ヤベェ…やべえよぉ……と、言うわけで、31話の始まりです!
ドガアアアアアアァァァァァァァン!!
二体の脳無は、テープがボロボロとなり千切れて、赤脳無を凍らせた氷も砕かれ、二体は血と消化液を口に垂らし、かなり重傷なレベルで吹き飛ばされた。
遠くでそれを見た死柄木達は…
「あれは…!」
「は?」
吹き飛ばされ戦闘不能となった二体の脳無を見て、黒霧は目を細め、死柄木は目を丸くする。
「おいおい、ざけんな……ふざけんなよ!何がどうなってんだ!?あのオンボロ屋敷の中で大爆発が何度も炸裂したから、善忍を殺してるんじゃないかって思ってたら…なんで脳無が吹き飛ばされてんだよ!!アイツらは忍学生を何十人も殺せるように改造したんじゃねえのかよ!しかも漆月のヤツは一体何してやがるんだ!?」
「まさか、あの二体の脳無が…」
死柄木は突然の余り癇癪を起こし、ガリガリと首を掻きながら、双眼鏡をボロボロと崩壊させる。その隣にいる黒霧は、中で何が起きたか分からず驚愕している。
「なんでだよ……そもそも悪忍はどうした?なあオイ?」
「それは私に聞かれても分かりませんよ死柄木弔……ですが確かに可笑しいですね…先生の仰る通り、あの二体は出来立ての『上位級』脳無… ましてや善忍はたったの五人…そんな相手に一体どうやって…」
「……っっ!!ああ、ああ!!くそ!クソが!学校襲撃で失敗したばっかだってのに…何で…なんでだ!」
死柄木は納得しないような口で話だし、疑問を抱いてる黒霧はソッと死柄木を見つめるのであった。
天守閣内では…
「やったぜぇ!やっと倒したな!」
「冷やっとしたぜ…もしこの作戦が上手くいかなかったら完全に終わってたもんな…」
「いや、そうでもないぞ…あの脳無とやらは完全に弱っていた…油断は禁物ではあるが、完全に終わるわけではない…」
切島と瀬呂は喜んでいると、常闇は横でボソリと呟く。
「それにしても、まさか共闘するとここまで力を発揮するとはね〜…」
「フフ、それねマドモアゼル☆」
「え?」
未来が疲れたように呟くと、青山はここぞと言わんばかりに話し出し、未来は「ええっと?」と首をかしげる。
「そ、そんなことより!…あの脳無って奴ら、一体なんだったの?」
未来はそう聞くが、皆んなも首をげる。そんな中、春花は雲雀に聞く。
「雲雀、貴方なら何か知ってるんじゃない?」
「え?あ、えと…ううん、雲雀もよく分からないの…」
雲雀は何処か悲しいような目で呟いた。
「けど、心がないとかって見極めれたじゃない」
「あ、あれは…雲雀の『この眼』の力のおかげで…」
雲雀がそう話すと、春花は「まあいいわ」とため息をつく。そんな春花に近づいてきたのはあのドエロ変態の峰田だった。
「は、春花様あぁぁ!!ご、ご褒美を下さいぃぃーーーー!!!」
「あらアラ、随分と私の虜になったのね…♪」
「はいぃぃ!!」
土下座していて顔は見えないが、顔を真っ赤にしてとても嬉しい満面な笑みを浮かべている。それを見た春花は、新たな下僕を手に入れたことに快感を覚える。
「緑谷ちゃん、取り敢えず峰田ちゃんに何があったか教えてくれるかしら?」
「えっ!?あ、あ〜…えと…それは…」
汚物を見るような目で、峰田を見ながら緑谷に聞く蛙吹に、緑谷はぎこちない返事で苦笑する。緑谷は案の定話した。それは、峰田がたまたま春花に一目惚れして、「オイラの下僕にして下さい〜!」と額を地面に擦り付けていたそうだ。峰田の性格上やりかねないことだが…そんな春花は、いつも下僕として扱ってる傀儡が峰田のもぎもぎで無くなってしまったので、丁度いいから下僕にしてあげたそうだ。
「煩悩の塊…サイテーね…」
蛙吹はゴミを見るような目でそう言うと、緑谷はまたまた苦笑しながら蛙吹を見つめるのであった。
「うっぷぅ!もうダメ…『解除』っと…」
お茶子は吐きそうになったのか、手で口を押さえて手の指先を触り『解除』する。
「ああ〜…気持ち悪い…」
「大丈夫かお茶子?」
