光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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まさかの年越しまでに何とか投稿が出来ました。
自分でも投稿ペース、少しずつ取り戻してきたかな?と思うこの頃、無理せず頑張っていきますので、来年も皆様どうぞ何卒宜しくお願いします。
来年はどんな閃乱カグラのハーメルン小説の新作が出てくるのか、シノマスはどのように進んでいくのか、沢山の期待やらを胸に弾ませながら、来年もどうぞ何卒宜しくお願いします。
そして、少し早いですが今年は皆さんどうも有難う御座いました!
と、先に言っておきます。



228話「日影と美怜」

 

 

 

 

 

 

 

 忍務を下された飛鳥達とは裏腹に、一方で焔達6名は、旅行案内人のガイドより、離れた観光地へ訪れていた。

 東山区の地域では、清水寺を始めた世界遺産の文化だけでなく、八坂神社や地主神社など観光スポットでも名高い有名な場所に回り、今から二時間は指定された範囲内で好きなだけ自由に巡回して良いとの事だ。

 

「今回のペア、わしと美怜さんか。珍しい組み合わせなもんやな」

 

「ええそうね。私も日影のこと、よく知らないし…良い機会だと思うわ」

 

 お互い感情表現に疎い分、何処か共通する二人組はある意味面白い組み合わせだろう。最初はこの二人で大丈夫か?という大きな懸念が生まれたが、日影も春花と同じ三年生故に、選抜メンバーでも何処か抜けてはいるが、根はしっかりとした人間だ。

 コミュニケーション能力、思考や判断が長けてる美怜とも相性が良いのかもしれない。

 

「お前たち…あんまり周りに迷惑をかけるなよ?」

 

「心外やわ焔さん。わし、今の今までに人に迷惑かけた事なんて一度もないで?」

 

 もし其れを忌夢が聞いてたら、額に青筋を浮かべ血管を三本くらいブチ切れていただろう。

 無自覚無感情日影でも、一般人にまでは手は出さないが…以前、日影が忍学生になる前はひょろっとひょんな事から何故か地下闘技場のバトルクラブで肩慣らしの運動をして警察にマークされた事があるので、一概的に大丈夫とも言い切れない。

 

「ふふ、安心なさい。私が誰かに迷惑かけた事なんて一度もないわ…ねぇ?未来」

 

「そ、そうね……私は、あんたの事信頼してるから…」

 

 一方で、詠とペアを組んだ未来はぎこちない表情で首を縦に頷く。昨日、嘗てのいじめっ子達から身を庇い、手を出す事なく論破した彼女は頼もしささえ感じた。

 誰にも迷惑をかけなかったし、同じペアを組んでいたからこそ、美怜も分かってて問いて来たのだろう。

 

「分かった。それじゃあ、二時間後にまた現地に集合だ!呉々も迷惑掛けず、目一杯楽しむぞ!!」

 

 焔のリーダーらしい掛け台詞に、全員とも首を縦に頷く。現地には待機場所としてスタンバイしている光山優も手を振っている。現地の場所を分かりやすくする為だそうだ。

 こうして見れば、何処か学生気分に戻ったような気分だが、旅行自体珍しいものなので、悪い気はしない。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ほぉ〜…此処が清水寺かぁ。わし初めて見たわ」

 

 清水寺を巡回しに来た日影と美怜は、崖の急斜面に張り出すように聳え立つ寺院に圧巻していた。

 元々京都の中でも知らない人間など存在しないと言われるほど有名な観光スポットで、参拝客が多く噂が後を絶たないと聞く。

 

「清水寺から眺める京都市街は絶景だそうよ。然も崖の上を支える柱では釘を一本も打ってないのだから、本当に魅力ある本堂だわ」

 

 感心そうに巨大な寺院を眺める美怜も、大変機嫌が良さそうだ。美怜もファッションやらスタイルやらに興味がないと言いつつ、景色やらには興味があるそうだ。

 いや、京都自体そもそもの歴史を漂わせる文化そのもの、それを接触すると言うのに大きな価値があるのだろう。彼女からしてこれまでにない経験や想い出になるのなら、幸いだ。

