光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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えー、またまた遅くなってしまい申し訳ありません。ようやくリアルの忙しさが静まりました。
ってなわけで、投稿頑張りまする。




151話「原初」

 

 

 

 

 

 

 憑黄泉を討ち果たした雅緋達の前に、腹部を抑えながらヨロヨロと覚束ない足取りで歩く少女は紫。口には流れてた血は拭き取られており、それでも微かに血の痕は残っていた。

 

「紫…本当に紫…なんだよな?」

 

 涙と嗚咽に混じった声で確認する忌夢に、紫は弱々しくも「う、うん…」と答える。あのとき、憑黄泉の尻尾によって腹を貫かれた紫が生きている。それだけで衝撃的だ。

 あのシチュエーションで最後…なんてお世辞じゃない言葉を使うものだから、本当に妖魔に殺されたと決めつけていたが、何とか無事だったようだ。

 

「もしかして…気絶してた、だけ…とか?」

 

 いや、それは有り得ないと抗議する忌夢は、溢れ出る涙を拭いながら口を開く。腹部と言っても急所では無かったにせよ致命的なダメージを負ったことには変わりない。両備と両奈は気絶していたため、詳細は知るはずもないが、忌夢本人だけが確かに知っている事実。

 でも、だとすると…奇跡だったにせよ、よくもまあ生きていたな…と、信じられない余り疑惑が浮かぶが、ここは素直に受け入れるのが筋だろう。

 

「紫、ケガは無いか?大丈夫か?」

 

「あ、み、雅緋さん…はい、大丈夫です……み、皆さんは…?」

 

「私は見ての通り、問題はない……両備と両奈も傷はあるが…」

 

 憑黄泉との戦闘で被害を受けた二人だが、見たところ忌夢ほど重傷を負っているようには見えない。多少の土埃と血が染み付いてはいるだけで、特にこれと言って気にするような傷痕も見受けられないので、一先ず無事と捉えて良いだろう。

 雅緋は紫が憑黄泉の尻尾に貫かれた所を直接見た訳ではないので、安否の問いかけが来るのも不自然ではない。

 

「紫…良かった、本当に…よかった……」

 

 紫が生きてたことに確認が取れた忌夢は、心の底から安堵の息を吐く。安らぎと涙に濡れた声色に、紫の瞳が潤う。

 

「私も……生きることが出来て…良かった…よかったよ……お姉ちゃんが殺されてなくて…良かった……」

 

 自分ですら殺されかけてたのだから、最愛の姉だって殺されても可笑しくない。紫は頬を微かに赤く染め上げながら、姉を抱きしめる。

 それにもし手遅れだったら、忌夢だって殺されても可笑しくは無かったし、禍魂の暴走による影響で何らかの害をもたらす危険だって低いわけではないのだ。

 嘗ての雅緋が血界突破に失敗し、妖魔化しかけた例だってある。暴走し制御の利かない忌夢は妖魔並みの危険性が高まっていたので、何が彼女の身体に危害を齎すのかと考えるのは妥当だろう。

 その分、多大なる負担により体の自由があまり上手く利かないのは、禍魂による影響である。

 

「これで、蛇女のメンバーは一先ず全員無事…みたいだな」

 

 雅緋の一言に両備と両奈の二姉妹は頷く。

 これでも、まだ奇跡と呼ぶべきだ。

 妖魔との戦闘経験がある雅緋とは言え、それでも憑黄泉に手も足も出なかった自分は確かにいた。忌夢も抵抗するので精一杯、紫、両備、両奈だって妖魔との戦闘経験は皆無であり、ほぼ知識がないと断言しても過言ではない。そんな五人が、憑黄泉と戦闘を繰り広げながらも、ここまで善戦出来たのは、奇跡と呼べる。あろうことか、カグラの段位でもない忍学生の雅緋が、異生物である憑黄泉を葬ったのは、忍社会からしても大きな成果であることは間違いない。

 

「………ん?」

 

 感動に浸る忌夢は、微かな声で疑問の声を上げる。

 安心感から来る紫が涙を流してる真中、忌夢は紫の腹部に視線を落とす。

 

 あれ?

 紫の腹部の傷が、治っている?

 貫通したお腹は、まるで嘘のように塞がっていた。先ほど手で抑え付け、弱っていたのがただの仮病とさえ思えるほどに、紫の負った致命傷は、消えていた。

 

(でも……紫は確かに……)

 

 この目でしかと見たのだ。

 今でも紫の鮮血が手に濡れた感覚だって忘れない。肉が貫通されたような忌々しい音、残酷に痛めつけられた妹の光景だって脳裏に焼き焦がれている。

 それがまるで、そんなことが無かったように…

 

(紫…なんだよな?………うん、確かに、紫だ。匂いは何時もと同じだし、間違いない)

 

 忌夢は鼻を使って紫の匂いを嗅ぐ。嗅覚が優れてるのは何も紫だけではない、姉である忌夢と言った、禍魂の血を継ぐ血縁者は何故かしら鼻の嗅覚が効くのだ。

 焔のように強者の気配を感知するのとは違い、相手の思想や性格などを探り当てると言った特別な嗅覚の持ち主である。なので、忍社会にとって騙すか騙されるかの心理戦に於いては欠かせない希少な能力である。

 それでも紫の方が姉より更に優れてるのは内緒である。

 

 

(じゃあ……一体、誰が…?)

