光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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最近美怜が主人公なんじゃないかってくらい出番や回が出てますが、実を言えばヒロアカ作者がミルコを馬鹿みたいに出演させたいように、この作者もそれと同じことをしてるだけです。



215話「THE・新幹線2」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でね、焔ちゃんは蛇女に入学してきた頃は野蛮というか、誰彼構わず上級生や選抜候補メンバーをまとめて倒しちゃったのよ。当時の焔ちゃんはかなり棘があったわねぇ、何というかじゃじゃ馬というか、喧嘩好きというか…」

 

「あの活発溢れる猪突猛進の焔からしてそれくらいやりそうな事もあるけど…今と昔でそんなに違うのかしら」

 

「そうよ?いきなり私に喧嘩を吹っかけて来たり、冷静沈着、自分以外は敵だと認識してたり、善忍って聞くだけで額に青筋浮かべるような嫌悪感があったりね。過去の焔ちゃんが美怜ちゃんと会ったらまた違ってた未来になってたのかもねぇ」

 

「へぇ……そう聞くと少しは面白い対話が出来そうね。尤も…昔の私も人間不信が多かったり、忍は全て敵と認識してた辺り、通じるものもあるけれど」

 

「まぁ、焔ちゃんは家の事情だけに仕方がない事もあるけれど…他にも詠ちゃんはお金持ちを憎んでたり、日影ちゃんは感情のない殺戮マシーンとして育てられたり、未来は虐めっ子を復讐為る為に善忍から悪忍の道に進んだり…」

 

「皆んな色々な過去を背負ってるのね。日影が感情表現に乏しかったり、感情が無いと断言してたから失感情症という奇病に患ってるのかと思ったのだけど…環境によってそうならざるをえなかったと考えると、私と似たような境遇なのね。

 でもよくそんな日影が世に犯罪者として回されずに上手く生き残れたわね」

 

「昔日影ちゃんは中学の頃に地下の違法バトルファイトクラブで小銭を稼いで生計立ててたりもしてたらしいわよ。

 あれだけ蛇のように俊敏な動きになれたり、忍家系でもな肉弾戦で優位に立てたのも個性使用有りの違法上等、地下闘技場にとんでもない凄腕がいたんですって。確かえっと…ラッパーだったかしら?」

 

「育手…という訳でもなさそうね。詠は貧清だから貪欲なる金持ちは妬みも含めて安易に想像付くわ」

 

「いやぁ詠ちゃんの場合は妬みというより怨みみたいなものね…お金持ちのせいで親が〜って発言もしてたし」

 

「因縁めいた繋がりがある辺り、詠は想像以上に過酷な人生を送ってるのね。未来は…虐め?あの子程なら忍ってだけでもやり返せそうなのに」

 

「ほら…善忍は規律とか守らなくちゃいけなかったし……私怨による忍法の使用はご法度なのよ」

 

「態々悪忍になるくらいなら先に害ある障壁は潰しておいて損はないのに…よく分からないわね忍のルールとやらも。未来が中途半端なだけだったか、まだ善忍としての夢を持ってたのか…何方にしろ半端だったという訳ね」

 

「半端って……」

 

「あら、私何か間違った事言ったかしら?」

 

「間違っちゃいないけれど、美怜ちゃんって人の怒りの琴線を地雷のように踏んでいくわよね」

 

「それならそれで研究として収穫ものね、人って生き物は相手の反応を見て学習するものよ。これを言ったら怒る、これを言ったら喜ぶ…それを熟知することで人の感情や心理は理解していき、データとして記憶に残るのよ」

 

 少しだけ楽しみを交えながら、春花と美怜は蛇女の頃の話を列車内で懐かしそうに物語り、美怜はそんな春花の蛇女エピソードに興味深そうに話を聞いている。

 あれから新幹線が出発して一時間近くが経過する。高速列車に乗り揺られながらも時間が経つというのはなんやかんやで早いもので、物事に集中したりコミュニケーションを交えていると圧倒いう間に経つというのが殆どだ。

