光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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質問コーナーは基本、どんな質問も受け付けております。
真面目な質問から鼻くそレベルの質問、どうでもいい感想や真剣な質問など、ちゃんと受け答えします。
ただ論外なのは作者の個人情報やプライバシーに関わるものは論外です。せいぜい聞くとすれば好きなゲームは?とか、好きな作品のキャラは?とかなどなど、そういった類の質問にして下さいね?

ああ因みに次話ですが、飯田と青山の下りは原作通りになってるので、今作品では出しません。オリジナルの部分が少なすぎるからと、これはなくてもストーリー上支障はないなぁと。
半分本音を言えば、早く二次試験をやりたいって意味がこもってるんですけどね!決して面倒とかそういうのではありません。



128話「通過」

「これで全部か…」

 

 熱く燃え揺らぐ炎に、全てを凍てつく氷。

 息を吐くだけで白くなる温度の低いここの周囲は、氷結による個性で支配されていた。

 受験者は氷漬けにされており、身動きを封じられた生徒たちは為す術なく脱落されてしまった。

 そんな目前の光景を意に介さない轟焦凍は、センサーの指示通り直ぐ様控え室に移動する。

 

「やっぱ個性の同時発動は動きが鈍るな…強化合宿から仮免取得に向けての十日間、ずっと鍛錬を積んだんだがな……」

 

 左右の手に視線を落とす轟は、軽い溜息を吐きながら独り言を呟き、控え室の前に来るとドアノブを握り、扉を開ける。

 部屋は思ったよりも広く、テーブルの上に茶菓子や飲み物が広げられてる辺り、配慮が効いてる。休息するに丁度良い。

 

 

「一次試験、お疲れ様です♪」

 

 

 ここで出迎えるように声を掛けて来たのは月光。

 柔らかな笑みに、お淑やかな雰囲気の有る月閃女学館中等部の生徒にして、今は特別審査員の役割を担っている。

 

「ああ、どうも…」

 

「ヒーロー科・受験者1527番、轟焦凍さんですね。確認完了致しました。貼り付けたターゲットを今から外しますので、お手数掛かりますが少々お待ち下さいませ。失礼しますね」

 

 そう言うと、月光は手に持つ専用磁気キーを三つのターゲットに近づけ、一瞬で解除する。

 ターゲットを貼り付け試験が開始した直後、一度貼り付けたターゲットは二度と外せないような仕組みになっている。かなりハイテクだ。

 

 

「はい、この通りターゲットは全て取り外しましたので、これでOKです。失礼しました♪」

 

「一次試験が終わるまでまだ時間は有る。くれぐれも他の受験者に迷惑を掛ける行動や、騒ぎを起こすことは極力避けてくれよ」

 

 

 月光の隣に腕を組み佇んでた閃光は、注意深く轟にそう告げる。「ああ、有難う」と軽く受け答えする轟は通過者に視線を送ると

 

「スタンプマン好きっすよ俺も!サイン貰ったっす!彼みたいなヒーローは熱くてカッコイイっすよね!!」

 

 張り上げた声が室内に響き、思わず目を丸くする。

 確かアイツは夜嵐イナサ――雄英志望だった彼は、前に一度推薦者として雄英高校の試験に合格したものの、何故か其れを蹴った男だ。

 

「煩く騒いでるあいつは大丈夫なのか?話し相手も困惑してるけど…」

 

「……まあ、特にこれと言って多大な苦情が出てないから良いだろう。余りに騒がしい場合は注意するが…」

 

 何とも言えない顔を浮かべる閃光。

 月光とは違い彼女は冷静で無駄なことを嫌う、如何にも担任の相澤先生のような合理的主義者だ。

 そんな彼女が合理的な思考を顧みず、趣味として余興を楽しむとえば戦闘くらいだろう。

 

 轟は「そうなのか、有難うな」と軽く言葉を返すと、テーブルの上に置いてあるコップにオレンジジュースを注ぎ、口に移す。

 乾燥した口の中にオレンジの味が広がり、喉が潤う。

 

 

「んでやっぱり…」

 

 

 椅子に腰掛ける轟に、偶々視界に入ったのだろう。イナサは轟を見やると一瞬――凍り付く視線を向け、凝視する。

 彼の其の瞳はまるで氷の機械のような、熱のこもってない感情なき敵意の眼差し。

 先ほどまで愉快そうに、熱く語り掛けてた少年とは別人のようだ。

 

「?」

 

 敵意剥き出しの視線を向けられた轟は、なぜ自分が睨まれたのか理解できるハズもなく、頭の上にクエスチョンマークを浮かべるものの、相手は直様開き直ったように、駄弁ってた相手に振り向き再び会話を愉しむ。

 愉しむ…と言ったものの、イナサと正面向いてる本人は全然楽しくなさそうで、鬱陶しそうな眼で視線を飛ばすだけで、特に口は開いていない。

 

(なんで睨まれたんだ俺?そう言えばアイツも推薦入学者だったんだよな……

 じゃあ試験の時に遭ってるハズなんだが可笑しいな……あんなヤツ見た覚えも記憶もねえぞ)

 

 心の中で睨まれたことと、イナサが推薦入学者であり見覚えがない二つの疑問に悩みながら思考を働かせるも、結局答えは見つからない。

 そもそも自分はあの日を境に、体育祭にかけてまでエンデヴァーを否定することに必死だったので、単に見てなかっただけかもしれない。しかし其れがなぜ態々睨まれなければならないのか検討が付かないので、考えるだけ無駄だろう。

