光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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投稿遅くなりました、理由はあります。
ゲームはちょいとだけですけど、本当は昨日投稿したかったんですよね。というかあのペースなら出来てたね、うん。
でも遅れた理由はゲームではなくイラスト描いてました、美怜ちゃんのです。後書きに載せます。


214話「THE・新幹線」

 

 

 

 

 

 

 

 東京駅はどんな季節やどの時間帯に於いても充満と人混みで溢れている。

 特に秋頃に近いこの季節なんかでは修学旅行やらが近付いてくる頃だろう…蛇女なんかでは合宿に温泉旅行などがあったし、他校でも旅行先が京都で合宿なんて展開はそう珍しくもない。

 途絶えることを知らない東京駅より人混みで溢れてる中、焔紅蓮隊は離れることなく一団となって集団行動で駅の改札に留まる。

 

「よし!お前達ついに待ちに待った念願の京都旅行だ!!今までバイト生活やら野草生活やらで窮屈な日々だったが…切磋琢磨し合い、詠のお陰でこうして京都へ行けるんだ。

 今日から思いっきし羽を伸ばして旅行を満喫するぞ!」

 

 集団を纏め活気良く語る焔に、未来や春花は何処かとても嬉しそうだ。

 

「油取り紙に、映画村!楽しみなのいっぱい〜!中学校以来よね〜!!」

 

「他にも美怜ちゃんが喜びそうな京都名物とかも沢山あるだろうし、今からでも待ち遠しいわぁ〜♪」

 

 観光地、名物やらで溢れてる京都という地は歴史とともにとても有名だ。回る場所も多いし和を主張とし重んじる情景は正に忍である自分らとも落ち着く行き場でもあるだろう。

 

「ん?詠、貴女どうしたの?そんなこの世の終わりみたいな顔をして。あれだけ京都を楽しみにしてたのに…」

 

 そんな楽しそうな雰囲気の中、美怜がいち早く異変を感じたのか、様子が可笑しい詠に一同も不思議と首をかしげる。

 

「み、皆さん…どうやら……京都へ行くには新幹線を使って行くそうです…」

 

「何を今更…と言いたいところだけど、そう見たいね。あれが新幹線…中々パワーでヘヴィーな機械的移動車なのかしら。昔は機関車などで移動してるのが多いとあったけど…時代ともにこうも変わるのね」

 

「そうです!!その新幹線に問題があるのです!!」

 

 詠は恐ろしく怯えてた様子から一変、険しい顔立ちで捲し立てる。

 

「なんと…!聞いたところによると新幹線は200㎞ものスピードを出すんだとか!!そんな速度で移動するだなんて危険すぎます!スピード違反にも程があります!!」

 

 …どうやらこの金髪美少女、新幹線に乗ったことがないらしい。

 

「詠さん、新幹線乗ったことないんやな」

 

「その新幹線を超えるほどのスピードをハヤブサは持ってるそうね。何がともあれ、こんな公共の場を設けてる新幹線にスピード違反も無いのだから、心配する分だけ無駄だわ。精々人身事故だの飛び降りによって遅延することを考慮だけしておきなさい」

 

「うわ…なるべく考えるだけしたくないのに妙にリアリティあるのズルイ…」

 

 因みにハヤブサは時速300キロのスピードを出しているという世界最速ギネスにも記録されてるらしい。ロシアなどの実験データでは360という世界最速を覆す記録を更新してる為、美怜からすればあんなものなんだと頭の中でイメージしている。

 

「然し美怜ちゃん…!もしかしたら何かしらの事故があって爆発するかもしれないんですよ!?」

 

「仮に爆発するケースがある新幹線を人に乗せてること自体、その人間の神経を疑うのだけど……根拠もない妄想を垂れても阿保な目線で見られるのは貴女だけよ」

 

「アホ!?私そこまでポンコツですか!?」

 

「これがギャグならそこそこ面白い路線で行けると思うわ」

 

 完全に揶揄い上手の美怜さんと化してる。

 

「ぬわあああぁぁぁぁ!?!」

 

