光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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203話「警告」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷宮のような妖魔の巣から、更なる奥地へ進んでいくに連れ、数々な罠が作動し、焔紅蓮隊一業を襲う。

 足を踏み入れ探索を行ってから罠らしき罠などなかったというのに、あの兄妹から離れてからいきなり作動するようになった。

 

「詠!日影!無事か!?」

 

 後方の仲間の安否を確認するよう焔は叫ぶも

 

「ご心配なく!!」

「ほっ、はっ、と――」

 

 詠と日影は作動する罠を突破していく。

 両壁から吹き矢、上からはギロチンをモチーフにした断頭の刃が降ってくるというギミックは、どっからどう見ても侵入者を排除する為のものだろう。蛇女に居た頃よりも、此処のトラップによる性能は高く、幾ら鍛え上げてきた紅蓮隊とも言えど、マトモに喰らえば致命傷に繋がりそうな程に。

 詠は大剣を盾に吹き矢を防ぎ、日影はナイフで振るい落としながら、上から降ってくるギロチンを難なく躱す。そしてそこから飛んでくる矢を躱したり落としたりと、兎に角忙しい。

 

「焔ぁ!前から来るよ!」

 

 未来の鬼気迫る忠告に焔は前面を見やると、前からは醜い竜の石像から火炎放射が吹き溢れる。

 ボボゥ!と燃え盛る炎を前に、焔は六爪を大きく振るい立て、吹き溢れる火炎を一時的に遮断。焔には炎と言った熱さにはそれなりの耐性も備えていれば、炎などはほぼ効かないが、仲間たち全員に襲うのであれば、未来の傘で盾として踏ん張って貰うしかない。

 

「未来!ガードしてくれ!春花は横から来る岩を止めててくれよ!」

 

「長くは持たないから…!なるべく早くね!!」

 

 右側の廊下からは巨大な丸岩が此方に襲いかかってきてたのだが、春花と傀儡が協力して岩を止めてくれている。

 春花は傀儡を使役してるだけの傍観者のように見えるが、実は意外とヒットアンドアェイとトリッキーな戦法を扱い、肉弾戦を得意とする。

 それでも次々に押し寄せてくる岩に、今でも押して相殺してるのがやっとだ。これ以上この時間を続けられてしまえば、ペシャンコになるよりも先に腕がもげてしまいそうだ。

 

「よし、抜けたで!」

 

「春花、詠、日影!直ぐに未来の後ろに回れ!」

 

 全員が罠を抜けたことを確認すると、後は未来を頼りに後ろについて行きながら炎を掻い潜るだけ。

 無事に火炎放射器の石像から抜け出し、次の道へ進む廊下を見ると、ひとまず安堵の吐息を漏らす。

 

「ふぅ、やっと抜けたか。妖魔の巣には何が出るかは分からんとは思っていたが…罠まで機能してるとはな」

 

 これまでに遭遇した罠は一筋縄では行かなかった。

 床から槍や針が飛んできたり、死角になる廊下の曲がり角に行くと毒矢が飛んできたり、終いには視界もそこまで良くない為か、廊下には電流や底なし沼、滑り床、更には落とし穴に傀儡まで設置されている。

 妖魔を呼ぶ鈴もなれば、物や背景に紛れ溶け込む妖魔など、限りなく侵入者を徹底的に排除する為の罠だと鮮明に伝わってくる。

 

「罠があると言うことは、元々普通の校舎では無かったということ…やはり忍学校か」

 

 罠を掻い潜ってた中、廊下には檻やら手錠に繋がれた鎖やら、更には白骨化した死骸が転がっていたのを考えてみると、間違いはないだろう。あくまで推測ではあるものの、妖魔の巣にしては随分と細かく校舎内はしっかり再現されている。

 然し、忍学校が妖魔の巣と化したのであれば、何が原因でそんな現象が起きたのかが気になるところだが、今は其れを考えても意味がないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡り、仲間と一緒に態勢の立て直しを含め、美怜とベルゼ兄さんについて、焔は今回の忍務で話し合っていた。

 

「お前達、今回の忍務について話し合いたいんだが…良いか?」

 

 其れは、引き上げるか戦うかの二択。

 今回の忍務は妖魔の殲滅に近い、調査を含めた少女の捕獲という命令事項であった。

 場合によっては処罰をしても構わない…というように、対処は忍達に任せるという内容だった。其れは五人全員とも記憶に残っているし、忘れたなんて事はない。

 だが……

 

