光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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えー、皆さん大変お待たせいたしました。
今まで忙しかった等の理由で此処に来れなかったのはありますが、今回は作者が働いてる職場に発症者が続出し、それどころではなかったこと、心身共に疲弊しており投稿どころではなかったこと。ワクチン接種し倦怠感と発熱による副作用、そしてシノマスのストーリーによって此方の作品による話も少し変えなければいけないこと、様々な事情が重なり、ほぼ投稿が出来ませんでした。申し訳ないです。
今はリアルでも何とか落ち着いたので心配は無用です。
そして次に此方のストーリーなのですが、風切と雨音の件に関して、敵連合への介入?は無理があると断念しました。
当初の初期設定では、後々と改心することを考えていたのですが、本誌読んでる方なら分かる通り、敵連合に関わった時点で警察からも無視できない事になってる為、非常に厳しいと判断しました。
まぁ…色々直接ではなく間接的に内通者はクラスメイトを傷付けていたので、当然なのかもしれせんが…。
それに抜忍設定でもありかな?と思ったのですが、それだと結局これからもほぼ出しにくいなと判断しました。
然もアニメや本誌を読んでる方なら知ってると思いますが、敵連合がギガマキと遭遇し、ドクターの助けによって何とか助かった際に発動した転移の個性も、馴染み深い対象の人物でないと発動しない為、仮にいたとしても二人が転移されることは不可能な為、どの道無理があるなと。

敵連合といれば自然と雲雀との接点も出しやすいなという意味が大きかったのと、対立しやすいなと思ったのですが、然も風切も雨音も現在ストーリーを知ってる人からすれば分かりますが、思った以上に改心した上に、二人の心境も理解したため、前回のドクターの件同様訂正する事にしました。
救いなのが1話2話しかでてなかった事ですね。
皆様方も申し訳ないですが、これからも頑張って参りますので、こんな作者でも応援してくれたら嬉しいです。



230話「焔VS嘘月」

 

 

 

 

 

 

 

 

 熱く滾る三爪の閃きと共に、烈火の如く燃える炎が、嘘月妄語の背中を激しく襲う。

 ゴゥ!!と鈍くとも発火した音、灯火の様に明るく、それでいて触れた皮膚は火傷を負う。

 

「すまない春花!待たせた!!」

 

「焔ちゃん…!」

 

 真打の登場。

 我らが頼れる紅蓮のリーダー、焔の助太刀に、瞳に希望を灯らせる。

 両手に得意の武器である六爪の刀を持ちながら、嘘月妄語の背中を斬り裂いた…筈なのだが。

 

(……血が、出ない?)

 

「遂に来たか……予定ではお前も一緒に道連れにしてやるつもりだッたんだがな…」

 

 然し斬り裂いた服の中からは、背中一面とも土でコーティングされた土鎧。土により致命傷と共に焔の火遁を土で塞いだのである。

 不意打ち狙いは忍の世界では序の口、更に強い敵程不意を突かなければ勝機が見えない輩を前にごまんと相手をした嘘月妄語にとって、油断も隙もない。

 だからこそ、予め外敵から身を守る為に背中に土を張り巡らせていた。

 

「まだまだぁ!!」

 

「ッ」

 

 焔の秘伝忍法『魁』はこれで終わりではない。

 追撃を噛ませんと言わんばかりに、続けて、二連、三連へと目にも止まらぬ高速移動で相手を縦横無尽に翻弄とする秘伝忍法は、蛇女に入学した頃から目にしてある。

 

「食ら――」

 

 ドゴッ――!!