 と、此処で突然と焔が言葉にもならない絶叫を喉から発した。

 

「今度はなんや?」

 

 

「そ、その…新幹線の切符がない!!」

 

 

「ええぇええ!?!」

 

 焔の思いもよらない発言に、未来もまた絶叫して叫び出す。

 周りからの変な目線が集中して色んな意味で痛くなる。

 

「恐らく隠れ家に置き忘れたか…それとも途中で落としてしまったか…くっ!私としたことが…!!」

 

 この京都旅行は焔紅蓮隊の疲れを労う意味も込め、美怜の歓迎会としても含めた旅行だというのに、こんな事では自動的にキャンセルにする他ない。

 切符がなければ京都も満喫出来ない上に、京都先による待たせてるガイドにも申し訳ない。

 

「それじゃあ京都には行けないってことになるなぁ」

 

「やだやだやだ!!映画村は!?八つ橋は!?油取り紙は!?」

 

「うふふふふ…♪残念ですが、切符が無いのでしたら仕方ありませんね…京都旅行は諦めましょう!」

 

「嬉々として全然残念そうじゃないのは何故かしら?」

 

「ふぇ?全然そんなことありませんよ〜?」

 

 まだ新幹線が危険物だと認識してるのか、美怜の指摘を流すように微笑む詠は安堵の息を漏らしてる。

 

「私はちゃんと切符を持ってるわよ?こんな事もあろうかと自分で管理してたの」

 

「あら春花奇遇ね、私もよ。他人に任せるより自分で管理してた方が安全保証もあるし、誰かさんが失くしたせいで私が行けなくなるだなんて嫌だもの。やはり自分の管理下の方が安心できるのもあるし、持ってて正解だったわ」

 

 なんとこの息の合うマッドサイエンティスト二人組、焔の眼を盗んで二人共自分達で管理して保持していたそうだ。

 二人の手元にはたしかに京都行きの切符を持っている。

 

「えぇっ!?美怜に春花様狡い!!」

 

「狡くなんかないわよ?ねぇ、美怜ちゃん?」

 

「そうね、相手の切符を盗んだとかならまだしも…ただ自分達で管理してただけなのに非難されるなんてね」

 

 そう言われると何も反論できなくなる…いや、分かってる。こんなもの唯の我儘で、非情な現実を嘆くだけの醜い足掻きというのは。

 だとしても、黙っていられずにはいられないというのが人間の性というものだ。

 

「まっ、と言うわけで京都旅行は私と美怜ちゃんの二人で一緒に行くことにするわ♪皆んなの分も楽しんで来るから」

 

「取り敢えずお土産位は買ってきてあげるけど…未来は油取り紙で良かったわね?」

 

「八つ橋は?というかやっぱ置いてけぼり前提の話なの?」

 

「いやダメだ!焔紅蓮隊は家族同然――六人揃って行動するのが基本だ!!」

 

 嵐のように飛び交う雑談の間中、焔は首を横に振り春花と美怜の二人の行方を拒もうとする。

 

「焔、幾ら自分の過ちに負い目を感じてるとはいえ私と春花に京都旅行を行かせないというのは見苦しいわよ」

 

「そうそう…それに態々京都に行かないというのも酷じゃない?」

 

「いいや、打つ手はある!切符がなくて座席に座れないのなら…!!」

 

 座れないのなら?と皆が心に思う事を、焔の放たれる次の言葉で全員が絶句する。

 

 

「新幹線の屋根に乗ればいい!!」

 

 

 その一言に、文字通り全員とも眼を丸くし言葉を失う。あの美怜でさえも驚嘆してそうな顔で正気を伺っているのだから。

 未来は手で頭をガシガシと掻き、日影は手で頭を抑え、春花は度肝を抜かれたような顔立ちで、詠は正気かという目で凝視する。

 

「…あかんわ焔さん、その発想は流石にぶっ飛びすぎや」

 

「焔ちゃん…幾らなんでも新幹線の屋根の上は…」

 

「毎度無茶はするけどさぁ…幾ら何でも限度ってものがあるよ焔ぁ…」

 

「……正気ですか焔ちゃん?」

 

「貴女はどうしてこう…やる事が殆ど修業に直球するのかしら。どんな思考回路に至ったらそんな考えになるの?脳筋にも程があるんじゃないかしら…」

 

「煩い!それに考えてみろ、新幹線でさえ中々に乗れない私達だ、屋根の上で修行なんて更に早々滅多にない!正に最高の修行場所だと思わないか!?

