光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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予想以上に長くなってまった〜…
今回は月光閃光の紹介はお休みにします。何故って?時間がないから…


165話「THE・ミーティング」

 

 

 

 

 

 昨夜の事件から一夜明けた翌日の朝、テレビニュース番組の放送やYahoo!のニュースページは殆どインターン生徒による活躍が、記事として埋め尽くされていた。

 特に評判良く注目が集まってるのが、リューキュウ事務所とBMI事務所の記事だ。

 昨夜起きた敵同士の喧嘩や、敵グループと抜忍グループの商売による揉め事で世間を騒がせていた事件の事だろう、中には写真付きで現場の背景が良く見える。

 

 リューキュウ事務所はNo.9の肩書きもあってか、ニュースで噂が流れるのは其処まで珍しくもないのだが、人気や実力、成績を誇るリューキュウがビック3を除いたヒーロー学生を雇うこと事態がとても珍しい上に、早くも期待の新人サイドキック確定との噂話が流れてる為、街でも話題になっている。

 

 BMI事務所に記事が上がるのはかなり珍しい方だろう。

 リューキュウ事務所と比べて低いのは勿論、知名度が其処まで高くないマイナーヒーローなのだ。ビック3の天喰環が在籍していれば多少人気は上がるものの、全国に名を馳せるような褒められた成績は遺されていない。

 環がファットガムの経営する事務所に入ったのも、そう言った知名度や人気にも関わってるのだろう。(失礼極まりない言い方だが)

 

 お陰様で雄英のクラス内でも噂話で盛り上がり、爆豪本人は苛立ちの余り歯軋りを起こしながら唯々ガンを飛ばすだけだ。(視線が物凄く痛く、狂犬地味た何かを感じるとは、口が裂けても言えない)

 

 しかし切島や麗日、帰吹の三人が通常の学生以上の苦労と努力を重ねてるのは事実で、インターンと学校の本業の二つを両立させるのは至難の業…口では安易に出せても、いざ実行するとなると想像の数倍以上は大変なのだ。

 

 また爆豪と轟も、日を重ねるに連れて怪我も多く、仮免補修を受けながら学業とヒーロー化に向けた訓練は、インターンを受ける人間と同じ苦境ではないだろうか?(更に言葉を付け加えば、皆よりも一足もふた足も遅れてるので、精神的にも焦りが芽生えてしまう)

 

 そんな日常もあっという間に終わりを迎えようとし、本格的なインターンの活動が始まろうとする。

 

 

 

 

 

 数日後――急遽、インターン学生の生徒を含めた学生と、指名されたヒーロー事務所が、指定された場所へ収集を招かれる。

 指示を出したのはサー・ナイトアイ。どうやら以前話してたチームアップの要請と、今回敵連合に関連付く事件に関してなど、報告することがあるのだろう。

 

「すげぇ!!!何じゃこりゃ!?」

 

 尤も、雄英高校の一年A組の生徒達には何も言い伝えられておらず、ビック3を除き、今の現状を理解出来ずに驚愕する。

 第一発声者の切島鋭児郎は、緑谷、お茶子、蛙吹の心の代弁者として叫び声を張る。

 ビック3や自分達ヒーロー事務所を構えるヒーローとサイドキック、そして同じく自分達と同じ志望して雇って貰えた忍学生達。此処までは大体想定内だ――…しかし、集合場所には見慣れないヒーローが何十人も呼ばれ、此処に集まっている。

 見たことのあるプロヒーローや、知名度がイマイチ低いマイナーヒーロー、全部で20名近くだ。

 

 Mr.ブレイブ、クサギリマン、ロックロック、ショップマン、ソフトクラフト、エアーマン――緑谷出久なら全員知っているのだろうし、通常なら興奮してサインを申し込む所だが、立場と身を弁えているので、そんな遊び心は全く無い。

 

「あっ、グラントリノに相澤先生もいる!」

 

 神野区以降、顔を合わせていなかったので久しい気分だ。以前は通話の際に断られてしまったので、グラントリノの下で活動は出来なかったのが少々残念でもあったが、まさか当のクラスの担任である相澤先生も呼び出されていたと思わなんだ。

