光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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出来るだけ読者の質問に答えていきたい(唐突)。
感想で質問送ってくれる人、または読んでるけど質問送ったことがない人、様々な読者がいると思います。
ですので、可能な限り頑張ってお答えしようと思います!
キャラや話の解らないところ、何でも良いのよ?

そしてシノマスにて…なんと、出ちゃいました。
芭蕉と総司のウェディングバージョン出ちゃいましたぁ!勿論無償忍魂の10連1回でです!総司は無料で出ました!いやぁ本当に素晴らしい!良かったよ本当に!




127話「君のこと」

 

 

 真堂の個性「揺らす」による必殺技、振動伝地の影響により皆とはぐれる羽目になった雄英生徒と半蔵の生徒たち。

 可能な限り集団で動き、安全を確保しながら着々と突破したかったのだが…傑物学園はそんな思惑に見切りを付けたのか、敢えて分離させて少数を狙う作戦へ実行した。

 相手がどんな個性を所有してるか不明な以上、考えても拉致が明かない。

 如何なる場合に於いても、自分達は予測不能な事態に対抗するしか打開する術は無い。

 

「うぅ〜、イッたた……地震なんて凄い個性が来たなぁ……」

 

 地震により土砂と共に落下した飛鳥は、なんとか受け身を取り最小限のダメージで済んだものの、痛覚は少し感じている。

 土埃で汚れた頬に汗が伝わる。汗水供に腕で拭う飛鳥は、第一確認として周りを見渡す。

 見た限り現ステージの殆どが土砂崩れによる被害が色濃く映し出され、どれもこれも視界が悪い。

 人が居るかどうかさえ分からない上に、敵が物陰に隠れ潜んでる可能性もある。

 

「せめて一人でも多く他の皆んなの安否を確認したいなぁ…脱落者ってアナウンスで流れたりするのかな?ううん、こんな混戦の中、的確に言い当てるなんてしないよね普通…不正行為が有れば話は別なんだろうけど…」

 

 2100人の中、受験者の脱落を言い渡すなんてこと、考えてみて想像が付かない。

 不正行為で有れば話は別なのだろうが、混戦の中で態々宣言する必要もないだろう。

 

「一刻も早く他の人と合流して…」

 

 体制を整えよう。

 そう言いかけた時、ふと土砂崩れの中からひょっこり顔を出し、周りを伺う受験者を見かける。

 

(アレって、お茶子ちゃん?)

 

 どうやら向こうは此方に気付いてないらしい。

 お茶子の近くにもう一人、顔をスッポリ覆う黒いヘルメットを被る人影も見える。

 アレは間違いない、瀬呂範太だ。

 お茶子と瀬呂は今のところ無事な様子。安否の確認が取れたことで胸をなで下ろす飛鳥は、ホッと安堵の吐息をついた。

 

「二人共無事みたい…良かったぁ〜…早く合流して陣形を固めながら他の子達を探そう……」

 

 そんな独り言を呟きながら、彼女は足早と二人のいる方角へと忍足で向かって行く。

 これは思ったよりもずっと気難しく、中々にハードな試験のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ッ――!!」

 

 早い、速すぎる。

 目を逸らすと直ぐに消えてしまう…!

 何かしらの個性か?其れとも他の士傑高校の生徒が援護、サポートを担ってるのか?

 どちらにしろ、現状…余り宜しくない。

 緑谷出久は奥歯を噛み締めながら、苦の表情を浮かべ、的確に素早く、視野を広げ辺りを見渡す。

 しかし、誰もいない。

 つい先程まで、そこにいた士傑高校の生徒・ケミィは突然消えたかのように、姿がなくなっていた。

 

(考えろ…落ち着け!相手は必ず近くにいる!

 そうだ…もしかしたら姿を消す…または相手の視覚を誤魔化す…幻惑系の個性か――?)

 

「因みに私のは姿が消える個性じゃないよ――」

 

 まただ。

 ケミィの声が、耳元の近くで聞こえた気がした。気がした…と言うよりも、本当に身近に聞こえた。

 振り向く間も無く、緑谷はケミィに腰の右横に貼り付けたターゲットを、当てられそうになる。

 其れを緑谷は瞬時に足で地面を蹴り、ケミィの攻撃を上手く躱し体制を整える。

 しかし又しても、彼女の姿はどこにも無い。少し目を離した隙に、彼女は忽然と消えてしまう。

 

「消える個性じゃない…?いや…相手を錯乱するための嘘…だったり?」

 

