光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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遅れて申し訳ありません!!作者は今用事を抱えておりまして……それでもなんとか投稿する事ができました!それではどうぞご覧下さい。


25話「二つの力」

天守閣の最上階では……道元は超秘伝忍法書の隠と陽を持ち

 

 

「クックック……隠と陽が、激しく揺らいでいる。それで良い……これで良い……これで私は……」

 

 

この男は欲に溺れた人間であり、悪忍の地位を独占し、忍びの社会そのものを統括しようとしている男であった。それが例えどんな犠牲が出ようと……蛇女子学園がどうなろうと……全てはただの駒、使い物でしかないと思っている。そんな道元は、飛鳥と焔の戦いを、楽しむように利用しているのだ。利用されているという事はまだ、誰も知らない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その焔と飛鳥たちは……

焔は飛鳥と増援に来た雄英の生徒たちを睨みつける。もちろん飛鳥と緑谷、轟に爆豪も焔を睨みつける。

 

 

「ふん、雑魚が何人来ても同じこと!かかって来い、100%返り討ちにしてやるがな!」

 

 

「ハッ!俺をこんな雑魚どもと一緒にすんなガングロ野郎が!!100%返り討ち?だったら俺は更に上からねじ伏せてやんよ!!」

 

 

「なんだと……?」

 

 

「か、かっちゃん……!敵を余り刺激させないほうが……」

 

「うっせぇ!!デクは黙って死んでろ!」

 

 

焔が皆んなを煽ると、爆豪は焔に煽りだしては怒りの矛先を向ける。そんな焔は爆豪の言葉に眉をひそめ、静かに怒りを燃やす。緑谷は敵に刺激させないよう声を掛けるものの、爆豪には無意味だ。

 

 

「オイオイお前らさ!こんな時でもよくそんな状況で居られるな!」

 

「爆豪一先ず落ち着け!」

 

「爆豪さん気をつけて下さいまし!この人、見るからに先ほどまでの敵とは違いますわ!」

 

「なんかあの人怖いよー!!」

 

 

上鳴、障子、八百万、芦戸が叫んでる中、轟は無言で焔を見つめている。そんな焔は皆んなを見て嫌気が刺したのか、刀を飛鳥から雄英の生徒に向ける。

 

 

「まずは目障りな雑魚から殺って行くしかないようだな……!!」

 

 

炎を刀に纏わせ、戦闘態勢に入る。

 

 

「ま、まずい……みんな!」

 

 

飛鳥がそう叫ぶが…その心配は無用だった。

 

 

パキイィーーーン!

 

 

 

ボオオォォーーーン!!

 

 

 

 

「……っ!!」

 

 

氷に爆破の二つの攻撃が焔に襲いかかる。焔は前に轟と交戦したため、個性は分かってたので回避することは出来たが、それでも爆豪の爆破は避けれなかったようだ。

 

 

「くっ……!お前たち……」

 

 

「ハッ!言ったろ、テメェの100%を更に上からねじ伏せるってな!!」

 

「…………」

 

 

爆豪は自慢げに掌を爆破させ、轟は焔を睨んでいる。それもこれまでにない憎しみが篭っており。そしてふと、脳裏にあるものが浮かんできた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『立て焦凍、お前は俺を超えるためにもっと強くならなければならない、泣くな、立て…掛かって来い……』

 

 

 

 

 

 

 

『いいか?お前はオールマイトを越える為だけに造ったんだ!!余計なことは考えるな!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の炎を見てると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イラつくんだよ……!!」

 

 

 

 

轟は焔を見てそう呟いた。決して焔に対しての怒りではなく、『ある人物』に対しての怒りであった。焔が悪いわけではないが、炎を見てるとつい嫌でも思い出してしまう。思い出したくもない……『父親』を。

 

 

「轟…くん?」

 

 

飛鳥は苛立つ轟を見て、心配そうに見つめている。まるで何か思い出したくもない、嫌なものを見てるかのような轟に……

それは飛鳥だけでなく、敵である焔も気付いたようだ。

 

 

「なんだ…お前?私が気に入らないのか?」

 

 

不意に質問してきた焔に、轟はジッと見つめる。

 

 

「悪いな……そういう事になる。別にお前自身、気に入らない訳じゃないが…お前のその炎を見てると、嫌なものを思い出すんだよ……!!」

 

 

轟は声を荒げ、苛立つ様子で氷を出して、室内を一気に氷漬けにする。だが…焔も轟に負けまいと炎を出して氷を溶かしていく。

 

 

「そう簡単にやられるわけないだろ!!!」

 

 

焔も声を荒げて対立している。

 

 

 

「クソ!早く倒れろよ…倒れろ倒れろたおれろ……!!これ以上、俺に『クソ親父(アイツ)』を思い出させんじゃねえ!!」

 

 

轟は憎悪を浴びせた、大声で怒鳴るように焔に叫び出す、だが焔は攻撃をやめない。

 

 

 

「フン!そんなに嫌なら、今すぐ楽にしてやるさ……!死ねえぇ!!」

 

 

 

「と、轟くん!」

 

 

飛鳥は轟を叫ぶが、遅かった。焔の刀が轟の近くにまで斬りにかかる。

 

 

 

 

 

ボオオオォォォォォンン!!

 

 

 

「ガッ……!?」

 

 

「なっ…」

 

 

「退け!!何ボサッとしてんだ半分野郎が!!」

 

 

爆豪は横から焔を殴るよう爆破攻撃を食らわせた。そして、隙が出来たところに更に爆破攻撃を食らわす。

 

 

 

 

 

ボオオオォォォーーーーーンン!!!

