光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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やっと終わった…というところで、またログインし直して下さいと書かれて書いた分保存できず萎えました。三時間返せ。




124話「一息吐く裏で」

 

「え?アタイの忍術について聞きたい?」

 

 担任の相澤先生から外出許可を得た飛鳥は、学校から飛び出るように母校である半蔵学院の元へ向かい、三年の葛城に忍術について聞き出していた。

 これは昨日に起きた出来事である。

 個性の応用、自分の忍術をどう上手く工夫して活かすか…緑谷の助言とも呼べるアドバイスを参考に、飛鳥は自分の忍術と似た彼女に聞き出していたのだ。

 

「どうしたんだよ急に……てか、学校良いのか?飛鳥達ってあんま外出しちゃダメなんだろ?」

 

「ダメ…って言うより、注意されるか最悪、指導受けるだけだけどね。担任の先生から許可を貰えば問題ないよ」

 

 謹慎こそあるが、許可なしに外へ出てしまえば基本叱られてしまう。

 特に無断で外出し何かしらの騒動を起こしてしまえば、生徒指導担当を務めるハウンドドック先生に物凄い唸り声で叱られてしまう。

 これだけは他校でも誰でも嫌だろう。

 

「それなら良いんだけどよ……って、態々アタイにソレを聞くためにこっち戻って来たのか?」

 

「う〜ん、出来れば大道寺先輩の意見も聞きたいんだけど…大道寺先輩、いる?」

 

「あ〜それは知らねえ。

 多分先輩は鈴音先生…いや、凛さんって呼べば良いのか、お見舞いに行ってると思うぜ?」

 

「そっか〜……先輩のアドバイスも聞きたかったけど、残念だなぁ…」

 

「アタイと大道寺先輩に用があるってのも、飛鳥にしちゃあ珍しいよな。忍術のこと聞きたいとか、何かあったのか?」

 

「ん〜っとね…実は」

 

 飛鳥は自分の難儀にして通過に於ける課題点を、姉御肌で頼り甲斐のある年上、葛城に全て話した。

 彼女は「あっははは!そう言うことか!」と甲高い声でゲラゲラ笑いながら納得した表情を浮かべる。

 

「けどよ、それなら『菖蒲』に聞くってのも有りだぜ?」

 

「え〜?菖蒲ちゃん基本購買部担当だから無理があるんじゃない?其れに私雄英の敷地内にある忍基地で過ごしてるし…

 一年生だけど雄英に派遣されなかったんでしょ?」

 

「いや、菖蒲はまだ選抜メンバーじゃねえからな。補欠だ、其れに仮免取得で上手くいけば上層部からの命令で雄英に行くんじゃね?」

 

 菖蒲。

 半蔵学院の購買部を担当してる忍学科の新人生徒にして、普通学科の生徒に紛れてる生徒でもある。

 菖蒲は基本購買部を担当に受けてるので、転校という形は中々に難しいらしい。彼女を雄英に派遣しなかったのも、この理由が大きい。

 

「アタイは基本身体を柔軟に動かす蹴りメインの戦法スタイルだからな!やっぱ身体を動かすのって気持ちいいし、飛鳥もアタイみたく蹴りでも使うのか?」

 

「う〜ん…葛姉みたいな活発的には動けないけど…身に付けて損は無いのなら一応……」

 

「後輩の為なら教えれることは何でも教えるぜ。

 それに久し振りにこうして先輩としてのアタイが後輩に教えてやるんだ、先ずは…ホレほ〜れ♪」

 

「きゃあっ!?ちょっ、葛姉どさくさに胸を揉まないでよ!!」

 

「ばっかで〜、揉むなって言う方が無理に決まってんだ。久し振りに後輩の身体を触れるんだ、感動の再会みたいなノリの挨拶だから良いだろ?」

 

「良く無いです!!!」

 

 自然的な流れで息を吸うかのように胸を揉む葛城は常習犯だ。

 ある意味峰田実より性質が悪いし、これが男子であれば軽く一発は殴っている(斑鳩は度が過ぎるのであれば相手が葛城でも一発殴っている)。

 ただ、意外にも葛城には弱点がある。

 それは逆セクハラ。実は彼女、セクハラをする癖にセクハラされるのは大が付くほど苦手なのだ。

 その為、菖蒲からはいつも逃げている。

 まるで凶器を持った殺人犯から逃げるかのように、血相を変えて学校の敷地外の木の上で隠れるくらいの効果だ。

 

