光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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ジングルベールジングルベールクリスマス〜!!ってもう終わりましたけどね!
はい皆様お久しぶりです!以前より投稿が遅れて申し訳ありません!!冬休みに入って忙しくなってるのでなんとも……
と言うわけで緑谷と轟の戦いスタートです!


43話「緑谷出久VS轟焦凍」

「失礼します…」

 

「霧夜か、よく来た…」

 

善忍東京本部の高層ビルにて、半蔵学院忍学科の担任、霧夜は会議室に入ると、中には善忍組織の幹部が何十人も椅子に座っていた。低いしわがれた声が、物静かな空間に響いた。

老人らしき者もいれば、30〜40代のような上層部の組織の忍も何人か見受けられる。しかし、物静かな雰囲気とともに顔は険しい。

 

「霧夜、お前を呼んだのは最も他でもない…現在この社会で起きてる事件のことだ…」

 

「と、言いますと…やはり抜忍・漆月のことで…?」

 

「うむ…」

 

上層部の老人が、霧夜を呼んだことについて話すと、霧夜は直ぐに察した。そのことに軽く頷く。

 

「調べてはみたが…戸籍不明かつ所属不明、抜忍のためヤツの情報が一切掴めれないのだ…」

 

「ましてや忍の存在を言い渡すなど…正気の沙汰とは思えん!ヤツは一体何が目的なのだか……!」

 

先ほどまで話してた老人がそう言うと、右側の四番目の席に座っている背の小さなおじさ…老人はプンスカと怒りを露わにするように話し出す。

 

「それだけではないわい…現在危険視されている敵の集団組織、敵連合は雄英高校に襲撃しただけでなく、蛇女子学園にまで襲撃し、二度も忍の存在を見られている…漆月は敵連合に所属し事を進めている。ヤツらの目的は一切分かっていない…手掛かりも掴められていない…一方で、ヒーロー殺しステインは、忍を殺害している。ある者からの報告だがな……更に忍の世界で追放された道元は姿がない、現在行方不明。これで現在、この社会が起きてる事なのだが…

ハッキリ言おう、これはもう既に緊急事態だ。しかもこれまでにない例の…な」

 

顔に傷痕が付いてる物静かな老人もそう言うと、霧夜は顔を伏せる。

 

「霧夜よ…お前からも何か分かったことは?」

 

「申し訳ありませんが…特にこれといった物は……期待に応えれなく申し訳ありません……」

 

霧夜がそう言うと、皆も分かってたのか落ち込みはしないが難しい顔を浮かべる。

 

「敵連合…ことを騒ぎ、世間ではもう既に存在そのものが知れ渡っている。処分したいところではあるが…もし我々が処分した場合、忍の存在が知れ渡ってしまう……」

 

上層部の言う通りだ。忍の存在を知ってしまった者は最悪処分対象となるが、死柄木弔を始める敵連合は雄英高校に襲撃し、世間に存在を知れ渡ってしまった。表で警察が調査をしているが見つかっていない…一方裏では多くの忍が派遣されてるが、案の定見つかっていない。しかも敵連合の目的は忍の殺害と来たものだ。放って置くわけにはいかない、一刻も早く捕まえなければならないのだ。

ではどうして処分ではなく捕獲なのか?捕獲をすれば世間に忍の存在を知れ渡すことなく、警察側から引き取れば問題ないからだ。後は何をどうするかは勝手だ。また敵連合を捕まえたのは平和の象徴オールマイトにしておけば良い。

安易に言えば、敵は捕獲、忍は殺す。そう言った方がシンプルだろう。

 

「兎に角だ…霧夜よ、引き続き忍務を続行しろ。半蔵学院の忍生徒たちにもな」

 

「はい、かしこまりました……」

 

霧夜は上層部たちに深々と頭を下げると、部屋から出た。

 

 

光。ヒーローの世界では超常への警備、悪意からの防衛、たちまち市民権を得たヒーローは世論に押される形で公的職務に定められる。ヒーローらは活躍に応じて、国から収入を、人々から名声を与えられる。

 

 

影。忍の世界では、超常への警備、上層部や主から下される忍務を全うすること。世間や人々から見られることなく、陰で諜報や破壊活動、暗殺などを実行することを忍と呼ぶ。

そして忍の中でも二つに分けられるものが存在する。

 

