光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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220話「まったりと温泉で」

 

 

 

 

京都の温泉旅館は内装こそ和を主張とした風装が整っており、複数人でも寝れる部屋のペースが空いていた。

大きな液晶テレビに、ちゃぶ台テーブル、生け花が整えられており、疲れた旅人を少しでも癒すが為に作られた空間は、心身ともに疲れが溶けていくような気分だ。

 

「取り敢えずあんさん方六人はこの部屋で…あっしは向こうの564号室なんで、また何かあればいつでも連絡下せえ」

 

ガイド人の光山優はそう言うと、頭を深々と下げて自分の部屋に戻って行った。

当初は喋り方の癖が強いだけのおじさんかと思っていたが、思った以上に優しい人で、此方としても距離感なく接しやすいのが印象的だ。

 

「はぁー、なんか京都に着いただけでも一日過ぎるのがあっという間ねぇ」

 

「荷物は此処に置いといて…この後の予定はどんな風なの?」

 

未来は羽根を伸ばすように背筋をピンとあげ、美怜は荷物の整理をしながら焔に今後のスケジュールを確認する。

外の世界は勿論のこと、旅行自体に何の経験もない美怜からしては基本的にどのように動けば良いか分からないのは致し方のないこと。と言っても、美怜に限らず全員とも筆頭の彼女に任せてるので、美怜の質問は全員の問いかけを代弁してくれたものでもある。

 

「一先ず今は自由時間だ。その後は夕食時間で、食事を済ませたら温泉に入るってのが、今のスケジュールだな。

此処の旅館はそこそこ接客やサービスも良いし、申し分ないだろう」

 

「ほな、わしらが蛇女に居た頃の温泉旅行思い出すなぁ」

 

日影はふと蛇女に在籍していた頃を思い出す。

蛇女でも毎年何かしらの合宿イベントがあり、今年は選抜メンバー全員で温泉旅行に行ったのだ。

選抜補欠メンバーは焔達とは違った合宿先になっており、日影と一緒の旅行先でなかったことに芭蕉が残念がってたのも覚えている。

 

「蛇女…私も一度で良いから学校を拝見したり、体験入学でもしてみたいわね」

 

「あっはは、でも訓練嫌いな美怜じゃ退学になっちゃうんじゃない?」

 

「効率の良い訓練なら、別にやれるわよ」

 

意外にも、訓練が出来ると彼女の口から放たれた事には多少驚いたものの、美怜自身が闘える姿が付きにくい。

焔紅蓮隊に入ってから一度も訓練はおろか、武器を持って戦う姿も見てない為、果たしてこの先戦場で生き残れるか不安要素が高い。

 

「そう言えば、未来と美怜…少し仲が良くなったんじゃないか?」

 

「ふぇっ!?そ、そうかな?」

 

「あら、私は誰とでも仲が良いわよ?」

 

「だからその自信は何処から…って、美怜の場合は本気でそう思ってるから、否定できないのよね」

 

最近は未来としても、美怜を受け入れつつありながら、彼女の思考が理解できるようになってきた。

日影のように「感情がない」とは違い、配慮の欠損もあれば自分がそう思ってる答えに対して、謙遜などない。

いや、鈴音先生が言う「情けと容赦」に辞書がないと断言するように、彼女には謙遜なんてものは存在しないのだろう。

それこそ謙遜など、彼女からして何の得にもならないのだから。そして本気で偽りなく、自分と仲良しだと言い張る美怜に「そんなわけない」と否定する気にもなれやしない。

それが照れ臭くあろうと、美怜を見てるとそれすらもバカらしく見えてくるから。そう言った点では、美怜といると調子が狂う反面、素直になれる良い機会でもある。

 

「でも確かに、美怜ちゃんと未来ちゃん前よりから仲良しに見えますわ。何だかもう一人妹が出来たみたいで、見てる私も微笑ましく感じますわ♪」

 

「よ、詠お姉ちゃんも…あんまりそう言うと恥ずかしいから〜…!」

 

「そう言えば未来は詠のことを姉と呼ぶけれど血縁者なの?姉妹にしては似てるようには見えないけど…」

 

「いいえ?ですがその…お恥ずかしい話、蛇女に在籍していた頃に一年生として新しく入った未来ちゃんに、お姉ちゃんと呼んでほしいってお願いから始まったんです。私、貧民街暮らしで一人っ子だったので…妹が欲しくて…未来ちゃんはほら、可愛いい妹さんみたいで、側にいるだけで心が安らぐ気がして…」

 

「ふぅん…そう。でも、詠の気持ちは分からないでもないわ。ベルゼ兄さんと私も、そんな感じだから。

私が姉というのも些かイメージや実感が湧かないし、兄さんからもよく妹として大切に接してくれたから、私が妹のように見えるのはそう言った影響もあるのかもしれないわね」

 

どうやら妹として見られてることに不服はないそうで、少し嬉しそうに見えるのは気のせいではないだろう。

 

「こほん、夕食まで時間はあるし…お前達、何かしたいこととかあるか?折角だからこれらで遊ばないか?」

 

押入れにあったのか、焔が引っ張ってきたのは誰でも遊戯ができるトランプやらオセロ、将棋などがあった。

トランプなどは誰でも遊べる初心者向けだし、オセロは頭脳を強いた中級、将棋に至っては上級と、利用者を退屈させないための娯楽も用意してある。

 

「意外ね、貴女のことだからてっきり貴重な自由時間は訓練に当てようとか言い出すかと思ってたわ」

 

「ふふ、甘いな美怜。私は楽しむ時は楽しみ、訓練する時は訓練する!何事もメリハリは大事だからな!これでも蛇女に居た頃は幹事を務めてもいた」

 

「じゃあ新幹線の件に関してはどう説明するの?」

 

