光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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目良と同じく眠たげMAXの作者、せめて夜更かしくらいはさせて。

それとタイトル名、変えました!!




125話「仮免試験」

 

 

 

「ついだぞ、降りろ」

 

 相澤先生の気怠い声が、静止したバス内に響き渡る。担任の掛け声に雄英生と忍学生は荷物を持ち、次々と速やかにバスから降りて行く。

 

 此処は試験会場――国立多古場競技場

 

 外見から見ると天に突き刺すような螺旋状の形はまるでドリルみたいで、白くて大きい建物が悠々と高く聳え立っている。アレが試験会場なのだろう。

 見た限りかなり広く、ペースが大きい分個性による範囲も範疇において考えたのだろう。

 

「予想してたよりもデケェ…」

「もう野球出来るじゃんコレ、プロ野球の試合会場かよ」

「なんか緊張して来たぁ…」

「人人人人人……」

 

 試験会場を前にザワつき雑談が漏れるA組達は、酷く緊張してるご様子。

 冷や汗浮かぶ上鳴や耳郎、会場のデカさに呆然とする切島、緊張を解す為に掌に人の字を書き舐める峰田。

 そんな生徒達の囂然たる空気など御構い無しに、相澤は気怠い眼つきから一変、真剣な眼差しに変わる。

 

「良いかお前ら、この試験に合格し仮免許を取得すりゃあ、お前ら志望者(タマゴ)は晴れてヒヨッ子…セミプロへと孵化できる。

 忍学生も気を緩むなよ。お前達半蔵学院以外にも、忍学校の生徒たちが此処に来るんだ。

 足をすくわれましたじゃ済まねえからな」

 

『はい!』

 

 仮免許を取得さえすれば、護衛の術を手に入れる事が出来るのは勿論、偉大たる立派なプロヒーローへの第一歩を踏み込む事が出来る。

 本来なら忍学生とヒーロー学生は別々に試験が行われ、仮免許は二年生から受け始めるのが基本なのだが、あの神ノ区を踏まえ一年生達も取得する必要があると上層部が見込み判断し、一年生も受け始めるようになったのだ。

 忍学生もまた然り。ヒーロー学生と忍学生を一緒に試験へ臨ませた理由は、今後から忍とヒーローが本格的に手を取り合う場面が多くなり、明るい社会を築き上げると供に、平和の象徴という圧倒的戦力の穴を埋める為だそうだ。

 

「先生からの説明と報告は以上、後は己の経験を全部試験にぶつけろ、頑張ってこい」

 

 無気力な先生も、いざ生徒達に面を向かってそう言ってくれると頼もしい。

 心に縛り付く緊張感が少し和らぎ、気が楽になったようだ。

 

「しゃああ!!頑張ろうぜ!そんでなってやろうぜヒヨッ子によぉ!!

 ッつーわけでここはいつもの一発キメてこうぜ!!」

 

 切島の熱血漢たるや、漢気のある活気な声が皆の心に響く。

 自慢げに、高らかに腕を振り上げ

 

 

「せーのっ!Puls――「Puls Ultra!!」」

 

 

 発声した途端、後方から別の声が切島の言葉を遮る。

 切島に負けず劣らず張り上げた声の主は、丸坊主頭をしたガキ大将に見える。

 

「えっ?え??」

「だれ?この人…」

 

 切島と雲雀は困惑しながら、声主に目を細める。

 

「勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないぞ、『イナサ』」

 

「ああしまった!俺としたことがつい……熱く血が滾って思わず邪魔しちゃったっス!!」

 

 熱血そのものを文字で書き映し出したような丸坊主頭の少年は夜嵐イナサ。

 そんな騒然とした彼に轟は何処か心に引っ掛かったのか、「アイツは…」と他人に興味を示すような視線を飛ばす。

 

 

「皆様の邪魔して大変――申し訳有りませんでした!!!」

 

 

 そんな一同の視線など意に介さず、イナサは額を思いっきし――

 ガァン!

 コンクリートの地面にぶつける。

 

「ええぇぇぇーーーー!?!」

 

 本人からしては、単なる謝罪なのだろう。

 礼儀正しい姿勢の状態で、頭を下げてる辺り、根は真面目のようだ。

 しかしオーバーリアクションを目の前で披露すれば誰でも悲鳴が上がるのは無理は無い。

 

「何だこのテンションだけで乗り切る感じの…なかこう、熱いヤツは!切島より熱いんじゃね?!」

「熱すぎて近づくだけで火傷しちまいそうだ!」

「と言うより、思いっきり頭打ったよね…大丈夫かな?」

「飯田+切島みてーなヤツだな」

「てかあの制服…って」

 

 わいのわいのとイナサのぶっ飛んだ謝罪対応に、一部は騒がしくなるも、本人は頭を上げない。

 

「誰だアイツら?」

「あの制服からすっと決まってんだろ…

 東の英雄、西の士傑――」

 

 

 数あるヒーロー科の中でも雄英に匹敵する程の難関校――士傑高校。

 毎日授業を受けるカリキュラムは、雄英に負けず劣らず厳しく、並みの実力では到底ヒーローを目指すのは愚か、付いていく事でさえ敵わないと言われてる。

 実際に雄英高校を諦め、士傑高校を入学希望とした生徒も、少なくは存在する。

 雄英と士傑が比喩されてるのは、雄英高校の卒業生が学生時に幾多もの逸話を残してるからであり(オールマイトが良い例え)、士傑高校も雄英と対して変わらないのである。

 ただ、目指すのなら最高難関と仰る者もいれば、士傑が良いと数ある理由を機に入学する者もいる。

 

「一度言ってみたかったんスよプルスウルトラ!!自分雄英高校大好きで憧れを抱いてます!!

