光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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本当は一話でまとめたかったけど、なんか時間と文字数が多いとのことで二話に別れました。分裂です分裂。

それとシノマスでは爆乳祭神引きしました。
氷王の雪泉、鈴音、忌夢×2を引きました。忍魂は今となっては500個近くにまで減りましたが…まあ今までずっと押さえつけてたので…ね?
そして雪泉、飛鳥、焔、雅緋の四人の覚醒を揃えました。もうね、ビックリ。爆乳祭で奈楽しか引けなかった自分がまさか…こんなにも…
お陰で今回の襲撃イベントでは3桁に初ランクインできました。
ストーリー編もクライマックス、そして雪不帰の半妖化は強いけど見た目で笑ってしまったwww
ゼルダの伝説のエルフかよ!!!
そして最高難関の雪不帰、物凄く体力有ってビックリしましたが、無事クリアして称号も獲得。このままカグラロードを止まらずに突っ走りますね。そして願わくば爆乳祭では芭蕉ちゃん出て欲しいです本当に。



175話「芭蕉・オリジン①」

 

 

 

 

 

 衝撃を溜めた腕は、迸る爆竹音を引き立てており、矛先を天蓋と乱波の矛盾コンビに差し向ける。

 ファットガムが蓄えた衝撃全ては、乱波の猛威たるや拳によるもの。直で解る――此れは不味い…と。

 

「天蓋バリア解けェ!!」

 

 そんな天蓋のバリアに乱波は憤慨を発しながら拳で何度もバリアを叩き込む。金属を殴る音が響くものの、亀裂が生じる気配は毛頭ない。獣の如く吠える乱波を他所に、天蓋は恐怖の顔に染まっていた。

 

「無意味どころか…まさかその為に…!!」

 

 天蓋は全てを悟ったかに語りながら、ファットガムの片腕で抱えられてる芭蕉に視線を送る。彼女は既に気を失っており、ボロボロ…満身創痍だ、

 先ほど萎縮してた彼女とは思えない予想外な行動は、普段取り乱れない天蓋さぇ驚嘆すべきものだった。

 天蓋壁慈――宗教の人間でありながら、多少人間の心情は心得てるつもりだ。メンタルケア…と比べれば程遠いものの、基本的に人間の絶望、快楽、悲惨、不安、其れ等の感情を顔で一眼見れば大方、解るものだ。

 少なくとも芭蕉がそうだ。

 彼女は完全に己の弱さと未熟さで現実を打ちのめされ、恐怖で心が折れていた――そう言う挫折する人間はこの世に多く存在するし、いない方が少ないのはよく知っている。

 だから彼女のことはもう強敵としては見ていなかった…だが、彼女は死地に自ら足を踏み入れ、見事に有利な転機を迎えたのだ。

 

「私は侮っていた、あの少女を……!いや盲点だった…!奴は忍…常人とは訳が違う!!我等の常識を覆すのはヒーローのみならず…!!」

 

 脆弱で、力量も、精神も、全てに於いて惰弱だと軽く見ていた自分が阿保らしい。

 油断をしていないと言い聞かせながら、彼女の優しさと甘さを見て強敵にすらならないと悟っていた。しかし其れが油断であり自分達の隙を見せていた…

 

 コイツは弱い、勝てない、そう思わせていた時点でこの少女には既に勝機が有った――自然と侮ってしまっていたのだ。

 

 

 人間は自分より下の者を見たり、弱いと判断すると軽く油断や隙を生じてしまう生き物だ。

 頭の中で気を緩むなと言い聞かせても、何から何まで手を出す術は相手に備わってないと知ると、何だかんだで勝てると思ってしまう。

 

 ――彼女の最大の武器は、弱いことだ。

 弱者とは、基本的に人間の価値観によって作られているが、共通する部分は物理的な法則も含めて力が足りないことだろう。

 実力不足、力量不足、技術不足、種類によって弱さとは様々存在するが、彼女の容姿と甘さ加減を見て大抵の人間は「コイツなら勝てる」と自然的に錯覚してしまうのだ。

 天蓋のバリアを壊せず、乱波のような喧嘩に強い訳でもなく、そしてコンビや連携で対峙されると難しくなってしまう…そんな彼女をダメだと見解した天蓋と、無視してた乱波が良い例えだろう。