 いや、今はダメだ。

 考えるな…全神経を集中し気をしっかり高め保て。

 女性とは言え向こうは見た目によらず、体力や機動力、素早さが特に異常な程に強い。思考を働かせる時間すらない。下手に考察に入っては必ず隙を突き付けられる。

 もしかしたら身体能力強化系の個性か、又は他に見ない希少な個性か…何がともあれ、緑谷出久が翻弄されるには充分な程に相手は学生とは思えない実力を秘めていた。

 

 

「こんなんボールで殴れば良いじゃんね?」

 

 

 刹那――耳朶を打つかのような声が届き、反応する前に背中から腕を掴まれ身動きが拘束される。

 

「くっ――!?」

 

 地面に押し潰されたかのような迫力に、肺から酸素が吐き出される。思わずオエッと吐き気が施しそうになるも何とか堪え、視界ギリギリまで相手を睨むように見つめる。

 そんな緑谷とは真反対、ケミィはその状況をさぞ優越な、そんでもって色っぽい表情を浮かべそっと顔元に近づく。

 

「因みに嘘は吐いてないからね、私は…ただ隠れてただけ。フフッ…

 私のは()()。相手の視と聴から私の存在を逸らすのよ、その瞬間息を止めて何も考えず潜み・紛れるもの…〝何も考えず〟が難関よ――

 

 次にコレは()()、龍式・武術――龍の絡め。

 相手の動作、視線、呼吸、様々な存在を知り、肌身で感じ取り、其れらを全て利用し関節技として繋げる初歩の技にして武術の基本。

 大事なのは自然に流れるような動作、体の無駄な動きの部分を無くし、如何にどう柔軟に対応出来るか……私もコレ身に付けるのに一週間は掛かったけど…中々に厳しかったわ」

 

 龍式・武術。

 聞いたことがない。そもそもそんな武術さえあったのが初めてだ。

 いや…きっとあるのだろう。ただ、自分が無知なだけで、実在してるかもしれない。

 そもそも武術を得意とするヒーローは、実を言えば余りこの世には存在しない。

 皆、個性を代表にして扱い、自分の個性に何かしらのプライドと自信があるからだ。

 心操や切島と言った望んでもない個性を手にした者、自分の個性を地味だと自称する者なら話は別かもしれないが。

 

「し、士傑ではそんなことも習得出来るんですか!?まるで動き方が忍に…似ています!!」

 

 気配を隠す巧妙な手口。

 柔軟たる動作。

 鍛錬された身のこなし。

 其れらが緑谷に脅威としての認識を与えていた。

 

「コツは訓練を訓練と思わないこと…フフフ、お互い知りたがりだ…君のこと、益々気に入ったよ」

 

 耳元の近くで、蕩けるような甘い言葉が緑谷を誘惑する。

 鼻に女性特有の香水の匂いを感じる。

 垂れる金髪が緑谷の頬に触れる。

 

「どう?体に力を入れても動けないでしょ?

 この社会…大抵多くの人間が個性を得意とする中、自分の個性に自信過剰の人間が多く増えてるの。

 特に子供なんかそう…聞いたことある?〝個性特異点〟が良い例え。

 個性で対処できる範囲なんて限られてるもの…最小限から最大限まで己の力量で対処するのもまた、ヒーローや忍に必要なことじゃない?

 

 だから私は、技術と武術の両方を兼ね備え学んだの」

 

 彼女の言葉に、一つ一つが納得せざるを得なかった。

 力を入れてもピクリともしないし、外すこともできない。無理やり外そうにも痛みが増して反射的に力が元に戻ってしまう。

 これが武術と技術なのか…

 正直、もし相手が敵ならば完敗せざるを得ない形だろう。

 

「次は私ね…貴方、何でヒーローを志してるの?

 

 名誉?

 誇り?

 利益?

 

 誰の為――?貴方のこと、もっともっと知りたいな」

 

 彼女の声色、瞳、其れらがまるで血の通わない冷徹な悪意に染まる。

 この人は一体――?

 

「――ぬんっ!!」

 

 バィン!!