 そもそも人と関わる事に極力避けてた轟は、他人と話すことなど滅多に無かった上に、一人の方が気楽で過ごしやすかったので、他人に怨みを買われる道理は無い(エンデヴァーアンチを除いて)。

 

「恨み辛みって言ったら…」

 

 イナサの静かな敵意の眼を見て思い出した轟は、ふと千歳のことを思い出した。

 

 

 ――お気楽で良いですね轟焦凍(貴方)は、そして貴方の父親も――名誉と幻想(正義)の下で幸せに暮らせる人間は。

 

 

 嫌味よりも、義憤と私怨に近い千歳が一番気になるのが本音だ。

 元々ヒーロー家として産まれた自分は、憎きNo.2の父親がいる。忍を客として装い招き入れた姿は何度か観たことがある。しかし、子連れの忍など見たことがなく、彼女と会うのは初めてだし、関係性があるとすればエンデヴァーなんだろうが、憎まれ口を叩かれることに繋がりが見えない。

 

「なぁ、アンタ」

 

 壁に背をつき持たれてた彼女は、寝てたのか瞑ってた瞼を上げて、声主へと視線を送る。

 一瞬だけ、ギラリと殺意が放たれたような気もしなくは無いが、相手は忍なのだから多少文句は言えないと心の中で鵜呑みにする。

 

「どこかで俺と遭ったか?」

 

 躊躇なく、単刀直入に物事を訊ねる轟に、千歳は苛立つような顔立ちでそっぽを向く。

 よほど嫌われてるようだ。口も開かなければ、会話をしようとする意思すら見えない。

 尤も彼女は一次試験合格の後にイナサに絡まれたせいで不機嫌な理由も一理あるが、其れとはまた違ったもの。

 

「オレ、お前になんかしたか?話してくれねえと解らねえし、訳分からず敵意向けられても正直困る。何か気に入らないなら、ハッキリ言って欲しい」

 

 話せば解るとはこの事だ。

 もし自分の行動が原因で不快な思いをさせてしまったのなら、謝るべきだし、況してや初対面の人間にいきなりここまで辛辣に対応されてもこっちが悩ましくなる。

 自分にここまで敵意を、嫌味を向けるのなら何かしら原因が存在する筈だ。

 なら、少しの会話でも良い。

 其れで何かを言ってくれればこっちも――

 

 

「理解しなくて結構ですよ。私は、貴方達のような偽善と関わるつもりは毛頭ないので――況してや貴方なら尚のこと」

 

 

 しかし、轟焦凍を切り捨てるように、彼女は断言した。

 

「そうですね、貴方は何もしていませんし悪くありませんよ。特に気に触る行動も取っていませんし、こうして直にお逢いするのは初めてです。

 

 しかし、貴方と抗議したところで解決しません。これは私自身の私情ですので…貴方は気に病むことなくどうぞ」

 

 彼女は避けるように轟の横を通り過ぎ、離れていく。

 そんな彼女に、どう声をかければ良いのかすら解らない轟は、二重の重みを感じながら呆然と彼女の背中姿を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

(はぁ、どうにも調子が出ませんね……幾ら初対面であり、彼自身、何もしてないとはいえ…エンデヴァーの息子となると、頭に血が上ってしまいます…)

 

 考え事に浸ってる彼女は、深くため息をつき空になったコップにオレンジジュースを注ぐ。

 ここは別にオレンジジュース限定でもなければ、麦茶や粗茶、他のジュースも並べて有る。

 偶々、轟焦凍が注いでた大きなペットボトルのジュースを手に取っただけなのである。

 

(気にしないように、普段通りに振る舞おうと…そう思っても、彼があのクズの血を継ぐ息子と認識している以上、どうしても苛立ちが治らない…もしこれが任務であれば、連携の戦略は免れないはず……消耗品として失格ですね…)

 

 消耗品とは、忍のことだ。

 彼女にとって忍は使い捨ての道具で有り、任務として使われる為にあるものだと自己解釈している。

 殆どの忍が仲間だの強さだのと名誉や地位だのと喚く者はごまんといるが、彼女にとってそんなもの全部どうでも良い。

 実を言えば仲間だなんて感情、理解できない部類だ。忍は上層部や国の為に存在する者で有り、それ以外には何の価値も無い存在だ。

 

(……いいえ、取り敢えず試験に集中しましょう。これが終われば遭う機会は少なくなるはず…幾らヒーローと忍が手を取り合う時代になろうとも、ヒーローが悪忍になど……)

 

 ヒーローは常に綺麗事や私欲を満たす存在だと、彼女はそう認識している。決して嫌味や正論を述べてるのでは無い。主観である。

 

 

 例えば…あの時のように...

 

 

 

『邪魔だ汚い小娘が――俺に触るな、消え失せろ』

 

 

 

 救けを求めても、泣き叫んでも、現実に打ちのめされても、この世界は誰も救ってくれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 泥のような滑り。

 粘りつく音。

 偽りの姿が溶ける。

 

 岩の物陰に隠れてる二人は、歪な形で対峙していた。

 緑谷出久と現見ケミィ――雄英高校と士傑高校、どちらも最高難であるヒーロー学科に在籍している。

 麗日お茶子の偽物だと見抜いた緑谷の観察眼、洞察力、其れ等はどちらもクソナードと呼ばれるだけで伊達では無い。

 

(考えろ…!こんな物陰で暴れたりでもしたらまた他校の生徒が襲いかかってくる……打開策もない今、一人の身…下手に動くのは危険すぎる。ここは焦らず冷静に…んでもって的確に動かないと、少しの判断ミスが致命傷に繋がる…!)

