一対一のガチバトル。この競技は至ってシンプルだ。
ルールに従い、個性を使っては一対一で戦う感じだ。ようは小細工なしの実力勝負といったところだろう。こう言った競技は大体が単純だ。
「トーナメントか!毎年テレビで見てた舞台に俺らは立つんだな!なんかこう……腕がなるぜ!」
切島は緊張しているのだろう、ハラハラしながらトーナメント決勝戦を待ち望んでいる様子が見受けられる。
毎年形式は違ったりはするが、例年サシで競っているとのこと…
「まあ取り敢えず、まずはトーナメントの組み合わせ決めのクジを引いて貰うわよ。組みが決まったらレクリエーションを挟んで開始にするわ!」
ミッドナイトはクジを引くための正四角形の箱を出す。
「レクに関してだけど、進出者16人は参加するもしないも個人の自由よ。息抜きしたい人や温存したい人とかだっているだろうしね。そんじゃっ、まず一位チームから順番に…」
「あの!すみません!」
ミッドナイトが話してるなか、聞き覚えのある男子の声が聞こえ、皆は一斉に振り向くと…なんとその人物は……
「僕、辞退します……」
「尾白くん!?」
1年A組 尾白猿夫であった。
尾白が突然辞退を申し上げたことで、皆は動揺し疑問を抱く。それは出場者だけでなく、会場や飛鳥たちもだ。
「どうしちゃったんだよ、あの猿っぽいやつ!?せっかく出場出来るんだぜ…?」
「何か理由があるのでしょう?でなければ…」
「理由?腹が痛えとか?」
「………」
葛城は尾白がなぜ出場を蹴ったのかを疑問に思い、斑鳩は何か理由があるのだろうと言うが、葛城の余りにも馬鹿げた答えに斑鳩は言葉を失ってしまう。
「でも確かに変だな…こんな機会滅多にないと言うのに……アイツに限って怖気ついた…なんてことはないしな…」
「分かった!おやつの時間がないからだ!!」
「雲雀ちゃん、それ絶対に違うと思う…ううん、絶対に違うから」
おやつの時間がないだのと、考えもしないことを言ったため、あの飛鳥でさえ目を細めて突っ込んでしまう。
尾白はなぜ辞退を願うのか?その理由は勿論、この場で明かされることになる。
「チャンスの場だって分かってるよ…俺だってヒーロー目指してるんだ。正直言えば出たいよ……それをフイにするなんて愚かなことだってのも!……でもさ!」
尾白は真剣な眼差しで、己の拳を強く握りしめて見つめる。
「皆が本気で力を出し合い争ってきた座なんだ…なのにこんな、ワケの分かんないままそこに並ぶなんて…俺は出来ない」
そう言い切った。
「気にしすぎだよ!本戦でちゃんと成果を出せば良いんだよ!」
「そんなん言ったら爆豪と手を組んでた私もそうだよ!?」
真っ先に葉隠と芦戸は、悔やむ尾白を励ます。特に芦戸なんかは、轟の氷対策として爆豪に呼ばれたのだ。実際実力として誘われたわけではない。いや、最初に誘う声をかけたのは芦戸だが……
「違うんだよみんな…俺のプライドの問題…気持ちの問題なんだ!……皆んながそう言ってくれるのは嬉しい…でも、俺が嫌なんだよ……」
その声には悔いや心の苦痛を感じさせるものが含んでいた。尾白の言葉に皆は黙り込んでしまう。尾白は目を瞑り、少しだけ、ほんの僅かに涙を浮かべていた…
「僕も、辞退します!」
そんななか、辞退を願う者は尾白だけでなかった。背が小さく、見るからに大人しそうなB組の男子だ。
「僕もその人の言葉に一理あります!理由も同様です!実力如何以前に『何もしてない』者が上がるのは、この体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか!」
「庄田…」
棄権を求める庄田二連撃に、その隣にいた鉄哲は思わず声を出してしまう…
尾白、庄田、ついでに言えば青山と手を組んでいたのは…普通科の心操と呼ばれる人物だ。この人物についてはよく分からないが、何かの個性を使って三位にまで上がれたのだろう。しかしどういった個性なのかは未だ不明だが……
棄権を求める二人に、会場の空気は重くなる。
しかし主催であるミッドナイトがそれを認めるかどうかだ…二人の理由は素晴らしいが、どんな理由があっても、決めるのは主催のミッドナイトなのだから。
『そう言う話は…好み!!ってなわけで尾白、庄田の棄権を許可する!』
(許可すんのかよ…!)