 

 

 

「っ……!!」

 

 

焔は吹っ飛び壁に当たる。

 

「カッ…ハッ!ゲホ…ケホ…!」

 

 

焔は強く背中を打たれたせいか、むせ込む。焔は爆豪を思いっきし睨む…が、爆豪は焔にではなく、轟を睨みつける。轟は自分を救けてくれた爆豪を見つめている。

 

 

 

「爆豪……」

 

「何やられそうになってんだテメェは!!こんな所でお前が負けてんじゃねえよ!テメェぶっ潰すのは俺なんだからよォ!!」

 

 

爆豪は轟に吐き捨てるようそういうと、再び焔に視線を向ける。

 

 

「なあ?悪党とやら……」

 

「お前……!!」

 

 

いちいち自分に煽ってくる爆豪のスタイルに、焔は苛立ち爆豪を殺意ある目でジッと見つめている。

 

 

「ハッ!ようやくいいツラになったじゃねえか……それでこそブッ殺し甲斐があるってもんだ……それにあの半分野郎が言ってた強え悪忍ってのはテメェの事だろうよぉ、まあどっちにしろ俺が全員テメェらブッ殺す!!だからさっさと倒れろや!」

 

 

「っ!!私を、舐めるなあああぁぁぁーーーーーーーー!!!」

 

 

爆豪の言葉に、焔はとうとうキレてしまったのか、怒りを爆発させる。

 

 

爆豪は焔の刀による攻撃をかわすが…

 

 

ザシュッ!

 

 

「って…!?」

 

 

爆豪は確かに避けたのだが、もう片方の六爪で攻撃してきたのだ。爆豪はそれも分かってた上で避けたのだが、ギリギリカスってしまい、攻撃を食らってしまった。

 

 

「ホラもう一丁だぁ!!」

 

「チッ…!」

 

 

焔は六爪で下から上へと斬りあげると、地面に這うような炎を出す。爆豪は掌を爆破させ、上へと回避するものの、少し炎を食らってしまった…

 

 

「掛かったな雑魚が!!」

 

 

焔は上へと跳躍し、爆豪に斬りに掛かる。だが爆豪もやられてるばかりでは無い。

 

 

「いいや、掛かったのテメェだガングロ雑魚野郎がああぁぁぁーーーーーーーー!!!」

 

 

 

ボオオオォォォーーーーーーーン!!!

ボオオオォォォーーーーーーーン!!!

 

 

「ぐっぅっっ!!?あっ……!」

 

 

爆豪は両手の掌を焔に向けて、爆破攻撃を食らわす。焔は直ぐに反撃しようと試みるが…

 

 

「ホラァ!!もう一丁行くぞぉ!」

 

 

ゴンッ!!

 

 

「っつっ!!」

 

 

爆豪の腕に付いてる手榴弾のような鈍器を、焔の頭に思いっきし強く打つ。強く打たれたことに、焔は苦痛の顔を浮かべるものの、爆豪は決して容赦しない……そんな二人の戦ってる姿を見て、皆んなは呆然と立っている。

 

 

 

「す、すげぇ……爆豪のヤツ、本当に才能マンだ……」

 

「わ、私たちの出る幕ないね?」

 

「す、凄い……焔ちゃんとあそこ迄渡り合ってるなんて……」

 

 

 

上鳴、芦戸、飛鳥は感心しているが、その反面に、八百万たちは…

 

 

「………」

 

「爆豪さん……アレは…」

 

「ああ、八百万も気付いたようだな…」

 

「かっちゃん…」

 

 

四人は爆豪の様子を見て分かった。

 

爆豪は焦っている。と……

 

 

一見、見た目では爆豪が有利に見えるが、焔も負けてはいない。何より焔は蛇女子学園の選抜リーダーなのだから。それはつまり、詠、日影、未来、春花よりも強いとも言える。

 

 

そんな選抜リーダー相手に爆豪は戦ってる、となると爆豪もいつ殺られるか分からない…そんな敵と戦ってるのだ。力は五分五分と言ったところ……

 

 

 

 

 

「くっ……!お前は、かなり厄介だな……!一気に勝負を終わらす!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

焔は六爪を爆豪に向けそう言うと、最大火力で、全力で爆豪に向かってくる。

 

 

それは…爆豪も同じであった。

 

 

 

 

「上等だゴラアアァァーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

ボオオオォォォーーーーーーーーーーーーーーーン!!!

 

 

ブワアァァァァーーーーーーーーーーーーーーーン!!!

 

 

 

 

強力な爆破と炎のぶつかり合い。

 

 

「う、うわぁっ!」

 

「クッ……そ!爆豪のヤツ躊躇ねえ!!部屋ごと潰れるぞ!!」

 

「う、うわああぁぁーーー!!爆豪強すぎーー!」

 

「あ、芦戸さん!!しっかりして下さい!」

 

「部屋に炎が移る!轟!」

 

「分かってる!」

 

「……っ!爆豪くん、焔ちゃん!」

 

 

二つの強力な力がぶつかり合い、煙が巻き起こり、吹っ飛ばされてしまいそうになる。それでも皆んなはなんとか堪えることに成功した。衝撃波が止むと、轟は氷を出して、燃え上がってる炎を氷で消している。緑谷たちと飛鳥は煙が巻き起こってる方を見つめる。先ほど爆豪と焔がいた場所だ。そこに人影が、一つしかなかった。煙が晴れていく…

 

 

その姿は……

 

 

 

「はあ……はぁ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

焔の姿であった。

 

 

 

 

 

「えっ…?かっ……ちゃんは?」

 

「……爆豪くんが、やられた……?」

 

 

 