「いやほら…アレは時間を有効活用しようとだな…」

 

見苦しい言い訳に興味を示すはずもなく、美怜は面白そうにオセロやらトランプ、将棋などを物色する。

美怜は要領が良いので、ある程度説明を覚えればやれることが出来るというのが強みだ。

 

「トランプ…花札とはまた違ったものね。この白黒ゲームや駒を使ったテーブルゲーム…やり方はどうやるの?」

 

「それなら私が教えるわ」

 

娯楽に興味の火が付いた美怜に、優しく丁寧に教える春花。そうこうしない時間の中、美怜は一度きりの説明を受けて全て覚えたと言うハイスペックな学習能力により、手間かかる事なくあっという間にゲームの内容や流れを覚えたのであった。

 

「じゃあ私からね!ふふん、美怜勝負よ!」

 

「ええ、どうぞ。受けて立つわ」

 

未来は早速美怜に勝負を挑んだ。

美怜のことは見くびってはいないというとそうでもないのだが、覚えたて早々な彼女が、果たして熟知してる者と対戦すれば、勝機はまだ確実に未来の方が上だ。

対する彼女は何もかもが初めての未経験者故に、こうしてルールを覚えたばかりにしろ、相手が子供らしい未来にしろ、馬鹿に出来る相手ではない。

そもそも未来からして勝負を吹っかけたのも、小さな話ではあるが美怜に見返したり、勝負に勝ちたいという想いがあるのは確実だ。

対するゲームはオセロ、トランプのババ抜きでは苦手な上に勝負でもほぼ確実に負けてしまう恐れがある為、観察眼に長けてる美怜では勝機が薄い。かと言って将棋の場合は元から苦手とする為後回しに…実は美怜からして初めてではあるものの、将棋といった戦略的な部分はかなり得意そうなのでやめにしたというのが一番の理由だが、未来の勘もまぐれではない。

その結果、オセロでなら五分五分だと判断した未来は、勝負に身を投げたのだが…

 

 

「……」

 

「ねえ、いつまで待たせるつもり?未来…貴女の出番なんだから、さっさと決めて頂戴」

 

予想はどんでん返し。

今オセロの殆どが白になっている。真っ白けとも言えるほどに、黒が置ける場所は殆どなく、美怜は暇そうに眉をひそめる。

未来も知略的な部分があり、オセロに対しては詠やら良い勝負になれたほど得意ではあったのだが、この女、予想外な展開を引き続ける。とても初心者とは思えないほどに。

因みに白は美怜、黒は未来だ。

 

「ひょっとして未来、貴女実はオセロのルール知らないの?」

 

「はぁ!?あんまり調子こくとぶっ飛ばすわよ!?それに、今考えてるんだから急かさないで!…んっと、あ…じゃあここよ!」

 

バチンと、決まったように黒を配置し白から黒へと塗りつぶす。

 

「どーよ!これで形勢逆転よ!」

 

「じゃあ私は此処に白を置いてっと…」

 

だがそれも束の間の喜びというやつか、美怜は読めたかのように決まった場所に白を置き、未来が頑張って黒に変えた円盤が、一瞬にして逆戻り。

ポカンと未来の口が開いたまま塞がらない。

 

「そして未来の置ける石はないから…再び私のターンね。じゃあ此処に置いて…はい、全部真っ白け。

完全勝利と言ったところかしら、黒一つもないし、これで未来の負けね」

 

「嘘だああああぁあぁぁぁぁああぁぁーーーーーーっっっ!!!」

 

嘆く未来に美怜はすんなりと勝負を終えると、円盤を片付けていく。基盤上が白になった今、美怜は未来に語りだす。

 

「ところで未来、貴女オセロは苦手な方なの?自分の苦手なゲームを他人にするのは考え難いけど…」

 

「うっさいわね!!これでも結構自信あった方なのよ!!」

 

「流石美怜ちゃんね、未来もそこそこ良い線は言ってたけど…」

 

「良い線?寧ろ未来の場合は単純過ぎだけど」

 

「どういうことよ…?」

 

「オセロは単に頭を使って円盤の色数を競い合うだけじゃないの。相手の思考や動きを読むことも大事。貴女にはそれが無かった、それだけでこの差ということ。

例えば…黒が置ける配置がAとB、C、Dがあったとするわよね?そこに有利な配置がBだと判断した場合、貴女はここに配置されたら相手がこうすると言う考えが無かったのよ。私はちゃんと読めてたから、貴女がこうしたら私が此処に置けるようにと考えてたわ。

逆に残ったA、C、Dがあったとして其処に置くことで相手がどの対応をするのか…其処を模索してから始まらないと相手の思い通りにしてやられるわよ。

オセロや将棋もそうだけど、当たり前の様に決まった手腕があるのなら、そもそもの話ゲームにすらならないもの。

角を取られない、斜めから攻めるという手法は嫌いではないけれど、単純すぎるわね」

 

ぐぅの音も出なかった。

と言うか、本当に初心者なのかと思わせるくらいの初心者殺しだった。

ババ抜きではポーカーフェイスが出来なので、それが仇となって敗北続きは花札勝負でもよくあったが、まさかこんな基盤上での争いでも相手の心理を探れるとなると、ひょっとしたら美怜は大物なのかもしれない。

 

「で、でもそんなに考えてたら日が暮れるよ…?」

 

「そこは経験と慣れね。でもさっきの場合、AとDは確実に角を狙われるし、どう足掻いても相手の思うツボになるから消去法的に考えてこの2組は論外。

残るCで如何にどう戦略突破をすれば良いかになるわけ。まぁ、Bから上手く攻め込めば逆転出来なくはないけど…先読みを怠った貴女が負けるのは必然ね」

 