あんなにも表情がドス黒かったのに、僅か3秒くらいで決まった。青山は棄権しないらしい。
「そ、そんなのも有りなんだ〜…」
飛鳥は冷や汗を垂らしながら苦笑する。
『けどそうなると人数が合わなくなるわね…その場合は騎馬戦5位の拳藤チームだけど…一体誰にするのかしら?』
「う〜ん…まあアタシらは全然動けなかったし…ここは…」
当てられた拳藤チーム、一体誰が行くのかという話になる。チームのリーダー、拳藤は周りをキョロキョロ見渡す。
「最後まで頑張って上位キープしてた、鉄哲チームじゃないか?」
「!!?」
チームの名前を呼ばれた鉄哲達は、驚く表情を浮かべる。その後段々と涙が浮かんでいき、鉄哲は思わず頭を下げる。
「オメェら…ありがとな!!」
「このご恩は一生忘れません…」
というわけで、鉄哲と塩崎が繰り上がり、16名となった。
トーナメントの結果は…
緑谷VS心操
轟VS瀬呂
塩崎VS上鳴
飯田VS発目
芦戸VS青山
常闇VS八百万
鉄哲VS切島
麗日VS爆豪
こうなった。
トーナメント表のモニターを呆然と見つめる緑谷。
(僕が勝ったら、そして轟くんも勝ったら…もう早くぶち当たるのか…!)
轟から受けた宣戦布告を思い出す。
その時だった…
「なあ、あんただよな?緑谷出久って…?」
「!?」
後ろから声を掛けられた。振り返って見ると、その人物は普通科の心操と呼ばれる人で、また尾白と庄田、青山と手を組んでた生徒だ。
「よろシ「喋るな緑谷!」!?」
緑谷が返事をしようとした途端、突然尾白が尻尾を使って口を巻き、喋れないようにする。それを見た心操は思わずため息をつき去って行く。尾白はとても厳しい警戒態勢で、睨みつけながら姿が消えるのを確認すると、ようやく口を開いた。
「ヤツの話を答えると…
「へ?それってどう言う……?」
一方、モニターを見つめてから、轟は緑谷を睨みつける。
(……思ったよりも早えな………来いよ緑谷、この手で倒してやる……)
切島と鉄哲は…
「お前がB組の鉄哲ってやつか!如何にもTHE・鉄!って感じが伝わってくるな!」
「お前はA組の!そういうお前こそガチガチの硬化野郎だな…ダブりかテメェ!」
「それを言うならこっちのセリフだ!」
切島と鉄哲は、個性が似てるため、何かしらといがみ合い、仲が良さそうだ。
「……麗日?誰だソイツ?」
(ひいいいイィィィィーーーーーーー!!?)
自分の対戦相手を見て、誰だか分からない為首をかしげる。そのすぐ近くに居たお茶子は顔面蒼白し、滝のように冷や汗が流れる。麗日が誰なのかすら分からない爆豪に、お茶子は今の現状で最早突っ込みを忘れてしまう。
ゴーグルを掛けたサポート科の女子、発目は、飯田を見かけて話しかける。
「そのメガネ…もしや貴方は飯田さんでは間違い無くて!?先ほどターボヒーローインゲニウムを見かけたのですが…」
「ムッ!如何にも僕が飯田だぞ!インゲニウムは僕の兄だ!」
「ひょおーーー!お会い出来て光栄です!実は貴方に話したいことがあるのですが…」
『よーーし!それじゃあトーナメント置いといてレクリエーションだ!!楽しく遊ぶぞ盛り上がれー!』
マイクは相変わらず馬鹿でかい音量を出して、ノリノリ気分で実況をする。
半蔵、女子陣たちではまたもや話し合いが始まる。
「飯田さんの相手はサポート科の…それに緑谷さんとは普通科の人と対決ですか…」
「なんか面白くなってきたじゃねえか!」
「爆豪の相手は………」
「麗日ちゃんだね……」
「ひ、雲雀、お茶子ちゃんの戦い見れないよ……だって爆豪くん女にも手をあげるんでしょ……?」
斑鳩と葛城は他の人たちの戦いに興味を持つが、雄英転校生三人は、爆豪とお茶子を温かい目(雲雀は恐怖を見るような目)で見守る。
とは言っても…
神経を研ぎ澄ます者
緊張を研ぎほぐそうとする者
激戦を見て思いを心に刻む者
それぞれの思いを胸に、あっという間に時は来る。
セメントスの個性、セメントで会場の中心に舞台を作り上げる。セメントスの個性はコンクリートがあれば現代社会では鬼強い。それを操り色んな物へと造り替えるので、戦闘としてだけでなくともとても便利だ。
『サンキューセメントス!ヘイガイズアァユゥレディ!?』
ここでマイクの実況が始まる。
『レクリエーションだのなんだの色々やって来ましたが!!皆さんお待ちかねの、最後の競技、ガチンコ勝負だぜ!』