 

「でも不思議ね。日影の喋り方からして、京都なら行こうと思えば行けるのではなく?」

 

「そりゃわし、関西出身やけど…昔は孤児院育ちでそれどころやなかったしなぁ」

 

「孤児院…?日影、貴女孤児だったの?」

 

「わしが物心付いた時から、孤児で育ってたんや。皆んなから感情がない、蛇や虫みたいッてよく気味悪がられてたわ。感情はないけど、物凄い居ずらくなってな、飛び出た」

 

 日影は孤児院として育てられた過去がある。

 周りからは異端だ、特殊だ、病気だ、と批難し誰からも仲良く出来ず、独りだけの時間を過ぎて来た。

 毎日が退屈で、灰色のような、刺激もなくただただ嫌な思いばかりするつまらない日常。

 

「せやけどな、そんな時にわしを引き取ってくれた女がいたんや。日向ッて呼ぶんやけどな。その人がわしを引き取ってから、盗賊団に入ったんや」

 

「盗賊…?日向……何やら、興味深い話ね。凄く…そう、忍をする前は盗賊団の一人として生きてたのね」

 

「せやな。日向は軍人並に強かったそうやし、わしの戦いの半分は日向を真似たもんやさかい。それくらい、あん人は強かった」

 

「強かった…?抑も、その肝心の日向は、どうなったの?」

 

「死んだ」

 

 日影の容赦のないたった一言に、一瞬だけ美怜の目は大きく見開き丸くする。

 日向は強かった。

 日影は勿論、盗賊団の人員でさえも彼女を尊敬し、背中を預けるほどに、日陰者や荒くれ者達の理解者だった。その中でも日向は日影を嘗ての自分と重ね、初めての理解者であり、本当の家族のような温もりを感じていた。

 

「ある時、敵との抗争で亡くなってな。何でも相手がシマ荒らしで縄張りを広げてたみたいなんやわ。

 それだけじゃなく、子供から大人までバッチリ違法の薬物を売っててな。それにキレた日向がある程度の人員を集めて抗争したんやけど…全滅した」

 

 これだけ聴くと極道物の抗争みたいなものだが、日向達は元々薬や身売りなど許さない、仁義に外れた道理は許さない主義だった。全滅と言っても、完全に敗北した訳ではないし、日向達は全員強かった。

 相手も何人かは死に、最後に残った一人が運良く生き延びたとのこと。争いによって流された血は多く、一般市民による犠牲者は出なかったが、それでも日影達にとって失うものが多過ぎたのだ。

 

「だから、貴女は日影…なのね」

 

 忍とは本名や素性を隠す為の偽名。

 基本、飛鳥や鎌倉など時代名を取った物もあれば、風魔や柳生など歴史上に存在した人名などを使う忍も存在する中、春花や日影など完全にオリジナルな者も存在する。

 個々其々、忍名とはもう一人の己を現す名前であり、大きかれ小さかれ、確かに名前に価値が存在するのだ。

 

「まっ、相手がどんな奴から知らんし、捕まってるのか今も平然と生きてるのかは知らんけど…多くの仲間が涙を流してたわ。そんくらい、皆んなから親しまれて、尊敬できる人やった。それに比べて、わしは涙を流しても、たった一粒の涙しか流せんかったしな」

 

 感情がないから、悲しいという

 

「そうやって、わしは途方に明け暮れてから、半グレや不良達を締めて、鬱憤晴らしに地下闘技場まで足を運んで、結局わしは日向のような人間にはなれんかったけどな。だから、あの時みたいに道元に良いように利用されてたのかもしれんしなぁ…わしにも、感情があればもうちょっとは変わってたのかも知れへん」

 

 まぁ、今更どうこう言ったところでなんも変わらんけど…などと心の中で呟く日影は、嘗ての自分と今を重ね、美怜に愚痴を零す。

 

