光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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2話更新しました!
別の作品で投稿してたのは1話だけなので、2話は是非とも読んでくださいませ!




2話「これが日常」

 

 

 

 

 

 事の始まりは中国軽慶市、発光する赤子が生まれたという奇妙なニュースが始まりの一つだった。

 医者や科学者ですら解明される事なく、それ以降は各地で超常現象は発見され、原因も判明しないまま超常は日常へと変わり、架空は現実へと流れが変わる。

 世界人口の約8割が何らかの特異体質を持つ超人社会。多くの者が漫画やアニメで言う空想の力や非現実的な能力を、『個性』と呼ぶ――

 そんな混乱渦巻く世の中で、誰もが1度は空想し、夢見て憧れた1つの職業が、脚光を浴びている。

 

 

 その名も――〝ヒーロー〟

 弱きを救け、強きを挫く、悪と戦う正義の味方。庶民と平和を守る、誰もが知るであろう職業。

 その対となるのが敵、力を悪事の為、私欲を満たす為、法律を破る輩は、そう呼ばれている。簡潔に言えば犯罪者、と言った方がイメージが付き易いのだろうか?

 

 この世界は言わば、能力を持つ人間が普通に暮らしている、と言った方が分かり易いだろう。

 

 

 

「よしッ、特に異常はないな。

 なら今日も平常運転、しっかり働けよゴミ供。ここじゃ外とは違ってお前らに人権なんて無えんだからなッ」

 

 朝を迎え、起床すると最初に始まるのは点検だ。

 また体調が悪くとも余程の重症がなければ休むことは許されないのだが、いつも慣れてるので気分は特にどうってことはない。

 組織の従業員は、クルッと背中を見せて、そのままどこ吹く風か、作業に戻っていく。

 

「チッ、クソッたれが…あのまま四肢を切り裂いてやろうかってんだ…」

 

 従業員の後ろ姿に愚痴を零すのは志久万。

 彼の個性は『羆』――大柄な体躯に、熊のような風貌はいつ見ても悍ましくも、凶悪な猛獣を連想させてしまう。

 特に如何なる猛獣をも殴り殺す豪腕と、伸びる銀色の爪は危険だろうというのが直感で伝わる。

 因みにこの男、元はワイルドヴィランズの戦闘員で、キュレーターと呼ばれるボスの仲間だったそうだ。今は組織壊滅として逃亡したとのことで、運悪くこの闇組織に捕まってしまったらしい。

 

「ダメだよクマさんは優しいんだから、そんなこと言っちゃ!…それに、聞かれてたりしたら何されるか解らないし…」

 

 愚痴を垂らす志久万に優しく声をかけるのは光里優良。

 彼女の個性は…自分で言うからには『ヒール』らしい。何でも医者には見せて貰えず、個性登録による診断は受けてないため、名前が無いとの事から、志久万さんが付けたそうだ。

 掌を発光させ、光の粒子みたいな物を放出させることで対象の傷を回復させてくれる、優しい能力…いや、個性だ。

 小さいけれども、優しくも明るく振る舞う彼女を一言で表すのなら〝天使〟だろう。こんな血泥のような掃き溜めの世界でも、彼女の存在が、周りの人間を明るく照らしてくれる、言わば太陽のような存在だ。傍にいるだけで、つい自分も笑顔にさせられるのは、彼女の長所だろう。

 

「良いんだよ、お前だってイラつくだろ?あんな雑魚のような三下に良いように使われるのは。それに、何かされるにしろ、お前の個性で治してくれるじゃねーか」

 

「でもでも、クマさんが傷付くのは嫌なの!そりゃあ、私の個性なら、なんとかなるけど…」

 

 彼女は小さいのに、こんな心すら失うような絶望の世界にいるのに、希望を失わずにいるのは、きっと根が優しいからだろう。志久万さんが敵という犯罪のレッテルを貼っててもなお、明るみに接するのだから、こう言うのを無差別しない平等主義者と言うのだろうか、又は単に純粋無垢な単純な女の子なのだろうか。どちらにせよ、こんな監獄のような囚われの世界では、法も人権も、悪意も善意も関係ない。

 そう言った意味では、自分たちは平等に暮らせてるのだろうが、こんな平等は願い下げだ。

 

「志久万さん、ストレスが溜まるのは解るけど、落ち着きましょう。それに優良ちゃんだって無理をしてるんだもの、個性に頼ってちゃダメ。聞くところ個性という能力は身体能力のウチ一つなのでしょう?」