 京都の移動に修業ができる…一石二鳥というやつだ!!」

 

「修行って言葉にそんな利便性あったかしら?」

 

 美怜の冷静なツッコミも意に介さず、焔の瞳は熱く炎の如く燃えたぎる。

 そんな焔の情熱さに一同(美怜を除き)は「ああ、ダメだこりゃ」と諦念する。この時の焔は完全に頭に熱が昇り、何を言っても修行の方向に猪突猛進してしまっている。

 

「屋根の上で修行…時速200キロのスピードで安全装着もなしにとなれば相当ハードね、冷静に考えたら切符無しに乗れるって考えは魅力的だけど、そこに修行だなんて無茶振りをする辺りから貴女らしいといえば貴女らしいけども…」

 

 新幹線の屋根の上などジェットコースターを安全装着無しで二足歩行で立ってるような超人的なものだ。下手すればプロヒーローでさえもそんな危険的ジャンルに手を染める事はないだろう。

 風速200キロもの風圧が押し寄せては上手く体を動かす事はおろか、バランスが崩れれば吹っ飛び命の保証もないのは皆まで言うまでもなく安易に推測可能な事だ。

 然しその危機的状況を敢えて修行と言い張るのだから、困ったものだ。

 

「まあ何でも良いけど、私と春花は切符を持ってるし新幹線の中で寛いでるわよ。修行に付き合う道理もないし、切符を持ってるのにこんな無茶振りに付き合わされるなんて罰ゲーム以上の何かだろうし」

 

「今回は私も美怜ちゃんと同じくって事で、中で待ってるわ」

 

 この時こそ春花と美怜の境遇に羨ましいと思った事はないし、詠も屋上より中にいた方が断然マシだと思っただろう。

 

「やはりダメですわ!!新幹線の上で修業だなんて…這いつくばるだけならまだしも、そんな危ないことをしたら新幹線が爆発しますわ!!」

 

「心配するな詠!お前はもっと新幹線を信じろ!!」

 

「焔、突っ込んで良いかしら?

 貴女はまず切符を忘れたことを反省しなさい。それとその修行とやらが原因で新幹線が停止して京都に行けないなんて大惨事になったら怒るわよ」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 新幹線の中というものは思ったよりも快適で、春花は学生時代に利用し事があるので珍しくもないのだが、美怜からすれば全てが初めての景色…ただただ子供のように周りを眺めてる。

 

「詠が物騒なことを呟いたりするし新幹線というものがどんなものかと思ったけど…凄いわ、断然的に過ごしやすそうね。窓もあるの、外の景色も眺められる…絶好の機会ね」

 

「席に座りましょう、この切符の札は…私と隣の席ね。上に荷物を載せれるから、しまってから座りましょうか」

 

 何十人者の人が席に寛ぎ、中には飲食物をテーブルに乗せたりと開放的で便利な機能を使ってたり、家族同士なのか談笑しながら席に着くもの、来て早々に眠ったりする客などが大勢と新幹線の中にいる。

 この安全的な光景を詠に見せてやりたいものだ。

 

「春花は新幹線に乗った事があるんだったわね、そう珍しくもないの?」

 

「珍しくはないけど滅多に乗らないわねぇ…まっ、元々そういう機会にも疎かったし。詠ちゃんも電車くらい乗ったことはあるけど、あの子都会や今の世間の事を詳しく知らないから大目に見てあげてね?」

 

「私は構わないわよ?ああ言う反応を見てるのも悪くなければ、どちらかと言うと面白くて好きだし」

 

「揶揄うのもいいけど程々にしなさいね?」

 