マイクの実況で観客はドッと歓喜の声を上げる。騒ぎ、煩いくらいだ。今までは周りに皆んなが居たから緊張もそれほどしなかったが、いざ一人との戦いになると尚更緊張感が増す。しかも全国にまで流れてるのだ、逆に緊張しない方がすごい。まあ緊張しない輩となると、轟、爆豪は当たり前のことだが…
しかし緊張するのは必ず自分だけでないはず…
焦り
緊張
不安
心臓の音が高鳴り、色んな感情に惑わされながらも、なんとか落ち着きを取り戻す為、呼吸を整える緑谷
『頼れるのは己のみ!ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ分かるよな!?』
拳をソッと握りしめ、胸に当てる。
『心・技・体に知恵知識!総動員して駆け上がれ!!』
緑谷は会場に出場しようとしたその時だった。
「ヘイ!緑谷少年やったな!」
後ろから、とても聞き慣れた声。聞くだけで心がホッとする…いつも元気を与えてくれるその主は…
「オールマイト!?」
「遅れてメンゴめんご!ワン・フォー・オール掴んできたな!」
ガリガリの姿のオールマイトは、緑谷に親指を立てる。しかし緑谷はあまり乗り気じゃないのか、顔を伏せてしまう。
「えっと…まだ、不安です……敵に撃った時のイメージをいつも頭の中に浮かんでるんですけど、まだまだ全然…それにさっきの轟くんの騎馬の時、個性使って手は壊れませんでしたが、痛みがあって……まだ完璧というわけでは……仮に成功しても、ちょっとパワーが上がったくらいしか……あ、あと蛇女子学園の時に襲ってきた脳無に100%の力で指のみを使って撃ったんですけど、立ち上がって……倒せなくて……」
「うん、そりゃそうさ。だって君の100%が全て引き出してるわけじゃないもの……以前話した0か100かの出力で言えば、今の君で出せてるのは5だからね」
(5!?)
話すたびに不安が高まってく緑谷。ワンフォーオールについて説明したところ、緑谷の100%の力は、ワンフォーオールの0か100かで言えば5らしい…
5て…じゃあ本気の力はどんだけだよ……
「そう言われると、完成するまで僕あと何十年掛かるんだろう……?皆と運に恵まれたって感じですよね僕……ダメ駄目じゃ…」
「そこは『こなくそ頑張るぞー!』で良いんだよナンセンス緑谷少年!」
ネガティブな緑谷に、オールマイトはスタアァン!と頭にチョップを食らわせ喝を入れさせる。
「君の目指すヒーロー像は!君の見てきたヒーロー像はそんな儚げな顔かい?違うだろ!?いいかい?怖い時、不安な時こそ…」
緑谷は思わずチョップを食らった頭を手で押さえつける。
「笑っちまって臨むんだ!」
ムキッとした逞しい肉体の姿へと変わり、いつもの調子のいい笑顔を見せる。
「ここまで来たんだ、虚勢で何でも良い…胸は張っとけ!私が見込んだってこと忘れるな!!」
オールマイトの励ましに、言葉に、緑谷は唾を飲み込み、大きく頷いた。
そして、両者共にやって来た。
「あっ、来ましたよ!」
「緑谷くん頑張れー!」
「頑張れぇ〜!」
「ああ、雲雀頑張れ!」
「いや、何でだよ……」
今回は半蔵五人の応援(柳生はズレてて)だけでなく、待機してるA組も応援している。
「これさ、あたしらA組同士で戦う場合、どっち応援しようかな…」
「そう考えると難しいわね…ケロ……」
「オイラは俄然女子だな、うん、最高!」
「………」
耳郎と蛙吹が話し合ってるのを聞き、峰田は仲に入って自分の思ってることを言うと、二人は無言で引いた。いや、引くってよりももう何だお前?みたいな感じかもしれない。峰田が変態など、誰もが知ってるんだから……
『一回戦!成績の割になんだその地味ボロなお前!ヒーロー科、緑谷出久!!』
緑谷出久は一歩前に出る。
『VS ごめん君まだ全然活躍してないけど何か凄いやつ!普通科、心操人使!!』
心操人使も一歩前に出る。
「来たぞ早速…」
「デクくん頑張れ〜…!」
「緑谷くん頑張れーー!!!」
柳生が反応すると、飛鳥とお茶子は緑谷を応援する。その近くには…
「緑谷のヤツ…応援されてるな…スゲェ羨ましいな…俺もこうやって応援されんのかな?」
「アイツ、コロス、緑谷、追放、求ム…!!」
上鳴と峰田は、飛鳥たちが緑谷を応援してることに嫉妬する。上鳴は軽い気持ちだが、峰田は目を充血させ、カタコトになる。