国家に所属し、国益に資っする善行を積む忍。世の為人の為に働くことを善忍と呼ぶ。

 

闇企業や悪徳政治家に雇用され、彼らの利益の為に暗躍する忍。光に、正義に生きることが出来ない、善忍と対立する存在を悪忍と呼ぶ。

 

 

それが現在、世界の人々が暮らす超人社会の有り様だ。

人々はヒーローや敵の存在を知っていても、善忍と悪忍の存在は知らないだろう…だがそれで良いのだ。

ヒーローは皆から光の脚光を浴び表で社会を支え、忍は皆から見られることなく陰で生き、裏で社会を支える。今の社会はそうやって成り立っているのだ。

もしこの社会が、万が一崩壊したら?そうなれば、超常社会は悪に勾引かされるだろう…それどころか最悪、忍の存在も……

 

 

 

 

 

 

霧夜が部屋から出てから、上層部はお互い顔を見合う。

 

「良いのか?本当に?」

 

「ああ、霧夜には言っとらんがな…まあどの道知ることになる…」

 

「しかし、それなら今言っても問題なかったんじゃないか?」

 

「バカ、俺たちが決めても()()()()が知ってないと意味ないだろ、それに今回その件も踏まえてこうして会議してるんだろ」

 

上層部達の話しに、ザワザワと騒めきだす。そんななか、傷痕のついてる老人は目を見開き周囲を見渡す。

 

「静粛に!!」

 

クワッ!とした一声に、皆は静まり返る。この老人は恐らく上層部の中でも信頼が高い、あるいは最高順位に当たる存在だろう。

 

「兎に角この意見は皆、異論は無いな…?」

 

緊張するような空気に、皆は首を縦に頷き、横に振る者は一人も居なかった。そう言うと、その人物は皆を見て納得したように頷きこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雄英高校に、新たな忍生徒を転校させる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、轟と緑谷が会場に姿を現したと同時に、負けてしまったお茶子はヘロヘロになりながらも観客席に戻ってきた。そのことに気づいた飯田は思わず「全然麗らかじゃないぞ麗日くん!その目は誰にやられたんだ!?」と慌てるが、お茶子は大丈夫だいじょうぶと軽く手を振る。

 

「ホラ、リカバリーガールの治療で…体力削られてね、目は…うん、色々あって…」

 

お茶子がそう言うと、飯田は「そうか…」と納得した様子で軽く頷いた。上手く誤魔化すことに成功したお茶子は席に座る。その隣に座ってる飛鳥は顔を覗き込む。

 

「お茶子ちゃん大丈夫?でも凄かったね!よく頑張ったよ!」

 

「あ、飛鳥ちゃん…いやぁ……ありがとう……えへへ…」

 

飛鳥の励ましに、お茶子は思わず頬を緩めて笑みを浮かべる。

 

「さて、俺たちはこの戦いを己の糧とするべきだ…」

 

「問題なのは轟の氷結だな…あれ程の大規模な攻撃、忍の俺たちでも相当厄介だぞ…」

 

常闇は目を細め、柳生は眼帯を撫でるように呟いた。

 

 

 

 

 

あるところでは…

 

観客席にて

 

「さて、と…No.2ヒーロー・エンデヴァーの息子、轟焦凍と個性不明の謎多き少年、緑谷出久の戦い…いやぁ、これは盛り上がりそうです。やはり一般ヒーローと比べて、雄英の生徒の戦いは次元が違う!紅茶を飲みながら優雅にくつろぎますか…」

 

先ほどから怪しい鴉仮面の黒スーツ男は、袖から紅茶を取り出し、鴉の仮面のクチバシが開き、紅茶を口に入れる。まるでマジシャンのようだ…

 

 

 

 

 

 

あるところでは…

 

薄暗い部屋にて…パソコンの画面をジッと見つめてる二人に、工業地帯のようなマスクを被ってる男は話しかける。

 

「いいかい?死柄木弔、よく観て備えろ。()()は、いずれ君の障壁になるかもしれない…それは勿論、漆月、君もだけどね…」

 

「ハッ…糞みたいな話だな…」

 

「……分かってますよ…先生」

 

