光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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シノマスの爆乳祭、我慢の限界で引いてみた所、なんと!爆乳祭の焔、雅緋×2、飛鳥が来ました!!
全員持ってなかったのでメチャクチャ良かったです!
あっ、勿論忍魂はまだ923個持ってますよ?まだ推しである芭蕉ちゃんの分まで補充してます(ビシッ!


171話「蛇女の誇り」

 

 

 

 

「こんな時間稼ぎの三下…私一人で充分だ」

 

 率先して先立ったのは蛇女子学園の筆頭――雅緋。

 鞘に納めてた黒刀を抜き、反対の左手から黒炎を纏う。長年古く使われた相棒の黒刀は、今日も一段と輝やきを増し、煌めいている。

 黒き炎は、深淵を表したかのように、メラメラと燃え揺らぎ、熱を増す。

 

「ちょっ、雅緋先輩…!そんな、一人で相手にするなんて…」

 

「そうッスよ!雅緋先輩の実力は知らないッスけど、此処は全員協力して戦った方が無難ですって!」

 

 芭蕉と切島の言葉も意に介さず、雅緋は此方を振り向かず、闘志を孕めた瞳を差し向ける。

 こうなった以上、此処に忌夢がいたとしても、説得するのは極めて困難だろう。

 

「其処のガキどもの言う通りだ、さっさと協力しろや…全員ブッ殺してやっからよ」

 

 だが、殺意は此方も負けておらず。金髪の青年はギラつく目を大きく見開き、刀を差し向ける。

 

「雅緋さん、相手の挑発に乗るつもりはありませんが…闘うならせめてもう一人いても…」

 

「いや…さっきも前述したが、私一人でコイツらを相手にするのは事足りる…コイツらを倒したら直ぐに追いつく、何の問題もない」

 

「あるんだなぁ其れが――!!」

 

「ッ…!?」

 

 此方が動く前に、率先して雅緋に刃を向ける金髪の青年は、何の迷いもなく斬り殺しに掛かって来た。

 流石は治崎が選別した鉄砲玉と呼ばれるネームドが付けられるだけあって、雑念や躊躇いの概念は一切存在しない。

 

「雅緋気を付けろ!ソイツは『窃野』だ!八斎會の幹部――コイツ相手に武器は使えない!」

 

 窃野トウヤ――個性『窃盗』

 視界に入る者が身につけてるモノを、瞬時に手元にテレポートする個性。但しサイズは限りており、大きいものを窃盗できる訳ではないので悪しからず。

 

「チッ…んだよ、個性バレてんのか。まあ良いや、どーでも――暴れ易くなるだけだ!!」

 

「ならねえぞ、刀捨てな――」

 

 窃野が個性を実行し、雅緋の武器を奪おうとした刹那――相澤は抹消の個性を発動させ、窃野の個性を封じる。

 

「――ッんだこれ!?個性が、使えねえ!?!」

 

 自身の手を見返しながら、何度も個性を使おうと試みるが、結局何も変哲は起きず、相手の武器を奪うことは叶わなかったようだ。

 

(個性の抹消、壊理の劣化版か…!そういうヒーローが存在するとは聞いたことがあるが…まさか、乗り込んでくる敵がよりによって…いやだが、関係ない――)

 

 個性が使えないことで悪態を吐く窃野を横に、丸坊主頭の男は冷静ながら思考を働かせる。

 懐から銃を取り出し、即座に反応――相手に銃口を向ける。

 

 ――個性を消す、敵に回せば厄介極まりない相手だが、そんなものは俺たちにとって何の意味もない。

 若の邪魔をする者は、何者であろうと阻む──その一点のみ――!!

 

 個性を封じられようが、此方には武器がある。

 個性が使えないなら武器で抵抗しろ、武器が使えなければ殴殺しろ、体で抵抗し手足が捥げようと、命尽きるまで忠義を貫き通せ――彼ら三人には紛れもない純粋な覚悟がある。

 だからこそ――鉄砲玉と名乗るに相応しい、マスクを付けてる証拠がより色濃く表している。

 

「無駄やで!刀や銃弾は俺の体に深く沈むだけや――大人しく捕まってた方が身のためやぞ!!」

 

 しかし武器だろうが体で抵抗しようが、ファットガムの個性による脂肪の前では無意味――許容範囲にもよるが、基本的に今目の前の敵として立ち塞がる三人はどの道ファットガムには通用しない。

 

「五月蝿えなぁ!そう言う脅しは命の惜しい奴にしか通じねえ――俺たち相手に効かねえんだよ!!」

 

