光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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155話「新たな因縁を」

 

 

 

 

 

「俺の個性強かった?」

 

「いや強すぎますわ!!」

 

 インターン説明の為に実戦を経験させた通形ミリオの呆気ない一言に、一同は揃えて発声する。

 本来の説明ならば口だけの説明で良かったのだが、生憎インターンとは社会奉仕活動でも有り、職場体験とは違うプロと同等の立ち位置で行う本格的な活動だ。だからこそ、プロと供に現場に赴き活動を行う経験者の方が信頼や確証が大きい。インターンという活動の重みも知れるだろう。

 

「どんな個性なんスか!?」

 

「瞬間移動、ワープ類の個性持ってましたよね!?轟のようなハイブリッド型ですか!?」

 

 複数個性といえば、脳無を思い出さなくもないが、アレは論外だろう。しかしだとすれば轟のような個性婚によって組み合わされた個性と考える方が自然だ。でなければ到底あの現象には行き着けないし、透き通るのと瞬間移動が併せ持った個性としか考えようが無い。

 そんな不正なチート級の個性で突破口も見つからず、訳わかんないように腹パンされただけで試合終了となってしまったのだ。

 

「ねーねーミリオ!私答え言ってイイ〜?私知ってるよー、ミリオの個性はね〜」

 

「波動さん…今はミリオの時間……」

 

「まあ簡潔にいうと俺の個性は一つ、そんでもって俺の個性は『透過』!君たちが言う瞬間移動ッていうワープ類の個性はその応用!」

 

 透き通る個性がワープの応用?

 どんな原理であんな人間離れした行動が取れるのかは不明ではあるが…

 

「俺の個性はすり抜けることは実戦でも分かったよね?でもね、俺の個性は結構複雑でさ、凡ゆる物が透けちゃうんだよ。

 空気も、光も、体も何もかも――だから地面でさえもすり抜けちゃうんだよね!」

 

「……ってことは、地面もすり抜けるって…沈んでたって事ですか?」

 

 お茶子の言葉に「そゆこと!」と親指を立てて頷くミリオは、自分の個性について解説を始める。

 

 通形ミリオの個性は一つ――透過

 先ほど本人が述べたように、個性を発動する事で壁や床、空気や光、音さえも透過してしまうこの個性は解除する事で、質量的なモノが重なり合うことは出来ず、弾かれてしまうらしい。どう言う原理かは不明だが、そもそも個性自体ほぼ理解不可能に近い部類も有るので、そこは気にしなくても流れで納得するべきだろう。

 つまり解除をすることで瞬時に地上へ脱出することが可能であり、これが皆で言うワープの類によるものだ。

 体のポーズや角度を調整することにより、弾かれ先を狙うことが出来るのだ。

 

「何それゲームのバグじゃん!」

 

「ゲームのバグね!センス有りイーエテミョー!!」

 

 相も変わらずテンションが高いミリオには笑いが滑るが、確かに納得がいく。

 

「でもよぉ、俺たちの攻撃をスカさせて無効にして、自由に瞬時に動けるって先輩、そゃあ強すぎッすよ…」

 

 上鳴のセリフにノンノンと指を左右に振って否定するミリオ。

 

 

「いいや違うよ…強い〝個性〟にしたんだよね」

 

「強い個性にした?」

 

 ミリオの個性は本来ならば危険的で有り弱小部類に入る能力だ。

 発動中は肺が酸素を取り込めない。

 鼓膜は振動を透過し網膜は光を透過する。

 個性を発動中はただただ質量を持ったまま、落下すると言う感覚が残るだけであり、下手すれば幼い子供が体験すればトラウマに残る難しい個性なのだ。

 

 だからこそ、壁一つ抜けることも他の者からしてみれば簡単に見えるが、それなりに順序的に解除しなければならないし、普通の動作であっても幾つかの工程が必要なのである。

 