 

「わっ!?」

 

 そんな思考を遮断するように、緑谷は体全身に5%の出力を上げ、バウンドするように腹部を打ち跳ねる。

 まるでトランポリンに跳ねられたかのような音、緑谷は直様体制を整え、ケミィは受け身をとって立ち上がる。

 一つ一つの動作に無駄な動きがない上に、その分隙がない。

 

 

「よく喋るんで――「雄英貰ったぁ!!」!?」

 

 

 何処からか違う男性の声が聞こえたかと思えば突然、粘り着いたネット状の物が緑谷とケミィに襲いかかる。

 振り返れば其処には、まだ見ぬ他校の生徒が大勢と言わんばかりにボールを握りしめ此方を見つめている。

 まるで獲物でも狩るかのような視線、体育祭の騎馬戦決めとは違った視線…

 

「雄英だけじゃない、士傑もいる…嫌だなぁ…」

「けどこんだけの数なら士傑も何とかなるっしょ!」

「バーカ、そんで返り討ちにあったらどーすんだよ。油断はするなって言われてんじゃん忘れたか?」

 

 駄弁りながら個性を発動し追い詰めて行く傑物学園に登坂高校の生徒たちは、思ったよりも厄介だ。

 サシなら何とも無いのだろうが、数が多いと暴力と化すように、流石にこの状況は余り宜しく無い。

 

「これじゃあ…迂闊に近付けないし当てることも出来ないぞ…!」

 

 緑谷出久のターゲットは一回、ケミィに当てられてる。残り二つとはいえ、油断は禁物。

 どれも不明な個性が次々と緑谷単体に襲いかかる為、様子見とはいえ体を駆使して避けるのに精一杯だ。

 何より緑谷はまだ誰一人たりとも生徒にボールを当てていない。これはこれで心の中に焦りが生じるものだ。

 

(何よりもあの士傑の女性…ちょっと目を離した隙に直ぐ何処かに消えちゃう!!いや、隠れてるのか?隠密系の個性…なのかな?あの人も隙あらば狙ってくるはず…)

 

「緑谷くん!!」

 

 

 混乱真っ只中のこの状況。

 騒音鳴り響く現状、聞き慣れた女性の声が耳に届く。

 

 アレは……?

 

「大丈夫!?こっち!」

 

 声の主は、ヘルメットを被った茶髪の丸顔少女、麗日お茶子だ。

 少し遠いが、こんな状況の中で彼女の声がハッキリと、確かに聞こえた。

 彼女は「早く!」と急かすように手を差し伸べる。

 

 

(何だ?何か策があるのか――?)

 

 

 ふと疑問に思う緑谷は、浮かない顔でお茶子を眺めるも

 

 

「早くじゃねーよボケェ!!!」

 

 

 登坂高校のうち一人、キューブロック状の体つきをした大柄な生徒と、拳がゴリラのような形をした生徒、鋏を持った生徒がお茶子に集中放火するように、個性を巧みに使い、ボールを投げ飛ばす。

 

「うわっ!ちょっ…もう邪魔だし!」

 

 お茶子は鬱陶しそうな表情を立たせ、でもって厄介そうに相手を睨みつける。

 

(?何で麗日さん…個性、使わないんだ??)

 

 可笑しい。

 彼女の個性『無重力』であれば自分を浮かし回避することも出来れば、如何なる予測不能な事態、または不得意とする部類は大抵個性に頼らずとも、肉弾戦を主に使った動作で対処出来るハズだ。

 それなのに、目の前でテンパり焦る彼女の様子は明らかに可笑しい。

 

 

 ガラッ――

 

 

「あっ…」

 

 足場が悪かった為か、土砂が崩れ落ち、お茶子も落下して行く。

 何も出来ず焦り色を浮かべるお茶子は、正しく絶体絶命だ。

 

「よっしゃあやりぃ!!んじゃ俺この女にボール当てて抜けるね!おッ先〜!」

「あぁ!抜け駆けはズリィぞ!」

「早いもん勝ちだからズルも卑怯もこけしもねえよ!」

 

 一人の生徒は手をミサイルのように発射させ、ボールを握りしめたまま成す術なく落下して行くお茶子を狙って行く。

 

「ッ――!」

 

 緑谷の足は、自然と無意識に力が入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処行った?!あの女!」

「すばしっこいヤツだったな…追え!まだ近くにいるハズだ!」

「挑発しておいて逃げるのか…舐められたものだな」

 

 憤慨に満ち溢れた忍学生の何名かは、愚痴を零しながら足早と迷路になってる市街地を走り回り、ある人物を執拗深く探し回っていた。

 突然他校の生徒が目の前に現れ、ボールで相手を脱落させようとした矢先に『多対一でしか相手に勝つことも合格することも出来ないんですか?ハッキリ言って見苦しい余り興が冷めました…』と、相手に自ら背中を見せたのだ。

 まだ煽り文句の一つや二つは許容しよう。

 気配から察して相手は忍だ。煽り、騙し、奪い、破壊する所業を得意とする身…しかし、相手は自ら背中を見せたのだ。

 油断大敵の戦場に身を放り出されながらも、態々背中を見せる…あってはならないことなのだ。

 そんな彼ら彼女らも相手に舐められさぞ御機嫌斜めだろう、プライドの導火線に火が点いた忍学生達は、彼女を探し回っていた。

 