 席に着きお互いが寛ぐ間中、屋根の上では今も焔達が過酷な訓練に身を投げてることなど御構い無しに、軽い雑談を交わしながらパンフレットを開き楽しく会話をし合っている。

 

「ねぇ春花、この八つ橋を始めた宇治抹茶スイーツはどのお店が美味しいのかしら…?沢山店があったり同じ品物も出てたりで目移りするのだけど…」

 

「そうねぇ、私はこの杏密という店がオススメかも。口コミとかでも結構評価も高いし」

 

「口コミ…?そう、ならそっちにしようかしら。そうそう、金閣寺や清水寺にも観光で観に行こうかと思うのだけど…こういうのって中は見物できるの?」

 

「う〜ん…流石に無理なところもあるわよ?それに景色を眺めたりするってだけでもそれはそれで楽しいし」

 

「晴天の青空を見ると鬱病に患った人間の心理が和らぎ癒されるように、外の景色や美しい情景に心動かされる人間は少なくないと言うものね。中の物触が出来ないのは残念だけど…まっ、実物を見ると言うだけでも大収穫だし、仕方ないわね」

 

「ホント、美怜ちゃんは好奇心旺盛な子ね。詠ちゃんやお兄さんが妹だと思う気持ちも大切にしたい想いも分かるし、何だか子供みたいよね」

 

「ふふ、有難う。私は自分のこの幼稚体型には特に気にしてないけど、貴女からその言葉が出ると言うのも珍しい気もするわ」

 

「そうかしら?」

 

「ほら、詠に妹がいても不思議ではないけど、春花に妹とは何となく想像が付きにくくない?」

 

「ねぇ美怜ちゃん、それは一体どう言う意味で言ってるのかしらぁ?」

 

「さぁ…?一体どんな意味なのでしょうね?」

 

 高速で移動し通過していく新幹線の中を座席で寛ぎながら談笑する二人の会話は、やれ方向転換がぐるりぐるりと回ってて会話が飽きないでいる。

 春花は年齢的には18歳ではあるが、見た目と性格的な差があり何処か母性的な熟女を感じさせる。尤もそれを気にしてるのが春花であり、美怜はそんな春花でさえも揶揄い面白がってるのだから怖いものなしだ。

 

「………ねぇ美怜ちゃん、ちょっと聞いてもいいかしら?」

 

「?何かしら、改まって」

 

 京都の事ではなく別件の話と想定した美怜は、パンフレットを眺める目を声主の春花に向ける。

 

「美怜ちゃんは…生まれた時から彼処で生きてきたのよね…?」

 

「そうね、思い立った時にはベルゼ兄さんに助けられて生きてきたわ」

 

「それで、貴女のお兄さんと美怜ちゃんは全く違う存在だった…そこで忘れがちだったけど…両親の事についてどう思ってるの?」

 

 何となく真剣な雰囲気ではあるが、美怜が子供らしい部分に二人っきりというシチュエーション、そして子連れや家族が多いこの状況下で、無意識につい親について思い出した節があったのだろう。

 ついつい、お姉さんらしい自分ではなく、弱々しくも何処か本性を現したような一面を見せる春花は、美怜の頭に手を置く。

 

「…別に、何とも思わないわ」

 

「そうなの?逢いたいとか、両親はどうしてるんだろうとか…」

 

「確かに、兄さんが妖魔と発覚し私という人間がこの世に存在している以上は成人男性と女性が私の親として存在していたのは事実。

 でも私はさっき話したように思い立った時は兄さんに育てられて生きてきた。親のように子育てしてくれた兄さんを家族だと疑わなかったし、今となっては顔も名前も場所さえも知らない親についてどう思うかだなんて無駄だと思ってる」

 

「……直球ねぇ」

 

 流石に無駄だなと思ってると切り捨て断言する美怜に、春花は少し引き気味だった。それもそうだろう、それを淡々と事実を述べてるのだから。

 

「オマケに今生きてるかも不明だし、仮に生きてたとしてもそれを知る術なんてないし、私のことを知ってるかさえあやふやだわ。やむを得ない事情だったのか、私の事を要らないと捨てたのかどちらかでしょう。そしてその理由もわからなければ、その根元である根拠さえ掴めなければ知ることもできやしない…だから無駄だと思ってる。

