光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

46 / 253
やっと出来たZOY!☆
実は昨日投稿しようとしたら寝てしまって起きて投稿するの忘れてました。すみませんでした。
という訳でいつものことですが、45話始まります。


45話「決勝戦開始」

戦いが終わった後、緑谷は気を失っているためハンソーロボに搬送されリカバリーガールの元へ、一方轟は以前よりも顔色は変わっており、無表情のまま舞台に背を向けその場を去る。

観客席からはドヨンとした空気が流れ、ザワザワしている。

 

「何だあの緑谷ってヤツ…何したかったんだ?」

 

「さあ?煽っといて結局負けて…勝ちたかったのか負けたかったのか…よーわからんヤツだったよな」

 

「まあ気迫は良かった、なんかこー、熱かった」

 

「でもあんだけボロボロになってりゃ無理ねーかもな」

 

勝った轟よりも、負けてましった緑谷の方に言葉が偏った。

それは決していい意味でもなく、また悪い意味でもないような…なんとも言えない感じだ。

 

 

無言のまま歩み続ける轟は、中に入ると…

 

 

「邪魔だ退け……とは、言わんのか?焦凍よ…」

 

 

待ってましたと言わんばかりに、そこで仁王立ちしているエンデヴァーがいた。

 

「やっと子供じみた駄々を捨てたな…そうだ、それで良い!お前は俺の力を使うことでやっと、俺の上位互換となったのだ!!まだ左のコントロールは危なっかしくて仕方ない点はあるがな…」

 

スッと手を差し伸べる。

 

「卒業後は俺の事務所へ来い!俺がお前に覇道を歩ませてやる!!」

 

そう言うが、しかし轟は…

 

「捨てられるわけねえだろ」

 

「?」

 

反論したことで、エンデヴァーの表情が曇る。それに対し轟も表情は曇っているが、何処か吹っ切れた感じがして、何処か悩みがあるように見える。

 

「そんな簡単に覆るわけねえよ、正直まだ左のことはよく分かんねえ…お前の思い通りにはなりたくねえってことだけは本望だ。ただあの時あの一瞬…

 

 

お前を忘れた」

 

その言葉を聞いたエンデヴァーは一瞬だけ、先ほどの微笑みが消えた。

 

「それが良いことなのか悪いことなのか正しいことなのか…少し考える…」

 

ただこれだけ言えることは、本気を出す前の轟とは、雰囲気も表情も違う。もしかしたら、これが本来の轟の姿なのかもしれない…

 

 

 

緑谷はリカバリーガールの出張保健所で治療を受けている。当然緑谷の側にはガリガリに細痩せたオールマイトが立っている。

リカバリーガールは相変わらず緑谷のけがをみると顔は険しくなり、目を細める。

リカバリーガールが言うには、右手の粉砕骨折、キレイに元通りとはいかないそうだ。破片が間接に残らないよう摘出してから治療をするそうだ。

 

「……アンタは毎回毎回無茶をやらかすね…どこの誰かさんみたいに、試験といい、入学初日といい、二日目といい、敵の襲撃といい、蛇女子学園といい……そして現在も。どんだけ無茶をやらかせば気がすむのやら…やり過ぎだよコレは……」

 

説教に近いようにそう言うリカバリーガールはオールマイトに視線を移す。

 

「憧れがこうまで身を滅ぼす子を、発破かけて焚き付けて…嫌だよあたしゃあ、見てられない。やり過ぎだよアンタもこの子も、これを褒めちゃいけないよ?」

 

「誠に申し訳ありません……リカバリーガール…」

 

「謝るのならこの子に謝んな!師匠が師匠なら弟子も弟子かね……」

 

リカバリーガールはため息をつくと、オールマイトは申し訳ない顔で頭を伏せる。そんなやりとりをしてる時だった。

 

「緑谷(デク)くん!!!」

 

扉が開き現れたのは、飛鳥を始め、お茶子、飯田、峰田、蛙吹が出てきた。彼女、彼らの登場に緑谷は目を開き見渡し、リカバリーガールは緑谷の治療の準備、オールマイトに至っては思わず吐血してしまい驚いている。この姿がオールマイトであることは誰にもバラしてはいけないため、内心ドキドキしてるのだろうか、冷や汗が垂れている。

 

「…ん?」

 

部屋にやってきた飛鳥は、そんなガリガリのオールマイトを見て首をかしげた。

 

(あの人…見たことないなぁ、他のクラスの先生かな?)