死柄木弔は、君の悪い笑顔を浮かべて、ガリガリと首を掻く。一方で漆月は、いつも使ってる()()()()を宝物のように大事に撫でながらそう答えた。

 

 

 

 

 

 

あるところでは…

 

緑谷家、テレビを観てる出久の母。緑谷引子は…

 

「出久うううぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜!!!!!!」

 

大量の涙と鼻水を出してはティッシュで拭き、捨ててはまたティッシュで拭きの繰り返し。部屋中がティッシュの海だ。実の息子がここまで登り詰めたことに、感動している。

 

 

 

 

 

 

あるところでは…

 

何気ない建物の屋上で、大人らしき一人の女性がふと不敵な笑みを浮かべる。

 

「フフ…相変わらずだな雄英高校の生徒達は…流石、蛇女の悪忍と戦い、敵の襲撃を乗り越えたことだけのことはある」

 

その女性の声は何処か懐かしく…

 

 

 

 

 

 

 

あるところでは…

 

町の商店街にて…一人の女性は汗だくでアルバイトをしていて、今は休憩を貰っているのか、外に映っているテレビ画面を見ている。映し出されているのは雄英体育祭だ。それを観た女性は…

 

「ん?アレは…」

 

首を傾げ、ジッと見つめる。暫くして…

 

「…………フッ」

 

不意に笑みを浮かべ、嬉しそうな顔を浮かべる。

 

「そうか………アイツらが…………何だろう、久しく感じるな……まさかこんな大場面に出れるなんてな、そう言えばアイツら雄英高校って言ってたな……はは!」

 

黒いポニーテールの少女は、えらく感心して喜んでいるようで…

 

「おっと、そろそろ時間かな……また、手合わせ願いたいな…」

 

もう仕事に戻る時間なのか、座ってた椅子に立ち上がり仕事場に戻る。

 

「さて、と………()!只今仕事に戻りました!!」

 

 

 

 

 

 

 

他にも…あるところでは……

 

「ほう、アレが雄英高校の生徒か……」

 

白髪でボーイッシュな女性はテレビ画面に映し出されてる雄英高校の生徒を観て、目を細める。

 

「観たところ、テレビに映し出されてるってことはそれなりの実力があるみたいだね…」

 

同じく、眼鏡をかけた女性はその白髪の女性の隣に立ち体育祭を観てそう言った。すると白髪の女性は「フッ」と不敵な笑みを浮かべた。

 

「そうでなくては困る…何せ()()()()がないからな、蛇女子学園を貶めた罪は重い……悪の誇りを取り戻す為にな…!」

 

「そうだね、『雅緋』…アイツらを殺すのは駄目でも、半蔵の生徒は殺せるわけだし……」

 

「そうだな『忌夢』……忍の存在を世間に悟らせない為にもアイツらを殺れないのは仕方がない、だが半蔵の連中にはきっちりと落とし前はつけさせて貰おう」

 

白髪の女性雅緋と呼ばれる者と、眼鏡をかけた女性忌夢と呼ばれる者は、物静かに、殺意と闘気を燃やしてそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

同じく…別の場所では

 

「雄英体育祭……」

 

灰色に近いような髪色をした、雪のような白い肌の清楚な少女は、自分から少し離れた場所のテレビ画面を見つめてポツリと呟いた。

 

「ん?どうしたんです? ああ、雄英体育祭ですか…」

 

後ろから声をかけたのは、青色の短髪をした見るからに真面目そうな少女だ。

 

「ええ、()()()()として…これは観ておかねば…と。何せ雄英高校はヒーローとしても名高い学校ですから…」

 

「ヒーロー…儂らと()()光り輝く正義……儂も観ても良いですか?」

 

「勿論ですよ…」

 

 

その少女はコクリと頷きそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

ありとあらゆる場面で、人々は雄英体育祭を観ている。それが一体何の意味を表すのか、少年少女達の未来に待ち受けてるものとは?それはまだ、誰も知らない。それが例え、()()ことになったとしても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は元に戻り雄英体育祭。

 

「オールマイト、あの二人は共に貴方を救けようと行動したそうですね」

 

「…うん」

 

観客席、オールマイトの隣に座ってる13号は舞台を見ながら話した。オールマイトは返事をすると、緑谷と轟を真剣な目で見つめている。

 