 

 忍の世界では強さが全て――しかし、敢えて弱さで相手を仕留める事が出来るのは、彼女自身の最大の武器であり、長所でも有るだろう。

 

 

「緑髪の少女…!!人畜無害な顔を立てながら…我等を一気に畳み込もうと…!その為の特攻だったのか!?!」

 

 

 だとしたら其れは最早脅威だ。

 鉄砲玉の自分達が言うのはなんだが、忍でありながら、危害さえないと心の底で許してしまった自分に、あそこまでの戦法は、天蓋ですら理解できない。

 

 何が彼女を変えた?

 あの一瞬で何があったのだ…?

 ファットガムの作戦もなしに?

 

 懐の中に用意してた札を使ったのは理解できる、しかし問題は其処ではない――絶望に身を染めた彼女がなぜあの勝ち目のない現状に抗うことが出来たのかが不明な点だ。

 これが連携…?いや、それにしては息が合っていなかった…

 感嘆と恐怖、敬服と驚嘆が絵の具でぐちゃりと混ざったかに見えてしまうのは、決して言葉では言い表せない覚悟なのだろう。

 

 

 しかし、天蓋とは裏腹に芭蕉はファットガムの作戦には気付いていなかった――どちらかと言えば、芭蕉の他人を思い遣る優しさと、お節介な所が原因だろう。

 彼女はそもそも、ファットガムの個性が脂肪を燃やして最強の矛に使えるなんて詳細など、知らなかったのだから。

 

 

(私は……うまく、やれたかな……)

 

 

 全身に走る痛みに苦しみながら、彼女は気を失ってもなお、夢の中で問いかける。

 意識が薄らぎ遠のく中、二人の面影が映像のように流れ出す。

 玄関男の活瓶を押さえてる総司、窃野、宝生、多部の三人を一人で相手にする我等のリーダー。

 二人が命を賭してまで託してくれた想いを、蛇女の誇りを、自分も全うすることが出来たのだろうか?

 私は、とても弱いから…いつも鈍臭くてドジで、肝心な時に忍法を失敗してしまったりと、役に立たないのではと、小さなことで悩んでしまう私が、皆様の役に立てたのだろうか?

 

 

 ――芭蕉はずっと、己の心の気弱さを悩んでいた。

 誰よりも、何よりも、人を殺すことでさえ躊躇ってしまう彼女が何故、悪忍の道を選んだのか。

 理由の一つとしては、自分の忍家系による伝承が挙げられるし、悪忍となった家系から善忍への進路は難しい上、先ず無理だ。そういった意味では彼女が殺生を好まなくとも、悪忍になってしまうのは納得だし、先ず芭蕉の墨字忍法による家系は貴重で珍しい。

 跡を絶やさない為にも、家系を築き血を継ぐ事は必要不可欠なのだ――一人っ子として生まれた彼女は忍を辞めさせる事は出来ないし、況して争いごとが嫌いな性格だ、大変酷な話である。

 

 だがそんな彼女は別に辛くはなかった。

 親の言う事はすんなり受け入れたし、自分が文句を言った所で親が聞いてくれる筈もなければ、自分の我儘で先代の祖先たちに迷惑をかけたくないという気持ちもあった。

 特に趣味といえば俳句を詠む事と、習字が好みなお淑やかなだけが取り柄で、家族が喜ぶのなら悪忍になっても良かったのだと思う。

 

 だけど訓練は過酷で、オマケに墨字忍法が一向に伸びなかった時は、自分は忍に向いてないのでは?と、後ろ向きになった気持ちは何度も味わった。

 