 体感時間は人とは異なるものの、何もしない事よりも何かをしてる事の方が時間が経つのを早く感じる体質で出来ている。

 

「あ、美怜ちゃん。そろそろ新幹線が止まる頃だから、少し此処で待っててくれる?」

 

「別に構わないけど…何処へ行くの?まだ京都に降りるには時間があるようだけど」

 

「新幹線が一度止まるのよ、そしたら焔ちゃん達の様子見がてら声をかけようかと思って。次の駅で止まって座席が空いてれば切符なしでも席に座れそうな感じだし、あのまま放っておくのも流石に不味いだろうしねぇ」

 

「そうね、私は別に焔達が屋上で泣き叫ぼうと知ったことではないけど…流石に棟梁ともあろうリーダーや仲間が命懸けの修行で本当に呆気なく吹き飛ばされて死んでしまいましたじゃ、色々と後味悪いものね」

 

 今のところ新幹線も止まる事を知らず、当然のように疾走している。もし焔が加減なく秘伝忍法を連発したり、未来の銃が火を噴くであればほぼ屋根に違和感を持つ者もいる。

 

「まっ、ウチのリーダーだからそこら辺は考えて…」

 

「考えてたら新幹線の屋根の上で修行だなんて馬鹿な真似やってないわよ」

 

「……それもそうね」

 

 そりゃそうだ。

 と我に帰る春花に、美怜はため息を吐きながら雑誌に手を伸ばす。

 

「じゃあ戻ってくるまで春花が読んでた雑誌借りるわよ」

 

「嗚呼、序でに喉も渇いたし自動販売機で私や焔ちゃん、日影ちゃんに未来の飲み物買ってきてくれる?勿論、美怜ちゃんは好きなものを買ってきていいわ」

 

「詠が抜けてるけどあの子はいいの?」

 

「もやし汁持ってきてるらしいから大丈夫よ」

 

「もやし…汁?」

 

 なんだそれは。

 いや…そう言えばアジトで詠が調理の際に何かしてた気がする。水切りをしてたのかと思ってたのだが、ひょっとしたらもやしを水で煮詰めた飲料水なのかもしれない。想像すると少しアレだが、詠の好物がもやしなのでまぁ大丈夫だろうと思考回路に着く。

 

「それじゃそろそろ着く頃だし、留守番よろしくね♪」

 

「任せなさいな。取り敢えず自動販売機という所で飲み物を買えばいいのね」

 

 そう言いながら春花は座席に立ち上がり、財布から千円札を取り出す。本来焔紅蓮隊は文字通り貧困…何なら無一文の時もあったが、春花が何とかクビになりながらも食いつないでギリギリ貯めれたお金だ。

 最近は自動販売機の値段も高いものもあるので、念には念をと札で渡す。

 

 そうこうしてる内に新幹線の速度が徐々に落ちていき、軈て駅に停車すると完全に速度が停止した。

 その頃合いを見計らい、春花は開かれる扉と共に迅速に外へ出て、気配を殺して気づかれないように屋上へと移る。

 

「………ん?あれ、そういえばこの新幹線次の行き先が確か…」

 

 ふと、列車内で待機してる美怜は思いついたかのように呟きながら車内の地図を見つめる。

 次に到着するのは…。

 

 

 

 

「焔ちゃん皆んな調子はどう〜?」

 

 様子見がてら春花が見にいくと、案の定焔、詠、日影、未来の四人が屋上にいた。

 …居たにはいたのだが、様子が可笑しい。

 焔は申し訳なさそうな顔で、日影は呆れたように首を傾げ、未来と詠は…何だろう、何て表現すればいいのだろうか。

 

「あはは!私は忍の国のお姫様!ラプンツェルなの!!あははははーーっ!!」

 

「うふふふ、私はもやしの国のお姫様ですの〜…♪も・や・し・も・や・し・♪」

 

