光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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僕のヒーローアカデミアの三期、面白すぎて正直来週まで待ちきれない作者。
そしてダリフラで早くも神展開が来て思わず喜ばしくなった作者。
1日が早すぎて42時間にならないかと切なく思う作者。
最近、季節が暖かくなり暑いと感じる作者。


これぞ作者四天王。






仮免取得編
120話「始まるぞ寮」


 

 

 

 

 

 

 

神ノ区半壊事件を始めとし、社会は大きく変わった。

市民による人々の価値観、社会への信頼は、まるで塗り潰されたかのように変わり、今後どう未来を生きていくのかさえ不安な始末。

その大きなキッカケが――平和の象徴・オールマイト引退という、揺るがない大きな事実。

全国のニュースでも記事が取り上げられており、既に五年前から事実上活動出来る体ではない事が判明された。

二度と復帰する事すら叶わないその身体の傷と負担は、これまで幾多ものの命を守り続けて来た、ヒーローの名誉を飾るに相応しい代償だった。

アメリカでも起きた謝罪会見、不安と気難しい気な口はあったものの、彼を責める人間は誰一人として存在しなかった。

 

次にNo.2燃焼系ヒーロー・エンデヴァー。

オールマイトとエンデヴァーの、一位と二位の差は天と地ほどに大きく存在するも、オールマイトが引退した事により、現世代のNo.1を飾るのが彼に当たった。

市民の難儀な声も上がっており、本人自身も納得のいかない顔立ちではあるが、ヒーロー社会の流れから察すれば当然の結果。

また、エンデヴァーに対する不満や批判の声も僅かながらに上がっている。

 

No.4ヒーロー、ベストジーニスト。

神ノ区、敵連合捕縛及び人質救助の任務の結果、大きな傷害を受けた為、長期の活動は休止。

ヒーロー活動を復帰するには時間が掛かるとのこと。

 

更にNo.32ヒーロー

ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ。

四味一体、集団活動で働くヒーローチームの内1名、ラグドールが敵連合に拉致された後、何かしらの原因によって個性が発動出来なくなったという変調が発生し、今後のヒーロー活動は難しいとさえ言われてる。

世間では公表されてない、極一部の人間が知る事実なのだが、ラグドールが個性を扱えないのは、個性が無くなってしまったからであり、よってラグドール自身無個性という体質になってしまったのだ。

その元凶たる男が悪の象徴・オール・フォー・ワン。

彼に個性を奪われた為、彼女がヒーローに戻るのもほぼ無理に近いとさえ言われており、今後、チームの活動は不明。

 

 

次に話すは忍が生きる影の世界、忍社会。

神ノ区で起きたあの大規模な被害により、忍の存在が明かされてしまった今、今後とも忍の活動は変化し、表社会に羽ばたくヒーロー達との協力も欠かせない物となって来た。

忍側で起きた出来事――

 

オールマイトを庇った伝説の忍・半蔵は致命傷を負い一命は取り留めた物の、二度と忍として影に舞い殉じることは叶わず、普通の生活さえどうかと言われている。

なお、市民からは忍の存在や隠密にしてた動機など疑問を問われており、今後ともイメージを改良するべく、ヒーローと協力する忍が必要となって来るとの事。

 

――次に秘立蛇女子学園

負傷者は学園長を始め、鈴音、雅緋、忌夢の四名が重傷を負い、 体への負担も大きいと言われている。

学園長は悪忍が取り扱う忍専門病院に搬送、入院し、復帰するのは不明。少なくとも命に別状はない。

鈴音も同じく入院したものの、今後は二度と忍の活動が出来ないと医者に告げられた。

元々鈴音は、神威討伐任務に当たっており、成す術無くオール・フォー・ワンに倒され負傷した結果、後遺症が残り、忍として活動することも不可能に近いと言われていた。

しかし今回無理を通して来たものの、二度目の重傷を負った事により、オール・フォー・ワンの言葉通り、普通の生活すらままならなくなった。

雅緋は深い傷を負ったものの、命に別状は無く、忌夢同様復帰するのに時間はかかるが、理事長見たく長引くことはないらしく、治療を受ければ直ぐに回復するそうだ。

オール・フォー・ワンの正体不明な個性、仮称〝指先から衝撃を放つ〟個性を一発喰らったとはいえど後遺症もないのは、血塊突破をした彼女の精神とタフネスにあるのだろう。

 

忍の存在が明かされた今、日向も日影も跡形もなく無くなってしまった現代。

オールマイトの穴を埋める新たな戦力、そして忍へのイメージ改良。

 

この二つが課題点になるだろう。

 

 

ただ、忘れないで頂きたい――

 

 

 

忍は、戦国時代から既に存在してる身。

故に忍とは妖魔を滅する者、影で暗躍する闇の使い。

忍が今も存在するのは、妖魔を討ち滅ぼす為。

そして――神威と呼ばれる邪悪な神を滅する為。

 

 

妖魔は今も――生きている。

 

 

 

 