 いつも…いつも悩んでたなぁ私。

 墨字忍法はとても難しくて、活用する範囲が広い。文字が沢山あるだけそれなりの忍術が存在する…けど、雑念を振り払い、平常心を保ちながらではないと、一流の墨字忍法の使い手にはなれない。

 だから心を落ち着かせる為、字を良くする為、暇な時間であればよく習字をしてたり、俳句を詠んだりと心を保っていた。

 

 それでも一向に上手く伸びず、失敗をしてしまうのは、単に自分の実力が足りないからだろう。

 だから嫌な訓練にはちゃんと従ってたし、弱い自分を強くする為に、何度も厳しい修行を毎日こなしてた。

 

 だけど忍の修行って、本当に厳しいんだ。

 私の根性が足りないかもだけど、土遁や水遁はお馴染みだけど、他にも色々…大きな武器を振り回したり、墨字で念じた文字を活用するって結構体力が必要だったりするんだよ。

 技術的な面も含めて、忍の道は険しいって口にするけど、本当にその通りなんだ。

 

 勿論、やっぱり辞めたいとは思ったし、仮に怒られたとしても当然の反応なんだろうなぁって思った。

 それでも辞めなかったのは…今までの経験を無くしたくはなかったからで、此処で諦めてしまったらきっと…今までの苦労を裏切ってしまうようで、結局辞めずじまいだったんだけどね。

 

 

 そんな私が、本当の心の奥底で挫折したり、惰弱さに打ちのめされたのはあの日からだったんだ――

 

 

 中学の頃、進路が近付く秋ごろの季節。

 私は勿論、他の忍学生も基本的に自分が忍家系だという存在を悟られてはいけない。

 情報漏洩や流出先の経路は跡を追えば上層部が嗅ぎ付いて来るだろうし、情報先の発端を追跡すれば忍資格を剥奪されるのは口に出さずとも率直で理解できるだろう。

 

 

 そんな私が、一般人の学生に紛れながら一人、下校の帰る途中――私は一人で物事に浸っていた。

 

 

(進路先はどうしようかな?悪忍学校、何処にするべきか…やっぱり一番無難なのが蛇女子学園かな?彼処は、志望動機の書類を提出すれば難なく入れるし…でもその後が…

 それとも男女共学?となれば黒鳥学校、それとも蝶姪学校…)

 

 うぅーん…と、悩みながら真剣に進路を考えてた時だった。

 

 

『あのー……すみません…其処の貴女』

 

 

 ふと野太い静かな声が、上から聞こえた。

 忍び寄る影、聞き慣れない声、自分に投げられた質問、自然に振り向くと其処には

 

『道をお尋ねしたいのですが……』

 

 自分を覆う大きなナニカが、此方を見つめていた。

 身長は3メートル半か、首には巨大なラジカセが流れており、愉快な明日の天気予報が流されていた。

 全身をボロいマントの布で被りながら、此方を見据えて口を開く巨漢に、思わず後退りする。

 

 

『スプリンガーのヒーロー事務所は何処ですか?』

 

 

 その声は、とても重々しくて殺意が籠っていた。

 瞬間にただならぬ殺意と憎悪が、彼の体から放たれて…私は思わず声を押し殺しながら両手で口を押さえていた。

 

「ひっ…あ、あぁ……の……」

 

 尋常じゃない殺意、並ならぬこの男は、紛れもない敵だ。

 忍は気配に敏感な上、そういった訓練を受けてるので、相手の力量や敵意を感知する為の術を身につけていても可笑しくはない。

 

 だが――此れは芭蕉自身が生まれた人生の中で、今までに味わった事のないドス黒い気配だった。

 こんな常人離れした気を発せられて、冷静ではいられないし、頭の中で我慢しろと言われても、どうしても体が反応して震えてしまう。

 何時迄も答えないことに、少々嫌気が刺したのか、巨漢は赤い目をわずかに細める。

 

『……何で、教えてくれないんですか?』

 

 男の声に重力が増した。

 どうやら不機嫌になったのだろう…道案内とはいえ、この男は間違いなく尋常じゃないし、仮にこの巨漢を敵だと捉えるのなら、ヒーロー事務所に態々何をしにいくのだろう?