 それに雄英の皆さんや忍学生なんて言うジャパニーズニンジャと競い合えるなんて光栄の極みっス!

 って言っても俺忍なんて全くの無知なんで此処にやって来る忍学生の皆さん沢山知って行きたいと思っています!!!

 お互い頑張りましょう!宜しくお願いします!!」

 

 太くデカイ声を吐き出しながらも、額からはボタボタと血を流してる辺り狂気じみてるが、真正面からぶつけて来る台詞や、彼の熱血魂から考えて悪い生徒では無いのだろう。

 

「てかイナサが英語喋ってるし」

「?士傑高校に入学してるのだから当然だろうケミィ」

「いや想像出来ないでしょ?」

「お前そんな喋り方だったか本当に?」

 

 細目の男性と、ケミィと呼ばれる少し金色掛かった長髪の女性が駄弁りながら、イナサの横を通り過ぎていく。

 そんな二人に「嗚呼待って下さい!俺もいくっス!」と二人の横に並び立つように歩み寄る。

 

「夜嵐イナサか…こりゃあ珍しいな」

 

 意外なことに、相澤先生が珍しい物でも見るかのような目付きでイナサと呼ばれる少年の背中を見つめる。

 

「先生知り合いっスか?」

「あんなゴリラと先生が知り合いってのも想像しにくいだろ」

「爆豪出会って間もない他校の生徒にストレートに意見ぶっ放すの失礼過ぎじゃね?」

 

 上鳴の言葉は尤もだ。

 しかし反応や素振り、外見を見た限りイナサと相澤先生の接点が見えない辺り、何故相澤先生が彼のことを知ってるのか想像がつかない。当の本人は相澤先生を見るも全く興味を示さない無反応だったが。

 

「気を付けろお前ら、よりによって厄介なヤツが同じ会場に当たっちまった」

 

「士傑高校自体、雄英に負けず劣らずのエリート校だから…ってだけじゃないんですか?」

 

 飛鳥の質問に、相澤は視線を変えずコクリと頷く。

 

 

「まあな。

 知ってるもなにもアイツは昨年度――お前らの年の推薦入試、トップの成績で合格したにも拘らず何故か入学を辞退した男だからな――」

 

 

 相澤先生の切り捨てた言葉に、一同は耳を疑う。

 先ほど彼の台詞から聞くと「雄英高校が好き」という言葉に嘘を吐いてるようには見えなかった。

 単に見えなかっただけかもしれないが、それにしては嘘をつく理由も見当たらない。

 トップの実力…となれば即ち、実力は轟焦凍以上だろう。

 にも拘らず、雄英高校の入学を蹶る理由は何なのだろうか?

 だからこそ、最高難関である雄英の入学を蹴ること自体が信じられない。

 

「まあ不安がる気持ちも解らなくは無い…ただ先生からのアドバイスとすれば…アイツには気をつけるって事だ」

 

 どの道、同じ試験会場に当たるとすればぶつかり合いは免れない。

 予め警戒しておいて越した事はないだろう、士傑高校相手なら尚更だ。

 雄英のライバルと呼んでも過言ではない学校、充分に注意しなければならないだろう。

 

 

 

 

「ふっ…雄英に士傑か。

 双方名高きエリート学校…相手にとって不足無し、中々に素晴らしいじゃないか」

 

 イナサの熱血漢と雄英入学辞退に驚き呆然としてる真中。

 凛とした清楚な声が、皆の耳を打つかのように届く。

 

「ん?誰だお前ら?」

 

 先生の発する言葉と供に、全員声主の方向へ視線を移す。

 

「誰だアレ?」

「五人組…だけだね?」

「あ〜でも他の大半の生徒達もいるな」

 

 芦戸、瀬呂は眉をひそめながら相手の学生をマジマジと興味深く見つめる。

 黒いセーラー服を着た女子高生など、道端でヤンキー座りしてる不良女しか知らない。

 しかし、見覚えは有る。

 少なくとも覚えてないだけで飛鳥達はおろか、緑谷達全員はこの女子高生の学生服を見た事がある。

 

「ッつーか、その服どっかで見た覚えがあるかと思ったがよぉ……」

「おい飛鳥、アレって…」

「あの制服って…」

 

 眉間に皺を寄せ付け、不良感ダダ漏れの爆豪は忌々しい視線をガン飛ばし、相手の学生服に見覚えのある轟は確認するよう飛鳥に声をかけ、緑谷は思い出したかのように嫌な脂汗が流れ滴り落ちる。