美怜は頭の回転が早い上に、考察と観察眼に長けてる彼女が頭脳を使えばこれほど発揮できるのだろう。

もしこれが戦闘面で役立てば、猛将の焔とは違って頭脳や策略で相手の戦意を崩すいわばブレーン的な役割を担える知将として化けるだろう。

 

「流石やな、儂は何言っとるかようわからん」

 

「それほど頭良いなら、寧ろ戦闘でも役に立つんじゃない」

 

「一応、春花の言う通りそのつもりでいるけれど…策略で相手の戦力を削るという発想は割と好きね。

特にハンニバルの戦記は読んでて大好きよ。意外な戦法、相手の思惑や思考を見抜いた戦略的な策略は、見てて飽きないもの」

 

「確か相手の敵人数が7万の兵に対して、5500兵で軍を打ち破ったとも有名な話ね。

美怜ちゃんらしいと言えば美怜ちゃんらしいけど」

 

「美怜!今度こそ勝負よ!!絶対に負けないんだから!!」

 

「良いわ、どうせ私が勝つのでしょうけど」

 

悔し混じりに突っかかる未来を軽くあしらうように不敵に微笑する美怜、やはり喧嘩するほど仲が良いというのか、はたまたいつもの見慣れてる光景なのか。

 

 

などと言いかれこれ三戦も続けたものの、結果としては美怜が全勝無敗という形に収まった。

それだけならまだしも、最後の方では美怜から「ハンデを付けてあげる」と言い、皮肉にも未来が勝たせれるように美怜の角を四つ、未来の黒で配置して勝負するも敗北。

此処までくると美怜は無敵なのではないかと思う。

 

「なんで勝てないのよ!!」

 

「だから単純すぎるのよ。言われてから直ぐに上達するとは思ってもいなかったけど、ハンデを付けても私に勝てないのは明らかに未来が弱い証拠に他ならないわね」

 

「ぐはっ!?」

 

トドメを刺されたと言わんばかりに、未来は吐血する。

美怜からすれば無自覚かつ真実を吐いたまだなのだが、真実とは残酷ともいう。

美怜の刃の言霊が、未来の心臓を抉った。

 

「未来ちゃん!?」

 

「美怜さん大人気ないなぁ…と思ったけどどうなんやろ」

 

「勝負という項目において態と負けるのは相手に対して失礼でしょう?」

 

こういう時だけ失礼だと思えるのか、と内心焔達は愚痴をこぼす。

美怜と過ごして大体分かってきた事が、彼女は真実なら容赦なく相手に吐き捨てるという事である。

真実は時に人を傷つける残酷なもの…と一部の人間は異を唱えるが、美怜からしては真実を言わない事が無礼だと認識してるのだろう。それでも美怜も傷付けたいという意図的な思惑は感じ取れないので、其処は了承している。

 

「あの〜すいやせん。お忙しいところ申し訳ないですが…そろそろ夕食の時間になっておりやして…」

 

ふと襖から礼儀正しくお辞儀をするように、丁寧に頭を下げる光山に一同は「あぁ」と、壁掛けの時計に目を配る。気づけばもう既に夕方を終えて7時にまで回っていた。

 

「おっ、もうそんな時間か。よしお前達!遠慮なくご馳走にありつくぞ!今日は久方振りの肉や魚が遠慮なく食える!」

 

「も、もやし料理はあるのでしょうか!?」

 

「京都での名物料理といえばにしんそばや鍋料理に天ぷら丼もあるとガイドブックとかでは見たわ。もやし料理に関しては何も記されてないわね」

 

「やはりもやしは貧相だからですか!?庶民の味方であり、お財布にも優しいもやしが何故…」

 

「詠、世界遺産な訳でもないのだからないものを出せと言われても困るのは店側の方よ。というよりも、もやしがなくても生きて行けるんだし悲観的にならなくても大丈夫。

ところで、食後のデザートには甘いお菓子はあるのかしら」

 

どうやら何方も何方で食い意地が凄い。

二人とも嫌いなものがある訳ではない(美怜に関しては不明)のだが、単純に好きなものに対する食材への愛情が異常な程に強いものがあるだけである。

 

「詠さん別に京都に来た時くらいはええやん」

 

「というか、日影は好きなものはないの?貴女の場合、趣味や好みを聞いたことがないんだけど」

 

「儂は別に好きなものなんてなんもないし、趣味も特になぁ…」

 

「ふぅん、日影の事はあんまり知らないと思ってたけど、知らないというよりも謎が多すぎる感じかしら。それにしても、好きなものも趣味もない日影は無個性に近い方なの?」

 

美怜は余り日影と関わったことがない。

と言うよりも日影の場合感情がないからか、美怜からして会話を交えたとしても長く続いたり短くなったりと変わることも多く、彼女自身が殆ど何も無いため、研究するにしても限りがあるのだろう。

流石に好きなものも趣味もないとなれば、もう何も追言することはないのだが。

 

「そう、なら嫌いなものは?食べれないものとかもないの?」

 

「嫌いなものもないなぁ、食べれんものもないし、食っていければ問題ないよ」

 

「成る程ね、そう」

 

会話終了。

端から見れば「そうなるよね」というような組み合わせ。然し美怜からしては単純に研究を終えた気でいたのだろう、収穫はあったらしい顔ぶりが僅かながらに見受けられる。

 

「すまんね、儂は感情がないから美怜さんの面白そうな事も話せなくて」

 

「ん?別に、面白くないとは一言も言ってないわ。日影は日影で面白いし、寧ろ貴女のように感情表現や心理に疎い人種は珍しいから」

 

「そうなん?いや、言われてみればそうやね」

 