 

「へぇへぇ、解ってるさんなこたぁ。ちょっとしたお喋りだ。俺だって別に好き好んで痛い思いしたい訳じゃあねえ、ただ鬱憤ばらしはしてえけどな!」

 

 志久万さん。初めて来た時と比べ、今では表情が穏やかで、荒んでた心が綺麗に澄まされたようだ。前までは「俺に関わるんじゃねえぞ」なんて言ってたのが嘘みたいに。

 ただ、粗暴な性格なのは相変わらずの様子で、荒っぽい口調は抜けていない。

 

「それに、可能性を捨てなきゃ幾らでも希望はある――脱獄するんだろ?だったら僕もやれることは全力でやり通すつもりだよ」

 

 守の言葉に、皆の表情が明るみになる。

 そうだ…まだ、終わった訳じゃない――脱獄するチャンスを探り、こんな胸糞悪い牢獄から出るんだ。

 小さな光が、自分達の心の中に灯火が宿る。私たちはそう言い合うと、「じゃあまた」と言い残し、各々が別々の作業に入る。

 

 

 私たちが何故、こんな囚人紛いなことをさせられてるのか、なぜ収監されてるのか…別に私や守、光里は志久万とは違って前科持ちではない。特に目立った騒動も犯してなければ、元はどうしようもなくつまらない人間…というのが私だ。

 守は私と同学年で、小学校の頃、周りから受けてた虐めを守が助けてくれたことから、友達との繋がりを持てたのだ。其れは今でも私の心の支えとなってくれている。

 灰色の人生…とは自分で豪語していたが、守がいなければ、本当に生きていても何の価値もない人間だと思い込んでたし、生きてても何の愉悦も感じなかったのだから、あの頃は自殺する人間の気持ちも同感さえした。

 

 

「でも、守がいるから…私はッ――」

 

 

 〝生きたい〟そう、思えるようになった。

 大袈裟だと思うけれど、守と出会う前の私は、生きるという事に関して無関心だった。趣味もない、友達もいない、家族もいない、ずっと一人の世界はまるで檻に閉じ込められた小鳥のように。

 

 ここに収監されてからもそうだ。

 遊び半分で揶揄って来る従業員を相手に臆する事なく、守は私を庇ってくれる。体を張って「気に入らないなら俺を殴れよ」なんて、大人でもない限り同年齢である子供が言えるとも思えない。少なくとも、自分だったら止める事はできても、盾になることは出来ないだろう。

 その分私は痛い想いはしなくても済むのだが、代わりに守が酷い仕打ちに合ってるのをみると、心がズタズタに引き裂かれるように痛い。感謝はしてる。しかし、相手に逆らえないという抑制と、自身の非力さに、自分の醜さを呪いたくなってしまうのが、日常と化している。

 守は「気にするなよ!自分から行っちまってるし」とは言っているが、正直見てて耐えないというのは確かだ。

 

「あっ、勇希ちゃんおはよう♪」

 

 自分達の作業に入ると、不意に声が聞こえた。

 

「ああ、おはよう空ちゃん、それに冷奈ちゃん」

 

 声を掛けたのが風立空、そして隣にいる物静かで優しい子が息吹冷奈、この二人はちょっとした仲があり、三ヶ月前からここに収監された小学六年生の子達だ。

 年齢的には16歳である私の方が歳上なので、入ってきた新人の子達の面倒を見ることが最近多くなったことから、友達になった。

 

「どう?ここの生活は慣れた?とは言っても、慣れろって言った方が無理があるけどね」

 

「うぅ〜…全然…毎日が嫌になる、でも…その分勇希ちゃんに逢えるから、ちょっと楽しみだったり」

 

「うん……私…も、だよ……」

 

 天真爛漫で、どこかおとぼけた空とは反対に、物静かでマイペースな冷奈はゆっくりと頷く。

 風立空、個性は『風起こし』。個性を発動することで風を引き起こす、何処にでもいそうな個性だ。

 息吹冷奈、個性は『冷気』。息を吸って吐くことで、冷たい息を吹くことが出来る個性は、特に強力ではなく、精々扇風機上、冷房未満の涼しさで、大して威力は無い。相手を氷漬けと言った妖怪の話に出て来る雪女とは違う。

 

「でも、男子たちよりも私達の方がまだマシよ…大人は武器製作、男子は血を流す作業、私たちは…妖魔に体を舐められるだけなんだから…」

 

