今回は特に…ハーメルンの小説投稿で新しい小説を作ろうかと考えており、半分なかなか手が付けられませんでした。もう半分は忙しい用事です。
遅くなりましたが新章突入です!(やっとね
47話「斑鳩と村雨」
雄英体育祭が終わった翌日、雄英の生徒たちは今日と明日二日間の休みだ。
その間、飛鳥たちは半蔵学院で修行をすることになる。
まるで昨日の出来事が嘘みたいに、いつもと変わらぬ日常に戻っていた。そのことに皆どこか安心感が来るのか、あるいは何処か寂しい何かが湧いて来るような、そんな曖昧な感じでもあった。
「あれ?霧夜先生、斑鳩先輩に葛姉は?」
修行を始める前に一つ、飛鳥が疑問に思い質問をした。確かにいるのは飛鳥、柳生、雲雀のいつものメンバーだ。
「斑鳩と葛城は卒業試験に備えて修行中だ…まだ来年まであるとは言え、今から試験に向けて修行しなくてはな」
「ふえぇ、もう今からやってるんですかぁ…」
飛鳥は信じられないという顔で驚愕し、ため息をつく。
「でも確かになぁ…試験は難しいし……修行ってどんなことやってるんだろう?」
「そんなことよりお前たちは修行を続けろ」
「「「はい!!」」」
あの二人がいなくとも、この三人でやっていかなければならない…
そう、こいつらは雄英としても生徒として活動させてもらっている。
今年一年はどうにも可笑しいのだ。始まりは抜忍のことだ、世間に忍の存在を知らしめ、被害を及ぼす。それが漆月のやり始めたこと。
次にヒーロー殺しステイン。
これは漆月とは繋がりがあると俺は睨んでいる。ステインがいくら幾多ものの殺人を繰り返す殺人鬼とはいえ、忍を殺すことは出来るか?いや、まあ個性や場合によっては殺すことも考えられるが…だがここで俺は思ったのだ。
何故ヒーロー殺しステインは忍の存在を知っているのか?
漆月は世間に知らしめ被害を及ぼしていると言うなら、漆月とステインは何らかの接触があり、忍の存在を知った敵は他の忍に危害を加えたのではないか?俺はそう勘付いたのだ。
漆月を始末することに協力してくれた雄英、そこで忍学生である彼女たち三人を選び、雄英の生徒として振る舞い、お互い協力し合うことに成功した。
そう、ただ漆月を捕まえる。それだけだったんだ…
ある時飛鳥たちから聞いた、それは敵連合と名乗る敵の集団テロリストたちが襲撃して来たと。しかも飛鳥たち忍の存在を知っていると来たもんだ。更にあの一年にして天才である柳生でさえ酷い重傷を負ったくらいだ。
そして超秘伝忍法書と雲雀を取り返す時も、またしてや敵連合が現れた。それも抜忍・漆月が敵連合として仲間になっていて…
ここまでして騒ぎを起こす敵たち、更に抜忍・漆月が手を組んだことにより俺たちは敵連合との集団を相手にしなければならないという訳だ。
勿論これは俺たち半蔵学院だけでの問題ではなく、全校の忍や日本中の忍たちもそのことは知っている。今も捜査中とのこと…
では何故その件について我々半蔵の生徒が選ばれたか…それは飛鳥の祖父、半蔵様とオールマイトが繋がっているからだ。
どういった経緯かは知らないが、歳は離れてるとはいえ、昔からの仲らしく、今も時々協力しあってるそうだ。
それに雄英は口が硬い、そのことを知り、我々や上層部は大きく賛成した。
そう、その日から現在、飛鳥たちは見違えるほどに大きく成長した。
