光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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えー、突如としてスランプ気味になったのには理由があります。
確かにゲームは純粋に楽しんでたせいか、創作活動してなかったのは致し方ないと思います。
然しもう一つあります、それは新作意欲です。
その為に違う小説やら読んでた為に、かなり遅くなりました。新作は同じく閃乱カグラものですが、もし投稿した時は読んでくれると嬉しいかもです。裏ストーリーの完全なる訂正版みたいになると思いますので、ちょくちょく読んでくれると嬉しいです。



217話「話が合わない」

 

 

 

 

 

半蔵学院の選抜メンバーの斑鳩と葛城、それに対する忍商会の幹部、邪淫乱闘と両舌部露が衝突する前の時間帯。

 

午後に差し掛かろうとする午前11時頃、半蔵学院と違って遠く離れた京都の繁華街。

木製の飲食店やお土産等が売られてる商売店などが活気盛んに行われており、同じ様な景色がズラリと並んでいるように見えるのは京の都ならではの情景だろう。

 

「これが、八つ橋…?何て美味しそうなの……私はこの瞬間を待っていたのよ……」

 

商店街の茶屋に横長い椅子に腰かけた美怜は、珍しい品物を見定めるように、欲しがってた子供の玩具を与えられたかのように、表情が疎い彼女は高揚を隠しきれず、念願の八つ橋を見つめる。

 

「幾ら何でも大袈裟過ぎよアンタ…」

 

「お菓子を目の前に大袈裟と呼べる貴女の思考回路が羨ましいわ」

 

「何ですってぇ!?!」

 

対して横に座り腰かけてる未来は、相変わらず美怜に突っ掛かる。確かに金銭的にお菓子を買える余裕はなく、駄菓子屋と言った10円そこらの安いお菓子を買うのでさえ躊躇うほどの自分達にとって、八つ橋もそうだが食料となるものは重宝扱いだろう。

 

「折角アンタが八つ橋食べたいっていうからお店紹介したのに…」

 

「仕方ないじゃない、私はお菓子を前にはどうしてもこの湧き上がる衝動と欲求が抑えられないもの。理性で抑えるのでやっとな訳で――それと私は別に貴女を非難してる訳でもないのよ。寧ろ京都に行ったことのある貴女だからこそ選抜した訳だし」

 

未来はよく美怜の安い挑発や売り言葉を買ってしまう等、子供癖やトラブルメーカーな素質が高いものの、美怜は気にせずフォローに入る。

美怜はどういう訳か、お菓子と言った類は基本的に全て心の底から手を伸ばし、食したいという欲求が湧き上がるそうだ。

 

「八つ橋も良いけど、アンタ杏蜜って所に行きたいのよね?それなら映画村の近くにあるから、回ってから行く?」

 

「そう、貴女も映画村に行きたいって駄々こねてたものね。丁度目的の場所があるのなら私も全然構わないわ」

 

「駄々こねてないから!?アレ普通に切符がないって事で京都に行けないから嘆いてただけだから!!」

 

駄々を捏ねてた事に変わりはなさそうでもあるが、美怜は深くは詮索せずに「そういう事にしておくわ」と片付けた。

何しろ京都の旅行は未来も蛇女に入る前の一般学生の時は修学旅行として行ったは行ったのだが、当時はイジメ問題もあり殆ど独りぼっちだった為、良い思い出がない。

そんな中、紅蓮隊と一緒に京都の旅行に行けるのは、未来としても充分に価値のあるものであり、思い出作りとして絶好の機会でもある。

こういう純粋さと子供らしい一面を見ると、偶に悪忍とは思えなくなるが、実際彼女の家系は善忍だったので、根っからが悪い訳ではないのは彼女との付き合いがあれば理解を示せる。

 

「美怜は結構お菓子好きそうだけどさ、どうしてそんなにお菓子に拘るのよ?アンタが家に住んでた頃は、お菓子とか無かったでしょ?」

 

「そうね、ベルゼ兄さんからよくお肉を貰って食べてたし、貴方達の言う食料はほぼ壊滅と言って良いほどに不足していたし、人間が食べれるものなんて奪う事以外にあり得なかったわ」

 

「奪ったって…本当に悪趣味ね……」

 

「あら人聞きの悪い。死んだ人間は食べ物すら口に出来ないわ、それを私が食べる事に一体何をそこまで悪く思われるのかが疑問ね。

それに、お菓子に関しては自分でもよく分からないの」

 