「おい!こっちにはいたか!?」

「いんや…いねぇ…あんにゃろ〜どこ行った?隠密系の個性か?」

「一人相手にそんなにムキにならなくても…」

 

 違う男女の声が耳に届く。

 何事かと思えば男女の三人組がボールを強く握りしめながら、誰かを探してる様子が伺えた。

 誰を探してるのやら…なんて考えながら折角だしアイツらを脱落してやろうかと考えが過った矢先に

 

「おい!あのアホ毛何処行ったブッ殺してブチのめして爆殺のミンチにしてやんよぉ!!」

「だぁ〜爆豪落ち着け!あの子の軽はずみな言動も、嫌味言われたこと許せねえのは解るけどよ…そ〜ムキになんなって!これ潰し合いじゃねえんだぞ?」

「合格するに脱落者出すなら潰し合いと変わらねえよ!!他のモブ供も皆んなやってるわクソ髪!」

「てか…さっきから他の人達こっち見てね?」

 

 慌ただしい三人組が、喧騒満ち溢れた雰囲気をダダ漏れにしながら駄弁っている。

 特にあのイガグリ頭のような、厳つい顔立ちをした生徒は見覚えがある。確か…体育祭で優勝し一目瞭然として注目を浴び集めた生徒。そんでもって敵連合の襲撃を受け拉致された張本人…爆豪勝己。

 他は何処かで見覚えがある顔ぶれだが、特に覚えていない。

 

「てかよ…浪川……なんか人多くね?」

 

 ここで春雨忍高校の生徒、浪川は言葉を発する。そんな彼の発言に不審に思うリーダーは表情を曇らせながら口を開く。

 

「そりゃあアンタ、2100人もいる仮免試験会場なんだから、多くて当然でしょ?未だに脱落者のアナウンスも流れてないんだし」

 

「いや、そうなんだけどよ…さっきまでここ…俺たちしかいなかったよな?」

 

 言い返す言葉にハッと我に返ったリーダーの浪川は、辺りを見渡す。

 人が多いのは当然だが、なんやかんやで人が増えて行ってる気がする。

 まるで一つの大集落に人が集められたかのように、餌を求めた獣達が鉢合わせになるような流れに、何かしら寒気を感じる。

 

「なぁ…アイツら全員…誰かを探してるよな…?」

「ウチらは、忍学生を探してるけど…」

「もしかしてアイツらも俺たちと同じように誰かを探してる内に集められたんじゃ?」

 

 もしその線による可能性が濃厚であれば、〝偶々〟〝偶然〟なんて言葉が来るハズが無い。

 意図的に集められたのではないか?

 しかし一体誰がそんなことを?

 いや、解りきったことを…其れが可能なのは…自分たちを引っ掻き回してる人物一人しか考えられない。

 

「でも…なんだってそんな為に?」

 

 わざと身の周りに敵を増やすのはある意味愚策だ。

 今試験では尚のこと、一対一による能力同士をぶつけ合せた戦いではない。ターゲットが三つ発光すれば即脱落となるこの試験、慎重に且つ、有利な状況で相手を堕とすのが有益にして安全な方法だ。

 

 

 

「ふう、そろそろ頃合いでしょうか」

 

 

 

 

 血の通わない冷徹な声が、受験者達を見下ろす。

 とある建物の屋上は、見晴らしが良く効率的に相手を観察することが出来るので、ある意味自分にとっては有意義なスポットだ。

 かの有名な暗殺者やスナイパーと言った人間なら、迷わずここを選ぶだろうと断言出来るほどに、ここは射撃範囲内に届くし何の文句も言い分もない。

 火縄銃を連想させる大型の重火器を背中から下ろし、肩に担ぐ。

 

 秘立蛇女子学園選抜補欠メンバー・千歳。

 野良猫のような目付きに、茶色掛かったアホ毛がチャームポイントの彼女は、その何処か可愛らしい要素を脱ぎ捨てるかのように、物陰に潜む獣の如く、獲物を仕留める殺意の瞳を何百人もの受験者に向ける。

 殺意や気配に敏感な忍学生達も、彼女の存在には気付いてないらしく、或る者は未だに彼女を探し迷い。

 或る者はどうせならと、ボールを持ってターゲット目掛けて投げかかる者もいる。

 

(見晴らし良し…風向き良し…標準を定めて……)

 