 一言で言うなら狂ってた。

 笑顔でくるくる回ったり、お姫様だと主張してるのを見た限り、相当やられたようだ。

 そうなると、それを引き起こした張本人の修行バカたること焔の申し訳なさそうな顔も見解できる。

 

「……ねぇ、焔ちゃん。あの二人に何させたのよ…」

 

「いや、正直反省してるんだ!!手足を縛って風速を耐え抜いたり、実戦形式を行なったり…そうしたら服が裸ておっぴろげになったりと…」

 

「あんな辱め…上忍クラスでも顔を真っ赤に染めてもうてるで。恐ろしいわ」

 

 辱め?

 何それ、超興味があるのだけど…と内心はゾクゾクと興味の刺激を唆られる春花は、何とか堪える。

 

「そ、じゃあ次の駅で皆んなで新幹線に乗りましょう?」

 

「でも春花さん、切符はもう風の彼方へ消えてもうたで」

 

「?いや、何の話かしら?」

 

 簡潔に話を纏めて聞くと、詠と未来が過酷すぎる修行に涙を流し、情けないと呆れながらポケットの中にあるハンカチを取り出そうとした際にとんでもないものが入っていた。

 

 それが、焔紅蓮隊四人分の切符だったのだ。

 どうやら本人曰く確認してあるものだと思ってたらしく、懐に手を入れれば入っていたとか。

 そしてその際に風圧が強くて切符が日影の言葉通り風の彼方へ飛ばされるのだから笑えない話だ。

 そしてお詫びに修行で返すと言うのだから、美怜からすると「頭が痛くなる」と言いそうだ。

 

「普通に考えてやっぱりお馬鹿さんね焔ちゃん…」

 

「貶すな春花!わ、私だって充分に反省してるんだ…」

 

「まあ何でも良いけど、次の駅まで大人しく待ってましょ?今見たら自由席のところ、思ったより空いてたみたいだから」

 

「春花さん、無理やで」

 

「へ?」

 

「この新幹線、次の行き先が京都やから無理や」

 

 何とこの新幹線、次の行き先が京都であるためもう停車しないとのことだ。そして既に動き出してしまってる新幹線に、200㎞もの速度のある状況下で列車に潜れる筈もなく。

 

「そ、それじゃあ私も屋根の上!?」

 

 なんて事だ。只でさえ切符もちゃんと持ってたにも関わらず、何が悲しくて屋根の上で時速200㎞もの速度ある新幹線の風速を浴びながらいけないのか。

 美怜の仰った通り、罰ゲーム以下の何かだろう。

 

「ま、まぁいいじゃないか春花。美怜が車内で待機したるとはいえ、初期焔紅蓮隊が揃ったと思えば…」

 

「…こうなった以上は致し方ないけど、絶対に修行はやめなさいよね?この二人にトラウマ植え付けちゃって正気じゃないもの」

 

「うう…分かってる。京都まで大人しく待ってるさ…」

 

 こうして、春花も結局京都まで屋根の上で過ごしながら待機してるのだとさ。

 

 

 

 

 

「自動販売機…これのことね」

 

 一方で、列車内で留守番を任せられた(尤も次の停車まで来られないだろう)美怜は車内の中を歩み進み、周りを観察しながら自動販売機の前まで到着した。

 

「爽健美茶、烏龍茶…天然水に、あら…?これは…こーら?これは何かしら。他にも珈琲…多種多様に飲み物が存在するのね」

 

 生まれてこの方、初めて自動販売機を利用する。

 外の世界へは出てきたものの、街中を歩くことなどほぼ滅多になく、あるとすれば詠と一緒に貧民街へ出歩いたこと位だろう。

 因みに貧民街へやってきた時、腐ったバナナの匂いで相当キツかったそうだ。尤も、詠からすれば香ばしい匂いらしいが。

 新幹線の中にある自動販売機は飲料水の種類が多ければ少ないものも存在する。

 そう言うのは新幹線にもよるのだが…。

 