流石に日影のような人が何十人何百人もいると考えると、批難してる訳ではないが恐怖には感じる。

日影のような変わった人間が側にいる事自体が美怜からしても面白いのであれば、退屈しないという意味で役立ってはいるのだろう。

因みに春花は未来で実験して作成した薬品を、日影にも飲ませて反応を見ようとしたことが過去に何度もあった。傍迷惑な話である。

 

「それに日影の事は分からなくもないから…」

 

と、小声で微笑を浮かべる。

美怜は毒舌口調もあって誤解されがちだが、彼女は日影と同じく心理的な面で疎い部分もあれば、感情表現が苦手というのも共通しているからである。

美怜の場合は日影と比べ感情はあるにしろ、配慮的な思考や心理的描写が疎い辺りではウマが合うのでは無いだろうか。

相手の気持ちが分からないから、美怜の発言は棘にもなれば人を容易く傷つける。

日影も同じで、相手の気持ちが分からないから、忌夢に対してボクサーパンツだの揚げ物事件だのが起きて、因縁を付けられるのだ。

 

「ベルゼ兄さんも、もし笑顔という感情があれば私も何かしら変わってたのかしらね」

 

兄は心はあっても感情が無かった。

喋り方で察せれるが、無機質で機械的のように淡々としているベルゼは、孤独ながらも妖魔の巣窟で誰も感情を示唆してくれるものは誰一人いなかった。そんな状況下で美怜が育っていく過程を考えれば、感情表現が乏しいのも頷ける。

環境下によって人間の心理が大きく現れるのは、今も昔も変わらないのだろう。

過去にベルゼは美怜に何かを伝える時も、あんまり日本語を話すことが難しかった兄はジェスチャーやら何やらで美怜に訴えていたので、元々の知能指数は低かったのもあり仕方ないだろう。

 

「そいや眼鏡のお嬢ちゃんは、兄さんがいらっしゃるんですか?」

 

「それを赤の他人である貴方が聞いてどうするの?」

 

「あぁいや!すいやせん、家事情に首突っ込んじまいまして……機嫌を悪くされたのならあっしからも礼を…」

 

「ちょっと美怜ちゃん、光山さんに対して失礼すぎない?」

 

流石の春花だけでなく、詠や未来も薄々と勘付き始めてきたのだろう…美怜は明らかに光山に対する態度が違う。

彼女自身、親密な人間以外に対して素っ気ないのなら致し方ないのだろうが、鈴音との対話でも全く冷たくあしらってはいなかったので、何か思い当たることがあるのではないかと探ってはいるものの、相変わらず彼女の考えが分からない。

 

「別に、ただ単に兄のことはあんまり話したくないだけ」

 

それを聞いて一同は納得する。

自分たちがやった事とはいえ、流石に死去した兄に対して他人に何かを話したくはないのだろう。

そう考えると今の対応は致し方ないだろうし、光山も悪気はないのだから、双方とも結果としては何も悪くない。

だが、焔としては其れでも異様に何も話さない事に違和感を感じた。

美怜は焔にあの夜、妖魔と忍について打ち明かしてたこともあったので、彼女が何も理由なく冷たい対応をしてるとは考え難い。

恐らく、何か考え事でもしてるのだろうか、表情的には嫌悪感などもなく無表情だ。

春花に対して厳しい口調で話したのも、恐らく考察してる最中に邪魔されたことを意味表してるのだと、焔は長年の勘で悟る。

他人を信用できないという項目に置いては、焔も美怜も大きく共通してるのだから。

 

「ささっ、着きましたよ。此処が飯処です。

あっしはこれにて失礼させて頂きやす…どうぞ、お気楽になさって下さいやせ」

 

長い廊下を歩き終えてから5分後、漸く部屋から香ばしい匂いが鼻孔につんざく。

それと同時にただならぬ空腹を感じては、詠に至っては腹の虫が鳴った。

 

「おっし!念願のご馳走だ!お前達、遠慮なく食べろよ!!」

 

「やったー!わっ、マグロの姿焼きまるであるじゃない!!」

 

「わ、私もう空腹で気絶しそうでしたので……」

 

皆が待ちに待ったと言わんばかりに歓喜の声を上げていく。部屋を見れば、和食を始めた肉野菜の大盛りや、マグロ頭の照り焼き、刺身に大鍋、豪華なご馳走が長いテーブルに置かれている。

只でさえ野草生活で苦渋な貧乏生活を送ってた焔紅蓮隊からしてみれば、これはこれで有難いものだ。

美怜が来てからある程度食生活もマシにはなったが、それでもアジトを転々とする事もあれば、環境下においては中々食料も取れない可能性もあるのでこうしてマトモな食事に当てられるのが素直に嬉しくて仕方ないのだ。

というよりも、ちゃんとした料理にありつけるのはいつ以来だろうか?蛇女の寮ではかなり裕福な食生活を送れたので、離れてから半年間の殆どが野草生活と考えると、人間追い込まれれば何でもありなんだなと改めて実感する。

 

「ねえ光山、貴方は食事に参加しないの?」

 

此処で珍しく、美怜が小首を傾げて光山に疑問を投げかける。

 

「あぁ、基本ガイド人は別居として食事に当たるんですよ。まぁそれに、旅行人の思い出作りに他人が介入するのはご法度と言いやすか…てか、お嬢ちゃんはあっしのこと怒ってないですかね…?」

 

「怒る…?何を?」

 

「いやさっき、兄さんの話を振って…というよりも前々から当たりが酷かったのもありやすが…」

 

「嗚呼、別に怒ってないわよ。それと当たりが酷かったというのも、やっぱり周りからそういう風に見られてるのね…善処するわ」

 

まぁ、その内わかるわよと心の中で呟きながら、微笑を浮かべる。美怜からしては珍しく素直な回答で、光山も内心ホッとしている。

何かしら怪しまれてる美怜の疑念も、単なる勘違いで良かったのも含め、彼女との距離感も縮まって良かったと吐露してるのだろう。

 