緑谷と飛鳥は、爆豪がやられた事実に驚き、焔は皆んなの顔を見て、勝ち誇る。

 

 

「ふっ………ふふふ、はは………ははは………はははははは!!!」

 

 

焔は笑いが止まらないのか、みんなを見下ろす形で笑っている。

 

 

「そんな……!!」

 

 

飛鳥も驚愕している。そんな焔は飛鳥を横目で睨みつける。

 

 

「何が正義だ……仲間?そんなもの要らないさ!一人で強く生きて、強くなる……それだけだ!!飛鳥、これで分かっただろ?悪が強いということが!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焔は勝ち誇った顔で、皆にそう言った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下室では雲雀を救けるべく、お茶子たちが駆けつけに来たのだが…目の前にはボロボロの雲雀と、立ち塞がる春花が居た。そして今…

 

 

 

「爆音ビート!!」

 

「っ!?」

 

 

耳郎はイヤホンジャックをスピーカーに繋ぎ、大音量を春花に向ける。だが…

 

 

「なるほどね、音が貴方の武器ってわけ……けど避ければ意味ないわ!」

 

「クッ!…コスチュームで指向性のやつに改善しとけば良かった!」

 

 

上にジャンプする春花に、耳郎は悔し混じりな顔で睨みつけることしか出来なかった。

 

 

「だったら俺の個性で!」

 

 

今度は瀬呂がセロハンテープを出して、春花を拘束する感じであったが……

 

 

「私の傀儡、出ておいで!」

 

 

春花がそう叫ぶと、足のない空中浮遊の傀儡がやってきて、瀬呂に襲いかかろうとすると思いきや、春花を庇うべく身代わりとなり瀬呂のセロハンテープに巻きつかれてしまう。

 

 

「しまった……!」

 

「ふふ…貴方たちが、私たちに勝てると思ったら大間違いだわ……」

 

「そんなんやらなきゃ分からねえだろ!」

 

「っ!?」

 

 

大声で叫ぶ砂糖は、木の柱を掴んではもぎ取り、思いっきり投げとばす。

 

 

だが春花は難なく避けて着地する。

 

 

「だから言ったでしょ?貴方たちが私たちに勝つなんて…」

 

 

その時だった…

 

 

「ううん!違うよ!」

 

「えっ?」

 

 

後ろから声がして、春花はある女子に手で触れられた…それは…

 

 

「一人の力は無理でも、皆んなの力合わせれば、勝てなくもないんじゃないかなーー!?」

 

 

麗日お茶子であった。

 

 

お茶子はそう叫ぶと…春花は浮いてしまう。これがお茶子の個性の無重力だ。

 

 

「な、何よこれ!?着地…出来ない……?」

 

 

春花は驚愕した、お茶子の個性に……そう、今の春花は正に宇宙空間に居るようなものなのだから……

 

 

麗日お茶子 個性 『無重力』 触れたものを浮かすことが出来る。ただし本人に限界があり、使いすぎると個性の負担により寄ってしまう。因みに自身を浮かすことも出来るし、解除させることも出来る。

 

 

(くっ……まさか、私がこんな…なす術もなく浮かれるなんて……!)

 

 

春花は心の中で呟くと、そんな春花に、瀬呂はもう一度セロハンテープを出して巻き付けようとする。

 

 

「そう簡単に捕まる訳ないじゃない!」

 

 

春花は巨大な爆弾を取り出して投げつける。

 

 

「おいマジかよ!!」

 

「そんなんありか!?」

 

「待って、あの爆弾何処から出したの!?」

 

 

瀬呂、砂糖、耳郎が驚愕する…そんな時だった。

 

 

 

雲雀は皆んなのピンチに、念を強くし忍兎を呼び出そうとする。

 

 

「お願い、忍兎…!皆んなを救けて!!」

 

 

その時だった。

 

 

ガキィィン!

 

 

忍兎は突如姿を現し、爆弾を蹴り跳ね返す。その爆弾は春花目掛けて襲いかかる。

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

ドガアアアアァァァァーーーーーーーーーーーン!!!

 

 

 

爆弾が春花にあたり、爆発した。その爆発の勢いで、瀬呂のテープもヘロヘロ状態になる。

 

 

「オイアレって…すげぇ!」

 

 

瀬呂は忍兎を見て感心している。煙が晴れていくと、そこにはボロボロになった春花が落ちてきた。

 

 

「油断したわ……完全に…」

 

 

春花は皆んなを見つめてそう言うと、目を閉じて倒れこむ。

 

 

「た、倒したんだよね…?やった、やったあぁー!!」

 

「ふいぃぃーー!一時はどうなるかと思ったぜ…」

 

 

お茶子はガッツポーズで皆んなに笑顔を送り、瀬呂は大きなため息をつく。だが皆んなは笑顔で雲雀を見つめる。

 

 

「とにかく、雲雀はちょっとボロボロになっちゃったけど、それでも命に別状は無さそうだね…よかった……」

 

「ありがとう!耳郎さんに皆んな、心配掛けてゴメンなさい……って、あっ!そんなことよりも早く皆んなに『このこと』を伝えないと!」

 

「ん?このことって何だ雲雀?」

 

 

雲雀の『このこと』という言葉に首を傾げる砂糖、すると雲雀は更に念を強く込めて、蛇女と半蔵&雄英の生徒の皆んなに聞こえる声で話し出す。

 

 

『皆んな!!よく聞いて!!』

 

 

「!?」

 

 

 

あらゆる場所からは、疑問の声が上がってる。

 

 

 

 

 

「雲雀!?」 「雲雀くん!?」 「雲雀ちゃん!?」

 

 

 

 

 