 だけどそんな事を考える暇もないし、かと言って彼女も上手く舌が回らない。

 迫り来る圧迫感、圧倒的絶対的な強者の前に、私はただただ震えて萎縮することしかできなかった…

 

 ただ――怖い、怖い、この人が怖い。

 

 恐怖心でいっぱいで、心に余裕が保てなかった。

 

『――オイ、どうして……教えてくれないんだ……』

 

 不快を通り越した怒りは、とうとう巨漢の限界を迎えたそうで、殺意と怒りを孕ませた眼光を芭蕉に差しむける。

 当然そんな威圧が込められた眼を合わせれるはずもなく、反射的に眼をそらしてしまった。

 

 

 パキッ――!!

 

 

 建物の亀裂が生じる音。

 ビルの建物は次々と嫌な音を立てながら亀裂を生じ、指で引っ掻くかのように、ビルに指で引っ掻いた痕が遺る。

 男は完全に眼を細め、訝しげに眉を潜めながら、少しずつ建物を崩壊していく。

 

 私はこんな時でさえ何も成し遂げれない…善忍になる必要はない上に、忍術を使って何とかこの苦難の状況を脱する試みさえもなく、ただ兎のように体を小刻みに震えるしか…

 

 此処が公衆の前だから、どの道忍術を使うのは気が引けるにしろ、何も動けない私が、簡単に恐怖心に支配されてしまってる私が、どうしようもなく情けない。

 悪忍としての道を進むなら、自分の苦行は自身で解決しなければいけないのに…

 そもそもの話、何故か今日に限って警察もヒーローも不在というのは流石に引っかかったりはしたのだが…パトロールに出かけてるのか、偶々その場に居合わせていないのか、何方にしろ絶体絶命なのには変わりはない。

 

 建物の破片がパラパラと落ちていき、建物全体にヒビが入っていく。もう助からない……そんな時だった。

 

 

『待ってください!!』

 

 

 颯爽と自分の目前に立ち現れた一人の女子中学生が、自分を庇うように前に出る。

 巨漢の男の動きが停止し、突如として現れた中学生に視線を落とす。

 

『あっちの角曲がって!大通りの左に2キロくらいで其処の事務所があるよ!!』

 

 ピンク色の素肌をした女子中学生の子が的確にヒーロー事務所を教えると、巨漢は暫く黙ったまま、微かに頷いた。

 

『………有難う』

 

 殺意も怒りも治り、軽く礼の言葉を添えながら――

 

 

『――全ては主の為に……』

 

 

 最後に意味不明な発言を残しながら、二人に背中を見せて去っていった。特に大きな事件騒がれることはなくとも、その後にスプリンガー事務所がどうなったのかは不明。周りの人間が見てた市民たちは、一触即発の出来事に警察を呼んだそうだ。

 賢明な判断といえよう…しかし、警察やヒーローの調べによると、器物損害としては兎も角、その敵の出身地は愚か、消息すらも不明な為に、お手上げになったそうで、大してこの時間は事故で終わりを迎えたそうだ。

 

 放心してた私を、中学生の女の子が「大丈夫だった?!怖くなかった…?」と、心配そうに尋ねてきた。

 顔は…見たことがないし、制服も違うので他校で間違いはないのだが、彼女の瞳は潤っていて、それでもってうっすらと涙を浮かばせていた。

 

 あの女の子も、すっごく怖かったんだ……

 

『怖かったです……あ、有難う御座います……!うっ……うぅ…!』

 

 嗚咽を漏らしながら、何か抑えてた線が切れたかみたいに、突然涙が溢れ出した。恐怖の縛りに解放された反動だろうか、もしあのまま彼女が来なければどうなっていたか…

 それ程にあの男から放たれてた気は異質で、いつ殺されてても可笑しくない危険的なケースだったのだ。

 ホッとした彼女も、自分と同じように涙を流していた。

 