「なんとなくだが、あの二人は()()()()()()を感じるんだ…」

 

「近いモノ?」

 

オールマイトの言葉に首をかしげる13号。

 

「うん……それが何なのかは上手く説明できないし正直よく分からないけどね……でも感じるのさ…少年たちの何かを……そして…」

 

目線を逸らして、観客席の飛鳥を見つめて。

 

「彼女もまた…似ている。緑谷少年と飛鳥くんは似ているというより、()()なのかな……」

 

「飛鳥くんが?それはまたどう言う?」

 

13号ははたまた首を傾げると、オールマイトはほんの少しだけ柔らかい、優しい微笑みを浮かべる。

 

「そのまんまの意味さ……それに…」

 

そして何かを思い出したのか、何処か寂しげな顔を浮かべる。

 

「飛鳥くんは…『陽花』くんに似ている……」

 

「え?オールマイト、今何と?」

 

「…ああ!気にしないでくれ13号!!こっちの話さ…!」

 

誰にも聞こえない僅かな声で呟いてると、13号は覗き込むようにして顔を見つめる。ハッと我に返ったオールマイトはぎこちない笑顔を浮かべる。

 

「さて、と…緑谷少年…君はどう出るかな?」

 

オールマイトは再び舞台の方に目をやる。

 

 

 

舞台は大きな歓声と冷え滾る空気が流れている。緑谷は緊張のせいか冷や汗を垂らし、呼吸音も乱れている。一方で轟は真っ直ぐとした目でただただ緑谷を見つめている。

 

 

緑谷にとってこの戦いは何を表すのか?今は勝つこと、またはオールマイトや背中を押してくれた皆んなの為に戦うことだろう…しかし轟はどうだ?

轟にとって緑谷の戦いはなくてはならない戦いだ。

轟は先ほど飛鳥と緑谷を呼び話し合いをしていた。そして確信したことはただ一つ、緑谷出久はオールマイトと何かしらの繋がりがあると言うこと。

 

大きかれ小さかれ、繋がりがあるというのならますます負けられない、尚更勝負しなければならない。

何故ならこの戦いは、No. 1ヒーローから受け継がれた緑谷出久と、No.2ヒーローから全てを受け継がれてしまった息子、轟焦凍の戦いだからだ。

 

 

轟は考えた、もしNo. 1ヒーローとして繋がりのある緑谷出久と戦い、()の力だけで勝てたらどうなる?

 

エンデヴァー(クソ親父)を完全否定することが出来る。それが轟の目標であり、戦う為にも負けられない理由だ。

 

 

そう、これはお互い立場や事情は違えど、引き継がれた者同士の戦いなのだ。

 

 

 

そして…ついに……

 

 

 

『START!!』

 

 

開戦!

 

 

 

パキイイイイィィィィィィンン!!!

 

 

と同時に素早い猛烈な氷が緑谷に遅いかかる。

 

ズドバアアアアアァァァァァァァァァァンン!!!

 

同じく、それと同時に強力な衝撃波が轟に襲いかかる。

 

 

ブワオオォォンン!!

 

お互いの強力な攻撃がぶつかり合い、氷の破片が冷え切った烈風に乗り会場に流れる。氷攻撃が来ると先読みした緑谷は、轟の攻撃を防ぐことに成功した。が…

 

「…なるほど、やっぱそうくるか…」

 

「っっっっ!!」

 

自損覚悟の打ち消し。緑谷の指は腫れ上がっている。個性の調整はまだ可能ではないため当然なのだが、緑谷にとって轟との相手はとても不利だ。

 

『おおおぉぉーーーっと!?相殺!破った

あぁぁぁーー!!ジ緑谷何チューパワーだよ!?!』

 

なんとか氷を相殺出来たものの、轟自身にダメージはない。しかし緑谷は個性を使えば強力だが、その分自身へのダメージも背負うことになる。最初の攻撃を防いだのは良いが、問題はここからどう攻めてどう対象しどうやって勝つかが問題だ。

確かに轟がどの程度の規模で攻撃してくるか分からない。瀬呂のような超大規模攻撃なんてされたらたまったものじゃない。だから緑谷の制約できる範囲(5%)を捨てて100%のぶっぱの選択は正しいだろう。緑谷の場合、氷結の攻略はそれしかない。