そんな声が多々上がっている。そんな皆の疑問も御構い無しに、雲雀は話を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆んな!蛇女の人たちとは戦っちゃダメ!!戦って負けると命を失っちゃうの!!そう言う術が掛けられてるの!だから、戦っちゃダメ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「!!!!!?????」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

その場の全員は驚いた。この状況に置かれてることを……

 

 

 

 

「はあ…はあ……」

 

 

 

雲雀は強い念を使いすぎたのか、少しバテている。

 

 

 

「え?う、嘘でしょ……」

 

「そんな……!」

 

「ま、マジかよ!?」

 

「オイオイなんじゃそりゃ!?」

 

「………!?」

 

 

 

地下室で、雲雀と倒れてる春花を見て驚愕するお茶子たち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焔と飛鳥たちでは…

 

 

「この声は…雲雀さん!?」

 

「負けたら死ぬ!?んだそりゃ、雲雀ドユコト!?あれ?ちょっと待って、これテレパシーみたいな感じで返信できない感じ?おーーい?」

 

 

上鳴は突然の雲雀の言葉に理解できなく、どういうことか返事を求めるが、返ってこない。

八百万はなんとか冷静を保ちながら、今置かれてる状況を一つ一つ整理していく。

 

 

 

爆豪がやられた。

突然聞こえてきた雲雀の声。

術者が蛇女にいて外法が掛けられてること。

雲雀の声があるということは、雲雀は無事で、お茶子たちの作戦行動は成功し救出できた可能性が高いと考えられること。

 

 

今わかるのはせめてこのことだ。

 

 

「なんて強い念話だ……これが本当にあの雲雀なのか?」

 

 

焔は信じられないという顔で聞いている。

 

 

「そ、そんな……!ねえ、焔ちゃん…負けたら死ぬってどういうこと!?」

 

飛鳥は訳の分からない状況に混乱しながら、この状況がどういうことかを聞く。すると焔はフッと鼻で笑い、話し出す。

 

 

「正しくは首切の術と言うんだがな……」

 

 

「っ!?」

 

「なんだそりゃ……」

 

 

緑谷と轟は、聞いたことのない術に驚く。ただ皆んなが分かったことは…もし悪忍と闘って殺さずに勝ったとしても、蛇女の皆んなはその術に殺されてしまう。ようは術者と同じく、飛鳥たちも焔たちを殺したことになると気付いたのだ。

 

 

「焔ちゃんはそれを承知の上で?」

 

 

飛鳥がそう聞くと、焔は「当然だ」とさも当たり前のように頷く。

 

 

「忍びは失敗すれば死ぬ…それが忍びの定めであり掟だろ?何よりそれが忍びの生き様だ……何今更寝ぼけたことを言ってるんだお前?」

 

「「そんなの…」」

 

「?」

 

 

飛鳥と緑谷は焔を見つめて

 

 

 

 

 

「「間違ってる!!」」

 

 

 

二人は同時にそう叫んだ。

 

 

 

「ハッ!間違ってるって思うのならどうするんだ?」

 

 

焔がそう聞いた時だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んなもんテメェぶっ飛ばしゃあ良いだけの話だろうがあぁーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「っ!?!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボオオオォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンン!!!

 

 

 

 

 

 

 

「あっ…があっ!!?」

 

 

 

焔は思いっきり渾身の爆破攻撃をモロに食らった。そう、倒されたと思われていた…爆豪に。

 

 

「かっちゃん!!」

 

「爆豪くん!!」

 

「爆豪さん…」

 

「おおー!よく生きてたよー!」

 

「流石だぜ爆豪!」

 

「ったく…心配掛けんな…」

 

「だが、よく戻ってきてくれたな!」

 

 

皆んなは爆豪が生きてたことにより喜びが溢れてきた。そんな爆豪は皆んなに振り向き「勝手に俺を殺すな!」と一喝する。そんな爆豪は不機嫌そうに、それでも何処か不敵な笑みを浮かべて焔を睨みつける。

 

 

「それにしても、あんの雲雀の野郎……!悪忍に捕まったと思ったら今度は戦うなだぁ〜?負けたら命を落とすだぁ〜?ワケの分からん事言い出しやがってェ……俺の一番嫌いな面倒タイプじゃねえかクソが!!」

 

 

爆豪は焔と雲雀に怒鳴り散らかす。焔は何とか立ち上がり、爆豪を睨みつける。

 

 

 

「お前は……私が倒したと思ったが……まさか生きてたとは……」

 

「ハッ!テメェが思った通りに殺られるほどヤワじゃねーんだよ!あとテメェに一つ言っとくことがある…」

 

「何だ…?」

 

 

 

 

 

「テメーらより俺の方が上だ!!」

 

 

 

 

「「率直だな!!」」

 

 

芦戸と上鳴は今の立場を忘れて同時に叫んだ。

 

 

「テメェ、さっき悪の方が強いとか言ってたよな?それが大間違いっつってんだ!!」

 

「何だと…?お前、私たち悪が強いのが間違ってると言いたいのか!?」

 

「その考え方の時点で間違えてんだボケェ!!」

 

「!?」

 

 

 

爆豪は厳つい顔で、爆破しまくりながらジリジリと焔の前に歩み寄る。

 

 

 

「大事なのは勝つことだろうが!!!勝つ奴こそが強えんだよ……テメェは雑魚に勝って強さ見せびらかして満足かよ?それ本当に強さって言えんのか?つまらないことで命かけてんじゃねえ!ようは失敗したら二度と勝つ気持ちも自信もないから、忍びの掟だのなんだので言い訳してるだけだろォが!!テメェはたったそんだけで終わっちまうようなヤツなのか?そんなんだったらテメェは100%俺には勝てねえ、デクにも、デカ乳女にすらなぁ…