 

当然その人がオールマイトとは知らない飛鳥は、首をかしげてしまうのも無理はないだろう…

そこで緑谷は飯田を見つめる。

 

「み、皆んな…試合は観なくても良いの…?特に飯田くんなんかは次試合だし…」

 

「ああ、その点については問題ない!先ほど緑谷くんと轟くんとの戦いで舞台が崩壊してしまったらしく、今は審判のセメントスが修正している。時間が掛かるそうだ」

 

「あ、ああ…そうなんだ…なら、良かったね……」

 

それを聞いた緑谷はホッとした様子で安堵の息をつく。タダでさえ自分の体がボロボロなのに他人のことを心配する緑谷に飛鳥は声をかける。

 

「もう緑谷くん…自分こんなに酷い傷を負ってボロボロなのに、他人のことばっか心配して……まあ別に悪いことじゃないし、逆にそこが緑谷くんの良いところだけど、今回は自分の身を心配してないとダメだよ?」

 

「そうだよ!まずは自分の体を心配して、治すこと考えなくちゃ……」

 

飛鳥に続きお茶子もそう言う。

 

「あ、あはは……そりゃそうだけど…けど飯田くん、お兄さん来てるし……僕なんかの為に構ってたら…って思って……」

 

二人の言葉に思わず苦笑する緑谷。

 

「でも、緑谷スゲェ怖かったぜ?あんだけの気迫あって、結果こんなにもボロボロだし、プロも怖がって欲しくなくなるぜ…?」

 

「峰田ちゃん、ここに来て塩塗るのは良くないわ、ここは最初心配するところが普通だと思うんだけど」

 

「言って早々、長い舌でオイラを突く蛙吹もどうかと思うんだが…」

 

塩塗りスタイルの峰田に突っ込む蛙吹。

 

「心配するのは良いけど邪魔だよ!ホラあっちに行くさね!これから手術するんだから!」

 

「「「「手術!!??」」」」

 

「ケロ…」

 

突然手術を始めると言い、杖でみんなを払いのけるようにするリカバリーガールに、四人は驚き蛙吹に至っては呆然としている。

 

「あ、あの〜…リカバリーガールさん?の個性って治療系ですよね?それなのに手術しなきゃいけないんですか?」

 

「当たり前さね!ホラ!シッシッ!」

 

「せ、成功するんですよね!?学校で手術とは!いやしかし、雄英は常にピンチを乗り越えて行くもの…何が起こるかわからない、その為重傷を負った生徒を治療する為に手術を…?さすがは最高峰だ!」

 

「あんたも変な感心しないでさっさと出てってくれ!手術するんだから!あんたらは邪魔なんだよ!」

 

心配する飛鳥と飯田に、リカバリーガールは眉をひそめ、苛立ち怒り混じった声でなんとか皆んなを追い出す。

 

 

「………」

 

バタンと扉が勢いよく閉まり、鍵を掛けた。扉からバンバンと叩く音が部屋に響くが、リカバリーガールは何のお構いもなしに準備をする。

 

「……オール…マイト……申し訳ありません…」

 

「?」

 

皆んなが去ったことにホッと一息つくオールマイトに、緑谷は申し訳なさそうな顔で謝罪する。

 

「……オールマイトがいってたあの言葉(君が来たということを世に知らしめる)、果たすこと出来ませんでした……貴方にちから(個性)を貰って、ここまで来たのに……なのに僕は……轟くんの戦いであんなこと言ってて、負けてしまって………」

 

「……君は彼に何かもたらそうとしてたね…」

 

「……はい」

 