 

「おや、皆さんお揃いのようですね」

 

 凛…と物静かな気高いお嬢様の声が四人の耳朶を打つ。

 

「あっ、麗王さん!」

「そういや麗王先輩って違う事務所のインターン生徒なんッスよね?!」

 

 人混みの中、麗王の存在に気付いた四人組は軽く挨拶を交わす。情報すら伝えてくれなかったので、突然の事で取り乱れてしまったものの、彼女のお陰で何とか平静さを保てた。

 

 

「おいおい、誰かと思えば見知った顔ぶれがいるな?」

 

 

 少しボーイッシュな声に自然と反応し振り返る四人に、内一人の緑谷の表情はブルー色に青ざめる。

 

「これはこれは、天下の雄英生徒がこんな所にお集まりだとは…これは益々雲行きが怪しいくなりそうだ」

 

 秘立蛇女子学園選抜メンバー筆頭、雅緋だ。

 蛇の紋章、見覚えのある忍学生服、ボーイッシュな雰囲気を漂わせる顔立ちは既視感がある。

 

「おっ、見かけない生徒だな。何処の事務所のインターン生徒だろ?」

「ちょっ、切島くん!!服、服見てよ!相手の服!」

 

 興味深く相手を観察する切島に、とても気不味そうに服の袖を摘む緑谷は、小声で切島の耳に呟く。

 

「服…何処かで………ん?あれ!?蛇女の生徒ッスか!?!」

 

「芭蕉と総司の二人と面識が有ると聞いたから、顔出しに来て見れば、気付かなかったか……ソイツを除いて」

 

 呆れ口調で深い溜息を吐く雅緋は、手を額に当てる。

 自分は雄英生の制服を見て直ぐに解ったと言うのに、対する向こうは緑谷出久を除いて気付かなかったようだ。

 

「うわぁ〜…!新しい蛇女の生徒!?スっごく爽やかと言うか、王子様というか…イケメンだぁ!!」

「雰囲気や冷静そうな部分は、確かに轟ちゃんを思い出すわ。ケロケロ」

「まあ、よーするに漢らしいな!!」

 

「ぐっはぁああぁぁ…!?!!」

 

 三人の無邪気で神経を鑢で削るコメントに、心の中で吐血した雅緋は、精神的に相当致命的なダメージを抉られた様子だ。案外女らしくない自分を気にしていたらしい。

 

「貴様ら…人が一番気にしてる悩みを無神経に…!!」

 

「てか胸さえ無かったら本当に漢にしか見えなかったぜ!まるで女性の体に美男の顔を取っ付けたような…」

 

「ぐばぁあぁぁ…!!それ以上は……かはっ…辞めろ……」

 

「切島ちゃん、やめてあげて。何だか先輩が可哀想でならないわ」

 

 どうやら雅緋のライフポイントはゼロに尽きたようだ。

 

「そ、それにしても…ど、どうして貴女が……」

 

「ん?ああ、そう身構えるな。私は知人に紹介して貰っただけさ。サー…ナイトアイと言うヒーローから承認は貰ったし支障はないぞ?其れに学炎祭のことで気に悩むのなら水に流そうじゃないか。とは言っても、あの頃は少し荒んでたしな…直ぐに距離を埋めれる問題では無いのも確かだし、強要はしないが…」

 

 どうやら雅緋はまだ学炎祭の事に関して雄英(特に緑谷)との距離を感じてるようだ。だがそれは緑谷自身も同じこと。

 幾ら事情が事情でも、そう簡単に打ち解けれないのは致し方ないこと。ヒーローと忍の思考や成り行きは基本的に違うし、似ている共通部分が有っても、考え方や生き様が変わっているのは否定出来ないのだ。

 因みに雅緋は何処の事務所にも所属しない特別枠として、今回の件でインターンの参加許可が下りたらしく、特別勢力としてヒーローと忍学生の助力として加担するらしい。

 雅緋に推薦するよう申し込んだのは雪不帰であり、蛇女の許可を通したのは小尾斗教官だ。(本人は嫌々だった様子で、「女の群れ供と少しでも離れたい」と愚痴をこぼしながら呟いていた光景は、今でも覚えている)