 

 

 

 

 

だから邪魔だ退けモブ!!」

 

 

 

「っ!!!お前…お前ぇぇぇーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 

 

 

 

爆豪に散々言われたことで、焔は堪忍袋の緒が切れ、お互い怒りぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斑鳩&飯田VS詠side

 

 

斑鳩は飛燕を詠に向けながら闘志を燃やしている。それは勿論飯田もだ。

 

 

「負けたら……死ぬだと!?なんという事だ……!彼女たちにそんな術が掛けられてるなんて……」

 

「ええ…なんという非人道な!!」

 

 

二人はそんな理不尽な状況に怒りを燃やしている。何よりその術者に対して…だが。

 

 

「ふふ、心配要りませんわ……私たちが負けるなんてありえませんし……」

 

 

 

 

 

「ふざけるな!!!!」

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

詠がそう言った時。飯田は怒りの目で詠を一喝する。詠は飯田の怒りに少し体を震わせる。

 

 

 

「心配要らないだと?君はこの戦いで負けたら死んでしまうんだぞ!?何でそんな平然としていられるんだ!!僕は…いいや、俺はそんなの絶対に許せない!!そんな非人道なやり方で命を落とすなど……そんなこと俺が、俺たちが絶対にさせない!!斑鳩さん!」

 

 

「ええ!」

 

 

斑鳩は飛燕を、飯田は脚のエンジンを…力を溜めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葛城&切島、蛙吹、尾白、葉隠VS日影side

 

 

 

「オイオイマジかよ!」

 

「負けたら死ぬだぁ!?そんなんマジもんのゲームオーバーじゃねえか!テメェら戦いを何だと思ってやがんだ!」

 

「ケロ……とんでもないわね!」

 

「そ、そんな術に掛けられて…何も怖くないのか…?そんなの、冗談じゃない!」

 

「なんて術……彼女たちはその術のせいで死んじゃうの!?」

 

 

 

葛城、切島、蛙吹、尾白、葉隠は今の立場に驚愕するが…日影は何ともない顔をしている。

 

 

「気にすな……そんなん知ったところでどうにもならん……アンタらがそれ知ったところでどうするん?」

 

 

 

日影がそう聞くと…

 

 

「んなもん……!!」

 

「決まってんだろうがあぁ!!」

 

 

葛城と切島は日影を見つめ……

 

 

 

 

「「その術者ぶっ倒す!!」」

 

 

 

 

同時に叫ぶ。それに、

 

 

「私たちはヒーローよ…!」

 

 

「ヒーローは人を守り、救けるんだ!」

 

 

「貴方だって忍びどうこう以前に一人の人間なんだから、死なれちゃこっちだって困るんだからね!」

 

 

蛙吹、尾白、葉隠も叫び出す。

 

 

「………ほんま、よう分からんわ……」

 

 

日影は皆んなを見て、不思議に思った。今まで戦闘マシーンと恐れられてきた殺人鬼に対して、ましてや敵であり殺そうとしてるのに、向こうは自分のように心配し熱くなり、死んでほしくないなどと……日影にはどうしても理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柳生&常闇、峰田、青山VS未来side

 

 

「チッ…あの子ったら余計なことを……」

 

 

未来は舌打ちをすると…柳生は

 

 

 

「雲雀!雲雀が無事だった!良かった……!」

 

 

「ちょっと!私へのリアクションは!?本当に貴方は無視するのが好きなようね……!」

 

 

未来がそういうと…常闇は首を横に振った。

 

 

「何を言っている、アイツは無視などしていない……柳生がもしお前を本当に無視してるなら、お前とは戦わないハズだからな……」

 

「えっ…?それって…」

 

 

常闇の発言に、未来は目を丸くする。そして…

 

 

「だがその話は別として……まさかお前のような強者が、悪に魂を売るとはな……ならばこの哀れな少女に魂の救済を……!」

 

「おいおいオィィーーー!負けたら死ぬのに何でお前は平然と無視とかどーのこーの言うんだよ!!忍びってヤツら死の感情だけは鈍いのな!てかオイラたち、間違えて倒しちゃったらオイラたちが殺したようなもんになんだろ!!冗談じゃねーぞ!」

 

「まあまあ落ち着いて峰田くん☆ねえキミ、今すぐそんな下らないことは止めた方が良い、自殺行為と一緒だよ?ホラ、このキラキラしてる輝かしい僕を見て、戦いなんて忘れちゃおう!そして『明るい未来』を目指そうじゃないか☆」

 

 

「アンタ何意味わかんないこと言ってんのよ!!あと最後私をディスってない?明るい未来って完全にギャグよね?ねえ?上手くないのよ!! アンタ何なのよ……ったく…」

 

「僕は僕さ☆僕の名前は青山優雅!キラメキが止まらない男だよ〜☆」

 

「そういう意味で言ったんじゃない!!」

 

 

青山と未来の講義に、「いやどうでも良いだろ」と呟く峰田であった。

そんなやり取りを見てる柳生は番傘を未来に向ける。それに気付いた未来は少し驚いた。

 

 

「な、何よ……?」

 

 

「どうやら俺たちは戦う訳にはいかなくなったようだ……」

 

 

「ああ、ただ……可能性があるとすれば、その術者を倒せば、彼女たちに掛けられてる外法が解けれることもあるという訳だ。俺たちが戦うべき真の敵が見つかったという訳だな…」

 

 

「うおおぉーーーー!オイラ達ようやくこの殺伐とした所から出れるぜ!早くソイツ倒そう!!」

 

 

「麗しきレディにそんなことさせるなんて、正気の沙汰じゃないよね☆」

 

 

 

 

柳生、常闇、峰田(早く出たい)、青山は戦闘態勢を取り、未来を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雲雀達side

 

 

皆んなは雲雀の忍兎に乗り、術者の元へと向かっている。

 

 

「この最上階に術者と超秘伝忍法書があるの!!だからそこを目指せば…」

 

「なるほどね!この忍兎とかいうスピードなら、直ぐそこに行ける!」

 

 

雲雀がそう言うと、耳郎は「よっしゃ!」という顔で天井を見上げると…

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!