弱々しく、涙声でそう言うと、オールマイトはジッと緑谷を見つめる。

 

「あの時の轟くん……とても悲しいようで可哀想で……いてもたってもいられなくて、余計なお世話を考えちゃって………でもそれ以上に僕はただ……悔しかった……」

 

悔しい表情を浮かべ、その思いを声に出すとより涙声が鮮明になってきたように思える。そんな緑谷に対しオールマイトは口を開く。

 

「……確かに残念な結果さ。他の皆んなから馬鹿なことをしたと言われても言い返せないし、仕方のないことだ。それにどんな思いだろうと、負けたことには変わらないだろうね」

 

オールマイトがそう言うと、緑谷の目から涙が浮かんだ。

 

「けどな、勝とうと負けようと…余計なお世話ってのは…ヒーローの本質でもある」

 

「………っっ」

 

そしてその一筋の涙が頬に伝わる。

 

「結果はどうであれ、君の行動は決して無駄ではないさ……

 

 

だって個性を得て尚、君の行動は人を動かしたのだから」

 

その言葉を聞いた緑谷は、雄英の入試を思い出した。

そうだ、あの時巨大ロボットが襲いかかって来た時、倒れてたお茶子を助けるために自分から飛び込んで殴り倒した。その後の結果、お茶子が直談判でPを分けて欲しいと言って来たのだ。その時オールマイトに言われた言葉が積み重なった。

だがその言葉の始まりはそこではなく、初めてオールマイトに会ってからのことだった。爆豪がヘドロ敵に捕まった時、オールマイトはすでに限界を超え、助けれる身体ではなかった。多くのプロヒーロー達も手を焼いており、助けることが出来なかった。他の人たちも、ヒーローが、その内ヒーローが必ず助けてくれる。そう思い誰も助けようとしなかった。

でもそんななか、無個性で出来損ないと馬鹿にされ続けてた一人の少年、緑谷は駆けつけ助けようとしたのだ。その時、緑谷の行動が、言葉が、想いがオールマイト()を動かしたのだ。

 

今や忘れもしない、オールマイトの出会い、そして君はヒーローになれると背中を押してくれたあの日のことは。

 

そして今回も、緑谷の行動が轟の心を動かした。

動かしたからこそ轟も本気を出した。炎は絶対使わないと言ってたが、使わせることが出来た。

 

 

「オール……マイト……」

 

色んなことを思い出し、いつの間にか涙がポロポロと流れてきた。

そんなオールマイトは優しい瞳を向けてこう言った。

 

「まず、その泣き虫…治さないとな…」

 

 

 

 

緑谷出久 ベスト8 敗退

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数十分後、リカバリーガールの治療を受けた緑谷は、完全回復とはいかないが、歩けるくらいの治癒は進めることは出来たそうだ。無理もない、ただでさえ始める前から指を怪我してたのに、短期間であれ程の重傷を負ったのだ。治療を受けるにしても体力が要る。轟との戦いで体力が少なかったのに、治療を受け、歩けるだけでも充分凄い。やり過ぎると逆に死んでしまうのは避けたいが…

今では緑谷の腕や体は包帯を巻いている。頬には湿布を貼ったりと、見るだけで痛々しさが伝わってくる。

緑谷は疲れ切った顔でお礼を言うと、リカバリーガールはそんな痛々しいボロボロな体をした緑谷にこう言った。

 

「今後こう言った怪我は治療しない」

 

と…そう断言した。

 

その言葉に呆然と目を開く緑谷は、一瞬だけ理解が遅れたものの、その言葉を理解した。つまり、こう言ったような例の怪我をするなら、二度と治療は受けない。だからきちんと調整できるようにしろと言うことだろう。確かに治してもらえるなんて思っていれば、解決方法は見つかるかもしれない。しかし見つけるにもどうすれば良いかわからない。

一つの言葉がここまで重く、より考えさせられるのは考えてもいなかった。

 