 

 頭の中の回転数はいつだってフルスロットルだ。

 

「君は誰でも救けるの?」

 

 ドロドロになりながらも、彼女はその液体を拭うように、突っ込んでくる。

 来る!――しかし、目前にいる彼女は驚くことに何と、裸だ。

 

「境界は?何を以って線を引「うわぁ!?ちょっ、何で裸なんですか!?服着てくださいよ!」――ふふっ、やることやったらね」

 

 裸体を直前に目撃した緑谷は、ある意味予想外なハプニングに羞恥心に火が点き顔を真っ赤にするも、ケミィはそんな彼の反応を見て微笑み、構わず突っ込んで来る。

 変身らしき個性は、まだまだ謎が深く、不明な点が多い。

 

 シャッ!っと、彼女は爪で緑谷の頬を引っ掻く。避けきれず偶々食らってしまった緑谷の頬に切れ傷が生じ、血が垂れる。

 

(引っ掻き?なんだよもう――!)

 

 次から次に予測不能な行動に軽い恐怖を抱く緑谷は、目前の裸体に直視できず、本気を出せず防戦する一方だ。

 不味い、タダでさえ他の生徒が自分たちを探してるのに、これ以上この人のペースに引き込まれたら、それこそ通過なんて夢のまた夢、誰一人当てること叶わず脱落する側に陥ってしまう。

 

「おらぁ!離れやがれ!」

 

『!?』

 

 ケミィが緑谷を押し倒そうと攻めに入った瞬間、二人を隔てるように白長いテープか飛んでくる。

 間一髪だったのか、ケミィは其れを紙一重で躱す。この個性と、声の主から考えて間違いない。

 

「緑谷なんちゅー羨ましい状況に置かれてんだクソッタレがぁ!!」

 

 醤油顔の瀬呂範太。

 若干、羨ましそうな台詞にも聞こえるが、今の緑谷は気を止まることなく手短に感謝の礼を告げる。

 

「はぁっ!!」

 

 刹那――風がケミィの髪を揺らぐ。

 その微風の一瞬と供に、気合の張る声を上げる飛鳥は体を上手く駆使してケミィに蹴りの一撃を入れるも、向こうは柔術を使って難なく躱す。体の関節が柔らかい彼女は、体術を使って体制を整える。

 

「大丈夫デクくん!」

 

 瀬呂と飛鳥と共に駆けつけに来たお茶子が緑谷に安否の声をかける。ケミィは目の前にいる、デクの呼び方、今度こそ本人で間違い無いだろう。

 本物のお茶子に安堵の息をつく緑谷は「麗日さん…良かった、今度こそ本物だ」と呟くものの、本人は知らない。

 

「反応…凄……」

 

 体術と言った、武術に近い動きに飛鳥は茫然とする。

 素人とは思えない動きに、身のこなし、凄まじい反射神経にスピードは、忍やそこらの上忍と肩を並べれるだろう。

 

「ふふっ、飛鳥ちゃんにお茶子ちゃん…貴方達も素敵ね……」

 

「はえっ?」

「えっ、何で私の名前のこと…」

 

 一瞬、自分の名前を言い当てられた飛鳥は、大きく動揺してしまう。

 まだお茶子や緑谷、ついでと言っては失礼だが瀬呂のようにヒーロー科の名前を知っているのは不自然ではない。

 体育祭で名前や個性が生中継として披露されてるので、割られるのも有名人なのも可笑しくはない。

 しかし忍学科として、まして世間に公表すらされてない彼女の名前すらも知っているとなると、それはそれで不気味だ。

 

「偶然、他の子と会話してる所を聞いて、貴方の名前を覚えたのよ…ふふっ、可愛い」

 

 果たして其れが本当なのか、嘘か真実かは解らない。

 それでも、彼女に何かしらの危険性と不気味さの印象を与えるのに充分だった。

 

 

「人が多くなったし…そろそろ服着たいから、一旦引くね。バイバイ、緑谷くんにお茶子ちゃん、飛鳥ちゃん」

 

 

 そう言うと、彼女は呆気なく物陰に身を潜むように撤退した。

 緑谷の呼吸は乱れており、飛鳥やお茶子もケミィに対して何処か浮かない顔立ち。「俺は?」と色々な意味で空気と化してた瀬呂。

 なんやかんやあったが、ようやく無事な生徒を確認することが出来たので、取り敢えずは一安心だ。

 

「緑谷くん無事で良かったぁ〜…さっきの子誰?」

 

「ホラ、士傑の人だよ。正直、怖かった……」

 

「あんな痴女と絡む緑谷、もしかして如何わしいことでもしてたんじゃねーのか?」

 

「ち、違うよ!!幾ら何でもこれ試験だよ!?二人とも違うからね!?」

 

「緑谷くん、動揺してる辺り益々怪しく見えちゃうよ?」

 

「飛鳥さんも!?!」

 

 緑谷本人からすれば危機的な場面だったのだろうが、途中から介入した第三者達からすれば、物陰で裸体の女性と緑谷が絡んで、色んな意味で襲われそうになってるという説が大きいだろう。