具合の悪いお茶子を見て轟は心配すると、お茶子はニコッと笑みを浮かべて「大丈夫だいじょーぶ!」となんとか元気を出して言う。
「そうか…個性のリスクは仕方ねえからな…コスチューム作ってくれてるサポート会社に要望頼めば良いんじゃねえか?個性のリスク減らすために…」
「う〜ん…そうだけど…って、アレ…?私さっき『解除』って……」
お茶子がそう呟いた途端、重要なことを思い出し、お茶子の顔は段々と青ざめていった。そう、まるで『何か』に怯えてるように…何かを『やってしまった』みたいな…そんなお茶子に轟は首をかしげる。
「麗日どうした?やっぱり具合悪いのか?あんま無理しずに、足のツボ押した方が…」
「ゴメン皆んな…『ミス』った!」
「「「「え?」」」」
お茶子の言葉に一同は首をかしげるが、爆豪だけは違った。
「お前らアホか…後ろ見やがれ」
その言葉に皆は言われた通りに振り向くと…なんとそこには、当然と言うべきか…
「わざわざありがとう…解除してくれて……お陰でアンタら一人一人殺すことが…出来る…」
漆月が立っていた。
「ああ!そうだ…まだ一人!」
「喜ぶのは早かったみてえだな…」
緑谷と轟はそんな漆月を見て驚愕した。そう、まだ完全に敵を殲滅させた訳ではない、抜忍漆月が残っていたのだ。皆は強敵である脳無を倒すことに集中してたあまり、彼女のことは忘れていた。お茶子が浮かせてくれたからという理由もあるが…皆は一気に警戒態勢に入る中、漆月は怒りの反面、焦りの顔も含んでいた。
(嘘でしょ!?二体の脳無がやられた?死柄木から貰った私仕様の脳無を…しかも私一人になったし、敵は28人くらい…っっ!!ああもう!なんでよ!仲間を集めることが出来ず且つ、脳無二体を失ったなんて結果で帰ったら…流石の死柄木もお怒りよね…?)
冷や汗を垂らしながらも、己が思うことを悟らせずに相手を睨みつける漆月。しかし、力は五分五分と言ったところだ。
二体の脳無との戦闘で、皆んなは体力をかなり消費しただろう…一方漆月は確かに怪我は見受けられるが、至って体力を消費してる訳ではない。
「こうなったら…一気に闇で一掃してあげ…」
「させるかぁーーー!!」
「っ!」
攻撃しようと僅かに体を動かした瞬間。爆豪、飯田、詠、斑鳩は攻撃を仕掛ける。
「っっ!うおっと!」
漆月は瞬時に避け、なんとか大ダメージは食らわなかったものの、それでも掠ってしまった。
「クソ!大勢でくると厄介ね…このままじゃ、私ヤバイかも…」
漆月は勝ち目はないと知り、気まずそうに舌打ちをする。そんな半蔵の忍生徒と、蛇女の忍生徒が一気に漆月を叩きかける。
「一気に勝負を決めるぞ!」
「ええ!」「ああ!」「うん!」
葛城が叫んだその時だった。
「そうはさせません」
ズオン!
「「「「っ!?」」」」
突如、漆月の前に黒い空間が現れた。そしてその黒い靄はみるみると大きくなっていく。そのことに皆は驚いた。蛇女の皆んな、葛城と斑鳩は突然のことに驚くだけだが、雄英の皆んなと、柳生、雲雀はソイツが出てきたことに驚く。何故なら…ソイツは、敵連合の出入り口、ワープゲートの黒霧だからだ。
「な、なんですのこれは?」
「まさか…抜忍の仲間!?」
詠は呆然とし、斑鳩は漆月の仲間が来たのだと思い、飛燕を向ける。そんななか、漆月も目を丸くして驚いている。
「く、黒霧!なんで貴方ここに…それに連絡なんてしてないし…」
「先ほど大爆発が起き、二体の脳無が吹き飛ばされたことを確認し、様子を見に来ました」
黒霧は突然現れたにも関わらず、ゆらゆらと黒い霧を揺らぎながら、冷静な状態で話し出す。
「それにしても…」
スッと黒霧は漆月から雄英、半蔵、蛇女全員を見渡す。
「ここに居るはずのないヒーローの卵たちに…善忍と悪忍が並び合い共闘するとは……想像もしない出来事が起きましたね…天守閣の中でそのような事が起きてたとは…」
黒霧は二体の脳無が吹き飛ばされたことに納得する。そんな様子の黒霧に、皆は構える。
「取り敢えず…抜忍とこの者を倒さなければ!」
「へっ!一人増えたってやることは変わらねえしな!」