 

 

「申し遅れた、私たちと会うのは初めてだな?光栄に思え――

 

 私は『総司』、秘立蛇女子学園選抜補欠メンバーの筆頭だ!」

 

 ルビーのような輝かな瞳、腰まで長く垂れ落ちた金髪、優雅な一面にどこかキザな口調は青山優雅にも負けないだろう。

 秘立蛇女子学園選抜補欠メンバー筆頭代理、総司。

 

「へ、へへへ、蛇女!?!」

「うっそでしょ…マジ?!」

「あ、ああえっと……どーも??」

 

 蛇女と名乗り出る総司達にてんぱり混乱する上鳴達は、冷や汗を滝のように流れ落とす。

 同じく耳郎は苦虫を噛み潰したかのような、苦の表情を露わにし、透明で素顔が見えない葉隠は、何故か敬語且つ疑問形で見えない姿のままペコペコと頭を何度も下げる。

 

 

 蛇女子学園。

 嘗て半蔵学院に奇襲を仕掛け、超秘伝忍法書争奪戦として双校断ち切る事のない因縁が生まれ、戦争にまで陥った、悪忍育成機関養成学校である。

 当初は道元の企みにより蛇女全体の生徒たちの命が危機に陥り、更には緑谷、轟、爆豪の三人以外は知らないが、学炎祭にて新蛇女子学園の選抜メンバーに目を付けられ、学炎祭を仕掛けられたのだ。

 その日は前夜祭だったのだが、雅緋率いる一同のメンバーは強く歯が立たなかったのは、骨が身に染みるほど覚えている。

 積もる話、半蔵学院や雄英高校にとって、蛇女子学園との出会いはどれも良いものでは無いのだ。

 

「…天下の雄英高校の生徒と聞いて見れば…私達悪忍の前に取り乱れる姿勢を見る辺り……こんなのがヒーロー学生だなんて、呆れを通り越して笑えませんね」

 

「あァ?なんだテメェこらァ」

 

 総司の隣に立つ少女の冷徹な言葉に、反応した爆豪は顔をしかめて獣の如く食らうかのように睨み付ける。

 茶髪に二本のアホ毛がチャームポイント、野生の野良猫を連想させる目付きが特徴だ。

 少女はそんな粗暴極まり無い爆豪に臆する事なく

 

「そもそも、敵連合の襲撃に万全たる対策と生徒の安全たる保証が取れてない時点で、貴方達がヒーローを名乗るなど烏滸がましいと思うのですが……

 

 貴方はどう思います?ヘドロ事件に続き、敵連合に拉致された爆豪勝己さん」

 

 平坦に、堂々と煽りの宣告する。

 その台詞は、尤も本人の目の前で言ってはならない言葉。

 器が小さいゆえに、プライドも高くクラスで一、二位を争う存在。

 少し侮辱的な意味が含まれてる言葉を耳にするだけで文字通り掌から爆破を起こす爆豪勝己にその言葉は、冗談抜きでマズイ――

 緑谷、お茶子、瀬呂辺りは顔面蒼白で爆豪の背中を見やる。

 

 

「テメェ――いま何つった?あ゛ぁ゛??デクやゴリラ諸共(士傑の野郎供)の前に、お前から爆殺してやろうかぁ!?!」

 

 

 ボォォン!と凄まじい爆破を目の前で披露するも、少女の表情は変わらず、まるで「お前は眼中にない」などの興味を示さない目線で真正面を見つめている。

 そんな爆豪を相手に臆さないどころか、平然とボーっとしてること自体が驚嘆すべき光景なのだが。

 

「や、やめて下さいよ『千歳』さん!!そう言うのは無しです!

 た、他校の悪口を言うのは……良くないです…よ?」

 

 いても経ってもいられなかったのか、か弱く優しい声が横入りするように皆の耳に届いた。

 オドオドとした態度、優しさで全てを包み隠すかのような口調に、爆豪は兎も角千歳と名乗る少女は鋭い眼光を放つように横目で相手を見やる。

 

「悪口では無く事実を言ったまでですよ『芭蕉』さん。

 其れに他校の事など貴女にとってはどうでも良い事でしょう?」

 

「そ、そんなことは――」

 

 彼女の名前は芭蕉。

 同じく蛇女選抜補欠メンバーの一員であり、皆を影から支えるチームのムードメーカー的存在。悪忍とは思えない気優しさと心遣いが彼女のより良い長所だ。

 

「一人は感じ悪いヤツだけど、もう片方の一人は結構マトモそうだな」

「選抜補欠ってことは、選抜メンバーじゃないってこと?」

「そもそも俺たちが知ってるのってあの選抜メンバーしか知らないもんな」

 

 緑谷、爆豪、轟は雅緋を始めとした新選抜メンバーの存在を知ってるので、辻褄も合えば大凡の想像は付くだろう。

 しかしそうでない者達からすれば、彼女達が選抜メンバーでない事に納得がいかない。

 

「ん?あり?」

 

「どったの切島??」

 