普通の修行でつけた力ではない、彼らヒーローとこいつらが忍が協力し合うことで、強くなったのでないか?と俺は思うのだ。
まあ、だからと言って修行はやって貰うがな…
そんなことを思いつつ、霧夜は彼女たちの修行を見つめていた。
「よし!休憩!!」
「ふへぇ〜〜…やっとだぁ〜…」
アレから4時間ぶっつけで修行してやっと休憩が入った。
飛鳥たちは汗だくでその場に思わず座り込む。
「疲れたなぁ〜…」
「斑鳩や葛城が居ないとはいえ、今日の修行はヤケに厳しかったな…」
「うん、だよね…でもやっとお昼食べれるよ〜!」
三人はそう言いながら部屋に戻ってきた。
「そう言えば…懐かしいよね。ここで昼ごはん食べるの」
「そうだな…今まで月〜土曜まで雄英で昼飯を済ませてたからな…」
「雲雀たちもヒーロー科扱いで6限もあるもんね〜」
そう、雄英高校は国立だが一貫して学校週6日制となっているのだ。他の学科は土曜日は4限までだが、ヒーロー科のみ6限までである。更に土曜日を除いてヒーロー科だけ7限まで、学科によって扱う授業や日課が違うのだ。つまりヒーロー科は他の学科と比べて割とハードである。
「うん……あっ、そうだ!雲雀ちゃんと柳生ちゃんは昼何してるの?」
「昼食か、まあ弁当は雲雀の分まで持ってきて一緒に食べてるな…」
「雲雀は柳生ちゃんの分までお菓子持ってきてるんだ〜♪飛鳥ちゃんも今度食べる?」
「え、ええ〜っと…ええ〜…」
食堂で食べてるのなら誘おうと思って聞いてみたのだが、生憎二人の場合それはお邪魔になってしまうのでやめておく事にした飛鳥であった。
「昼飯の話はさておきだ…俺たちも強くなるためにももっと修行しないとな…」
「や、柳生ちゃん…やけに張り切ってるね?」
「当たり前だ、あいつらがあんなにも強くなってたんだぞ…それに俺たちはあの時何にも出来なかったし…あいつらだけ強くなって俺たちが弱いじゃ話にならないだろ」
「あっ…」
ヤケに気合いのある柳生に、飛鳥は面食らう。
「そうだね、みんな成長してるんだもん!雲雀たちも頑張らなくっちゃ!それにしても体育祭凄かったなぁ…皆んな誰にも見せたことのない一面があったりして、とても強い芯があって…雲雀も負けられないって思った!」
「…そうだよね」
雲雀も柳生と同じく張り切っているのか、袖をまくって今でも組手をやりそうな構えを取る。
(そうだよね…皆んな、夢に、目標に向かって、頑張ってた……皆んな強かった……)
確かに雲雀の言う通り、あの戦いでどの人も負けられない想いや強い芯を持っていた。意外な一面を持っていた。
そう思うと自然と誰にも負けたくない、勝ちたいという想いが強くなってくる。
皆んな諦めずに、目標に向かって頑張ってた。どんなに挫けそうになっても、辛くても、涙が出ても、決して最後までは諦めなかった……それが皆んなの強さなんだって私は思った。
そう、私たちも同じだ。欲しいものがあるなら、命懸けで取りに来る。
それが例えどれだけ困難でも、どんな強敵であろうとも、どれだけ傷み苦しもうと、負けない、諦めない。
それは私も同じだ。そう、忍の道を極めるまでは。
「私も…負けられないな…!よし!それじゃあ早速修行だぁ!!」
「待て飛鳥、昼飯がまだだ…」
「あっ、そうだったね…アハハ…」
「やれやれ…」
陽気でマイペース、流石は飛鳥だ。半蔵学院のチームを引っ張るリーダーでもある。