 当の本人は激しく反対の意見を述べてる上に、女性との免疫も無いので考え難いが、ここまで動揺してると少し疑い深くなる。

 

「そ、それよりもさ…確認するけど三人は本物だよね??」

 

「ホンモノ?何の話?」

 

「さっきの女性…士傑の生徒の個性が、他者に変身できる個性だったから…その……本物かどうか解らなくて……」

 

「ったりめーよ。仮に偽物だとしたら態々お前を助けねーだろ?相手を信用付けさせるドーピング方式なら話は別だけど」

 

「変身の能力?……ああ、忍で言えば変化の術だね」

 

「ま、まあそんな感じ…

 んで飛鳥さん、麗日さん、瀬呂くんの三人はどうしてここに?一応、経緯を聞きたいんだけど」

 

「あの後傑物学園のイケメンの個性で皆別れちまったろ?んで近くにいた麗日と一緒に他の皆んな探しに行こうか悩んでて、他の生徒がいるか確認してたところ、飛鳥と合流した。

 そんで他の生徒探してたらドンパチやってるところ目撃して、忍び込むようにしてたってわけ!そしたらお前と痴女がなんかして「瀬呂くん有難う!それじゃあ他の皆んなの安否はまだ確認できてないわけか…」――サラッとスルーするのな」

 

 これ以上誤解を招きたく無いという意思が強い緑谷は、何とか瀬呂の言葉を切り上げるように言葉を遮り、情報を整理する。

 謎や不明な点が多い今、迂闊に他の生徒を探すのは難関にして愚か。またケミィのようなやり手の生徒や、蛇女や他の忍学生に目を付けられるのはゴメンだ。

 

「ここからどうしよう…皆んな何か考えはあるかな?」

 

「俺たちは他に仲間を探しながら通過しようって話をしてた。アナウンスで脱落した生徒や通過した生徒が流されないのは不便だけど、信じるのもまた戦略の一つだって二人がな。俺は多数決に従ったんだけど…緑谷はなんか策でもあんのか?」

 

「なるほど…」

 

 三人では対処出来ない予測不能な事故が起きる危険性があるため、なるべく多過ぎず、仲間を増やして守りを固めて一次試験を突破し通過するのが三人の本望だそうだ。

 その意見に関しては同意だし、実際雄英ヒーロー科に半蔵の忍学生は強い。十日間の強化訓練に続き、コスチュームの改変から必殺技まで編み出してる。

 

「僕もそんな感じのことを考えてたよ…僕を狙ってた生徒たち自体は強くないし、数を攻めてくれば不利になる、厄介だけど…向こうの団結力は思ったより大したことない。見たところ意思疎通が出来ない感じだから、僕たちが上手く連携を取れば制圧は可能。

 たださっきの士傑の生徒のようなイレギュラーの場合は話は別だけど…」

 

「お、おお…じゃあつまり今この場でソイツ等を完封すりゃあ良いって訳か?にしてもあんなドンパチ激しく混戦してたのによーあんな短時間で考えたな緑谷」

 

「じゃあ、ウチらは具体的にどうすればええん?」

 

「わ、私も活躍できるのかな?」

 

「それは――」

 

 崩れた大きな岩影に潜む緑谷たちに寄るように、他校の生徒たちは少しずつ此方へ近づいて来てる。

 この状況を打開し通過する方法は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎖鎌の金属音が、ヂャラヂャラと不愉快な音を奏でている。

 血のように赤く塗り染められた鎖は、まるで赤い蛇のようだ。凡ゆる獲物を捕縛し食い締めるその鎖は、獲物を捕縛する。

 そして大小サイズに並べられた鎌は、蛇の牙を表してるように見える。龍の鱗、蛇の牙、敵意を剝きだす刃物は、相手を仕留める為に造られた印象が伝わる。

 

「鎖鎌…蛇女の補欠とは聞いたが……想像以上に厄介だな」

 

 士傑高校二年ヒーロー科、肉倉精児は細い目を更に細めて愚痴をこぼす。

 鎖鎌の斬撃が己の肉体を弾き飛ばし、肉片が飛び散るように地面に付着する。端から見ればかなりグロテスクにも見えるが、個性の性質上仕方ない。

 

「貴様の肉片に触れれば即、その醜い姿に変えられるのか…厄介と言うよりも、相性は最悪だな。私の美貌を汚すなど、善より寛容な私でも万死に値する罪なのだから」

 

 鎖鎌を巧みに扱う総司は、そこらに落ちてる肉片に視線を落とす。少しでも触れてしまえば、まるめこねられ、最終的に他校の生徒のように行動不能となってしまう個性は中々に強力だが、総司の主観からすれば、個性の厄介どうこうなく己の美しき容姿を醜い姿へ変えられてしまう、最悪な個性である。

 

「あ、芦屋さんに伊吹さんも……士傑の人にあんな姿に変えられちゃったんですよね…」

 

 恐る恐る口を開く芭蕉は、肉倉の近くに落ちてる二つの肉の塊に目をやる。

 

「チッ……最初は様子見でヤツの弱点を捉えてから隙を突くべく狙ってたんだがな……」

 

 最初、相手の個性が不明な為、警戒を怠らず斬撃を飛ばし相手の様子を見計らっていたのだが、私情丸出しの伊吹が突っ込んでいき(気持ちよくなりたいらしく)、彼女を止めるべく芦屋が庇い、更に不意打ちで伊吹も肉片に捕まり丸めこねられてしまったというオチだ。