「いや、あの緑髪の…あの子、なんかどっかで遭ったような気がしなくもないんだけど……」

 

「知り合い?」

 

「いんや…けど、なんだろうな…?初めて逢った気がしないんだよ俺、どっかであったっけ?」

 

 何処かで見覚えのあるようなデジャヴな感覚に、切島は小首を傾げて記憶を巡るも、思い出せない様子。

 芦戸も同じく「あれれ?けど確かに遭ったような気も……同じ中学のクラスなら全員覚えてるけど…」と切島と同じように既視感を覚えながらも首を傾げながら芭蕉を見つめている。

 当の本人は見られてる事に気付いて無い様子で、千歳の失言に爆豪の前で謝っている。

 

「雄英の生徒とは初対面じゃが…全員癖のある個性的な者ばかりなのじゃな。

 我の従信にしても良いぞ!!」

 

 赤髪で可愛げのある美形、しかし口調はどこかじじ臭い、独特なセンスを持つ少女の名は芦屋。

 彼女は自分が正体不明の神の666番目の使徒だと自称する、俗に言う厨二病に近い輩だ。

 

「今ならこの手配した紙にサインをすれば、直ぐに我が宗教たる下僕にしてやらんでもない!!」

 

「下僕なのか」

 

 何気にツッコミを入れる常闇もまた厨二チックな一面が有るも、少なくとも彼女と関わりを持ちたくないと感じるの常闇だけでは無いハズだ。

 

「オイオイおいおい、選抜補欠ってんだから恐らくは一年だろうけどよぉ…前の選抜メンバーに続いて…よりどりみどりじゃねえか!!」

 

 血走り狂った充血の目で、五人組を見つめる峰田の表情は、いつに増しても卑猥で下劣な顔立ちだ。

 もうここまで来ると誰も突っ込まないし、何時ものことかと、皆は汚物を見つめるような蔑んだ目で見下す。

 

「はううぅぅん!!自分、そんな卑猥且つ疑問な視線で体をジロジロ見られたら、興奮して感じちゃいますよぉ〜!!」

 

 峰田の視線に勘付いた少女の名は伊吹。

 元選抜メンバーである春花を慕い、下僕だと言いながらも自分は正常、普通の女の子と自称する変態且つ変人だ。

 思わず身体中を震えさせハァハァと犬のような荒い息遣いを吐く。ある意味両奈に似たエロ犬だ。

 

「ちょっ!おいマジかよエロ!!!」

 

 ブバッ!と刺激が強く、エロ目線で見られる事に興奮を覚えてる彼女に峰田は思わず鼻血を噴水のように放出する。

 そんなエロチックなドMたる彼女に「なんだあの変態…」と引き気味に思うクラスメートの皆んなは、意外な一面でも直視したかのように驚いている。

 

 どのメンバーも個性的な一面を持つ曲者ばかりで有り(約一名はマトモだが)、競い合う相手としては充分に警戒すべきだろう。

 

 

「随分とまた派手な忍学生な事だな…何でもいいが、試験とはいえ命に支障を来すような真似はするなよ?

 悪いが俺はアンタ達を信用してないんでね」

 

「ふん…私たちが悪忍の身とは言え少しは気を楽にしたらどうだイレイザーヘッド。いや、今はヒーローネームで呼ばなくとも良いのか。

 しかし警戒を怠らない姿勢は賞賛してやらんでも無い」

 

「お前学生の身なんだよな?」

 

 言葉を発する度に常に上から目線の物言いに少し苛立つ相澤は声を低くするも、総司は表情一つ変えず、高らかに口を開く。

 

「一応学生の身ではあるが……プロを凌駕する実力は備えてるさ。

 まあ精々、お互い頑張ろうじゃないか?特に其処の半蔵学院もな――」

 

 キッ――と鋭い眼光を放つ総司に、飛鳥は思わず固唾を呑む。

 焔や雅緋から蛇女の話は詳しく聞いていなかったので、彼女たちの詳細は知らなければ、超秘伝忍法書争奪戦にて蛇女の本拠地を攻めた時などあのような五人組は居なかった。

 

「特に飛鳥、お前はあの選抜の焔と戦ったそうだな」

 

 その言葉に思わず真剣な眼差しを総司に向ける。

 選抜補欠となると、元選抜メンバーの焔達を知っていても可笑しくない。

 その言葉に飛鳥は無言で頷く。

 

「フッ…そうか。

 あの焔を……流石は伝説の忍である半蔵の孫だ。改めて半蔵の偉大さが伝わって来るよ」

 

 神ノ区にて元凶たるオール・フォー・ワンと対峙したオールマイト。

 その英雄を庇った半蔵の姿は、全国の国民や忍からは大きな賞賛が讃えられた。

 平和の象徴を庇い、ヒーローの盾として、刀として動き闘った半蔵の勇姿は総司も褒め称えた。

 

「焔ちゃんと何かあったの?」

 

「まあ色々とな、話せば長くなる。

 これ以上立ち話をするのもアレだろう?詳しい話は後日、暇な時間が有れば幾らでも話してやるさ――」

 