 何せ下手すれば、身体が真っ二つになって死んでしまう個性なのだから。プロの現場や急ぎの時間に嗅ぎつける際に、必ずや〝焦り〟が生まれるもの。

 焦っている時こそミスが有る…下手な場所でミスさえしてしまえば、自分の個性で自分を殺してしまう危険性は十分に高いのである。

 それでもミリオがAクラスを全員腹パンで倒したのも、それなりのたゆまぬ努力と経験によるものなのだろう。それらの努力が実り、彼をビッグ3へと昇段させた。

 

「この個性で上を行くには遅れだけはとっちゃダメだった!んで俺は周囲よりも早く予測を立て、時に欺く!!俺に足りないものは「予測」だった!それが俺にとって必要不可欠なものだった!

 その予測を可能にするには経験が必要で、経験則から予測を立てる!つまり、そゆこと――

 ビリッつけから落っこちたら後は登るだけ!俺は上り登って上を目指した!手合わせしたかったのはコレが理由、言葉よりも経験で伝えた方が一年達にとっても、二人の忍学生も伝えやすくて合理的だろう!?

 インターンとなればお客ではなく一人のサイドキック!社会奉仕活動として立派なヒーローの一員なんだ!」

 

 先輩の気迫ある言葉に、一同は心が熱くなり、灯火が残る。

 これが、努力でトップを掴み取った通形ミリオと言う男――

 

「でもね、プロの仕事に立つと言うのは、同時に怖いことでもあるんだ――人が目の前で死ぬことも、恐怖を前にすることもある。

 勿論、誰かを救えずにヒーローを辞めてしまった人だってこの世の中には存在する」

 

 現在――忍の存在が明るみになり、平和の象徴が不在により今の社会は混乱を招き、殺伐とした空気になっているだろう。今はまだ増加してるだけで済んでいるが、この先は頻繁に起こるのでは無いだろうか?

 いや、あり得る。

 敵の犯行でさえ数は多いと言うのに、抜忍が犯罪に加担するだけで悩ましくなる。前例にならない程の犯罪数やその被害数も、下手すればオールマイトが世論に公表される前よりも荒くなる。

 そう言った意味も含めて、インターンと言う活動の重さと経験を知らせたかったのだろう。

 インターンの活動では、学校の授業とは違う経験を得られる、一線級の経験値が手に入る。この先本気でトップを目指すのならば、インターンの活動は学生にとっては必要不可欠だろう。

 

「今の時代だとインターンは忍学生も参加可能になるから、俺たちもまだもだ学ぶ点は増えたし、他校との忍学生と連携を取るシチュエーションも多くなると思うよ!」

 

 確かに飛鳥たち三人組がこの学校に来たことで、相澤が本来見込んでた学生たちの成長を、壁を越えるよう想像以上の成長を発揮させた。

 多少、無茶をやらかす問題児も存在こそはするが、善かれ悪かれ、ヒーローとしての一歩を歩み進めてるのは確かなのだから。

 

「ちょっと長くなったけど、俺の言葉を解ってくれると嬉しいな!それを踏まえて行くか行かないかは君たち次第だし!!俺が言えるのはそんな事かな?」

 

 何もかも納得せざるをえないミリオの演出に、皆の悔しむ顔は、段々と次のステージへと歩もうとする思想が芽生えていく。

 努力次第では、なれるかなれないか…夢が叶うか叶わないか…それは本人次第の努力、というのは言わずとも解るもの。しかし先輩に、況してや雄英のトップにしてオールマイトに近い男の言葉は説得力が有る。

 

「てことで俺の話は以上!後は……美人なお二人さんがどうするのかどうしたいかは任せるとするけど…?」

 

 チラリと二人の忍学生に視線を傾けるミリオに「え、美人…?」と面食らって呆然としてる夕焼、そして目を瞑り暫し沈黙する麗王。

 

「……相澤先生、私達もミリオさんみたく実戦に移りたいとは思っていますが…木刀はありますか?」

 