 例え無駄だと解っていようが、鉄砲の弾の如く真っ直ぐ、ただ標的を仕留めるかの如く突っ走る。

 人は自然と自分の命欲しさに保身や命乞いなどを求める為、命に換えてもと意識があったにせよ、無意識に自分の安全を優先してしまう体に作られてる。

 無駄だと分かれば自然と諦念してしまうのも人間としては不自然ではないが、詰んだと理解しながら抗う鉄砲玉の三人は、ある意味驚嘆させられる部分がある。

 

 相澤が個性を消してるため、警察達は銃口を向け、

 ヒーロー達も戦意を剥き出し、

 数も戦闘もステータスで見れば断然此方が上、

 

 窃野を始め、彼らは時間稼ぎ要員――今こうして自分たちが立ち止まってる時点で、相手の思うツボなのである。

 

 

「立ち止まるなと言っただろう――!!」

 

 

 

 一触即発の空気の中、覇気が含まれた声が威圧する。

 気付いた時には既に遅し、窃野と丸坊主頭の男が手に持ってた武器は、雅緋の黒刀によって跡形もなく斬り壊される。

 

「窃野トウヤ、『宝生結』、『多部空満』、三人は私に任せろと宣言した筈だ――何度も言わせるなよ」

 

 そして、何も微動だにせず暇そうに立ち尽くす多部の手前で着地をすると同時に――

 

「うぎッ――」

 

 頭部を殴り、体ごと壁へ吹き飛ばす。

 カウンターする素振りや、攻撃の動作すら見当たらない多部に何処か不気味な不快感を覚えながら、対する二人を睨む。

 吹き飛ばされた多武はノックアウトしたのか、伸ばせたまま起き上がらず、そのまま気絶してしまったようだ。

 

「雅緋さんそんな…ッ」

「待って下さいって!相手は三人いるんスよ?プロも居た方が確実に――」

 

「おいおい、私じゃ実力不足と言いたいのか?生憎だが…お前達が想像するよりかは断然的に上だ。心配されるものじゃない」

 

 雅緋の言い分は尤もだ。

 確かに人数が少数いることに越したことはないものの、結局行動する戦略が削れてしまうので、実力が備わってる雅緋一人が完封した方が、遥かに効率が良いのである。

 

「スピード勝負、一秒も無駄に出来ない現状、立ち止まってる暇はない――立ち尽くすな、動け、走れ、行け!!私が此処に残る意味を考えろ!」

 

 雅緋の一喝に、場の空気は緊迫感を増す。

 他の鉄砲玉も突っ込むものの、蚊を叩く程度の力加減、刀だけでなく体術に対しても多少は練り上げてる雅緋に、三人(内一名は既にダウン)では勝機がない。

 いや、そもそもの話、鉄砲玉にとって物理的な勝負などどうでもよく、問題は如何に時間が稼げれるか――精神面での勝負の争いごとなら、自分たちがこの場に佇んでること自体の結果が奴等の思惑…壊理や治崎が逃げ果せてしまえば、コイツらの勝ちになる。

 

「けど先輩ッ!」

 

「随分な心配性だな雄英の生徒は――だが安心しろ、こんな悪党である私を心配する必要性はどこにも無い。お前達だってそうだろ、悪忍を心配するヒーローや善忍が何処にいる」

 

「「雅緋さん…」」

 

 雪泉と緑谷は、口を揃えて同時に声を重ねてしまう。

 意外だ…真っ先に立って自分たちを先に行かせる彼女の精神面にも驚きはあったものの、自分が悪忍だからと、皮肉ではあるがそこまでして自分達に託してくれるなど、当初の頃とはえらい違いだ。それこそ見間違えるほどに――

 

「しますよ!仲間がピンチだってんのに、心配しねえなんてそんなの漢じゃねえ!!」

 

 だが漢気溢れる切島はそうはならず、熱く燃える漢は吠える。

 拳を強く握りしめながら、硬化の個性でガチガチに皮膚を硬め、ギチギチと硬化した物同士が触れ合う際に生じる音が、耳に響く。

 

 少なくとも、例え相手が男だろうと女だろうと、誰かを一人残して闘わせるなんて選択肢は出来ない。

 其処にヒーローも敵も、困ってる人がいたら放っては置けない。それが、切島鋭児郎の目指すヒーロー像であり、烈怒頼雄斗なのだ――

 

 

 ――また、あの時みたいに取り返しのつかない結果にならない為にも。

 

 

「やれやれ…お人好しにも程がある…」

 