 …ただ」

 

「ただ…?」

 

「私のこの…美怜と名付けてくれた事だけは感謝してる」

 

 それは、彼女からは予想外の返事だった。

 

「名前というのは存在を意味現してるわ。名前がなければそれは、存在しないのと一緒…兄さんに名前も呼ばれず、自分のことさえも知れず……私は何者にもなれなかった。でも、両親が私のことをどう思ってるのかは分からないけど、私に名前をつけてくれたことは、凄く感謝してる。今言えることは、それだけよ」

 

 名前がなければ、呼んでもらえる名前がなければ存在を為すことが出来ない。

 それはいても居なくても変わらないような、そんな朧気な存在。

 両親のことは知らないし、今は知るすべも知ろうとする気もないけれど、でも…自分を愛してくれる兄さんが名前を呼んでくれること、家族に名前を呼んでくれること、それ自体が感謝するべき事なのだと美怜は感じているのだ。

 名前は自分が生まれた場所で何故か美怜と名前が描かれていた事から、美怜と呼ぶようになったのだ。

 

「…やっぱり美怜ちゃん、見た目は子供なのに考えてることは大人ね。それに比べて私は中身はまだ子供なのかしら」

 

「どのラインが大人か子供から分からないけど…悩みでもあるの?貴女が家族のことについて話すだなんて意外だし」

 

 どうやら美怜の目は本当に誤魔化せないようだ、本当に伊達眼鏡じゃないかって突っ込みたくなるほどに。

 

「…美怜ちゃんの過去を知ってて、私の事だけ知らないってのも不公平よね。私の家はね…」

 

 春花の口から語り出たのは両親の事について、家族の束縛や家庭内の環境。

 そして自分が鈴音に目を付けられ蛇女に通うまでの過程を、美怜に本音をぶつけるように零した。

 焔達にもあんまり話さない自分達の内情を打ち解けたのは、雲雀と美怜の二人だけだろう。

 

「………そう、貴女のバックにそんな過去があったのね。だから蛇女にいるのも、傀儡の才能があったのも…貴女が誰よりも束縛を受け人形自身にされてたから、なのかしらね」

 

「そう言えば忍術の開花って、個性ともう一つはその人間の本性を現してるものね。皮肉にも違いないわ…」

 

「それにしても、どうして今になってその話を出したのかしら」

 

「迷惑だったかしら?」

 

「いいえ、純粋に疑問を持っただけ」

 

 それも知的好奇心なのだろうか、いつだって彼女を突き動かすのは目先に映る謎を解き明かそうとする欲求。それが彼女の源なれば、致し方ない。

 

「…ちょっとね、美怜ちゃんが羨ましく思えちゃったのかも」

 

「羨ましい…?」

 

「そっ…」と素っ気なく俯くように返事を返す彼女は、少し照れくさいのも含めて中々もどかしいのだろう。

 

「それと同時に美怜ちゃんと一緒に通じるものもあるし…私はね、美怜ちゃんのお兄さんのように暖かく真っ直ぐな愛情を注がれた事もなければ、あの家にいるだけで中身が腐るように歪んだ母親の溺愛に束縛されてしまってた事…似た非なる形だけど、私と美怜ちゃんってそんな感じがするのよ」

 

 春花の言葉に大凡理解した美怜は、納得したように相槌を打つ。

 兄に真っ直ぐな純粋な愛情を注がれた美怜と

 母の歪んだ溺愛に中身が腐り行かれた春花

 

 そして、家族という存在が心も体も縛りつけるというその境遇に、共感を持ち合わせてしまうからこそ、話さずには居られなかったのだろう。

 

「春花、ちょっとこっち向きなさい」

 

「んえ?」

 

 突然とこっちを向けと言われた春花は言われたままにすると

 

 美怜が少し座席から立ち上がり、春花を抱きしめる形で頭を撫でていた。

 一部、視界に入る周りからも一瞬視線が集まるのも束の間、突然の行動に思わず息を飲む。

 