「じゃあ昼食は〜…あれ?そういえば斑鳩先輩と葛姉は?試験の修行でも昼食はここに来るんじゃないかな?」
「いや、分からんぞ…昼食も別々だったりするかもな…もう昼なのにここに来てないのが何よりもの証拠だ…」
「ええ〜…」
斑鳩と葛城が此処には来ないと知った二人は、大きくため息をつく。柳生に至っては相変わらずシンプルでクールだ。
「ん〜、じゃあね〜………っ!そうだ!」
「?どうかしたのか飛鳥?」
「いいこと思いついたよ!確か三年は特別訓練室だったよね?」
「ああ、そこで食うのか?」
「うん!でも霧夜先生が来て見つかると何か言われそうだから…万が一のためもって思ってコレ!」
「ん?」
飛鳥は台所に行って何かを持ち、掲げるように二人に見せた。それは…
「ああ…」
「おお〜!」
「これで試験修行お疲れ様って意味で持っていくんだ!それでどうせなら一緒に食べよう?みたいな感じで誘えばいいんだよ!」
「なるほど、飛鳥にしては冴えてるな」
「むっ!今のはどういう意味なの柳生ちゃん?」
「いや、何でもない…」
多少自分をバカにされたように思えた飛鳥は、柳生をジッと見つめる。
「そうと決まればレッツゴー!」
そうと決まった雲雀は元気よく満面な笑みで向かっていく。その無邪気な笑顔はまるで幼い子供のようだ…
飛鳥たちが修行を終える少し前…
「はぁ…はぁ……」
物静かな空間に佇むは一人、飛燕使いの斑鳩。試験修行のせいなのか、身体中から汗が滝のように流れ落ち、息遣いがとても荒い。
「もう一回…」
そう呟くと、また目を閉じた。この部屋には何もない…特別な修行部屋。その中でまた静寂な空気が流れ、物音一つ立てることのない空間となった。
彼女は何をしてるのか?それは瞑想だ。
そして彼女の頭の中では…
何体ものの真剣と実弾を装着した木偶人形、傀儡が襲いかかってくる。どの木偶の動きも手に取るように読める。
いける、着実に、少しずつ、焦らず…慎重に…これなら、出来る!
そう思った瞬間。振り返ると背後から、木偶が真剣を振り下ろし背中を切り捨てた…
「……っは!!……はぁ……はぁ……また、ダメですか……」
思わず大声を叫び、瞑想を解いた。
そう、これこそが卒業試験に向けての修行だ。これで何回目になるのだろうか、頭の中で何度も同じシミュレーションを繰り返すものの、上手くいかない。流石に卒業試験への難易度は高い。
真剣と実弾を装備した木偶人形を無傷で全滅させる。それが今回卒業試験への内容である。これをクリア出来なければ一人前の忍として認められることは出来ない。
そう、また不合格ならそこで己の忍の道は閉ざされてしまう。つまり今まで積み上げた来たものが全て無駄になるのだ。
そう、どれだけ頑張ろうと結果が出なければ意味がない。
卒業試験まではまだ時間はあるものの、油断してはならない…本当に忍の道を極めるのならば、いいや、本当の忍になりたいのなら、今から実践するべきなのだ。
忍に情けは不要。
甘えるな、強くなれ。
忍は強さが全て。
現代この世の忍はそれがなければ生きて行くことは出来ない。厳しい世の中、それを支える者が必要、それが忍だ。なら自分たちは更に厳しい世界に耐え、忍となり影となり、この世を支える存在にならなければならない。忍の存在する理由は、それだけだ。
そんなことは分かっている…なのに、なのに自分の心の中は雑念だらけ…どうしたといことか…こんなので本当に忍になれるのであろうか?
