光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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シノマスに牛丸参戦したけど、どうしよう…インターン編で牛丸出てないんだけど……彼女は、出る幕ものんびりだった??

そして何よりも、今になって気付いたのがインターン編を始めたのが去年からという衝撃な事実。


189話「追跡」

 

 

 

 

 

『オメェは極端すぎんだよ、何事もな』

 

 治崎が組として正式に働いてから、拾い元である組長はいつも呆れながらも口を揃えてそう言っていた。

 

『また、他所のシマで喧嘩したんだろ。派手にやらかしたそうじゃねえか』

 

『ウチの組に勝手に入って喧嘩を売ってきたんで、返り討ちにしてやりました。死んでも解らないような馬鹿には生温いものでしょうよ』

 

『…………』

 

 当時の死穢八斎會はまだこれと言った裏の名は馳せてなく、知名度も低い弱小ヤクザだと罵られていた。

 組長が元々、温和で争いを好まないだけで、総動員で動けばそれなりの実力と成果を発揮することなど、態々口に出すまでも無かった。

 それを良いことか、本当に無知なバカなのか、八斎會の組にちょっかいや冷やかしをする輩が目に余る。

 なので治崎はそんな愚鈍な連中を見せしめのアピールとして、矯正したまでのこと。

 

『……なぁ、お前が俺に恩を返したいって気持ちは分からないでもねぇ…けどな、何度も言うがお前はやり過ぎなんだ。ちったぁ頭を冷やせ…それにお前、薬に手を出してるそうじゃねえか』

 

『…っ』

 

『……俺の見てねえ所で、違法の薬物売ったりしてよ。良いか、心のない外道に付いてくる輩なんざ居ねぇ…暴力と金を貪る奴なんざ、チンピラと同じだ』

 

 解ってる、そんな事。

 治崎は眉をひそめながら、心の中でそう呟くと、苦虫を噛み殺したように表情を歪ませる。

 

(それでも、組長…俺は、アンタの為に……)

 

 恩義を感じてる治崎は、組長にだけは情が深い。幼い頃、こんな病気とも呼ばれてた自分を拾ってくれた治崎にとって組長とは、正しく命の恩人とも呼べるものだ。

 汚いやり方だろうが、姑息だろうが何にせよ、自分の命を救ってくれたかけがえのない組長の為なら、命だって張れる。

 組長のああいう仁義を重んじる姿勢や思い遣りに、他の構成員達は惹かれたのだろう。治崎もその一人ではあるが、その中でも彼は特に異端で、文字通り度が過ぎている。

 

 

 

 

『東堂組のもんが解体された』

 

 あの時だってそうだ。

 ヒーローの活動によって、東堂組が解体されたと知った組長は、何処か寂しそうだった。

 確か東堂組は八斎會とは代々から長い歴史、縁のある極道だったそうなのだが、つい数週間ほど前にプロヒーロー達によって見事に解体させられたと聞く。

 

『こちとら、ただただ肩身が狭くなっていく一方か…』

 

『そうですね、このままじゃ何れ八斎會が潰されるのも時間の問題……新たな革命が必要だ。なぁ親父…前に話した壊理の件、少しは考える気に――』

『オメェはまだそんな事言ってんのか、この前シメられたばっかだろうが、分かんねえのか。人の道に逸れちゃあお前、それこそ侠客終いよ。心のねぇ外道に、人は付いていきゃあしねえ…その根本的な考え方を見直せ、あの娘は道具じゃねえ、人間だ。たった一人の女の子だ、お前だってそれ位は言われなくても知ってるハズだ』

 

 治崎の計画は、壊理の体を使った超人社会の新たな改革――その要たるや壊理の個性を薬品として闇市場に売り捌き、上手く活用して八斎會をトップに成り立たせる。

 その為には人体実験や細胞の摂取、人体を使った非人道的な手段は、あからさまに常軌を逸していた。

 況してや、壊理は組長の孫に当たる存在――確かに組長と血の繋がった孫娘を異能破壊弾にするのに、賛成する人間などいないだろう。

 だが、治崎にとってはそんな得体の知れない孫娘なんかよりも、組長の方が一番大切だ。

 だからこそ、壊理の体や事業など心底どうでも良いし、どうなろうと知ったことではないのだ。

 