「分からない?」

 

美怜の意外な返答に、未来は思わず目を丸くする。てっきり私が単純に好きだとか、お菓子は甘くて美味しいからとか幼稚的な感想かと思いきや、予想の斜め上の発言に小首を傾げる。

 

「……例えば、詠はどれだけお金を所持していようが貧困になろうと、もやしだけは絶対に欠かせないでしょ?焔もお肉に目がなかったり体を動かす肉体的な鍛錬を積まないと気が済まないでしょ?それに似た事柄ね。

でもいざ好きなのかと聞かれると、特に理由はない…或いは、個人的に好きなものだからと、個々人にのみ存在する拘りや性格を現した好みがあるの。それを人は個性と呼ぶのだけど、私は其れをリビドーと呼ぶ事にしてる」

 

個性というのは超人社会の約八割が所持してる個性を指差しており、超常的な能力を人々は個性と呼ぶ。一方で性格的な個性のことを、美怜はリビドーとして呼んでいる。

其れはもちろん、単語や肉体的な意味と精神的な意味を隔て分別する為に過ぎないが、どうしてそこまでしてお菓子が好きなのかは、美怜もよく分からない。

ただ見てるだけで、匂いを嗅ぐだけで、名前を耳にするだけで、自然と欲求が昂り、理性では抑えられず欲望が煽られる。

 

「私のリビドーではあったとしても、具体的な理由や根本とした意味は私にも分からないの…自分自身のことはよく分からないと聞くけれど、こんな気持ちなのかしらね。今までずっと、唯の気まぐれだと思っていたけれど」

 

「んー…なんか美怜の話って偶によく分かんなくなるよね。専門用語があったり、長ったるくて頭に入ってこなくなるというか…」

 

「…簡潔に言えば私の性格がお菓子が好きなのだと表してるけれど、どうしてお菓子が好きなのかは具体的に不明ということ」

 

「あ、成る程ね」

 

説明要求された事に、理解を示さない未来に悪態吐きながら説明するも、本人は気にしてない様子で納得される。

 

「貴女は…どんなことが好きなのかしら。確かネット小説の執筆だとか…」

 

「それはまぁ…そうね。後はfpsとかサバゲーとか、他にも二次作品の嗜み程度…かな」

 

「多種多様にあるのね、好きなことが多いのは良いことよ」

 

「そ、そう?」

 

美怜に褒められると、つい照れ臭くなってしまう。

美怜から褒められることなど滅多にないし、歪み合う(未来が一方的にだが)仲でも、そう素直に真っ直ぐ言われると、やはり歯痒くなってしまうのは否定できない。

 

 

「あれー?アイツってもしかして中学の時に一緒にいた地味めの空気な子じゃない?」

 

 

遠くから聞こえた懐かしい声がふと耳に届いた瞬間に、未来の背筋は一瞬にして凍りつく。

声主の方角へ振り返ると此方を見つめながら、ニタニタと薄笑いを浮かべる高校生らしき女性が2人、小馬鹿にするように指を指してるのが伺える。

 

「あ、やっぱりあの子じゃん!えっと名前なんだっけ?」

 

「空気扱いし過ぎて名前忘れちゃったわ!存在感薄かったけど揶揄いがあって面白かったよねー」

 

知っている、ゲラゲラと耳障りに笑うアイツらの汚い声。

1日たりとも忘れもしない、私を無視した虐めた連中の顔。

そう、アイツらは学生時代の頃に私を虐めて面白がり、剰え何もしてないのにも関わらずコイツらは、平気で人の心を傷付けようとする。

でも…どうしてアイツらがこんな所に?

 

「未来?どうしたの、知り合い?」

 

彼女の様子が可笑しいと見解した美怜は、珍しそうにしながらも何処か心配そうに声を掛けてくる。

冷や汗が浮かび、自然と過去の恐怖心により震えが止まらなくなってしまう未来は、トラウマが掘り返されるようになり、身を投げ出しそうになってしまう。

 

「ウチら京都の高校に通ったんだよねー、なに?アンタも常盤高だったっけ?」

 

そうか、常盤判高校の進路を希望していたのか。確かに虐めた連中の何人かは県外に高校の受験を希望していたのはちらほら見受けられたが、選りに選ってこんな時に鉢合わせするだなんて思ってもいなかった。

 

「つかさ、折角久し振りに再開したのに無視とか酷くなーい?ねぇ、私らのこと忘れたとか言わないよねー?」

 

酷い?