 

轟はまたもや氷結攻撃を繰り出し、緑谷も残った指で個性を打つ。

緑谷の指が血に染まり、苦痛の表情を浮かべる。見るだけでこっちも痛々しくなる、だが轟は涼しい顔で緑谷を見てから観客席の何処かに視線を移す。

 

「分かっちゃいたけど…轟くん、強すぎる…!!!」

 

グシャっと指に嫌な音を立てる緑谷は、相手の分析、打開策を頭の中で考える。しかし相手も時間も待ってはくれない、だから戦いながら考える。取り敢えず次の攻撃に備えてまだ残ってる指を向ける。

緑谷のように相手への分析を得意とするなら、戦う前から作戦を考えてはいるが…

 

(轟くんの戦いは知る限りいつも一瞬で勝負は付くから情報が少ない!情報を……せめて弱点か何かを…この戦いのなかで()を見つけなくちゃ……!!)

 

相手の情報、主に氷結攻撃が絶対。炎は使わない、なら氷だけを考えればいい。しかし氷の規模が強すぎる。どのくらいの攻撃が来るのか?相手はまた違う手を使って来ることだってありえる。

ありとあらゆる疑問が思い浮かぶが、また逆に分かったこともある。

轟の背面には自分の背よりも少し大きい氷の壁が張られている。その氷は恐らく自身が強い衝撃を食らって吹き飛ばされない為だ。

 

 

(見極めろ…考えろ……!見つけるんだ……!!あと、6()()のなかで!)

 

 

ズキズキと痛みを噛み締め堪える緑谷は、折れない目で轟を睨みつける。

白い息を吐く轟は、思わず舌打ちをする。

 

「チッ……しぶてえな……」

 

そして、地面が氷に覆われていく。そのタイミングで緑谷の個性がまたもや炸裂。観客側から見れば同じ繰り返しの出来事だが、緑谷の内心はとても深刻だ。

 

 

 

 

1ーA応援席では…

 

「げっ!もう始まってんのかよ…緑谷と轟の戦いかー…」

 

「よーうお疲れ切島ぁ!二回戦進出よかったじゃん!」

 

鉄哲とのガチンコ勝負を終えた切島がやって来て、上鳴は軽く手を振る。

 

「おう!そーいう事だ爆豪、次はお前とだ!宜しくな!」

 

「煩えぶっ殺す」

 

「ハッハッハ!率直だなやってみな!」

 

見向きもしない爆豪は言葉を吐き捨てると、切島は陽気な笑みを浮かべてる。

 

「しっかしよー、オメーも爆豪もどデケえ強烈な範囲攻撃ポンポンポーンって出して来るからなぁ、柳生とかなんて烏賊とかサイズデカイし範囲も広いし…」

 

「俺の場合は範囲は限られてるがな……」

 

柳生は自分を当てられボソリと呟く。

 

「ポンポンじゃねえよ舐めんな」

 

「?」

 

と、ここで真剣な顔立ちで舞台を観ている爆豪は口を開く。

 

「筋肉酷使すりゃあ筋繊維が切れるし、走り続けりゃ息切れる。個性だって身体機能だ、あの半分野郎にだって何らかの限度はあるハズだろ…」

 

爆豪はそう言うと自分の腕を黙々と見つめる。

 

(まあ俺だって出せる威力には限度がある…あん時麗日に打ったのが限界だしな……ま、だからコスチュームで許容超過の爆破をノーリスクで撃てるように考えた訳だし……それに指のみでの爆破も、五指全部使えば火力出せても威力は減っちまうわ体力も無駄に削る……それは体力テストのアレと同じ……となるとやっぱ3本が妥当か……)

 

爆豪は珍しく冷静だ。言動はアレだが彼も彼なりの考えがあるのだろう…

 

「なんにしてもいたいよ〜〜!!まだ辛いの治らないよ〜…」

 

「クッ…!こうなったのも爆豪の所為だ……が、悔しいことに雲雀が起こした事だからな……何も言えない…!」

 

「ゴメン待って雲雀に何があった?」

 

まだ涙目になって口を大きく開けてる雲雀に、柳生は頭を撫でては爆豪を睨みつけ、そんなやりとりを見てる切島は、その時その場に居なかった為、訳がわからなかった。

 