「取り敢えず指定された通りは買えたし…と言うよりも次の停車が京都だからどの道春花が戻ってこないのは言うまでもないけれど」

 

 気付いたのが遅かったとはいえ、御愁傷様としか言えない。

 自分だったら余計なことはせずに第一優先するのだが、ああいう世話を焼いたりする所を見た辺り、春花も何やかんや母親的なポジションが強いようだ。

 

「土方さん、早く飛鳥先輩の所へ戻りましょーよ!!」

 

「こら風魔さん!はしゃぐのは良いですが車内では走らないでください!他の乗客様に迷惑がかかりますよ!」

 

「ん?」

 

 騒がしい…と思い横目で目を遣ると、茶色の長髪女性がオレンジ色の短髪をした活発的な女性へと注意してるのが伺える。

 恐らくあのオレンジ色の髪をしたお茶目な子が風魔と呼ぶのだろう…どうでも良いが、第一印象として猿っぽいなというのが感想だ。

 理由?何となくという大雑把な訳だ。

 

「うぁ…っ」

 

「きゃっ…!」

 

 などと余所見をしながら歩いていると、前方の方に体をぶつけてしまう。幸いにも相手が転ばずにいただけで良かったが、意識が逸れて注意不足だったのは此方に非があるだろう。

 

「むにゃ…ごめんなさい……」

 

「いえ此方こそ、私も注意が足りなかったから。大丈夫かしら、怪我はない?」

 

 相手の様子を伺いながら怪我の安否を確認する辺り、そこまで非常識に染まってはいないようだ。

 水色の短髪をした少女は何処か眠たげな表情をしており、うとうとと睡魔に襲われてるように見える。

 

「貴女、眠たそうにしてるけど…こんな所で寝てたら流石に迷惑よ。まぁ…ぶつかった私が主張する事ではないけど」

 

「うん…大丈夫……ありがと…」

 

 美怜の声は聞こえてたようで、少女は軽く言葉を発すると自分の座席に戻ろうとするように前へと歩を進める。

 少々危なっかしい様にも見えるが…

 

「……個性的な人間ばかりね」

 

 溜息を吐きながら、再び辺り一面を見渡すと、どの乗客も容姿や人柄なのが色濃く出ているのが伺える。

 例えば美白な肌色をした金髪少女と、ドラゴンの様な顔立ちをした男性や、黒い短髪の少女と緑色のフードを被った火傷跡の男性、猫耳をした女性が一人、低身長の老人がなど、よく観察すればどれも興味深そうにも見える。

 特に異形系の個性なんかがそうだろう。異形系はそれぞれ分類されており、発動型や常にその状態を維持してる等の個性など別れている為、まだまだ解明されてない個性の部類なども存在する。

 などと呑気に乗客を観察していると、またしても騒々しい空気が乗客の中から流れ混んできた。

 

「ふえぇぇん!デコピンはやだよぉ…!!」

 

「ぐぬぬぬぬ…まさか、この俺が負けるだなんて…!!」

 

「あっはははは!!柳生ちゃんと雲雀ちゃんの負けだね!」

 

 否が応でも耳に聞こえてくるので、意識は自然とその乗客集団へと向けられる。

 集団になってる乗客は、見たところ学生なのだろうか、白い学生服を着てる五人の少女が愉快に楽しげにトランプでババ抜きをしているのが目に見える。

 そう言えば、あの風魔とか土方、そして眠たげな表情をした女もあの五人と同じ制服を着ていたなと記憶を辿りながら思い出す。

 五人座席の後ろにもう四人の学生がいるのを見ると、計九人の学生が修学旅行で満喫するのだろう。

 

「皆さん、余り騒がない様に…他のお客様にも迷惑が掛かりますよ」

 

 そんな騒がしい集団の中、凛とした声が耳を打つ。

 どうやらあの集団の中ではとてもまとも…故に物静かな黒髪ロングのお淑やかな女性は動じずに読書を嗜んでいる。

 