 後は念を込めるだけ。

 禍々しい負のオーラは視認可能な程に濃厚に漂わせ、黒紫の毒々しい

 色は見た者に恐怖を与えるだろう。

 

 

「私利私欲に溺れ、安い挑発に乗る…

 こんなヤツらがもし戦争に出れば間違いなく死にますね。少なくともヒーローと名乗るバカ供なら尚のこと…偽善者は目障りです」

 

 ヒーロー

 その名を聞くだけで心が苛立ちと怨念の感情に呑み込まれる。

 焔や雅緋と同じ悪忍の立場だとか、単に気に入らないとか、そういう話ではない。

 そんな簡単に易々と理解されても困る、私情が彼女の血みどろな過去に切り刻まれている。

 

 

「いや、もう良い。

 ヒーローとか警察とか、正義だとかそんな綺麗事目障りだ……全部、何もかも滅べば良いんです」

 

 キュッと唇を噛み締める彼女はギラつく瞳を殺意により輝かせ、銃の引き金に指が触れる。

 

 

「未来も過去も――消しとばしてやりますよ」

 

 

 そして殺意と悪意による過大たる負の感情はより高みへ登り上げ、引き金を引いた。

 爆発的な音が屋上に鳴り響き、手を怯ませる事なく幾多もの発砲を繰り出す。乱射だ。

 

 体制が崩れそうになるも、標的を見逃さず、時には建物に当て崩れさせ、立場を悪くし怯んだ獲物を狙い撃ち。

 彼女が()()()に身に付けた暗殺の技術だ。

 

「な、なんだ?!」

 

 突然発砲が鳴り響いた屋上に、利用された受験者達は視線を千歳に移す。

 唐突に起き始めた理解し難い状況に身を置かれてる者達は、対応出来ず銃弾の波に呑まれるかのように、打ちのめされる。

 

 

徹甲弾(APショット)!!」

 

 

 乱れる銃弾の嵐の中、此方も負けずと爆発音が轟き、銃弾を爆破で相殺する。

 銃弾と言っても、皆が想像するような拳銃で撃ち放たれる金属製の銃の弾ではなく、あくまで忍術による気力の弾。

 なので一撃で致命傷を負う威力は無いものの、それでも相手を行動不能に落とすには相応しい威力でもある。

 爆豪はああ見えて不器用で常に鬼の形相の面を被ったような荒くれ者に見えるが、繊細で意外な一面も備えている。

 ましてや、切島と上鳴が巻き添えを喰らわないようにと、高威力の爆破を連続で叩き込み、三人組誰一人たりとも傷付くことがなかったのだから。

 

「おいおいオィぃ…安い喧嘩吹っかけたアホ毛野郎追ってみりゃあなんじゃこりゃあ?あァ?

 

 随分と手荒な挨拶じゃねえかよオイ!!」

 

 BOOOM!と両掌を爆破させ怒鳴り声を張り上げる爆豪は、吊り目90度に達しそうな目付きで屋上の千歳を睨む。

 銃弾の嵐が止み、爆破の手を止めてみれば全員倒れたままピクリたりとも動かない。

 やれ気絶した者もいれば、やれ苦痛に表情を歪ませる者、負傷者などが相次いでいた。

 

 

「……意外。

 アレを前に無傷でいたなんて…どうやら、体育祭での噂は間違いないようですね」

 

 

 千歳――『邪弾忍法』

 己の内に沸く怨念を銃弾に変えることが出来る忍法。

 凡ゆる拳銃に対応する事が可能で、相手を翻弄することに長けた対人戦闘系の忍術。

 

「おいテメェ!!上から見下ろしてスカしてんじゃねえぞアホ毛が!早く降りて戦えやクソがぁ!!」

 

「弱い犬ほどよく吠える…と言いますが、なるほど。あの方の個性を考えて、強さは本物。直に見て確信しました。

 

 しかし、残念ながら其れはないかと――」

 

 ふぅ…と大きく溜息を吐く彼女はソッと静かに、瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

「ん〜皆んな上手くやってますねぇ……しかし未だに脱落者ゼロとは…まぁボッチボチじゃ無いんですかぁ〜?」

 

 欠伸をする目良は、相も変わらず眠たそうにパソコンのモニターを眺めている。

 これは今試験に挑んでる受験者の数とプロフィールを表したもの。

 受験番号に分けられ、ターゲットを当てた数、当てられた数が自動的に増えたりしていく仕組みになっており、審査員が目を光らせて監視をしている。

 端から見れば単に楽そうな仕事に見えるかもしれないが、これも意外と面倒くさく、偶に「お前も落ちろや」と言わんばかりに脱落者がボールをターゲットに投げつけたこともあり、審査員は不正な行為を見張らなければならないのである。