 

「ッ!?」

 

 だが、続けて嘘月に三爪の焔撃を叩き込もうとするも、焔よりも遥か先により速く先回りし、頬に蹴りを入れる。

 頬に伝わる重量感と共に迫り来る圧倒的な足蹴りにより、吹き飛ばされ、神社の鳥居に直撃し、半壊してしまう。

 早い話秘伝忍法による強制キャンセル。初対面とはいえ、意図も容易く看破されてしまうというのは、これはまた衝撃的な事実だろう。

 

「大袈裟だな、そんなものは」

 

 だが現実とはいつだって非常識と思える現象がリアルとして突きつけられるのは、今頃話す事でもないだろう。

 息を咳き込みながら、ギラリと鋭い眼光を放つ焔を前に、物怖じせず距離を取る嘘月は、土竜槍を手に持ち、仕留めに掛かる。

 

「神楽様…!今のうちに……」

 

 ボロ布のように土埃で身体が汚れていた奈楽は、抱き寄せるように小さな幼女を包み込めば、嘘月が視線を逸らしてる隙に逃げ果せようと地に脚を蹴り、走り出す。

 

「逃げられると思うなよ…!!」

 

 そして奈楽の逃亡を図る事を悟った嘘月は、直ぐ様手に持ってる槍を奈楽の背中目掛けて投げ飛ばす。

 

「土還流!!」

 

 投げ飛ばされた土竜槍は、意志を持つかのように奈楽目掛けて獲物に喰らいつくように、ブレる事なく飛躍する。

 槍の先端部分が空を切り裂き、衰える事なく真っ直ぐ進む。

 

 グサッ…!!

 

 嫌な音が耳をつんざし、槍は無情にも貫いた。

 だがそれは決して奈楽の身体ではない…。

 

「ナイス…ファインプレーよ…」

 

 身体に痣が出ながらも、何とか春花は傀儡を利用して奈楽を庇う形で守る事が出来た。傀儡はプシュプシュ…と煙音を鳴らしながらも、機能を停止させる。

 そして貫いたからか、意志を持ってた土竜槍は同じく機能を停止しそのまま動かなくなる。

 

「チッ…!邪魔を……」

 

「秘伝忍法――……!!」

 

 春花の邪魔に心の底から舌打ちをする嘘月に、完全に仕留め損ねた焔が跳躍し、大きな素振りで六爪を振るう。

 

「【隼】!!!」

 

 炎を纏わせた六爪は、再び熱を浴び、駆け抜ける様に嘘月目掛けて切り裂き振るう。

 咄嗟の事に回避よりも防御に徹した嘘月妄語は、両腕に磁石のように硬い土を纏わせ焔の秘伝忍法を瞬時に防ぐ。

 硬い土を掘るように、六爪が抉り、炎は土により熱ごと遮断され、攻と防が掌突。斬り終わり、僅かな隙が生まれた事を見解した嘘月は、直様に土を大きく踏み込み、地面から氷柱のごとく、土棘を生やし串刺しを試みるが、それも空虚と化するように空振りに終わる。

 焔はその隙を見せたと思わせてからの、大きく跳躍し、六爪を勢いを増して大きく同時に振り翳す。

 

「はああぁぁぁーーーッッ!!!どうだぁ!!」

 

 それを腹部に抉り、ガラ空きだった隙を狙われ、地に足を擦り付けるよう大きく後退するように吹き飛ばされる。

 先ほどのお返しと言わんばかりの焔の機転を利かせた猛攻は、春花が奈楽を逃した功績も大きいだろう。

 

「……ッ!」

 

 ガフッ!と口から僅かに血を流す嘘月。

 此処で初めて、手も足も出なかった強敵に一矢報いることが出来た、そう希望を実感させるようだった。

 

「春花はアイツら二人を逃してくれたか…済まない、助かった!」

 

「焔ちゃんの方こそ…来てくれなかったら今度こそ全員とも終わりだったし……」

 

 息を切らしながら、親指を立ててジェスチャーを送る春花のダメージは、雲雀や柳生と同じく酷く手荒だ。

 三人とも学生級とはいえど決して弱くはない。

 柳生と雲雀がどの程度の実力かまでは今となっては不明だが、春花も幻術やらトリッキーでアクロバティックな戦法を得意とし、敵を翻弄とさせる事に長けてるにも関わらず、嘘月妄語という男の足止めが命掛け。

 後から登場した焔からして何が何やら…というのが現状だが…。

 

「…腐っても、どうやら半蔵の超秘伝忍法書を奪取した実力は、あるみたいだな。棟梁よ」

 