「う〜ん…これだと難しそうだね…緑谷くん…」

 

「うん、デクくん痛そう…指が……」

 

飛鳥とお茶子は緑谷を見て心配する。そこで斑鳩は飛鳥の顔を覗き込む。

 

「そう言えば飛鳥さん、ヤケに緑谷さんを応援していますが…何かあったのですか?」

 

「ふぇっ!?斑鳩さん!?あ〜えっと〜…いえ、特には別に…」

 

斑鳩の突然な質問に驚き慌てる様子を見せるが、すぐに態勢を取り戻す。

 

「普通科との戦いはともかく、ヤケに緑谷さんに肩入れするようにも見えますし…」

 

「そういやそうだな、そこんところアタイも気になってたぜ、他の競技でも応援してたしな」

 

斑鳩の言葉に隣にいた葛城も聞いてたのか、何度も頷き納得する。

 

「か、葛姉まで〜…!大した理由なんかないよ〜……ほ、ホラ、私緑谷くん達とは仲良いし、何気に気が合うし、それに緑谷くん毎回ケガするから心配も兼ねて…」

 

「なるほど…そういうことでしたか…」

 

「ちぇ〜!んだよつまんねっ…!」

 

飛鳥の理由に納得した斑鳩、葛城はつまらなかったのか、口を尖らせる。

 

「ハァ……それはそうと…轟くんには……事情が事情だし……」

 

飛鳥はため息をついて、再び舞台に目を向ける。

 

(何だろう………轟くんの背中を見てると、何処か寂しくて、可哀想な感じが伝わってくるな……)

 

悲しい眼差しを向ける飛鳥は、ソッと心の中で呟いた。

 

 

(あっ、そう言えば疑問に思ったことがあるけど……轟くんは………どうして、ヒーローになりたいんだろう……?)

 

父親に無理やり個性を受け継がれたから?全てを持たされたから?父親を完全否定する為?精神的に追い詰められた母親のため?

なら別にヒーローでなくたって否定することはできる。例えば焔みたいに家を出たりとか…

 

だが何かしら理由があるからこそヒーローを目指すのだろう。だが今の轟を見てても何も感じ取れない。感じ取れるのは…

 

 

 

クソ親父(ヤツ)を完全否定する』

 

 

父親が悪みたいに、完全否定することしか感じ取れない。

 

 

だから正義である善忍の飛鳥は思ったのだ。

 

 

 

轟くんにとってのヒーローって、何だろう?

 

轟くんは、何を憧れてヒーローになったんだろう?

 

 

二つで一つの疑問を浮かべる飛鳥はただただ、二人の戦いを優しく見守るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「耐久戦か?直ぐに決着付けてやるよ…」

 

轟は氷を使って同じ攻撃をする。当然緑谷も反撃するわけだが、これで右手は全部全滅してしまった。つまりもう残るは左だけ…

緑谷はもう右手が使えないと察した轟は氷を重ねて接近する。今度は氷結攻撃ではなく接近戦を試みた。緑谷は左の指を使い氷を壊すが、氷の上に乗ってた轟は無害。上からジャンプし緑谷に着地する。と同時に氷を出し氷漬けにするためまたもや氷結攻撃が繰り出される。

 

「っ!足が!?」

 

避けたつもりだったが右足が氷漬けにされ動きを封じられてしまった。それを見た轟はチャンスだと判断したのか、氷結攻撃を繰り出そうとする…

 

ズドオオォォォォォォォォォン!!

 

しかし…

 

「……さっきよりも高威力の攻撃だな……なるほど、近づくなってか」

 

「ぅぅっっっっ!!!」

 

緑谷は轟に攻撃させないため、いち早く攻撃することに成功した。しかし…左腕は血まみれに腫れ上がっていて…

余りの激痛に思わず目がくらみ、涙を浮かべる。

 

(個性だけじゃない、判断力、応用力、機動力…忍の訓練を受けてたからってのもあるし分かってたけど……全ての能力が…強い!!)