 なんて怠い気力でモニターと睨めっこをしていると、ピピっと脱落者が出たセンサーの音が鳴った。

 

「おっ、早速脱落者…んでもって通過一人目ですね…って、うおぉぉ!?!」

 

 モニターに映し出されてる驚異的な数字を目にした目良は思わず叫び出す。

 目をパチクリしながら数秒黙り込む目良は

 

 

『コホン!え〜っ、気を取り乱して失礼しました!!脱落者85名!一人で85名の数を脱落させました!通過です!!』

 

 

 マイク越しで報告をする。

 会場中に広がるレスポンスの放送に、大勢の者が耳を疑っただろう。

 初めての通過者はまさかの秘立蛇女子学園選抜補欠メンバーに居座る千歳。

 彼女はたった一人で85名もの受験者を振い落し、見事一次試験を通過してみせた、稀代の忍学生である。

 

『え〜先ほどの驚愕的な数字に思わずビックリしちゃいまして少し目が覚めましたかな、さァドンドンやってって下さいよ〜!

 それにしてもどーやって85名も出たんだろ?ボールって三つじゃなかったっけ…まぁ良いでしょう!』

 

 方法は複数存在するが、一番はストックの大きい収容範囲の有る大型火縄銃に、皆が投げてミスしたボールを集め、邪弾に紛れさせ発砲し脱落させたのが良い説だろう。

 ボールを拾い相手に投げるのは反則では無い上に、これも一つの戦術でもあるため、脱落者の数が多くとも咎められることはない。

 

「あの野郎…ハナっからそのために俺ら集めて弄ばせてたのか」

 

「弄ぶなんて人聞きが悪いですね。仮にそうであったとしてもまんまと掌の上で転がされる貴方達に非があるかと…勝負に卑怯も非常も有りませんよ」

 

 冷静で常に声色を変えることのない彼女は、見下すように爆豪の三人に告げる。

 

「てかよ…何もここまでする必要なくね?」

 

 死骸…とまではいかないが、気絶し横倒れてる受験者達を直に、切島は情で訴えるかのように言葉を発し、茫然とする。

 

 

 

「は?何を仰るかと思えば…爆豪さんみたいに貴方達も力で対抗すれば良いだけの話でしょう?こんな試験に生き残れないクズ供が脱落者になるのなら、最初っからこの場にいないようなものと同じですよ」

 

 

 

 血も涙も無い冷酷な彼女は、バッサリと切り捨てるように言葉を吐き捨てた。

 

「おい…幾ら何でもその言葉はねえだろ……」

 

 情のない千歳の言葉に、上鳴が反応する。

 元々峰田と絡む機会の多い彼は、並の人間と比べて女性が好きなうえに、初登場の時では女子を誘うナンパ派にも見えた。

 しかし相手が女性だからと言って黙っていると言う話でもない。

 確かにコレは端から見れば学校同士の潰し合い、学炎祭のような派手な炎上行動でもない、勝負という名の下で互いが競い合う試験だ。勝負にズルも卑怯もないのは百も承知。

 

 だが

 

 

「オレ…君みたいな子とかさ、異性に対して過激になったりするのあんま好きじゃねーんだわ…

 趣味じゃないっつうか、普段通りのオレじゃないつっつうか…

 

 

 あのさ、態々相手を痛めつけて通過する意味があったか?」

 

 

 倒れてる人間をゴミのように見下し。

 試験に適応出来なかった者を罵倒。

 まるで他者を蹴落とすかのような。

 

 これが彼女なりの策なのは良い。

 相手に打ち負かされて怪我を負うのも仕方ないだろう。

 だが…わざわざ、ここまでする必要が果たしてあったのだろうか?

 

「なぁ、せめてクズって言葉だけは撤回してくれねぇかな?」

 

 静かに怒りを燃やす上鳴は今までに見たことがない。

 爆豪も珍しく口を挟まず平然と二人のやり取りを見届けてる。

 隣の切島も、また同じだ。

 

 

「暑苦しいですね…撤回する気などありませ――『オイ通過者ハ早ク控室ヘ移動シロ、コノ場ニ居続ケルトマドロッコシイ』……失礼、お喋りはまた何処かで」

 

「あっ、ちょっ――!!」

 

 千歳に張り付いてたターゲットが三つ光始め、センサーが二人の会話を遮った。

 千歳は「まぁいいでしょう」と納得しながら足早と屋上から地上に飛び降り、速やかに控え室へ向かっていく。

 