「ああ…それにコイツの個性で奴等がここに来たのなら、出入り口は閉めておくべきだ…」
「うん!絶対、捕まえよう!」
斑鳩、葛城、柳生、雲雀は黒霧を睨みつけ、蛇女の四人も武器を構えてジリジリと近付いてくる。それを見た漆月は、刀を構えるが…
「よしましょう漆月」
「黒霧!?助太刀に来たんじゃないの!?何で止めるのよ!」
黒霧は戦おうとする漆月を制し、漆月は思わず反論する。そんな二人の状況に皆は思わず立ち止まる。黒霧は漆月を見て、ゆっくりと黒い霧を彼女に纏わり付くように近づく。
「ひゃっ!?な、なに…?」
「二体の脳無が倒された今、もしここで戦えば、いくら漆月と私が居るとは言えど、この数を相手にするのは危ういですよ…無謀なことは避けましょう…それに…」
黒霧は、目をニヤリと細める。
「今は彼女たちには『泳がせて』起きましょう…何故なら、彼女たちは知らないのだから…この『襲撃の意味』を…」
「!」
黒霧は、皆に聞こえない声で漆月にそう言うと、漆月はようやく落ち着いて来たのか、「なるほど…言われてみれば…」と納得している。もしここで、自分の都合で勝ち目の見えない勝負に挑めば、返り討ちはおろか、全滅。『本当の目的』を崩してしまう…そして、ここに来た意味がなくなってしまうと…相手は蛇女のみんなを仲間に入れるということだけしか知らないのだから…黒霧はそういうと、纏っていた黒い霧を引っ込ませ、身体が増幅していく。
「さあ、早く逃げましょ…「させるかってえの!」」
「「!」」
黒霧がそう言いかけた途端、前に出て来たのは切島と爆豪だった。二人は爆発する渾身の一撃を黒霧にお見舞いする。そのことにより煙が巻き起こる。
「やったか!?」
「いや…あれは…」
葛城は早くも黒霧を倒したと思うが、日影は見切ったのか、眉をひそめる。それと同じく爆豪も…
「ちっ…手応えがなかった!」
「ってことは…」
爆豪は悔しそうな顔で歯ぎしりしてると、切島はそれを見て視線を煙が巻き起きてる黒霧に向けると…
「言ったでしょう?二度目はないと…私もいつまでも貴方たちの攻撃を食らうほど馬鹿ではありませんよ…例えその相手が忍であろうとも…ね」
黒霧はなに一つ傷を負わず、尚悠長に話している。やはり爆豪と切島の攻撃は食らってないようだ。
「クソ!こうなりゃあ…」
「皆で一斉攻撃すれば!」
未来がそう叫んだときだった…
「きゃあああぁぁぁぁぁぁ!!?」
「ぐっ…!あっ!あああぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁ?!」
「「「「!!??」」」」
後ろの忍結界から悲鳴が聞こえた。
皆は忍結界の空間に振り向くと、そこには…怨櫓血が首で飛鳥と焔の身体を縛り、口から触手みたいな舌?を出して更に身体中を縛っている。そんな二人はかなり苦しい表情を浮かべている様子だ。
「「「「飛鳥(さん)(ちゃん)(くん)!!!」」」」
「「「「焔(さん)(ちゃん)!!!!」」」」
皆んなは怨櫓血に苦しめられてる二人を見て、目の前の出来事に驚愕しながらも全力で声をかける。しかし忍結界だから聞こえていないのか、または苦しみのあまり聞こえてないのか、反応しない。
「なんだよ…アレ!?」
「分かんない…でも、化け物…だってのは確かだけど…」
「あの道元とかいう訳わかんねえ腰抜けクソジジイの仕業か?舐めたことしやがって!」
皆んなは怨櫓血という化け物を目の前に、心の中に恐怖が湧き上がってきた。切島は顔を青ざめ、緑谷は絶望を見てるかのような表情を浮かべ、爆豪は微動だにせず忌々しい目線で道元を睨んでいる。そんな皆んなはいつの間にか敵連合の存在を頭の中から忘れていた。もはや視界にすら入っていない。皆んなの様子を見てる黒霧は、小声で漆月に声をかける。
「漆月、今ですよ!」
ズオンッ!と身体がワープゲートとなり、漆月はこくりと頷くと、そのワープゲートに歩いていく。
「まあ、今回は状況がアレだから見逃してやるよ…次…あったと」
ドヒュウン!