「菖蒲ちゃんがいればな〜…

 ってそうだ、葛姉は仮免取得はどうだったの?」

 

「アタイか?そりゃあ余裕だぜ。

 まあ偶々試験内容が良かっただけかもな、それかアタイが強かったりして」

 

 葛城と斑鳩の仮免取得の試験内容は、実技で傀儡50体を制限時間内に片付けると言った形式だった。

 当時の斑鳩と葛城の仲は今とは比べ物にならない程に悪く、相性も最悪な二人組だったものの、今では同級生同士仲が良い。

 因みに仮免試験は毎年内容が変わるので、己の身に付いた実力を信じる他ない。

 況してやこの世代、平和の象徴亡き忍の存在が明るみになった社会だ。

 ヒーロー学生と忍学生が合同で試験に臨むので、簡単…とはならないだろう。

 しかも合同試験は今年が初めてなので、中々にハードルの高い難儀な試験が来ると予想して間違いはない。どの道試験を受ける以上、覚悟を決めておいて損は無いだろう。

 

 

「まっ、不安ならアタイが付き合うよ。

 一汗流したりすると、心が落ち着くこともあるもんなんだぜ?」

 

 

 葛城は後輩にめいいっぱい笑顔を浮かべて親指を立てる。

 緊張感を解すかのようなその活気的な笑顔を見るのは久しぶりだ。芦戸みたいな明るみとは少し違う、姉御的な存在に自分も頬が綻ぶ。

 葛城は性格がセクハラ親父ゆえに行動でその性根が表れる。しかし、根っから悪いと言えばそうでもないし、仲間思いの良心的な頼れる心強い先輩なのだ。

 だからこそ、そんな葛城の魅力に惹かれる自分がいる。

 さぁ、後は閃いたイメージを後は…実戦で実現するのみだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葛城に稽古を付けて貰った彼女は、体の動かし方を学び通すことが出来た。

 今までは武器メイン、二丁刀を駆使した戦闘スタイルで幾多ものの現場を潜り抜けて来た。

 しかし、必ずしも其の常識が通用するとは限らない。

 細心の注意を払い、最悪な予想から逆転する為、護身の術を身につける為、彼女は敢えて素手による格闘スタイルを選んだ。

 備えあれば憂いなし、とは正にこの事。

 気優しく明るみのある彼女から考えられないが、其れで良い。相手の予想と視認してた常識を覆すような、忍術の活かし方でないと、到底この先忍として生き延びる事も出来ない。

 如何なる任務に徹する事も叶わない。

 命懸けの戦場を覆すことが出来ない。

 

 大袈裟かもしれないが、少し価値基準と戦法を変えただけで、そうでない者との差は歴然に広がる。

 

 

 少なくとも、次世代のカグラになるのなら――当然だろう。

 

 

 

「出来た!秘伝忍法じゃない、忍術の応用――もう一つの戦術!」

 

 

 

 体全身に付き纏う緑風を揺らがせ、飛鳥は自信溢れる笑顔を浮かばせる。

 目の前に聳え立っていた壁のコンクリートは跡形もなく粉砕され、破片が散らばっている。

 拳は腫れ上がっておらず、埃一つすら付いてない模様。

 

 葛城に稽古を付けて貰ったことで、体の動かし方は大分慣れた。後はこれをどう強くイメージで持つか――

 

 相澤先生は言っていた、経験は活かす為に有ると。

 林間合宿、彼女が学び経験を活かしたのは敵連合の襲撃。自身より断然的な格上の存在である黒佐波との戦闘を経た彼女は、この結論に至った。

 黒佐波、敵連合開闢行動隊のメンバーにして飛鳥を苦しめた上忍以上の実力を備える猛者。

 秘伝忍法を多発連続使用する彼に今でも悪寒を覚えてるし、今こうして生きてる事でさえ奇跡でしかないのは、自分でも実感できる。性格も心も、認めざるを得ないが彼の方が一段と上だったのは、身の骨に染みるほど思い知らされた。