「美怜も反省することってあるんだ」

 

「自分でも気付かない事なんてよくあることよ」

 

未来が茶化す様に突っかかるも、美怜は平然としている。もうこのやり取りも慣れてるようで、未来もそれ以上口に出さないでいた。

 

「み、皆様!もし食べきれないのでしたら、遠慮なく残してもいいのですよ…?」

 

そう言いながら詠は荷物から透明な弁当用のプラスチック製パッケージをテーブルの上にポンと出す。

どうやら詠は余った食材を保存して後々に食べるつもりでいるらしい。長く京都に滞在する訳ではないものの、貧乏性による為か、残った料理を破棄する位なら、せめて自分たちの胃袋に収めようと言わんばかりに用意したらしい。

 

「安心なさい詠、私が全部平らげるから」

 

と言いながら、目の前に置かれてるご馳走に目を輝かす美怜は無表情と冷静な顔立ちを整えているが、内心は未知なる料理を貪りたい欲求で満たされている。

小柄で細い見た目ではあるが、美怜はかなり食欲旺盛であり、残してる絵面は見たことがない。

 

 

 

軽く挨拶を終えると食事は嵐の様に騒がしく、それでもって残すことなくガッつき見事に平らげた。

黒毛和牛を贅沢に使った肉料理にありつく焔は、高級な肉を口にして大歓喜な声を上げれば、詠は豪華な料理に口を運べば「美味すぎて失神しましたわ」などと言いテーブルに顔を突っ込むような奇行もあり、一同は笑いながら食事を満喫していた。

日影は無表情ながらも中々お目にかかれない料理に黙々と口に入れ、未来はマトモな料理を口いっぱいに頬張っては号泣し、美怜は見たことも食したこともない料理に興味を引かれつつ味を堪能し頬張っている。

唯一、一般常識のようにマトモなのが春花くらいだろう。大人のような振る舞いに、取り乱す事もなく幸せそうな笑みで特上の刺身を箸で摘み、醤油に漬けて食べていた。

 

結局、あれだけ多かった料理は余す事なく見事完食し、詠が備えていた弁当用のタッパーに食材が入ることはなかった。

とは言っても、食中毒でも起こされたらたまったものではないし、これはこれで良かったのかもしれないという、何とも複雑な気分でもあったが、皆満足そうにしている。

 

『ご馳走さま!』

 

一同、食事の挨拶を終えると軽く談笑し合いながら満腹感と共に余韻に浸っていた。

腹が満たされれば残るはお風呂だろう。

まだ光山からの連絡もない以上、此処にいるべきなのだろうが…

 

「そう言えば、トイレって何処にあるのかしら」

 

「あ、私もお手洗いに行きたいですわ」

 

尿意でも来たのだろうか、美怜がふと呟く。

それに乗じて偶然にも詠も美怜と同じく声を上げる。どうやら二人ともトイレに行きたい様子だ。

まあお手洗い位なら特に問題ないだろう、焔は軽く説明し終えると詠と美怜はすぐ様廊下に出て便所に向かった。

 

 

 

 

「はぁ〜…それにしても凄かったですわね…私、生まれて初めてマグロの頭、食べてみましたわ…」

 

「私は全てが生まれて初めて食べたものばかりだったけどね。あの鍋という調理法は良いわね、昔ながらの料理作法が現代でも生かされてるというのは好印象……伊勢海老というの?あれも中々、かなりいけるわ」

 

詠も美怜もかなり食欲旺盛であり、二人とも兎に角鱈腹食べた。この容姿端麗な二人の胃袋はどうなってるのか、どうしてアレだけ食べてもお腹がぽっこり膨らまないのか、食べても太らないスタイルのなのだろう。

全女子が羨ましがる肉体構造である。

 

「あ、そういえば光山さんは何処にいるのでしょうかね…?別室で料理を食べてるみたいですけど…」

 

「あんなの嘘に決まってるでしょ」

 

「えっ…?」

 

美怜のバッサリと切り捨てる言葉に、詠は言葉を詰まらせる。

 

「知ってる?この旅館、相当人が満員で空いてる部屋なんて何処にもないのよ。それに私みたけど、アイツの手荷物から菓子類の携帯食料を見つけたわ。チラ見だけどね、アイツが一人で食べていたらとっくに私達の食事処に顔を出してるはず…それをしてないのがその証拠」

 

「え、美怜さん…?いきなり何を…」

 

「でもこの時間になっても来ない上に視線を感じない以上は、今は不在と言ったところかしら…凡そ、何かしらの要件でもあるのでしょうけど」

 

話が突拍子すぎる美怜に、詠は話の展開が分からずにいた。

 

「そう言えば詠は光山と会ったことはある?」

 

「いえ、会ったことはありませんけど…美怜ちゃん、さっきからなんの話をしてるのですか?」

 

「そう…有難う。お陰である程度、立証できる内容が整えたわ。

ん?何の話かって?まだ具体的には言えないけど…そうね、あの案内人の光山について考察してたところ、と言えば納得いくかしら」

 

「い、いつから怪しんでたのですか…?」

 

「最初っから」

 

「えぇっ!?そ、それは流石に尚早過ぎませんか…?!」

 

出逢って早々に怪しんでるのでは、益々期待が下がる一方でもある。何だか美怜の勘違いではないのだろうかと思う反面、妙に説得力がある。

美怜は決して騙し討ちをする事が出来ないと言わんばかりに隙がない。

そう言えば旅館の女将さんも「満員で忙しい」と言っていた。まぁ…一人部屋一個分は空くように予約を入れてるのもあるだろうから、自室にいる可能性も捨てきれない訳ではない。