「あたしゃも医者だ、怪我をした人は治療するさね。けど、アンタの場合はやり過ぎる…ただでさえ力の調整が出来ず、体力もないのに……このままその調子で続ければ間違いなく体力は尽き、回復が追いつかなくなり最悪本当に死んでしまうよ。そうならない為にも、破滅的な糸口ではなく、自分の身を安全に考えれるような、ちゃんとした解決の糸口を考えなさいな。何より自分の体は自分で大切に、守らなくちゃいけないよ」

 

面倒見の良い老人とも言えるリカバリーガールは、半分呆れて半分心配した顔で、身体中を見つめる。

 

リカバリーガールの言葉には一理ある。緑谷は数秒黙った後、「…はい」と物静かな声でそう言った。それも残念そうで、どこか悲しく罪悪感のある声で。

 

 

無事治療を終えた緑谷は、フラフラとよろめきながらも応援席で皆の応援及び観戦しようと、オールマイトと一緒に戻っている。

緑谷は歩きながら、ふとあることをオールマイトに問う。

 

「あの……オールマイト…」

 

「ん?どした緑谷少年?」

 

突然の問いに少し眉を動かす、緑谷の声は少し暗く、落ち込んでいるようで罪悪感を感じている。

落ち込んでいるのは轟との戦いで負けてしまったからとは思うが、それとは少し違う。

 

「オールマイトは言ってましたよね……雄英の先生になったのは個性の、次の後継者を探す為だって…でもそれは……僕に会う前からそう決めてたんですよね?」

 

「ん〜…そうだね、君に会う前からずっと考えてたね。それはそうだが急に何故そんなことを?」

 

「……今回の体育祭を通して、一人一人の皆んなが、全力を出して、本気で挑んで…譲れない強い思いがあるのを肌身で感じました……」

 

「………」

 

そこまで言うと、オールマイトは全てを理解したのか、無言になる。

 

「それで僕…思ったことがあるんですけど………オールマイト……僕は…」

 

「後継になるべき人間ではないって?」

 

「………はい…それで……もしかしたら、他にも後継するべき人間が居たんじゃないかって…思って……」

 

「………成る程ね………」

 

「………」

 

言葉を出すにつれて、涙が浮かんできては涙声になってくる。

半分は後継を自分に選んでしまって本当に良かったのか?僕なんかより違う人を選ぶべきだったという背負うに重過ぎると感じる罪悪感。もう半分はそれを聞いて怒られてしまうという気持ち。

実際本音を言えば選んでくれるのは勿論嬉しい。何しろ無個性だった自分は力を受け継ぎ、こうして憧れのヒーローを目指して頑張れるのだから。しかし今はどうだろう?リカバリーガールの言う通り、短期間でこれだけ酷使し、重傷を負い、力の調整は出来ず、更には雄英体育祭、年に一回計三回の行事。全国のヒーロー達が観に来るビッグイベント。そのなかでオールマイトが言った『君が来たと言うことを世間に知らしめてほしい』という強い想いを、成すことは出来なかった。

折角オールマイトに見初めて貰い、これだけの事してもらったのに、結果を返すことが出来ないなんて…

そんな罪悪感に囚われてる緑谷に、オールマイトは口を開く。

 

「うん、確かに緑谷少年の言う通り、ここは雄英高校なだけあってヒーローの卵たちばかりだ、更には忍学生も来る始末だし、今年は色々凄いことが起きてると思うよ。前にも言った通りワンフォーオールは力の結晶。個性あるもの…そうだね、例えば轟少年が引き継げば、半冷半熱の上に超パワーを持ったスーパーヒーローとなるだろう。それだけじゃない、君が無個性だったように、個性がない分忍である飛鳥くんたちだってそうだ。半蔵の孫の飛鳥くんなんかワンフォーオールの力を持ってすれば、伝説の忍を超えヒーローそのものを凌駕する最強忍者になるだろうしね。まあでも忍学生は世間にバラしちゃいけないからこの際それはあり得ないけど、少なからず緑谷少年よりってのは、悲しいことに否定できないかな」

 

「じ、じゃあ……!」

 

「けどな緑谷少年」

 