酷いだって?本当にイカれてるのか?

自分のことを散々無視して、嫌がらせをして、その挙句此方がなにも言わずに耐え忍んでると無視をされて嫌だと主張する。

つい頭に血が上って機関銃で乱射したいほどだ。

……本当だったら、寧ろこの再開を機に虐めた連中に復讐するのが、未来が悪忍になった理由だ。

躊躇う必要なんてなく、思うがままに暴れたら良い…。だけど…そんな事をして、本当に良いのだろうかという考えも過ぎる。

 

私たち焔紅蓮隊は元々悪忍であり、忍の世界にとっても私達のようなのは存在するだけで許されざるを得ないもの。

それでも焔達は皆、他の悪党とは違って私利私欲に力を使わないようにしている。

其れは、自分たち焔紅蓮隊に誇りがあるから。今もし目の前で自分の私怨でコイツらを殺したら、焔達に顔向けなんて出来るのだろうか?

いや、出来ない。どんな経緯であれど、そんなものは言い訳にしかならないし、コイツらが腐ってても、こんな奴らに手を出せば、それこそ紅蓮隊としても名が廃る。

 

「ねぇ、何とか言い…」

 

私を嘗て虐めてた女の一人が、うざったらしかったのか頭に血が上り手を出そうとした瞬間。

 

ガシッと腕を掴む音が、目の前で止んだ。

怖くて震えて、瞑ってた目を開くと、そこに美怜がいた。

 

 

「ねぇ、ちょっと。貴女、今未来に何をしようとしたの?」

 

 

いつになく真剣で、真っ直ぐと恐れる事を知らずに殴ろうとした女性の腕を、ギチギチと締め付けるほどに。

 

「は?何アンタ、部外者なんだから邪魔しないでよ!」

 

「お生憎…此方は無関係者じゃないの。その腕は何?この子を殴ろうとしたわよね?関係性がどうであろうと、殴られようとしてる人を見て無視なんて真似は出来ないわ」

 

其れが関係者であるなら尚のこと。

美怜は突き放すように腕を払い押しのけ、思わず女性は後退りしてしまう。

 

「…ああ、ひょっとして貴女達のことね。未来の言ってた学生の頃に悪質な虐めをして名が広まり、自分が王にでもなった気でいながら茣蓙を掻いてた動物以下の連中って。酷い言われようで、相当恨まれてるのね貴女達、今の今まで殺されなかっただけ幸運だわ。名前まで知らなかったけど、随分と頭が悪そうね」

 

「琴弾…アンタまさか…!!!!」

 

未来はそんな話を美怜には一度たりとも口に出してはいない。虐めの問題はさておき、そのような口の悪い噂などは広げていない。確かに色々と義憤に募ることは沢山あったけれども。

 

「あら、冗談よ?ふふ…でもその反応を見た限り自分が加害者でありながら、虐めをしていた事、そして厭がらせをしていた自覚はあるみたいね。だからそんな焦った反応を取るのでしょう?」

 

「なっ…!!」

 

虐めてた連中二人は、美怜の言葉にまんまと嵌められた。

彼女は観察眼と頭の回転が速いためか、傍観していた辺り未来に何かしら関係があり、それが悪い方向なのは目に見えていた。虐めも春花から話を聞いたくらい…普段言い返す未来がグゥの根も言えずに怯えていた様子を見れば、思考回路は自然と答えに至る訳だ。

 

「…貴女達、一体どうしてそんなことをするの?楽しい?この子は明らかに嫌がってた様子だったし、対話を望んでいないのに一方的に話して精神的に追い詰めて困ってたじゃない。

障害って知ってる?虐めって犯罪なのよ?貴女達のような犯罪者は、個性で悪戯に力を振りまくような存在と変わらないのよ?」

 

「だったら何よ…」

 

「私はちゃんと見てたから、第三者の目撃者として証言しても良いわ。警察に。

何もしてない怯えてた女性を殴ろうとしたり脅して罵声を浴びせて恐喝してたなんて、通報を受けて掲示板に貼られたり、自分の地位を失うのは怖いでしょ?」

 

未来を守るように目の前に立ちながら、自分を虐めてた連中を言い負かし、少しずつ言葉で追い詰めていく美怜が、何処かかっこ良く見えてしまう。

 

「…そ、そんなんじゃ…私達はただ…ねぇ?」

 

「そ、それに今のだってそんな…」

 

「あら、何?じゃあこの子を虐めても良い理由があるの?法律や犯罪だって如何なる所業でも許されない世の中、特定の人物に虐めをしても良い理由が?それって何かしら?