 個性的な性格ではあるが、ある分強すぎて逆に負担が掛かってしまうのは望ましくない。

 

「貴様らは悪忍、それ則ち悪鬼の従。

 敵と何も変わらない存在が、世に蔓延り我々ヒーローと供に歩むことなど、あってはならぬ」

 

 再び両腕の肉片を分離させ、複数の肉の塊へ分裂すると、総司目掛けて一斉に襲いかかる。

 肉倉は自己意識と正義感が強い上に、立場や地位などの場をわきまえる優等生。

 だからこそ、神野区の一件後に明かされた忍の存在。悪忍の存在を許さない、いわば忍を良く思わない人間だ。

 

「九頭龍閃乱――風鼬」

 

 一定の領域で鎖鎌を激しく振り回すことで、風の如く空間を切り裂く斬撃を飛ばし、範囲内の侵入者を排除する個性に似せた応用術だ。

 因みに総司の遁術は飛鳥や葛城と同じく風。忍社会の中では本人の忍術とは合わない遁術を扱う忍も存在するらしい。

 肉倉の放った肉片は全て飛び散るように弾かれる。

 

「何度やっても同じことだ!!私という完璧に敵う者などこの世には存在しない!」

 

 断言する総司は鎖鎌を鞭のように素早く振り回し、自身の範疇内に触れる者全てを吹き飛ばす絶対領域を作り出す。

 間合いに入った者はた只では済まないだろう。

 

「そうか、しかしこれならばどうだ?」

 

 肉倉はその肉の塊を更に分裂させ、次第にサイズは小さくなり、やがて雨粒並みの縮小サイズへと成り果てた。

 

「なっ――」

 

「これは、繊細なコントロールが必要で時間が掛かる…故に私自身本体の体が使えないため、余り宜しくないのだが、貴様が攻めてこないのならば好都合。

 

 私の個性は、大きさも自由に変えることが可能なのだ」

 

 肉倉精児――個性『精肉』

 揉んで〝肉体〟を変化させてしまう。他人の肉体はこねて丸くするのに留まるが、自身の肉体は自分の身体の為自由度が高く、肉を切り離し分離させたり寄せ集めて大きく出来たりする事が可能。因みに切り離した肉体へのダメージはゼロ。

 

「私が相手をして来た中でも、貴様は例外だ。中々に手を焼く相手だった」

 

「しまっ――クソッ!!」

 

 全方向から肉の雨粒が降り注がれ、総司は全て払いのけようと振るうも、少量の肉の塊が総司の身体に所々付着してしまう。

 ある程度確認出来れば、後は簡単。一旦操作をやめて、総司に纏わりつく肉の塊を寄せ集め、こねて丸めば問題ない。

 

「総司さん!!」

 

「因みに一度捕まってしまえば終わりだ。私の分身に攻撃したとて無意味。巻き添えを食らうだけだぞ緑髪の少女よ――名は確か芭蕉だったか?」

 

 なす術なく、まるでパンの生地のように、揉んで、丸めて、こねて、そしてやがて彼女は自身のアイデンティティを傷付けられたかのような、醜く肉の塊のようになってしまう。

 喋れないのか、声を張り上げること叶わず、何を言ってかは不明だが、言葉なしでも芭蕉の心を痛めつけるのには充分だった。

 

 

「そんな…」

 

「これは示威である。

 今試験、ヒーローのみならず善忍悪忍が合同で試験を望む理由…オールマイトが引退し時代は節目、更にはとある古風の老人たる忍が胸を張り矜持を貫いて見せたその雄姿、実に感激した。

 私は誇りに思う。忍とは単に暗殺や破壊をなりあいとする生き物ではないと、我々が知る忍とは違うのだと、確信した。本来であればヒーローは増員して然るべきもの…この世代に於いて、ヒーローだけで済む世界…とは、神野区を後に断言できるものでもない。少しでも戦力を増やす事がベスト…なので、忍の存在が邪魔だとは言わない」

 

「…そんなことを解っているのなら、そこまでして言うのなら…何で私たちを拒み、否定するんですか…?」

 

「私の中での忍とは善忍のみで充分だと言う話だ。

 貴様ら悪忍は別…善忍と言うのなら我々ヒーローのように他が為に行動し命を張ることが出来る、いわばヒーローの補佐の役割を担う存在だ。

 しかし貴様ら悪忍はどうであろう?様々な違法行為、破壊や暗殺、時に奪取し命を踏みにじる、敵らしき存在では無いのか?

 

 芭蕉よ、其れが違うのであれば忍はなぜ善と悪に別れるのだ?私の言葉に何かしら誤りが有るのか?