緑谷の言葉が遮り次に出たオールマイトの言葉に、緑谷の罪悪感は吹き飛ばされる。

 

 

 

「私も無個性だったんだぜ」

 

 

 

「……え?」

 

後ろを振り向き、先ほど悔やんでた表情はいつの間にかすぐに消えていた。そんなことを御構い無しにオールマイトは話を続ける。

 

「君ほどの世代じゃなかったけど、()()()部類だったよ。師匠(マスター)は個性持ちだったが、それでも私を信じ育ててくれた。そこからかな…半蔵くんと小百合さんに会い、そして()()に出会ったのは…」

 

「そん…な!そんな話一度も!」

 

「ああ言ってないよ、だって聞かれなかったからね。聞かれると思ってたのに!!」

 

オールマイトが無個性だという真実を知った緑谷は、罪悪感こそは吹き飛ばされたものの、逆に信じられず驚きを隠せないでいる。

 

「オールマイトも無個性だった…?」

 

「うん、最初はかつての自分と積み重ねたよ。君の言葉に過去の自分を思い出したこともあった…君は私の想像を何度も超えてきた。他の皆んなや私でもない、君に()()導き出せないものがあると、私は思っている。だから後継が相応しいとかどうとか難しいことは深く考えなくても良いんだ」

 

「……すみません……!」

 

緑谷は改めて自分を選んでくれたことに感謝し、目を瞑り頭を下げた。そんないつもの緑谷に戻ったことにオールマイトはホッとした。

 

 

 

あれからオールマイトと話を終えた緑谷は、応援席に戻ってきた。戻ってきたことに気づいたお茶子は、「あっ、デクくん戻ってきた!」と歓喜な笑顔で手を振る。そんな麗らかなお茶子に緑谷は思わず頬が緩む。

戻ってきたことに気づいた一部の人たちは心配混じった声で駆け寄ってくる。

 

「緑谷くん大丈夫だった?」

 

「あ、飛鳥さん…うん!体力的な面があって全回復とはいかなかったけど……歩けるくらいには治癒してもらったよ…」

 

駆けつけ包帯が巻かれてる体を心配そうに見つめる飛鳥に、緑谷は若干顔が赤くなりつい目をそらす。

 

「ったく〜…緑谷のヤツ幾ら相手がクラス最強の一、二位を争う轟だからって気張りすぎるぜ!まあその所為で多分プロヒーロー達からはスカウトはまずないかもな」

 

「それを言う峰田ちゃんもね、ケロ。そんな性格だから誰にも人気がないのよ、勿論人気投票で順位が落ちたのもその所為だと思うわ」

 

「うるせぇ!それを言うんじゃねえ!!あと何でオメェが知ってんだ!順位(其処)に触れるんじゃねえよおおおおぉぉぉぉ!!」

 

最初は揶揄ってた峰田だったが、蛙吹の発言により逆鱗に触れてしまったせいか、憤怒と共に涙が溢れでてくる。うん、煩い。

 

「アレ?そう言えば飯田くんは?いないけど…」

 

いつものメンバーに、飯田がいないことを知った緑谷は、周りをキョロキョロするが…

 

「えっと飯田くんは……いま轟くんと…」

 

『おおぉーーーっとぉ!?飯田行動不能!氷で相手の動きを封じこみ炎は一切使わなかったあぁぁ!!』

 

「!?」

 

マイクの実況に驚いた緑谷は舞台の方に目をやると、なんとそこには手で飯田の腕を掴み凍り付けにされてる光景だ。勿論、飯田の脚のエンジンマフラーまでもが繊細に凍り付けにされてる。

悔しい顔で目を瞑る飯田、一方まだ本気を出して良いのかどうか分からず、迷いが生じてる目で左手をジッと見つめる轟。

ここに来るまでに勝負はすでに始まってたのだ。

 

「い、飯田くん…」

 

ベスト4でここまで上り詰めたのも充分すごい。飯田の個性も充分強い故にスピードに特化した素早い個性だ。目に終えないスピードで勝負を決めたかったのだろう。しかしクラスの一、二位を争う轟とは相手が悪かったようだ。