 

「なぁ緑谷、あの超絶なイケメン女子と何処で知り合ったんだ?確か仮免取得の際には居なかったよな?」

 

「ああ、うん…あの人雅緋さんって言うんだけど、話すと凄く長くなるから今はちょっと、空気的な流れでもね」

 

 緑谷出久は、飛鳥とは違って敵と見なし、危険と確信した人物相手に心を開くことは無い。

 それもそうだ。先ず忍との価値観や死生観が異なるし、生まれも境遇も、心も体も何もかもが違う。誰とでも敵味方関係なく直ぐに前向きになって心を開く人間ではない。

 其れがヒーロー学生にとっては普通で、当たり前で、常識の範囲内。だから自分達とは異なり違う部分を持つ雅緋も敢えて多くは語らないし、何も言わない。

 

「これは…雄英生だけかと思いきや、こんな所で蛇女の筆頭とご対面とは……不穏な風でも吹くものですね」

 

 氷の如く冷え切った声が、背中に浴びせられる。

 気配がなかったので振り返ってみれば、雪泉が扇子を口元に当てながら雅緋を見つめる。

 

「あーッ!雪泉ちゃんだ!!久しぶり〜!」

「ケロ、私たちは学炎祭の見学以来、会ったことがなかったわね。今思えば確かに久し振りだわ」

 

「雄英生の皆様、お久し振りで御座います」

 

 お茶子と蛙吹の二人に、挨拶を交わす雪泉は、ぺこりとお辞儀をしながら微笑を浮かべる。

 過去の険悪した雰囲気とは違って、今は穏やかで柔らかい笑みを浮かべる事が出来ている。昔の彼女とはまるで別人のようだ。

 

「なんだ、月閃の筆頭もいたのか…まさか善忍エリートの忍学生とご対面になるとは、思いもしなかったよ」

 

「其れは此方の台詞です。今更悪忍どうこう言う権利はありませんが…半ぞ…コホン、王牌先生からの話によると、蛇女子学園は雄英生に対し何の見境もなく処殺しようとしてたとか…」

 

「それは焔達率いる過去の蛇女のことを言ってるのか?生憎、あの頃とは違って、生まれ変わった蛇女はお前の知ってる蛇女ではない。赤の他人が知ったような口を利くな」

 

「赤の他人とは少し可笑しいですね?私達は夜桜さんを始め、美野里さんや四季さんも今となっては転校の形で雄英高校のB組所属、少しでも彼ら彼女らに危害が及ぶのであれば無視出来ない存在です。雄英生を傷付けたことに変わりはないのであれば、貴女方とは既に無関係の忍学生では無いのですよ」

 

 売り言葉に買い言葉。

 善忍と悪忍がお互い顔を合わせば、見えない何かでプラズマ的な視線が、鍔迫り合いを起こしている感覚だ。

 こう言うのを犬猿の仲と言うのだろう。雪泉は麗王に対しては誰にも変わらない姿勢で接していたのに、雅緋と言った悪忍はどうやら態度が変わってしまうらしい。

 尤も、余り深い交流も交えていないので、無理もないのだが…

 

「二人とも少し落ち着いて下さいよ!これから会議が始まるんスよ?此処で喧嘩してたら追い出されちゃいますって!!」

 

「け、決して喧嘩では……いえ、切島さんの仰る通り、すみません転校少し私情が出てしまってました…」

「此方こそ済まない…迷惑を掛けまいと心掛けていたのだが……善処する」

 

 切島のフォローもあってか、二人は冷静さを取り戻し、距離を離れる。こう言った仲間をまとめたりフォローに入る姿勢、誰とでも敵であろうと味方であろうと前向きに接せる所が、少年の素晴らしい長所だ。チームを纏め、士気を上げるのに適した人材は、サイドキックとして欲しがる事務所は数百は挙がるだろう。

 

 