 私達の作業にはそれぞれ役目がある。

 それは、この組織――【忍商会】が定めた奴隷たちによる強制労働作業。忍商会…って言ってもパッとみあんまりハッキリとしないだろうが、私達はこの組織に攫われ虐待紛いの労働を強いられている。

 忍、と名付けるからには本で読んだ架空の存在と何かしらの関係があるのだろうか?という疑問はあるが、同じ囚人の人達に聞いても「知らない」の一言なので、恐らく知らされてはいないのだろう。

 それか、知られてはマズイことでもあるのか?どちらにせよ今のところは脱獄の計画に関係性は低そうなものだ。

 

 考え事をしながら、先ず最初は従業員達の指示通り、雑用を任せられる。特にこれは言われたことをやるだけなので、大した労働は必要ないのだが…

 

「ガァァアアぁぁあああぁぁーーーーーッッ!!!」

「やめてくれぇ!痛い!い゛だい゛いだい゛!!!」

「あッあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あァァァあぁあぁ!!!!」

「あばががががばあ゛あ゛ああァあばぎがぁばばあああーー!!!」

 

 男子達の鋭い絶叫が、作業部屋に行き届く。

 涙声、喚き声、絶望の声、それらの金切声はいつ聞いても心がザワつき始め、つい耳を塞いでしまう。

 朝、夕方はいつも、男子達が拷問を受ける時間帯となっている。守からの話によると「妖魔と従業員が、殺さない力量で痛ぶる」らしく、拷問器具で声が枯れる程に血を流させているらしい。

 何でそんなことを態々するのか、理解に悩み苦しむが、そもそもこの組織の人間は大抵イカれ狂ってるので、理解は出来なくても必然だろう。

 

「今日も、また始まった…男子達の悲鳴……」

 

 空の声に「そう、だね…」と、心の痛みを隠すように返事をする。

 因みに男子達だけでは流石に無理があるらしく、時折女性からも補充として拷問を受けることもしばしば…

 大人なんかは武器製作と成果次第で拷問を受けるかどうかが決まると、志久万が教えてくれた。

 私達のような子供とは違い、大人は体力もチカラもあるので、利用されやすいのだろうが、大人からすればこういう時こそ子供に戻れたらと切なく思う者も少なくない。

 

「でも……殺されたり…は、しない…よね?」

 

「恐らくは…多分。普通に従ってれば、だけどね」

 

 怖がる冷奈に、私は頭を撫でてあげた。

 ふさふさな髪の毛の感触が手に伝わり、相手の恐怖心を和らいであげる。

 基本、私達は奴隷ではあるが、長持ちして利用したいのか、反逆を除いて殺処分されることは殆ど無い。

 あったとしても、怪我や病気による長期間の休みで使い物にならないと判断された者に限るだろう。そもそもここではろくなモンすら食べれないので、体が衰弱してしまうのは仕方ないだろう。

 

「さっ、頑張りましょう。私達もこれ以上無駄話してると従業員に怒られちゃうわ。それに、私達の拷問は昼から…」

 

 

 

 そう、女子達の悪夢はここから始まる。

 男子達の悲鳴が止み終わると、雑用と供に作業は終了する。その後は食堂と呼ばれる大きく広い部屋で各自は食料を確保しなければならない。

 ここでは老若男女問わず、囚人の全員が集まり食事をするのが決まりだ。どうして拷問を終えた後の朝食か、だって?そこは私にも分からないが、何か理由があるのではないだろうか?

 そもそも、この拷問そのものに何の意味が有るのかは不明なのだが…

 

「うぇ…マズ……」

 

 食堂の席の隣で、舌を出しながら本音を漏らしたのは守。食堂や休憩の時はこうしていつも守と傍で時を過ごしている。

 食堂なので、今は光里や志久万も前の席で食事を口に運んでいる。

 

「だよなぁ、せめて飯くらいは満足に食いてえ」

 

「志久万さん…言っちゃ悪いけど、貴方が刑務所に連れてかれた後の食事も同じ事になってたと思うの」

 

「ああそうだな、俺は運良く逃げ果せたさ…まっ、その後がこんなザマだがな。けどな、刑務所ならせめてマシなもんくらいは食えるさ。

 ここは異常過ぎる、見てみろ?この汚れたようなパンとスープが今日の朝飯だぜ?」

 