 

 

 蛇女子学園の生徒の中で医療を専門とした回復忍法に特化した忍学生は余りいない(そもそもこの忍術を持つこと自体が希少)ので考え難い。更に芦屋と伊吹を始めとした忍学生が緊急警報として安全拠点へ避難させてるので、忍学生の仕業という可能性も大きく低い。

 となると、第三者によるものか?紫自体が応急処置できるにしても、こんな重傷を一人で完治するのはほぼ不可能だ。

 となれば、何者かが治療したと考えるのが妥当なのだろうか?偽物という線は、嗅覚による匂いで既に看破している。

 

「なあ、紫…」

 

「…?お姉ちゃん?」

 

「お前……その、お腹は…大丈夫なのか?」

 

「あっ…えっ…と……」

 

 忌夢の問いかけに、何故か紫は困惑色を浮かべ、オドオドと気を動転させている。何かを隠してるかのような、とても言い当てられては不味いような顔色に、益々怪しく見える。

 

 

「紫…一体何が…」

 

 

「お取り込み中すまんな――」

 

 

「!?」

 

 忌夢の言葉を遮る声主に、五人は脊髄反射で一斉に振り向く。

 一人は半々羽織を着こなし、腰に鞘を収め悠々と歩く小尾斗教官だ。もう一人は黒き忍装束に身を包み、羽毛の扇を口に当てている女性――不雪帰。

 どちらも冷静かつ、冷たい視線と雰囲気が曝け出している。

 

「小尾斗教官!……と、もう一人は…?」

 

「初めまして蛇女子学園の生徒方々……私の名は不雪帰…以後、お見知り置きを…」

 

 ただならぬ気配を瞬時に感知した雅緋は、背筋を凍りつかせながら声を発するも、害意は無いようだ。不雪帰という女性の圧力、並みの忍の気配では無い存在感に、血が騒いでしまう。

 

「芭蕉から話は聞いた。妖魔が出現したと聞き、駆けつけに来たが…気配の残り方とお前たちの状況から察して討伐したと見受けられるが……犠牲者は?」

 

「はい、いません。全員無事です…」

 

「……ふむ」

 

 改めて雅緋に問うも、嘘は吐いてない様子。

 更に付け加えれば蛇女子学園の本拠地は荒らされた痕跡は無く、城は傷一つ付いていない…

 戦闘の痕跡があるのは致し方ないにせよ、犠牲者ゼロで本拠地が無事な上に最小限の被害で憑黄泉を葬った戦績は、素直に賞賛するべきものだろう。

 

「不雪帰、あの話はやはりするべきなのか?幾ら憑黄泉との関係性が大きく高いとはいえ…この事実はカグラの中でも」

 

「この者達には話すべきでしょう…憑黄泉を討ち取ったのが現実なら、黙っていられないはずです。脅威を取り除こうと、刃を向けるはずです…その代わり、憑黄泉の妖魔を倒したのは彼女達の戦績には含まれませんが、宜しいですか?」

 

「まあ一応こいつら学生だしなぁ…将来的にもまだ卒業すら満たしてない奴らに報告しても半信半疑で信じてくれないのもあり得そうだ…それに、下手すれば全員が殺されるケースもある。教官としても金の卵は無駄にしたくはないし、俺でも守りきれない可能性だってある。ここはお前に一任するよ」

 

 二人の会話にめり込まない五人は、黙ったまま見つめることしか出来ず。会話の意味を察知できない彼女達は話し合いが終わるまで待つことにした。

 

「重傷者はいませんか?応急処置でも酷い方は残念ですが、病室の方へ…」

 

 しかし、誰もいない様で、皆は反応しない。

 あるとすれば忌夢だけだろうが、彼女は応急処置を受けて辛うじて聞き取りを出来る状態だ。戦闘なんてしない限りは大丈夫そうだ。

 皆の意図を読み取った不雪帰は「それでは、場所を変えましょう…」と声を発すると、背を向け歩み出す。

 小尾斗は「お前達も来い」と声を出し、来させるように命令する。指図を受けた雅緋達はどうすることも出来ないので、一先ず指示に従う。

 

「紫、歩けるか?」

 

「う、うん…なんとか……」

 

「……なぁ、紫…」

 

 何処か心配そうな瞳を向ける忌夢は誰にも悟られぬよう耳元に近付き囁く。

 

「お前…妖魔に腹を突き刺されたのに…どしたんだ?」

 

 その言葉に、紫の表情は困惑色に浮かび、答え辛い顔色へ変色する。そもそも、なぜ答えることに躊躇いと迷いが生まれるのか、忌夢にとっては理解できないのだ。

 蛇女子学園内の敷地に足を踏み入れた余所者に問題があるにせよ、それでも妹の紫を救ってくれたのならば、探し当てて、感謝を述べたいのだ。

 紫を助けた人物がいるのなら、黙っていられない。

 忌夢の言葉に――

 

「……お姉ちゃん、御免なさい。答えられないの……」

 

 紫は答えを出した。

 答えない…いや、答えられないというキーワードに多少引っかかるも、第三者の介入によって命を救われたのは確かなようだ。

 

「紫…何故だい?」

 

「……これは、お姉ちゃんや雅緋さん達の…為…だから……」

 

「え?」

 

 自分達のため?

 その言葉に益々謎が深まり、思わず目を丸くしてしまう。

 なんで、答えないことが自分達の為になるのだろうか?いや、口止めされてるのか?だとしたら一体何のために…

 

「御免なさい…この話は黙ってて下さい……お願いお姉ちゃん………」

 

 紫の言葉は弱々しいが、眼は真剣だ。

 声も震えてはいるが、それでも本気なのだろう…気迫がこもっている。

 ……これ以上追求しても、答えは得られそうにないようだ。

 そもそも悪忍というのは相手の事 深い事情を追跡するのは禁止とされている。

 

「解った。じゃあ、後からでも良い…もし、話す時が来れば教えてくれないか?心の整理がついたらでも良いし…な?」

 

「うん、有難うお姉ちゃん」

 

 諦念した忌夢はこれ以上深追いはせず、妹の意見を尊重した。

 聞かれたくないことを意地でも聞くのはマナー違反だし、悪忍とは言えど常識は付いてる。

 忌夢も引き続き雅緋の後ろ姿を追いかけるよう走っていく。

 

 

「………ごめんね、お姉ちゃん……でも、言えないよ。私も、驚いてるし…今でも、信じられないもん……」

 

 

 あの時の紫は、既に死を迎えていた。

 そんな彼女を救った相手が、想像もつかない相手だったから。

 

 そしてこう言われた…

 

 

『私のことは決して話すな。

 それが、お前達にとっての最善の選択……他言するなよ。お前達が忍として生きたいのなら。でなければ、天に仕える竜に皆殺しにされる。今は必死に奴等の悪事を抗え』

 

 

 その言葉には、嘘もない真実が込められていた。

 アレは一体…誰なのだろうか?