「貴様か…!春花やアイツらをここまで手荒く弄んだのは…」

 

「無論。お前にとっても俺は、倒さなくてはならない敵だろう?」

 

「何を…」

 

「焔ちゃん、気を付けて…。ソイツは忍商会の人間よ…!」

 

「ッ!?忍…商会…!!」

 

 嗚呼、道理で春花や雲雀、柳生を狙われたという訳か。

 となれば、あの二人組…先ほど逃げていった者は忍商会がマークして追いかけてる奈楽とかぐらの可能性は極めて高いだろう。

 

「漸く、待ち焦がれてた因縁だ。伊佐奈の件と言い、話して貰う事は山ほどある…が。先ずはお前を潰さない限りは、どうにもならんか…。此処に来る道中、人気がないのは、お前が人払いをさせたんだろう?」

 

「…無関係な人間を巻き添えにはしたくなくてな。それに伊佐奈など別に、俺個人としてはあんな外道はどうでも良い」

 

 個人としてはどうでも良い…?

 その台詞からして、忍商会としては無視できない案件だが、こいつ自身はどうでも良い、と言いたいのか?

 いや…今考えるのはよそう。こういう考察は、美怜が一番に長けている。

 

「柳生ちゃん!大丈夫…?」

 

「ああ、そんな事より雲雀…お前の方は…」

 

「雲雀は何ともないよ!ちょっと、頭は痛むけど…」

 

 ちょっとどころではない。

 実際に脳天がカチ割り、頭蓋骨が割れたのではないかと錯覚さてしまうほどに酷く鈍い痛覚が今も鳴り止まない。

 おでこに滲む血を流しながらも、それでもはにかむように安心させる雲雀は、嘗てドジで腑抜けで、何も出来ず失敗だらけの落ちこぼれとは打って変わったようだった。

 そういうところもまた、雄英での過酷な教訓を受けたからこそなのだろう。

 

「華眼がありゃ、使えれば、こんな努力を積み上げてきた強者だって一瞬で無力化出来る。にも関わらず使わないということは、使えねえという事か…宝の持ち腐れ…。

 警戒していた事に越したことはなかったが、同情はする」

 

「ッ!!五月蝿いよ!さっきから貴方は何なの!?雲雀達のこと、何も知らないくせに!知ったような口振りで…!!それに、柳生ちゃんや春花さんを傷付けて、貴方の目的は何なの!?雲雀の事はバカにしても良いけど、皆んなをこれ以上傷付けないで!」

 

 怒気を孕んだ雲雀の叫びは、焔や春花、柳生でさえも聞いたことのない、剣幕した怒声は初めて聞いた。

 今まで会って無かったことも含め、柳生も生まれて初めて聞いた。

 それ程に雲雀は心身共に成長した事になるのだろうが、嘘月妄語は肩をすくめて答える。

 

「…それを答える義務は、俺にはない。強いていうならこれも、組織としての取り立て…ケジメを付けに来ただけだ」

 

 一人殺されたら三人殺せ。

 組織として泥を塗られたら、相手の組織を潰せ。

 仲間を傷付けられれば、躊躇なく殺せ。

 闇の世界で生きる人間は、こんな血みどろと殺伐な空気で当たり前。

 その当たり前の人間と、そうでない人間では相容れないのは当然の理。

 住む世界が違うというのは、正にこのためにあると言っても良いほどに。

 

「ああそれと…俺は一人たりとも馬鹿にしちゃあいねぇ…!!どんな相手でも、俺は決して侮辱なんてしない。じゃなきゃ態々俺が弟分達を出さずに出るわけがないだろうが!!」

 

 こうして忍商会のサポートアイテム『種花島』を懐から取り出し、銃口を雲雀に差し向ける。

 それを見た柳生は、痛む身体に鞭を入れるよう奮い立たせ、雲雀を抱いて回避に専念する。

 防御をしようにも、先の戦いで貫通され無謀だと知らされた柳生は良い判断を取ったと言っても良い。

 

「傷付けるなだと!?なら最初ッから忍など目指すな!!忍になった時点で、仲間も家族も危害が加えられると思え!

