでした!

 

ごっちー!

 

デザートは大きな山とも言える桃プリンだ!

 

つまりおっぱいってことでしょこの変態葡萄が

 

それぞれ声を上げる1ーAクラス。こんなにも喜びはしゃいでくれる皆に、半蔵はとても嬉しかった。

 

「ねえじっちゃん、そろそろ良い?」

 

「ん?」

 

「ホラ、さっきのお話し…」

 

飛鳥がそう言うと、半蔵の連中に1ーAの皆んなも黙り込む。半蔵は皆を見渡すと、目を伏せ語り出した。

 

 

かつて半蔵にはある親友がいた。その親友は半蔵と同じく善忍の道を進み、彼と双璧を成す程の実力を持ち、お互い対照的なタイプであり、競い合っていたライバルであった。

 

ソイツは一言で言えば純粋だ。いや、純粋過ぎていた。

善忍として何をすべきか、それを考え抜いた結果、偏ったところに行き着いてしまった。

悪さえなくなれば全ての悲しみが消える、全てが丸く収まると…全ての人が幸せになれると、そう思っていた。

 

「じっちゃん、それってまさか……」

 

「ソイツの名は黒影。月閃の雪泉達の師にして育て親、雪泉の祖父でもある。」

 

皆は目を大きく見開いた。いや、衝撃な事実に戸惑っている。

 

「話を続けよう…」

 

何故黒影はそうなってしまったのか?何故雪泉たちはそこまで悪を憎むのか?

それは、黒影も、孫も、その弟子たちも、皆んな悪によって両親を殺されたからだ。黒影はそれから悪を大きく憎んだ。それもそうだ、現役時代は悪忍だけでなく、(ヴィラン)の活性化も大きかった。

その時代は善忍と悪忍の抗争、そしてヒーローと敵の抗争が絶えぬことなく激しかった。

そんな殺伐とした世界に、黒影は悪を滅ぼすという意思が芽生えたのだろう…そこからか、黒影はある理想を抱いた。それは───

 

───『善のみ存在する世界』だった。

 

そんなことできるわけが無い、そんな世界は正義とも善とも呼べない…そこには光なんて存在しない…

 

光りと影があるからこそ世の中は成り立つ、半蔵はそう考える。光あるところに影がある、善忍が存在すれば悪忍も存在するように、ヒーローが存在すれば必ず敵も存在する…良かれ悪かれそれが自然の摂理、仕方のないこと…

 

黒影と半蔵は、袂を分かつしかなかったのだ…

 

黒影は悪というものならば容赦無く殺す…だからヤツは忍学生卒業後、お互い違う道を歩み、トップとも呼ばれる善忍社会に歓迎され、大企業の忍務を難なくこなした。とはいえ、善忍の仕事は悪忍と戦う任務ばかりではない…

彼はフラストレーションを溜め、物足りなかったのか、とうとう忍務でもないのに関わらず、悪忍と敵にまで手を出したのだ。悪忍狩り、敵狩りと言った行為を行った彼は、これは世のためだと思い、責められる理由もないし、問題ないと思っていた。数多くの悪忍を殲滅することが黒影の成功であり、一つでも悪が消えることこそ、黒影の悲願なのだ。

 

確かに善忍にとって悪忍は敵である。悪忍を倒すのは当然のことで、そこに否定が入る余地はない。黒影はそう確信したのだろう…

 

しかし、それは若過ぎるが故の無知だった……黒影は純粋過ぎた為、知らなかったのだ。

 

善忍と悪忍はお互い時には協力し合うグレーな重要人物たちがいると…忍務以外に手を出すとどうなるか、それはヒーローと同じだ。

ヒーローからすれば犯行というもの…ならば忍の場合は追放され、抜忍となってしまう…

そして黒影は抜忍の身となり、善忍悪忍の両方の存在に追われる身になったのだ。

 

善と悪は背中あわせだけでなく、時には複雑に混じり合っていたりするものだ。

別れる際に黒影はこう言った…

 

『悪が憎い、善を蝕む悪が憎い!オレは悪が許せない…身勝手な悪のせいで多くの命が死んでいく…そんな悪がオレは絶対に許せない!オレは、善しか存在しない世界を作ってみせる!』

 

その後、黒影は一人で悪忍と敵を狩り続けてきた。勿論そんな違法行為が許されるハズがなく、善忍と悪忍、恨みを買った敵、忍を知るヒーローからでさえも命を狙われることになった。

 

「儂はそんなヤツこそが悪に思えることさえあった…過ぎたるは及ばざるが如し。行き過ぎた正義も悪になる…全く、笑えぬ話よ…」

 

半蔵は遠い目をしながら寂しそうにそう呟いた。今思えばさっきまで騒がしかった空気も、今は静寂な空気に包まれていた。

 

「まあ、()()()の黒影の気持ちは…分からんでもなかったがな……」

 

「そんなことがあったんだ……」

 

飛鳥はポツリと呟いた。

 

 

そしていつしか黒影の噂は聞かなくなり、悪忍、敵狩りも行われなくなった。

ある最上忍が動いたという噂があったので、黒影は極秘に処分されたのだと誰もが思った。

恨みを買った敵は嘲笑い、ヒーローは詮索をやめ、善忍と悪忍も同じく詮索をやめた。

 

ところが、五年前のことだ。悪忍との争いで親を失った子供達を引き取って育てている者がいると言う情報を得た。

 

そしてその者が黒影だというのだ。

 