「いっ…?!」
漆月が小声で呟いていると、何かが足を傷つけた。見てみると、そこには刃物が足に刺さっており、血がドクドクと流れている。
「漆月!?」
「大丈夫よ黒霧…なんて事は無い…」
漆月が攻撃を食らったことに気づいた黒霧は心配するが、漆月は大丈夫だと黒霧に言う。
「一体誰が…」
「逃すと思いますか!!」
漆月の足を撃ったのは、腕にボウガンをつけて、刃物を発射させた詠だった。それに気づいた皆んなも振り向く。だがそれは遅かった…詠がボウガンで撃ち続くが…
「なっ!?」
「残念でしたね…私がいた事により、分が悪かったようだ」
なんと、詠の攻撃を黒霧は黒い霧を飛ばして刃物などを吸い込んでいるのだ。まるで漆月を守るように…
「さあ漆月、お早く!いくら私がワープゲートとはいえど忍の力は得体が知れない…向こうには子供とはいえヒーローの卵たちも居ます!何をしやらかすか分かりません…!引くなら今です!」
「……うん、分かった…」
声を張る黒霧の言葉に漆月は頷くと、苦痛と憎悪、悔恨を含んだ表情で、足を引きずりながらも黒い空間に吸い込まれるように、ワープゲートに入っていく。
「……アンタたち……」
そんな漆月は後ろを振り向くと…皆んなを睨みつけて口を開く。
「今回は…居るはずのないヒーロー達の邪魔があって、蛇女の選抜メンバーを仲間に入れる事は出来なかったし、強力な戦力の脳無二体が無くなった挙句、誰一人も殺すことが出来なかったけど、今度こそ…
皆んなみーんな殺してやるから…何もかも…」
その言葉は何処か重みがあって、不吉な気がして、残酷で、狂気に満ちた目で…彼女はそう言った。
そして漆月は黒霧と共に黒い霧のワープゲートにより、姿を消した。
そんな彼女に、一同は寒気がして、なかには恐怖と絶望を植え付けられたものも複数存在した。
「な、何よ…あいつ……」
「分からない…けど、彼女のあの殺意は…尋常じゃなかったわ…」
嫌なものを見るような目で見つめてた未来がそう言うと、冷静な春花も目を細めて、ジッとつい先ほどいた漆月がいた場所を見つめている。その彼女の不穏な悪意に、皆は恐怖を覚えたからだ。
「って、んなことしてる場合じゃないな…飛鳥と焔ってやつ、どうやって助けるんだ?」
そんな空気のなか、轟は飛鳥たちのことを気にかけ、どう助けるのかを考える。しかし忍の知識がないヒーローたちに、分かるはずがないし、思いつくはずもない…緑谷は忍結界をみると、掌をポンと叩く。
「そうだ!前に僕、これと似たようなもの壊したよ!それなら…」
緑谷は前に忍結界を壊したことがあるのだ。それも焔の忍結界を…本来人では壊すことは出来ないのだが、緑谷の個性なら別だ。ただしその分自分自身にリスクが増えてしまうのだが…
「いいえ、それは無理よ…並みの力や今まで通りでは、忍結界を壊すことができないわ…」
緑谷の言葉に、春花は首を横に振る。「ええっ!?」とじゃあどうすれば良いの?という顔で皆んなは春花を見つめると、春花はそんな皆んなに微笑みの笑顔を向ける。
「大丈夫よ、この忍結界は特殊だけど…特殊な力には特殊な力で対抗すれば良いのよ…ね、『雲雀』♪」
「うん!任せて春花さん!『今まで体力を温存しておいた』から!」
春花の言葉に、雲雀はうんうんと何度も頷きながら、忍結界の方に姿勢を向ける。
「何する気だ?」
皆んなは首を傾げる。するといち早く気づいた柳生は、「なるほど…そういうことか…」と納得した。
「柳生…何が分かったんだ?」
そんな柳生に質問したのは尾白だった。尾白や他のみんなも何がなんだか分からないので、理解が出来ない。
「……念話だ」
「念話?」
柳生が答え出すと、雄英の皆んなはクエスチョンマークを頭の上に浮かべて首をかしげる。
「お前たちからすれば、テレパシーみたいなものだが…俺たちの場合は念話という…それに前に突然頭の中から雲雀の声が聞こえただろう?アレだ」
「あれか!!!!」
皆んなは半分驚き、もう半分は納得した様子だ。雲雀は見た目はドジでおっちょこちょいでマイペースな性格ではあるが、雲雀には多彩な忍の力が存在するのだ。念話が強いのも、華眼も、浸透術も全て雲雀の力によるものだ。