 安堵なんざ、何処を探しても忍である以上存在なんてしねェんだよ!!」

 

「嗚呼、全く以ってその通りだ!!」

 

 ゴウッ!!と轟く炎の音と共に、焔は横槍を入れるように六爪を巧みに扱い、嘘月妄語の邪魔をするように何度も何度も、斬り刻むように、空気を斬り裂く。

 

「春花!柳生と雲雀を逃がせ!その序でに他の連中も呼んでくれ!」

 

「ええ、了解よ!」

 

 あの焔なら「私一人で充分だ!」と豪語していたのだろうが、ベルゼ兄さんの戦い以降、心身共に成長したのか、何処か冷静さを忘れず、仲間の救助要請を申し込む。

 いや、それ程に相手が強すぎるからだ。

 例えるならゲームで言えば、序盤のエリアで強い敵がインプットされ、最悪にもエンカウントしてしまったものだと考えるのが妥当だろう。

 あの強い敵を相手に余裕の笑みさえ見せていた焔も、今回ばかりは真面目に死と向き合っている。

 

「タダでさえ奈楽とかぐらを逃されただけでも大きな汚点だというのに…これ以上でしゃばる真似を……するな!!」

 

 すると嘘月妄語は手を地面に触れると、ゴゴゴゴゴ…!!と地震を鳴らし、両手で指をくねくねと動かす。

 

土柱(つちばしら)――大御那増邪苦死(おおおたまじゃくし)!!」

 

 地面から突如、にょきりにょきりと大きなオタマジャクシのような形ある土が、春花、柳生、雲雀を押し潰さんと言わんばかりに襲い掛かる。

 ここまで巧みに土遁を扱える人間などほぼ居ない…故に、こんなにも自由に土の遁術を使える人間など初めてだ。

 鈴音先生でさえも、こんな忍術を教わった覚えなどないし、24時間以上もの土に潜る訓練をし、土遁を極めていた者でも、これほど熟練された忍は存在しなかった。

 

「おい…何だあれは!?」

 

「ちょっと嘘でしょ!?何でもアリなの…?!」

 

「ッ!!力を貸してくれ…!炎月花!!」

 

 絶対絶命的な状況

 そして七本目の刀を抜き取り、瞬時に周囲の空気と共に灼熱の暴風と紅蓮の炎が焼き尽くす。

 

「ッ…!?そうか、お前も確か覚醒持ちか…!」

 

 そして凡ゆる六本の刀を宙に浮かせ、縦横無尽に土柱大御那増邪苦死を断頭するよう焼き斬り捨てて行く。

 紅蓮の炎を纏わせた六爪の刀は、今や溶鉱の如く触れた物を火傷と同時に溶かすかのように、バターを斬るよう凡ゆる障害を紅蓮でばっさばっさと切り棄てる。

 

「行け!!走れ!!!!」

 

 焔の剣幕として震えた大きな叫び声が、三人が走り出す引き金となる様に、地を蹴り素早く走り出す。邪魔もされず、ダメージはあれど、それでも足を折られなかったよりかは幾分マシだ。

 焔が時間を稼いでる内に、増援を呼び焔の救出に赴く。

 

「頼んだわよ、焔ちゃん!!」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……行ったか、アイツら…」

 

 大御那増邪苦死の無限に思える土柱が漸く止んだ頃には、身体に土の細い破片が食い込み、体全身、血が流れてる焔は、固目を瞑りながら身体を起き上がらせ、仁王立ちしている嘘月妄語を睨み付ける。

 

「…今のはお前を本気で殺すつもりでいた。

 それでもこれ程の猛攻を耐えれるのなら、恐らく弟分達が出向いてもお前を倒すことは難しい…か。

 抜忍としての過酷な環境がお前を厳しくさせたのか、将又才覚があるか……成る程、半蔵が落ちぶれていたよりも、お前が半蔵をも超える実力があったからか…」

 

「お前…何で、そんな嘘を吐く?」

 

「…何?」

 

 ピクリ…と、焔の声に反応する嘘月妄語は眉を顰める。

 