 それでも懸ける想いが同じなように、自分も負けたくない。だからこそ、逆境を乗り越えて勝てたのかもしれない。

 これが連続で通用するとは思っていない、だからこそ強くあれ――

 

(あの人も、私と同じ風遁術を使うって言ってた…!忍法は違うけれど、それでも出来ない訳じゃない、私の思った通り――)

 

 黒佐波の忍法は波紋忍法。

 風の遁術に波紋忍法を兼ね合わせたことで、衝撃的な強さを発揮し、相手を翻弄。

 相手を打ち砕くかの如く拳を乱打させる際に、風遁術を放出。そうすることで、衝撃と風の威力、更に忍術を合わせて破壊的な効果を表していた。

 これだけで緑谷出久のワン・フォー・オール常時5%による威力を、同等かそれより上まで登り上がる。

 

 黒佐波のように拳に風を纏わせたイメージを、今度は緑谷出久のように体全身へ。

 

 緑谷出久が周りから知識を得て吸収するように、飛鳥も色々な者と交えて吸収し、強くなる――

 

 

 

 

 

「凄イナ。昨日トハ比べ物ニナラナイ程ニ、成長シテルナ。正直ココマデ活用良ク活カセレルトハ、良イ意味デ想像ヲ裏切ラレタゾ」

 

 無愛想なエクトプラズムは彼女の急成長具合に感心したように、ニカッと笑顔を浮かばせる。

 しかし、無表情ゆえに顔付きは変わってないように見えるものの、声色だけで伝わって来る。

 飛鳥は「有難う御座います!」と先生に一礼、しかしまだまだ訓練は今始まったばかり、終わりは無い。

 

「飛鳥のヤツ、すっげ〜……」

「刀メインだったのに今度は体術?どーゆー風の吹き回しでこうなったんだ?」

「でも…お茶子ちゃんみたいな発想で私は良いと思うわ、ケロケロ」

「飛鳥ちゃんの笑顔見る辺り爽快だねぇ!」

 

 彼女の急成長に戸惑い、驚きを隠せない者も少なくは無いだろう。現に未だに必殺技を編み出してない者、既に技を完成してる者、様々な者達が彼女一人に視線を移す。

 

「飛鳥ちゃんも、ウチみたいな格闘メインで行くんかな〜?」

「まあ俺達のクラスにも肉弾戦を得意として闘う者もいる訳だ、珍しい…と言う程でも無いが、確かに意外性はある!」

「飛鳥さん…」

 

 いつもの三人組も、彼女の成長具合に談話する。

 麗日お茶子は格闘武術も身に付けているので、もし彼女と相談していれば、一番早くこの結論に辿り着けただろう。

 しかし飛鳥は、お茶子が職場体験でガンヘッド事務所に訪れた事をご存知ないため、緑谷出久と葛城のアドバイスでこの答えを導いた。

 飯田天哉も、他の一同と同じく意外との声が上がってるものの、内心は彼女に感心している。

 緑谷出久は昨日コスチュームの件で用事がありサポート科に向かう途中、彼女に呼び止められ、相談を受け彼女と話し合っていたのだ。

 自分も個性の扱いに悩み、頭に苦しんだこともあったが、まさかあの会話で彼女がここまで成長するとは思っていなかったのか、緑谷本人も呆然としている。

 

(飛鳥さんも…また一段と……

 僕が話したのなんて全然…動き方は僕やかっちゃん寄りでもないし…独自のスタイルなのかな?)

 

 自分はオールマイトや爆豪勝己と言った周りの人から影響を受けているので、戦闘スタイルや動作が似てる部分が有る。

 其れは身近な人から見て倣ったのか、はたまた緑谷出久自身による尊敬から来る憧れか――

 

 

 

 

「デカ乳女の野郎、また一歩成長しやがったのか糞ったれが」

 

 爆破の煙に呑まれ消えゆくエクトプラズムを余所に、込み上げてくる怒りを噛み殺すかのように、鋭い獣の視線を向ける。

 爆豪勝己を一言で言い表すのなら、其れは自尊心の塊だ――

 初期の頃はプライド高い余り、結果として緑谷に敗北し心が折れたのは、今でも忘れられない。

 道端に転がる無個性の石っころだと思ってたヤツが、今じゃ自分か其れ以上の格上に食い込むようになった。

 突然個性が発現したなんて見え透いた嘘っパチなことを呟いてはいたが、着々と成長過程へと進んでいるのは明らかに揺るがない事実。

 前までは緑谷が眼中に入るだけで苛立ちが込み上がってた。だが、今ではどうだ?