 だからこそ、そんな非人道的なことを平気でやってのけるんだ、治崎という男は。

 

 

 

 

 結局、組長は分かってくれない。

 自分の考えを、このままじゃ何も為せず肩身が狭くなりながら、ただ時間と共に潰されるだけだ。

 

 組長の部屋から出た治崎は、頭を悩ませながら、眉をひそめる。組長は確かに恩義で優しく、だからこそ他の構成員もそんな組長に惚れ、後を追うように背中に付いてきた。

 その中でも自分は、親のいない誰も繋がれなかった俺に、唯一手を差し伸べてくれた。

 どうしても、どうしても恩を返したい…このままじゃ何も返せないまま、八斎會が潰されるのを黙って見てろだなんて、そんなこと絶対にさせやしない。

 

『何でだ…本当は解ってるんだろ…?もう腹を括らなきゃいけないんだ……何時迄も意固地に甘い考えじゃ、どの道八斎會は潰されるだけだ…!』

 

 嘆くように、愚痴を零しながらも、治崎はふらついた足取りで戻っていく。

 前に壊理の個性を調べさせて欲しいと言われたあの段階から、自分は彼女の個性を武器として、薬として闇市場に流せば、八斎會の知名度と名誉、何より立ち直れると確信していた。

 壊理の個性とはそれほどに貴重価値のあるもので、素晴らしい能力だった。

 それを以前話したら、半殺しにされた。

 

 多少は如何なる反論も受け応えるつもりではいたが、初めてだった。アレほど冷徹に、無慈悲な目を受けたのは、生まれてから一度もなかったのに…

 傷の痛みより、心による衝撃が一番に重々しかった。自分の意見を、まるでゴミでも見るかのような目線を浴びせられたのは、生まれて初めてだった。

 

『そうだ…ヒーローだ。ヒーローが…組長をあそこまで追い込ませて……』

 

『まーた、悩んでるッぽいスね、治崎』

 

 自問自答のように、独り言を呟いてる間中、横に入るように聞き慣れた相棒の声が耳に届く。

 

『クロノ…』

 

『まぁ見るからにこの前見たく半殺しにはされてないようで。今回はどんな話をされたんですかい?』

 

『ああ、東党組が解体されたって聞いてな…もう時間もないのに、八斎會が潰されるのも時間の問題だってのに…組長のやつ、全く話を聞いてくれない……もう、甘い考えだけじゃやっていけないんだよ…!!』

 

 治崎が心を許してるのは、クロノスタシス――玄野針だ。この頃はまだ切裂や音本といった仲間と言える者はおらず、頼れるのは玄野だけだった。

 

『まぁ、ヤクザといえど…実の娘ですからねぇ。弱小ヤクザが復権して、支配者になるってのは現実味じゃありませんが…壊理さんはそれを可能にしてくれますし……言いたいことは解るッスよ?』

 

『クロノ…こうなりゃもう強行突破しかない。壊理の個性を使うぞ。アレを目にすればきっと親父も解ってくれる筈だ…それに、こういった科学的な実験は昔から得意だろお前…』

 

『まっ、そうですねぇ…治崎の頼み事とあらば、断る理由は無いッスよ』

 

 組長より俺の頼み事を聞いてくれるクロノは、なんやかんやで長い縁を持つが、こういう時はとても頼もしく見える。

 

『頼んだぞ…』

 

 

 

 

 

 

 こうして出来上がったのが、個性も忍術の概念も消すことが可能な異能破壊弾なのである。

 数に限りはあり、一気に大量生産出来る品物では無いが、それでも充分に強力な価値が見出せるだろう。

 最初は試作段階に突入し、そこから破壊による個性の効果維持の検証、ここまでは順調だっものの、問題は持続性の長さだった。当初は一日二日の日程時間が限界で、完成品と呼ぶには程遠く、持続の効果維持を永遠に保つのには大いに苦労した。

 それなりの知識と技術、時間との労働を経て、漸く完成品が完成したのだ。

 

『漸く完成しやしたね』

 

『ああ、随分と長い時間を掛けたが…やっとの思いで完成品が誕生した…これで個性や忍術といった能力は完全に消滅する』

 

『まぁ、問題なのは五発精製するのに1ヶ月かかるってのが大きなデメリットですけど…』

 