 紫だけが知る、予想外な真実。

 そのきっかけが、忍の世界観を揺るがしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ、場所を変えるのです?」

 

 森林地帯に足を運ばせる雅緋は、思い付いたように言葉を投げる。

 不雪帰は振り返りもせず、背中を見せたまま

 

「簡単です。本来は知られてはいけない事実を話すのですから」

 

 と、軽々しく声を放つ。

 妖魔の件は本来、忍学校を卒業した者にしか知らされない仕組みになっている。妖魔に遭遇した者、または事実を知っても問題ないと判断を受けた者にのみ語られる問題だ。

 少なくとも不雪帰の周りの忍が、殆どと言っても良い程に妖魔の存在を知っているものが数多くいる。その中でも、憑黄泉に纏わる真実と巨悪を話すのは、滅多にない。

 

「それともう一つは、いつ何処で何者かが聞いてるか分かりませんから…貴女達のみの気配だけになるまで、距離を取り、安全地帯で話をします」

 

 そもそも、なぜ憑黄泉を討伐してから直ぐに真実を語ろうとするのかが不思議で仕方ないのだが…私たちに話すということは、それなりに重大なことなのだろうと考えると、不雪帰の行動も一理あるとも言える。

 

「このことを少しでも他言すれば、俺もお前達に手を下さんといけない案件にまで掛かっている。お前達を信頼してるから話すんだ。良いか、決してこの話は誰にも話すなよ?」

 

「えっ!?手を下すって…って言うことは…両奈ちゃんお仕置きされるんですか!?わんわん、わおぉぉーーん!」

 

「アンタは黙ってろ雌ブタ!こんな状況でふざけてる場合じゃないでしょ!?もっと考えて発言しなさいよバカ犬!」

 

「ぶひいぃぃ〜〜〜ん♪」

 

「………俺はお前らが怖いよ、色んな意味で」

 

 もはや性欲に飢えた両奈が色んなことをしでやらかしそうで、心配になってくる教官小尾斗は、頭に手を置き深いため息を吐く。女性嫌い…な肩書きを背負ってる彼が更に過激な両奈の性格を目の当たりにすれば、こんな反応を取るのも頷ける。

 

「貴女達の強さは…この先を突き進めば全員がカグラになる可能性を秘めている…しかし、それを阻み、同時に脅威として成長している異質も存在する…」

 

 生い茂った木々をくぐり抜けると、荒野が広がっていた。

 殺伐とした空間に、草木も生えてないこの場所は訓練所だ。今は誰も訓練を受けてはいなければ、カリキュラムでは訓練所は使用禁止、つまり座学を受ける時間帯なので、人気がいないのは当然といえば当然だろう。

 

「ここで、良いでしょう…」

 

 冷気を孕んだ声に、不雪帰はくるりと回り皆を見届けるよう正面に立つ。

 

 

「では、話しましょう……貴女達が倒した妖魔――憑黄泉の話を……」

 

 

 一同は固唾を飲み込む。

 静かな空間には風の音すら聞こえない。

 鳥のさえずりすら耳に届かない。

 まるでそういう風に個性や忍術によって無音化されたような違和感。

 

「貴方達が対峙した妖魔の名は憑黄泉――害獣、悪魔、竜人、魔物、数々の名が挙がっていた妖魔は、遥か昔…約900年前から存在が確認されています」

 

「そんな古い時代からか…?」

 

「ええ…憑黄泉は他の妖魔と違い、人間だけでなく人工、野生の妖魔など、見境なく襲撃し喰らい尽くす邪悪な存在なのです。これは約200年前、ティオ・ディアボリクスが初めてこの妖魔の危険性をより強く解明させました。

 雑食にして性格は凶暴、知能も高く常に進化を遂げる妖魔の最上位に位置する存在は、忍からもより一段と危険的な認識を示していました。

 害獣と呼ばれるこの悪魔は、人の負のエネルギーを好み、食し、パワーアップすることから、人間の悪意を食うと言った異食症に似せた性質を持っているのです」

 

「そう言えば…両備や両奈の怒りに示して、喜んでた様子も見受けられていたな…」

 

 復讐心、私怨に心を染め、悪意と殺気を向けたことに、大喜びしてたあの妖魔は、単に人の嫌がらせをしていた訳ではないのか。と理解した五人は、納得したようだ。

 

「だから何だ。妖魔にだって種類があるのは確かだ。だがそれだけが重要な話では無いのだろう?本題を出せ」

 

 急かす雅緋に、不雪帰は取り乱れることなく、冷静を保ち口を開く。

 

「そう焦らずとも、話します。これはあくまで憑黄泉という妖魔の前提の話をしたまで…この妖魔こそ、忍の全てに関わりを持ち、神楽に大きく関わるのです。

 貴女達が忍として存続する原因の一つでもあります。それでも、氷山の一角に過ぎませんがね」

 

「妖魔を殲滅する…なら、相手が憑黄泉だとしても存在する理由は当然だろう」

 

「そうですね……では雅緋さん。もしあの憑黄泉が、全ての元凶だとすると、どうします?」

 

「……なに――?」

 

 不雪帰の想定外の言葉に、雅緋は愚か、他の四人も目を丸くする。

 

 

「憑黄泉は先ほど前述したように、他の妖魔とは一線を画す存在…道元や伊奈佐、鏖魔やティオ・ディアボリクスみたく、忍の血を集め、量産させることは不可能なのです」

 

「………なるほど、他の妖魔と違うと言うのは、そう言うことか」

 

「ええ……そして、この憑黄泉はまた、貴女達全ての忍が対峙するべき本当の巨悪と深い関係が有ります」

 

 本当の巨悪?