「――お待たせ致しました皆様、今回はとある案件に関してお呼び集まり、誠に有難う御座います」

 

 

 雑談が飛び交う会議室に、一際目立つ声が辺りを一斉に鎮めさせる。

 声の主はサー・ナイトアイ。両隣にはサイドキックのバブルガールと、ムカデの形相をしたセンチピーダーが並んでいる。

 

 今回の案件と言えば、以前リューキュウが話してた「敵連合に大きく関わる事件」の事だ。

 

 

「死穢八斎會という小さなヤクザ組織が何を企んでいるか、知り得た情報の共有と共に協議を行わせて頂きます。内容の詳細は順を追って話しますので、皆様は席にお座り下さい」

 

 

 

 

 会議室――サー・ナイトアイの事務所で開かれた協議。これだけ各地方から呼ばれたヒーローを前に、ただならぬ案件でないのは、皆まで言わなくとも自然と解る。

 

「そう言えば流れで忘れてましたけど、先生もいたんですね!どうしてここに?」

 

「ん?何でって…協力を頼まれた以上、断る訳にも行かない。事情は予め聞いた、そんでもってお前らに話さなきゃいかんことが有る」

 

「話す??」

 

 相澤先生の元に駆け寄るお茶子に、対する相澤は案の定、表情を変えない。しかし、先生の口から気に掛かる発言が出たのは気のせいだろうか?話とは一体…なんて考えてるうちに、各人員は席についていく。

 

「ファットさん、俺こう言うの全く分かりませんよ!?考える柄じゃないですし…良いんスか?」

 

「えっと……私もこう言うの一度も経験した事ない上に、上手く話せないのですけど…」

 

「心配すんなや切島くんに夕焼ちゃん。今回、悪い奴らが変な事企んでるから皆んなで煮詰めましょのお時間や。それに今回、BMI事務所のウチらに大きく関わるで。まあ、全員一人も欠かせない重要人物っちゅーことやから」

 

 特に、夕焼と天喰環は今回の会議として超重要な役割人物だ。話せなくとも、此処に居ること自体が重要なので、皆の前で難しいことを話す訳ではないので心配無用だ。

 

 

 

 

「えー、先ずは我々サー・ナイトアイ事務所は約二週間前から、死穢八斎會という指定敵団体の独自調査を進めておりまして、キッカケはレザボア愚連ドッグスと名乗る強盗団の事故から発生しました」

 

「警察は事故として片付けたものの、腑に落ちない点が多く追跡を開始。私、サイドキックのセンチピーダーが、ナイトアイの指示の下、追跡調査を進めておりました」

 

 サー・ナイトアイ事務所の調べによると、ここ一年間の組外や裏稼業団体との接触が急増し、組織の拡大・金集めを目的としている事に目を付けた模様。

 

「そして更なる調査を進めた結果――死穢八斎會の若頭・オーバーホールが、敵連合の二人と接触したと判明。

 一人は分倍河原仁、敵ネームは〝トゥワイス〟。一人は竜胆沙知、忍名は〝龍姫〟。

 

 尾行を警戒され、これ以上の追跡は叶わなかった物の、警察の協力を得て調査を進めた所、現場には二人の血痕が残ってた事から、組織内で何かしらのトラブルが発生したと確認」

 

「んでだ、連合が関わる話なら…っつー事で俺や塚内にも声が掛かったんだ」

 

 以前、緑谷がインターンに参加するべく試しにグラントリノと連絡したものの、警察の塚内と供に敵連合の捜索に当たってると聞いたのだが…今の発言で辻褄が合う。

 道理で八斎會の件でグラントリノが在籍している訳だ。

 因みに、当の塚内本人は連合の一人が人気の無い深い森林地帯で目撃したと情報が入り、其方へ当たってるそうだ。

 

「龍姫と言いやあ、死塾の元中等部…あんまし目立った形跡は無かったが……まさか小僧に続きアンタまでも迷惑掛けちまうとは…」

 

「えっ?」

 