「木刀…?ああ、そう言う事か。それなら夕焼の分も…」

 

「あ、そうですね……刃物だと傷付いちゃいますし…その……」

 

 何やら言いたげそうに体をモジモジさせる夕焼は、実戦に躊躇している様子が見える。何をそこまで躊躇ってるのか、理解するのに少々疑問を浮かべる相澤。

 刃物により相手を傷付けない為にと忍学生用として配給されたごく普通の木刀である。主に扱われるのが対人戦闘訓練であり、個性によって刃物を扱える者も居なくはないが…

 

「二人も木刀使うんだ…」

 

「まー、飛鳥たちも戦闘訓練だとよく使うしな。けど二人ともやっぱ近接戦がメインなんだな…」

 

 柳生は番傘使用、雲雀は肉弾戦を主体としたスタイルなので、武器は扱わない。なので、相手が木刀を使うとなると、二人は飛鳥のような刃物を扱う近接戦が主体となる訳だ。

 

「面白え!!ミリオ先輩に負けっぱのままなのも癪だ!一年先の先輩でも勝って先越さねえと、ヒーロー以前に男らしくもねえからな!」

 

 硬化した拳で打ち合う切島は、熱く盛り上がってるようだ。彼の個性は硬化なので、武器を巧みに扱う者との戦闘では、他の者とは違い躊躇なく肉弾戦で本領を発揮できる。今じゃ対人戦闘訓練で飛鳥にも引けを取らない程で、一騎打ちで彼女に勝ったこともあったりだとか。

 

「けど、ウチら全員でやるんすか?」

 

「その辺は二人の任意で決める…俺は命の危険性以外口出しはしねぇ……問題さえ無けりゃあ戦闘は許可する…」

 

「畏まりました…」

 

 相澤の言葉を了承した麗王は軽く頷く素ぶりを見せると、では――と口を開き一言。

 

 

「私もミリオさんと同じく全員でお願いします」

 

 ええぇぇ!?!

 と驚嘆するAクラス一同に、夕焼も驚いてるようだ。先ほどの見せ場もあってか、麗王もここで持ち込むとは想定外なものだった。

 

「ありゃりゃ、もしかして俺みたいなって感じなのかな?でもまー俺も忍のことは詳しく知らないし、観戦にはかなーり良いんじゃないかな!?」

 

 ミリオもミリオで自分と同じ事を言うとは思ってもなかったのか、豪快に笑いながら後頭部をポンポンと叩く。

 

「いえ…ミリオさんと少し違うのは、夕焼さんも含めて…です。私一人だけで…でも良いのですが、夕焼さんもいますし、この先善忍と悪忍が手を組む話も有ります。ならば、善悪共闘で、雄英と渡り合う方が宜しいかと…」

 

「あっ、私もですか…けど、良かったです。もしこの流れで最後に私なんて来たら……緊張のあまり、腹痛が起きそうですから……」

 

 夕焼はどちらかと言えば天喰環と似た雰囲気を持ち合わせてるし、ネガティヴな引っ込み思案が彼との共通点だろう。

 そんな彼女に「貴女も充分に強いですがね…」と軽く言葉を付け足す辺り、彼女もそれなりの実力を備えてるのだろう。

 

「先ほどのミリオさんの演習を見せられ、王たる私が何も動かないと言うのも、些か可笑しなこと――最小限の力で最大限に引き出し、一騎当千をして見せます。夕焼さん、良いですか?」

 

 自分が王様宣言するのに多少常闇地味たものを感じ取ったが、其処は敢えてスルーする一同は、準備をする。

 夕焼は深呼吸した後、意を決して二刀の木刀を手に取る。二丁刀ときた辺り、戦闘スタイルはほぼ飛鳥に似てると予想しても良いだろう。それなら多少抵抗する位ならば――

 

 

「ハッハッハッ――!!なんだなんだ威勢の良い餓鬼どもばっかじゃねえか!!面白えなオイ!