「皆んなが敵さんたちと戦ってた間、雲雀はずっと体力を温存していたの…!皆んなは命懸けで戦っていた…でもね、今度は雲雀の番だよ!」
雲雀は目を瞑ると、大きく集中する。雲雀から念が少しずつ湧き出てきて、大きくなっていくのが見える。
「持ちろん雲雀だけじゃないわ…」
すると半蔵と蛇女の皆んなは、忍結界を使う。春花の話によれば、忍結界の力をうまく使えば、道元が使っている忍結界を不安定にさせることで、雲雀の力が通じやすくなるそうだ。皆んなも体力を大分消費し、思う存分に力を出せるわけではないが、それでも皆んなが揃えば、少なからずとも不安定にさせることができる。そして皆んなは印を結んで思いを伝える。
「飛鳥さん!」
「飛鳥ぁ!」
「飛鳥!」
「飛鳥ちゃん!」
半蔵の皆んなが…
「焔ちゃん!」
「焔さん!」
「焔!」
「焔ちゃん!お願い……届いて!」
蛇女の皆んなが…そして…
「二人共ぉ!!頑張れ!!!」
「負けるなぁ!!!」
「頑張れ!!」
「諦めるな!!」
「勝て!!」
「頼む!!二人共!!」
決して忍の力はない雄英のヒーロー学生たちは、自分のように、皆んなみたいに一生懸命に飛鳥と焔を応援する。特別な力などなく、応援することしかできない…だが、それでも、言えれずにはいられない…この湧き上がる思いを。
だから…
「おい!!ガングロ野郎!そんな蛇みてーなクソ野郎にやられてんじゃねえ!!テメェは、『強え』だろ!!」
焔を見ていつも煽るように相手を挑発し、全力で戦ってきた爆豪が、焔を見てそう叫んだ。
「お願い飛鳥さん!!負けないで…負けないでよ!!!負けないでよ飛鳥さん!!頑張れえぇぇ!!」
隣の緑谷も、涙腺が弱いのか、涙を流しながら飛鳥を見て、全力の声でそう叫ぶ。
「勝てえ!!!」
「負けるなぁ!!!」
二人は同時にそう叫んだ。
「お願い……お願い…!飛鳥ちゃん!焔さん聞いて!みんなの声を!想いを!」
雲雀は目を開くと、道元が創り出した忍結界が歪んでいく。すると、飛鳥と焔の身体に力が入っていく。
飛鳥と焔の身体の中には、雲雀が念話で送り出した皆んなの想いが入っていく。
「これは…」
「皆んなの想いが…私の中に、激しく…そして温かく…」
突如、怨櫓血の触手は破け、首で縛っていた体を解いて元に戻る。飛鳥は緑の闘気を纏い、焔は赤の闘気を纏う。
飛鳥と焔は目を瞑り、何処か温かく身を守られるような表情を浮かべる。
「これが…仲間…これが……私の…!今の私なら…!!」
「皆んなが…皆んなが一つになって私を守ろうと…刀と盾…そうか、分かったよ…じっちゃん!」
すると、飛鳥と焔は瞑ってた目を開き、標的である道元を睨みつける。
「な、なあぁぁ!!?たかが…たかが忍学生如きの分際でぇ〜!!怨櫓血よ、殺れ!!」
二人の強さに驚愕した道元は、大きな声で怨櫓血に命令すると、怨櫓血は激しい雄叫びをあげる。そして…
「ぬっ…!?がぁっっ!?なんだこれは…!二つの秘伝忍法書が!?」
手に持っていた二つの秘伝忍法書が突然道元から離れ、二つの秘伝忍法書の陽は飛鳥に、陰は焔の所に飛んできた。秘伝忍法書の力を手に入れた二人は、更に激しく闘気を揺らぐ。
飛鳥は髪留めが外れて長い髪を下ろす。焔はなんと七本目の紅い刀を抜くと、飛鳥と同じく髪留めが外れて、そして…髪の色が紅い色に変わった。焔の七本目の刀は炎月花と呼ばれ、並の人ではろくに扱えず、未熟者には抜くことすら出来ないと言われてる、抜けない型の刀であった。また、焔は炎月花を抜いたのが今で初めてである。
忍とは影、真なる影。今の名前は正に、真影の飛鳥である。
忍とは炎、紅蓮の炎。今の名前は正に紅蓮の焔である。
一人は皆んなの為に、皆んなは一人のために。
皆んなは飛鳥のために、飛鳥は皆んなの為に。
皆んなは焔のために、焔は皆んなの為に。
皆の想いを受け取った二人は、化け物に、敵に立ち向かう。
「覚悟しろ道元!超秘伝忍法!『紅』!」
「超秘伝忍法!『半蔵流乱れ咲き』!」