「正直、忍務の事を考えると私たちが無理をして続けなくても良いと思うんだ――」

 

 焔の言葉に、流石の四人は目を丸くする。

 まさか焔から、こんな事を言われるとは思ってもいなかったのか

 

「焔さん、本気で言ってるん?」

 

 と、感情ないと自称する日影は驚き

 

「焔…?!どうしたのよ…らしくないじゃん!!」

 

 と未来はそんな焔に少しだけ、叱責するかのような言葉を投げる。

 

「勘違いするなよ、別に私は怯えてるとかそういう意味じゃない。私の意見としては、どちらかと言うと忍を殺したベルゼという兄の妖魔は放っておけないし、美怜という女について聞きたいこともある。然し、幾つか理由がある」

 

 其れは、仲間たちの意見も尊重する事だ。

 鈴音も言ったように、今回の忍務失敗で咎められる事はないと言っていた。今まで善忍悪忍という上層部に雇われてる忍は、失敗こそ死を意味表し、況してやいかなる命令も命を以ってして果たすという義務感や使命感があった。

 だが今の焔紅蓮隊は久々の忍務とはいえ、失敗してしまえば殺されるというケースは少なくない…というよりも、元より追われてる身なので殺されないというのは少々可笑しな話だが、それを咎められる事はないだろうという話である。

 なので、焔達が引き上げて今回の妖魔の巣について、情報を出すだけでも、寧ろ上層部はより紅蓮隊の功績を称えるだろう。

 

 今まで生きて帰った忍がいないと言われてた妖魔の巣から、情報を持ち帰ったというだけでも賞賛に値する。

 其れは良いことだ、然し焔からすれば……撤退ではなく負け犬同然のような扱いとなる。

 妖魔との戦闘経験が少ない上に、カグラにもなってない半端者の学生が、そんな高難易度レベルの忍務を達成できるのは非常に困難というのは分かっていても、焔はそうなる決断も考えていた。

 

 此処で下手に自分のプライドで仲間達を危険な死に追いやらせ、自分の判断ミスのせいで仲間を死なすより、仲間たちの意思を尊重して全員で決めた考えの方が、焔の気分もそうだが効率が良いし、撤退すれば仲間たちの生存率は一気に上がる。

 信頼してない…訳ではないのだが、今回ばかりは流石に厳しすぎる。弱音ではない――抜け忍とはいえ忍という志しを持ってる以上、命を懸けてでも使命を全うするのが焔流だ。

 だが、自分の想いが必ずしも思い通りになるとは限らない…だからこそ、時には諦めも肝心なのだ。

 苦渋ではある……だが、仲間を背負うというのも、リーダーとして判断をするというのも、そういうものだと近頃、成長を通して感じたのだ。

 

 次にもう一つは美怜のような平和的な解決策だ。

 彼女は自分たちが妖魔を殺し、荒らした侵入者にも関わらず、見逃してあげると言っていた。

 嘗て刀を交えた飛鳥のような甘ちゃんではない…アレは警告だ。

 見逃すということは、つまりチャンスをやるということ。これ以上見逃した好機を、出ていかなかったのにも関わらず更に足を踏み入れるものならば、殺すという遠回しのメッセージ。

 美怜はそういう算段もあって語ったのだろう…でなければ、態々と自分から訪ねに行って見逃さない訳ではない。

 自分たちを殺さなかったり、追い出そうとするだけで済ます辺り、本当に戦いを起こして欲しくないという想いが強いのだろう。

 でなければ、もし荒らして欲しくないのなら力付くで殺せば、直ぐに済む話だ。

 

 其れに…妖魔が襲わないというのであれば、自分達が態々危害を加えてまで攻略する必要はない。

 そう考えると今回の忍務は無理して続ける意味がないと思えてきたのだ。何より理由や経緯がどうであれ、あの二人が兄妹である事に変わりはなく、況してや自分達がやってる行いは、何も知らない兄妹の仲を切り裂こうとしているのだ。

 

 忍務を遂行する上でのメリットは、上層部からより良い評価を受けるのは勿論のこと、ベルゼという妖魔の被害に遭わずに済むという事だ。

 理由はどうであれ、忍を幾重も殺したベルゼの被害は尋常じゃない。ならば、ここで倒す事で今後とも忍が命を落とすことも、迷い込んだ人間が被害に遭うことも今後はなくなる…そう行った点では、ベルゼは倒さなくてはならない存在になってしまう。