 

忍の訓練を受け、父親と母親から受け継いだ個性を持つ。

忍の訓練だけじゃない、ヒーローとしての訓練も受け鍛えられた轟は、そこらにいる一般ヒーローなどとは比にならないだろう…

 

「さっきから守っては逃げてるだけでもう既にボロボロじゃねえか……」

 

ここで轟は白い息を吐きながらザッと一歩足を出す。しかし緑谷はここで気づいたことがあった。なんと轟自身、わずかに震えてるのだ。それは寒さによるものなのだろうが…するとここで轟は観客席の方に視線を移す。先ほどからチラチラと見ていたその先は…

 

 

 

 

「悪かったな…ありがとう緑谷。おかげで、奴の顔が曇った」

 

 

 

父親のエンデヴァー。否定するためにずっと顔色を伺っていたのだ。

 

「その両手じゃもう戦いにならねえだろ……終わりにしよう。だから…」

 

苦痛と轟自身に悩まされながら、冷や汗を垂らし睨みつける緑谷に、轟は最後の氷結攻撃を繰り出した。

 

 

「俺のために、負けてくれ」

 

 

その言葉を言い放ち、氷を重ねて攻撃する。

 

『オォーーっと!圧倒的に攻め続けた轟選手!!最後だと判断しトドメの氷結を…』

 

 

 

「どこ見てるんだ!!!」

 

「!」

 

轟の最後の一撃と判断したマイクが実況してるなか、舞台では緑谷の言葉によって遮られる。緑谷が動き出したことに初めて驚く素振りを見せる轟。

 

 

ズドオオォォォォォォォォォォォォォン!!

 

 

強烈なる一撃が炸裂した。何時もの攻撃…とはちょっと違い……

 

「クッ…!」

 

衝撃波に思わず吹っ飛ばされた轟は、なんとか場外を阻止するため、パキパキと氷を這わせ、重ねて後ろに壁を作る。それも場外ラインギリギリなところで…なんとか場外を阻止することが出来た轟は緑谷の指を見た。

 

「テメェ…なんで……」

 

(右手は全滅したはず……まさか壊れた指で……!?)

 

先ほど晴れてた指は更に酷くなり、血まみれになっている。見てるだけで痛々しさが伝わる。

 

「何でそこまで……「震えてるよ轟くん……」!?」

 

轟は緑谷に問いかけるが、緑谷は右手を震えさせながら震える体を見つめてる。

 

「個性だって身体機能の一つ……君自身冷気に耐えられる限度がある………でもそれって、左側の熱を使えば解決できるんじゃないのかな………?」

 

「っ…」

 

左、炎に突かれたことに轟は忌々しい目つきで緑谷を睨みつける。

 

「皆んな……本気でやってる………!!」

 

壊れた血に染まった指をゴキゴキと無理やりにでも動かす。痛みに堪えながらも轟を睨みつける緑谷。

 

「勝って……それぞれの目標に近づくために……1番になるために…!!皆んな本気で頑張って、戦ってるんだ!!それなのに……()()の力で勝つ?!まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ!!」

 

緑谷の熱い言葉が、会場中に響き渡る。痛々しい酷い傷を見ては、戦いに息を飲み込むものもいる。

 

「全力でかかって来い!!!!!!」

 

緑谷は真っ赤な血に染まったその拳を強く握りしめ、轟に向けて宣戦布告した。

 

「緑谷くん……」

 

緑谷の言葉を聞き、目を丸くする飛鳥。ある言葉を思い浮かべた。それはあの昼休憩の時、呼ばれて轟の家事情を聞いた最後に飛鳥が言った言葉を…

 

 

『全力でかかってきて!!』

 

 

その言葉が、緑谷と積み重なったからだ。

 

 

飛鳥だけでなく…

 

 

「あの小僧…」

 

エンデヴァーも…

 

(轟くんも貴方じゃない!!)

 

脳裏に言葉を浮かべる。

 

 

 

 

緑谷の宣戦布告を聞いた轟も同じく

 

『全力でかかって来て!!』

 

飛鳥の言葉を思い出し…

 

 

「飛鳥と言い、お前といい……何のつもりだ……!!」

 

 

怒りを露わにする轟は、表情を歪ませた。




轟って怒る場面滅多にないし、レアな感じしますしなんかカッコいいですよね。それはそうとヒロアカ二期アニメ化決定おめでとう!!見ねば…絶対見ます!!そしてOVAもどうしようかな…ファンなら買うけど……
閃乱カグラも二期やって欲しいな〜…5周年記念として…

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