 グラントリノの謝罪の念を込めた言葉に、雪泉は目を見開く。

 敵連合の中に、死塾月閃女学館中等部が所属していた…という事実に、驚嘆の色を隠せない。

 雪泉たち黒影の孫弟子五人は、死塾月閃女学館の中等部に所属していた訳ではない。しかし、自分の学園の下には当たるとは言え、善忍から敵連合に赴いた忍がいたことを、雪泉本人は知らなかったのだ。

 この形で、初めて知り得ることになるとは、予想もしなかったのである。

 

「――続けて」

 

「はい!警察の調査はこれ以上の詮索は叶わなかったのですが…とあるBMI事務所のファットガムさんの証言により、HNを通して皆さんに協力を求めた訳でして…」

 

 HN――ヒーローネットワークを略称した呼び名である。

 プロ免許所属の人間だけが使えるネットサービスは、全国のヒーローの活動報告を閲覧、便利な個性のヒーローに協力を申請したり出来る特別なネットワークのことである。

 

「ちょい待ちな、HNを通して協力に至ったんなら、忍がいることはどう説明するんだ?

 現代社会がどうとかはさておき、忍が…況してやガキがプロの協議会に出席してる事自体が可笑しくて仕方ないぜ」

 

 此処で不満そうな訝しげな視線と供に発言をしたのはロックロック。どうやらヒーロー社会にも多少、忍の存在を善く思ってない人間がいると聞く。このヒーローもその内の一人に入るのだろう。

 肉倉と名乗る士傑とは違い、善悪両方の忍に不満を抱いているらしい。

 

「おい黒人。大層偉そうな口を叩いてるが、忍が此処にいてはいけない理由が何処にある?私たちはプロに認められたからこそ、この場にいることが許される。私の実力はプロをも凌ぐ華麗な才覚の持ち主…少なくとも私が此処にいること自体が感謝されるべきでは?」

 

「その自信は何処から湧いてくんだか…忍ってのは上に雇われる従者だ。敵の組織から雇われてたスパイでしたーなんて話しになったら、其れこそ排斥するべきだろ。

 それだけじゃあねえ…ガキと言いやあ雄英生もだ。天下の名門校とは言え、神野や襲撃に当たった連中が居て良いのかよ?いや、肩書き背負ってるだけのお荷物になるならゴメンだぜ?」

 

 総司の反論も、唾を吐き捨てる

 …どうやら、忍学生云々だけでなく、ヒーロー学生のことに関しても不満を抱いていたご様子だ。

 物言いは厳しめな部分が見受けられるが、強ち間違いでもない。

 

 先ず敵連合に目を付けられ、何度も襲撃を許す警戒態勢と安全の無さ。不安要素ばかりが募る上、払拭出来ていない時点で、子供達に危険が高くなる。

 逆に目を付けられ、自分たちの作戦や行動に支障が出てしまうのでは、これから始まる会議が台無しになるのは、御免なのだろう。

 

「ぬかせ!全員ともスーパー重要参考人やぞ!!」

 

 しかし此処で不穏な空気を破るファットガムの褐声が室内に響き渡る。

 

「芭蕉ちゃんと夕焼ちゃんのお陰で抜忍グループの確保、そして切島くんが身を呈して動いたお陰で有益な情報が手に入ったんやで!!もう飴ちゃんあげるだけやない、大阪料理全般お気に入りフルコース奢らせたる位、大いに働いた若者四人に拍手や!!」

 

「ノリが…キツイ……」

 

 ファットガムのノリについていけない環は、顔面を暗くしたまま俯くばかり…他の三人は首を傾げるしかないのは、何故自分たちの活動が、今回の件で大いに役立ったのか判らないのだろう。

 確かに敵グループと抜忍グループを捕まえた事は、ニュースとして目立ってはいるし、社会奉仕として充分役立ったのは理解したが、それが死穢八斎會の案件に繋がることが解らないのだ。

 

「八斎會は以前、認可されていない薬物の捌きをシノギの一つにした疑いが有ります。そこでその道に詳しいヒーローに協力を申請したのです。それがBMI事務所、ファットガム」

 