「みっ…?!」

 

「どうかしら、こうするの…気持ちいい?」

 

「気持ちいいって…」

 

 気持ちいいというより動転してしまう気持ちが大き過ぎてそんな事は言ってられない。

 

「私はね、ベルゼ兄さんによく幼い頃からずっとこうして貰ってたわ」

 

 美怜は耳元で囁きながら、ゆっくりと落ち着いた口調で、それこそ母親が子供の頭を撫でるように抱擁を施す。絵面的には逆な気もするが、それは触れてはいけない。

 

「私が初めて文字を覚えた時、数字の問題を解く事ができたとき、他の妖魔の子達と仲良しになれた時、本を読んで知識を身につけ兄さんに教えてた時、いっつも兄さんは正面から優しく抱きしめてよく頭を撫でて貰ってたわ…」

 

『エライネ美怜、凄イネ美怜。僕ハソンナ楽シソウデ頑張ッテル美怜ガ好キダヨ』

 

 兄さんはいつも独りだった自分に沢山の愛情を注いでくれた。些細なことでも、美怜が何かを成し遂げた時、笑顔で楽しそうにしてる姿や一生懸命に物事に対して集中してる時など、いつもこうやってあやしてくれてたのを思い出す。

 もうそんな風に当たり前のように愛情を注いで尽くしてくれた兄は今はもういないけれど…

 

「春花、貴女が一体何を通じてどんな気持ちで親の愛を受けたのか、過酷な環境に身を置かれた心情は、当事者でなければ分からないし、本当の愛情というのも私では判別付けることは出来ない…けど――」

 

 一区切り終え、改めて顔を見合わせる。

 

「新しい家族なら、此処にいるわ」

 

 それは美怜自身が心の底から焔紅蓮隊のことを家族だと心の底から信頼を寄せ、愛してる証拠のもの。

 

「過去は消えない、変えられない。そして元には戻れない…でも、これからの愛情や想い出は沢山作れるわよ。それが可能なのは、今生きてるからこそできること。

 まぁ尤も、私は貴女の母親ではないし…親限定という話なら流石に難しいところではあるけれど…」

 

「………美怜ちゃん、何だか大分大人になってない?」

 

「そう?自分の変化なんて気付かないけれど…貴女が言うのであればそうなのかしらね」

 

 美怜は相も変わらず日影のような乏しい感情をした顔立ちで小首を傾げる。こういう可愛らしい面は子供らしいのに…不思議な子だ。

 それが美怜という少女の個性なのかもしれないが…。

 

「まさか、美怜ちゃんに慰めてもらうだなんて思ってもなかったわ」

 

「あら、慰めて貰えて良かった?なぁんてね、でも…事実を述べたまでだから。

 ……それに、貴女の気持ちも分からないでもないから」

 

 最後は少しだけ小さな声で呟くと、美怜は微かに微笑んだ。それは自分が無表情だと感情がないだのと言ってた彼女とは未比べ物にならないそれは、何処か日影のような面影が重なる。

 

「……私の両親は、最低なクズだった…でも」

 

「殺してないのでしょう?何度でもやり直せると思ったから、手にかけなかったのでしょう?そう、親心がある時点で貴女はやっと人形から人間に戻れたって訳ね」

 

「もしも…今の私と再開できたら、上手くやれるのかしら…」

 

「分かりもしない未来なんて、分かるはずがないでしょう…けど、貴女がしたいようにすれば良いわ。そして信じて進めば良い…人間っていうのは、信じたいと思う道に歩んでいく生き物だから。

 貴女が両親に会いたくないと思えば会わなくても良いし、再開したいと思うならすれば良いわ。其れに関して、誰も貴女を責めることなんてないし、それこそ何かが減るもんじゃないんだし。

 

 私からの意見だと、家族や親がどうであれ特定の人物に拘らなくても良いと私は思うけどね」

 

 親は血が繋がっていなければいけないか?

 家族が同じ志を持つ仲間でダメだろうか?

 兄が妖魔であることはいけない事か?

