本編の再開開始です、まあ裏ストーリーは一区切りついたからという理由もありますが…
兎に角、こうしてまた緑谷キュン達が再活躍できて嬉しいですね。
飛鳥「私達っていつから再開するんだろ?」
ミリオ「これ終わったら急遽シナリオに入らなければならなくなった焔紅蓮隊編もあるし、それ終わったらだから結構先になるんだよね」
緑谷「道のりが…でも、京都編なら代わりに僕らの出番が…」
「フム、君が例の黒影の孫弟子か――」
昨日――インターン志望として、遥々と遠い地区(忍学校は企業秘密の為、詳細は伏せておく)からやって来た忍学生を凝視するのは、ヒーロー事務所を構えるサー・ナイトアイ。
対するは、死塾月閃女学館の忍学生にして、黒影の孫弟子――三年生の雪泉である。
彼女は相手の目線を合わせ、軽く「はいッ」と返事を返す。雪泉はサー・ナイトアイとは初対面であるが、相手は彼女の事は調べ尽くしている。
尤も、ヒーローが忍学生を含めた特定の忍の個人情報を把握するのは至難を極めるが、サー本人は調べなくとも黒影との面識がある為に、調べずともある程度、彼女の事は知ってるつもりだ。
「先ず基礎的な質問をしよう――君は何故、私の事務所を選んだのか」
何処の職場や学校にも、ほぼ確定と断言して良いほどにこの手の質問は繰り出される。(但し、指名が入った場合はそもそもの話、質問はされない)
忍学生とはいえ勉学の方も疎かにせず、日々精進し励む雪泉にとっては想定内の範囲だろう。
「私はこの現代社会――
その為には――オールマイトとコンビを組んでいた貴方から、多くを学びたい。知識や技術、経験を己の糧として、人々の未来を守る立派な忍になりたいから…いえ、ならねばならないから」
オールマイトの元
しかし相棒の肩書きとは余りにも不釣り合いで、その人員はミリオと麗王、本人を含めて四人しかいない。その点に関しては謎、不可解には思ったものの、出さない理由にはならない為、彼女はオールマイトとの縁による繋がりの意も込めて、この事務所を選んだのである。
「成る程…契約書のプリントは見ての通り忘れずにあるな…
――で、私がこの契約書にサインを押せば、君は晴れてこの事務所の一員として実績を積み、
黒尽くめのサインを片手に持ちながら、眼鏡越しの瞳を雪泉に向ける。彼女もサーの視線を一度も外すことなく、見つめ返している。
「だが、もし私が〝お断りします〟と、拒否の言葉が返されたらどうする?」
その言葉に深い意味はなく、皆まで言わずとも雪泉は彼の物言いたげな発言を理解した。
「……理由を、お尋ねしても宜しいでしょうか?」
「簡単だ、私が印鑑を押す気がないから、ただそれだけだ」
雪泉は表情こそ何とか堪えてはいるものの、サーの余りにも理不尽な理由に、僅かに表情は訝しさを増した。
「確かに正義としての心得、志し、理想、平和の象徴の穴埋め、其れ等のやるべきことをしっかりと理解し、私の事務所を選んだのは素晴らしい。良い考えだし、貴様のメリットは承知した。我々事務所には忍学生を含めたインターン生2名、サイドキック2名、成る程…忍学生に関してはいないよりかはマシだな…そうなると私にもメリットがつく訳だ」
「でしたら――」
「だが…」と、サーは事務机の椅子から立ち上がると、素早く雪泉の方へ移動し、両肩を掴む。
「貴様の正義は、誰かを笑顔に輝かすことは可能なのか――?」
「えっ…?」
サーの予想外な質問に、雪泉は微かに驚嘆の声を上げる。
己の信念とも呼べる正義が、他者の笑顔に繋がるのか――サーは更に言葉を紡ぐ。
「私の事務所内の者達は皆、ユーモアのある優秀な人員だ。人々の心を幸せに、そして世の中を輝かす為にはそう言った旨味が必要だと認識している。
無論、現代社会によるヒーローの法律や規制は多くなり、ヒーローそのものがユーモアのセンスを失くしてる者が有象無象として広がっている…現に私利私欲に塗れた者達の姿勢が、ヒーロー殺しの逆鱗を触れたと断言しても過言ではない。
私はね、元気とユーモアのない社会に未来はないと私は思うのだよ」
サー・ナイトアイはユーモアのセンスを何よりも誰よりも、大事に心掛けている。