「昔はゴリゴリにそう言うモンを専門的にブッ潰しとりました!!そんで芭蕉ちゃんと夕焼ちゃんの二人、烈怒頼雄斗のデビュー戦!先ほど前述した抜忍と敵グループを押収した所、今まで見たことがないブツが環と夕焼ちゃんに打ち込まれた――

 

 ――〝個性〟と〝忍術〟を壊すクスリ」

 

 

 それを聞いた一同は、息を詰まらせる。

 動揺隠せず、一斉に驚嘆の声が上がる。

 

「個性と忍術!?」

「忍術ってアレか、忍が使う異能だろ?」

「異能って、まあ間違いじゃないけど…それって忍の能力が制限されるってことか?」

「其れ滅茶苦茶致命的じゃない??」

「そんなモノ、聞いたことないぞ?本当なのか?」

 

 個性だけでなく、忍術…忍の扱う力を無効化にし、制限を設ける異様…いや、狂気としか呼べない薬物は、その場の空気を凍えさせるのに充分だった。

 

「えっ、環…大丈夫だよな??」

 

 小学生の頃から付き合いの良い親友のミリオが、信じ難い顔で尋ねるが

 

「大丈夫だよ。よく寝て朝起きたら使えるようになった。ホラ見て、牛の蹄だよ」

 

「朝食は皆んな大好き牛丼かな!?」

 

 手を牛の蹄に再現する。

 この様子だと恐らく個性や忍術の概念が消えるという訳ではないので、危険であることに変わりはないものの、一応現段階では将来に支障はないだろう。

 

「回復できるなら安心だな」

 

「しかしそんな物騒なブツが出回るとなると…抜忍や敵にとっては有益な品物ですね。これが裏で多く知られてると考えると、私たちの今後の調査や活動に多大な影響を及ぼしますし、一概的に安心とも呼び難いですね」

 

「それなんやけど…」

 

 ホッと安堵の息を漏らすロックロックの発言に、難しい顔で警戒する麗王。今後ともこう言った自分たちの行動を制御する形の品物が、沢山市場に出回れば、事態は悪化し、能力の無効化を受け、弱体化しかねない。

 そう考えた麗王の言葉に、ファットガムは続ける。

 

「警察に聞いたら、本人達はこんな品物は知らん!ってな。大金払ったものの何の効果も無いとかどうとか…惚けてる様子でも無かったし、寧ろ何の役にも立たんっちゅーてたから、これを察するに恐らく…――」

 

「何も知らされずブツを流してたと?」

 

「せや!被害を受けた件も指を数える程度しかないから、恐らく最近で間違いないかもな!」

 

「とすると…恐らく、そのブツは単なるサンプル品という可能性が有りますね。闇市場に粗悪品のアイテムを流出する件も不自然ではないですし、薬の効果を試す為の…」

 

「なんかスゲー次元の話してて頭がちんぷんかんぷんだ…」

 

 違法関連の取引に詳しいファットガムに、知識が広大で幅広い麗王、二人の会話はプロからすれば理解できるものの、石頭の切島には解らず仕舞いだ。

 

「んで、環と夕焼ちゃんの打たれたブツの解析と二人の体調を調べた所、個性因子と忍の持つ血液の細胞が傷付いてたことから、個性と忍術と言った特殊能力を壊すだけ!他は何の害意もなかったんやが…

 

 中身のモノはメッチャとんでもないモン入ったったわ。これは正直胸糞悪いで」

 

 表情豊か、性格も穏やかなファットガムの顔は、段々と険しい表情に変わって行く。

 

 

 

「人の血と細胞がメッチャ入ってた」

 

 

 

 辺りの空気が淀み、重力が増す。

 弾丸の仲間は何と、人間の血と細胞が詰め込まれた人工的な…つまり、その弾丸は人の個性由来から発生したもの…一度思考を働かせてしまうと、悍ましさや悪寒が止まらない。

 

「ひぃッ…!?」

「まるで別世界のお話しみたいね…」

「ほ、本当にそんなモノが出回ってるんですか?」

「な、何て怖ろしいことなのでしょう……」

 