「あれ程の猛攻に、体術もあるお前なら、その隙に私を殺せることだって容易かった……

 本気で殺すつもりなんて、最初ッからなかったんだろ?」

 

「…嗚呼、指を動かしながら蹴りだのなんだのと、一つのことに複数同時に行うのは中々に難しくてな。

 お前も、秘伝忍法を発動してる真中、違う秘伝忍法を扱うのは無理だろう?それと一緒だ。俺はよく嘘を吐くが、その時はきちんと忍術を発動させている。俺がお前に嘘を吐く道理はないしな」

 

 嘘月妄語はその名の通り、嘘を巧みに利用する。

 忍術の詳細は不明だが、何故か絶対に騙されてしまう程に、言葉に重みや心理に影響を与える忍術だ。

 本人曰く、何の意味もない忍術と言ってはいるが、それも嘘なのかどうかは真偽は不明だそうだ。

 そして先程の忍術は、無数の土のオタマジャクシを出す代わりに、指を使わなければならない。

 指を動かしながら、神経や意識を全集中しなければならない為、その際には一切の攻撃が出来ないのが難点なのだ。

 

「…そいやお前、ヤケに半蔵やら超秘伝忍法書に固執してる様だが…私達に恨みでもあるのか?」

 

「いや、無い。仮にあったとしても、どの道お前と俺が戦ってる以上、それ以外に理由がいるか?」

 

「…そうか」

 

 納得したように焔は首を縦に頷けば、再び指に力を入れて炎月花を握りしめる。

 強い敵程、宝刀――炎月花は応えてくれる。呼応するかの様に炎は激しく燃え、紅蓮の色は煌めき増していく。

 嘘月妄語を相手に、ベルゼ兄さんと同等な程に、肌に緊張感が走り、灼熱な炎が身を焦がすように熱く燃え滾る。

 

「なら、これ以上言葉は不要だな!!」

 

 紅蓮の炎を纏わせた炎月花を構え、迷うことなく一直線に走り出す。滾るこの鼓動…いつだって焔の心を満たすのは、強敵と戦う時だ。

 だが、嘘月妄語は焔以上の何倍もの実力を備えている、忍商会での兄柱。

 

「土遁・土竜蹴り!!」

 

 脚に幾重もの土の層を纏わせ、勢いよく強い一撃の蹴りを炎月花に入れる。

 ガギィン――!!と金属を叩き斬る弾けた音が鼓膜を揺らがし、灼熱の炎に物怖じせず火花散らす炎月花と土竜蹴り。

 空気が僅かに痺れれば、揺らいだかの様な錯覚が生じる。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

 そして六爪を自由に巧みに操り、嘘月妄語目掛けて振るわれる。

 紅蓮の炎を纏った六本の刀を前に、嘘月は身体の軸を回転させながら、溝、脚、肩、頭、胸を目掛けて飛んでくる刀を避けていく。触れることも、当たることもなく虚しく空振り、舌打ちをする焔を余所に、着々と回避しながら破壊された春花の傀儡の残骸に突き刺さったまま残っていた愛用の槍を強く握り締め、抜き取れば、焔よりも遥かに上空へと跳躍し、槍を差し向ける。

 

土蛙雨牙彫柳(つちあまがえる)!!」

 

 上空に飛び、まるで雨の如く槍の刃先を縦横無尽に突き刺し、槍刃の雨嵐を降らしていく。

 100、200もの無数の槍の斬撃を前に、焔はひたすら炎月花を振りまくり、紅蓮の炎と共に斬撃を斬り払う。それでも永遠に続くかのように放たれる突き刺す槍撃に、太腿、腹部、頬、肩を掠り、鋭い痛みと共に血が流れていく。

 苦悶の表情を耐えながら、地面に着地すれば、何とか雨を免ぐように全力疾走で回避をする。

 槍の雨が止んだかと思いきや、嘘月は着地したかと思えば今度は槍を大きく、激しく回転させ一直線に向かい出す。

 

「蟻地獄・六槍!!」

 