 さぁとっとと始めんぞオラァ!血が騒ぐ、疼くぜ!!」

 

『ええええぇえええええーーーーーッッッ!?!!』

 

 

 

 武器を手にした彼女は突如、性格も表情も一変する。

 あれだけ穏やかで優しい彼女が、別人と化す。まるで悪忍や心許ない暴虐を尽くす敵そのもののようだ。つぶらな瞳が、獲物を喰い殺す眼に変わり、男勝りな口調に変わる。

 

「うひゃあたまげたぁ!まさかあの可愛い褐色美人ちゃん、武器取るだけでこんなに変わるってあるんだねー!」

 

「ミリオ、笑ってる場合じゃない……」

 

 ミリオ自身は笑ってはいるが、隣の天喰は面食らったように驚嘆の声を震わせる。少しだけ親近感を覚えた彼は、あっさりと彼女に対する恐怖感を覚えた所だ。

 

「…………」

 

「申し訳ありません相澤先生、彼女…武器を取るとこうなってしまうんです…」

 

 相澤本人もまるで何か別のものを目の当たりにしてる様子で、目を細めたまま微動だにせず何も口を開かない。投げる言葉も見つからない相澤に、彼女の代弁として謝罪する麗王に「いや、まあ…気にするな」と多少無理矢理気持ちを押し殺しながらようやく声に出せた。

 

(なんちゅー豹変の仕方よ……一応那智って人からリーダーの手が焼けるから程々にとは連絡では聞いたものの…ていうか、武器を取るだけであんな風になるんかい)

 

 夕焼は本来の素は、それこそ飛鳥のような心優しい善忍だ。しかし、武器を取る彼女の場合は話は別――その強さは素とはかけ離れた戦力を発揮するのだ。

 

「うえぇぇ何だあの先輩!新鮮な所が男子心を擽ると思ったら…てかオイラ的には試験のミッドナイトとの戦闘よりも遥かに怖さ倍増なんだけど…!!」

 

 流石の変態神・峰田も夕焼相手だと下心よりも恐怖心が勝ったらしい。彼に同情するつもりはないが、他の一同も困惑と軽い恐怖に身を震わせている。

 

「おっ、なんだチビ野郎。テメェが最初の相手になってくれんのか?面白え――その小さな体で俺を倒してみな!!」

 

 舌なめずりし、峰田を狩り殺す獲物と見定めた夕焼は、二刀の木刀を差し向ける。ただの木刀なのに、まるで本物の太刀と錯覚してしまうのは、彼女の豹変によるものなのだろうか、どちらにしろ、このままでは無事では済まないのも確か…

 峰田は「おおお、オイラは性的な描写なら襲われてもカモンだけど…血、血の争いは好みじゃねええぇぇ!」と涙を滝のように溢れ出し、命乞いをする始末だ。

 これじゃあ演習で学ぶ身どころか、恐怖体験公開演出みたいだ。

 

「夕焼さん…落ち着いて下さい。私たちで連携を取り、相手を全滅させるのが目的です――このままでは生徒達を学ぶ所か、相手トラウマ植え付けて対人戦闘の場ではなくなりますよ」

 

「あぁ!?んなもん知ったことかよ麗王!俺は強えヤツと戦えれば何でも良い――さっさと暴れさせろ!!」

 

 麗王相手にここまでの大口を叩けるのは豹変した夕焼しかいないだろう。まるで脳筋のような台詞でもあるが…しかし自称が私から俺となると、二重人格なのだろうか?

 

「だからこそです。貴女が臨むままを行うのなら…息を合わせましょう。相手は最高峰…私と協力しても満足のいく結果は得られます」

 

「わーったから、御託は良い。ちゃちゃっとおっ始めようぜ!!」

 

 二人が結託を結び、戦闘開始の火蓋を切った刹那――

 

 

「俺が相手だああァァアああア――!!!」

 

 

 最初に飛び出したのは切島鋭児郎。

 緑谷よりもいち早く足を踏み出した熱血少年は、硬化の個性で全身を固めて拳を握る。

 

(緑谷の時ァ遅れちまったが、相手が近接戦なら、こっちも肉弾戦に持ち込んでブッパする!!)