 こんな非現実的な話を何も知らない学生に話したら、至極当然の反応だろう。

 それもそうだ、見知らぬ薬物を検定に回した結果――銃弾の中身が人間の血液と細胞が詰まってましたなんて、幾ら超人社会の仕組みとして作られてる世界でも、納得など出来やしない。

 

「そんで流通経路を調べた結果、中間商売組織と八斎會との交流が発覚。隅から隅まで調べるとメッチャ経路が縮小されてたり、証拠隠滅とかされてるから、裏ではゴッツこんなのが日常茶飯事として行われてるねん」

 

 以前のリューキュウ事務所が取り押さえた敵組織もそんな感じだ。巨大化する粗悪品、忍にも有効な活性化剤。麻薬を始めた違法薬物ばかり…そういうシノギを始めてる人間の多くは、裏稼業で金を巻き上げているのだ。

 

「しかし、死穢八斎會が何故人間の個性を由来に流したのかは不明な点が幾つか有りますね。単に自分に敵対する者を弱体化するにしても、それだけでは理由を繋げることには…――おや?」

 

 八斎會の企みが見えず、個性と忍術の能力を破壊する弾を、捌く動機が見えない雪泉は、顔を顰めるも、隣に座ってる緑谷の異変に気付き、思考を止める。

 

「……そんな…まさ、か……あの、包帯はそう言う……いや、でも、こんなことって、それじゃあ…」

 

「あの、緑谷さん?顔色が随分と悪いようですが…大丈夫ですか…?具合が悪いのなら無理をしなくても……」

 

 滝のように汗を流し、全身を水で浴びせた容姿、顔色は気味が悪いほどに悪化し、見てるこっちも気分が害されていく気分だ。

 

 

 

「そして死穢八斎會の若頭、治崎廻の〝個性〟は【オーバーホール】

 対象の分解・修復が可能。壊し、治す個性に、娘のエリと呼ばれる少女…個性を破壊する弾」

 

 

 

 ――ドクン…!!!!

 

 それを耳にした途端――緑谷出久とミリオの心臓は、互いにシンクロするよう大きく脈を打った。

 

 ただ、少なくとも…今の頭の中に思い浮かぶ光景は、小さな少女の腕に巻かれた包帯と、緑谷出久だけが聞いた少女の「助けて…」と、救済を求める弱々しい声。

 

 少女は…一体、どれほどの苦痛と絶望を与えられたのだろうか。

 それこそ、人生を振り返った中で想像も付かないエピソードが、隠されてるだろう。

 

 

 

「娘のエリと呼ばれる少女の個性は現段階では不明…ですが、腕には夥しく包帯が巻かれており、とても怪我とは呼び難いものだったと…」

 

「まさか…なんて悍ましい…」

 

「……これは、予想外以前に、考えも出来ません……まさか、エリと呼ばれる少女は、そう言う…」

 

 サー・ナイトアイの説明に、リューキュウと麗王は悟りきったように

 

「……読めてきた。成る程、悪忍の私が言うのもなんだが、随分と非道な行為をするんだな、敵も」

 

「……………」

 

 総司も皆まで言わずとも理解し、雅緋は黙ったままフツフツと怒りを沸騰させながら、沈黙する。

 

「えっと、つまり…?」

「何…何の話ッスか!?」

 

 対する芭蕉と切島も解らず仕舞いで、雪泉も困惑の色を浮かべてる。彼女も、絶大な惨劇など想像も付かないのだろう。

 

「お前らさ、もうガキはいらねえだろ。これ位解れよな…」

 

 理解に悩み苦しむ学生に、ロックロックは心底、呆れたように溜息を零す。

 

 

 

「――つまり治崎は、自分の娘の身体を銃弾に変えて、世界中に売り捌いてんじゃね?って訳だ」

 

 

 分かり易く、直球な言葉。

 誰もが聞けば、簡単に想像が付く悍ましい光景。

 

 エリと呼ばれる少女の腕に包帯が巻かれてるのも、八斎會から見知らぬブツが発見されたのも、個性や忍術を破壊出来るのも――

 