 そう言いながら総司率いる五人組は試験会場へと向かっていく。

 その際に

 

 

 

「お気楽で良いですね轟焦凍(貴方)は、そして貴方の父親も――名誉と幻想(正義)の下で幸せに暮らせる人間は」

 

 

 

 千歳は轟の横を通り過ぎ、小さく静かなる義憤を燃やした声で呟いた。

 その言葉を、轟焦凍は聞き逃すはずもなく、視線を彼女へと振り向く。

 当の本人は轟へ視線を振り向くことなく、平然と総司の後を付いていくかのように歩いていく。

 

「何だアイツ…」

 

 先程の爆豪勝己に続き、轟焦凍を煽るかのような台詞、初対面の女子にいざ言われると若干不機嫌になるのだが、それと同時に心の底に湧き上がる疑問も抱いた。

 

 

 何故わざわざそんな事を他人に言われなければならないのか、と。

 

 

 轟焦凍はエンデヴァーの息子としてそれなりに知名度が上がっていれば、体育祭での生放送にて全国のプロヒーローから注目を浴び、職場体験の勧誘も一位の爆豪よりも人気が高かった。

 今時エンデヴァーの息子を知らない者など、低学年レベルだろう。

 当然、息子は関係ないがエンデヴァーへの批判的アンチコメも存在するし、現時点でNo.1の肩書きを背負う彼に納得のいかない言葉が大半を占めいているのも揺るがない事実だ。

 しかし、誰かを憎み怨み辛みで動いてきたからなのだろう

 

 

 千歳が発した言葉には、どこか絶え間なく滾る義憤と怨みが、その言葉に込められていたように感じた。

 

(俺、アイツと逢ったっけ?記憶にねえけど……なんかしたかオレ?)

 

 其れは、エンデヴァーだけに対する言葉ではないのだろう。

 単なる批判的な意見とも言い難いような、心に突き刺さる言葉。

 しかし彼女に怒り怨みの言葉を言われる筋合いも無ければ、先程も述べたように彼女とは初対面。

 焦凍とは関係性のない赤の他人。

 他人の関わりと無駄な時間を嫌うエンデヴァーともまた無縁のハズ。

 

(まあ良い…放っとくか。

 変な奴に気を取られて仮免許取得できませんでしたじゃ許されねえ…親父を批判するヤツは少なからずいるだろうしな……)

 

 脳内に纏わりつく雑念を振り払うかのように、気持ちを切り替える轟は軽く深呼吸する。

 

 

「さて、気を引き締めろよお前ら。

 早速中に入って――「おーうお前イレイザーじゃねーか!」――あ?ってげッ…」

 

 相澤先生の言葉が誰かの声に遮られ、面倒臭さそうな面で声主に振り向くと、相澤の表情がより一層、面倒臭そうな顔立ちへと変わった。

 

「テレビや体育祭で姿は見てたけど、こうして直で会うのは久し振りだな!!」

 

「よりによってまた厄介な輩が来たもんだな。士傑に続き蛇女に続きで…この試験どーなってんだ…ったく」

 

「結婚しようぜ」

 

「しねえよ阿保」

 

 唐突にプロポーズする女性に女子の生徒はキャーキャーと騒ぐも、日常的なノリなのか、特にどうも気にしない相澤は溜息を吐く。

 

「しねえのかよ!てか相変わらずウケるなお前!!」

 

「お前が異常なだけだ、そっちこそ昔と変わらず絡み辛いなMs.ジョーク」

 

 スマイルヒーロー「Ms.ジョーク」

 本名は『福門 笑』――個性は『爆笑』

 一見巫山戯てるような個性に見えるが、敵への戦闘に対して効果は覿面。

 近くの人を強制的に笑わせ、思考・行動力を鈍らせる、並みの敵では彼女の個性に抵抗することも出来ない。

 彼女の敵退治は常に狂気に満ちており、今は傑物学園高校の教師を務めている。

 余談だが、雄英体育祭を観に来たプロヒーローの一員でもある。

 

「知り合いなんですか?」

 

「そーそー!昔事務所が近くでな!助け助けられを繰り返すうちにお互いの絆は結ばれ恋色の如く相思相愛のラブコメディの仲へと――「なってねえわ、教え子に誤解招くような事言うんじゃねえ」本当に揶揄い易くて面白えよなイレイザー!!」

 

「は、はぁ…」

 

 二人の漫才的コンビのノリに呆然とする飛鳥は、目の前の光景をただただ眺めてるだけであり、また怒ると本気で怖い相澤先生に対して何発ものジョークをかます彼女の据えた肝に思わず放心状態になってしまうのも、少なからず無理はない。

 

「まっ、そんな訳でウチらとも仲良くしてくれよな」

 

 おーい!と声をかけるMs.ジョークに反応した生徒たちは、駆け寄ってくる。

 傑物学園二年二組ヒーロー科、雄英や士傑ほど大きな地位や名誉は無いものの、そこそこ有名である。

 

「雄英、本物だ!」

「TVで見た人ばっかり!凄いじゃん!!」

「真堂に折紙、テンション上がってんな」

「一年で仮免って随分とハイペースだよね。まあ色々あったし当然といえば当然だけど…流石、やることが違うよ」

 