私は自分に問うた。
緊張なのか、焦りなのか…よく分からない。ただ今言えることは、このままでは卒業試験は合格出来ないということだ。そんなことでは皆に顔向けが出来ない…胸を張り、自信を込めて忍になる。だなんて言えない…どうしたものか…
その時、背後で気配を感じた。この気配は飛鳥さんや、柳生さんに雲雀さんではない?気配は一人…かと言って葛城さんでもない…では一体…
「そこにいるのは誰です!?」
振り返るとそこには…
「よぉ…斑鳩…」
「っ!お、お兄様!?」
そこに立っていたのは…高級シルク白装束と、腕に巻かれた鎖鎌。何処と無く痩せ細った身体。この独特の風貌を見間違えるわけがない、自分が最も知っている…村雨お兄様だった。
「……久しぶりだなぁ…妹よ…いや、正確には血の繋がっていない……義理の妹だったな…」
「…っ」
血の繋がっていない妹。
そう、私はお父様とお母様の本当の子供ではない。忍の道を継ぐために名家として迎えられた養女なのだ。私は立ち上がり深々と頭を下げた。
「お久しぶりです、村雨お兄様」
自分で言っておいてなんだが、確かに久しぶりだ。余り実家…鳳凰財閥の屋敷に戻ることも余りなく、今は忍の寮で過ごしてるためお父様とお母様はおろか、兄の村雨にすら会ってなかったのだ。
最後にあったのは…飛燕を盗もうと半蔵学院の忍学科の寮に侵入してきた時の話だ。
「俺がここまでどうやってきたのか、気になっているのだな?」
髪の毛はぼさぼさに伸び、肌ツヤも良くない。会うたびに不健康な身体になっていく。
「は、はい…」
私は思わずぎこちない返事をした。
「なめるなよ!」
するとお兄様は目を剥いて私に怒鳴りつけてきた。懐かしい…家ではいつもこんな風に怒られていた。
「俺の家はあの鳳凰財閥だ!学校に沢山金を出してるんだよ!家の名前を出せば簡単に中に入れるに決まってるだろ!」
「し、失礼しました…」
相変わらずこうなると当たりが悪くなる……再び苦手意識が強くなる。
でも言われてみれば確かにそうだ、鳳凰財閥との繋がりは強いし何より自分もその家で世話になった、お兄様が入れるのも当然かもしれない…
「わ、分かれば良いんだ…」
本当だったら一人っ子のお兄様が忍の道に進むハズだった…しかしお兄様は半蔵学院の入学適正検査で不合格となった。残念ながら忍の才能がなかったのだ。
『村雨の代わりに、当家の忍を継いでもらいたい』
今のお父様にそう言われ、養女に迎い入れてから、わたくしは後ろめたい気持ちを抱き続けた。
もし、わたくしがいなければお父様は養女を考えず、お兄様が傷つくこともなかったのかもしれない…劣等感のこもったお兄様の視線を感じるたびにやりきれなくなって心が痛んだ。
「そういえばお兄様、ご卒業が決まったとお聞きしました…」
因みにお兄様は名だたる大学の4年生、専攻は経営学。卒論も無事に完成し、単位も問題なし、今年の春に卒業予定なのだ。
「あ、ああ…そうだ……まあ、俺の話は良い…別にお前よりちょっと頭脳が秀でているだけのこと…」
お兄様はふと視線を落とし、そして珍しく優しい声になった。
「実は、大学以外にもセミナーのようなものに通っていてな。そっちの方はこないだ皆んな卒業したのだ…例えばコミュニケーション能力のスキルアップ教室や素直になる精神統一セミナー、そして…」
「…?」
そこまで言うと、お兄様は口ごもった。
「ま、まあ、そんなところだ!」
「流石ですお兄様、おめでとう御座います」
再び深々と頭を下げた。忍の道を諦めたお兄様は、お父様の後継ぎとして道を勉強中だ。わたくしには経営の世界はわからないが、コミュニケーション能力の教室などに通うことも必須とされるのだろう。なかなかに厳しい世界だ。
「……ところで斑鳩よ、お前が卒業論文を貰うには何が必要なんだ?」