 体育祭で完全舐めプしてた轟焦凍、自分をダチと胸を張って言い語る切島鋭児郎、その他にも忍学生の飛鳥を始めとしたまだ見ぬ忍達。

 いつしか自分の周りは、己を超えうる可能性を秘めた強者が山ほど存在している。

 

「おいエクトプラズム!もう一体死んだ!追加頼む!!!」

 

 心の底から湧き上がる焦燥を誤魔化すように、エクトプラズムに分身を寄越せと頼む。

 

 ここのところ落ち着きがない。

 自分の心に整理が上手く付かない…

 脳に虫が這いずり回るかのように、頭の中がごちゃ混ぜになる。

 

 其れは、次々と自身を追い越そうとする皆への圧が掛かった焦燥か?

 または、神ノ区で起きたオールマイト引退を根に引きずってるのだろうか。

 

(………テメェのじいさん、あんなことになっちまったのも…俺が弱くて捕まっちまったから……なんだろうな……)

 

 

「なんで、そんな笑顔になれるんだよバーカ……」

 

 

 自分の所為で、お前のじいさん…もう戻れなくなっちまったんだぞ。

 俺の所為で、お前のじいさんが…傷付いちまったんだぞ。

 お前、あの時泣いてたよな――

 

 何で、俺の所為だって…怒鳴らねえんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と…お前が、手を組む?」

 

 突然自分の根城に土足で入って来た漆月に、内心焦りの色を浮かばせるも、顔は無愛想なマスクで覆い隠してる為、相手からは表情を悟られる事は無い。

 

(何を突然…は?意味がわからん……魔門や『亜門』からは連絡は来てないハズ…手を組む?何んの話だ?其れを何故態々俺に…?)

 

 疑心暗鬼が深い佐門は、仮面越しで目を細めながら、獲物の様子を伺うかのような視線を漆月に浴びせる。

 他の一同も表情を曇らせているのか、浮かばない顔だらけだ。

 対して漆月はこちらに妖しい美笑を浮かべている。

 

「何故、俺とお前が手を組まなきゃならない?況してや天下の敵連合の傘下であるお前が?」

 

「『何故、俺とお前が手を組まなきゃならない?』って台詞から察して、私と組むのに何か都合が悪いのかしら?佐門くん♡」

 

 悪戯そうな笑みを浮かべる彼女は、一歩また一歩と足を踏み入れ佐門に近付き寄ってくる。

 以前のような子供っぽい漆月とは違い、今は見間違える程に成長している。

 

「そりゃあ言い方が悪かった。態々忍商会のNo.3なんて最下位の肩書きを背負う俺と手を組まなくても、他のアイツ等がいるじゃねえか?なんで俺だ?」

 

 皮肉なことに、あの二人は俺よりもずっと強い。

 たった一人で忍学校を5校潰したアイツはカグラを7名葬った〝裏闘技場〟チャンピオン。カムイに認定された危険人物――No.2亜門。

 オール・フォー・ワンと言う伝説の支配者と一時期協力関係に入り、カグラを17名も葬り去った事から鏖魔に認められ、亜門と同じくカムイとして認定された人物――No.1魔門。

 

 この二名なら協力に事足りる。

 しかし何故態々最下位の俺に協力要請を申すのか、理解ができない。尤も、敵連合のコイツが直々にお出迎えになるとは思ってもおらず――

 

「そりゃああの二人は今も忙しいからよ、手が離せない程にね♪

 アンタも知ってる筈よね?同じ組織の下にいるなら、情報共有してるんじゃ無いかしら?」

 

 この世代は犯罪率が上がり裏・闇売買が頻繁的に開発生産や販売に手が付けられない程忙しい。

 トリガーの薬物、忍道具の開発や売買は世界各地の敵と取引を行ってる為、どうしても手が出せない。

 

「魔門と亜門に連絡したら佐門に当たってくれってさ、居場所もルートも教えてくれたのよ?どう?納得できたかしら?」

 

「腑に落ちねえな。敵連合が神ノ区で全員捕まってないのなら、黒霧の手でいつでもここに来れるだろう?