 自分が悪忍という聞こえの悪いレッテルを上手く活用して、皆を先に行かしたかったのに…余計に煽る形となってしまったらしい。

 馬鹿なのか…いや、バカで結構――小難しい考えなど捨てて、目前の人間を救う。

 

 それが、切島鋭児郎なのだろう。

 昔の自分なら飛鳥に似ていて不愉快だと一蹴するのだろうが…生憎そんなことになるはずもなく、忌夢の件もあってか、今となってはそんな事は言える口でもない。

 

「本当に――全くだ」

 

 やや呆れながら、イレイザー・ヘッドは抹消の個性を再び発動する。

 

「ッ!――まぁ〜…た、テメェ!!!」

 

 そろそろ良いタイミングだろうと、窃野が雅緋の武器を奪おうとした刹那――再びイレイザー・ヘッドの抹消によって、それは無慈悲に砕かれてしまう。

 

「一応多部の方も見といた――俺が瞬きする前に戦闘不能に陥れれば、難なく済むだろう」

 

 三人の個性を抹消し、個性を発動し続けてるイレイザー・ヘッドは、そのまま皆に先を行くよう指導する。

 

「お前ら、先行くぞ。

 雅緋なら大丈夫、アイツに任せて目的地まで一気にゴーだ。其れにアイツの言ってる事はご尤も…とても合理的だ」

 

「えっ!良いんスか!?」

 

「お前らヒーロー学生だったら教育者として俺も付いてやるのが常識だろうが…忍学校のルールはイマイチ解らん。

 だが少なくとも、アイツは悪忍としての覚悟を決め――その場に残ることを決めたんだ。三年のアイツはビック3にも勝るとも劣らず、インターンの特別枠として選抜されたんだ。俺はアイツの腕を信じる」

 

 其れは、以前に協議会を終えた際に会話を交わした時の、イレイザー・ヘッドとは思えない顔立ちと台詞だった。

 

「ほぅ、悪忍の私を信じてくれるのか」

 

「アンタの事は信用してないし、正直ウチの生徒に怪我負わせようとした張本人だ。半蔵さんや霧夜先生からその話は聞いてる――だが、其れは過去のアンタを知ってたからで、今のアンタはそうじゃない。

 

 何より、今は任務中の身だ――共に目的を達する為に此処にいるのなら、信じる他ないだろう」

 

 仲間も、生徒も信じれないで任務は達成出来ない。

 過去の因縁よりも今は人助けと治崎の捕縛が大事。

 任務中の身は、皆志しを共にする戦力であり仲間。

 

 信じないことは、その人を否定しかねないのだ――

 

 

「だから、結果と生徒を守ることで――俺の疑惑を晴らしてほしい」

 

 

 背中を向けながらそう呟いた。この部屋の出口扉を開け、一同は雅緋を取り残しゾロゾロと部屋から出て行く。

 

「待ちやがれぇ――!!ふざけんじゃねぇぞ、協力し合えや!俺達はまだ動けるんだよ!!!」

 

 部屋から消えていくヒーロー、忍、警察の三勢力に憤りを隠せない窃野は、声を張り上げながら隠し持ってた一丁の拳銃を差し向ける。

 だが――

 

「貴様も何度も言わせるな、お前が動けるのなら私一人で充分だとな――」

 

 黒刀は拳銃を跡形もなく文字通り斬り刻まれ、使い物にならなくなってしまった。

 

(コイツ…さっきから目に見えねえ速さの剣戟で的確に武器だけを壊してやがる…!刀の使い方に慣れてやがる――)

 

 窃野は確信した。

 少なくともコイツは只者ではない――能力を使わず、自分達を圧倒する彼女の単純な戦力に、思わず舌打ちをしてしまう。

 

「悪いが、早めに仕上げとして眠ってもらうぞ――!!」

 

 

 

 

 

「本当に一人で任せて良かったんスか!?」

 

 続くようにイレイザー・ヘッドの後を追う切島に、振り返らずともコクリと頷く。

 

「……アイツらのルールっつーのか?ヒーロー学生と同じ扱いかどうかは知らねえが、流石に一人はマズイんじゃねえか?