未来が何かしらの原因で貴女達が虐めをし始めたと言う明確な理由が存在し、誰もが納得できる答えなら、この子もそれなりに謝らなければいけないけれど…」

 

虐めは多くが加害者が絶対悪として語られるが、中には虐めを受ける側にも問題や責任があるという話も少なくはない。もし未来が何かしら恨みや虐めを作る、納得できるような内容であれば五分五分として双方が謝るべきなのだろうが…この場合は…。

 

「ああ、因みに『冗談だった』『そんなつもりじゃ』『ムカついたから』は無しでね。ちゃんとした明確で確固たる理由で教えてくれる?」

 

「…………」

 

「呆れた…貴女達、バカなの?」

 

心底呆れを通り越し、目を細めて嫌悪の表情を示す美怜の顔は、ある意味珍しいものだ。

その顔色には何処か、少しだけ義憤を燃やしたようで、不機嫌そうな顔を顰める。

 

「もういいわ、貴女達との会話なんて精神的な負荷と時間の無駄でしか生じないし…未来、一緒に行きましょう。此処にいても何も収穫なんてないわ」

 

「あっ!ちょっ…!!」

 

強引半ばに腕を引っ張られる未来は美怜の力になるがされるがままに動かされる。

美怜は知的好奇心が旺盛な故に、興味を示すものにはとことん頓着する。然し逆に言えば興味が失せたもの、或いは興味のないものは無価値として見向きもしなければ、執着付かない。

何方かと言えば見捨てるに近い部類だろう。そして興味尽きた者にはとても冷徹で、対話さえも望もうとしない。

 

美怜が興味を尽きるというのは、謂わばそういう意を表す。

 

「ちょっ、アンタ力強くない!?」

 

「それにしても未来、貴女って人付き合いが著しく悪いのね。頭が悪い云々以前に、口を開けば精神的に苛まれるような不快感は、流石に私も対話なんて望めないわ。というか、話しても無駄というものね」

 

珍しく不機嫌そうな口調で淡々と告げながら、美怜と未来は此方の後ろ姿を呆然と眺め立ち尽くす虐め連中二人組みから距離を開く。

 

「……そりゃまぁ…ズタボロにして殺してやりたいって思った程だし…」

 

「なら殺せば良かったじゃない。不快に耐えるより、潰した方が身のためよ。というか、貴女には力があるのだから黙らせる事だって可能ではなくて?」

 

「……春花様に言われたのっ!其処に悪忍としての誇りがあるのかって…」

 

「……誇り、ねぇ」

 

そして大分距離を置き映画村の近辺で手を離した美怜は、未来の言葉に立ち止まる。

誇り――其れは言うなればベルゼ兄さんの死の間際に放った言葉。

妖魔だろうと忍だろうと種族問わず、兄としての使命を全うし、その命を以って妹を守り通した死に様は、誇れるものだった。

最後の最後まで兄として、妹を愛し、側にいて育ててくれたその所業は、如何なる強戦士も名誉を与えるだろう。

 

「な、何よいきなり手を離して…」

 

「目的地には着いたんだもの、それともずっと手を握って欲しかったの?」

 

「そういう意味じゃないけど…」

 

「…ねぇ、未来にとって忍って何かしら」

 

「へ?どうしたの、藪から棒に…」

 

「春花から聞いたわよ。貴女は虐めの復讐の為に、嘗て善忍としての道を捨て悪忍になったと…やっとの懇願で悪忍となって、目的のために力を付けたのに、復讐をしなかった…そしてその理由が悪忍としての誇りと来て思ったのよ。貴女の言う忍とは何なのかって」

 

今思えば美怜からすれば他人の言葉に人生が傾けられてるようで、芯というか明確なる理由や目的がないように見える。

然し其れはあくまで美怜自身としての観察なので、他にも理由や別の目的があるのかもしれない。

忍になったからには、無理にまで家系として継がれて死地の世界に足を踏み入れなければならないと言えばそれまでだが、態々善忍を捨てることを両親が承諾(実際は反対してたのかもしれない)したのだから、少なくとも他の忍家系よりかは恵まれてた方だろう。