 次から次へとゾロゾロとやって来る傑物の生徒たちは、雄英に興味津々だ。

 尤も、雄英高校に忍学生が在籍してるのは、実は余り知られていない。

 

「俺の名前は真堂 揺!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね、けどこうしてヒーロー志し続けてるんだし、君たちは本当に素晴らしいよ!!」

 

 ハッハハ!と彼の輝く笑顔は爽やかでありイケメンだ。

 外見や心強い言葉から察するに、カリスマ性を備え持つ優等生なのだろう。傑物学園高校二年二組のクラスのリーダーシップを誇ってるようにも見える。

 

「中でも神野事件を中心で経験した爆豪くん、君は特別に強い心を持ってる。

 今日は君たちの胸を借りるつもりで頑張らせてもらうし、こうして同じ試験会場に当たったんだ、仲良くしよう!」

 

 爆豪と真正面に向き合い、手を差し伸べる真堂に対し、爆豪は舌打ちをしながらその腕をパァン!と払いのける。

 

「要らねーわクソが、フかしてんじゃねえぞ。

 台詞と面が合ってねえんだよ、つまらねえ茶番なんざ糞食らえ」

 

 相手の意図と思考を読み取ったのか、苛立つ口調で投げ飛ばすかのように言葉を吐き捨て背を向ける。

 詳しく知らない、出逢ってばかりの人間が突然仲良くしようなんて言葉をかけられても、同じクラスや仲間でもない限り信憑性が無い。

 少なくとも、他人と気軽に馴れ合う器を爆豪はその身に宿してなどいない。

 

「失礼過ぎるだろ爆豪!すみません無礼で…コイツいっつもそうなんッスよ。

 図書館の時と言いファミレスの時と言い、一度怒りの導火線に火が点いたら止められない暴君で……けど根っこは良いヤツなんですよ本当に!」

 

「うっせえぞクソ髪!余計なこと言うんじゃねえよカスが!!」

 

「いや、芯が強い証拠さ!

 其れもまた、君の長所であり誇るべき強さなんだろうね」

 

「何時迄も綺麗事言ってんじゃねえや茶番野郎!!」

 

 BOOM!と掌から爆破を起こしドスの効いたデカイ声で吠える爆豪を当然のように制止する切島。

 そんな二人のやり取りを見てさぞ愉快そうに高笑う真堂は、端からどう見ても良心的な人間にしか見えない。

 一体何をどう見間違えれば、爆豪の言う「茶番」なんて言葉が出てくるのが、思考を働かせた所で想像も付かない。

 

 

「他にも…春雨忍高校に、登坂高校のヒーロー科、様々なヒーロー学校と忍学校が来てんな。

 こりゃ、去年みてえな仮免許取得の試験にはならなさそうだな」

 

「おいおい何だよイレイザービビってんのか?未来の妻が慰めてやろうか?」

 

「誰が未来の妻だ。

 お前は忍学校のこと、詳しくは聞かれてねえんだろ?不安には思わねえのか」

 

「アタシのこと心配してくれてんの?気持ちワリーヤツだな優しすぎ、婚姻届いつ出す?

 な〜んてな。実を言えば確かに不安は有るし、無いと言えば嘘になる。

 けどウチは生徒を信じてるから、少なくとも真堂率いるアイツ等はそう易々と脱落なんかしたりしねーよ。

 これまで積み重ねて来た訓練、無駄じゃねえからな」

 

 他校のヒーロー学校や忍学生を眺める二人の教師、相澤とMs.ジョークは軽い雑談を交わす。

 Ms.ジョークは確かに冗談好きのお笑い上手な女性だが、ヒーローの担任教師を務める以上、根は真摯である。

 

 不安なのは皆も一緒。

 自信が無いのは責められる事ではない。

 緊張が体を支配する。

 

 試験前になると大抵の人間は面接前で待たされるような緊張感、不安、気弱な精神に陥る。

 もし自分の実力が、経験が、努力が、失敗すればどうなるのだろうか、

 

「そう言うイレイザーはどうなんだよ、アレ。おたくの生徒、爆豪って子は兎も角他の子皆んな警戒心が無さすぎるんだけど…

 

 もしかしてよ、強者の余裕ってヤツか?はたまた…()()()()()の??」

 

 心外と言わんばかりのMs.ジョークの驚嘆に似た声色に、相澤は振り向く素振りも無く、無表情のまま生徒達を見つめていた。

 

 

 雄英生は知らない。

 今試験に起こる()()を――

 勿論、別々だった忍学生も知らないのは必然。

 

 

「嗚呼、もちろん()()()()()。それで落ちる程落ちぶれちゃいない」

 

 バッサリと切り捨てるかのように、言葉を吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験会場館内。

 大規模な館内フロアの面積は、一気に受験者の数で埋もれていた。

 見渡せばどれもこれも人ばかり、余りにも多すぎる人波に一年A組はただ呆然と眺めていた。

 