唯美怜が言ってたように、まだ確証性のない証拠と情報が集まってない中、下手に動きを出して仕舞えば向こうも隙やら見せるわけには行かなくなる。

美怜はそれを考えた上で泳がせてるのにすぎない。

 

「それを立証する為の情報はちゃんと集めて整理してるからその辺は大丈夫よ…そういえば、隣の部屋騒がしいわね。

学生達が京都行きの電車にも乗ってたけれど…」

 

「修学旅行でしょうか?」

 

隣の部屋からは聞き慣れた声が飛び交うようにして廊下から漏れるように聞こえてくる。

この聞き慣れた声色は電車で聴いたのと一緒だった。

 

「太巻きよりやっぱ細巻の方が良いですよね〜」

 

「ん…ん…っ」

 

「あんなことがあった後にご馳走が出るっていうのも少し調子狂っちゃいますけどぉ…菖蒲はこの鍋にうどんとかきしめん入れて食べてみたいと思うんですよぉ〜!!」

 

「晴明さん、居眠りするか食べるか何方かにして下さいね」

 

電車に乗客してた学生達と聞いて理解した美怜は、修学旅行という概念そのものに上手く理解はできなかったのだが、ざっくり言えば学校による旅行イベントなのだろうと解釈し、素通りしていく。

因みに詠は半蔵学院の選抜補欠とは対峙した事がないので、風魔一同の補欠メンバーの声を聞いても知らないのは言うまでもなく。

 

「美怜ちゃんは学生になりたいと思ったことはないのですか?」

 

ふと此処で、詠が修学旅行の事に関して疑問に抱いたことを美怜に投げかける。

美怜は元々あの妖魔の巣で兄に育てられた孤児…そんな彼女が外の世界に羽ばたく事で、彼女は学生に興味がないのかと尋ねた。

詠からしてもし美怜が自分達と同じ蛇女にいたのなら、きっと蛇女の学生服が似合うのだろうなぁと思ったりもする。

科学者を連想させる白衣の姿も似合うのだが、きっと蛇女の制服もより妖艶な美しさと甘い危険な香りがするのだろう。

 

「そうね、学業には興味があるわ。数式、科学、現代文から古文に海外の言語…更には歴史や現代の経済学や地理まで、全てが魅力的な学業に満ち溢れてるわ。あぁ、勿論忍の研究や教育論もね…

ただ興味があっても憧れても、なれないものは致し方ないわ。それをいつまでもありえない妄想を現実にしろと願っても意味なんてない。

 

だから…鈴音とやらでも誰でもいいから参考書程度のものは欲しいと願うばかりね。知恵は万代の宝とも言うでしょう?」

 

美怜はとてもドライでそう返事を返した。

電車の時も、もし自分も生まれた場所が違ったのであれば学生としての生活を満喫できたのだろうと想像を膨らませていたが、返ってくる返事と答えは同じ事。

それに、美怜からして今の生活も悪くないと思っている。

ここ数日間ではあるが、焔紅蓮隊との生活は悪くない。

自然に触れ、自由に物事を考え、好きなように読書を楽しみ、家族と対話を重ね、楽しみが増えていく。

きっと、今の生活の方が前の家や学業よりもずっと楽しいだろう。そう考えると無理に学校に転校などしなくても良いと判断している。それに部屋でも話していたが、過酷な訓練について行ける訳でも無いし、したくも無い上にやらねば死ぬだけなのなら、アジトでのんびり過ごす方が合理的だ。

 

「そうですか…もし美怜ちゃんが学生になりたいのであれば、蛇女に転入する話も出てくるかと思ってたのですが…」

 

「聞いた話によると、抜け出すだけで殺されるそうじゃない。裏切り行為と見なされるのだっけ…?悪いけど、そう言う暗黙のルールに則るつもりはないのよ。

それに生きる術を持つ為の鍛錬ならいざ知らず、態々頭の悪いやり方で修行をやらされても時間のロスだし、そんな所より貴女達と過ごす方が断然的に充実できるわ」

 

詠も可能であれば…というより、出来る限り美怜は紅蓮隊と一緒にいて欲しいのだが、もし彼女が蛇女に行きたいのであれば、拒む事は出来ない。

彼女が彼女らしく自由に生きる事を望む詠からして、離れてしまうのは心が裂けるほど苦しいものであるが、そんな微かな懸念も、美怜の言葉でバッサリ一刀両断し、内心ホッとする。

正直、未来と同意見だが蛇女と彼女とでは合わないので、行かれて仕舞えば最悪ついて行けなくて死んでしまうケースも考えなくはない。まだ彼女の実力が不明な以上、断定するのは浅はかではあるが、現段階の見た感じとしてはそう感想が出るのも仕方のない事だ。

 

「頭の悪い効率…そうだ、今度新しい薬を開発して貴女達に飲ませれば、効率の良い仕事と訓練ができるのではないかしら?善は急げね、早速実験に取り掛かって…」

 

「美怜さん!?そんなことしなくて良いですからね!?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終え、美怜と詠が部屋に戻ってから30分後、光山が戻ってきたらしく温泉へと案内された。

本人は後から入浴する(大体は女性が入浴してる中、同じ時間帯で入るのも色々まずいという主張が本音)とのことで、焔紅蓮隊の六人は先に露天風呂の更衣室で衣類を脱いでいる。

 

「風呂だ風呂!露天風呂なんて温泉旅行以来だ!!さぁ、お前達も遠慮なく湯船に浸かって旅の疲れを癒すぞ!」

 

「ここのお風呂の効能って、豊乳はあるのかな…?」

 

「未来、幾ら自分の胸が餃子の皮だからって温泉の効能が何でも豊乳が含まれてる訳ではないのよ?」

 