 

 

「ん?待ってなんだありゃ?」

 

 

後ろから誰かがこっちに向かって走って来てるような音が聞こえてきたので、振り返ってみるとそこには…

 

 

「そうはさせないわ!!」

 

 

倒したハズの、ボロボロの姿の春花であった。春花は忍兎よりも早いスピードで追い抜く。

 

 

「マジかヤツ!」

 

「雲雀の忍兎を追い抜きやがった!」

 

「なんなんあの人!?」

 

 

瀬呂、砂糖、お茶子はそんな春花に驚愕する。春花は余裕に距離を開ける。そして…

 

 

「秘伝忍法!『DEATH×KISS(デスキス)』!!」

 

 

周囲に投げキッスをすると、大量のハートを撒き散らし、忍兎に襲いかかり…爆発する。

 

 

 

ドガアアアァァァァーーーーーーーーーーンン!!

 

 

 

「キャアぁぁぁーーーーー!?」

 

 

皆んなは吹き飛ばされてしまう。

 

 

「ったた!もうチョイだったのに!」

 

「あの痴女マジで強え!」

 

お茶子は悔しい顔で春花を睨みつけ、瀬呂は春花の強さを見て、驚いてる。そんな春花は皆んなを見て不敵な笑みを浮かべる。

 

 

 

「ふふふ、貴方たち全員…本気でお人形にしてあげるわ…」

 

 

春花は黒い影を浮かべてそう言った……まるで母親のような歪んだ感情で…雲雀とその他の皆んなを見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詠との戦いでは…

 

 

 

 

「秘伝忍法!!」

 

 

 

 

「レシプロ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斑鳩は、秘伝忍法の力全てを飛燕に注げ…

飯田は、一撃で仕留めるために、いつ攻撃をするかのタイミングを見極めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、斑鳩の飛燕が動いた途端…飯田の脚はトルクオーバーを引き起こす。

 

 

 

 

 

 

 

「『飛燕鳳閃・壱式』!!」

 

 

 

「バーーーーストオォ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

斑鳩の飛燕と、飯田の個性、エンジンの脚が…線を描くよう交わり、飛燕の斬撃と飯田の蹴り、二人の連携攻撃が目にも追えない素早さで、詠に襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っっっっつ!!!?キャッ…アァアアアァァァァーーーーーーーーーーーーーー!!?」

 

 

 

 

 

二人の最大火力の攻撃に、詠は忍装束が完全に破け、倒れた。

そう…斑鳩と飯田の二人の、互いを大切に尊重し合う想いの力が一つとなり、詠を倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍びの強さは心の強さ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日影との戦いでは……

 

 

 

 

 

 

 

「秘伝忍法!!」

 

 

 

 

「蛙吹ぃぃ!!!頼む!!」

 

 

 

 

 

「ケロ!!任せて!!」

 

 

 

 

葛城は秘伝忍法の力全てを溜め込み、切島が叫ぶと、蛙吹は舌を伸ばしては切島に巻きつける。

 

 

 

 

 

そして、葛城が日影に飛び出た瞬間…蛙吹は思いっきり切島を日影に投げとばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

(俺の個性の硬化で、この一撃に全て込める!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

体全体から、腕のみに硬化を移し溜める。それは、渾身の一撃に掛けるため…全ての力を振り絞る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『トルネードシュピンデル』!!」

 

 

 

「どううぅぅぅんりゃぁああぁぁぁああーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葛城は、龍が如く足に竜巻を起こしながら、切島と共に、日影の頬に蹴りを入れる。切島は腹にパンチを打ちかます。

 

 

 

 

「っっつっ!!!!ああっ!!?」

 

 

 

 

二人の渾身とも呼べる連携攻撃の一撃を食らい、日影は忍装束が破けて、思いっきり地面に転がるように吹き飛ばされ、倒れた。

二人の男気ある勇敢さに、お互い仲間を大切に想う強さが一つとなり、日影を倒したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

ヒーローの強さは心の強さ…

 

 

 

 

 

 

 

 

未来との戦いでは…

 

 

 

 

 

 

「秘伝忍法!」

 

 

 

「行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

柳生はその場を回転し、常闇は黒い影のモンスターを出す。

 

 

 

 

 

『薙ぎ払う足!!』

 

 

 

黒影(ダークシャドウ)!!」

 

 

 

 

 

 

黒い影のモンスターは「アイヨ!」と声を出すと、柳生が回転しながら召喚した巨大な烏賊と共に攻撃する。

 

 

巨大な烏賊の足と、常闇の黒影の手が、未来を襲う。

 

 

 

 

 

 

「っっつ!!キャアアァァアアァーーーーーーーーーーーーーーー!!??」

 

 

 

 

 

 

 

二人の強力な攻撃に、未来は忍装束が破け、倒れた。二人の物言わぬ相性により、言葉が無くとも、想いの強さが一つとなり、未来を倒したのだ。

 

 

 

 

 

 

お互いの存在が心を交わし、強くなる。

 

 

 

 

忍びは何かを思う時、その時こそ強さを発揮する。

 