幾ら社会に蔓延る悪意を砕こうが、弱者を救おうが、人々を笑顔にするユーモアがなければ、殺伐とした空気だけが漂う。
其れは――嘗てのエンデヴァーが千歳、夜嵐イナサに対してそう振る舞ったように、少しの原因でトラブルを招き入れる危険性が充分に高いこともある。
ヒーローが人を救うだけでなく、自分は他者にどう見られているのか、それを理解していなければ人々を救うヒーローになるなど夢のまた夢……正義を志しても何の意味もない無価値と化す。
それでは悪を倒す暴力装置と変わらない。
弱気を助け、笑顔に導けない者はヒーローとは呼べない。
正義の定義は様々有り、笑顔に繋がるとも限らない。
「黒影のことは知っている――忍社会では悪忍狩りを幾重と行い、善悪問わずと全忍に追われ、上層部から追放された男…私からすれば〝正義だけを語る非情な愚か者〟と称する…」
黒影の罵倒に、雪泉の表情が僅かに怒りを沸騰させる。
……いや、間違いではない。確かに黒影は己の語る正義と信念に背く忍を殺害してきた。
其れが任務、ではなく…己の私怨として――サーからの視点でそう口に出すのも、致し方ないのかもしれない。此処が面接会場でなければ、軽く口応えをしていたのには間違いないだろうが…
「忍の世界とヒーローの世界…生き方が違うのは百も承知……だからこそ、私から見れば忍の世界に生きる者達は皆、ユーモアという概念すら存在しない。当然だろう、私が口答えする義務もない…しかし、其れは悪魔で手を結ばない条件での話だ…
私の事務所に入る以上、忍の生き方も使命も関係ない――ユーモアも示せない、他者を笑顔に出来ない人間は不要だと言っている」
忍とヒーローが供に明るい未来を築くのであれば、此方の条件を呑む必要もあると判断したまでのこと。
別に此方は忍学生を募集してる訳でもないし(麗王の場合は話は別)、人員を増やす気もない。必要な人員さえいれば今の事務所は成り立つし、雪泉が此方の事務所に入ればメリットこそは存在するのだろうが、強要はしていない。
「だがもしもだ、雪泉――先ほど問うた際、貴様の答えた言葉が嘘偽りない真実なのであれば…了承し引き受けよう。
貴様が黒影の背を追い続けてるだけの、二の次ではない…誇りある信念、他者にとって有益である者と認められれば、是非とも私の事務所の下にてインターンを許可する。
私の言葉、解るかな?」
「……言葉だけでは不要。私の存在が貴方にとって相応しく、事務所に所属する素質があるか…
其れを証明しろ…と、言葉を捉えて宜しいですか?」
いつの間にか雪泉の手には黒影から渡された自愛してる扇子を握っていた。
「気の利いた返事で大変宜しい――制限時間内、そして被害を出すことなく、私からこの印鑑を奪ってみせよ。
どうだ、簡単な上に忍らしい試練だろう?」
忍は盗み、暗殺、破壊、諜報、様々な活動を生業として生きている。少なくともヒーローとしての世界観より、忍社会の掟や常識に溶け込んでる自分にとって、有利な状況下とも思えるだろう。
「こうなっても可笑しくないのではと、薄々勘付いておりました…何せあのオールマイトの元相棒…一筋縄では行かないのは百も承知、良いでしょう、私の正義――貴方の目に凍りつかせましょう!」
「私の目が見据えるのはいつだって、限りない未来だ――」
「へぇ〜、昨日サーとそんなことがあったんだ!オードーローキーがぁぁ〜〜…デカイ!!!――ってね!」
タハハハハ!!と相も変わらず愛想よく豪快に笑うミリオに、隣の席で座る雪泉は少し照れくさそうだった。
昨日起きた試験採用に至る過程に対して触れていたようで、ミリオは声のボリュームを下げるとを知らず、廊下にまで笑い声が反響した。
因みに麗王は現在、バブルガールと供に調査回路と範囲の確認、とある組織のターゲットの監視に二人で対談をし合っている。
「いえ…結局、制限時間内に印鑑を奪取することは不可能でしたし…其れに、私もまだまだ未熟だと、思い知らされました…」
「いやいやいや、ああなった以上は基本、サーの攻略は不可能だよ。幾ら万策立てようと、一度視られてしまった以上はどうしようもない」