 受験者数は多いと聞いた。

 それも当然だ。今年は例外な上に一年生も受験すると聞いたし、他校の忍学科の生徒も今試験は合同で臨むと聞いたので、大規模な人数になると予想はしていたが、いざ直面すると何とも凄まじい光景だろうか。

 思わず目が眩んでしまう。

 

 

 

「えー初めまして皆様、仮免のアレやる前に軽い自己紹介、しときます。

 あー…僕は公安委員会の目良善見です。好きなものはノンレム睡眠、どうでも良いですよねハイ、宜しく」

 

 目良善見。

 相澤とは少し違った、疲労感ややる気の無い気怠さダダ漏れの公安委員会、ネガティブな目良は眠たそうな目で資料に目を通す。

 

「え〜次にこちらが、態々今試験にお越しなさってくれた特別ゲストの二名もご紹介しておきますね。さっ、どぞ」

 

 目良の言葉に応じるように、横に佇んでた二人はペコリと軽くお辞儀をする。

 

「受験者の皆様、初めまして――私は月光と申します。何か解らないことや困ったことが有れば私達に相談しに来て下さいね♪」

 

「どうも閃光だ……

 今試験、私達二名はヒーロー科と忍学科の生徒たちの特別審査員として務めさせて貰っている」

 

 死塾月閃女学館中等部所属の月光と閃光。

 不雪帰の命令を受け、仮免許取得試験の審査員役を担うことになった忍学生である。

 しかし海外に出張し幾多ものコミニュケーション、社会的な立場、大人の世界を踏み入れた彼女二人の存在は、そこらの審査員よりも格段上だ。

 

「え〜、この二人はこう見えても忍学科の生徒です。まあ特例と上の事情があって急遽、直ちに今試験の審査員の補助として担当してくれた、我々不眠不休の社畜の大人からしてとても有難い人材ですマジ忍サンクス。

 

 この通り、試験内容、ルール説明にて何か不可解な点が有れば教えてくれます。

 不正な点や過度な個性、又は忍術使用行動を監視し、怪我人を手当てする医療担当役、貴方達受験者の戦力、能力、行動分析プロフィールetc…様々な役割を補助して下さる…まあ、我々にとっても貴方達にとっても本当に救かるサポート役、いわば簡潔に言えばお手伝いさんみたいなもんです……そう認識して下さい……ほんと眠い…」

 

 

 ――疲れ隠す気ゼロだろ!所々素が出てるぞ大丈夫か。

 

 仕事の忙しさ。

 睡眠不足。

 人手が足りない。

 充分な休息が取れない。

 

 そんなブラック企業の社畜を露わにしたような、目良の紹介に館内にいる皆の者は心の中で大きく叫んだ。

 

 

「ずばりこの場にいる受験者、ヒーロー科と忍学科含めて系2100人一斉に、勝ち抜けの演習を行ってもらいます」

 

 

 ヒーロー学生と忍学生の双方の学科が、同時に試験が行われる。

 それはつまり、ヒーロー学生と忍学生の共闘、もしくは対敵の意味を表す。

 

「現代はヒーロー飽和社会と忍暗躍社会なんて言われ、ステイン逮捕以降、ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません」

 

 ヒーローとは見返りを求めてはならない。

 自己犠牲の果てに得うる称号でなければならい。

 

 それはまた、忍も同じ――

 

「まァ一個人としては…動機がどうあれど命懸けで人助けしている人間に〝何も求めるな〟は現代社会に於いて無慈悲な話だと思うワケで、忍側の場合は悪忍という犯罪的イメージが成り立つのでしょうが、誤解なさらず。

 悪忍はヒーローでも手に付けられない問題視される敵、又は野放しにされた忍の力有る抜忍などの殺害を行なっています。

 しかし其れはあくまで昔の話…現在、忍は善忍悪忍関係問わず、明るい社会を築き創り上げるべく協力関係に当たり、殺生を始め、無闇に公共の場や許可なしの忍術使用、戦闘は禁止とされています。

 任務の都合上、多少の違法はあるかもしれませんが、しかし其れはあくまで忍の組織の下で成り立ってる訳で、決して貴方達に害を与えることは無いので悪しからず……

 

 つまる話、善忍と悪忍を例えで言うなら、私立と公立みたいなものです」

 

 ヒーローの行動範囲は酷く限られている。

 災害救助法、敵退治、其れらは免許を手にした者が、管理者の下で許可を受け始めて国から認められ報酬が届くようになっている。

 しかし、仕事ではかなり不利なのは当然のこと。

 屋内で暗躍する敵、違法、密猟、ハッキング、闇売買、其れらを如何なる手でも突き止め、破壊活動をするのも悪忍なのだ。

 悪とは人聞きの悪いものだが、悪だからこそ正義にやり得ないことを成し遂げる事ができる。

 正義とは、悪なしでは成し得ない形であり、逆もまた然りなのだ。

 

「とにかく対価にしろ義勇にしろ、多くのヒーローが救助・敵退治に切磋琢磨してきた結果、事件発生から解決に至るまでの時間は今、ヒくくらい迅速になっています。

 君たちは仮免許を取得しいよいよその激流の中に身を投じる、そのスピードについて行けない者はハッキリ言って厳しいです」

 

「よって試されるはスピード!