「あぁ〜もう!!なんなんだよアイツ!?ここまで毒舌で感じ悪い女っていたか!?」

 

「ナンパで何回も見てきたんじゃねえのかアホ面」

 

「ちょっ、爆豪もうちょいオブラートに包んで!?今オレちぃと気ぃ荒れてんのよ!」

 

「知るか顔面へのもの字」

 

「更に悪化してない?」

 

『おおっとぉ!?況しても通過者一名!脱落者は140名!先ほどの一名の記録を通り越したぁぁ!!これどーなってんの?通過者200人で足りるかコレ?』

 

 爆豪と上鳴がいつも通りの様子で駄弁る中、又してもレスポンスに三人の顔色は一瞬で変わる。

 自分達もいつまでもウジウジしていられない。早く他の受験者を見つけて通過しなければならない。

 

 

「いつまでも駄弁ってたってしゃーねえ。行くぞクソ髪、アホ面」

 

「そんなパーティーのあだ名みたいなノリで呼ばれても!!」

 

「つーか…この場にオレら以外誰もいないんじゃね?早く他行って探そうぜ!」

 

 三人組も、ここまで来ると仲が良いのは、今になった話ではない――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落下したお茶子の元に駆けつけた緑谷は、唐突に気恥ずかしが…お姫様抱っこをする形で彼女を救助することに成功した。

 彼女を助けたついでとして脚を中心に使い、シュートスタイルを駆使して土砂を破壊することで相手の視界を奪い、注意を分散させることに成功した。

 今は二人で岩の物陰に潜み隠れている。

 

「ご、ごめんね緑谷くん…下手こいて動けへんかった…」

 

「んっ、別に……」

 

 たはは…と苦笑を作るお茶子に緑谷は警戒してる為か、外の景色を眺め相手の様子を伺っている。

 土埃が消え、視界が元に戻った相手の生徒たちは、徹底的に自分達を執拗よく探し出している。

 

「この場所当てられるのも時間の問題かな……バレたらどうする?相手の個性…見た限りだと危なさそうなのが三、四人いたな…いや待てよ…その時はアイアンソールの活用を上手く生かして…ってそれより……」

 

 緑谷の独自分析が働く中、お茶子は表情を変えず――ボールを握り音も気配も立てずターゲットに当てようと近づける。

 もうあと少しで、次のターゲットが――

 

 

 ビシッ――!

 

 

 当たらなかった。

 

「ひょっとして、士傑の人ですよね?」

 

 据え切った緑谷の瞳は真っ直ぐで、いつになく険しい顔つきだった。

 

「は、え?」

 

 面食らった顔を浮かばせるお茶子は「何言ってるの?」と口を開くも緑谷は口を閉じず語り出す。

 

「麗日さんは〝個性〟の訓練をしてごく短い時間なら副作用を気にせず自身へ使えるようになっている。

 危ない目にあっても発動する素振りは見せず、肉体的な面も強いのにただテンパってただけ。

 無策のまま敵前に姿を現わす人じゃないし、何よりも――」

 

 

 

『デクって、なんか頑張れって感じで…好きだな私!』

 

 

「麗日さんは僕を緑谷くんとは呼ばない」

 

 数々の事実が突きつけられるような感覚に、相手は頬を綻ぶ。まるで「バレちゃったか…」と悪戯っぽい笑みを浮かべるその笑顔は、とても安心できるようなものじゃない。胸騒ぎがする、殺気に近い感情が、自分に向けられてる気がした。

 

「僕の知ってる麗日さんじゃない…

 そ、それに……士傑の人は目を離したら直ぐに消えちゃうから…あのスピードと君の動きの良さから考えて…貴方なんじゃないかなって……その、個性までは分かりませんけど…考えられるとすれば…

 

 他者の姿に〝変身〟してなりすます個性?とか――」

 

 ドロォ…

 静かにお茶子の体はヘドロのように蕩けていく。ドロドロと気味の悪い音が、毛肌を逆立ちさせるような錯覚に見舞われる。

 

「じゃあ、私のことを利用しようとしたのかな?」

 

「す、すいませんそこまでは流石に頭回ってませんでした…ただその…麗日さんじゃないなら個性で浮かばせること、出来ないから…もし落下したりでもしたら……あのまま落っこちて確実に背中を打って痛めてた…最悪事故に繋がりかねないし…怪我でもしたら大変……

 

 何よりも、考えるより体が先に動いてました――」

 

「成る程、それが君の答えなんだね――君のこと、もっと知りたいなぁ…教えてほしいなぁ……」

 

 

 ズルリ!