 それより、仲間はどうした?お前一人か?」

 

「随分と質問が多いのね?強引すぎると女性に嫌われちゃうわよ?

 そりゃあ黒霧がいれば問題ないけど、今はちょーっと手が離せなくてね。大事な案件があって訳有り離れてるのよ。

 仲間は…置いてきた。御察しの通り私一人だけよ♪アンタと交渉する為にね――」

 

「………」

 

 嘘を吐いてるようには見えない。

 恐らく、一人でこの場に赴き手を組む交渉をしに来たのだろう。

 魔門や亜門も忙しい…と言うのは頭の中でも解っていたが、自分に当たるとなると、暇を持て余してるように見えるのだろう。

 それも、その筈か

 

「……解った、要件を聞こう。で?何をどう手を組めばいい?」

 

「佐門も知ってると思うんだけどさ、私たち連合は今人手不足…早く他のメンバーが欲しいのよね。

 警察やヒーローに忍、3勢力が徹底的に私たちを追ってる中、仲間探しは流石に厳しいのよ。

 私一人なら、あんな奴ら大したことないんだけど…他のメンバーが心配でね?荼毘とスピナー辺りが厳しいかしら?」

 

「つまり、俺たち忍商会と敵連合…組織同士手を組むってことか?」

 

「出来ればそうしたいのだけど…それはまた別。

 私個人として組む話は別にあるの――」

 

「なんだ、言ってみろ」

 

 呆れるような、面倒くさそうに聞く佐門の心境は全く別だ。

 正直、今は敵連合と協力する気は毛頭ない。魔門や亜門とは全く違う目的があるし、組織のことなど今となってはどうでも良いのだ。

 しかし態々ここまで聞いてしまった以上、怪しまれるのも困る。尤もこんな厄介なヤツが何をしやらかすか、解ったものじゃない。

 まだ、計画がバレるわけにもいかない。誰にも悟られる事がないように、上手く誤魔化して追っ払うしかない。

 

 

「あのね――獄獅狼を探したいんだけど」

 

 

『!?!?!』

 

 漆月の口から出たその名を聞いた途端――一同は震え上がり一気に視線を向ける。

 まるでとんでもない言葉を口にしたかのような反応に、漆月は面白がるようなクスクスと

 

「あら、どうしたのかしら?皆んな顔面蒼白よ?呼吸も乱れてるし、仮面越しからすっごい冷や汗を流れてる…もしかして私、何か変なことでも言ったのかしら?」

 

 悪魔の微笑みを浮かべる漆月。

 変なことだと…?このクソ(アマ)、本気で言ってるのか?

 俺たちを殺す気か……

 

 

 アイツは――100年以上生きる天災だぞ!?!

 

 

 獄獅狼

 年齢不明、個性または忍術不明、戸籍不明、所属グループ無し、情報は全て皆無。

 隅から隅まで謎だが、殺人件数やカグラを葬った数は数え切れないと言われてる、忍の天敵だ。

 それこそ、彼こそがカムイと名乗るに相応しい――

 そんな化け物を、漆月は飼い慣らすかのように、仲間に引き入れると言うのだろうか?

 

「ホラ、アイツなら立派な戦力になれるじゃない?弔も大喜びすると思うの…褒めてくれるかな?ううん、褒めてくれるわよね。

 何たって私と弔は――切っても切れない、永遠の絆で結ばれてるから♡」

 

 まるで赤い糸で結ばれてるように、死柄木と漆月はもはや表と裏という表裏一体の関係だ。

 彼女に似合わない其の引き釣った笑顔は、殺意と悪意を蓄えて曝け出していた。

 その殺意に引き当てられ、思わず悪寒を覚える一同は、顔を顰める。

 これ以上は危険だと察した佐門は

 

「お断りだ――」

 

 拒否の意思を示すよう、断言した。

 

 

「幾ら何でもアイツは危険すぎる。俺が全力で対峙しても命が幾つあっても足りねぇ…

 アイツを一人、組織全員敵に回したとしても、勝機はねぇし核兵器を使っても倒せやしねえだろうよ…そもそも目撃情報が無い今、生きてるのかさえ判らない。探し出すにしろどっちにしろかなり厳しい。金とかの問題じゃねえんだアイツは、なぁ?お前も死ぬぞ――」