お茶子の話によると、最初の方絶好調だったが、轟はワザと攻撃をくらいエンジンマフラーを凍らせたのだ。

轟自身警戒こそはしてたが、目で追いつけることができず一か八かの思いで凍り付けにすることが出来たそうだ。

勝負は一瞬で決まってしまったが、轟は間一髪だったそうだ。

 

 

 

「あ〜…惜しかったなぁ天哉のやつ……」

 

飯田の兄インゲニウムは、弟が負けてしまったことに悔しいと思う気持ちはあるが…

 

「……まあ、けどここまで来るなんて…雄英に入ってから随分と成長したんだな…スゲェよ天哉」

 

弟が立派に成長したことを見る事ができ、嬉しいと思う気持ちもあった。

 

 

 

 

 

 

 

時間は遡り、飯田は渋々とした様子で帰ってきた。当然その隣には迷いのある轟も…

 

「ふ、二人ともお疲れ!」

 

「!緑谷くん…!」

 

「………」

 

緑谷は吹っ切れない二人に声を掛けるが、飯田は若干反応し、轟は無言のままこちらに振り向く事なく無反応だ。今は緑谷とは話す気分ではないのか、そっぽを向き元の席に戻る。緑谷はそんな轟の背中に視線を送らせるが、直ぐに飯田に視線を戻した。

 

「ぜ、全部は観たわけじゃないけど…麗日さんから聞いたよ。惜しかったね…」

 

「…ああ」

 

やはり負けてしまった飯田は落ち込んでいる。当然だ、負けてしまったら落ち込むのは誰だってそうだ。

その気持ちは緑谷だって理解している。自分も譲れない負けられない戦いで負けてしまった。だから同じ敗者だからこそ、せめて彼の慰めになるような言葉を一声かけたいのだ。

 

「い、飯田くん…あの……」

 

「何も言わなくても良いさ緑谷君」

 

「!?」

 

しかし飯田は落ち込んでたかと思いきや、険しい真面目な顔で緑谷の顔に視線を送る。

 

「確かに負けてしまったのは辛いし悔しいし、正直兄にはもっとカッコいいところを見せたかった……けどこのままずっと落ち込んでても仕方ないさ。一度の敗北でこのまま前を向く事なく立ち上がらないのなら、それこそカッコ悪いからな。兄にはカッコいい所は見せれなかったが、だからと言ってカッコ悪い所を見せる訳にはいかないからな!」

 

「飯田くん…!」

 

いつもの前向きな飯田に戻った緑谷は、ホッと一息つく。

それでこそ流石は我らの委員長だ。

 

「飯田さん…流石ですね」

 

それを遠くで見てた斑鳩もまた同じく…

飯田の兄、インゲニウムと話してから彼女は気持ちが楽になった。問題は解決したわけではないがそれでも気持ちが楽になったのは自分でも嬉しい。

相談に乗ってくれたインゲニウムには感謝している。だからこそ、そんな優しい兄を持ててる弟の飯田が羨ましくもあり、感謝しているのだ。

そんな斑鳩は負けてしまった飯田に慰めの言葉をかけようと、力になってあげようとしたが、それは要らなかったそうだ。そんな前向きになれる飯田に斑鳩はつい微笑んでしまう。

そんな飯田は思い出したかのような目で緑谷に問う。

 

「それはそうと緑谷くん、治療の方は…」

 

「あっ!うん…!僕は歩けるくらいなら全然!」

 

「そうか…!」

 

なんとか命に別状はないと分かった飯田は、内心ホッとしたのか安心した。

 

「あ、そうだ飯田くん。次の戦いは一体…切島くんとかっちゃんは?」

 

「それならもう終わったぞ。結果は爆豪くんの勝ちだ。切島くんの隙を狙って爆豪は一気に爆撃し勝負を決めたそうだ」

 

「さ、流石はかっちゃん…」

 

今この場で最も強くなろうとしてるのは他でもない…頂点を目指す男、爆豪勝己だ。

 