 そして放たれた強烈な槍の一撃が、焔に牙を剥く。

 咄嗟に炎月花で迎え入れる焔の判断は、大きなミスを犯す。

 放たれたのは一撃では無い…何と、一個の槍刃が、まるで六つに分かれたかの様に残像が映り出し、一本の槍刃を炎月花が受け止め、残り五つの槍刃の残像は、肩を抉り、腹部を突き刺し、右腕の皮膚を掠め、脚を貫く。

 

「ッ!?!ガッ…はぁっ!!?」

 

 強烈で激しい痛みが頭頂から足のつま先の全身に駆け巡るような錯覚と共に、痛みに感傷してる暇もなく、今度は頭部に鈍器でぶん殴られたかのような大きな衝撃を受ける。

 槍で焔の頭部を叩き付け、円を描く様に反時計回りに振り、槍刃で焔の身体を突き刺すと同時に吹き飛ばす。

 口から血を吐き出しゲホゲホ!と大きく咳き込み顔を上げれば、今度は、種花島で発砲し、土の弾丸が襲い掛かる。

 血を流す体に鞭を入れながらも、骨が悲鳴を上げながらも、横に体を転がる様に回避しながら、それでも追尾するかのように発砲は止まらず、残りの六本の刀を操りながら土弾を弾き防ぐも、全部は防ぎきれず、何発かは身体を貫通する。

 内蔵までもがやられるかのような感覚と、血が止まらない戦場。

 

(コイツ…!まるで、私に攻撃を与える隙すら作らせず……)

 

 焔の覚醒が、何の意味も成さない。

 嘗て、今までの敵…伊佐奈や怨楼血を相手に紅蓮の焔でも何かと通用はした。

 然しベルゼ兄さんという大妖魔を除き、忍の相手でこれ程苦戦を強いられるのは、この男ただ一人である。

 同じ忍としての男でも、小路とは違って何もかもが正面からの精々堂々とした闘いだ。

 

 スタタタタッッ!!と凄まじく距離を縮めていく嘘月は、全力疾走で走り抜け、槍を回転させる。

 間合いを詰めさせてはいけない…回避するにも洗礼されたあの動きと獲物を確実に仕留めに行く集中力、回避も無理。防御も無理。

 ならば…

 

「絶・秘伝忍法――【 紅蓮土跳撃】!!」

 

 激しく燃え盛る紅蓮は勢孟の唸りを上げて、六本の刀が紅蓮と化し、灼熱の刀を纏っては斬撃を繰り返す。

 その余波に紅蓮の炎が轟々と揺らめき、周囲を焼き尽くす。

 六つの刀を交わせ、突っ込む嘘月に一刺し、また一刺しと嘘月の身体を抉るように刀は突き刺していく。差し詰め、これには効いてるのか否や、僅かに表情を曇らせる嘘月は、衰えることなく突進し、紅蓮の炎を前にする。

 灼熱の炎は触れるだけで皮膚を焼き、火傷では済まない程の熱量を誇り、近付いただけでも炙られる。

 刀では無理でも、全身をも燃やし尽くす炎を前に、嘘月妄語も無傷では済まない筈…なのだが。

 全身に紅蓮の炎を纏わせながらも、それでも焔の息の根を止めんと言わんばかりに、土竜槍を回転させる。

 

「何…!?絶・秘伝忍法を食らってしても…!!マズイ…!!」

 

「お前の紅蓮の炎を借りようか…――【徹火巻鬼(てっかまき)】!!」

 

 紅蓮の焔の遁術によって生み出された、火遁の上位に当たる紅蓮の炎を纏わせた土竜槍が、焔の横腹を深く抉り、突き飛ばす。

 止まらない激痛と、傷口に感じる火傷に、脳が破壊されんばかりの激痛が走り、ドーパミンによる脳汁が溢れ出す。

 声にもならない絶句する苦痛を前に、嘘月妄語は静かに呟いた。

 

「焔よ覚えとけ…時に蛙は、蛇をも喰らう…!!」

 

 

 

 





これは10億超えありますわ。
注意:マジで勝てない。

これは超シノビバトル及び襲撃、超強敵として出てきますわ(白目)


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