 つまりその巨悪とやらが、忍が存在する理由になるのだろうか?

 

「巨悪…原初の妖魔にして初めて妖魔と謳われ神をも恐れた災厄を司る天災――憑黄泉神威。これが、忍が存在する理由です」

 

「憑黄泉…神威?」

 

 

「ええ…この憑黄泉神威こそ、妖魔の生みの親にして原点。忍が存続し、カグラが誕生した悪の権化です。

 日本を脅かし、ある大陸を死の地へと染め上げたこの妖魔は、数々の逸話を残しています」

 

 憑黄泉神威とは――

 原初の妖魔にして原点。全ての元凶にしてカグラが誕生した原因の一つでもある。

 嘗て大昔、厄災を齎す厄災神として謳われた神が存在したと言われてた。それが憑黄泉神威なのである。妖魔を生み、自身の仲間を増やし、全ての支配者として君臨していた化け物は、神楽と呼ばれる女神と戦を繰り広げたそうだ。

 太陽の神こそ神楽、月の神こそ憑黄泉神威。

 憑黄泉神威、原初の妖魔が数々の化け物を生み出す意図は、神楽を滅する為である。

 己を滅ぼそうとする者を、全滅させる為だろう。

 

 

「憑黄泉神威は、己を滅ぼそうとする神楽を滅する為に。神楽は妖魔を滅し、全てに平和を齎す為に…

 こうして月と太陽の神が衝突し合い、妖魔と忍が今も存続しているのです」

 

「待て、妖魔は忍の血が一定量集まってから産まれるんじゃないのか?」

 

「ええ、半分は正解です」

 

 ――半分?他に何が足りないというのだろうか?

 

 

「妖魔というのは、忍の血が一定量集まった上に多大なる負の怨念が含まれることで誕生するのです。

 忍の血が染み付いてでも、学園内に現れないのは、穢れと言った怨念が無いからです…」

 

 成る程、それは盲点だった。

 ある一種の件では、忍になれなかった…または無念に朽ちた忍の負や殺意の怨念が吹き込まれたことにより生まれるらしい。

 

「憑黄泉神威は負のエネルギーと怨念を喰らう、悪意を好む化け物です。これ以上深くは言えませんが、憑黄泉神威は溜め込んだ害意ある悪意を忍の血肉に吹き込むだけで、妖魔を創り上げたと聞きます」

 

「…不雪帰と言ったか。なぜ、それを知っている?そこまでの情報を、何故お前が…」

 

「私が言うのも何ですが、実力者には知る権利を与えられます。つまりは、そういうことです」

 

 そうか…と納得した雅緋はこれ以上口を開かなかった。

 

 

「憑黄泉神威…ソイツが、僕たちの敵…」

 

「ただ、私にも不明な点があります」

 

「?」

 

「…憑黄泉神威は、細胞の一つを外へ放出することで、憑黄泉を生み出します。いわば人間でいう出産のようなものです」

 

「…あの憑黄泉は、まだ憑黄泉神威の氷山の一角に過ぎない…ということか」

 

「ええ…しかし、憑黄泉神威はあの一件で既に死んだはず……なのに何故……いえ、そもそも我々が今も忍として存続し続ける理由など…」

 

 憑黄泉神威が滅んだ?

 つまり、死んだと捉えて良いのだろうか?

 

「まあ良いでしょう……問題はもう一つ、貴女達に伝えなければなりませんね」

 

「?」

 

 まだ話すべきことがあるのか?と眉をひそめる雅緋。

 しかし、不雪帰の証言に皆の顔色は変わる。

 

 

「憑黄泉は、オール・フォー・ワンを大きく初め、敵連合と繋がりがあります」

 

 

「はッ……?」

 

 素っ頓狂の声を上げ、五人は驚嘆の声を張る。

 今、なんて言った?

 

「敵連合のメンバーと関わっていること自体は詳しくは存じません…しかし、連合のボスであるオール・フォー・ワンは憑黄泉と深い関わりを持っています。何せ、オール・フォー・ワンのコンビが、憑黄泉なのですから」

 

 新たなる事実が、今を脅かす。

 憑黄泉が、オール・フォー・ワンのコンビ?あり得ない…しかし、何かの共通点が、そこに存在する。

 

「貴女達は存じませんか?神野区での激戦と、憑黄泉の戦闘との共通点……それは、他者の忍の血液を吸い、己の能力として扱う性質です」

 

「あっ……」

 

 両備と両奈、紫の三人は合点が言ったように納得する。雅緋と忌夢は気絶していたので知らないが、オール・フォー・ワンは憑黄泉と同じく他者の忍術を扱っていた。

 憑黄泉の妖魔術とやらも、妖魔が扱うからこそ妖魔術と呼ばれてるだけで、変わりはない。

 

「まさか……ッ!」

 

 

「オール・フォー・ワンは、何らかの理由で憑黄泉神威と関わっている、と断言しても良いでしょう」

 

 

 この情報を知るのは陽花、不雪帰、翡翠、夢幻、カグラ四天王、小百合、そして巫神楽三姉妹である。他に知りうる人間はまだいると言えば存在するが、それ程に大金を払ってでも価値のある情報である。

 