 だからこそ、焔は今回の忍務…とても一人で勝手に選択を決めるのは、余りにも重すぎるという話だ。

 

「んー…確かに焔ちゃんの言うことは一理あるわねぇ。態々見逃してあげるって話してるのに、それを無下にすれば…今度こそ逃れられない死の戦場――下手すれば私たち全員、此処で命を落とした忍達の一人になるんだし、焔ちゃんにしては大分考えた方なんじゃ…」

 

「一々一言余計だぞ春花!!私は…」

 

「ええわかってるわ。だから私の意見としてはあの子…美怜ちゃんは勿論、あの妖魔も放っておけないって事だけ言っておくわ」

 

 此処で春花は意外な事に、忍務を続行することを選ぶ。

 

「確かに生存的に考えれば逃げの一手が一番なのだけども…でも、美怜ちゃんの事が気になるし、あの妖魔だって人を殺す事に躊躇いが無かったわ。アレは、慣れてる動き」

 

 美怜がどれだけ優しい言葉を並べようと、本当は人を殺す事に躊躇いがないベルゼを、確実なる善や正当防衛だとは言い難い。

 罪悪感があるのならば、話し合って解決は出来るのかもしれないが、そもそも話し合いすら難しいと判断した春花は、実力行使でしか解決できないと考えた。

 

「せやなぁ、わしはどっちでもええし逃げるも闘うのも焔さんの好きにすればええけど。でも逃げたところで上層部がまた此処に忍務を出さないって可能性は低いと思うで」

 

 日影の言ってる言葉は尤もだった。

 例え今回の忍務で失敗したとして咎められないてしても、焔紅蓮隊とは違う別の忍達が此処へ向かい、被害に遭うケースは低い訳ではないのだ。

 最悪、兄を従えさせる妹を殺せということもあり得る…そうなれば、今度こそあの美怜っていう少女は冷酷無慈悲で、此処にきた忍は勿論、一般人にさえ危害を与えかねない。

 そうなれば、焔紅蓮隊の責任にもなる。

 

「私は…出来ればあの兄妹とは仲良く平穏に暮らしてほしいと思うことはありますが……日影さんの言葉で思いました。これは、私たちは無視できない忍務だなって」

 

 詠は最初、逃げの一手を考えた。

 意外なことではあるが、詠だって何も無意味に争いをしたい訳ではない。美怜の言う通り、何事もなかった事に、穏便に済ませたいのであれば、此方も応えたいという意思が強かった。

 しかし、また此処が別の忍に荒らされては、兄に殺される可能性は捨てきれない。そうなれば見逃した自分達に非があるし、上層部に説得は無理があるだろう。

 妖魔を見逃せなんてことを、融通が効くわけでもないし、話を聞いたとしてもそれを守る保証はどこにも無い。

 だからこそ、せめて自分達で終わらせなければならない…あの兄妹の暴行を。

 

「そっか…私たちのことを考えてくれたんだね焔は…でも、大丈夫。確かにあのベルゼって妖魔は怖いし、あの生意気な美怜ってやつの言ってることは、悔しいけどつい納得しちゃった…。でもこのまま引き下がるのなんてわたし達らしくないというか…うん、なんかこのまま黙ってられない!」

 

 未来は何というか、真っ直ぐだなと思う。

 子供らしいといえば「ムキーッ!」と怒って喚き散らかすのだろうが、それでも自分達の為に戦う事を望んでくれるだけでも、充分に有難い。

 何方も意見は纏まり、結果としては…

 

「よし…っ 決まりだな。このまま探索を続けて、ベルゼと美怜を何とかするぞ。特にあの妖魔は…多分、まだ徘徊してると思う。匂いが遠のいたり近付いたりしている、注意を怠らず気を引き締めて行くぞ!」

 

 どうやら皆の意見は纏まった様だ――こうして賽は投げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして今に至るわけだが、奥に進めば進むたびに方角が分からなくなっており、偶に同じ場所をグルグルと回ってる様な錯覚にさえ陥ってしまう。

 美怜やベルゼが自分達の住処を、此処を家と言うには余りにも広大すぎて、逆に把握しているのかとさえ問いたくなってしまう。

 古き校舎だからこそ、今のような半蔵学院みたいな恵まれた環境構造の面影もなければ、より薄暗さも相まって殺伐とした感が増している一方だ。

 

(……そう言えば、偶に見るこの拷問部屋の様なものだが、これもアイツら兄妹の仕業なのだろうか?)