陽と陰の、飛鳥と焔の超秘伝忍法の力により、怨櫓血は二人に跡形もなく切り裂かれた。そして…怨櫓血を切り裂いた後、今度は道元に斬りにかかる。
「なああぁっ!!?ああああぁぁぁァァアアアあアぁぁ!!」
斬られた道元は白目を向いて、完全に倒れた。そして、忍結界も元に戻って…道元は地面に落ち、飛鳥と焔は戻ってきた。力を使いすぎたのか、膝を地面に着く。全てを見てた皆んなは、飛鳥と焔の二人に駆けつける。
「「「「飛鳥(さん)(ちゃん)(くん)!!!!」」」」
「「「「焔(さん)(ちゃん)!!!!」」」」
半蔵の皆んなや蛇女の皆んな、雄英の生徒たちは満面な笑みで二人を見つめる。轟は表情は見せないが、飛鳥を見て安堵の一息をつく。爆豪は「ケッ!こんなん普通だろ…」と当然と言わんばかりの顔で視線を逸らす。一見偉そうに見えるが、爆豪は二人が戻ってきてくれることを信じていた。だから戻って来ることが分かっていた。化け物を倒してくれることを分かっていた。信じていたからこそ爆豪は心配しなかったのだろう…
緑谷は「うおおおぉぉーー!!」と滝のように涙を流す。
「皆んな…」
飛鳥はそんな皆んなを見て、嬉しさのあまり、涙を浮かばせる。そして皆んなの傷を見ると、飛鳥は何かを思い出したかのように皆んなに声をかける。
「そうだ…!敵は?!脳無は!?」
「脳無ってヤツらは倒した…だが、抜忍漆月とワープゲートは逃げられた…主犯の死柄木ってヤツは見なかった」
轟は飛鳥に話すと、飛鳥は「そっか〜…」と呟く。何処か気持ちが晴れたように見え、敵を逃したことに残念がる気持ちも見える。
皆んなが悠長に話してると、倒れてた道元は立ち上がり…
「ぐぐぐ!おのれぇ…こうなれば…!」
忌々しい目で睨むと、逃亡する。蛇女を捨て、何処かへと去る気なのだろう。だが、当然皆んなはそれを許すわけがなかった。
「おうぞ!」
紅い髪の色から黒へと変わった焔はそう言うと、皆んなは頷く。
息を切らしながら、天守閣の屋上まで逃げ込んだ道元は、辺りを見渡す。
「はぁ…はぁ……怨櫓血がやられたのは誤算だった…だが、私はまだ!」
「いいや、もう終わりだ」
「なっ!?」
突如、道元の後ろから声がしたので振り返って見ると、なんとそこには半蔵、蛇女、雄英の皆の姿が見える。
「な、んだとぉ……!!」
道元は歯ぎしりしながら、ジリジリと迫って来てるみんなを睨みつける。元はと言えば、蛇女を散々良いように利用してきたのは道元なので、自業自得と言わざるを得ない。
それを見た鈴音は驚く顔で皆んなを見つめている。
「そんな…!蛇女と半蔵、雄英が共闘?!」
「どうやら、大道寺の言ってたことは正しかったな…」
「うむ…!」
霧夜はそう言うと、大道寺は頷く。鈴音は目を細めて、霧夜を見つめる。
「先生…私の、私のやってきたことは…間違いだったの?」
「いや、それは違うぞ…凛」
「えっ?」
霧夜の言葉に、鈴音…凛は目を丸くする。
「アイツらが強くなったのは俺の指導ではない…アイツらは皆、仲間を想い強くなったんだ」
「仲間…………霧夜先生………」
「真に友を想う時、絆の想いの力が、少年少女達を強くする!貴方の生徒もまた然り…」
「大道寺…」
凛は霧夜と大道寺の言葉に、自分に足りなかったもの、何が大切だったのかを感じさせられた。
そんななか、逃げ場をなくした道元は、冷や汗を流してる。
「さあ!覚悟しろオッさん!」
「逃げ場なんざねえよ…」
「テメェも忍なら、戦えるんだよなぁ?」
皆んなは攻撃態勢に入ると、突如皆んなの目の前に、霧夜、大道寺、鈴音が現れた。
「鈴音先生!」
「霧夜先生に大道寺先輩まで!?」
流石の皆んなも驚いている。雄英の皆んなは当然、鈴音と大道寺のことを知ってるわけがなく、首を傾げてしまう。
「き、貴様らは半蔵の!それに鈴音まで!」
「子供のいさかいに大人が入るのは、感心できんがな…!」
三人が来たことに道元は驚愕し、大道寺は拳を強く握りしめそう言った。手も足もなく、もはや勝ち目のない道元は…
「くっ!使いたくなかったが、やむを得ない…こうなれば!」
すると道元の口から何やらカチッと音がなった。すると次の瞬間…
ボガアアァァン!!