「私が言えるのはそこまでです…これ以上の真実を口に出せば、貴女達の命は危険に晒されます…」

 

 これ程の情報量に正直まだ混乱している。

 敵連合と、オール・フォー・ワンに大きな接点があり、また何故か憑黄泉が出現している…

 不雪帰が真実を話すのは、恐らく憑黄泉を倒したという実績が何者かに行き届き、彼女達を邪魔だと判断し矛先を向ける危険性があるからだろう。少しでも対抗するべく、強く成長を促すべく、敢えて限りある定量の情報を植え付けた。

 少なくとも蛇女子学園は敵連合との因縁が既に芽生えているのだ。何れ、理不尽な悪意と戦うのなら、事前に知らせ、今のうちに力を身につけておくべきだ。

 

「それと雅緋さん…出来ればですが、血界突破の使用は程々にして下さいね?貴女個人に話が有ります」

 

「まだ、話があるのか……」

 

「本来ならば教えてはならない情報ですが、血界突破を取得した貴女ならば話は別………上手くいけば、インターンでも活躍出来ますし、誇りを高く掲げ易くもなるでしょう…」

 

「インターン…」

 

 確か、校外活動によるものか。

 本来ならヒーロー学生が受ける学校行事なのだが、最近は忍との関係やイメージを改善するべく忍学生の参加も許可されてるらしい。

 

「待て待て不雪帰、俺はそんな話聞いてないぞ。俺は反対だからな?第一、血界突破の発動したアイツが狙われ、他の者達に危害を与えたらどうする?責任は取れるのか?」

 

「だからこそ、彼女本人と個人で話しておきたいのです……」

 

 何やら意味有りげな会話をしているそうで、此方側は理解できない。小尾斗は半ば呆れたように「俺は知らん…」と一言で言い終える。

 取り敢えず話は終わり…と見受けて良いのだろうか。

 

「皆様もどうかくれぐれも…口を慎むよう…そして、カグラになりなさい。そうすれば何れ貴女達の見る世界も広がるでしょう。私からは話は以上です」

 

 この戦いは、蛇女として大きな成果を上げた。妖魔に一矢報う人材が増えた不雪帰は、微笑を浮かべる。

 

「嗚呼…そうだな。おい皆んな、聞いてくれ」

 

 不雪帰の話が終えると、雅緋は皆を見渡し纏め上げるよう、宣言する。

 

「これから私たちが目指すのは、蛇女の誇りと妖魔殲滅だ。憑黄泉を倒した経験は、今後の戦闘に於いて有意義な方向へ傾くだろう」

 

 圧倒的な強者と戦うことで得た経験値は豊富だ。通常の修行の何倍もの効果をもたらすだろう。何よりも全員が生還してる今だからこそ、伝えれるのだ。

 

「この調子でもっと強くなろう。神野区では敵連合に一矢報えず、誇りが再び地に落ちた…

 だが、ここから先は登るだけ。落ちた分だけ駆け上り、誇りを高らかに掲げれば良い」

 

 雅緋の覇気のある言葉に、全員の顔色が変わる。

 

「取り戻すぞ!私たちで蛇女の誇りを――これは、私たちの大いなる一歩にして初めて前進した証でもある。憑黄泉を倒したこの事実が、私たち蛇女の誇りを高く掲げるだろう」

 

 敵連合の死柄木弔は、他者を踏み台にすることで自身の成長を施していた。そうすることで己が高みへ赴き、支配者へ着々と近付き、社会を崩壊させる魔の手として脅かしていた。

 それに対して、蛇女子学園の雅緋達選抜メンバーは、他者を倒すことで、己の誇りを掲げ、悪の中の悪を脅かすだろう。社会を保つ悪忍が、敵に矛先を向けることで、今までとは変わった戦いになるだろう。

 

 忍として害意のある連中を倒し、誇りを掲げるその姿には、確かに蛇女子学園を背負うリーダーらしさを雅緋には備わっていた。

 これが、今の秘立蛇女子学園――今後とも彼女達の活躍が増えそうだ。

 

 これは、初めて雅緋達が悪の誇りを掲げた第一歩だ。連中もバカなことをしたものだ。これを機に、雅緋達だけでなく、総司や芭蕉を含めた補欠メンバーも、成長を促すだろう。

 これからもっと蛇女は強くなる。まだまだ蛇女の名を高くするには、時間と労働が必要だが構わない。

 少しずつでも良い、焦らずとも、着々と近づいていけば良いのだ……悪の誇りを――舞い掲げよう。

 これぞ――蛇女子学園の躍進だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間と場所は移り変わる。

 夏が終えてもなお、雪が残るという異常な区域に佇む忍学校、死塾月閃女学館。

 大昔から先祖代々の大きな富を引き継いだ有力者の娘が生徒の大半を占めるお嬢様学校。半蔵学院の次に名高いエリート学校にして、善忍学校の中に於いて、ダントツで数の群を上回っているのである。

 因みに半蔵学院のように普通の学生は紛れ込んでいないため、全て忍学生の生徒しかいない。

 時間は深夜の11時。

 選抜メンバーの大半はほぼ床に就き眠っている。美野里、夜桜、叢、雪泉などがそうで、四季は深夜遅くまで通話をしているのが殆どな為に、部屋は灯が点いている。

 今日も訓練を終えた雪泉は疲労から来る圧力に、10時に眠りについた。

 そして11時近く、雪泉は眠りに就いてる中、少女は夢を見る。

 

 

 

 

「……これ、は?」

 

 夢…にしては、何処か現実感ある空間だ。

 ここまで意識的に夢を見るのは初めてだし、普段なら無意識に夢だと理解するのだが、今見てるこの夢は、そうでもない。

 そもそも夢というのは、自分の記憶から影響を受け、映像のように映し出されるのだ。想像力によっては見覚えのない景色があっても、不思議ではないのだが…

 