『良かったぁ…!!君が一番怖かったよねぇ!だってあんな怖い人に道尋ねられてさぁ…しかも今の危なかったもん!!』

 

 二人揃って泣き崩れ、彼女は私の頭を何度も撫でながら慰めてくれた。学年は自分と同い年か年上か、もしかしたら年下なのか…それは知る由はないものの、兎に角嬉しかった。

 生まれて初めて、誰かに助けられた訳だし、今の世代の中でヒーローに助けられた人間はこういう事を体験するのだろう。

 救われた心地を実感しながら、嬉しさと同時に心の中でまた何処か、気弱な自分が生まれたことに、靄が張り付いたき気もした。

 

 よくよく考えると、自分はこれから悪忍になろうとしている自分が、どうして他人に…況してや一般人に救われているのだろう。

 そう考えると、益々自分が悪忍として生まれてきた理由が、段々と解らなくなってきた。

 

 それもそうだ。

 悪忍とは冷酷非情、惨忍かつ強さこそ全て。そんな自分に悪忍らしさはあるのだろうか?

 穏やかで情に深く、優しさと弱さに満ち溢れてる…そんな自分が、悪忍としてこの先やって行けるのだろうか?否――答えずとも結果は見える。自分は限りなく死ぬだろう。

 甘い考えでは忍の道は乗り越えられない、現代社会の影に生きる者は、同じ影に潜みし者に遅れを取る。

 

(私は…一体……)

 

 家に帰ってからも、この心に募った靄は張り付いたまま離れない。まるで粘りついた霧が、こびり付く感触だ。とても爽やかにはなれやしない。

 

 その日以降――ずっと上の空になっていた。自分がどんな悪忍になりたいのか、明確な目標すら見つからず、気付いた時には自分はただ漠然と悪忍になりたかったんだと殊更気付かされて、私と言う存在は悪忍の世界では必要とされてないのではと、自分で自分を否定しがちになってしまう。

 

 そんな事が一ヶ月も続けば、自主の特訓でも全く成果が出せず、一週間丸々と墨字忍法が使えなかった時は本当にどうしようもないと思ってしまった。

 救われたことに後悔はない――ただ、自分が悪忍として余りにも情けなくて、親の期待には応えられるのだろうかという気持ちで既に心がいっぱいになって、自分が忍として生きていける未来すら想像が付かなくなってしまった。

 

 人はネガティヴになってしまうと、負の連鎖が続いて根暗になりがちになってしまう。だから人は段々と他人を信用しなくなるし、反復動作に近い意味で、自分がダメな人間、使えない、役立たず、中傷の言葉を自分に添えてしまい、納得してしまう。

 

 ポジティブな人間とネガティヴな人間の圧倒的な差が広がってるのはそういうのだろう。

 

 でも、そんなダメな自分が変わろうと、明確な意思で悪忍になろうと思えたのは、あの頃の出逢いだったから――

 

 

 

 いつも通り、一人で下校し真っ直ぐ家へと帰る道中。

 何の変哲も無い街中は、平和の象徴のお陰で今日も安心しな日常が送られる。

 あの日――大きな漢は何が目的でヒーロー事務所を訪ねたのかは不明だが、現時点では全く話題にすら触れられていない。

 

 ……やはり、あの頃がどうしても気掛かりになってしまうのは、心残りとそれなりに堪えたのだろうか。

 

 などとまたマイナス思考に偏っていると…

 

 

「何じゃあお前!?!何処の学校のモンだぁ、あぁん!?」

 

 

 何やら物騒な大声が聞こえた。

 揉め事だろうか、複数人の学生が少人数の学生を寄ってたかって文句を吐いてる絵姿が映っていた。

 幸い周囲の人はあんまり居合わせてなかったので、其処まで騒めくような雰囲気には流れなかったが…

 

(なんだろ…?)