「「「「「!?」」」」」
天守閣のあらゆる所が爆発した。そのことに皆は驚く。そう、道元は自爆装置を起動させたのだ。
「道元…!お前…!」
「これで皆お終いだなぁ!!」
「狂ったか道元!天守閣の中には他の生徒達が!」
凛は怒りの目線で道元を睨みつけるが、道元は何ら臆することなく狂った笑みを浮かべている。
「全てを葬り去るのもまたオーナーの役目だ!それに生徒といってもそこにいる選抜メンバーならまだしも、唯の使い駒である雑魚どもが、どう死のうとどうだっていい!ははははははははははははは!!」
「………外道が!」
完全に人間の道を外れてる道元に、凛は忌々しく呟くのであった。
すると…
「なら…助ければいい…」
そう呟いたのは焔であった。焔は、詠、日影、未来、春花に視線を向けると、四人はコクリと頷く。
「他の生徒達を救うぞ!」
焔がそう言うと、雄英と半蔵の皆んなも動こうとする。
「でしたら、私達も!」
「ああ!人を導くだけでなく、救うのもヒーローの役目だ!!それに、ヒーローは人を助けることがヒーローだからな!」
「うん!だから僕たちも…」
斑鳩、飯田、緑谷がそういうと、焔たちは首を横に振る。
「それはアカンな…」
「ここの構造は特殊なの、気持ちだけ受け取っとくわ」
「アンタらじゃ足手まといよ!」
「とっととお逃げあそばせ」
日影、春花、未来、詠がそう言うと、焔は飛鳥を見つめる。
「また…いつか…」
「焔ちゃん…」
飛鳥は焔を見て涙を浮かべる。そして焔は爆豪と緑谷を見つめる。
「お前たちもだ…」
「えっ!?」
「…あぁ?」
焔に言葉を掛けられた緑谷は驚き、爆豪は相変わらずといった様子で反応する。
「緑の方のお前は…何処か飛鳥に似ている…」
「え、ええっ?!」
「焔ちゃん!?」
突然の言葉に、緑谷だけでなく飛鳥までも驚き、動揺する。何が似てるか?と聞くが、焔はフッと笑みを浮かべると何も言わなかった。そして今度は爆豪を見つめる。
「お前は……私が生きて来た中で、今までに見たことのない奴だ。だから、お前のような強いやつに逢えて嬉しいと思っている。だから、また逢おう…!」
「おう……」
焔は今まで爆豪に向けて来た目線ではない、真っ直ぐな眼でそういうと、意外なことに、爆豪は素直に静かに頷いた。他にも…
「お嬢様…いえ、『斑鳩』さん。私たちもまたいつか逢いましょう…」
「詠さん…!!はい!またいつか!」
斑鳩は詠が初めて名前を呼んでくれたことに驚きの様子を見せた後、頬を赤らめ微笑む。
「日影!死ぬなよ!」
「ああ、分かっとるで…」
葛城が日影に叫ぶと、日影はコクリと頷き、そして皆んなも日影も気づかないくらいだが、ほんの僅かに微笑んだ。
「……お前も、死ぬなよ……お前は俺にとって…」
「うん、ライバル…だからね!アンタも死ぬんじゃないわよ!!」
柳生は良きライバルに微笑みを向けた。そのライバルである未来もまた…。
「春花さん!雲雀、雲雀は…!」
「大丈夫よ雲雀、だって…私と雲雀は、かけがえのないお友達だもの…♪」
春花は涙を流してる雲雀に、自分は大丈夫だよと微笑みを向けて言うと、投げキッスをした。
「は、春花様ぁぁ!!お、オイラも連れてっ…」
ドシュッ!
「でぇっ!?」
こんな状況の中、もはやKYと呼んでも過言ではない峰田は、蛙吹の舌で、首の急所を狙い、気絶させた。
「本当にブレないわね、峰田ちゃん。ブレなさ過ぎて此処まで来ると逆に引いちゃうわ」
蛙吹は気絶してる峰田に舌を巻きつける。それを見てる春花は思わず苦笑した。皆んなは各々に言葉を告げると、城に飛び込み生徒たちを救いに行く。だが、城はどんどん崩壊していき、燃え上がっている。まるで火災だ。そんな皆んなを見て、道元は嘲り笑う。
「はぁーーっはっはっは!!どの道奴らには死の道でしかない!これで皆なにもかもお終いだあ!アイツらを助けたいのなら、直ぐに私を逃すんだ…ハーーーーッはっはっはっ!!」
「卑怯者め!」
「クソ野郎が!」
「外道…!」
「……ざけんな殺す!!」
「そんなこと…僕たちがさせない!」
皆んなは憤怒の表情に染まり、歯ぎしりしながら道元を睨みつけている。
次の瞬間。
バッ!