 今、雪泉が目の当たりにしてるその夢は、見覚えがない。

 見知らぬ男性が、和服を羽織ってる姿など見たことがない。和式の部屋に、外の景色は田舎に似た…大昔の光景を曝け出している。

 何よりも…これは何の意味を表してるのだろうか。

 

「ここは一体…」

 

 しかもだ、雪泉はその屋敷の中に、立っているのだ。

 此方に勘付いてない辺り、夢であることは間違いないにせよ、只の夢とも考え難いのは、直感で解る。

 

「すいません!お待たせしました、お茶とおにぎり、出来ましたよ♪」

 

 明るい声が、雪泉の後ろから聞こえてくる。

 透き通り、そのまま男性の方へ駆けつけに行く女性は、木製のおぼんを運び、座ると男性に湯気の立つお茶とおにぎりを置く。

 匂いこそ感じないが、美味しそうなのは見れば解る。

 

「……嗚呼、済まないな」

 

「もう、良いんですよ。これ位の仕事は当然です。それに、もう夫婦なんですから…♪」

 

 夫婦?

 となると、この男が夫で、女性が妻なのか…

 よく見ると男性は赤ん坊を抱きかかえ、あやしている。

 

「お前は子育てに家事がある…俺はただ、旅に出て帰ることしか出来ない。それに比べたら、お前の方が無理をしている…しっかり気を休んでくれ」

 

「そんなことないです。貴方が旅に出るのは、村を襲う妖魔を討ち、人々を救ってる…命を懸けて戦う貴方に、何も出来ない私こそ…」

 

「違う…」

 

 ズッ…と、お茶を啜る男は、否定する。

 

「俺はまた、守れなかった。妖魔から人間を…いつもこうだ。俺が駆けつけに来た時は既に人は死に、化け物は血肉を喰らっている。やはり、忍が妖魔を引きつける原因ならば」

 

「そんなこと、ないですよ?

 忍だって好きで妖魔を呼び寄せてる訳では有りません!あの人達だって命を賭してまで、妖魔に抗って…第一、侍だって…」

 

「猗華月よ、この世界に忍も侍も、本当は無くても良いのだ」

 

 えっ?

 雪泉は目を丸くする。

 この女性が、死塾月閃女学館を建て、忍として一騎当千を率いた力を持つ、偉大なる英雄なのか。

 

「忍も侍も…殺し合うだけの仲となってしまった。

 ならば、例え私の手が汚れようと…これ以上の争いで尊き命が死なずに済むのなら、俺は刀を振るう。

 天竜衆も其れが狙いなのだろう…」

 

「黒夜叉さん!」

 

「猗華月、俺はこれ以上お前の手を汚させたくないのだ。この子とも…私のように、何も救えない何も守れない、正義すらも語ることすら許されない私だからこそ、手を汚してでもせめて、多くの人間が争いで命を落とさないように、忍も侍も、妖魔も斬り捨てるのだ。

 

 お前はこんな無価値な私を愛してくれた…だから、せめて俺はお前だけでも、生きて欲しいんだ」

 

 黒夜叉。

 嘗て伝説の侍と謳われ、忍からも侍に妖魔すらも敵意を集めた男は、赤ん坊を置くと、立ち上がる。

 

「許せとは言わない。俺のことを好きなだけ罵ってくれても良い。

 何せ俺の行動は、お前の心に灯る正義に背いてるのだ…本来ならば、お前は俺といるべきではない」

 

 何故だろう…それを聞く猗華月だけでなく、雪泉自身も心が締め付けられる程に痛い。

 何よりも黒夜叉の背中が、懐かしいのだ。

 これはそう…黒影お爺様の背中に似た、小さくて寂しい、あの背中が重なり合う。

 

「全てが終われば、俺も罪を償う。

 忍と侍…もし願うのであれば、手を紡ぎ、供に妖魔を討つ存在になって欲しかった」

 

 その声は余りにも切なくて、誰よりも何よりも、正義と平和を願った侍の言葉だった。

 

「私は為すべきことを成せない、生きてても何の意味もない、誰も救うことの出来ない愚か者だ。

 猗華月…そして、華月もどうか、無事でいてくれ。また暫く長い旅になりそうだからな…」

 

「…黒夜叉さん」

 

 

 

 そして侍は軽く言葉を告げると去って行った。

 そんな彼の背中をただ虚しく、悲しく眺めることしか出来ない猗華月の瞳は、潤いでいた。

 

「何を言ってるんですか…私は、貴方に救われたんですよ?

 妖魔に殺されかけてた私を、貴方が救ってくれた……私は、貴方に救われたのに…

 この子も、華月も産まれたのに…どうして、そんな…自分を責めるように……」

 

 キュッと、赤ん坊の華月を優しく抱きしめる猗華月の表情は、同時に己の悔やみと悲しみを押し殺すよう耐え抜いていた。

 黒夜叉さんのお陰で、私は――

 

 

「これが、偉大なるお方…猗華月さんに、侍と名乗る黒夜叉さん…」

 

 正義を貫く雪泉という少女は、月閃の原初である猗華月と、正義を貫きたかった黒夜叉の背中を、そっと見守っていた。

 何故だろう、どうして…こんなに悲しいんだろう。

 

 これだけ辛く、悲しくて、虚しくて、切なくて、泣きたくなるほどの夢に、自然と涙が流れる。

 救いたくても救えなかった侍の心情と、愛する者が離れ行く忍の心情を考えてしまうだけで、心が苦しくなるこの衝動は、何なのだろうか。

 

 

 次に迎えた夢はとても奇妙で、太陽の陽射しが彼女を照らしていく…。

 

『これは……私が尤も畏怖すべき障害でした……』

 