「春花様!そんな無慈悲なリアリティを突きつけないで!」

 

「ふぅん…お風呂ね、結局は週に一回しかドラム缶の湯船に入らなかったから、割かしら新鮮な気ではあるわね」

 

各々は駄弁りながら衣服を脱いでいき、透き通るような女神の肌を露出する。

焔は日焼けした褐色肌に、下着を脱ぐと地肌の白い柔らかな色肌が露わになり、日影は無口無言無表情ながらも衣服を脱いでは、タトゥーの印が眼に浮かぶ。

つるぺたでお子様な体型の未来と比べ、春花は大人の身体つきに、詠と美怜は同じ透き通る白肌だ。綺麗なクリーム色の金髪と、淡い金髪が重なるように、二人は隣同士で裸体となる。

 

「ふぅ…」

 

「あら、美怜ちゃん眼鏡を外すと結構印象が変わるのですね…?」

 

「そう?自分でもよく分からないけど…眼鏡を付けるだけで見た目の印象が知的に変わるというのは聞くけれど…本当なのね」

 

詠の言う通り、眼鏡を外した美怜は割と新鮮なように見える。

ハワイアンブルーの瞳は猫や蛇のような鋭くも隙のない眼をしている。

眼鏡は基本的に外す事は少なく、以前風呂に入った時に眼鏡が曇ってしまったので、次に入る時は外そうと思って見たのだが…なので、皆の前で眼鏡を外したのは初めてである。

 

「眼鏡を外しても意外と美人ね…」

 

「そう、褒め言葉として受けておくわ」

 

相変わらず謙遜という言葉に無縁な美怜は、固唾を呑む未来の言葉を軽くあしらう。

というよりも、美怜自身は見た目やら服装やらファッションやらにはまるで眼中にもないと言わんばかりに興味がない。

なので、どの基準で何処から美人なのかも分からないし、何処らへんがそう思わせるのかも分からない。強いていうならそれほどに魅力ある女なのだろう。

詠と違って貧乳で体型も未来と似てるにも関わらず、この大人のような色付きと妖艶溢れる魅了さは、一体何処から来るのだろうか。

恋や魅力というのは、ある種として科学では証明されないのかもしれない生理現象の一つなのであろう。

 

露天風呂の扉を開けると、そこは正しく桃源郷…外の冷たい空気と温泉の熱い湯気が漂い、夜空の景色と和を主張とした温泉に、目が絡むほどに理想的な憩い場であった。

 

「おぉ、凄いな…!!なんていう開放感と大きな広さだ!泳げるほどの面積じゃないか?」

 

「中には大きな体をしたお客さんもいるそうだから、そう言う人にも向けてかなり敷居を大きくしたんですって」

 

Mt.レディほどの巨体とまではいかないが、そこそこ通常の二倍や三倍の身長を持つ個性の人間でも入れるような大浴場となってるらしく、シャワーや桶も様々な大きさやらデザインやらと変わったものもある。

どのお客でも平等に安らぎを感じさせる為に…らしい。

 

「んっ…熱いわね。大体45℃くらいかしら」

 

美怜は人差し指を温泉の湯に触れ、ゆっくりと足指から湯に浸かる。

温泉特有の匂いが鼻につんざき、熱い水が肌を刺激して信号が脳に送られる。

 

「ほな、熱いくらいなんともないやろ」

 

シャワーを浴び終えた日影は、そのまま何ともない様子で熱い湯船に浸る。クネクネとした動きはまるで蛇のようだ。

 

「はああぁぁぁぁ〜〜♪疲れの後のお風呂はさいっこうねぇぇ〜…♪」

 

未来も羽を伸ばすように背筋を伸ばし、ザボンと肩まで湯船に浸っている。

同じく詠も春花も最初は熱がりもしたが、次第に慣れていった。

 

「然し、シャワーにシャンプーもボディソープ…?というのもあるのね、良い香りが今も髪に染み付いてるわ」

 

紅蓮隊の風呂はドラム缶に水を入れ沸騰させ、それに浸かるだけだったので、そう言った石鹸や洗剤などに触れなかった美怜も今回の旅でまた思わぬ発見をした。

漸く慣れてきたのか、肩にまで湯船に浸かると、未来と美怜を除き、大きな桃が二つ、ぷかりと湯船に浮いている。

白い湯気が邪魔でこう…女性のさくらんぼが見えないのが難点だ。

 

「そう言えば詠ちゃん、また胸が大きくなってない?」

 

「ふえぇ!?き、気のせいですよ春花さん…!」

 

「そう?なら未来!その大きな果実を収穫よ!」

 

「はい!春花様!!」

 

そう言いながら一体何のノリが始まったのか、春花閣下の指令に、未来は敬礼をすると手を大きく広げて詠の豊満な胸に手をつける。

 

「きゃあぁ!?///み、未来さん!?///」

 

「だ、ダメです春花様!!大き過ぎて収穫できませんでした!!」

 

「何をしてるの未来!!全く…こうなったら私が…」

 

詠の大きな果実が揉んだりするだけで揺れるが揺れる。水面までもが脈を打つように波を立て、未来と春花の悪ふざけに詠は赤面をする。それを見てる焔は呆れながらも苦笑し、日影は相変わらず無表情。

 

「男性が発達した女性の臀部や胸部に興味や性欲を示すというけれど…春花も未来も詠の胸にあそこまで執着を持つのはなぜ?」

 

「ああ、アレは単なるおふざけだし気にしなくてもいいぞ?」

 

美怜が神妙そうに首を傾げながら、真面目そうに考える美怜を横に焔は口を挟む。

こういうおふざけや遊び半分に関して、美怜は日影と同じく関心もないだろうと焔は思ったのだが…

 