 

「…いきなり真剣になるじゃない」

 

「私はいつでも真剣よ?それに、あの連中を潰すのに誇りがあるから殺せないは、ただの綺麗事ではなくって?貴女を自殺にまで追い込めようものでも、同じ意見を出せる?」

 

無理だろう。

実際に虐めの問題は深刻で、中には個性がないだけで虐めを受けてた中学校もあったらしく、社会でも環境によって深刻さが増してるのは問題視されてる。

 

「アンタの言ってることは正しいよ。そりゃアイツらを許す気なんて更々ないし、それでもいざ顔を見ると吐き気と苛立ちと、恐怖とトラウマで頭が可笑しくなることもある…それなら確かに消しちゃえば何でもないもんね……でも、それだと意味がない」

 

「意味がない…とは?」

 

「私は虐められたから、悪忍になって復讐しようとして強くなった。でも…その強さは虐めの復讐なんかで済ませていいのかなって…ううん、そんなちっぽけなアイツらなんかの為に使っても良いのかって。

それだと私があんな奴等を相手にしたら、同じ立場になる。私はアイツらと同等になりたい訳じゃないし、そんなつもりもない。

だから考えたの…抜忍になってから私はどんな忍になりたいのか…

 

焔や仲間のみんなを守りたい忍になるんだって」

 

「ッ…」

 

復讐とは言わば、やり返しという意味にもなる。

自分が虐められたから、此方もやり返すと言うことは、自分も加害者となり奴等と同じ人間になる訳で、更に付け加えればアイツらが犯した罪が、目立たなくなってしまう。

何より美怜は、未来の言葉に絶句する。

其れは嘗て、自分の愛しくて育ててくれた兄と重なるからだ。

未来は仲間の為に力を使い、ベルゼ兄さんは妹のために力を使った。まさか、未来の口から兄と似た事を発するとは予想だにしなかったのだろう。

 

「でも…殺す事に関して、あり得ないことだけど…もし焔や仲間が万が一にも傷付けられたら、本当にただじゃおかないよ。

…っていうか、美怜があんなに熱くなってアイツらに思いっきし言ったのだって感謝してるんだから。寧ろスカッとしたというか…有難うね」

 

「…春花にも後で言うけど、訂正するわ――貴女という心強い守り銃士、誰よりも心強く直向きなその心に敬意を示すわ」

 

美怜は微笑を浮かべて未来に告げる。

訂正…それは、未来のことを半端な忍だと見ていた己の誤ち。

彼女は自分の想像以上の強みを持ち合わせていたようだ。

 

「な、何よ急に…は、恥ずかしいから…っ!///」

 

「恥ずかしい…?どうして褒めてるのに恥ずかしがるのかしら?」

 

「うぐっ…そういう所は日影とそっくりね…」

 

こう言うのを照れ臭いと呼ぶことを、美怜はまだ知る由もない。

 

 

ドゴオォォン!と、ふと遠方から爆発からような轟が、二人の意識を向けさせる。

 

「何今の…?」

 

「遠くからでも分かるような破壊音ね、事故か将又故意による何らかのトラブルか…どうする、未来?」

 

恐らく何かしらの犯罪絡みだろう。

ここ最近、平和の象徴が無くなってから犯罪率は上昇し、今もなっては何と6%も出てるという前代未聞の始末。下手すればこの先は超常黎明期より過酷になるのは目に見えるだろう。

 

「焔からの指示はないけど…此処は後回しにして行ってみ…」

 

「おぉ〜い!お嬢ちゃんお二人さん方や!!」

 

ようとした時だった。不意に案内ガイド人の光山優に呼び止められたのは。息切らしながら走る60代おじさんに呼び止められ、意識を別方向にむける。

 

「何やら敵による犯罪絡みが出やして!危険なんで皆んなを集めて避難致しやしょう!!」

 

「やっぱり敵なんだ……う〜ん…」

 

本来ならそんなもの、要らぬ心配なのだが一般人の前で「私たち戦えるんで大丈夫です」なんて口が裂けても言えぬ真実だ。

何よりガイドとしても人命救助やら身の安全を守り優先するのも立派な仕事ではあるので、断りづらい。

何よりも焔達はそのことを知ってるのだろうか?