「ねぇ、日影」

 

「ん?なん――」

 

「そうやって、自分勝手を重ねるの?」

 

 ふと、美怜から受けた言葉に、日影はキョトンと小首を傾げる。

 

「私も感情表現が疎いから、よく周りから誤解されやすいし、未来ともよく争いの火種を生んでしまうから、多少なりとも貴女の理解者にはなれるけど…誰が貴女が日向のようになって欲しいと言ったのかしら」

 

「…誰も言っとらんな」

 

「でしょ?貴女がそうしたいのなら好きにすれば良い…だけど、貴女が日向になる必要性が何処にあるの?

 日影がどんな道を生きてきたか、私には理解に及ばない物だけど…だからこそ、日影なのでしょう?」

 

 日向と日影は相反する存在。

 義務ではなく信念を、そして信念であれば言い訳言葉を重ねない。だから、日影が変に考え込むのはよせと、美怜なりの遠回しの、気遣いの言葉なのだろう。

 

「利用されたのなら、反撃をすれば良いわ。舐められたコブラは、その毒牙を以って獲物を執拗に狙い定めれば良い。それに私は、無感情と言いながら人間味のある貴女が、とても魅力的に見えるわよ?

 感情を知らないのだって焦らなくて良い、ゆっくりと自分なりの未知なる存在を追求していきましょう、お互いに…♪」

 

 美怜は感情表現が疎いと言いながらも、何処か未知なる存在に胸を踊らせている姿は、まるで小さな幼女が欲しいものを待ち望んでいるような、微笑ましいものだった。

 

「…せやな、美怜さん良いこと言うなぁ。わし、思わず涙が出てしまったわ」

 

「日影、それは貴女が欠伸をしたからよ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 清水寺から眺めた景色は絶景で、京都市街を一望出来る高台は何度見ても景色に目を奪われてしまう。

 参拝者が後を絶えず、人気スポットとして有名なのも大いに頷ける。

 

「これでもし、カメラなんて機材があれば最高だッたんだけどね」

 

「意外やな、美怜さんの将来の夢はカメラマンか撮影とかか?」

 

「残念ながらそこまで固執して興味があるわけじゃないわ、ただお気に入りの絶景を形として留めたかっただけ。他に意図はないわ」

 

 満喫出来たのか、機嫌の良い美怜とその隣を歩む日影は清水寺を後に清水坂を下っていく。

 石畳の坂沿いはいつになく賑やかで、左右に商店街の店が開けば、人混みが多く、雑談の声が絶え間ない。

 

「……そう言えば、こういうお店ッて基本どんなのが売ってるのかしら」

 

「着物や日用品に、和菓子や茶葉とか売ってるんちゃうかな」

 

「…お菓子、ですッて?」

 

 此処で美怜がピクリと反応する。

 あっ、と口を開けたまま日影は自然と美怜の欲情スイッチを押してしまったらしい。

 お菓子に目がない美怜が、和菓子などと聞けばリビドーが働いてしまうのは当然の帰結。況してや、貧相な食事ばかりの紅蓮隊の日常はもやしや雑草ならぬ野草ばかり…お菓子も充分に豪華なものと言えるだろう。

 

「日影、早速調査にあたりましょう。気になる菓子類は全部、私が独占して頂くわ」

 

「美食會かいな」

 

 この世の菓子は全て私のだ、と言わんばかりの強情さ。目がないとはいえ、此処まで欲深いのは初めて目の当たりにする。

 とはいえ、お菓子自体日影も嫌いではない。好きと主張する程でもないが、食べて不味いとか甘いのが苦手という訳でもないので、普段空腹ばかりな日影も腹の足しになれば程度の気はあったので、詠さんのもやしみたいやな、と内心呟きながら渋々と美怜に着いて行くことにした。

 

 

 

 

「抹茶プリンに、此処にも八つ橋が……正に至福の瞬間ね」

 