「あ、他のお客様といえば…屋根の上から声が聞こえてくる様な…」

 

「えぇ?そんな声聞こえてましたかね?菖蒲は葛姐のことばかり気にしてて仕方ありませんでした!」

 

「おいコラ!こんな所でアタイにセクハラしようとするな!普通に怪しい目で見られるし斑鳩の言う通り迷惑になるだろうが!!」

 

「葛城さん、一言だけ言わせて下さい…貴女がそれを言いますか?」

 

(焔達の事ね…まぁ、勘付く人もいるには居るのね。それにしてもあの子達も随分と面白そう…何処と無く焔達五人と面影が重なるわ)

 

 脳内で焔が無茶無理な修行を無理強いさせてる絵面が安易に想像付く美怜は、賑やかそうな学生を横目にそのまま自分の席へと戻ろうとする。

 

(………学生ね、私も学校に行けてたら、常識や倫理を身に付けれたのかしら)

 

 ふとあの学生集団を見て純粋な疑問が脳内にこびりつく。

 あれだけ愉快そうに、仲間の輪に入り楽しく談笑する姿を見て美怜は心がないと思う自分に、僅かなあったかもしれない未来を妄想してしまう。

 今までベルゼ兄さんの保護として身を守られ、育てられ生きてきた事に何ら不満は無かったし、寧ろここまで立派に守り育てくれた兄には親の様に感謝をしている。

 然し、自分が捨てられずあの様に普通の人間として、学生生活を送る未来もあったのではないだろうか。

 そうしたら友達や感情の疎い自分も、笑ったり泣いたり、怒ったり悲しんだりする事が出来るのではないか、そう考えてしまう自分が何処かに存在する。

 

 ――だけど。

 

「まっ、今の私にはどうする事も出来ないし。仕方ない事だわ――だからと言って死ぬわけじゃないもの」

 

 そんな起こりもしない非現実的な妄想を延々と長く浸る程、美怜は甘くはないし、切り替えが早く簡単に切り捨てやすい。

 憶測は必要だ。

 然しながら、心底この先役立つ考察などはどうでも良いし、正直言って無駄でしかない。淡く抱いた好奇心は、自分の理性で無理矢理砕き、元の座席に座って購入したコーラの蓋を開けて喉を潤す。

 

「んっ!刺激が強い…これが、炭酸の強さ…そしてこの口の中に広がる独特な甘さ…中々いけるわねコレ」

 

 生まれて初めて飲んだコーラは、どうやら刺激が強かった様です。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、貴女達…バカなの?」

 

 そして京都の駅に新幹線が停車し、充分にグロッキーな未来と詠、申し訳なさそうに反省する焔、無感情な日影、呆れた春花、この五人を冷たい目線で飛ばしながら呆れそうに言葉を呟く。

 

「いや…面目無い……修行をやったらトラウマを植え付けてしまった…」

 

「無理な修行や過度な訓練は精神的なストレスや障害を産む可能性もあるから、充分に考慮した上での修行じゃないと本末転倒よ。

 というか純際に疑問なのだけれど、よく最後ら辺は物音立てずに過ごせたわね?」

 

「最後は反省して静かに京都に着くまで待ってたそうよ。まっ、確かに焔ちゃんって無茶と危険を修行の最適化と認識してるから。これでも言う事を聞いてくれただけで大分利口になったんじゃないかしら?」

 

「まっ、わしは悪く無かったけどな。ただ詠さんと未来さんはすっぽんぽんになりそうやったし。公共の場では無茶があり過ぎるわな」

 

「だからだわ、焔が意図せずに危険な死地へ飛び込もうとするのも…こういうのを、ドMって言った方が適切なのかしら?」

 

「お前たちバカにし過ぎだろ!?というかドMじゃない!私はお前達の為と思って…」

 

「あら、焔。貴女はいつから私たちのお母さんになったのかしら?」

 

「………」

 

「むぎゅぐぐぐぐ……」

 