『さあ、サクッとこの戦いのルールを説明するぜ!ルールは簡単!相手に『まいった』と言わせるか、相手を場外へと出した方が勝ちだ!!怪我なんざ恐れるな心配するなよ!こちとら医療の女神とも呼ばれる我らがリカバリーガールが治療させてやっから!道徳倫理は一旦捨てとけ!な?な?』
「なぁ…緑谷」
マイクの解説が入ってるなか…心操が緑谷に話しかける。
「俺たちはヒーローを目指してんだ…例えどんな思いをしても、ヒーロー目指すなら、乗り越えてやらなくちゃいけねえんだ…なのに、
猿…それは紛れもなく尾白のことを言っている。
『START!!』
「バカだとは思わないか?」
スタートの掛け声と共に心操の言葉が緑谷の心を突き刺す。思いを託してくれた友達を、バカにされた…
「なんてこと言うんだあぁ!!」
そのことにキレ、思わず怒鳴り声を出す緑谷。次の瞬間。
ピキーーン…!
「………!」
緑谷は硬直したかのように、動きが止まった。それを見た心操は……
「俺の 勝ちだ」
勝ち誇った笑みでそういった…
『な、なんだオイオイしっかりしてくれよ!?一体どうしちまったんだ!?緑谷出久…停止!?』
突然訳のわからないことが起きて、会場が騒めきだす。それも当然、緑谷は動かないのだから…
「な、何…どうしちゃったの?」
「…何が起きたんだ?」
「………」
飛鳥と上鳴は、動きが停止してる緑谷を見て緑谷に何が起きたか分からない様子だ。爆豪に至ってはかなり冷静でいる。
そんななか、黒いスーツを着用している鴉のお面を被った謎の人物は…
「……これは恐らく…洗脳でしょうかね。私の推測が正しければその筈…傀儡のような特殊な気を感じられませんからね…」
指でポリポリと頭を掻きながら、ボソリと呟いた。そう、この会場の中で誰も心操の個性を知らないのに、知ることも出来ない状況なのに…知る場面などなかったのに、短期間で推測して答えを出したのだ。
『全っっっっっっ然目立ってなかったけど彼…ひょっとして、ひょっとすると…滅茶んこヤベエやつなのか!?』
薄暗く、無表情な顔を浮かべる心操。この男、得体が知れないと…
(二人の簡単なデータ、調べてもらったが…あの入試は合理的じゃねえんだよ……心操はわざとヒーロー科実技試験で落ちている。普通科も受けてるってことは落ちるのは想定済みだったってことだ…アイツの個性はとても強力だが、あの入試じゃP稼げねえよ……)
相澤は緑谷と心操の二人の簡易データの資料を見つめて心の中でそう呟いた。
入試の実技試験は、制限時間内に、多くの仮想敵を倒してPを稼ぐといった試験だ。個体によってPは変わるが…心操の個性では、無理だった…
緑谷は身動き一つも取れず、その場を硬直したまま、心操はそんな緑谷に語りかける。
「……お前は、良いよな……そんな派手な個性を持つ事ができてさ…お前が羨ましいよ……
緑谷出久、振り向いてそのまま場外まで歩け」
心操が命令すると、緑谷は心操の言葉通りに動き出した。そのまま場外へと歩いていく。
心操人使 個性 『洗脳』彼の問いかけに答えた者は、洗脳スイッチが入り、彼の言いなりになってしまう。本人にその気がないなら洗脳スイッチは入らない。また洗脳されたものは心こそあるものの、自分ではどうすることも出来ない。
体力テストでは緑谷はヒーロー科にしては酷いところはあったが、心操の場合はさらに酷い。そう、心操の個性さえ引っかからなければ問題ないのだ、しかし緑谷は心操の挑発にまんまと乗ってしまい、その結果こうなってしまったのだ。もうこうなってしまった以上、決着は早いしどうすることも出来ない。
「み、緑谷くん〜〜…!!」
飛鳥は緑谷が戻るようにと目を瞑り祈る側から、峰田はちょんちょんと飛鳥に指をつつく。
「へ、へい…飛鳥ちゃん、あんま心配しすぎるとおっ…肩こるぜ?オイラが胸を揉みほぐしてやろうか?」
「ゴメン峰田くん、今フザてる場合じゃないんだ、やめてくれるかな?」
「あっ………ウッス……その、すいませんでした…………」
飛鳥の塩対応…いや、日影のような無感情な対応、ゴミを見るような目で睨みつけ、峰田は心が傷つきその場を謝罪する。峰田よ、傷つくくらいならやるなよ…と、皆は哀れみな目で見つめるのであった。
だめだ…ああ、ダメだだめだ駄目だ!