 美味しくなさそうなパン、水で薄めたスープは、とても食料とは呼び難いものだ。パンを咀嚼し、冷たいスープと供に食物を喉に通す。そもそも、こんな物を朝食と呼んでも良いものなのか、疑わしく思えて仕方がない。

 因みに興味本位で組織の従業員の食事を覗き込んだら、大層なご馳走を美味しそうに平らげてたのは脳裏に焼き付いている。

 

「昨日は…白米と水を合わせたドロドロのヤツだったから、まあまだ…いや、どっちも変わらないなコレ」

 

 こう言うのをお雑煮とも呼ぶんだろうが、そう呼べる物でも無かったし、毎日の食事は不味い上に自分たちにとっては愉しむ筈が、ただの空腹を殺す作業と化している。

 

「あっ、そうだ守くんちょっと待っててね」

 

 ヒョコッと小さな体で椅子から降りると、光里は守に近付き怪我の治療をする。優しい光が、傷口を覆い照らし、段々と傷が塞がっていく。

 

「あっ、有難う…」

 

「えへへ〜♪どういたまして!」

 

「いたしまして、ね。志久万さんの怪我は治したの?」

 

「うん!本当は皆んなの分まで治療してあげたいけど、流石に出来ないかなぁ」

 

 そりゃあそうだ。

 光里の個性は確かに救助向けだし、応急処置には持ってこいの人材だ。しかし、その力は必ずしも無限とは言えない。光里だって人間だし、況してや小さい子だ(年齢を聞いたところ、同じ歳という事に大きく驚いたが)。そんな子に全員を治せと言った方が無理があるし、これは馴染み深い仲間だからこそ、光里はせめて二人だけでもと治癒してくれるのだろう。

 

「無理もないわ、私たちの場合は昼から…」

 

「あの気色悪い拷問か。あの妖魔ッつー意味不明なバケモンも謎だよなぁ。まー、こんな世代だ、何が起こったって可笑しくはねえが…」

 

「あんな化け物、見たことも聞いたこともない…そもそも、何で従業員達を襲わないのかしら?この前、脱走を図ろうとした人を殺してたし、凶暴そうな生き物が指示を受けてるのも謎よね。大体言葉は理解してるのに、一言も喋らないし…」

 

「勇希はよく考えてるなぁ、俺はもうずっと当たり前のように認識してたよ」

 

「守は昔から勉強が苦手だったもんね、難しいことや観察が不得意とか…」

 

「いやサクっとバカにしてない??」

 

「私は勉強、小学校でしか受けたことないなぁ」

 

「優良ちゃん、私達がここに収監される前からずっと一人でいたもんね…」

 

 あの時、ここに収監される時に隣の部屋の牢屋で小さな子が一人、全身キズでボロボロになってて、閉じこもるように縮こまってたのを見たときは軽く怒りで血が昇ったなぁと、昔の感覚を思い返す。

 自分よりもあんな小さな子が、一人で寂しく牢屋の中で泣いてるのを見て、思わず従業員を殴り飛ばそうと考えが過った程に。

 

「うん、でも私何も悪いことされてないのに…何でだろ?」

 

「………」

 

 優良の虚しい言葉に、志久万は険しい顔立ちで物事を考える。

 まるで何かを見据えるような、それとも考察に浸ってるのか、真相は分からないが、思い当たる節があるらしい。

 

「そろそろ朝食の時間が終わりそうだな…残すのも勿体ないし、腹に入れとくだけ入れてまた作業に戻らなきゃ」

 

 食事は不味くて食えたものではないけれども、こんな殺伐とした中でも四人の会話はどこか心が安らぐ。

 今はどんなに打ちのめされても、希望を捨てなければ必ず脱獄できる。問題は脱獄の計画と、それをいつ実行に移すかがキーとなる。

 

「またキズが酷くなったら言ってね?私が治してあげる!」

 

 光里は「えっへん!」と自慢げに頼ってほしいと言う面を浮かばせる。本当にこの子は、可愛くてどうしようもない。

 ピーチ色の綿毛のような柔らかい髪を撫でながら、「光里ちゃんも無理しちゃダメだからね?」と優しく一言を添える勇希。

 

 朝食を食べ終え、作業を終えたらまた昼食。

 その後は女子が味わう屈辱と羞恥な悪夢が始まる。

 

 

 

 






疑問に思ったこと…
裏ストーリーの後書きで月光閃光のコーナーを出しても良いのだろうか…?



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