 

 最強の矛にも盾にもなる少年は、夕焼を狙う。

 恐らく相手の武器やスタイルから考えて飛鳥と似てると推測するのならば、武器で攻撃をする暇もなく叩き込めば良い。何とも脳筋が考えそうな思考だが、飛鳥との戦闘は此方も経験済み、それに似た行動や動きならば、此方も経験や根性でフォローできる。

 何よりも夕焼は田舎育ち…雄英体育祭を見ていないので、完全に個性不明のアドバンテージを披露することができる。麗王ならば話は完全に別で、突破口も見つけられ打破されてしまうので、偶然とはいえ切島が相手をする選択肢は正しいとも言える。

 

「――【烈怒頑斗裂屠】!!」

 

 切島の個性技――【烈怒頑斗裂屠】は硬化させた腕で渾身のボディブローを放つ強力な一撃技だ。一見地味に見えるが、硬化によりガッチガチに皮膚を固めたその技は、食らえばひとたまりもない。

 それを、夕焼は――

 

「おお!やるじゃねえか――活きの良い熱い男、嫌いじゃねえ…寧ろ燃え滾るなぁ!!」

 

 さも余裕すら持てる満面な笑みで、刀で弾き振るった。

 ガギィン――という金属音の音が鼓膜を貫き、呆気なく個性技を一蹴された。

 

「だからどうしたああぁぁ!!!オラオラオラァ――!!」

 

 それでも挫けぬ切島は、気合いと根性で両拳を振るう。殴り合いは己の独壇場とするもの。弱点さえ見抜かれなければやられるリスクは低い。

 しかし夕焼はああも容易く彼の拳を木刀で受け流し、弾かれる。況してや何の変哲も無い、ごく普通の武器は刃こぼれさえしていない。相手は硬化、攻撃力も高い切島があしらわるのは、正直予想外なものだ。

 

「でりゃあ――!!」

 

 少し遅れて、でもってタイミングを見計らってか、緑谷が跳躍し、夕焼の背後を取ろうと拳を構える。ワン・フォー・オール常時8%の緑谷は以前よりもスピードも早く、気付くのが僅かに遅れる。

 切島が相手をしてる間、緑谷が――

 

「私がいることも――」

 

 麗王の言葉が耳に届いた瞬間、予測を立てた緑谷は瞬時に標的を麗王に切り替える。

 

(拳はあくまでフェイント――だから足を残した!こっから一気に武器を振り払えば、)

 

「忘れずに」

 

 しかし彼女も緑谷やミリオと同じく予測を立てることを得意とした戦術を用いり、彼が自分を狙うことは最初っから想定済みだったようで、怯むことなく()()()()()

 

「おぉっ!?」

 

「へっ――」

 

 麗王を狙おうと、レシプロバーストで突っ込んで来た飯田が緑谷の前に現れ、対処できない二人は為すすべなくゴッツンコ、衝突してしまう。

 緑谷だけでなく、全方向を意識して予測を立てる彼女は頭の回転がズバ抜けている。知力や策略としては、八百万や緑谷をも対等に渡り合えるほどの実力を備える彼女は、ミリオに引かず劣らず強い。

 

「甘いですよ――お二人とも」

 

 そして地面にひれ伏させるよう木刀で腹部を強く叩く。でもって相手が怪我をしない程度で軽く納め、飯田と緑谷は二人で地面に転がされる。

 

「す、すまない緑谷くん…!」

 

「いや…ううん……こっちこそごめん…」

 