「わしには至福の瞬間ってものがよう分からんわ、感情がないからのう」

 

「なんて勿体無い事かしら。感情がないというのも、それなりに不便なものね」

 

 商店街の店の中に入り、菓子類と言った美怜の好物を物色しながら目を輝かせる美怜を隣に、日影はマイペースな口振りでボケ〜ッと突っ立っている。

 八つ橋は京都名物でも美怜がかなり目を置いてる品だ、相当に気に入ったのだろうと窺える。

 

「おっ!そこのお嬢ちゃん良い目してるね!蜜柑味の八つ橋に抹茶プリン!序でにプリン味の八つ橋もどうだい?」

 

「あら、ご親切にどうも。それなら遠慮なくこれも試食序でに購入してみるわ」

 

 京都のスイーツ巡りに胸を踊らせる美怜が気に入ったのか、嬉しそうに声を弾ませる店員は笑顔で定番の大人気商品の包み紙を手にしながら商品を勧めてくる。

 顔がドラゴン系の爬虫類でありながら、黒と赤を連想させ、体躯も常人よりかは一回り大きく、ガタイの良い異形系の男性だった。美怜も一切の不快な表情を出す事なくご機嫌よく顔を縦に頷く。

 

「ん?あれ…お前さん…」

 

 ふと、商品を選ぶ美怜に暇そうにボケーッと眺めてた日影は、店員を見かけると眠たそうな表情を一変し声を掛ける。

 

「え?あっ…あれ?もしかして日影の姉御さん??えっ!?ありゃりゃ、珍しい!!こんな所で…」

 

 突然声を掛けられ目を丸くする店員は、声主の方向に振り向けば、驚嘆そうに反応を示した。彼の言葉から察して、日影と知り合いなのだろう。

 

「あ、やっぱり努羅茣や。久しいなぁ、地下闘技場の稼業から足洗ったんか?昔はそこそこ悪さしとったのに、今は京都の商店街で仕事するなんてやるやん」

 

「いやっはは……あの説はどうも!昔の姉御さんとは違って、大分表情が爽やかになったんじゃ…?」

 

 渡河牙努羅茣、個性『ドラゴン』を持つ異形系の個性。口から火を吐いたり、強靭な鱗は鎧と化し、爪や牙は獲物を簡単に八つ裂きにする、正にドラゴンと表すに相応しいものだ。

 旧知の仲の様に、再開を果たす二人の狭間で様子を伺う美怜は不思議そうに小首を傾げる。

 

「貴女達…知り合いなの?」

 

「ん?あ〜…さっき話してた通り、わしは昔そこらのゴロツキを締めてたんやけど。地下闘技場とかで知り合ったんや」

 

「日影の姉御さんのお連れさんですかい?こりゃまた小さなお子さんで!しっかし最近、滅法姿を見せなかったんで、何があったのかと思いましたが…いやはや、こうしてお元気そうな姿を見れて喜ばしい限りッスよ!」

 

 親しみ敬う努羅茣を見た限り、日影との関係性は大体に想像が付く。日影が忍学生になる前は、こうしてゴロツキを始めた不良や半グレ、地下闘技場の人間と闘い、己のスキルや技術を高め磨いてきた。そうして裏の人間…即ち、忍の視点から見て逸材と判断され、蛇女にスカウトされた訳だ。

 忍学校でも着々、顔出しやら死塾月閃女学館の夜桜と闘った経緯などもあり、案外顔がよく効く。

 然し最近…というよりも、蛇女が崩壊し抜忍となってから、毎日の忙しさに明け暮れ、バイトの面接やら仕事やら修行やらでそんな暇さえも無かったのだ。

 

「そいや今はあの地下闘技場はやってるんか?わしがいない間、結構変わってそうやけどな」

 

「地下闘技場は…燃やされちまいました。なんでも、ラッパーを追い求めた爆弾魔に燃やされちまった様で……」

 