 其れを教授してくれるのなら、耳を傾けよう。まぁもっとも悪の語る妄言など馬の耳に念仏だが」

 

 肉倉は伊吹の近くに歩み寄ると、彼女の身体を蟻を潰すかのように、踏みにじる。そんな彼に思わず敵意の視線を向けてしまうのは、致し方ないこと。

 

「一つ忠告しよう。

 貴様が攻撃を仕掛けようと、この場にいる肉の塊…即ち受験者と貴様の仲間三名の痛覚は正常に働いている。

 大規模な攻撃や、被害の大きい攻撃、忍術は愚策…注意した方が良い。とは言ったものの、悪忍は冷酷、仲間のカケラも字も無かろうに…次は貴様だ芭「ありますよ…」――ッ!」

 

 

 肉倉の言葉は、静かに怒りを燃やす彼女の声に遮られてしまう。一見、可愛らしい人畜無害な小動物の彼女に見えるが、油断は禁物。この女性は決して、気を緩やかにし隙を見せてはならない悪忍である。

 

「仲間の情は、ちゃんとあります……」

 

 彼女は大きな墨筆を握りしめると、空中で何かを描き筆を振るった瞬間――斬撃が飛び放つ。

 

「ッ!」

 

 肉倉は間一髪で、躱すことに成功したものの、内心は混乱。何が起き、どう言った原理で斬撃が飛んできたのか、解らなかった。

 

(何だ今の?斬撃を飛ばした…?総司のような忍術…いや、そうには見えない。原理的に考えればそんなことは…待て、忍の存在は未知が多い故に、不明な点が多すぎる。

 攻めすぎたか?彼奴の忍術が何か確認したい所だが…)

 

 手短に頭の中を整理する肉倉は、冷静に取り乱すことのないように、至って正常で堂々とした態度を取り、彼女に目掛けて肉の塊を飛ばす。

 先ほどのようにコントロールは不要、一先ず様子見も兼ねて肉の塊を飛ばし、判断を取る。

 

「私だって…腐っても選抜の補欠メンバー…前に在籍してた選抜メンバーの未来さんに、一年生で転校してきた両備さんや両奈さんにまだ遠く及ばないですし、選抜の座はまだまだ遠いのも、実感できます……

 

 特に、()()()()()()()()()()()…」

 

 

『スプリンガーのヒーロー事務所はどこですか?』

 

 

 其れは、嘗て切島が体験した恐怖と挫折。

 彼女は目の前で死を錯覚した。

 消えない恐怖と絶望で彩られた記憶に悩まされた。

 

「私は気弱ですし…オマケに忍術も充分に扱えない未熟者…日影さんみたいに常に冷静で強い忍では有りません……」

 

 其れでも、あの人みたいになれたらな、と切なく思うことも多々あった。

 どうしたら、自分もあの人みたいなカッコいい忍になれるのだろうと、どうしたら自分も日影さんみたいな無情な忍になれるのだろうと。

 彼女にとっての憧れとは、日影なのだ。

 

 

 しかし、其れと同時に内心に沸くのは、善良たる抵抗心。

 

 無情になり、人を簡単に殺めてしまうような忍になって良いのかと、時折そう思ってしまう自分がいる。

 

 

「可笑しいですよね私…蛇女の悪忍なのに、人を殺めること出来ず、小さな虫を傷付けるのでさえ躊躇ってしまう私が悪忍なんて…笑い者ですよね…時々、そんな自分が産まれてしまったことに、多少の疑惑が湧いてしまいます…」

 

「其れは己に自覚があるからか?まだ、人間としての心が有るのか?貴様ら悪忍にどう言った経緯が有ったかは存じない…其れを知る必要もない。

 しかし、貴様がこの場をわきまえ、己の罪に悔やむのならば大いに賞賛。故に、省してくれれば幸い――」

 

 

 肉倉の肉の塊が、彼女に触れようとした刹那――懐から文字の描かれた札が数枚、肉の塊を包み込む。

 

「なに…?!」

 

 肉倉は己の眼を疑う。

 今目の前に映ってる光景は、己の肉の塊を完全に封じ込み、包み込んでるのが見え受ける。

 自分の個性が、封じられたかのような、それこそイレイザー・ヘッドの抹消で封じられたかのような錯覚に囚われてしまう。

 

 

「ただ、そんな私だからこそ情はあるんです……

 相手にも家族がいて、事情があって…其処に、確かな幸せと笑顔があるのなら、奪ってしまう自分が怖いと…そんな事を考えてしまうんです…

 

 だって、そんなこと考えてしまったら…命なんて奪えないじゃないですか――」

 

 

 例え相手が気に入らない存在だろうと、殺すことに躊躇いも持たない人間の道を踏み外した存在だろうと、道具のように利用し支配してた外道だろうと、こっちも気に食わないから殺したなんて、そんなこと彼女には出来ない。

 それが忍として未熟だと罵られ、悪忍に不向きだと言われるのも、慣れっこだ。

 一時期、そのせいで自分は心の殻に閉じこもり、人と関わらないように生きて来た自分は人間不信でもあった。

 それでも

 

 

『別に芭蕉さんは芭蕉さんでええんちゃう?わし、周りの視線なんて気にせぇへんからなぁ。

 そもそも、なに言われても何も感じないし、自分を貫き通すのが忍ってもんやないの?其れが正しいかは知らんけど、悪忍なんだし、自由になればええと思うで。生かすも殺すも、アンタの自由や』

 

 憧れの先輩である日影さんにそう言われてしまえば、閉じこもってた自分がバカらしいではないか。

 

 

「知ってますか肉倉さん、悪は善よりも寛容だと言う言葉を――」

 

 

 彼女が念じたその瞬間(とき)、肉倉の足場は光だし――爆破する。

 

 

「!?!」

 

 

 最小限の爆発は爆豪と比べて小さいものの、相手に傷を負わせるレベルは充分。

 伊吹に被害が届かない程度の安全圏を見計らった芭蕉は、咄嗟に彫ってあった文字を発動させる事で文字の効果を発揮した。

 