「百聞は一見にしかず…ね」

 

立ち上がってはふわりと髪を払うようにしながら詠に近づき

 

「女性をも魅了する貴方の胸、少々味わせてもらうわね。失礼」

 

「み、美怜ちゃ…きゃあぁん!?///」

 

有ろうかとかなんと、絶対しないだろうと考えられる美怜が、春花や未来に続いて美怜までもが詠の胸を翻弄するように触り出す。

思わぬ乱入に未来も春花も一瞬目を丸くして見開いた。

 

「ふむふむ…つんつん、ぷにぷに…♪ここはこうして…」

 

「ちょ、ちょっと美怜ちゃん…/// そ、それ以上は…っ///や、らめ…ぇ…///」

 

しかもこの女、女性を喜ばせるテクニックでも持ってるのか、優しく胸を撫でたり触ったり、先っちょを突いては下乳を持ち上げたり、様々な点に触れては相手の反応を見ては研究するようにセクハラをしている。

 

「成る程ね、詠の反応を見た限り女性は胸を触られると性感帯でもあるかのように、快感を得ると。

そして触ってみたけど凄いわね…流石は母性の象徴とも呼べる胸部は、見かけのみならず心地良くて気持ちが良い…病み付きになるのも頷けるわ」

 

「まさか美怜までがセクハラに手を出すなんて…」

 

この手のことはしないと考えていたのは焔だけでなく未来もだろう。余りにも突拍子過ぎて呆然としてしまうのは無理もない。

 

「私は知識を得る研究ならある程度のことはするわよ?別に胸を触っても減るもんでもないし」

 

「美怜ちゃん!/// 恥ずかしいのであんまり触らないでください!!///」

 

「恥ずかしい…?何故?胸を触ること、触られることに一体何をそこまでして…感情が昂ぶって混乱してるのかしら」

 

だから美怜に女性の羞恥など、常識が通用するわけでもなく。

然しやめてと言って素直に聞いて辞めてくれる辺りは、優しさも伝わってくる。

 

 

ガララッ!と、突然露天風呂の扉が開いた。

おふざけをしていたからか、人が来る気配など全く気にもしていなかったので、今の騒ぎを聞かれたかという内心どうでも良いようでそうでもない心情が僅かながらに生まれ出る。

 

「いやーっ!!すっごく大きいお風呂ですねー!わっ、しかも絶景ですよ!!」

 

「んー…本当だね…」

 

「あら、あの子達」

 

ぞろぞろと四人の人影が見えてきたことに、美怜は電車に続いて廊下で聞いた食堂部屋の声主を思い出し、触られるこうして三度も聞いた彼女達の声と偶然の出会いに、目を開く。

 

「ん?なんだ美怜、知り合いか?」

 

「知り合いというよりも…見たことある四人が偶然にも何度も見たことあって…」

 

「ん…ん?あれー…あの子、紅蓮隊の人だったんだ…」

 

眠たげな表情をした青髪の子、晴明が何かを悟ったように呟いたと同時に

 

「飛鳥せんぱーーい!!早く早く!こっちですよぉ、大きくて景色も綺麗ですよ!!」

 

その言葉を聞いて、残り五人は脈を打たれたかのように、一斉にして意識を傾けた。

 

「風魔ちゃん早すぎるよー!って、雲雀ちゃん走ったら危ないよ!?」

 

「大丈夫だいじょー…あいたっ!?ふえええぇん…柳生ちゃぁん!頭打ったよ〜〜…!!」

 

「ああ〜よしよし!泣くな雲雀大丈夫だ…!やっぱり俺が居ないとダメだな、雲雀は」

 

「い〜っしっしっし!こりゃ絶景だねぇ!戦いの後は、やっぱり傷跡や疲れを癒す時だよ…なぁ、斑鳩?」

 

「どさくさに紛れてセクハラしようとするのはやめなさい葛城さん!それに、風魔さんに雲雀さんも騒がない!他の人様達も見てらっしゃるのですよ…?迷惑かけてしまいます」

 

更に伸びるように人影が五人、出てくる束の間、歓喜な声を上げて大浴場に足を運ぶ飛鳥、斑鳩、葛城、雲雀、柳生の五人達。計九人の学生がこの場に現れた。

 

「お、おい…飛鳥だと…?」

 

聞き間違えるはずもなく、こうして目の前に映る懐かしい最強の友達との再会を果たした焔に

 

「えっ…?もしかして…わぁ、焔ちゃん!?」

 

学炎祭を終えてから再会をした飛鳥。

 

「あら、もしかして詠さん達も京都へ…?」

 

「斑鳩さん!お久しゅうございます…!!」

 

焔に続き、憎しみの連鎖と因縁を終えた斑鳩と詠に

 

「おっ、日影じゃねえか!!嬉しいね、こうしてまた会えるなんてさ。学炎祭以来か?」

 

「葛城やないか、せやな。まぁあの後も色々あって、今はのんびり楽しくやってるよ」

 

「へぇ…柳生、アンタ達もきてたんだ。もしかして修学旅行?」

 

「さぁ雲雀!今から背中を流してやるからな!な、なんなら前の方も洗ってやろうか?」

 

「無視すんな!!!!」

 

「あー!春花さん久しぶりだね!元気にしてた?」

 

「ふふ、雲雀も相変わらずね。私は勿論元気よ♪」

 

葛城と日影、未来と柳生、雲雀と春花もまた再会を気に旧知の友のように語り合う。そんな彼女達選抜メンバーを横目に

 

 

「なんだか面白いことになってきたわね」

 

「ですねぇ〜、菖蒲としても元蛇女の方々と会うのは初めてですから」

 

美怜と菖蒲は微笑を浮かべながら彼女達の喜び合う再会を見守っていた。

 

 

 


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