 美怜の挑発にまんまと乗せられる焔は思いっきし美怜のほっぺたを摘んで伸ばしてゆく。思ったよりも柔らかく伸びがよく、何だかんだ可愛く見えてしまうのが小動物らしさを感じさせる。

 焔は単細胞ではあるし、脳筋で猪突猛進、オマケに口から出る言葉は修行、訓練、鍛錬のパワーアップ用語。

 危機を乗り越えてこそ一流だの、ヒーローはいつだって逆境を乗り越える、とも言うけれど。

 

「お待ちしておりやしたぁ、あんさんら6名が京都の観光者ですね?」

 

 駅で六人が騒いでいると、聞き慣れない声が耳に届く。振り返ると老けたおじさんがニッコリと微笑みながら此方へ尋ねてくる。

 

「あ、はい…そうですが…」

 

 律儀にも一般市民を相手にする焔は野蛮で男勝りな口調とは一変し、丁寧に話し出す。

 公私混同はしない主義であり、我を貫くにせよ他人に対して堂々と荒々しい性格を剥き出しにする程の女ではない。

 

「この人…誰?」

 

 新幹線の屋根の上で修行で死にかけた未来は、恐る恐ると相手を尋ねる。対するおじさんはニコッと和らげな笑みを浮かべて落ち着かせる様に振る舞う。どうやら未来が子供らしい見た目をしてるからか、怖がらせないように優しく語り出す。

 

「えぇ私は京都観光地ガイド案内人の『光山優』と申しますんで!話は聞いておりましたんで。いやはや、間違いじゃなくて良かったぁ…!」

 

「…………」

 

 がははと豪快に笑う人柄の良さそうな大人を前に美怜は沈黙をしながらじっと観察をする。

 

「ガイド人なんて初めてやわ、まあ旅行する事自体滅多にないもんやしなぁ」

 

「私も…それにしても随分と豪華な服なのですね。お金持ちなのですか?」

 

「詠ちゃん。基本このガイド人してる人ってボランティア活動が多いのよ」

 

「そうなのですか!?!そ、それでは是非とも貧民街の観光地ガイド人を雇う事は…」

 

「詠、貴方個人でやれば?」

 

「あっはっは!随分と個性豊かで賑やかですねぇ御嬢さん方々!私は基本的に身だしなみを良くしてるからですよぉ。昔はこうロックとか、ファンシーなのとか結構流行ってたり好きだったりしてたんで。そんな富裕な家庭って訳じゃあないですよ…

 

 …あ、旅館先まで距離があるので、軽く観光地を探索がてらしてからホテルに行きましょうか」

 

 旅館まで距離があるのでそれまでは自由に探索をしながら…だそうだ。勿論旅館先に着いた後も自由行動に含まれるのだが、基本このガイド人が付いてる期限は帰る日までらしい。

 太っ腹というべきか、何方にしろ気前の良い優しい男性で良かったと思う。

 

「それにしても六人とも学生でしょうかあ?今この時期は学生は学校に登校してる頃でしょうし…」

 

「あら、貴女には私と未来が大人に見えるのかしら?周りからも幼稚体型だと思われて見てるのに?」

 

「美怜、アンタ超失礼じゃない…?」

 

「何が?」

 

「あっははは!いやはや喧嘩する程仲が良いとはよく言いますなぁ!」

 

「あら、意外と貴方って観察眼に長けてるのね。正解よ」

 

「いやアンタはどこからどうしたらそんな自信満々な返答が出来るのよ?!」

 

「でも美怜ちゃんと未来ちゃんって確かに似た者同士な上に仲良いですものね。何やかんやで小説を読ませてるくらいですし」

 

「あ、ああああアレは参考程度で…というか詠お姉ちゃんお願い小説の話はやめて…」

 