『チンケな独学と然るべき環境が整ってないからだろ、金や目的が順調に達成さえすれば大量生産も可能になる。

 駒が増えればこう言った医学に詳しい奴も自ずと現れるだろうし、何なら複製可能な個性を持つ奴がいてくれりゃ幸いだな』

 

 あと少し…あと少しなのだ。

 自分たちが裏社会の支配者となり、凡ゆる社会を牛耳り支配するのは。もうあと少しの辛抱なのだ。

 

『見ててくれよ親父…俺は、必ず組長のアンタに、恩を返すから』

 

 

 

 

 

 

 

 

「音本…!!撃て――!!!」

 

 発砲命令を下す治崎に、涙で視界がぼやける音本は、投げられた完成品のケースを乱暴にこじ開け、拳銃の中に入れる。

 拳銃を構えた音本は瞬間――躊躇した。

 

 

 何処を!?何処を狙えば良い…?!

 

 完成品の異能破壊弾を装填し、構える音本の内心――困惑色を浮かべては、動揺と焦燥が激しく瞬発的に昂ぶった。

 

 八斎會の幹部の中、完成品の存在を知っているのは入中を除き、音本と八斎會四天王のメンバーだけだ。

 この弾の重要さと貴重さは計り知れない故に、無駄撃ちは出来はしない。精製するのに一ヶ月以上もかかると言われてるこの破壊弾、普通なら当てられても、この弾の重みを知ってしまえば、どれだけ狙いが良くても外れてしまう危険性が必ず存在する。それが1%という僅かな可能性でさえも、許されない。

 しかも相手は凡ゆる有機物や無機物問わず全てをすり抜ける能力だ、異能破壊弾の標準を合わせても、個性を使役する時点でほぼ無理。況してや此方の存在に気付かれてる以上、限りなくアウト。

 かと言って若頭補佐は気絶をしており、頼れる状況下じゃないのは見解できる。

 

 どうする?

 どうする?

 どうする?

 

 どうすれば良い?考えろ、冷静になれ、考えるんだ。

 

 

 頭の中で錯乱するように、意識が混濁する音本は、心の中で必死に喝を入れ、冷静さを取り戻そうと激励の言葉を送る。

 かくなる上…いや、よくよく考えれば…一つだけ、確実に当てれる方法が唯一存在するのは…

 

 

 考え悩み、導き出した答えは――壊理に標準を向けること。

 

 

 

「音本おぉぉぉーーーーッッッ!!!!」

 

 

 憤慨と覇気を孕ませたミリオの雄叫びが木霊する。

 標準を向けられた当の壊理本人は、銃口を向けられると、抵抗する姿もなく、耐え忍ぶように身を守る。

 怯えながらも、涙を流しながらも、何かに耐え忍ぶそれは――逃げ出す事をせず、抵抗もせず、ただただこの世の理不尽を受け止めるようなそれは、幼少期の女の子にしては余りにも残酷で、直接目の当たりにしたミリオだからこそ、正義感たるや心の憤りが止まらない。

 

 知ってしまったからなのだろう…痛みと恐怖によって刻み込まれてしまった絶望なのだと――ミリオは理解した。

 

 

 

 そんな少女を守るように、ミリオは先ほどの怒号の顔とは一転――優しく微笑んだ。

 

 

「もう、大丈夫…!」

 

 

 少女に投げる声は、とても落ち着いていて、聞く者に安らぎを与えてくれる。それは、通形ミリオの理想のヒーロー像としてのあるべき形であり、ルミリオンとしての姿。

 

 ――もう、痛い思いはさせないから!

 

 

 

 

 

 通形ミリオがヒーローを目指すきっかけは、幼少期の齢四歳の頃だ。親と一緒に買い物の帰りに橋の上で歩いてたらたまたま個性が発現してしまい、すり抜けたことで川に落ちてしまったという事故から始まった。

 四歳未満の子が何かしら原因の交渉によって個性が現れる、なんて事は今の世代早々珍しい事ではない。

 不幸な事故によって幼いまま命を落としたという例も、ニュースを聞けばそう少なくはないものだ。ミリオもその類で、川で溺れかけていたのだ。命の危機に見舞われているところを、水難救助のヒーローが登場して、助けてくれた。

 