 さっきまで忍の奴らを叩いてた俺が言うのもなんだが…」

 

 ロックロックも突入前の辛辣な対応とは違って、何処か心配そうに後ろを振り向く。

 まさか三人の幹部を前に一人で対峙するとは思ってもいなかったのだろうか、多少言いすぎた罪悪感が残っているらしい。

 

「心配しなくとも、俺はアイツの判断に賛成――合理的だと思ったまで。忍とヒーローは本質に於いても違うし、協力体制になったとはいえヒーロー学生と同じ扱いを受けるとは限らない」

 

 悪忍が命を賭けてまで市民や仲間の為、社会に貢献をする行為は、全般的に見て殆ど評価が良くなるのだ。

 普通の人間や良い人が良い行いや人助けをするのは当然であり当たり前だ――しかし悪忍が善良な仕事や任務を全うするとなると違う。

 聞こえも良ければ見方も良く、評価が一段と変わる。

 

 例えで言うのなら、一般人が良いことをするよりも、不良が良いことをするのとで大きく違うのと同じ、インフレーションが違う。

 

 言い方は悪く口には出さないが、雅緋を始めた悪忍が先陣を切って活躍することで、信用も上がれば市民や仲間を守った人柱として高く評価が付く。

 雅緋が其れを知ってか知らずかは関係ないが、どちらにせよ幹部を三人、一人で相手にするのは何かしらかなり合理的で効率が良い。

 

「私怨としては兎も角、任されたのならやり遂げるのも、漢としての務めだぞ烈怒頼雄斗――」

 

「相…ッ、イレイザー・ヘッド…!!」

 

 多少、納得させる為にも敢えて此処は同意するよう説得性のある言葉を添えてあげる。

 

「俺!やっぱ一生ついていきます!!」

 

「だから一生はやめてくれ…」

 

 ……多少、緊迫感は減らせたのか、謎のコントが始まったのは予想外だった。

 

 

 

 

 

 一方、壊理を救うべく足を運ぶサー・ナイトアイ一行からかけ離れて行く一部屋の個室――既に鉄砲玉と呼ばれる三人の幹部はボロボロだ。

 

「クソ…!まだ個性使えねえ…気持ち悪い感覚だ…!!」

 

 壁に背を付けながら、自分の個性が発動できずに苛立つ窃野。一方で雅緋は怪我といったそれらしい外傷は見受けられず、結果は圧勝という形は皆まで言わなくとも解るだろう。

 

「お前たちは私たちの足を引っ張る時間稼ぎ要員なのだろうが、残念だったな――私が来たことで杞憂に終わったようだ」

 

 三人並んで壁に倒れてる鉄砲玉を前に、雅緋は見下ろす。

 今回の勝負――あくまで肉弾戦ではなく、三人にとっては如何にどの位時間を稼げれるかが問題だ。

 勿論、邪魔者を排除するのが治崎にとってのベストな結果なのだろうが、歴戦とした雅緋を前に始末しろと言うのは難しい上に無理なことだろう。

 先ず自分達は単なる駒でしかない、だからこそ全員の始末は不可能でも足止め程度にならなると思っていたのだが…

 

「お前たちのように、時間稼ぎが出来れば良いと思ってる甘ちゃんな連中と、何がなんでも斬り捨てる覚悟を持つ者とでは、覚悟が違う――そこがお前達の敗因だな」

 

「よく言うなぁ…お前が俺達とペチャクチャ話してる時点でお前の足止めもしてるってのによ。まだ死んでねえ、終わってねえよ」

 

 雅緋に対し噛み付くかのように視線を飛ばす窃野は、体がボロ付きになろうが、殺意は決して衰えはしない。

 

「……足止めはさておき、お前達が私に敵わないと知っても尚、立ち向かう勇姿は敵でありながら賞賛に値する。ただ、それだ――」

 

「――ッ」

 

 瞬間――雅緋の言葉を遮るように、窃野が我武者羅に突っかかって来る。突然、何の突拍子もなく飛び込んできた相手に思わず声を途切らせてしまう雅緋は、殴りかかるもしゃがんで避けられてしまう。

 そのまま窃野は雅緋の懐に潜り込む。

 

「つッ――!?」

 

 苦痛の声を漏らす雅緋は、表情を歪ませ窃野を睨む。

 一体、何をされたのか分からないまま、視線を移す。

 

「…はは!褒め言葉として受け取るぜ雅緋。お前は強い、確かに時間稼ぎで済むと考えるより確実に殺した方が良い、目標は高く持つもんだよなぁ…其処の所、ちゃんと分かってんじゃねえか。

 

 けどな、まだ勝負は終わってねえよ。言ったよな?何度も言わせんな、俺はまだ死んでねえ」

 

 窃野は口角を釣り上げながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「お前はこの勝負、いつから勝ちだと錯覚してたんだ?