緑谷は心の中で叫び出す。
体が、勝手に…頭がモヤがかったみたいに駄目だ!止まれ…とまれ!
どれだけ何をどう抵抗しようとも、変わらない、洗脳は解けない…
折角…せっかく尾白くんが忠告してくれたのに…こんなことって……!くそう…畜生!!
出場する前のこと控え室では、尾白は緑谷を呼び出し、心操の個性について話してたのだ。尾白も詳しくは分かってないが、それでも自分が分かってることを教えなきゃと…
「操る個性?ソレって…強すぎない?無敵じゃん…」
緑谷は心操の個性の能力を聞き、思ったことをそのまんま口に出した。
「ああ、確かに強い…でも多分初見殺しさ。俺問いかけに答えた直後から記憶がほぼ抜けてた…そういうギミックなんだと思う」
「うっかり答えたりしたら即ゲームオーバー…って感じだね……」
緑谷は心操の個性を知り、ゾッとした。そりゃあそうだ、話しただけで操られる、ようはそれだけで終わってしまうのだから。しかし尾白は首を横に振る。
「いや、つっても俺らが思ってるほどの万能じゃないな…記憶、終盤ギリギリまでほぼって言ったよな?心操がB組の騎馬のハチマキ奪って走り抜けた時、鉄哲チームの騎馬と俺ぶつかった時に…目覚ました。そっからの記憶はハッキリしてるんだ」
「……ようはそれって、衝撃によって解ける…みたいな感じ?」
「ああ、その可能性は有りとみなして良いと思う。でもどれくらいの衝撃かは分からないし、それにもしかしたらだけど、他の手を使って解けることだってあるかもしれない…けど今のところ分かるのは、衝撃によって目を覚ます、答えることで洗脳されちまう…くらいだ…一対一で外的要因は期待出来ないから対策が一番だな…まっ、俺から出る情報はこんなもんだ…」
「ありがとう!物凄いよ尾白くん!」
今出せる情報を全て教えて、洗脳の対策を出した尾白は座ってた椅子から立ち上がり、緑谷はそんな尾白に感謝する。
「あのさ…緑谷……すごい勝手なこと言っちまうけどさ…
俺の分まで頑張ってくれよな…」
尾白は緑谷の肩に手を置き、託すようにそう言った……
んで現在。
こんな!こんなあっけなく…僕が…!!
皆んなが、託してくれたのに…!!
もうあと少しで場外。その時だった…緑谷の頭のなかから、直後何者かの人影が
「!!?」
その瞬間…
バキッ!!!!ブオオオォォォォォォォォォン!!