「と、なると…次の戦いは…!」

 

『始まるぜ!次の戦いは、同じくヒーロー科でありながらA組同士の争い!本当こういうの多いな!!流石だぜA組ぃ!』

 

多くの観客が一斉にしてA組と叫んでいる。敵の襲撃を乗り越えただけあってこうも違う。

舞台に現れたのは常闇と爆豪。常闇は芦戸との勝負に勝ったそうだ。

 

『漆黒を纏いし物言わぬ冷静な紳士の男!ヒーロー科、常闇踏影!!VS やっぱ君強くて迫力あるよ!!人気も爆発的にスゲェ!ヒーロー科、爆豪勝己!!』

 

爆豪もお茶子と戦う時と同じくヤケに冷静だ。同じくプレゼント・マイク曰く漆黒を纏いし物言わぬ冷静な紳士の男、常闇踏影も神経を研ぎ澄ましてるのか、冷静さを保ち、無言のまま爆豪を見つめている。

 

「な、なんか静かだねあの二人…」

 

「なんでしょう…ただならぬ気配が…開始の瞬間に一気に叩き込むとかですかね…」

 

「斑鳩、それは流石に…いや、これはありえるな。爆豪からの性格からしても」

 

雲雀、斑鳩、葛城は二人を目にして呟き始める。

 

 

そして…スタートと合図した途端。二人は一瞬で間合いを詰め一気に叩き込む。

 

ボオオオォォォォォォォォォォォン!!

 

強烈な爆破の一撃。爆豪の爆破と常闇の黒影がぶつかり合った為、黒煙が巻き起こる。

 

「うっゼェなああぁぁ!!ソレ!!」

 

「…修羅め!」

 

お互い睨み合う。

しかし爆豪は常闇の黒影が邪魔で仕方ないのか、爆破ラッシュで叩き込んでいる。常闇は防戦一辺倒、反撃をしない。

 

『おおーっとぉ!?ここで爆豪まさかのラッシュだ!しかし無敵に近い個性で勝ち上がってきた常闇は、懐に入らせない!何故だ常闇いつものように攻撃しねえんだ!?』

 

それには理由があった、騎馬戦で緑谷たちに話した通り、常闇の個性は暗ければ暗いほど凶暴になり強くなる。しかし光の場合はその逆になる。つまり上鳴との相性が悪いように、爆破の個性を持つ爆豪とは相性が悪いのだ。反撃したくとも反撃することが出来ない。そのためチャンスが来るまで守ることを専念している。

 

「爆発の光で攻撃に転じられへん…相性最悪…」

 

「確かにそうだけど、でもかっちゃんはその事を知らない…気付かなければ転機はあるよ!でも常闇くんの黒影の体力のこと考えるの難しいけどね…」

 

「うん…ていうか普通に見るんだねデクくん。ケガ酷いのに…」

 

真っ直ぐ二人の実戦を観てる緑谷に、お茶子はつい緑谷のケガをみて心配してしまう。

 

 

「まずいな…不覚」

 

(読みが甘かったか…黒影の体力(ヤミ)を補充する暇がない!体力が尽きれば終わってしまう……何としても隙を狙わなければ…!)

 

表情こそはなんとか冷静さを保ってはいるが、内心は焦っている。黒影なんかは涙を流して今じゃ嫌がっている。

 

瞬間爆豪は一気に爆破でもう一度間合いを詰める。

間合いを詰めた爆豪はそのまま黒影に爆破を食らわせた。

 

「今だ黒影!掴め!」

 

しかし爆豪は片手で爆破を使い飛び越え一気に常闇の背後を取る。

 

「!?」

 

後ろを取られた常闇はすぐさま黒影を使って背後の爆豪を捕まえようとする。が…爆豪は両手を向けて…

 

閃光弾(スタングレネード)!!」

 

眩い閃光を出した。それも決して爆発的な破壊的攻撃ではなく…

しかしそれもほんの一瞬。爆豪はその後直ぐに爆破攻撃を繰り出した。

 