「それは、卒業試験に合格することです…」
「…いいや、違うな。お前には卒業試験を受ける資格すらない…」
「えっ?」
お兄様の言葉を聞いて、思わず声を出してしまった。
「まずはお前に必要なのは…オレとの決着だ!」
お兄様は不敵に笑うと、一歩後ろに下がって腕の鎖鎌を解き始めた。
「さあ斑鳩よ!飛燕を抜け!本来ならばオレが引き継ぐべきだった家宝を!」
これを聞くのも何度目だろうか…お兄様のギラギラした眼差しが突き刺さる。私は渋々、飛燕を抜いて構えた。
お兄様は嬉しそうに鎖鎌の分銅を振り回し始める。
「妹よ、オレが今までどんな気持ちでいたのかを知っているか!?」
私はその場で頷くことも、首を横に振ることも出来なかった…どちらにしてもお兄様を傷つけてしまう。そう思ったからだ。
「オレの気持ちはただ一つ!お前が本当に飛燕に見合う器なのか、それを身をもって感じたいのだ!」
分銅のスピードが増し、うなり始めた。それはまるで、お兄様の気持ちの高まりを表現しているかのようだった…
「行くぞ我が妹よ!鳳凰財閥の次期当主、村雨からの卒業試験だ!」
お兄様は私めがけて分銅を投げてきた。
「これが町内鎖鎌大会六位の実力!思い知れええええぇぇぇぇぇ!!」
そしてその叫びと共に鎖が私の体に巻き付いた。
私は黙ってお兄様の目をジッと見つめた。いつになく真面目で、透き通り、純粋な眼差しだった。まるで幼い子供のような雰囲気が少しだけあり…
その目を見て、心が決まった。
私は両腕に力を入れて鎖を緩めると、そのまま高々と跳躍した。そして飛燕を握り直し、空中で一つの線を描くかのように一閃。着地と同時に鞘を収めた。
「…なっ!?い、妹よ…いつだ?いつオレの鎖から抜け出した?」
お兄様はポカンとした表情をしている。やはり忍ではない人間にとっては当然なのか、私の動きを目で終えてはいないようだ。そんなお兄様は冷や汗を垂らしながらも、分銅を回し始める。
「逃げ足は早いようだが…これは鎖から逃れる勝負ではな「お兄様、もうありません」え?」
「振り回すものが、もう何もありません…」
わたくしの一閃で砕かれた鎖が、粉々になった。お兄様の頭上に降っていく…お兄様は唖然としていた。
「……ハ、ハハ…ハハハッ!ハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!」
「っ!?お、お兄様…?」
途端、血の気の引いたような顔でお兄様は大笑いし始めた、ふと不気味なお兄様の顔を見ると、目には大粒の涙が浮かんでいた。わたくしはハンカチを取り出すと、急いでお兄様に手渡した。
「お兄様、これを」
お兄様はハンカチを手にするなり、思い切り鼻を二回かんだ。くちゃぐちゃになったハンカチをお兄様は懐へと突っ込んだ。
「町内の鎖鎌大会で六位、他にも8人しか参加してない世界からくり屋敷大会で七位、子供しか参加できない手裏剣大会に無理やり出場して12位…それがオレだ…
そう、オレは無名の大会で小さな満足を貪る。そんな哀れな日々を過ごしてきたオレと、一流の忍育成所を卒業しようとうお前とでは格が違って当然…そう、全く別の生き物なのだろう」
お兄様の頬から大量の涙が伝わり流れ落ちてる姿を、私はただ見てることしか出来なかった。
「それを認めようともせずにオレは、お前を恨み妬むことで安いプライドを保っていたんだ…しまいにはオレはお前を傷つけることしか出来なかった……いくら血の繋がっていない兄妹とはいえ、義理の妹とはいえ、オレは一度もお前に優しく接しようとしなかった……情けない…情けないよオレは…」
私は正直驚いていた。何故ならお兄様がここまで私のことを想い、心情を吐露したことはなかった。まるで別人のようだ、そんなお兄様に私は尋ねる。