 次に投げられた声、そして倒壊された街並とビル――戦争が起きたとも呼べる程に荒らされた地帯。壁に背を向けながら、血に塗れた女性の遺体らしきシルエットが照らされていく。

 

「これは……貴女は…一体?」

 

『俊則さんを巻き込むまいと…一人で全てを背負ってしまった私の、最大の失態……これから、多くの災が、きっと若い子達に降り注ぐでしょう…私が救ってきたもの、それが争いの火種になってしまう……嗚呼、まさか奈菜さんの言ってた『奇跡』にこれほど縋ってしまう時が来るなんて…』

 

 緋色と白と赤を連想させた太陽を象徴とするドレスコートを羽織りながら、大人の女性は夢の中で此方へ見つめる雪泉を認識し声を投げかける。

 

『昔の私からは想像もつかない事だったけど…どうか……大変迷惑をかけてしまっている『妹』だけど…彼女を、宜しく…お願いします…。善と悪について、凡ゆることを知ろうとする貴女達なら…黒影さんのお孫さんなら…きっと、どんな苦難が待ち受けても、きっと乗り越えて…私が掴めなかったハッピーエンドを、掴んでいくでしょう…』

 

 朧気ながらも、死へと近づき、生を終えようとする彼女は、はにかみながら言葉を発し、語り継げていく。

 

『忍の象徴なんていう不釣り合いな名前なんかよりも…貴女達はきっと、次世代の子供達は私を超えて強くなっていく――誇りを持って、自分の気持ちを主張して……前に進んで欲しい…なんて、死にゆく私がさしでがましい言葉を連なっているけれど……』

 

「だ、誰なんですか貴女は!?その傷は一体……!いえ、これは…夢?どういう意味を露わに……」

 

『雪泉ちゃん――』

 

 すると、血塗られた手が頬に差し伸べられ、触れる。冷たい感触は、体温が徐々に低下していき、今にでも死体へ成り下がろうと、生という火種が消えようとしている、尊き女神の手。

 

『貴女が…悪忍を恨むのも、理屈も…全部、分かるよ…でも、憎しみを乗り越えた貴女にならきっと……それにね、大事なのは相手を知ること…どれだけ取り繕っても、私達は…自分と相手は理解できない他人で在ることは当然だから……』

 

 忍の象徴からして意外な言葉が発せられる。聖人君子で在る彼女から放たれた言葉は、人とは他人であり理解できない存在であると。

 

『それは、善忍と悪忍の立場になっても……同じこと。だから、お互いを通じることで、自分を知り…自分という存在を知って……相手を知ることが出来るから……否定ではなく、受容が…大事だよ……強さでも、経験でもない……自分がそうしたいと願った、道が…』

 

 ――最初はお互いが他人であり理解できないのは必然である。それまでは自分でさえも未知なる存在であると。然し他人を通じて、初めて人は自分を知り、相手を知り、自分と相手の何かに、未知に気づき、お互いを通じ合うことで理解を深め知っていくと。こうして仲間が、人との絆が紡がれて、未来へと道を照らしていくのだと。

 忍の象徴と呼ばれる女性は選択肢を誤った――一人で全てを抱えてしまった、この世界で生きる一人の女の子は、とある黄金時代に名を馳せた魔王と、その協力者によって殺された。

 

 そうして言葉は途切れ、眩ゆい幻想と共に消えてゆく。雪泉は『待って――』と声を投げかけようと、手を伸ばそうとした途端、再び景色は移り変わる。

 

 

 

『……ごめん、俊典さん』

 

 それは暗闇の空――破壊し尽くされたボロボロの街。雄英高校らしき学校は崩壊され、月閃女学館も、蛇女子学園も、半蔵学院も、ゾディアック星導会も、全てが破壊され尽くした、最早別世界と読んでも過言ではないほどに、荒み朽ち果てた、絶望彩る世界。

 

『陽…花くん…なにを……――』

 

『御免なさい…本当に御免なさい……生まれてきて御免なさい…生きてて御免なさい………私なんか、菜奈さんと出会わずにあのまま餓死してたら…皆んな救われてたのに…』

 

 雨降る真夜中――多くの死体が転がり、破滅へと導く残酷な、とてもヒーローと忍が協力し合おうとしてた世界とは全く違う、絶望の残滓が漂う歪な、破壊された後の世界。

 陽花と呼ばれる女性は、容姿は似てても何処か幼さのある雰囲気を晒していた。大人ではなく、雪泉や飛鳥と変わらない程の成り立ち。だが違う点を挙げるとするならば――緋色に輝いてた綺麗な長髪は、全てを塗り潰す黒色と、白と赤を強調としたドレスコートもまた、光を失った残酷さと無意味を表した黒色のドレスコートへと変色していた。

 刀を差し向けて、ボロボロなオールマイトを…殺そうとしている。

 

『陽花なんて…そんな素敵な名前じゃないよ……今の私はもう……レグル――』

 

 

 

 その言葉が続くことはなく、テレビ画面の映像が突然消滅したかのように、夢は此処で消えてしまった。

 

 

 

 

 

 すると夢はそこで途絶え、私は目を覚ます。

 目を開けると、涙が垂れ落ち、痕が残っている。

 

「……もう、朝なの…?」

 

 時計を確認すると朝の6時だ。

 朝日が窓に差し込み、鳥のさえずりが聞こえる。

 クシャクシャと腕で涙を拭う雪泉は、起き上がり洗面所へ向かう。眼は少し赤く腫れており、顔面を洗い流しながら、雪泉は浮かない顔で呆然とする。

 

 何故だろう…あの夢を見てしまった自分は、何故こんなにも落ち込んでるのだろうか。

 あれが現実とも言えない、いや…そもそも夢ではないのじゃないかとさえ、錯覚に見舞われてしまう。これは、月閃に残る先代の方達が見せた夢なのだろうか?どちらにせよ、考えてたって仕方がない。