サー・ナイトアイの個性は『予知』――対象人物の一部に触れ、目線を合わせることで1時間の間、その人物のとりうる行動を先に〝視る〟ことが可能。
未来を予知する幅が広くなれば、時間による誤差も起きてしまう。
因みに個性による情報は社外秘なので、雪泉はともかく個性分析や知識が幅広い緑谷が現在進行中で試験に手こずっているのはその為である。
遭遇した後、感動…とまではいかないが、意外なる再開に内心こそ驚きではあったものの、緑谷自身遊びに来た訳ではない。再開に打ち震えるのは後に、採用を受けるべく事務所にやって来たのだ。
現在――緑谷がサーに認めてもらうべく、試験を始めてからは1分しか経過していない。
勿論、事務所で採用を受ける際に試験なんて存在しない。他の事務所はどう言った理由で相棒、又はインターン志望の生徒を引き入れるかは不明だが、少なくともサーにはサーなりのやり方という物があるのだろう。
未来予知を駆使し、結果がどうなるのか予め知っててもなお試験を受けさせると言うのは、実はそれなりに期待を寄せてるからだと雪泉は推測している。
口では伝えなくとも、彼の厳しさには優しさが一体と化してることを、雪泉は昨日の採用試験の後に身に沁みたから。
恐らく、余程のことで無ければ緑谷出久の不採用は有り得ないが、万が一という確率もあるので、油断は出来ないというのも確か。
「ミリオさんは、指名…だったんですよね?」
「せやで!まー体育祭では良い結果こそ出せなかったけど、努力を認めて貰えるのは素直に嬉しいよね!」
体育祭に関しては、雄英一年生の舞台しか視聴したことがない為、ミリオ達の生中継は一度も観たことがない。
「流石ですね、あの人から指名を貰えるなんて…私と歳も変わらないのに、相当な鍛錬を重ねたのでしょう。努力とは実るもの…期待を裏切らないというのは、ミリオさんにピッタリですね」
「あーそうなんだけどさ、俺の場合は沢山色んな人から恵まれて来たから、ここまで登りつめたんだよね」
ミリオの個性は雄英生徒に伝授した通り、本来なら誰もが口に出す弱小部類の個性だ。下手すれば体が真っ二つになるなんてホラーも真っ青な展開が起きても不思議ではない。
使い道を間違えれば己すらも死へ追い込む能力を、自分の使い方と個性の鍛錬で無敵に近い個性へ磨き上げた。
「そりゃあ何度も吐き気を施すほど自分を追い詰めたり鍛錬したりして…でもサーに指名を受けてから、学校じゃ教わらないこといっぱい学べたし、俺としてはサーやアイツ等(環、波動)と会えたことで恵まれたんだよね」
ヒーロー科で受ける授業は全てが万全とは言えない。
教師だって人間――教える事にだって限度があれば、外の世界では常に何が起きても可笑しくない。
校内と教師が所属し安全を確保してるだけであって、一人前のヒーローとして外の世界に出れば生死を彷徨う現場に赴くことは日常茶飯事…尤も、オールマイトのいない社会では、少しずつ犯罪確率も高くなりつつあるので、命を落とす危険性は尚更だろう。
だからこそ、学校内の授業は学べる知識や技術に限度があり、外の世界に出れば限りない経験を積み、学び吸収することが出来るだろう。
だからこそ、インターンは危険を伴うと同時に豊富な経験を積むことができるのだ。
サーが自分を指名してくれなければ、自分はそもそも此処にはいない。誰かと出逢い、繋がれたことが、ミリオにとって恵まれた環境だと自負している。
「それよりもさ、俺は雪泉ちゃんがどーして忍になった経緯とか、これから先どうしたいか、どうなりたいかが聞きたいな。ホラ、昨日のこと聞きそびれちゃったし」
「私、ですか?そうですね――」
話すべき…?いや、黒影様の存在を口に出すのは関係者以外、基本的にタブーではあるものの、敢えて名前を伏せておくことにした。
勿論話したく無ければ無理強要はしないし、家庭内による深い事情を残す人間は世の中には存在するのである。
「私は…ある人に恩返しをしたい。そして自分は己の信念と、世の中の正義と向き合い、理不尽な悪を討つと言うのが、最初の答えでした。
…しかし、今は少し違います」