 

「あらぁ、もしかして私の心配でもしてくれてるの?有難う佐門くん♪けどその件については大丈夫――私は絶対に死なない。

 何なら佐門を殺さないようにしてあげる事だって可能よ?私ならやれる、そして私ならアイツを仲間に引き入れることくらい訳ないから♡」

 

 そんな事が可能なのだろうか?なんて疑いを持ってしまうほどに、その内容は意外的なものだった。

 ハッタリにしては、こんな自信満々な顔を浮かばせるだろうか?策もなく単に悪事を働くような女じゃ無いことなど、今日コイツと会って直ぐに身に染みた。

 

「随分と自信満々なんだな…

 仮にその案があったとしても俺はお前ら側にはつかん。

 知っての通り俺らは多忙の身…俺だって手が付けられないほどに忙しいんだ。他を当たってくれ」

 

 正直、自分はコイツら敵連合に就く気も協力する気も更々無い。

 此方は手が付けられない…という理由は間違いではないが、組織の仕事上では関係ない。

 それとは別、魔門や亜門の筆頭や其れ等率いる幹部達にも話してない、自分の仲にしか知られてない計画がある。

 其の為、敵連合の組織はもちろん邪魔以外の何でもない存在、漆月なら尚更だ。

 佐門は厄介払いするよう口を開く。

 

「そもそも得するのはお前ら側だろう?俺たちには何の利益もないじゃねえか」

 

「何言ってんの?利益ならあるじゃない――」

 

「ん?」

 

 

 

「獄獅狼を仲間にした後、アンタも仲間に入れば良いのよ!」

 

 

 

「――は?」

 

 彼女の言葉に佐門は唖然とする。

 まさか…俺を連合の傘下に引き入れるための、獄獅狼なのか!?アイツを仲間に引き入れて、俺も連合に赴けと?

 確かにそれなら漆月の言う通り、敵連合の危険意識は高まり、圧倒的な戦力一つで命の保証は確立される。連合にいれば、命を狙わようとそう易々とヒーローや忍から倒されることは無いだろう。

 それなら文句はない…だが

 

「お嬢さんや――あんま儂等を揶揄わん方がええぞ」

 

 それを黙って見過ごすほど、ここの闇組織は甘くはない。

 丸刈りの坊主頭をした男はニッと優しい笑顔を見せるも、行動は当たって凶暴だ。拳を構え、殴りかかるも漆月の頬を寸止めしている。

 漆月は眼中にないように、坊主男を見向きもせず口を開く。

 

「アンタ、誰?」

 

「申し遅れました、私は佐門様(マスター)に使える道具。忍商会十悪業者――綺語道楽と申します…以後、お見知り置きを」

 

 忍商会十悪業者、九ノ座――綺語道楽。

 笑顔とは裏腹に凶暴性を備える道楽は、佐門率いる幹部の中でも下位の順位に当たるものの、実力は有る男だ。

 肉弾戦を得意とするパワーファイター、綺光忍法を使用する曲者である。

 

「やめろ道楽。

 此処で暴れりゃあ騒ぎが起きてプロヒーローや忍が駆けつけに来る。そうなりゃ此処の基地はヒーローと忍に怪しまれる。それにコイツがウチの門じゃねえ以上、手出しは出来ねえ。あくまで交渉…それに下手に動けりゃコイツが何をしやらかすか解らねえからな。被害はなるべく起こしたくない」

 

「うっす…マスターがそう言うのなら…失礼しやしたぁ…」

 

 腹黒い心の中で舌打ちをしながら、拳を引っ込めて後方へ下がるものの、警戒態勢を解かず構えを取っている。

 しかし、それに対して漆月は不気味なほどに笑顔を引き攣り立てていた。

 そんな漆月に多少の気味悪がりながら佐門は口を開く。

 

「残念だが、俺はお前らの傘下にはならん。

 確かに獄獅狼がバックについてれば敵なし…魅力ある話だ。だが、その理由を機に組織を抜け出すことは許されないってことを、お前は知ってるか?