「どうかなされたのですか?一体、なにがあったと言うのでしょう…」
「何でもない…これが本来のオレだ」
本来のオレ…そう言われると自分は、今まで本当のお兄様の姿を見てなかったのだと心の底から思い知らされた。今までのお兄様は、私の存在を否定し、恨み妬みをする、それがお兄様だと思っていたからだ。するとお兄様は扉の方へと向き、背中を見せると、振り返りぎこちない笑顔を見せた。
「妹よ……オレの子供の頃からの夢…忍になるという夢はお前が叶えてくれ……オレが叶えれなかった夢を、お前が叶えてくれ……そう、約束してくれ……これは、兄からの約束だ……」
お兄様はそれだけ言うと、部屋から静かに去っていった…
「……お兄様…」
そう、お兄様の背中を見つめて声が溢れた。何気ないお兄様のいた床を見ると、折りたたまれたA4用紙が落ちていた。それは…「シスターラブ!妹と仲良くする秘訣!」というセミナーの卒業論文だった。お兄様の様子が変だったのは、これが理由だったのだ。
「お兄様が、わたくしと仲良くしたいと思っている…」
今までのことならあり得なかった…お兄様が私にそのようなことをするなんて…私の知っているお兄様はてっきり…いいや、違う。
私が、お兄様のことをちゃんと見ていなかった。
私の心の何処かにあったはずだ、苦手意識と共に、どこか避けていたり、見ようともしなかった…いつしか嫌悪していたのだ…存在そのものを…
だから自分はお兄様の気持ちを知ろうともしなかった、本当のお兄様を知ろうともしなかった…見ようともしなかった。
そうだ、それは確かあの人にも言われた…
斑鳩が思い出した人物、それは飯田の兄、天晴のことだ。
あの人はお兄様とは真逆の人物。先日の雄英体育祭で相談に乗ってくれた人だ。
その人の言葉を私は思い出してきた…
真っ直ぐ向き合うのが大切。認めさせれば良い。血の繋がりこそ家族ではない。
そうだ、思い出した……忘れていたわけではないが、何故だろう、彼の言葉が鮮明に蘇るように感じたのだ。
そして思った…本当なら向き合うのは自分からなのに、認めさせるのは自分からなのに、全部お兄様にもってかれた…どれだけ忍として強くても、強くなっても、お兄様には敵わない。
初めてそう思えた、初めてお兄様の優しさを肌身で感じることが出来た、初めて家族として認めて貰えた。
思わず涙が溢れそうになるが、ぐっと堪えた。お兄様にハンカチをあげてしまったからだ。
私が忍になればお兄様は怒り悲しむだろう。そう思っていた…
二人の間にも決定的な溝が生まれるに違いない。それが私が飯田さんの兄、天晴さんに相談した理由。私の心に迷いを生んでいたのだ。
でも今はもう違う、お兄様は言った。
『忍への夢を代わりに叶えてくれ』と…
ならばやることはただ一つ…お兄様の為にも、卒業試験は絶対に合格し忍になる。
「お兄様の分まで、頑張らなければいけませんね…」
もう心に迷いや雑念はない、吹っ切れた今なら、例え相手が卒業試験であれなんであろうと負ける気がしない。
「ありがとう…お兄様」
少し時間が経ってから…
「あっ!斑鳩先輩!」
「お、斑鳩も順調だな!」
「これは…飛鳥さん達に葛城さんではありませんか、どうかなされたんですか?」
斑鳩が再び卒業試験への修行を再開しようとした時だった、葛城や飛鳥達が突然部屋にやって来たのだ。
「これ、差し上げで〜す!」
「これは…太巻きですか?」
「うん!」と飛鳥は満面な笑みでこくりと大きく頷く。
「そう言えば…もう既にお昼が過ぎてましたね…」
先ほどまでお兄様と話していたためもう既に昼が過ぎてるのが分からなかった。確かにお腹も空いてきた頃ですし、今からお昼にしましょう。
「うお!こりゃまた美味そうな太巻きだな!」
「では、皆さんで頂きましょう」