「な……にが……?」

 

「貴方が伊吹さんと芦屋さんの猛攻を避けながら個性を使ってた間に、貴方の眼を盗んで書いてたんです。

 幸いにもコンクリートで出来た道路は色が墨色、私の忍術ならば相性は良好。罠を張ることも可能なんです」

 

 意識が朦朧とする肉倉は、視界が霞む中、歯を食いしばり相手を睨みつける。

伊吹と芦屋が攻撃を仕掛け、肉倉が相手の攻撃を避けてる隙に相手の目を盗んで墨字で「爆」を書いてたのだ。

そして肉倉は足元の下まで訪れたのを機に、念を込めて仕掛けが作動しただけのこと。

 

芭蕉――『墨字忍法』

墨に彩られた筆毛で文字を書くことで、其の文字の効果を発揮させる事が可能。文字の数だけ忍法が存在し、其の分だけ他の忍とは違い数多くの忍法を扱う事が出来る、世にも珍しい希少な忍術。

…なのだが、本人はまだ実力が未熟なので、失敗する事が多々あるのがタマにキズ。

 

「でも、もし貴方が側にやって来なかったらどうしようかと悩んでましたが…その心配も無かったようですね…」

 

 チャキ…

 芭蕉は静かに大きな墨筆を握りしめ、筆毛を相手に指し向ける。刃物に似た音が、肉倉の耳に伝わる。

 

「まさか…!あの時、私が伊吹を踏んだ時か!!」

 

 悪忍はこうだと言わんばかりの見せしめが、逆に仇となった肉倉は、己の失態を大きく後悔する。

 油断大敵とは正にこのこと、まるで参考書のように解りやすい。

 

「貴方が私たちをどう思おうと勝手です。

 事実、悪忍は批判を受けてるのも上層部だけでなく、私たちにも非があるので、否定は致しません…

 

 でも、これだけは言わせて下さい――」

 

 彼女は一息吸って、腹の底に力を入れて喝を入れる。

 

 

「私の大切な仲間を馬鹿にしないで下さい!!!」

 

「己の立場を自覚しろと言う話だ愚か者ォ!!!」

 

 

 其れは、気弱で優しい彼女が初めて見せる激情。

 肉倉も其れに応じるように、怒号を弾ませる。

 

「九頭閃・牙龍!」

 

 透き通った美しい女性の声が、耳に届くかと思えば、余りの激痛で意識は途絶えるように、肉倉は後ろへと倒れた。

 先ほどまで丸めこねられあるまじき姿へと変えられた総司が、元の姿へと戻り、鎖鎌を腹部に狙ったのだ。

 

「全く不覚だ。

 完璧主義者でありながら、貴様如きに足元を掬われるとは…しかし、芭蕉のお陰で私の美貌が元に戻れたのも事実。感謝するぞ」

 

「わ、我も忘れては困るぞ!」

 

「はうぅ〜ん!やっと元に戻りましたぁ〜!ワンワン♪」

 

 肉倉が気絶したことにより、個性で行動不能に陥られた総司、芦屋、伊吹は元の姿に戻ることが出来た。

 

「皆さん無事で…良かったです……」

 

 ホッと一息つく彼女はソッと胸をなで下ろす。

 肉倉精児の個性は厄介ではあるが、ある一定量のダメージを受けてしまえば、捕まった者も元に戻ると言う個性の仕組みらしい。

 

「芭蕉、これはお前の手柄だ。

 コイツのターゲットを全部当てろ、お前が勝ち取ったんだからな」

 

「えっ?で、でも…」

 

「其れに、私達の相手は他にもいますもんね?」

 

 伊吹の声に振り向くと、肉倉の個性で行動不能になってた受験者達の姿も戻っていた。

 それも当然、掃除に芦屋、伊吹が元の姿へと戻ったのだから何ら不自然ではない。

 

「さぁ、再戦だ!」

 

 悪に舞準じる蛇の乙女は、獲物を睨みつける。

 闇夜に咲かす華は刺々しく美しい、血に彩られた彼岸花とは違い、友情のような情熱の薔薇だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の試験、意思疎通と連携が取れない理由は個人的な意見を除いて、多くの理由が一次試験を通過したいと言う欲求。

 つまり抜けがけする人が多いと言うこと。

 先着200名という甘言に惑わされ、視野が狭まり混乱を招きやすい混戦は、ボール当てにしては中々にカオスだ。

 だからこそ客観的に見て簡単な事柄でも、圧力を掛けてやれば自動的に生徒たちの行動は難しくなる。

 一年生に忍学科の受験者が合同で有れば尚のこと、本来得意とする連携や、弱点を補う役割も今試験では自分たちが自ら潰してると言っても過言ではない。

 

「麗日さんお願い!」

 

「任せてデクくん飛鳥ちゃん!」

 

 緑谷出久と飛鳥は、左右反対方向で視界に入る受験者たちをかき乱すように行動し、囲んでからの飛鳥と緑谷が合流するように、距離を縮んでいく。

 二人に視線が集まる受験者はボールを持って投げるタイミングを見計らう。そこで麗日と瀬呂の二人がポイントだ。

 お茶子の個性で浮いてる岩に接着した瀬呂のテープ、重しと拘束の二つを組み合わせ利用することで敵陣を一瞬で完封。

 

 

「テープ?!瓦礫にくっつけさせて投げたのか!」

 