単に悪だから、消してやる――そう言った根本的で行き過ぎた正義とは違う。
悪を討つ…と言う言葉を切り抜けば、自分達の行動は変わりはしないものの、悪だから滅べと言う極端で理不尽な理屈を並べて、大義を成すつもりはない。
良かれ悪かれ人間には、善と悪の両方を持っている。それを完全否定しては意味がない。何も変わらないし、結局は争いしか生まれない。
嘗ての自分は純粋過ぎた――黒影の背中を追い求め、悪の存在を蔑ろにし、否定し拒む忍だった。
だけど、飛鳥さんやオールマイト、半蔵様、他にも雄英生に轟さんと出逢え、初めて心を動かされた。考えが変わった――自分の正義、価値観を見直すことが出来た。
「今は…そうですね、私の正義が誰かに認められ、人々の笑顔を守れる忍になりたいです。
私は、ミリオさんやナイトアイさんのようなユーモアこそ持ちかけてはいませんが…心の底から溢れた皆の幸せを、影から守りたいと思っています」
ヒーローは人々に笑顔を導かせる。
忍は人々の影から笑顔を守り、幸せを護る。
ヒーローにはヒーローの役割が、忍には忍の役割が存在する。別にヒーローが忍のように影から守らなくても、忍が公に出てヒーローの真似事をしなくても良い。
自分達にしか成し遂げれないものを為すのが、個々人の役目だと雪泉は解釈している。
幾らヒーローが人々の笑顔を作っても、それを何の性懲りもなく理不尽な言動で壊す輩がいれば、人々は苦しみを味わう。
造られた幸せが崩壊し、悲惨な過去を背負うことになれば、何れ自分と同じ境遇を持つ人間を産んでしまう。
そんな悪意を持つ存在から笑顔を守るのも、大切なことだ――これ以上の被害や悲しみを生ませない為にも、少しでも多くの人間から悪意を守る為にも、より多くの経験を積み、自分が社会に貢献する善忍になりたい。
「例えば、ミリオさんやナイトアイさんが救った誰かの笑顔を、今度は私達が守る――幾ら人々に笑顔が灯っても、それが消えてしまうのは私も辛いですから…
だから、ユーモアこそ私には存在しませんが、皆さんが導いた笑顔を守り通したいと、そう思っております」
信念、理想――其れ等を担ぎ新たな忍社会に革命を築こうとしてた過去と今では大違いだ。
「……元気な問題児君も滅茶苦茶な目標だって思ったけどど、君も君だなぁ――良いじゃんソレ!!」
軽く親指を立てるミリオは、ほんわかする優しい笑顔を浮かべる。
(成る程ね…サーは、其処が気に入ったんだ)
明るい笑顔とユーモアをより強く大事に心掛けてた彼は、雪泉の〝笑顔を守り通す〟信情に心を動かされた。
印鑑を奪えず、制限時間すら過ぎた彼女…別に、拒む理由だって無いのだが、彼女が黒影の行く道を、ただ追い求めていた後継者だったら普通に切り捨てていた。
でも、彼女のダイヤモンドの様に硬い眼差しが、オールマイトに勝るとも劣らない正義感、黒影のような私怨混ざらない清々しい心があったから、試す価値があった。
その結果、彼女は誰かの笑顔を守りたいと断言した――
『たしかに、私はオールマイトの様に他人を輝いた笑顔に染めることも、誰かを幸せにしてあげることも、そんな力さえ持っていません…
だけど…神野区の出来事で、彼が人々の笑顔を守り通したように、私も誰かの笑顔を守りたい――貴方達が笑顔を作るのなら、私に明るい笑顔を、守らせてはくれませんか…?』
そんな事を言われたら、彼女の採用を不可にする理由も無い。
自分達が市民を笑顔に導かせても、其れが壊されてしまえばその分、落差による悲しみを、心の傷を背負わせてしまうだけだ。
予め予測を立て、最悪な未来を防ぐサーにとって、予め守り立て、悪意から幸せを護り防ぐ雪泉は必要不可欠な存在になってしまった。
ユーモアは大切だ――だがそれだけを求めても解決策にはならない。サー・ナイトアイがオールマイトとコンビを組んだのは、単に憧れからくる尊敬の念だけではない、全てを守り敵に立ち挑む勇姿に感化されたからだ。
『……久しく、忘れていたな。オールマイトのことを…』
彼女への否定は、ユーモア自身を拒絶することに繋がる。