 

 

ヒーローは何かを思う時、その時こそ、個性の強さを発揮する。

 

 

 

 

 

 

日影と未来は、ボロボロの状態でもなんとか立ち上がり、戦おうとするものの…先ほどの攻撃を食らったため、直ぐに戦うことは出来ない。そんな二人の内一人に、葛城は日影の肩を掴み、揺さぶる。

 

 

「オイ!その術者は誰だ!何処にいる!?ソイツを倒せばお前らは元に戻るんだよな!?」

 

「それで……アンタらに何の得が?」

 

 

葛城がそう聞くと、日影は掠れた目で葛城を見つめてそう答える。そんな日影に葛城は、熱意ある目で日影の目を見つめながら話し出す。

 

 

「アタイたちは忍びだ…!命のやり取りは承知の上だ……!けど、他人に生き死を左右されるなんざ可笑しいだろ!!」

 

 

「葛城さんの言う通りっス!」

 

 

葛城の言葉に切島も頷き、日影を見つめる。

 

 

「なあ、俺たちは忍びのことよく分からねーけどさ……けどコレだけはハッキリと言える。忍びとヒーローは同じだってことが!!俺たちヒーローだって常に命懸けだ、命賭けてまでも人を救けたりするんだよ!死んじまう話だって聞かない訳じゃねえ、それは何とも言えねえよ……けど、失敗したから死ぬだなんてそんなの嫌だろ!!何でそんな事されなきゃならねーんだ!それは命懸けって言わねえんだよ!!もっと自分の命の事考えろよ!!」

 

 

切島も一喝する。それも怒気を含んだ声で。

 

 

「…………」

 

 

日影はそんな葛城と切島を、見つめることしか出来なかった。何も反論できない…感情がないからそう言った概念がよく分からない……わからないが…それでも、それでも日影に少しずつ、感情が芽生えてきてるように見えるのだ。

 

 

 

「ねえ常闇くん、これ僕要らなかったんじゃない?ねえ?」

 

「スマンな…だが、決して悪くはないだろ?もしもの最悪の事態を予測して、お前を呼び止めたのだ」

 

「まっ、盟友の頼みは願い下げることは出来ないからね☆」

 

 

青山は、目障りとも思える輝かしい?ウィンクを常闇に向ける。

 

 

 

「そ、そんな……アタシが負けた……?そんな、そんな…… これで、私は死ぬどころか…また一人に……なる、皆んなから見捨てられて……無視されて…………そんな……」

 

 

未来は自分が負けてしまったという罪悪感に、目から涙が溢れそうになる。そんな未来を見てる柳生は歩み寄る。

 

 

「……お前があの時言ってた、守りたいもの……」

 

「!?」

 

 

突然の柳生の発言に、未来は驚いてしまう。

 

 

「それはオレには分からない……だがこれだけはハッキリ言える……お前は強かった。それに、お前は一人ではない……」

 

「えっ?」

 

 

柳生の発言に、未来は目を丸くする。

 

 

「お前には、オレという『ライバル』が居るんだからな……」

 

「……柳生……」

 

「フッ…ライバル…か。良き者に会えたな…」

 

 

柳生は初めて、未来を『ライバル』と呼んだ。そして、柳生に初めて『ライバル』が出来た…そんな二人に常闇は口の端を少しあげるのであった。すると、柳生は未来に背中を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「だから……もっと強くなれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言った……柳生の言葉に未来は、眼帯をしてる目から、一滴の涙が零れ落ちた。

 

 

 

 

「………なん…なのよ……本当に………もう……もゔ………うっ……ううっ………」

 

 

 

未来は必死に零れ落ちてくる涙を拭く。涙が止まるまで……ずっと…

 

 

 

 

 

 

 

そう、初めて未来は悪以外の人から無視しずに、見てくれた。そのことが嬉しくて、ライバルだと言ってくれて、一人じゃないと言ってくれて、嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柳生と常闇たちは、葛城と切島たちの方に駆けつける。

 

 

「お前たち、終わったようだな…」

 

「おっ!柳生たちもか!ご苦労さんだな…後は、上に行って術者を倒さねーと…」

 

「オレは雲雀を救けにいく!」

 

「!?」

 

 

柳生の言葉に、皆んなは一斉に振り向き、「分かるのか?」という顔をする。

 

 

「さっき地下室で雲雀の声が聞こえた…もしかしたら雲雀がそこにいるかもしれない…だからオレは行く…!」

 

 

柳生がそう言うと…常闇も頷く。自分も柳生の意見に賛同するのかついて行くそうだ。

 

 

「ならば、俺も行こう…」

 

「大丈夫だ常闇…オレ一人で充分だ…」

 

 

柳生がそう言うと、常闇は柳生を見つめると、柳生の考えてることはお見通しなのか、知っているという顔をする。

 

 

「そう言うと思っていた。だが安心しろ、俺は盟友を救けに行くだけだ…雲雀救出作戦に赴いた麗日達の救出にな…」

 

 

 

 

そう言うと柳生は常闇に、「フッ」と笑みを浮かべた。

 

 

「ああ…そうだな…」

 

 

 

「そんじゃあ俺たちは、先に行ってるぜ!!」

 

 

「ああ、柳生!上手くやれよ!」

 

 

切島と葛城はそう言うと、葛城たちは最上階へと向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出入り口近くの方では……

 

 

「ま、まさか…お嬢様にこんな力が…」

 

 

詠は飯田と斑鳩の二人の攻撃をもろに食らったため、日影や未来同様ボロボロで、直ぐに戦うことは出来ない。そんな詠は、悔しい目で斑鳩と飯田を睨むことしか出来なかった。

 