 もうお茶子の姿はどこにも無い、先ほどの士傑高校の女子生徒、現見ケミィの姿へと元に戻った。

 

 

(試験の後じゃ……ダメなのか!?)

 

 

 

 どうやら、前途多難はまだまだ先へと続くようだ。

 

 





紹介プロフィール



本名・???
所属・焔紅蓮隊
好きなもの・和食、肉
スリーサイズ B87/W57/H85
誕生日・1月3日
身長・163㎝
血液型・B型
出身地・不明
戦闘スタイル・近接戦闘、前方指揮官

ステータス ランクA

パワーA
スピードA
テクニックA
知力D
協調生C

秘伝動物 アオダイショウ

爆豪「背中に七本の刀を担ぎ、内六本を巧みに六刀流を得意とする戦法スタイルの持ち主だ。
忍術は『火焔忍法』っつー如何にも舐めプ野郎の左半分をそのまんま映し出したような暑苦しい野郎だ。ガングロなのも自分の忍術の影響で肌が焼けたらしいな。ったく、冬とかどーしてんだコイツ…

昔は血の通わない敵野郎みてえなクソツラ下げてたが、再開した時は…まぁ、良かったんじゃねーの?
何でも昔は名が高い善忍の家柄だったらしく、入学希望の進路は半蔵学院だったらしいな。
前科があって入学資格は奪われたそうだけどな…俺にとっちゃあどうでも良い話だ。
だってそうだろ?アイツだって好き勝手に同情されて心配かけられてもウゼってえだけだろ。過去のことウジウジ引き続けてたって結果が変わるわけでもねえ…何より其れはアイツが一番よく知ってんじゃね?

後はそうだな…コイツの七本目の刀…炎月花だっけか?昔のアイツじゃ抜けなかったらしいが、今は抜けるんだとよ。
もし戦り合う時になったらぜってえに使わせたる。体育祭の時みてえな生半端な結果は要らねえからな」

焔「随分と自信過剰なんだなお前?私と戦り合ってもお前じゃ100%私には勝てんな。逆に私が100%で返り討ちにしてやるよ」

爆豪「ハッ、テメェの一言そのものが弱えんだよガングロがァ…100%返り討ちって時点で俺とテメェの勝負の行く先はハナっから見えてんだよ。120%で返り討ちにして消し炭にしてやんよ」

焔「じゃあ私は更に上からねじ伏せて返り討ちにしてやるよ。其れに何なら単に戦り合うだけじゃなく、どんな勝負でもお前に勝ってやるよ。
お前の好きな激辛耐久競争だったり、お前らが得意とする訓練とか…ああ、何なら腕相撲でも受けて立ってやろう」

爆豪「言ったな?じゃあ負けたら買ったヤツの命令を受けろよ?絶対条件な?」

焔「ほう?お前にしちゃあ良い考えじゃないか。
もし私が勝ったら特大デカ盛りステーキ肉を奢ってからの『焔先輩生意気な口叩いてすいませんでした、これからは焔先輩と呼ばさせてくれませんか?」と額を地面につけてお願いしろ。それから常日頃山に捨ててあるゴミ置場を一人で全部綺麗にし、私たちのバイトの手伝いを無給でやれ、最後に『焔紅蓮隊バンザーイ!』と一人でバカみたいに応援団で声を死ぬまで張り上げろ」

爆豪「ハッ、最初の飯奢るで既にご褒美にしか聞こえなかったわ、他とか余裕すぎて欠伸が出ちまう低レベルだなぁオイ?
んじゃ俺が勝ったら「爆豪勝己様、私の完敗です、生意気な口を叩いたり勝てるとかあり得ない妄言を吐いて失礼しました」って土下座しろ。からのその日から死んでも毎日「爆豪勝己様」って呼べ。
後は逆立ちしながらデスソース10本ガバ飲みしてワンって三回鳴いた後裸で校内5000周走り続けて俺の靴舐めて綺麗にしろ」

焔「いや待て、注文多すぎだろ!!しかもデスソースって意味わかって言ってるのか!?軽い話死ねって言ってるようなもんだぞ!?」

爆豪「バカが、負けなきゃ良いだけの話だろうが。お前ら忍で言う命懸けがあんだろ。まさかその言葉、嘘とか言わねえよな?」

焔「寝言は寝て言え、上等だよイガグリ」

爆豪「やってみろや」

焔「ブッ殺す」

爆豪「上等」

常闇「喧嘩するほど仲が良いか…」

焔「違う!!」
爆豪「つーかクソ鳥は後だろうがぁ!出てくんな!!」


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