 

 流石にこの家をベルゼが一人で作ったとも考えられないし、美怜のような細くて幼い小さな体をした少女が、建物の構造をどうにか出来るわけじゃないのは、充分に想像が付くが、それにしては家に白骨化した死骸をそのままに置いておくのは、家としてどうなのか…さえ疑わしく思う。

 妖魔と名乗るのだから、臭いは気にしないにしろ、見る側としては余り心地よくはない。

 

「焔さん、妖魔の匂いはどうなん?」

 

「此方を探るように徘徊してるが…私たちの存在を認識できてないのか、今のところ遠のいてる」

 

 妖魔の前に、まずは少女を探した方が賢明な判断かもしれない。いや、実際にそうだろう。

 美怜はベルゼがいるからそれを使役…と言うよりも、兄に頼って追い払おうとして話が通じない。ならばベルゼが居ない今なら、少女に逢うのが好機であるだろう。

 尤も、自身を妖魔と名乗る以上…彼女が攻撃を仕掛けてくる可能性もあるが、そこは臨機応変に対応するしかない…と言うのが現実的だろう。

 

 暫く先の廊下を進んでいると、見慣れない一本道の廊下が見えてきた。薄暗さにしてはどこか異様な空気が流れており、教室や窓、ロッカーや下駄箱、それらの学校の雰囲気とはかけ離れていた。

 

「なんだ……これ」

 

 然し、焔が固唾を飲み込み呟いた声は、そんな学校から離れた景色ではなく、壁に映された遺跡のような壁画だった。

 その絵は魅力的でありながら、まるで幻想に包まれるかのような神秘さは、妖魔の巣にしては余りにもかけ離れた空気。見てるだけで、歴史を覗いてるような感覚が研ぎ澄まされる。

 

 黒き竜が、護身の民達と争い血を流す戦争の絵。

 黒き竜が、醜い化け物を縛り、使役している絵。

 黒き竜が、妖魔と人を惨殺したような地獄絵図。

 

 どれもこれも未知と理解に及ばない不可解な絵ではあるものの、その絵に何処か惹き付けられるような、魅力さえあるのは、芸術的なものも関係しているかもしれない。

 特に大きな8枚絵は印象的なものもあった。

 

 ――悪魔の角を生やした巨軀たる邪神の絵。

 ――黒き月の邪竜が、太陽の女神と護身の民と対峙する絵。

 ――巨大な烏が、古き人々を守り村を覆う絵。

 ――不気味な箱が、人と妖魔を食い荒らし、禍災を起こす絵。

 ――全てを喰らい尽くす暴食の魔物の地獄絵。

 ――大空を舞い、支配する神龍の絵。

 ――天を翔け、神をも喰らう獰猛な狼の絵。

 

 これは…忍と妖魔の歴史なのだろうか?

 それとも昔の人間が描いた芸術なのか…何方にしろ今の焔達では理解できない絵ではあるが…

 

「アート…?昔の人が描いたものかしら…妖魔の巣にもこんなものが…」

 

「ねえねえ見てみて焔!これ!!」

 

 関心に浸る春花や詠、唯一芸術性やら絵の意味を理解できない日影の隣で、未来は叫ぶ。

 未来の声に反応した焔は、言われるがまま指差す絵を見やる。

 

「なっ!?これは…??」

 

 絵を見た焔は絶句した。

 学校に擬態した四足歩行の巨大な蛇が黒き竜に縛られ、人を無差別に殺し、血の海に、村を壊滅させる絵。

 その大蛇の絵は粗質ではあるが…それでも直感で、何よりも既視感があって瞬時に理解する。

 

 

 これは…怨楼血だ。

 

 嘗て道元が復活させたあの怨楼血…あの妖魔や道元のせいで、蛇女はメチャクチャにされたのだ。

 その怨楼血が何故絵として記されてる?いや、そもそもさっきからいる黒い竜は何なのだ?

 まるで、黒い竜が妖魔を使役してるような…妖魔を使役し、殺してるその姿は、人間で言う奴隷のようだ。

 

「これは…怨楼血か…?」

 

「悪趣味にしては…とても只の歴史の絵とは言い難いわね」

 

 最初は神秘的な絵が古くからあったのかと思った。

 然し、怨楼血の絵を見て変わった。

 これは…全て実現されたものなのだと――この絵に記されたものは、妖魔と人間の歴史なのだと。

 聞いたことがある、怨楼血は何百年も前から存在が確認され、災厄を振り撒き多くの人間が命を落としたと言われている。ならば、その悲劇を描き写されたものが、この壁画ではないか?