 世間で放映されてるようなニュースと比べて、対して目立った大きなものではないが、少年にとっては死を直面し、恐怖を覚えた瞬間だった。

 怖い物知らずの人間が恐怖を覚えた刹那――それと同時に自分には明確な夢ができた。

 

『俺、ヒーローになって救ける!』

 

 ヒーローになって、沢山の人々を救う事。

 誰もが夢見る職業に、熱意に火が点いたミリオは、夢を語る時はさも楽しそうに興奮していた。幼い頃だからだろうか、健気な男子という印象がより深く伝わってくる。

 父親に『俺たちの個性は一歩間違えると簡単に死んでしまう』と言われた時のショックは大きかったけど、それでもヒーローになりたかったのは、それほどに憧れが少年の背中を押してくれたからだろう。

 

 楽しいこと、辛いこと、苦しいこと、悲しいこと、沢山の思い出や感情を通しながら、個性と向き合っていく姿は、正しく通形ミリオがヒーローになる物語だ。

 

 

 

 そう、なる物語だっだのだ。

 

 

 

 ドスッ――という嫌に静かに響いた音は、聞くものに戦慄を味わせた。

 

 

 

 

 

 

「病人がぁ……!!!」

 

 忌々しい声が、嘲笑する。

 今までミリオが積み上げてきた弛まぬ努力と、恵まれた才覚が崩れたことを、心の底から蔑み嗤う其れは、その場の空気が汚染していく不快な感覚だ。

 

「個性なんてものがあるから…忍術なんてものかあるから…!!人は夢を見る。何者かになれると錯覚し、現代社会に次々と疫病を流行らせる!!お前らという病人が、次から次に病気を撒き散らすんだ!!そして精神に疾患を抱えるんだ!!」

 

 一つ一つの言葉は、

 

「笑えるな!その子を救おうとした結果が、ヒーローになるという夢から目を覚めて、何者にもなれない現実がお前を突き刺すんだ!!そしてエリも結局、俺の言った通り存在そのものが誰かを傷つける呪われた存在なんだ!!!」

 

 何者にもなれない、という言葉ほど残酷で考えさせられるものはない。

 まだ何者でもないはマシだ。今はなくともこれから先は望み次第では何者にでもなれるのだから。

 然し、何者にもなれないというのは、憧れや職業に、トップクラスにアイドルにも、人気者も、人間にさえもなれやしない。況してやヒーローとしてNo.1に近いと称された、あの頃の…17年間の努力をもってしても、もう何者にもなれないのだから。

 

「よくやった音本!!お前のお陰だ…!本当によくやってくれた…!!」

 

「やった…若、若の役に…立てた!!」

 

 音本がいなければ、あのまま手も足も出ずにやられていた。

 この場に音本が出てくれたお陰で、無敵と思わしきミリオは、今では無個性の人間同様だ。

 個性のない人間など、一般人に過ぎないのだから。

 

 

「そしてお前が長年培ってきた努力もたった今――無に帰した!!」

 

 

 勝負は決まった。

 掌をコンクリートの地面に触れ、分解と修復の応用で棘状で刺し殺すだけだ。普通の人間には、何もできやしないのだから。

 

 タッ――!!

 

 地面を蹴る足の音、跳躍したのだろうか、ミリオが動き出す。しかし幾ら動いたところで意味など成さない。

 無個性の人間が、ヒーローになどなれないのだ、なんて思ってるそばから、今まで倒れ伏せてたクロノスタシスが放り投げられるように、此方に飛んできた。

 

「ッ…!クロノ…?!」

 

 単なる悪足掻きか、攻撃する手を一旦中止し、何とか身体でキャッチをすると、何処かへ放り捨てるように、横へと受け流す。

 が、その僅かな一瞬の隙が命取り――目前に現れたミリオは、躊躇いなく腕を粉砕するよう、拳で殴り飛ばす。

 

「ッ…?!!」

 

 ボグ!!と、不吉で嫌な音が、今度は大きく響き、打撲を受けた腕は拳大とまではいかないが、腫れあがるように目立っていた。

 悶絶するような痛恨の一撃と、地肌で触られたことで病気でも起こしたかのように、ブツブツと蕁麻疹が浮かび上がる。潔癖症による症状だろう。

 

「そんな…若!!」

 

 あり得ない――優勢から再び形勢逆転されそうになる治崎の顔色に、音本の声色が曇る。

 この青年、個性が消されても尚…抗い続けようというのか…??