 何やらトラウマか何かでも残されたのだろうか、急に未来は忍の家のラプンツェルの話題を出されるのを避けてるような反応を取る。

 …と言うのも、美怜に読ませた結果『恋愛とは?』を始めた文章の構築、終わりのライン、その他諸々指摘を食らった為にゲッソリしてしまったのが本音だ。例えるなら小学生の低学年の子供が読書感想文を親に見せる時と同じような感覚だろう。

 別に指摘をくれる事自体は嫌いという訳ではないし、何方かと言えば意外な返事になるかもしれないが、美怜にはとても感謝してる。

 そのお陰で以前よりも物語の構築度や、背景や心理を描く事が出来たし、登場人物一人一人の過去や背景を細く執筆する事が出来たので、割と協力的だったのは心の底から嬉しかった。

 超絶大ファンな紫からも高評価の嵐はあるものの、具体的なアドバイスは無かったので有難い。

 然し、後々と哲学的な質問をされるたびに萎えてくるのだ。

 

『恋愛とは何か貴女は知ってるの?』『恋は唐突にと言うけれど、どの展開も複数同じく重なることが多いわね?』『そもそも貴女は具体的にどう物語を書きたいのかしら』『貴女は読者に何を想って、何の作品として伝えたいのかしら』『この女性は一度失恋してから恋に走ったのだけれど、恋をする相手は誰でも良いの?それなら其処に妖魔も入らないのは可笑しいわね?』

 

 みっちりしごかれ、かれこれ50問以上の質問や訂正箇所があり、一時期美怜が鬼のように見えた。

 てか何よ妖魔も恋愛対象って、どんな物好き!?

 彼女は読書好きだからと参考程度に見せた結果、倍以上にしごかれたと来たものだから、作品としては嬉しいが、心は鑢のように削られるのは言うまでもなく。

 因みに美怜と一緒に一話を投稿したら三倍以上の高評価を貰えたので、意外にも非難することは出来ない上に割とメリットの方が勝るのだ。

 

「未来の作品はマンネリ化があれど決してくどくないし、インパクトはあったから大いに有りだけど…足りない部分があったからそこさえ補えばもっと良い作品を出せると思うわ」

 

「ふ、ふん…そんなに褒めても何も出ないからね!」

 

「そんなつもりは毛頭ないのだけど」

 

 作家と脚本に似た関係なのだろうか、案外悪くはない様子だ。

 未来は何かしらと感情的になり、起伏も激しくよく美怜と衝突するため、良かれ悪かれ相性は宜しくない。

 未来は小馬鹿にされるのは勿論、真に受けてしまうため美怜の揶揄いや挑発にまんまと乗せられたり、笑われたりしてしまうのでどうにも…。というか美怜自身は面白くて仲が良いと本気で思い込んでるのだから敵わない。

 

「先ずは軽く昼食摂りましょうか。飲食店を探すので行きましょう」

 

 観光ガイドはパンフレットを見なくとも土地には大分詳しいので、飲食店が多くある場所を目指すように進んでゆく。

 案内人の後を追うように、焔紅蓮隊は進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

カツ、カツ、カツ…。寂れた、一才物音がしない廊下をただ歩んでいく。手に持った真紅に染めた手紙を指で摘む様に持ったまま、歩む速度を落とさずに真っ直ぐと。

 

扉を開けば、ただ広い空間が広がっていた。壁なんてものは存在せず、外と部屋を隔離してるこの部屋は、超防音窓ガラスで壁一面覆われていた。

 

「お待ちしておりました――天咲魅影」

 

異様に落ち着いた、ノイズが走ったかと錯覚する声色。歓迎する様に、腕を広げながら、愉快に椅子に座り、会議室の豪華な机の上にPCディスクと書類が散らばった環境で、彼は楽しそうに胸を弾ませていた。

 

 

「ようこそ、京都棚窯区域ビジネス支部56へ。ご足労なさったコトでしょう。さぁ、ゆっくりと寛ぎ下さい。貴女と是が非でも、こうしてご対面したかった――さぁ、約束通り取引を始めましょう」

 

 

 

 

 


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