 条件達成者先着200名を通過とします」

 

「先着200名!?

 2100人いて200ぅ!?5割どころじゃねえじゃん厳し過ぎるだろう!!」

 

「二年で仮免許取得しないと不味いんだよ私は!!」

 

「そこ静かにしろ!まだ説明の途中だ!!」

 

 2100人中、合格者がたったの200名と言う驚異的な低数字に嘆く受験者に、閃光の厳しい注意が施される。

 そんな彼女に「ナイスサポート…」と怠く眠たげな目良の声が、誰にも聞こえない声で呟かれた。

 

「その条件というのがコレです」

 

 月光が懐から出したのは、ターゲットとボールの二つのアイテムだ。

 

「受験者はこのターゲットを三つ、体の好きな場所、但し常に晒されている場所に取り付けて下さい。足裏や脇などはダメです。」

 

「そしてこのボールを六つ携帯、ターゲットはこのボールが当たった場所でのみ発光する仕組みとなっている。

 三つ発光した時点で脱落になるから、付ける場所はしっかり考えておくんだぞ」

 

「また三つ目のターゲットにボールを当てた人が〝倒した〟こととします。

 そして二人倒した者から勝ち抜きです、ルールは以上です!

 何か不可解な事が有ればどうぞお訊き下さいませ♪」

 

 閃光の健やかな笑顔が浮かぶも、疑問を抱く人間がいない辺り、どうやら全員理解できたらしい。

 

 入学試験のロボ破壊や、葛城や斑鳩の時みたく傀儡破壊のミッションとは違う。

 対人となるなら尚更だ、個性や忍術…まだ見ぬ相手の能力を警戒しながら、自分のターゲットを守り且つ相手にボールを当てる。

 入試以上に苛烈なルールだ。

 

「じゃあ展開後、ターゲットとボール配るんで、全員に行き渡ってから1分後にスタートします」

 

「展開?」

 

 目良の「展開」という言葉に疑問を抱いた生徒は、上を見やる。

 ゴゥンゴゥンと大きな音が鳴り響き、会場館内にある天井や壁は瞬く間に開かれる。

 

 外の景色とつい先程までいた場所の変わり様に、茫然としてしまう生徒たち。

 様々な地形が設置されている辺り、相当大規模な個性や忍術の使用が行われるのが目に見える。

 

 

 

 

 

 六つのボールを貰い、ターゲットをそれぞれの箇所に貼り付けた雄英生徒たちは、グループになって集まった。

 爆豪は「フザけろ、遠足じゃねえんだよ」と言いながら勝手に一人で行動を開始し、轟は「大所帯じゃ却って力が発揮しない」と二人は集団から離れていった。

 時間も無いなか、追いつける時間も説得する暇もないので二人は独自の判断として任せる事にした。

 まあ特にクラスで一位、二位を争う二人組みなら余程のことが無い限り大丈夫だろうという心の底から来る安息感につい納得してしまう。

 

「けど、私たち単独じゃなくて良いのかな?」

「大丈夫!逆に単独行動は危ないんじゃ無いかなって…僕ら手の内バレてるし…飛鳥さん達はバレてないから、まだ打開する点はあるけど…」

 

 束になりながら各地を移動していく緑谷達。

 彼らは雄英体育祭で既に目を付けられている。個性や機動力、実力も生放送でしかと反映されている。

 その状況下、個性で対策されているのなら厳しいし、あり得ない話ではない。

 

「いつもみたいな一対一みたいなのとか、多対一という不利な状況とかじゃなくて…

 勝ち筋は他校も同様だから、学校単位での対抗戦になると思うんだ…そしたら次はどこの学校を狙うか…」

「おい緑谷アレ!!」

 

 峰田の焦燥な声色に、咄嗟に振り向く緑谷。

 視界に映るは――他校の殆どの生徒が、一気に雄英を潰さんと言わんばかりに、袋叩きのように寄って集まりボールを投げる光景が、視界を支配する。

 

「自らをも破壊する超パワー!まぁ…杭が出ればそりゃあ打つさ!!」

 

 真堂の言葉に、瞬時にことの状況が理解した。

 

 

 雄英潰し――

 

 

 最高難関ゆえに、強敵だからこそ、先ず最初に潰しておこうという段階。

 何より個性不明というアドバンテージが失われている雄英を攻めるのは絶好のチャンス。彼ら彼女らは狩られる側の餌でしかない。

 

 

 しかし、だからこそ――

 

「SMASH!!!」

 

 逆境を乗り越えてこそ、ヒーローと呼ばれる。

 緑谷は拳…ではなく、足を使って一気に攻めてくるボールの数を捌ききる。

 他も同じく、新たな必殺技で対抗だ。

 

 

「皆んな!締まっていこう!!!」

 

 

 

 




今回は蛇女の選抜補欠メンバーと月光閃光(2回目)を出しました!
どうです?意外で驚いた方もいるんじゃないでしょうか?え?そんなことない?


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