 

「相手の動きをよく見て判断する……治崎――俺はまだ何も終わってないぞ!!!俺は依然、ルミリオンだ!!」

 

 個性をなくしてもこの青年は、未だに威厳も尊厳も失わず、ヒーローとしての責務を全うする。

 個性を消されても、どんな状況下でも、ヒーローは常にピンチをブチ壊して行くのなら――ルミリオンは正しくヒーローの鑑だろう。現に救い守るべき少女のために拳を握り、叱咤しては憤るその勇敢な姿勢は、一言で言えばこれこそがルミリオンなのだろう。

 

 個性が消えた?

 だから何だという、それでもこの17年間の努力は消える訳ではない、個性にかまけてた訳でも無い。

 ヒーローになる――その一心で此処まで登り詰めたのは、夢が彼の心を導き、理想と信念が彼の心を支えてくれたから。

 

 

(ありえない…これは夢だ――非現実な幻覚だ…!!)

 

 脱力で気が抜ける音本は、拳を強く握りしめ地面を殴る。心底悔しがるように、でもって目の前に広がる光景を認めたくないと言わんばかりに。

 

 個性が消えて何故抗える?

 なぜ若と此処まで対等に渡り合える?

 この男はなぜ絶望しない?

 

 無敵かと思えた個性は失ったハズ、若に触れれば即死は免れないという恐怖をその身で味わい、バックには壊理さんがいるにもかかわらず、なぜこの男は此処まで抗えている?

 寧ろ守りながらの攻めは至難を極めるものだ、傷つけまいという枷を背負い、本領さえも発揮できないのに…

 

 

 ――なんだこいつは!!!!

 

 

 

 ミリオが追いついて15分が経過をし、八斎會四天王と懐刀、補佐を一人で倒し、異能破壊弾を打ち込まれて五分が経過。

 再び参戦しながらも応戦に答える音本の助力もあって2対1、そして壊理を傷つけずの戦闘はミリオにとっては圧倒的不利な状況。更には無個性な状態で――

 

 

 壊理を守り抜いたのだ。

 

 

 

 

 だが、そんな状況下で個性発動時のように無傷という訳にも行かず、満身創痍という言葉が適切だ。

 脚は腹部に治崎の個性で応用した棘状のコンクリートが刺さっており、出血している。コスチュームもほぼボロボロで、視界が朦朧とする。意識を保つほどがやっとで、疲労と怪我の蓄積により、当の本人は既に限界を迎えていた。

 

「……!……!」

 

 壊理本人も、止めどない涙こそ溢れ出るばかりだが、何より辛いのが、自分を助けてくれるミリオが見るだけで痛々しく、心が引き裂かれそうだ。

 

「ヒーローになりたかったか……?それとも、壊理を救いたかったか…?ルミリオン……」

 

 一方、治崎は体全身に酷い蕁麻疹を引き起こしながら、息遣いを荒くし、ボロボロな体を支えバランスを保つ。今にでも横たわりたく、体を直したい欲求を押さえ込みながら、血を流す。殴打による腫れ上がりも酷く、骨も何本か折れている。

 圧倒的有利な立場でさえ瀕死に追い込まれてるこの状況、環境と仲間がいなければ確実にやられていたということが安易に思い浮かべれる。

 

「どっちもだ…!!さぁ、来い――治崎ィ!!!」

 

「だからその名は捨てたと言っただろうがァ!!!」

 

 二人の覇気を含んだ怒号が衝突する。

 ミリオは当の限界を超えている、もういつ倒れても可笑しくないその状況下では、確実にミリオが殺られる可能性は極めて高いだろう。

 

 ――頼む、皆んな!!!!

 

 

 

 

 

 ミリオの心の中で叫ぶ願いが叶ったのか、それとも呼応したのだろうか――二つの破壊音が、壁を壊し戦場に轟いた。

 

 

 壁を壊し、救助に追いついた緑谷出久の姿と――横から乱入するように、個性を活性化した切裂を剣で押しつける麗王と、拳で殴り飛ばす切島の姿が、目に見えた。

 

 

 


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