 ――全てエリの身体から搾取されてこそ、成り立つのだった。

 

 

「んなッ――!?!!」

「ヒッ…!!」

「げぇ…!」

 

 学生にはこの内容は厳しいだろう。

 先ず次元が違うし、仮に考えが行き届こうと、そう易々と実行出来るものじゃない。

 人間の体の細胞を取り出し、銃弾に埋め込むことで個性の効果を発動させる…確かに、発想だけを切り取れば誰もが考えも付かないアイディアだろう。だがそれと同時に、深い血塗れな闇の部分も確実に大きいと言えるものだろう。

 

 真に賢しい敵は闇に潜むとは、よく言ったものだ――

 

 

「…………」

 

 一方で、八斎會の真相を知った雪泉は…

 

 

「………」

 

 あの時もし自分がいち早く治崎の素性を知り、止めることが出来れば…娘のエリは少しでも早く救われていたのでは?

 

 救いの手を差し伸べた少女の手を、掬い取れなかった少年二人の悔恨は大きいものだろう。しかし、シチュエーションや状況を知らないとはいえ…自分は、気付かぬ虚ろに塗れた笑顔に騙され、益々と悪を野放しにしてしまった…

 

 其れが例え、サー・ナイトアイやサイドキックであるセンチピーダーに、バブルガールが責めなかったとしても、今回の件に関しては自分は無関係とは言えないのである。

 況してや純粋且つ、大真面目な彼女からして、責任を負うなと言う方が難しいだろう。

 

 

 今もこうして治崎は娘を利用し商売を行なっている。

 弱き少女を、平気で金儲けに扱う鬼畜な所業。

 エリは希望を持たず、絶望に支配されている。

 雁字搦めの恐怖で縛り、支配している。

 

 其れは…黒影お爺様に拾われ、豊かに平和に暮らしてた、愛情に満ちた家族とはかけ離れた……血生臭い地獄絵図。

 

 そんな胸糞の悪い話を聞かされて、彼女が平気でいる訳でもなく――

 

 

「………私は今、これ程以上に憤りの感情を覚えたことはありません…」

 

 ――これまでにない義憤が、彼女の心の原動力となりて、彼女自身を突き動かす。

 

 体を小刻みに震わせ、拳を強く握りしめ、殺意を抑える。

 今こうして冷静を保てるのがやっとで、止まらない憤慨を無理矢理に押し殺す。

 そうでもしないと、自分が可笑しくなりそうな程に程に――

 

 

「そもそもよぉ、サー・ナイトアイ事務所に所属してるガキどもが、早くその娘を保護に回しゃあ事態は防げたんじゃねえのか?!何でテメェらは何も出来なかった!況してや相手が治崎と分かっていながらよぉ!」

 

「良い加減黙らんか!聞いてて鬱陶しいぞお前!其れが出来たら最初っからそうしてる、民間人もいる公衆の前で娘諸共危険に晒す羽目になるんだぞ?

 そうなる状況じゃなかったから、こうなったんだろ?」

 

「皆さん、どうか静粛に」

 

 ロックロックの厳しい物言いに、我慢の度を超えた雅緋もまた反論する。空気が悪化する流れを治めるセンチピーダーに、サー・ナイトアイは頭を下げる。

 

「その件に関しては私が責任を負う。手を出すなと命令を下したのは私だ――何より情報も証拠もない以上、下手に勘繰るのは危険だと、私が判断したからであって、二人の少年を責めないで頂きたい。二人とも娘を救出しようと最善を尽くしました」

 

 

 緑谷出久はリスクを背負い、その場で保護しようとし――通形ミリオは、先を考えより確実に保護できるよう…

 

 

「今この場で一番悔しいのは、この二人です。それが私たちの目的となります――」





???「雪はね、白く全てを包みこんでくれる。憎悪の炎を優しく溶かしてくれるんだよ。冷たくてひんやりとしてるけど、私は冬が好きだったなぁ…
雪泉ちゃんって子ならきっと、陽花ちゃんの意思を、未練を少しでも…」


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