そう言うと皆は一斉に太巻きにかぶりつく。
「うん!美味えなオイ!」
「はむ……ええ、疲れた体にお酢が染み渡りますね」
葛城は太巻きを頬張り、斑鳩は太巻きの良さを味わいながら食べている。
「卒業試験の調子はどうですか?」
ここで飛鳥が二人に聞いてきた。
「アタイはこの通りバッチリさ!」
「私も、迷うことなく卒業試験に励むことが出来ます」
それを聞いた飛鳥はホッと一息ついた。
「そっか!それなら良かったよ〜…それにしても今から卒業試験の修行なんて大変そうだよ…」
「分かる、分かる!雲雀も同じこと考えてた!」
それもそうだ、一人前の忍になるために、卒業試験は欠かせないし、まず乗り越えなければならないもの…それはきっと飛鳥達にもやって来る。それは分かっていてもいざとなると気持ちの整理が上手くいかない。
「まあ、けどアタイらが卒業試験に合格出来たら、お前らだって絶対合格出来るぜ!」
葛城は後輩たちに笑顔でそう言うと、3人は何処かホッとした様子を浮かべた。
そう、そんな話をしている時だった。
「…ん?……誰か、ここに来てる?」
何者かの気配を感じたのは…
「飛鳥ちゃん、どうしたの?」
「うん、あのね…只者じゃない気配がするんだ……しかも私たちと同じ気配……
っ!?まさか…!」
同じ気配、ということは飛鳥たちと同じく忍の何者かが此方へやって来たのだろう…誰なのかは分からない…少なからず忍であることに間違いはないだろう。しかし何故こんなところに?しかもこの気配は今までに感じたことのない気配…初めて感じる、寒気がする気配…一体誰が何の目的で半蔵学院へやって来たのか…
「私たちも行きましょう!」
斑鳩の言葉に皆も頷く。気配のする場所は校庭だ。恐らくそこに居るのは間違いないのだから…
飛鳥が先に校庭に到着すると、そこには…
「ここが半蔵学院ですか…善忍養成学校の癖にこうもセキュリティーが甘いとは…呆れて物も言えませんね…」
灰色に近い髪の色に、雪のような真っ白な肌をした清楚な女性が立っていた。他にも四人…全員見知らぬ女性が佇んでいた。服を見る限り同じ忍学生ではあるようだが…
「どなたですか?」
ここで到着した斑鳩が彼女に問う。見ただけで分かる、この人たちは忍でありながらかなりの実力者であることを…すると先ほどの女性が口を開く。
「私の名は『雪泉』。死塾月閃女学館を束ねております」
「死塾月閃女学館…あの善忍養成学校の…」
そう、死塾月閃女学館とは飛鳥たち半蔵学院と同じく善忍を育成するための学校。しかし半蔵学院のように一般生徒がいる所ではなく、忍生徒だけが存在する学校。因みに月閃は山奥に存在するため簡単には見つけられない。それどころか潜入すら難しく、セキュリティーも万全だとか…
「へぇ〜…これが半蔵学院の選抜メンバーか…あっ!アタシは『四季』!宜しく〜♪」
金髪でギャル系の女性、四季。
「儂の名は夜桜じゃ…」
青い短髪の女性、恐らく真面目な性格であろう… 夜桜。
「美野里だよ!皆んな宜しくね♪」
ツインテールをした元気の良い子共?美野里。
「そして最後に、此方が叢さんです…」
「……」
ここは先ほどの流れで言うかと思ってはいたが、何も物言わぬ為、雪泉が紹介してくれた。その叢という人物は般若のお面を被っており…
「全員を紹介した所で、私たちは今ここに…
『学炎祭』の開催を宣言します!」
はい!今回はキリのいい所で終わりました!また新たな戦いの始まりです!そしてようやく月閃メンバーの登場です!しかも雪泉がもう主人公ポジションというね。うん。
因みに雪泉ちゃんを初めて見たのは閃乱カグラのOVAであり、そこからSVをやり始めた訳ですが、もう当時は雪泉の性格に驚きました。「えっ!?雪泉ちゃんこんな性格だっけ!?」みたいな感じでした。