元々彼女を事務所へ招き入れるかは半信半疑では有ったが、彼女と面を向けたサーは、彼女が我々事務所に貢献するに相応しく、有益だと判断し採用したのである。
「待たせたな、ミリオ、雪泉」
ガチャリ…と、扉が開かれると供に冷静な声が二人の耳に届く。埃や汚れ一つないサーに対し、横で息切れながら汗を被ったようなびしょ濡れの緑谷とは、絵面的に対極を示している。
「おっ、どうだったんです?」
「採用だ――少年も晴れて我が事務所の一員と認める。勿論、インターンとは言え一切の甘えはしないし、勉学と供に励むのが厳しかろうと、普段通りやっていくつもりだ」
やったあぁぁ!!良かったねぇ!と歓喜の声を張り上げるミリオに、緑谷の顔は何処か浮かばずとも、不思議そうな顔をしていた。
「おめでとう御座います、緑谷さん――今日から私達と供に活動するんですね」
「本格的な活動は翌日からだがな――」
雪泉の微笑む声とは他所に、言葉を付け足すサーは書類を片腕に抱えながら、事務所の机の上に置く。
「そ、それでも僕…条件を満たせなかったんですけど…」
「其れを仰るなら私もですよ緑谷さん、大丈夫です。ナイトアイさんが採用したんですから、経緯はどうであれ、認められたことに感謝しませんと」
落ち込み、疲労、探れない不安、其れ等が集合したように心を募らせた緑谷に、雪泉は軽いフォローをする。
緑谷出久に課せられた条件は、昨日の雪泉の試験内容と同じものである。違う箇所とすれば、部屋を荒らさずに奪取しろと言うのが、雪泉の条件ではあったが、緑谷の場合は部屋を好きに荒らしても良いことだったので、些細な違いは其処の点だけだろう。
そもそも制限時間内に印鑑を奪取しなければ不採用とは言ってないので、採用されても全く可笑しくはない。
「雪泉の言う通りだ――別に私は貴様を不採用にするつもりはないし、させるつもりは毛頭ない。
だが、認めていなかった――だから試した。それだけのことだ。貴様が
象徴無き今、人々は〝微かな光〟ではなく〝眩い光〟を求めている。例え彼の意に反しようと――
「よ、宜しくお願いします……!!」
緑谷出久――サー・ナイトアイの事務所にて採用確定。
オールマイトに選んでもらえた緑谷出久、それを認めないサー・ナイトアイは通形ミリオを後継者として選んでいた。
そんな事務所内による奇妙な関係に戸惑うも、時間は待ってくれないよう、あっという間に翌日に入る。
「監視、ですか?」
ヒーロースーツに身を包む緑谷とミリオ、忍装束に身を包む雪泉と麗王は、サーの事務所内で行動作戦を練っていた。
「そそ、今ナイトアイ事務所は秘密の捜査中でね――死穢八斎會と呼ばれる小さな指定敵団体について調査を行なってるの。それで隠密に捜査をしましょってことで、二手のグループに分けて行動に移ろうと思ってるの。チームの組み合わせは昨日麗王さんと打ち合わせたから、指示に従ってくれればOKよ」
褐色肌の短髪な女性――バブルガールは手に持ってた資料を全員に手渡しする。
こう言ったプロの現場に赴き、活動できるというのは何だか新鮮で、緊迫感が拭えないのがまた意識を高めさせてくれる。
「死穢八斎會…そんなヤクザ者の調査の意図とは…?」
「最近その組織の若頭、治崎が妙な動きをしてる上に、顛末は不明だけど、今も名を騒がせてる敵連合と接触があったそうなのよ――あっ、雪泉ちゃんの分これね」
バブルガールから渡された八斎會の資料を手にした雪泉は、あの敵連合に関わる治崎の写真を見る。
「えッ――これって……」
途端――氷の如く冷たい彼女の背筋は、悪寒に襲われ鳥肌が立つ。
微かな衝動が、全身に巡るような錯覚に囚われながら、隅々と写真に映し出された若頭の顔を観察する。
静寂を被る物静かな眼、
青年と思わしき年齢の容姿、
大きな特徴はペストマスク、
これは、一昨日遭遇した死穢八斎會の若頭であった――
後書きの月光閃光のコーナーは後々!
勇希「この頃の私達ってどうなってるのかしら?」
守「ぎちち……ゆう、キ…傷つけるやつ、ゆる、ザ…ゔ、ゔゔ…ゔぉぉおおおお……」
柊「おーよしよし、大丈夫だからね。守、勇希を傷つける奴はどこにもいないからな〜」