 さっきも言った通り俺たちは暇じゃねえ…俺たちには期待しない方が良い。協力関係なら話は別だが…さっきの言葉通り、どの道お前が俺たちと手を組むことはない」

 

 立ち去れと言わんばかりの視線を飛ばす漆月は、ニヤリと口角を上げると

 

 

 

 

「それならもっと簡単よ、忙しいなら私がアンタの仲間になって動けば良いんじゃない?」

 

 

 

 

「――はぁ?!」

 

 彼女のぶっ飛んだ台詞に、佐門は思わず驚嘆な叫び声を上げる。他の一同も表情を曇らせ困惑している。

 ――コイツ、このクソ(アマ)ぁ!

 仲間に引き入れるかと思ったら今度は仲間にして下さい…だと?一体全体どう言うつもりだ?

 お前が言った其れは、つまるところ敵連合の仲間を裏切るって言ってるようなもんだぞ?!

 いや、コイツは死柄木の思想の下で働くヤツだ…簡単に組織を裏切るとは思わねえ…と考えると、コイツの本当の目的は何だ?何がしたい?

 そこまでして俺達に執着する理由が見当たらねえ――少なくとも、会話内でも検討が付かないだろう。

 

「って言うかさ、ずっと不可解に思ってたことがあるのよねぇ〜……何で私はアンタの質問に答えてあげてるのに、佐門は一向に喋らないのかしら?」

 

「!」

 

「アンタ達の戦力が増えるのは本望よね?其れなのに協力関係は築けず、仲間に入るって言ってるのに何も言わないなんて、如何にも怪しすぎるわよねぇ…?もしかして佐門くん

 

 

 ――私と組むのに何か都合が悪い事でもあるんじゃないかしら?」

 

 

 探るように、執着する漆月は虫のように不気味だ。全身に虫が纏わりつくかのような、背筋がゾッとする。

 まさか…コイツ…俺達の真の目的を探ってるのか?

 元々疑い深く疑心暗鬼の強い佐門は、漆月に様々な質問を繰り出していた。

 しかしそれが逆に彼女の狙いだったのか、初めっから情報を与えず、不確定のまま態と質問をさせ、後から自身が質問に答えるように仕向けていた。

 彼女に問い続ければ、自分が答えたくない情報をいずれ答えにするよう質問しに来るハズだ。

 仮に質問に答えなかった場合、更に疑いを向けられ怪しい印象を強く与えれば、何れ計画がバレてしまう危険性はかなり高い。

 

 

「ねぇ佐門、私すっごーく気にな――」

 

 ポンッ!

 

 肩の上に手を置かれた瞬間。

 反射的に漆月は背後にいる人物へ視線を移すと

 

「組織内の秘密は、如何なる理由があれど外部に情報を漏らしてはならない」

 

 口元に黒マスクを覆う男は、漆月の肩を掴んでいた。

 刹那――漆月は肩を掴んでた男の手を払い、凄まじい勢いで後方に下がる。

 ズザザザ!と床と靴が擦れる音を部屋に響かせながら、先ほどの妖美な笑顔とは反面、獲物を睨みつけるかのような敵意の視線をガン飛ばす。

 対して黒マスクの男は、払い除けられた手をパッパと払う仕草を取り見つめ直す。

 

「良い反応だ。

 素晴らしい反射神経、無駄な動きもない… 流石は全国指名手配犯なだけあって、今まで生きて残れた訳だ――」

 

(コイツ、力いっぱい肩を掴んでたんだがな…簡単に払い除けやがって…何者だ?

 しかもかなりのやり手だな…あの反応速度…相当鍛えこんでやがる)

 

 表面上、強者の余裕と言わんばかりに上から目線で語りかけるも、内心は彼女の秘めたる強さに目を細める。

 払い除けられた手は痛みによる刺激で僅かに痺れが生じている。

 

「アンタ何者?

 昔とは違って、今の私の背中を取れるヤツなんて、Mr.コンプレスやトガヒミコ、鎌倉でも出来やしないわよ?