 

「分かったわ、それじゃ焔達を呼び集めて…」

 

「待ちなさい、ねえ光山。貴方はどうしてさっきのが敵の犯罪絡みだと知ってるの?」

 

「ここ最近敵の犯罪件数が多いんですよ!!ていうか、器物破損とやら傷害やらで言うまでもなく犯罪でしょうよぉ!ほらほら、仲間も集めて!」

 

美怜の質問に答える暇もないと焦り気味に返答するガイド人に、二人は仕方なく仲間を呼び集める。

幸い、連絡手段が出来たのが唯一の救いだ。

 

「折角映画村まで来たのに…これじゃ満喫出来ないじゃない…」

 

「そうね、全くもって未来の言う通りだわ。お詫びの品として八つ橋を奢りなさい」

 

「こりゃ運が悪いと言うかなんて言うか…あぃ?八つ橋ですかい?そんならまぁ大丈夫ッスけど…」

 

後々に連絡して此方に収集するように指示を促した未来と美怜は、とても不満そうに顔を顰める。

これは無理もない、然しだからと言って無視するのも些かどうかと思う。

美怜としては態々此方が首を突っ込む必要性は高くないと判断したので、満喫できれば問題ないと考えていたのだが、此処を離れなければならないという事情に、台無しさが膨らんでしまうのは咎めないだろう。

 

「それにしても純粋に疑問に思うのだけど、よくあんな早く私達を見つけたわね?」

 

「いやぁ偶々近くにいて良かったです、私も丁度飲食店を探してまして…」

 

「ふぅん、そう」

 

何やら素っ気ない態度を取る美怜が失礼そうにも見える未来は、肘で突いて「少し失礼じゃない?」と小声で呟く。

 

「何処らへんが失礼なのか私には分からないわ…」

 

やはり倫理観に欠けてる美怜にはそう言った人様への常識に配慮が欠けてるのだろう。悪気がないからこそ、本気で怒れる気にもなれやしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、半蔵学院は奈楽ともう一人の幼い子供を保護するように守りながら、避難するように忍商会の幹部から逃げて行く。

 

「あの人達は一体なんなの…?!忍商会って何…?」

 

「貴様ら、そんな事も知らないのか。奴らは歴史に残る前組織では抜忍供に商業を営んでた闇組織だ」

 

今では想像がつきにくいかも知れないが、嘗ては忍の社会からはみ出され零れてしまった救われない、行き場も失くして路頭を彷徨い死に抗う忍の救済処置としてサポートアイテムや武器を売りつけていた組織だ。

当然、違法行為なので犯罪絡みは数えただけでもキリがない。

 

「嘗ては鏖魔が組織を創立してから年月はかなり経つが…奴らめ、今まで行方を眩ませていたというのに、どうして我々に目星を…」

 

だが、問題なのがその忍商会がなぜ二人を狙うか…が重要な鍵となる。ただ現場を見られただの、商売を邪魔して怨みを買われたにしては此処まで大規模に起こす必要性が感じられないし、あの邪淫やら両舌やらも人前で平然と破壊行動を起こしてるのを見た限り、得策ではないにも関わらず一切の躊躇いがない。

こんな二人のためだけに自らをも危険を犯すリスクを背負うなど、正気の沙汰ではないにしろ何か裏がある。

 

「避難するにしたって、何処まで行けばいいの?」

 

「奴等を蹴散らし殺すか、目の届かない所にまで連れて行けばいい」

 

「なんかサラッと怖いこと言ってないですか!?」

 

「何を驚いている。学生とも言えど忍なら当然の摂理だろう?それとも上の許可なしでは戦えない辺り、所詮は単なる手駒か…」

 

「なんでそんな偉そうなんですか?」

 

奈楽の毒を吐くような偉そうな立場に、風魔は不愉快な感覚を味わう。

風魔は基本的にこういう人間はあんまり好きではない。況してや助けて、守ってあげてるにも関わらず、感謝の感の字もないとは、礼儀知らずにもほどがある。

 

「そういえば、貴女はなんで私達忍のことをそんなに詳しく知ってるの?何者なの?」

 

と、此処で先ほど聞きそびれた内容の質問に、彼女はこう答えた。

 

 

 

「自分は奈楽――護神の民、転生の球を守りし者であり、神楽様と供に憑黄泉神威を討つべき存在だ」

 

 

其れは忍の歴史上で英雄としての名を轟かした肆奈川の孫の孫である。

 

 

 







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