 お互い謝りながら、二人は態勢を整える。

 緑谷の予想を予想した彼女…なるほど、油断も隙も微塵たりとも感じさせないその気高き品性は確かに王と自称するだけのことはある。

 

「オラオラァ!どうした赤髪野郎!遅えぞもっと楽しませろよ!なぁ!!」

 

「ガッ――」

 

 一方、アレだけ気迫ある切島の猛攻は、既に夕焼の番と変わり、鮮やかな剣技の嵐が、切島の硬化を破っていく。

 切島の個性による弱点は、硬化する部位が和らいでしまう点だ。酸素を肺に取り込み体を力ませることで、硬化の個性が成り立つこの代物は、時に脆く突破されやすいのである。

 

「切島くんの個性が簡単に…!」

 

 切島も戦意喪失といった形で、スタミナ切れとなりダウンしてしまう。実技試験でのセメントスにもやられたこの戦法、どうやら克服するにはまだまだ努力が必要な様子である。

 

「俺たちも続くぞ――!」

 

 遠距離射撃を得意とする個性たちの一斉射撃。

 遠距離のある者たちによる猛攻に、二人は対処する。

 夕焼はスピード特化による荒ぶる太刀筋を、麗王は分析と予測、鮮やかな剣技で凡ゆる障害物を退かし突破していく――

 

 

 

「わぁ〜凄いねミリオ!天喰も!二人とも凄く早くてすごく強いね!ね!特にね、あの夕焼ちゃんって子、ビックリ!ミリオ知ってた〜?」

 

 他校の忍学生と雄英生徒による対人戦闘を観戦するビッグ3、その内が一人――波動ねじれは幼稚的な言葉遣いではしゃいでる。

 

「へぇ…あの麗王さんって人も予測と分析…あの問題児と同じくサーがとても好きそう!!って言うかぶっちゃけ、あの人もインターンでサーの事務所に来るんだけどね」

 

「えー!?それは知らなかった!何で教えてくれなかったの!」

 

 さり気なく暴露したミリオの言葉に、波動はぷくぅっと頬を膨らませる。そんな彼女に「ゴメンごめんご〜」と軽いノリで謝る彼の言い方に波動は「良いよ〜」と言葉を返す。

 

「まー、ぶっちゃけサーも信頼してる人物だし、それに大人の事情とかで彼女のこと前々から知ってたらしいし、俺は最近知ったんだけどね」

 

 まあ、サーの事務所に来る忍学生は必ずしも一人だけとは限らないんだよね〜…と心の中で呟きながら、観戦を愉しむ。

 

(……麗王さん、二人で全員をまとめて相手って、無茶なこと言ってるけど、ぶっちゃけ解ってるねあの人)

 

 外面での軽薄なノリの良い笑いセンスなミリオは別として、内心は彼女の強さを身をもって感じ取っていた。それは相澤先生自身も同じだが、予測と分析を得意とし、努力を積み上げてきたミリオだからこそ、麗王の脅威を直様感知していた。

 

(一見全員との戦闘って案外不公平みたいな立場に聞こえるけど…実は多数決より少数派で戦った方が場合によってはかなり優劣の差がつく…そして麗王さんはソレを知っている――大勢で手を組み戦うより、数少ないチームで共闘した方が得策と言うのを!)

 

 そもそも雄英では全員が全員手を組んで戦闘を行う訓練は殆どと断言して良いほど数少ない。全員が己の個性を知り尽くしていたとしても、経験が足りていない。その欠点があるだけで大きく違うし、数の多いチームで全員が戦っても、本来の力量を発揮できないのだ。

 ミリオも半分ソレが狙いで全員と戦闘を行うと宣言したし、到底経験を積まなければ見えない発想でもある。

 何よりも脅威なのが…麗王自体、忍術を一回も使っていない。

 夕焼の忍術は不思議なもので、飛鳥とは違い変わった忍術で駆使しているが、彼女自身は忍術に頼らずとも雄英生達と互角に渡り合っている。それはまた、彼女もたゆまぬ努力を積み上げたからこそであり、その実力こそヒーロー殺し・ステインとさえ対等に渡り合える程の。