 

 何なのだこれは…然も怨楼血の歴史には黒い竜の事など聞いていない。ある黒い竜は怨楼血を槍や牙、爪で傷つけて、ある黒い竜は縄で首を締め付け、ある黒い竜は指をさして命令を下してるように見える。あくまで絵面からの把握なのだが、それにしては何とも…

 

 

「貴女達…まだいたのね」

 

 

 などと絵に集中してた焔達に、聞き覚えのある少女の声が一本道の廊下から響いた。

 

「美怜…!!」

 

「まさか、罠を掻い潜り無傷でありながら…ベルゼ兄さんの猛攻や追跡から逃れるなんて……本当、貴女達には興味が湧いてきたわ」

 

 本を片手に持ちながら、此方をジッと見つめながら状態や様子を観察する少女は、何処か感心している。

 

「あ、アンタに聞きたいことがあるんだから!!お、大人しくしなさい!そうすれば、命だけは取らないわ…っ!」

 

「未来、それ逆効果ちゃうん?返って警戒を高めさせちゃうだけやで」

 

「で、でも…アイツは私たちのことを警戒してるんだし…どっちにしたって…」

 

「自分達の立場を漸く理解したのかしら?警戒して怠る事はないでしょう?…それに、聞きたいことについては、私からもあるから」

 

 脅す未来の姿は何処か説得力というか気迫が欠けており、日影は相も変わらずダウナーな声で彼女の頭を撫でながら無気力そうな顔でつぶやく。そんなやり取りを見て微笑を浮かべる美怜は、警戒してると言っていながら何処か余裕そうではあるが…

 

「聞きたいこと?家を出て行けと言いながら、今度は聞きたいことがあるだなんて…随分と忙しいのね貴女」

 

「いきなり顔も知らない侵入者が入ってきたら誰だって嫌がるでしょう?それとも外の世界では他人が勝手に家に入ることが当たり前なのかしら?それはそれで縄張り争いが起こりそうな気もするけれど……っと、話が脱線したわね。取り敢えず、貴女達も私に聞きたいことがあるって様子を見た限り、この家にまだ用ありなのでしょう?私も貴女達に聞きたいことがある…お互い一時的とはいえ目的が一致してるというのなら、今は立場を置いて話し合いをするべきなのかしらね」

 

 お互い会って間もない。にも関わらず、美怜という少女は警戒を緩めず、距離を置いて対話を望む。

 思ったより好都合…それに、此方としても願ったり叶ったりだ。ここまでは予期せぬ順調――ここからだ。

 

「なぁ…どうしてお前は最初に私たちを殺さなかった?そもそもこの壁画は何だ?それと廊下にあった拷問やら罠やら…あれは全部お前達の仕業なのか?それと……お前は本当に妖魔なのか?お前からはベルゼのような匂いがしない。何より…」

 

「…………一気に質問が多いのだけれど。まぁ良いわ。でもその代わり」

 

 

 質問攻めする焔に美怜は眉をひそめるも、そのあと薄っすらと微笑を浮かべながら歩み寄り

 

 

 

「――悪いけど貴女達、この娘借りるわね」

 

 

 焔を抱き締めると、壁に手を触れた途端――床が開き美怜と焔は仕組まれた床の絡繰によって、姿を眩ませた。

 

「なっ!?」

「悪いけど、一対一で対話を望みたいの。安心して、何もしないわ」

 

 彼女のゆるりとしたその身のこなし、警戒は怠っていないと言うのに、まるで通学路を歩むように、母親を抱きしめるように。

 少女は動揺する焔の耳元で囁きながら、こそばゆい感覚と落ちてく感覚に囚われながら、二人は姿を消した。

 

「焔!?!」

「焔ちゃん!?」

 

 未来と詠はてなんとか手を伸ばすも、その手は届かず…いや、美怜に拘束されてる以上は無理があるだろう。

 体を掴めず、距離も届かず、四人は焔の名を叫ぶも、それすら虚空に掻き消えるように…。

 

 

 






難しい!!最近頭が働かない上に語彙力が減ってしまった。
今思えば小説の羽を休んでしまうとどうしてもこう、文章力が減ってしまうんだなって思う。
無知は罪とはよく言ったもので…


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