 お前は今、ゴミみてぇな人間と戦ってんだからよ――マスクの下に何隠してるから分かったもんじゃねえよ」

 

 

 雅緋の血が頬に伝わりながら、マスクから刃物が現れた。

 

(コイツ…!こいつこいつコイツ――!!まさか、マスクの下にナイフを仕掛けてたのか…!?!

 並みのチンピラがやることじゃ…いや、そう言うことか!!)

 

 予想外な光景に、雅緋は心の中で動揺を隠せない。

 マスクの下にナイフなんて、普通じゃ考えられないし、用意周到…にしてはかなり行き過ぎだ。

 そうだ――コイツらは己の命を顧みない、忍に似た存在。だからこそ、常人では考えられない行動を簡単に仕掛けて来る。

 

 雅緋だって敵と認識しながら闘っていたわけで、如何なる汚い手を使おうが、姑息な手段を使おうが、目的を達成する為に犠牲を厭わない神経を持つ人間こそ、鉄砲玉として相応しい。

 なるほど…唯の敵やチンピラという訳でもなく、文字通りヤクザの人間だ。

 

 油断してた訳ではない――忍も時に姑息なやり手を使うこともあるが、まさか自分がそう味わう立場になるとは思いもせず。

 

「おっ、漸く小汚え男の個性が効果切れのようだ――!!」

 

 今までずっと発動し続けてた宝生は、露出された肌から結晶を生やして行く。カラフルな宝石のような結晶は、何とも美しいものだろう――だが、見惚れてる場合ではない。

 

「チッ――しまッ」

「嬢ちゃん、俺たちはゴミだからな――相手がガキだろうが女だろうが、若の邪魔をする奴は徹底的に嬲り殺す!!」

 

 無数の結晶は体を覆い、腕は結晶を重ねて肥大化する。

 一撃食らえば、下忍でも無事では済まないだろうと直感するインパクトが伝わる。

 

「お前は俺たちのこと分かってんだろ!?戦場は殺すか殺されるかだ――お前が殺さないってことは、殺せねえって事だよな!?良いご身分だぜぇ!!」

 

 そう言いながら、服の中に忍混んでた拳銃を取り出し雅緋に射撃をふる。全部武器は壊したと思っていたのだが…どうやらまだ隠し忍んでたらしい。

 本当に準備が万全だ、まるで本当に侵入者を殺すが為だけに使われてるようだ。

 

「俺たちゃ元々人生捨てた身だ!!一回死んでるようなもんで、今になって死を前にしても恐怖もなんもねえよ!!

 借金まみれになった俺が飛び降り自殺を図った時――ヒーローにキャッチされた時はまあ絶望したもんだ!死ぬことさえ許されねぇ、貧民街で暮らしながら残飯漁る日々が地獄だったしな!!」

 

 窃野は自分を自虐し、己の醜さを嘲笑いながら捲し立て、雅緋に当たり散らす。

 

「なぁお前には分かんねえだろ?俺たちみたいに、生きる価値すら無くし、見出せない人間の心境なんてよぉ!!!」

 

「そんな生きる価値のねえゴミをよぉ――若頭は再利用してくれる!」

 

 窃野の言葉を他所に、宝生の拳が雅緋の顔面目掛けて殴りかかる。

 

「ゴミにもプライドってもんが有るんだぜ?期待されちまったら、応えないとなぁ――!!!」

 

 ドガァアァン!!

 破壊音と衝撃が一室を震わせる。幾ら雅緋が選抜筆頭とはいえ、火力の高い重撃を食らえば一たまりもないだろう。

 

「――ッ?」

 

 だが、殴った際に何かしら違和感を覚えた宝生は、訝しげに眉をひそめる。

 

「知ってるさ――」

 

「なにッ…?」

 

 違和感の次は、平然とした声が耳に届く。

 殴られながらも何の変哲もない声色…いや、そもそも殴られていない?何かしら結晶を齧るような錯覚が、拳に直接実感する。

 

「私は悪忍だ、世の中の嫌われ者…日陰者、日向に当たれない私たちは、影に潜み陰で暗躍する――お前たちの経緯がどうであれ、私は少なからず悪の道理を知っている。立場や事情は違えど、同じ悪としてな――」

 

 よく見ると、巨大な大蛇が結晶を噛み砕いている。

 翠色の鱗、爬虫類な瞳、大蛇がそのまま生命を宿し動いている。

 其れは、雅緋の腕から現れた――

 

 

「だからこそ名乗ろう――雅緋、悪の誇りを舞い掲げよう!!!」

 

 

 理由や経緯は違えど、プライドを持つのは自分も同じだ。今こそ――蛇女の誇りを掲げる時が来た。

 

 

 

 

 


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