 

 美怜の話を聞いてると、ふと常識的な考えに疑問さえ思いついてしまうほどに。

 

「はぁ〜……やめね、湿っぽくなっちゃった!私らしくもない、こういう辛気臭い話より、明るい話でもしましょっか!ほら、折角の旅行なんだし」

 

「そう。なら未来の言ってた映画村って所なんだけど…」

 

 …有難うね、美怜ちゃん。

 直ぐに切り替えが早い美怜を横目に見つめながら、再びたわいない雑談を交わす。

 

 きっと、兄と今まで過ごして来た彼女だからこそ春花にだけは言えた事だろう。勿論、両親の愛を受けながら貧困育ちで他界した詠とも話し合えると言えばそうなのだが、何というか詠の場合は重すぎるので躊躇ってはいた。

 然し彼女のように敵対することも壁を作ることも、贔屓する事もなく真正面から本音を言える少女だからこそ、此方も思うように隠す事なく喋ることが出来る。

 

(新しい家族…か――)

 

 それは同時に、ベルゼ兄さんからも卒業したという意味合いが込められる言葉に、成長を感じるもののあの妖魔のことを思い出す。

 あの妖魔はどうして、そこまで美怜のことを固執していたのだろう。もしベルゼ兄さんが見境もなく人を殺す妖魔なのであれば、美怜はとっくの昔に死んでいただろうし、こうして新しい家族としてで迎える事もなかったわけで。

 

 ――お兄さんには、感謝しなくちゃね。

 

 紡いでくれた兄のお陰で、こうして焔紅蓮隊には新しい家族の一員が増え、そして美怜もまた自由に外の生活を謳歌する事が出来る。

 そう考えると、改めて美怜の兄は本当に強くて、誰よりも妹想いで、本当の本当に世界一の兄だと痛感させられる。

 

 嗚呼…もし自分が本当に辛くて耐えられなかった時は、側に誰かがいてくれる。

 それは母の着せ替え人形として、誰にも心を開けず閉じこもり、孤独のまま壊れてしまってた自分からは、想像もつかない程に恵まれてるのだなと。

 

 

 

 

 その頃、新幹線の屋上では

 

「いやだああぁぁぁ!!おっぴろげはもう嫌だああぁぁぁああぁぁ!!!」

 

 とてつもない未来の絶叫が、風速200㎞と共に木霊し阿鼻叫喚が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




美怜「過去は消えない、だけどこの先生きてれば沢山家族としての想い出や愛情は作れるわ」
荼毘「過去は消えない!!ザ・自業自得だぜぇ!!」

うーん、この違い。


今回この真紅編でも無茶振りすぎる回を挟んだのですが、修行パートは流石に無理がありすぎるのでこうして春花と美怜にスポットライトを当ててみました。
とは言うものの、真紅でも偶に「春花さん一人でなにやってんだろ」と思ってもいましたし。
そして今思えば美怜って本当に焔・詠・日影・未来・春花を凝縮したような感じなんだなぁってふと思いました。


あ、それと前書きで言ってたイラストは此方。


【挿絵表示】


はい、こんな感じです。元ネタは完全に監獄に出てくる童話の美少女を元にしたキャラなのですが作者はとにかく芭蕉と同等くらい大大大大好きなのでオリキャラとして活躍していきたいです。

美怜

「美怜、焔紅蓮隊(悪)の定めに舞い殉じるわ」

「貴女達!今すぐ武器を構えなさい!!気を抜くと死ぬわよ!!」

「お菓子…!んん〜〜…♡さいっっっっこうに幸せだわぁ〜…♡はぁ、正に至福の時…これが私の…個としての、リビドーなのね…♡」

勝利時

「完全勝利よ…ふふ、造作もないことね。その程度で笑わせるわ」

敗北時

「ダメ…だったわ…これは、計算外ね……」

???時

「あっはは…!♡来たきた…♪ミンチにしてあげるわあぁ〜…!」

「完全勝利で圧倒的にねじ伏せてあげる…あはは!!」

「きゃはははは!!♡肉塊がっ、斬り刻んであげるわぁ…!!」


こんな感じです。んぁはい。

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