本部は黒影の行為を見逃さなかった。もちろん忍もヒーローも…

悪忍の被害者の子供達を率いて、黒影は再び悪忍と敵を殲滅させようしている。それも、ようやく抗争が終わったというのに…

この時期に悪忍と敵を狩る、それは新たな革命を起こすに違いない、と。そう判断したのだ。

黒影を暗殺するために、本部は二人の忍を派遣した。しかしその忍は暗殺に失敗した。やられた訳ではない、ある報告書が提出されたのだ…

 

『黒影に悪忍狩り再開の意思なし。現在は五人の子供達と密かに暮らしている…暗殺の余儀はないと判断する』

 

それが、葛城の両親で…

 

 

「アタイの両親が!?!」

 

葛城が驚いた声をあげた。葛城の両親が何も言わずに抜忍になったのには何か理由があると思っていた。しかし、まさかこんな形で理由を知ることになるとは思ってもいなかった。葛城は衝撃のあまり目から涙がポロポロと落ちていく。

 

「そっか……雪泉ちゃんが言ってた、力さえあれば全てを統べることが出来る。それを何としても見せてあげたいって、その見せてあげたい人は、黒影さんだったんだね…」

 

半蔵は黙って頷いた。

それを聞いた皆はざわめく声を漏らす。

 

「なんだよ黒影さん…男らしいじゃねえか!涙流しちまったじゃねーかこんちくしょう!」

 

「まさか、そんなことが…」

 

「黒影さんへの恩返しなのかな?」

 

「月閃の皆さんは、黒影さんのために戦って…」

 

皆は複雑な顔をする。そんななか、轟は無口のまま、ずっと手を見つめていた。

 

「………これって、俺と同じだ……」

 

そう呟いた。

轟は父親を憎み、否定し、大好きなお母さんのために会わなかった。でもお母さんに会いたかった。

 

それと同じように…

雪泉は悪を憎み、否定し、敬愛する黒影のために理想を叶えようとした。そして見せてあげたかった…

そういうことだ。ここまで共通点が繋がると、自分自身不思議で仕方がない。

 

そうだ、雪泉を見ていた時、何かを感じたのはそういう感情だったんだ。

 

つらみ恨みで動く人間を幾多もなく見てきた。だから、雪泉や、雪泉達に違和感を感じた、その正体がこれだったんだ。

だから、あの時雪泉は怒ったのだ。何も知らないとはいえ、憎むものの話を振ってきた轟を……その気持ちは大きく共感できるものだから……

 

 

半蔵は皆を見やる。

 

「飛鳥たちよ、少し戦いづらくなったかの?」

 

「ううん、そんなことないよ。むしろありがとう!この大事な話をしてくれて…!」

 

飛鳥はそう言うと席に立ち上がった。

 

「飛鳥よ?どうした?」

 

「少し、外の空気を吸いたいな〜って思って!お散歩してくる!」

 

そう言うと、飛鳥は店から出て行った。

そんな飛鳥に、半蔵は心の中で呟いた…

 

『頼んだぞ飛鳥たちよ…ワシの親友である黒影の、そしてその愛弟子である雪泉たちを、救ってくれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出た飛鳥は、店より少し遠い方へと歩いて行った。外の空気を吸いたい、それは嘘でもないし、散歩したいというのも本音だ。ただ少し思ったのが、雪泉たちがそんな辛い思いをして過ごしてきたと考えると、胸が痛むのだ。だからなんとなく一人になりたいのだ。

 

「雪泉ちゃん達の気持ちは分かった。でも、私にも譲れないものがあるんだよ…だから、この勝負。雪泉ちゃん達のためにも、負けられないな!」

 

気持ちをはき出せずにはいられなかったから…スッキリした飛鳥は、店に戻ろうとする。

すると…

 

「あのー!すみません!ちょっと良いですか?」

 

後ろから声が聞こえた。女子の声、身長は飛鳥とそんなに変わらないくらいだろう…

 

「はい?」

 

振り向いた飛鳥は、その女子をみやる。

 

「あの〜、ちょっとある人を探してて、この写真の人を探してるんですけど〜、お聞きして良いですか?」

 

「はい!もちろん良いですよ!」

 

飛鳥は笑顔で答えると、その女子は嬉しそうな笑顔を浮かべた。

困ってる人は助けなきゃ、困っていたら助け合うのはお互い様だ。飛鳥はその少女の持つ写真を見てみた。

 

「え?」

 

その写真を見た途端、飛鳥は血の気が引いた。背筋が凍りつくような悪寒、一瞬心臓がえぐられたかのように思えた。

 

「いやぁ〜、この人に是非会いたいな〜って思ってさ、なんちゃって♪」

 

どうしてこんなに動揺してるかだって?だって、その写真に写ってたのは…

 

 

私だから

 

 

私はその少女の顔を見た。するとその少女は薄く笑い、こちらを見つめていた。この粘つく不穏な気配…

 

「まあ、でもさ…やっと会えたよ…貴方と会うのは初めてだからさ…」

 

 

初めてだけど、気配だけで分かる。この殺気、間違いない、この人は…!!

 

 

 

「取り敢えずお話でもしようよ、飛鳥…」

 

「抜忍…漆月!!」

 

蛇女子学園を襲った、敵連合の抜忍・漆月だったのだ。




雪泉たち月閃の皆んなを救うために、戦う覚悟を決めた矢先にまさかの最悪の遭遇、サブタイトルのもう一つの意味、これね?

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