「あー…ボマーのことか。んで、その肝心のラッパーちゅう男は?アイツ、結構強いやん。他のバトルクラブにでも移ったんか?」

 

「いや、それがですね!俺もその場に居たんですけど…死穢八斎會ッていう極道の若頭がスカウトしに来たんですよ。治崎だったかな…そうそう、若手で相当な実力があったんですけど、ソイツに負けて恐らく極道の人間になったかと…」

 

「八斎會…聞いたことないなぁ、東堂組は聞いたことあるんやけど」

 

「そりゃ弱小ヤクザなんて小さな組で小馬鹿にされがちですからねェ……けど、あの一瞬の勝負の出来事は正直言って、弱小なんて規模じゃありませんよ…。下手すれば日影の姉御も…」

 

「そかそか、一応情報あんがとさん。まっ…あんさんがこうしてまともに職にありつけて働いてるだけ重畳やんけ」

 

「えっへへ、俺も日影さんに目ぇ覚められたもんで。あっ!日影の姉御さんも何か欲しいものがおありで?」

 

「いんや、わしは特に。美怜さんの買い物に付き合ってるだけや」

 

「ええ、清水寺の晴れ舞台を拝めた後に商店街に寄って来たの。良い経験だったわ」

 

「彼処は景色を一望出来ますからねぇ!お嬢ちゃんが気に入って貰えて良かったッスよ!」

 

 美怜のご機嫌良さそうな声色に、店員も嬉しそうに笑いながら頭を掻く。と、此処でふと日影は美怜にある事を思った。

 

「そいや美怜さん、努羅茣に対してはやたらと普通なんやな」

 

 光山優に対しては、何かしら信用しず怪しんでいたり、明から様に不穏な態度を取っていた。例えるなら、蛇女に転校してきた雲雀に対して受け入れはするが何処かしら不審に思っていた焔達の態度の、あの様な感じに似ている。

 当初の日影は「一度裏切ったもんがもう一度裏切らないとは限らんもんな」と至極真っ当なことを言い、その時は別にその時と、臨機応変な対応をすれば問題ないという路線で行ってたので、特に気にする様子も無かったが…

 

「別に、疑う必要性がないもの」

 

 それはそうなのだが、何処か対応の差に違和感を感じてしまうのは日影でなくとも気のせいではないだろう。

 然し、何故美怜はそこまでして疑うのだろうか?

 

「あ!そうそう、京都といや昨日は結構騒動が起きてたみたいで…!何やら正体不明の敵か忍やらが街中を暴れてたみたいなんで、日影の姉御さんやお嬢ちゃんも呉々もお気を付けて…!!まあ、日影の姉御くらいなら、不覚は取らないでしょうが……」

 

「あー、その件な。ウチも耳には入れてるから、大丈夫や。ご忠告あんがとさん。あんさんも気ィ付けな」

 

「そうね。昨日に続き今日も、なんて可能性はゼロではないわ」

 

「街中の警備は結構強めてるらしいんで、余程の阿呆がいない限りは大丈夫だと願いたいですが…このご時世、オールマイトが居なくなって大変ですもんねぇ。

 ヒーローに頼るのも良いですが、やっぱこう自分の身は自分で守るのが最善というか…あ、もし何かあったら連絡下さい!」

 

 そう言って懐から名刺を取り出し日影に渡す。

 社交辞令みたいなもので少し新鮮な気もするが、努羅茣は京都に引っ越してから随分と時が経つ。

 なので不明な点があれば遠慮なく相談しろという意味なのだろう、ならば昔の腐れ縁という事でと、日影は軽く礼を言いながら名刺を受け取り、商店街で一通り買い物を終え後にする。

 

「結構気の利く良い人じゃない」

 

 人を見る目がある美怜がハッキリと疑いなく口に出すのだから、本当に昔と比べて足を洗い、お天道様に顔向け出来てるのだろう。

 昔はかなり気が荒く、賞金稼ぎとして地下闘技場でもそこそこ名の知れた悪名を背負ってたので、こうして改めて久しい再開を果たした後、知人が善良になってるのを見ると、何かしら満更でもなくなる。