「よし!かく乱して正解だった…狙いは僕ら…集中することで瀬呂くんと麗日さんへの注意が削がれる。僕の読み通り…!」

 

 難なく作戦が上手く成功した緑谷は、安心した表情を浮かべ懐からボールを取り出す。

 因みに余談だが、お茶子は瓦礫を使って相手を怪我させないようにと配慮しタイミングを見計らっていたのだ。

 

「なぁ、君らまだ一年生なんだろぉ…?俺らもう今年で仮免取らないと将来的にもヤバいんだよ…勘弁してくれよぉもぉ……」

 

 仮免許を取得出来ないものは、ヒーローの職業に就くことはかなり難しい。

 言葉から察するにこの人は恐らく先輩だろう。

 

「お気持ちは分かります…」

 

 此処で仮免許を取得しなければならないのも、将来のために負けられないのも、理解できる。

 しかし其れは

 

 

「僕らも、同じです――」

 

 

 決して先輩だけではない。

 自分たちもここで躓いて居られないのだ。

 憧れへと近づくための、試験なのだから。

 

『ええ〜たった今四名通過しました!残り29名〜、じゃんじゃん通過しちゃって下さいよ〜!』

 

 唐突のレスポンスが流れるも、こうして無事通過出来たことに喜ぶ四人は、お互い顔を見合わせ笑顔を浮かべる。

 

「やった〜!通過出来た〜!!」

 

「ヨッシャ!一次試験、一先ず通過〜!ってもまあ爆豪と轟辺りは余裕で合格してそうだよな〜」

 

「あっはは、爆豪くんなら確かに…脱落した姿なんて想像できへんもんね」

 

 一安心した四人は、すぐ様控え室へと向かっていく。

 緑谷の顔色は、どこか不安そうで、まだ合格出来てない人はいるのだろうかという疑問が、表に色濃く出ていた。

 

「大丈夫…だよね」

 

 

 

 

 

 

「いや〜青春がほとばしってますなぁ……特に今年は珍しい。毎回マークが厳しい雄英が、未だに脱落ゼロとは」

 

 パソコンのモニター画面に目を通す目良は、深い溜息を吐きながら言葉を漏らす。

 一次試験とはいえ雄英潰しに於いて脱落者がゼロというのは中々に素晴らしい成績だ。

 

「さぁって、そろそろ準備しといて下さいね。第二次試験、始まるんで…厳しく採点しちゃってくださいね。HUCの皆さん」

 

「ふふふ……活きの良い若者程、困らせ甲斐がある…!どう厳しくしてやろうかのう…」

 

 

 一難去って、また一難――

 少年少女達に待ち受けるは二次試験、HUCと呼ばれる老人集団。

 また更なる困難が立ちはばかる。

 

 




紹介プロフィール

雪泉
本名・不明
所属・死塾月閃女学館
好きなもの・カキ氷(小豆入り)、書道
スリーサイズ B92/W56/H84
誕生日・12月31日
身長・167㎝
血液型・A型
出身地・不明
戦闘スタイル・近接戦闘、中距離戦闘、

ステータス ランクA

パワーC
スピードA
テクニックA
知力A
協調生B

秘伝動物 蜘蛛

轟「日本舞踏を基に氷と風を駆使した氷風忍法を扱うっつー、俺の半冷半熱の個性に似た忍法だ。遁術は氷、風は違うらしい。俺はそもそも遁術の基準がどうこう解らねえから解説させるっつーのも無理に近いけどな。
左右関係なく同時に氷と風を発動したり、一部の力を使ったり、更に調整も可能。ある意味、俺の上位互換ってヤツだな。
能力の性能としては同じ類だが、これは年季の差と俺が左を使わなかった分の穴が空いちまってるな。

雪泉と俺の共通点は氷、炎と風は相反する属性…一部、周りの人間(特に緑谷)から似てるって言われる。
ふと思ったことは、もし俺の左が熱じゃなくて風だったらって想像すると、クソ親父の野望を果たすための英才教育は受けずに済んだんじゃねえかって思う反面、母さんはまだ元気だったんじゃないかって思っちまう自分もいる…
亡くなった爺さんを愛する雪泉の気持ちは、少し共感できるものもあるし、正直言って俺の親父がもっとマトモだったらって、あり得ないことを考えちまうことも、時々ある。
だからその気持ちも、大切さも忘れないでほしいってのが、今俺が言える言葉…かな。
雪泉は見たとおり気は真面目だし優しいし、芯が通ってる。昔は正義正義って言ってたけど、今じゃ落ち着いた冷静な雰囲気があって特に気にしてない感じかな。後は三年だからってのもあるが実力は下手なプロよりも普通に強え。そんでもって…」

雪泉「と……轟さん……その、褒めても…何も出ません…よ?」

轟「ん?そいや何でお前顔赤いんだ?熱でもあるのか?」

雪泉「えっ?あ、いえ私は…!」

轟「デコちょっと借りるぞ、熱測りたい」

雪泉「!?////」

轟「熱はねえ…ってよりも、冷んやりしてるなお前…って雪泉?」

雪泉「はうぅ…///」

轟「大丈夫か?気持ち悪いのか?足のツボ押すと気分が和らぐぞ、車の酔い止めにも効果はある。何なら教えようか?」

雪泉「い、いえ結構です!///こ、これ以上は身が持ちません////」

轟「?そうか?」


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