 

 建物の物陰に隠れながら、その様子を伺うことにした。隠れ方や足音を立てない動作は、流石は忍の訓練をしてるだけあってか熟練されてはいる。

 

「いや、せやからなぁ…浜茶も反省してるんや。儂の顔に免じて許してくれや」

 

 

 1人の中学生が怯えてる横で、自分と同じ緑髪の女の生徒が、何の表情も立てずに何やら謝ってるようだ。

 黒のセーラー服…というのは現代となっては滅多に見ないものだが、彼女の衣装は殺伐としており、裂け目が生じている。

 

「巫山戯んじゃねえ!!何をしに来たかと思えばよぉ…仲間を連れて来てアタイらに恥かかせようってか!?金を用意しろって言ってんだよ!」

 

「いや、どう考えてもあんな大金普通の学生が稼げれるもんじゃないで。それにコイツも悪気があった訳じゃないし、黙ってるのも可哀想思うてな、だから許してくれって、なぁ?」

 

「じゃあ悪気があったら何しても良いのかよあぁん!?!」

 

 聞いた話だと、集団グループの不良の1人が、偶々同じ学年の不良グループに絡まれたそうだ。

 1人になってる所を付け狙ったのか、詳しくは存じないが…自分一人の所為で仲間を困らせたくないと泣き悩んでた所を、自分達を救けてくれた命の恩人に相談したそうだ。

 その子は「了解や」と何の躊躇いもなく答えて、不良達を説得してくれてるらしい。

 

「つかテメェ誰だ?あん?女だからって舐めてると痛い目みるぞ?」

 

「……『日影』やけど…名前聞いてどうするん?金を用意するのは無理やで」

 

 日影――と呼ばれた女性は気怠けそうに呟くと、囲んでた不良はニタニタと気味悪く嘲笑する。

 

「だったら代わりにテメェがアタイらの袋叩きにされなぁ!!!」

 

「パンパンパンって、ビニール袋で儂らを叩いて何になるん?」

 

 一触即発の空気の中、何処か抜けた発言に聞いてた自分でさえも思わずずっこけそうになってしまったが、彼女は決してふざけてないのか「ほんで?」と首を傾げる。

 

「て、テメェが殴られるんだよおぉぉ!!!」

 

 調子が狂ってしまった不良グループのリーダーは、金属の釘バッドを掲げて地面に叩きつける。

 瞬間――無数の釘が地面から生え、針山地獄のように突き上げていく。

 

「どうだぁ?!半殺しにされる覚悟は持ったかい!?」

 

「いや凄い個性やなぁ…けど、普通に公衆の前での個性使用って、違法だって春花さんが言ってたなぁ」

 

「違法だぁ?んなもん知らねえよ!!」

 

 興味もなさそうに淡々と呟く日影は、怯えてた不良の女子学生を背中に抱えながら、上空に飛ぶ。

 鍛え上がられた脚力と、あの手慣れた動き…ヒーローとは違った身の動かし方に、思わず見惚れてしまう。

 

「悪いけど…やる気ならワシも手加減せぇへんで?穏便に済ませたかったけど、そっちがやる気なら…」

 

「だったら掛かって来なよ!!尻を振ってるだけの豚じゃなくてさぁ!」

 

 ケラケラと笑いながら個性を発動して日影を狙う不良達――助けなきゃと思った途端。

 

「ええで、但し後悔すんな」

 

 その言葉を吐き捨ててから、不良達が簡単に薙ぎ倒されたのにそう時間はかからなかった。

 一本のナイフに仕込まれた武器…訓練された動きは軍人やヒーローとは一線を画すようで、まるで狩りを愉しむ蛇のようだった。

 

 

「大丈夫か?」

 

 不良の女子一人に安否を確認する日影に対し、学生は「ありがとう…!このご恩は一生忘れない!また…借りができちまったみたいだよ…」と何度も頭を下げていた。

 同じ不良にも慕われて、あんなにもカッコよくて…

 

「凄い……あの人…」

 

 見ていた自分も見惚れてた余り、感嘆としていた。

 素晴らしいパフォーマンス、誰一人として犠牲者や怪我人を負わせず、あんな怖い人たちをさも何ともない様子で蹴散らした彼女は、自分が悪忍として、強さとして、目指す理想に近かった。