指の折れる音、強烈な衝撃波が会場に鳴り響いた。
「ハァ…はぁ……!ゲホ…ゲホっ!!」
そして緑谷は、晴れた指を押さえながら、クルっと後ろに振り向き心操を睨みつけた。
『おおおぉぉーーー!?なんだ何だ!?よく分かんねえんだけどどーなっちゃってんの!?取り敢えず…緑谷出久踏みとどまったああぁぁ?!』
「嘘…だろ…!?」
マイクの実況と同時に、驚愕な表情を浮かべる心操。洗脳の個性は完璧のはず、何より今まで緑谷みたいに洗脳を壊してきた輩など、一人もいないのだから…
ただ簡単に言えば、指を爆発させて洗脳を解いたのだ。
「み、緑谷くん…?!」
「す、すげぇ…無茶を……」
「何だアイツ…今のどうやったんだ!?」
飛鳥、尾白、葛城は驚きを隠せないでいる。飛鳥の祈りが神に届いたのか、あるいは緑谷のワンフォーオールに秘められた力のお陰なのか…
「ホホゥ!これはこれは…なんと…!自らの力で洗脳を解いたのですか…!?素晴らしい精神…何よりそのパワー!侮れませんねぇ……」
クスクスと不気味で気味の悪い笑い声を立てる謎の男は、緑谷を感心するような目で何度もなんども頷いた。
それに対し、心操は…
「待てよ…体の自由は効かないはず…効いたとしても外部からの接触じゃなきゃ……オイお前!一体何をした!?」
冷や汗を垂らしながら、先ほどの余裕が嘘みたいに消え、内心焦る。
(指は僕だ…でも、動かせたのは違う、何だ!?知らない人やオールマイトに似た誰かが浮かんで…一瞬頭が晴れた!これもワンフォーオールかなんかに繋がってるのか…?)
ワンフォーオール
聖火の如く引き継がれてきたもの
(人、紡いできた人の…まさかだとは思うけどワンフォーオールの前任者!?その気配か…?)
緑谷は晴れた指を痛々しい目で見つめた後、心操に振り向く。これだけはわかった。その謎の気配に、緑谷は救けられたのだと…
しかしそれが本当の答えなのか、分かるはずもない…緑谷は取り敢えず考えることをやめて、目の前のことに集中する。
喋らないよう意識する緑谷に、心操はますます内心焦ってしまう。
(いや、待て待て落ち着け…答えないのはネタが割れてる…元より最初っからバレてたんだ、あの猿のやつに聞いてた筈だ…なら、また口を開かせば…!)
「なんとか言えよA組…」
心操は睨みつけそう言うものの、緑谷は案の定口を開かない。
「……!指動かすだけでバカげた威力か!その個性羨ましいよ!!」
僕も昔それ思ってた
緑谷は止まらず前に進む。
「俺はこんな個性のおかげで、スタートから遅れちまってさ、周りの奴らも口を開けば『敵向きだね』だなんて言って皆んなそればっか……!!人の気持ちも何も考えず、知らずに偉そうに!なぁ…お前みたいに恵まれた人間には俺みたいな人間の気持ちなんざ分からねえんだろ?」
分かるよ…痛いほど、辛いほど分かるよ…僕だってそうだった…でも、僕は恵まれた…!
心操の痛々しい言葉を、胸に受け止めながらも向かっていく。
「誂え向きの個性に生まれて!望む場所に行けるやつにはよ!!」
僕は人に、恵まれた…!!
同情する思いを噛み締め、目を瞑りながらも、目の前の心操に立ち向かう。そして肩を掴んで押し出そうとする。
「このまま押し出すつもりか?フザけたことなんざしやがって…!」
肩を掴んでた手を払いのけ、緑谷を殴る。
「なんか言えよ!!」
それでも諦めない、心操に対して思ってることは山ほどある、それでも緑谷は心操を押し出そうとする。
「しつこいな…お前が出ろよ!!」
心操が緑谷の首を掴み、押し出そうとした瞬間。
「んぬうおおおぉぉりゃあああぁぁあぁぁあああああああ!!!!」
緑谷は大きな雄叫びを上げ、心操の腕を掴み、戦闘訓練で爆豪にやったように背負い投げをする。
気持ちは分かるよ…僕も同じだったから………でも、僕だって託されたんだ……だから……
負けられないんだ!!!
心操を背負い投げした時、背中が場外ラインの線を超えた。
「心操くん場外!よって緑谷出久、二回戦進出!!」
勝負が決まり、会場が大きな歓声に包まれた。
はい、原作の通り、案の定緑谷進出です!なるべくオリジナルも入れたいのですが、なかなか…入れるとしたらせめて飛鳥たちの思うセリフか、謎の男のセリフ…しかしこの謎の男は一体何者なのでしょうかねぇ…?(←すっとボケんなww
まあそれについては後々分かってきますよ!では次回もお楽しみに!