『さっきから光やら煙幕やらで分かんねえから実況のしようがねえな!てか今の状況どーなってんの!?常闇は爆豪に背中を取られたのは知ってるが…』

 

そして煙幕が晴れると、なんとその光景は…地面に背中をつけてる常闇の顔を掴み、不敵な笑みを浮かべる爆豪の姿であった。しかも常闇に当たらないよう掌を何発か爆破させ黒影を近づけさせないように…

 

 

「…まさか俺の弱点を知ってたとはな…いつからだ?」

 

「数撃って暴いたんだバァカがぁ…!可笑しいと思ったんだよ!無敵に近い個性を持ってんなら、俺の攻撃だって効かねえはず…けど手応えはあったし、蛇女に攻めてきた時、炎出す脳筋野郎と戦う際お前は炎に警戒してたうえにヤケに苦手意識を持ってたからな…」

 

「なるほど…あの時から疑問に思ってたのか…そして数打ちした今、俺の弱点がバレたということか…なんたる不覚だ…」

 

「まあ同情するがな…降参するなら今だぜ?」

 

問い詰める爆豪、勝算のない常闇は、目を瞑り悔しい気持ちを抑え…

 

「まいった…」

 

降参した。

 

『常闇くん降参!よって爆豪くんの勝利!よって決勝は轟対爆豪に決定!!』

 

「常闇くん悔しいなぁ…」

 

常闇が負けたことに悔しがるお茶子。これを観てた多くの観客たちも二人に食いつき、常闇の個性が決して無敵ではないという事を知った。

 

「しっかり観てリベンジだな!」

 

「うん、爆豪くん戦うたびにセンスが光るよね。焔ちゃんの技といい、自分の新技といい…この場でポンポン出してきてるし…」

 

飯田は次のチャンスに生かすために相手の試合を観て来年の体育祭で挑戦するのだろう。いや、他にも戦う場面はあるかもしれないが…

飛鳥に至っては爆豪の才能に内心畏れを感じている。

この場だからこそ爆豪は…いや、相手に勝つためにこそ色んな技を出してきてるのかもしれない。今の所爆豪が誰よりも技を持っていると言っても過言ではない。

 

「あの二人との戦い…どうなるんだろ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてあれから時間は経ち…

 

『さぁいよいよラストだ!!雄英一年の頂点がこの戦いで決まる!!』

 

マイクも最後は盛り上がるのか、いつに増してテンションが上がっている。横にいる相澤はずっと喋ってない。まあ無駄なことはしたくない主義だから仕方ないが…

 

「始まるよ…!」

 

「何方が勝ってもお互い可笑しくないくらいだからな…」

 

お茶子と飯田、いいや応援席にいる皆は固唾を飲んでいる。

 

「ねえ、緑谷くん…緑谷くんはどっちが勝つと思う?」

 

ここで突然飛鳥が緑谷に問いかけて来た。緑谷は見向きはしないが答える。

 

「ん〜…飯田くんの言う通りどっちが勝っても可笑しくないけど……でもお互いクラスのトップを争う、どっちが勝つかは分からない…実力は互角だからね…」

 

「そっかぁ〜……けど何か心配なんだよねあの二人……」

 

飛鳥は不安そうな表情を浮かべて二人を見つめる。

そんな二人は舞台の上で物静かに睨み合っている。

いいや、爆豪の場合は不敵な笑みを浮かべてはいるが、轟は相変わらず無表情だ。氷のような、冷たい目線に何処か迷いのある目。睨みつけていると言うより、ただ見つめてるだけなのかもしれない。

そんな物静かな時間も束の間、直ぐに奮闘した舞台となるだろう。

 

 

『もう此処まで来て紹介なんざ要らねえよな!つう訳で…

 

決勝戦!轟 対 爆豪!!今、スタート!!』

 

決勝戦 開始。




決勝戦 轟VS爆豪の開始!
それにしてももうこれほぼ終盤に近づいて来たなぁ…なんかものすごく長かったようで短かったようで…いや物凄く長かった。
もう頭の中ゴッチャゴチャです、ハイ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。