 それなのに私に気付かれずことなく背中を取るなんて…一本取られたわ」

 

 四角からの奇襲は効かず、至近範囲内の距離では目を瞑ってでも避けられるにも関わらず、漆月は彼の存在に気づく事が出来なかった。これは彼女にとっても大きな致命的な点である。

 

「嗚呼、そう言えば生で逢うのは初めてだな。俺は忍商会筆頭No.3佐門の補佐を務める身…幹部(商品)を纏め上げる最高幹部。忍商会十悪業者――嘘月妄語だ」

 

 忍商会十悪業者、一ノ座――〝嘘月妄語〟

 忍商会の幹部メンバー全員を佐門の代わりに指揮する筆頭の補佐だ。その実力は折り紙つき、肉弾戦格闘と言った忍術なしの戦闘では佐門をも凌駕する手練れの抜忍だ。

 実力は本物、何しろ最高幹部ゆえに佐門率いるメンバーの中で一番強いのだ。

 

「最高幹部?へぇ…貴方が。

 どうやら…只者じゃないわね――貴方なら楽しめそう♪」

 

 ニィっと、殺意を込めた瞳を放つ漆月は、野性味溢れる笑顔を作り出す。まるで肉食獣のような残酷な笑みは、常人が見れば殺意に慄くるだろう。

 

「組織内の秘密が外部に流される危険性を踏まえて、信頼性も何も無い私と組むのを敢えて拒否するってわけね。

 ワザと質問に答えてあげてから、アンタ達のこと問い詰めようって腹積もりでいたんだけど…

 ちゃんと組織のこと考えてる辺り、しっかりしてるじゃない♪流石は忍商会ね、やっぱ上手く思い通りには行かないわよねぇ♡まぁ、いっか――これ以上聞いても何も収穫無さそうだし、いつまで此処にいても時間の無駄…帰らせてもらうわ。

 けど忘れないで――また来るから♪」

 

 諦念したのか、溜息を吐いて踵を返す漆月は、襖を開け背中を相手に見せる。

 やっと厄介なヤツが消え去ってくれる…そう一同が安堵の息をついた途端、彼女は思い出したかのように振り向き

 

 

「それじゃあ精々頑張りなさいな――その仕事ごっこ(おままごと)

 

 

「――はぁ?」

 

 そう意味深い言葉を告げた後、襖を閉めて何処吹く風か、消えて行く。

 

(――まさかだとは思うがアイツ…俺の計画に勘付いてやがるのか?

 いや、外部からの情報は絶対にバレないよう細工を施してある。テレパシーや読心術でもない限り、計画を知らされることは先ず無い。

 だがあの様子だと気付いてる様子…何が目的なんだアイツは?少なくとも俺たちを仲間に引き入れるってのも、手を組むってのも嘘…いや考え過ぎか?

 本当の目的が解らない以上、アイツは注意するべきだな)

 

 此方側に情報を流さないよう、防止の為に術は掛けているので心配は無いが、漆月の出方が解らないのであれば、確認する仕様がない。

 

「お前ら、今後から漆月には注意しろ。

 何を考えてるか解らん、得体の知れないアイツの目的が解らない以上、何をしでやらかすか分かったもんじゃねえ。

 今度また漆月を見かけたら情報を寄越せ、アイツが計画の邪魔をする場合は――迷わず殺せ、良いな?」

 

『御意』

 

 血の通わない冷徹な声で命令を下す佐門に、幹部達は了承する。

 もし此方の計画に勘付かれてしまえば最悪だ。今のでハッキリしたのは、計画を進むのにつれて漆月は必ず障壁となるだろう。

 佐門にとっては厄介すぎる敵…

 

(考えたくもないものだな…あんな小娘一人、俺たちが振り回されるなんざ……)

 

 漆月という得体の知れない女は、佐門に粘りつく不安を与えていた。其れは紛れも無い事実。

 着実に外堀から埋めて、内側から己の思惑通りに状況を作り上げ、操作する。

 漆月の回りくどく、悪質で気味悪いやり方は、正しくオール・フォー・ワンに似ている。

 

 佐門は苦虫を噛み潰したような顔で、漆月が先ほどまで佇んでた場所を静かに黙視していた。

 

 

 

 

 

 

 

 場所と日時は変わり、一週間以上が通り過ぎた日の今日、ヒーロー仮免許取得試験当日!!

 

 

 

 

 




少し早いですが仮免試験、次から始まります!
漆月ちゃんが以前よりも中身が大人っぽくなったのは、お気付きでしょうか?


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