「っ!?」
なんと後ろから凛が、道元を拘束し、首にクナイを突き当てる。
「「凛(先輩)!!」」
「鈴音先生!?」
霧夜、大道寺、雲雀が叫ぶと、凛はフッと笑みを浮かべた。
「本当の強さは善でも悪でもない!仲間を想う強さ…絆の想いの強さ……そんな大切なものをまさか、
「凛っ!?お前まさか!」
「す、鈴音!バカなことはやめろ!」
覚悟を決めた凛を見て、霧夜は凛が何をするのかが分かり、道元はさっきの笑みから一変し、驚愕な顔色に変わった。そんな凛は、皆んなを見つめてこう言った。
「さよなら皆んな…そして、私の先生……」
次の瞬間。凛は道元と共に天守閣の頂上から落下した。
「凛!!!!!」
「凛さん!!!!」
霧夜と大道寺が叫ぶと、凛はソッと目を閉じ、崩壊していく天守閣へと姿を消した…
「そんな……何で……僕たちは…ヒーローなのに……なのに…!」
「緑谷くん…」
そんななか、涙を浮かべる緑谷は小さく呟いた。それを見た飛鳥は静かに、緑谷を慰めるように、背中をさすった。
一番にヒーローを憧れる少年にとって、近くにいたのに救えれなかったのは辛いことだ。だが…そんな爆豪は…
「オイ、いつまでもメソメソ泣くな殺すぞ…」
「「!」」
緑谷に聞こえるほどの小さな声で爆豪がそう言うと、緑谷と飛鳥は思わず爆豪を見て目を大きく開く。
「爆豪くん…今は…」
飛鳥は少しイラっとした顔で反論しようとすると…
「……あの人、アイツら蛇女の先生なんだろ?だったらこんな所で死ぬわけねーだろーが、ちょっと考えれば分かることだろ…」
「「あっ…」」
そのことを聞いた緑谷と飛鳥は、目を大きく開いた。そう、確かに道連れのような言葉ではあったが、なにも死んだとも言えれない。忍は皆んなが思っている以上に強いものだ、爆豪はそれを見据えた上で言っているのだろう。そんな緑谷と飛鳥は、爆豪を見て口元が緩み、少しだけ気持ちが楽になった。
数分後…道元と凛の二人は、ボロボロになりながらも、爆発し崩壊していく天守閣の近くに落下していた。そして、『ヤツ』にとっては運が良く、『彼女』や他のみんなにとっては運が悪いと言うべきなのか、その人物は何とか意識があった。それは…
「はぁ…はぁ……クッ…!鈴音め…よくもこの私をぉ!!」
忌々しく怨念を宿った目で、横に倒れて気絶している凛を睨みつける道元であった。道元の頭からは血が垂れている。
「だが、まあ良い…これで私は何とか逃げれる事が出来る!次はどうやって他の忍を利用し超秘伝忍法書を手に入れるかだ…」
道元はそう言うと、他のものが居ないかどうかを確認し、足を引きずりながらも逃げようとする。
その次の瞬間。
「おいおい…闘うどころか、逃げてばかりの腰抜けのオッさんが何を言ってんだ?無様過ぎて笑いも出て来ねえぜ……道元よぉ…」
「っっっ!!!誰だ!?!」
後ろを振り向き、声の主を見た途端、道元は体が恐怖で硬直したのか、固まった。
「なっ!?貴様は…!貴様はぁ!!まさか!
死柄木弔か!?」
敵連合リーダー、死柄木弔であった。死柄木の後ろにはワープゲートを開いてる黒霧もいる。
「ははは!正解だ。アンタには用があるんだよ…俺たち敵連合として、利用させて貰うぜ…」
悪意を宿したその目から、狂気を感じる。そんな死柄木から離れるように、道元は後ずさりする。
「こ、断るに決まっておろう…!それに私は!」
ドシュッ!
「つっ!?」
道元が言いかけた途端、手首にクナイが突き刺さった。それは…
「良いから来いっつってんの……わたし今機嫌悪いから何しやらかすか分からないよ?」
ワープゲートからクナイを投げ、姿を現した漆月の姿であった。漆月は先ほど誰一人殺すこともできず、反撃すら出来なかったことに怒りを覚え、今回の失敗で大きく挫折したのだ。そのため当然と言うべきか、彼女の性格から考えて機嫌が悪いのも仕方ない。道元は漆月を睨みつけながら、手首に刺さったクナイを抜く。
「なっ…貴様は……一体……だれ……だ……」
ドサッ!
目を掠めながら聞く道元は、糸が切れたように、その場に倒れてしまった。
「まっ、何やらかすかっていう話以前に、もう眠らせてやったけど…」
そんな漆月は軽くため息をつく。先ほど漆月が投げたクナイは、ただのクナイではない…睡魔の効果があるクナイであった。それを食らった道元は眠っているのだ。それを見て狂気の笑みを浮かべる死柄木は笑いながら近寄る。
「クッハハハハ!あの脳無二体は無駄になっちまったが、その分コイツは使わせて貰うぜ…オイ、漆月。やれ」
「ほいほーい…」
死柄木がそう言うと、漆月はつまらなさそうな反応で、道元の足を掴み引きずりながら、ワープゲートに吸い込まれていくように入っていく。それに続き死柄木も、黒霧の闇とも思わせる黒い霧とともに消えたのであった。
なんと、眠らされた道元は敵連合のアジトへと入れられてしまいましたね…さて、この戦いは終わりましたが、雄英の皆んなにはまだ試練がありますね…!そう、『例のアレ』が!!
あと思ったことが、大道寺の喋り方が物凄く難しい!!まあ、仕方ないですけどww