 

「いいえ、私の力だけではありません…飯田さんの力があったからこそ出来たことです。それに、私たちが真に戦うべき敵は、貴方たちに外法を掛けてまで戦わせる、歪で邪悪な何か…その時私は…友の為に、誰かの為にと思うその想いの強さが、私の力の全てを引き起こしてくれたのです…」

 

 

「い、斑鳩さん…!」

 

 

斑鳩の言葉に、ジーン!と感激する飯田。斑鳩の言うその歪で邪悪な何か…それは蛇女のスポンサーであり投資者、道元のことだ。勿論、超秘伝忍法書を奪取せよと命じたのも道元である。この男を倒さない限り、間違いなく蛇女の皆が危ない。

 

 

「フン…ようは善人はお人好しってワケですのね…」

 

 

詠は下を向いて、吐き捨てるようにそう言うと…斑鳩はそんな詠を真っ直ぐな目で見つめる。

 

 

 

 

「貴方が見たというあのお屋敷…私は確かに彼処に住まわれておりました…ですがそれはあくまで『養子』として……私は忍びの才能があったため引き取られたまでです……」

 

 

「「!!??」」

 

 

詠と飯田は斑鳩の真実を聞き、驚いてしまう。そう、斑鳩は鳳凰財閥のお嬢様ではなく、忍びの家系として引き継がれたまで…家族の縁も血の繋がりもない、ただ忍びとしての素質を認められたまで。たったそれだけで引き取られたのだ。

 

 

 

「貴方の家族を思う愛情は、痛いほど分かりました…ですが、私にとっての家族は半蔵学院の皆様です!!」

 

 

「っ!!」

 

 

斑鳩の言葉に、軽く戦慄し、むしろ罪悪感が湧いてしまう。自分は彼女を憎んでいた。お金持ちの偽善者…今までずっとそう思っていたから。だが彼女は養女だった…その真実は、詠にとっては一番衝撃的なものであった。

 

 

斑鳩が行こうとした時…飯田は詠に駆けつける。それに気付いた斑鳩は立ち止まり、飯田に振り向く。詠は飯田を見つめ、飯田は詠を見つめて話し出す。

 

 

「俺には、貴方の身に一体何があったか分からない…君が先ほど爆豪くんの発言に対して怒りを覚えたのなら、クラス委員長である俺が謝罪しよう、申し訳ない…」

 

 

「貴方……」

 

 

「だがこれだけは言っておく…貴方が先ほど言ってた辛い思いとやら……それを抱えてるのは君だけではないということだ。皆んな、人間誰だって辛い思いをして生きてるんだ!」

 

 

「……貴方の言う事はつまり、人は見かけで判断するな…そして辛い思いは私だけではない……と、言いたいのですね…」

 

 

詠はそんな真面目な飯田に半分呆れて視線を下に移すと、飯田は「うむ!」と返事をする。

 

 

「だから、何ですの……?」

 

 

詠は掠れた声で飯田にそう聞いた。すると飯田は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから今、君が辛い思いをしてるなら、俺は貴方を救けたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……?」

 

 

 

 

 

 

真っ直ぐ透き通った目でそう言った。

 

 

「言っただろ?ヒーローは人を守り、救ける為にあるものだと。もし側に、近くに誰かが困ってる人間が居れば迷わず救ける。きっと俺だけじゃなく、兄もそうするだろう…」

 

 

 

飯田がそう言うと、詠はそれでも首を横に振る。だがその顔には嬉しさを堪えてる様子だった。もしそんな人が居れば誰もが苦労しない、そんな人が居れば自分はこんな思いをしずに済んだと…何度もそう思いながら……

 

 

 

「あ、貴方に…何が…何が分かると言うのですか……?辛い思いをしてでも、救けてほしくて、でも、でも救けてくれなかった……だから私は……!」

 

 

 

「ああ…君の身に何が起こったか分からない、知ったとしても多分俺が背負えるものではないと思う……今まで救けてくれなくて、今更何を言ってると思われても仕方がないと思う……じゃあ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君が今まで辛かった分、今、救けられても良いじゃないか!自分で自分を、縛らなくても良いんだもう。側にヒーローが居るのだから!」

 

 

「っっ!!」

 

 

飯田の優しさ溢れる言葉を聞き、詠はジッと、真剣な目で飯田の顔を見つめる。その目には、今まで耐えてきた苦しみや、自分で自分を縛ってたものが、少しずつ時剥がれていくような…そんな感覚だった。そして詠は思った。本当にお金持ちだけが全て悪い訳ではない……少なくとも、この人たちは偽善者ではない…本物とも呼べるような正義を感じた。

 

 

 

「だから俺たちは、術者を倒しにいく!それまで、待っててくれ!俺の脚も…保ってくれよ!」

 

 

 

飯田はそう言うと詠から斑鳩に振り向き、お互い顔を見て頷き合う。そして、少年と少女は走り出した。詠はそんな二人の背中を、ただただ見つめてた。

 

 

 

 

 

「どうして………どうしてそんな話するのよ………なんで…………貴方たちは………そんなに優しい言葉を……………そんなこと言われたら……貴方たちを…

 

 

 

 

 

 

 

憎めなくなっちゃうじゃない!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

今まで耐えて、堪えてた大量の涙が溢れ、詠の頬に伝わり、零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友を守り人を救けようとする、ヒーローと忍び、絆の想いの強さが、少年少女を強くした。




ヒーローとは、人の命を守り、救ける存在。そんなヒーローたちを見て、悪忍の少女たちは何を想い、どう思うのか…ですね。少なくとも詠は救われたんだと思います。

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