 

「……いつまでも、こんな顔をしていたらお爺様が心配してしまいますよね…」

 

 よしっ!と両頬に手をパンパンと軽く叩く雪泉は、気合いを入れる。

 今日も私たち黒影お爺様の孫である私たちは、いつだって月の正義を貫き、大義を成す。

 皆が笑って、安心して平和な生活を送れますように……

 

「…あっ、そう言えば忘れてました。今日提出しないといけませんね」

 

 書類を手に持つ雪泉は、鞄に入れると制服に着替え準備する。

 

 

「さて、私も申請しましょう。できれば、インターンとして採用されれば喜ばしいのですが…」

 

 

 蛇女子学園の一件を後に、校外活動(インターン)編が、幕を上げようとする。

 

 

 

 

 




特殊ボイス

爆豪「おいガキ、退くなら今引けや。戦いごっこなんてお遊びじゃねえぞ」
美野里「むむぅ〜ッ!美野里は子供じゃないもん!爆豪くんなんて怖くないも〜んだ!」

爆豪「雲雀ぃ!テメェ、俺にひれ伏される覚悟出来てんのかぁ?眼帯野郎とは違って俺ァ甘くはねえぞ!」
雲雀「ひばりも強いもん!爆豪くんに勝ってやる!」

両奈「きゃううぅ〜〜ん♡そこのツギハギした顔のイケメンちゃん、絶対ぜ〜ったい両奈ちゃんを痛気持ちよくしてくれそ〜う♪」
荼毘「……はぁ、理解出来ねえ。女ってヤツはどいつもこいつもイかれてんな…もういいや、死ねよ」

美野里「忍ごっこで悪者のおじさんをブッ飛ばすもんね!」
黒佐波「ハハッ!じゃあ俺、お前をブッ殺しても良いんだよな?そういう事だよな?よし!じゃあ殺そう!!」

オールマイト「HAHAHA!雪泉くん、わーたーしーがー、相手だ!!」
雪泉「オールマイトさん、是が非でも貴方と手合わせをしたかった…平和の象徴としてのその強さ…私も学ばせて貰います!」

常闇「深淵に導かれし闇より、悪は裁かれ罪を断とう。さぁ、闇の狂宴だ」
閃光「おお…!中々良いじゃないか!これだ、私が求めたのはこういうのなんだ!」

闇「これは少々…相手としては分が悪いですわね」
月光「ふふっ♪降参するなら今ですよ?」

ステイン「貴様は…贋物か?それとも、犯罪者か?」
奈楽「自分はどちらでもない、ただ神楽様を守るだけだ」

そしてそして…!ダウンロードコンテンツにて参戦決定した、エンデヴァーも入れたいと思いまする!


エンデヴァー「焦凍ぉ!久し振りに俺が直々に稽古をつけてやろうじゃないか!」
轟焦凍「……クソ親父が、余計なお節介だ」

エンデヴァー「ほう、黒影の孫か。フム、お前は…冷に似てるな」
雪泉「轟さんのお父様…ですか。相手としては不足なし…宜しくお願いします!」

エンデヴァー「たかが甘ったれた抜忍が!お前の炎など緩いわ!来い、俺が本物の炎を見せてやる」
蒼志「No.2と比べられても余り落ち込みはしませんね。まあここで一花咲かせましょうか」

陽花「エンデヴァーさん。息子さんと妻とは元気でやってる?暴力なんて振るったら、私が許さないんだからね!家族は大事にするべきだよ!」
エンデヴァー「貴様に言われる筋合いなど無いわ!頭の中はお花畑でできてるのか貴様は!要らぬ心配をするなら己の身を考えろ!」

焔「ハッ、No.2ヒーローが相手だろうと、紅蓮の炎は燃え尽きない!私の炎が上だと証明してやろう!」
エンデヴァー「フン…!無知は罪という言葉を知ってるか?部を弁えろガキが。お前など俺の敵ですらない」

死柄木「まぁだ解んないかなぁ…努力とか言ってる奴こそ、夢見ガチな奴は心壊されやすいんだよ」
雲雀「雲雀は…絶対に負けないもん!」

マスキュラー「おっ、良いお面じゃねえか女、俺のダセェマスクと交換してくれや。まっ、力ずくで奪っけどよ!」
叢「殺されたいのか……この面は誰にも渡さん…!」

AFO「漆月、遠慮なく掛かって来なさい。死柄木だけじゃない、僕の愛するもう一人の愛弟子の教育のため、全力で付き合ってあげよう」
漆月「先生…!有難う御座います。うふふ、死の花束を揃えて、私は先生に全ての想いを捧げます。だから、その好意…私は全力で受け止めますよ。私の敬愛する先生♪」

漆月「死柄木、こうしてやり合うのも珍しいわね。やるからには、手加減か、全力か…」
死柄木「煩い…良いから始めるぞ…手合わせとか俺、そういうの一番嫌いだからさぁ、早く終わらせるぞ」

未来「紫!やるからには手加減しないんだから、アンタも引きこもりとか言わず、ちゃんとやってよね!」
紫「帰りたいけど…仏麗さんが相手じゃ、そう簡単に帰れませんよね…」

四季「ねーねー耳郎ちん、今度音楽聞かせてよ♪ウチ、最近ロックにハマっちゃっててさ〜」
耳郎「え?うん、良いよ!ウチの両親が好きだったからね」

八百万「私、創造なら何でも創れますのよ!」
月光「なら、可愛い衣装も作れるのでしょうか?」

両姫「陽花さんの仇を討ちます。今こそ、月の正義を…悪に鉄槌を!!」
AFO「陽花の意志を継ぐ愚かな少女よ…死に急ぐのなら、君の人生に終止符を打ってあげよう」



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