 

(一人、二人なら連携は決めれるけど、これだけの大人数での連携はかなり難しい…だって個性によって相性が変化するし、人によっては連携を取るのでさえ何ヶ月間か掛かる人間もいるんだ――上手く連携が取れず下手を犯すよりも、少数の方が良い…ふむ、雄英にいる忍学生さん達は置いておくとして、二人ともやるなぁ…)

 

 褒め上げるのも無理はない。

 共感し痛感できる部分がある。

 だからこそ、ミリオは彼女の強さを誰よりも理解することができるのだ。

 

「さぁ、まだまだ行きますよ――!」

 

 気高き王と、天狗の烏は、善と悪でヒーロー生徒達に全力をもって勝ちに挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここら辺…ですかね」

 

 余り慣れない街並みに足を踏み入れる死塾月閃女学館の制服を着た雪泉は、端末の地図を見ながら目的地へと足を運んでいる。

 片方の腕には書類を抱え、歩きスマホをしているようには見えるものの、道が解らないので仕方がない。

 

「オールマイトのサイドキック…サー・ナイトアイ事務所……」

 

 サー・ナイトアイ

 メディアでも顔は載ってるし、地味なサラリーマンのような風格はあるものの、嘗てはオールマイトの相棒として助力し合い、未来を築き上げて来たユーモアを第一に考えてるヒーローなのだ。

 今回のインターンでは、雪泉も参加希望としてヒーロー事務所を探していたところ、サー・ナイトアイ事務所を当てたのだ。とは言っても、オールマイトが雄英の担任教師になったことでコンビは解消となったものの、今の二人の関係は定かではない。

 

「一体どんな……って、きゃ――!?」

 

 道を歩き、考え事に浸っていたら、人にぶつかってしまったようだ。片腕で抱えてた資料を手放してしまう雪泉は、封筒に閉まっていた書類が飛び出てしまう。

 

「ああ、いけない…書類が……すみません――ボーっとしてて…」

 

「……ああ、此方こそ」

 

 若い男性の声が返ってきた。

 雪泉は資料を必死に掻き集めていると、小さな写真が一枚落ちてきた事に気付く。

 

(写真……?)

 

 雪泉は首を傾げながらも、その写真を拾おうとする前に若い男性の手が遮るよう、写真を拾う。

 裏側だったので、誰が映っていたかは不明だったが、封筒に写真は入ってなかったので、持ち主と考えて宜しいだろう。男性の手に釣られて、雪泉は視線を男性に傾き移す。

 

 

「すみません、お怪我はありませんか?」

 

 

 心配そうに雪泉の表情を伺う青年。雪泉は直ぐに「あっ、ハイ――」と言葉を返した。

 その青年は……一際目立つペストマスクを付けていた、一般人とも呼び難い風貌に身を包む男。

 

 

 雪泉の目の前に佇む男の名は――〝オーバーホール〟

 死穢八斎會の若頭にして、敵連合との接触で揉め事を起こした、大物敵だ――

 

 

 ――白き正義の少女と、黒き悪の青年が、遭遇した瞬間である。

 

 

 





うーん…本来なら特殊ボイスでも良いんですけど、作者としてはオーバーホールを始めとした八斎會を出したいんですよね。
キャラクターとして参戦しそうなのは…って敢えてネタバレ防止のため一応伏せておきます。感想欄でも最近ネタバレじみた事が多く、これだと作者も面白さを落としてしまうかなと思うので、今後からネタバレになりそうな質問は答えられないかもです。
あっ、ただ――オール・フォー・ワンの懸賞金は?とか、コイツら戦ったらどうなる?的なのは良いかもです。それもまあ確定演出してるキャラのみで、希望に応えれるのとそうでないのとで変わりはしますが…そこは了承して下さると幸いかと…

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