 

「根は悪くないんやと思うよ。だからああして、生きていく道を歩んでいけば、ちゃんと更生できるもんなんや」

 

「ふぅん……そう。私はあの人の事、詳しく知らないけど、将来良い人になりそうね。

 まあ、良い人という判定が何処から何処までかは分からないから、率直な感想でしかないけど」

 

「せやなぁ…お?アレは…?」

 

 坂道を下り歩いていると、赤ん坊らしき幼女を連れ歩きながら、辺りを見渡すオレンジ色のフードを被った女性が目立つ様に遠くから見えた。

 何やら誰かから警戒してる様子だ。

 

「何かしらあの子達…挙動不審に見えるけれど」

 

「あれ、何処かで見たことあるなぁ…」

 

 誰やったっけ、と小首を傾げながら日影と美怜はそのまま坂道を下り、商店街を後にする。

 何処かで会った様な面識もなくはないが、生憎日影はどうでも良い事や昔のことはよく覚えていない。なので、細かいことまでは覚えていないのだが、見たことのある顔立ちなのは間違いないだろう。

 

「あれがひょっとしてかぐらと奈楽とかだったりしてね」

 

「う〜ん、どうなんやろ。わしら昨夜は聞いてもどんな見た目かは分からんもんなぁ。かと言って人違いだったら迷惑やろうし」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「奈楽ちゃん?大丈夫?結構、疲れてるみたいだけど…」

 

 一方で、商店街の騒めきと共に美怜と日影が去ってから、心配そうに顔を覗き込む幼女、かぐらは心配そうに奈楽に声を掛ける。

 

「はい、自分は何も異常はありません。そんな事よりかぐら様はどうか安静に……忍商会の者達がこの近くにいる可能性があります。呉々も自分から離れない様に…」

 

「しのびしょーかいって、なに?」

 

 こてん、と可愛らしく首を傾げながら尋ねるかぐらに、奈楽は丁寧に説明する。

 

「忍商会とは、元々忍性戒という抜忍慈善生活サポートとして裏で暗躍をし、鏖魔が仕切っている闇組織です。

 時代と共に変わり、今となっては忍社会を裏で破壊、革命を引き起こす為に密かに違法取引などをしており……」

 

「さぽーと…?いほーとりひきー?う〜ん、難しいことはよくわかんないや!」

 

「すみません…自分の説明不足で……ではまず簡潔に言えば…」

 

「おーーい!奈楽ちゃあーん!何処にいるのーー!?」

 

 大声で詮索しに来た学生が、此方に来る。

 チッ、と間が悪い時に差し込む部外者に舌打ちしながらも、奈楽は周りの目線を気に声主とは反対方向にかぐらを担ぎ、遠く離れるように撤退する。

 

「ちょっと奈楽ちゃん!?どうしたのー?!」

 

「申し訳ありませんかぐら様。どうかご無礼の程、お許しを……かぐら様を捕まえる愚かな忍連中が、どうやら嗅ぎ回ってるご様子…。暫し遠く離れましょう」

 

 お姫様抱っこをしながら、遠くかけ離れるように去っていく奈楽。聞いたことのある声は恐らく飛鳥、と呼ばれる忍学生であるだろう。

 此方を詮索し出したとなれば、もう上層部から捕獲の命令が下されてるだろう…そうだ、かぐらが復活し、外を出れば自然とかぐらを付け狙うのは、どの世代でもそうだったと言い伝えられてる。

 だからこそ、全ての人間からかぐらを守る為に、奈楽は他人を信用せず、誰にも必要とされず、距離を置き、孤独ながらも闘う。

 

「かぐら様…必ず、守ってみせますから……」

 

 深く、かぐらを抱きしめながら、小さな声で奈楽はそう呟いた。

 

 

 

 




因みに日向の全身図イラストは把握しております。思ったよりお姉さんだった。

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