 冷酷非情ではなくとも、恐怖の概念さえも感じない彼女の無表情と、如何なる困難やトラブルでさえも物怖じしない精神は、彼女の憧れとなっていた。

 

(何だろ…あの人を見てるとすっごく心が温まるというか、落ち着いて…さっきまでのモヤモヤが何ともないみたいに軽くなって…)

 

 不安と不甲斐なさで心が折れかけてた彼女は、今となっては嘘のようだ。何かしらの躍動感や、彼女の憧れと尊敬、何よりも自分には決して備えてない強さを、自分が目指したかったそうなりたかった要素が全て注ぎ込まれてるようで…

 

 

(私も…あの人みたいになれるかなぁ…?)

 

 

 もし、彼女みたいな忍になれたらきっと…一流の忍になれるのも夢じゃない。あの人のような強い忍になれたら、ダメな自分を変えることだって出来るんじゃないか?

 

 そう考えれるようになった自分は、とても先程まで気を落ち込んでた彼女とは同一人物とは思えず、逆に此処まで変われたのが不思議に思えてしまう位に。

 

 

 そうして、悪忍になる為に高い目標を心掛けた彼女は、悪忍としてかなり有名な私立蛇女子学園に通うことを決意する。

 

 

 其れが、芭蕉と日影との出会いになるなど、当時は想像さえもしていなかった――

 

 





日影さんお久しぶりいいぃぃぃ!!!
久し振りの登場で書いてて少しテンションが上がりましたwwというわけで早速久し振りにキャラクター紹介のコーナーをやっていきます。


月閃中等部のご報告&キャラクター紹介!

乱波肩動

所属・死穢八斎會
好きなもの・喧嘩、鉄板焼き全般
誕生日・不明
身長・不明
血液型・不明
出身地・不明
戦闘スタイル・近接格闘

ステータス ランクA

パワーS
スピードA
テクニックA
知力E
協調生E

月光「さぁ、久し振りに始まりました!このキャラクター紹介コーナー!」

閃光「久方でありながら…そして初めて敵キャラクターの紹介だぞ。何でも今の時系列に添いたいらしい…」

月光「それでも一応ガイドブックには紹介されてないんだし、丁度良いじゃない♪というわけで、始めましょう!」

閃光「乱波肩動…死穢八斎會と言われてるヤクザの組に所属する鉄砲玉の幹部…非常に好戦的で、よく若頭や他の仲間たちに喧嘩を売るような言動が見える傍若無人な輩だが…これがまた滅法強いんだ」

月光「あの肉弾戦を得意として、素流で戦う閃光が強いと称するんだもの…私でも無事では済まなさそうね」

閃光「幾ら私でも流石に人を肉塊のミンチに叩き込める力量は備わっていないし、夜桜先輩の本気の打撃でようやくだろうが…忍の訓練も受けずにただの喧嘩だけであそこまで鍛錬されたというのは、私からも賞賛せざるを得ないな」

月光「中学生、高校生と大人を比べるのは少々あれですけど…故にスピードも申し分ない打撃を繰り出せる乱波さんのパワーファイターぶりは、忍の世界に通じるものがありますもんね」

閃光「そして小細工や卑怯な手段を嫌うのは、白虎先生に似たものを感じるし…中々に嫌いになれないんだ。
因みに乱波は元から親に押さえつけられた反動で、喧嘩の道に減り込むようになったそうだ」

月光「因みに、乱波さんと日影さんって、実はお互い顔を知ってるらしいんですよ!彼が頑なにに武器や毒を嫌うようになったのは、日影さんが一番の原因らしいですね♪」

閃光「個性によるものじゃないし、あの性格と感情のない人間を並べて想像してみると…自然と喧嘩をしても可笑しくないな…」

月光「でも日影さんや表情に乏しい人を揶揄うことで、滅多に見せない言動を見せるのは可愛いと思わない…?」

閃光「……何を言ってるんだお前は…」

月光「うふふ…♪」

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