 

 

山岳地帯。

立入禁止区域として、硬く足を踏み入れる事を禁じられた地区。

人気もない、雑草すら生えないゴツゴツとしたこの場所は、足場が悪く事故を起こす危険性が高い為、危険スポットとしても有名であり、立ち入るにはどうしても上層部への許可証が必要なのである。

 

ヒーローや忍すらも迂闊に近づけない、手も足も出すことの出来ないこの場所には、確かに何者かがいた。

 

 

「…………」

 

薄っすらと見える人影。

黒いマントで身体を覆うその巨躯は、ざっと三メートルはあるだろう身長の高さ。

大型敵と比べるとさしずめ、巨体と呼ぶには相応しくないが、常人の約二倍の高さがあるだけで、巨人と呼んでも過言ではないだろう。

 

「……………フゥー……フゥー……」

 

僅かに震えてる息遣い。

口からは血生臭い匂いが放たれ、呼吸をする度に真っ赤な血の吐息が漏れる。

ポタポタと溢れる涎は、ジュワリ…と音を立て消化される。

黒いマントを覆う者は、忌々しそうに新聞を広げ、ある一点の記事を読めば、より苛立ち新聞を滅多打ちに破け散る。

 

一件の記事を見つめていたのは只一つ。

――『神ノ区半壊。敵連合のボス、巨悪逮捕!!』という記事。

 

 

「――グルルゥァ…………忌々……しい……」

 

 

咬み殺すかのように歯を食いしばり、獣の唸り声を上げ、全身の血管が浮かび上がる。

屈強な身体は豹のような黒い体毛で覆われ、狼のような口に獅子の顔立ちをした異形の男は、横に仰向けに倒れてる死骸を鷲掴みにし

 

 

――グシャリ!!

 

 

顔面を食らう。

死骸特有の腐臭が辺り一面に漂うも、御構い無しと表情一つ変えず、黙々と喰らい続ける。

骨も食い、内臓を食い破り、血で喉を潤す。

 

 

「もっと……もっと………妖魔を食わねば……」

 

 

この者が食してる死骸は、正真正銘――妖魔。

下半身が百足、上半身は花魁のように美しい女性の姿をした人間。

今彼が食してる死骸は、神隠しに遭うと言われる地下洞窟に巣食っていた妖魔だ。

 

「何故……いつもいつも!忍が世を蔓延る……俺の元から奪い去る……!!!」

 

血走った目に忿怒を燃やし、歯軋りを立てる。

男は青筋を額に浮かばせながら、妖魔の腸を食い荒らし、ニッチャニッチャと嫌な音を立てながら死肉を噛み殺す。

 

「………偉大たる厄災の神が……()()()()…減った……」

 

音立てず立ち上がる屈強な男は、眼光を赤く光らせ、涎を垂らしながら漆色に塗られた爪を輝かせ、体毛を掻き毟る。

 

 

「………早く………願望を……使命を果たさねば………」

 

 

妖魔を喰らう男の名は――獄獅狼

〝悪の象徴〟オール・フォー・ワンがタルタロスに送り込まれた事により、現在で尤も危険的な害意を及ぼす、忍の天敵。

忍を憎み、世界に拒まれ、人間を辞めた者――

 

 

 

次世代の――新たなカムイである。

 

 

 

 

 

 

 

 

爆豪と雲雀が拉致された二人は、警察の手続きが終わった後、直ぐに自宅へと送られた。

警察の事情聴取や、本人身調べの確認は面倒で、終わった頃には夕暮れだったそうだ。

 

調べた結果――爆豪勝己と雲雀の両者は傷痕や個性による害意を受けた痕跡は無く、無傷で済んだようだ。

しかし内心は個人による問題なので、今後カウンセリングを受ける必要があると警察から言われている。

 

 

何がともあれ、こうして二人は無事に救出された。

 

 

 

 

 

 

 

――そして一週間が過ぎた。

こう言ってしまうと唐突な物言いに聞こえるだろう。

しかしこの一週間は雄英高校に於いて、忍学校においても有効な時間且つ敵に対する危機意識、生徒への安全性を立てることが出来た。

現代の超人社会、平和の象徴オールマイト無き今、絶対戦力が失われたことにより、平和の秩序が乱れ、世の中は少しずつ犯罪の魔の手に染まりつつある。

雄英高校は敵連合に二度も襲われ(ステインと死柄木、漆月は遭遇という事故)、市民達による難儀の声が上がっているのはお解りだろう。

僅かだが、オールマイトが雄英に赴任したのが問題と言う批判も上がっている。

数々の不安を重ねるにつれて、雄英の安全性による保証が薄れ、生徒の命が危険に晒される畏れが高くなりつつある。

体育祭見たく折れない姿勢を作り出すのも困難。

 

 

そこで――全寮制

 

 

拭いきれない不安を取り除くことは難しく、これからはより危機意識を保ち生徒の命を守り育たねばならない。

敵連合という存在だけでなく、世の中には犯罪の手に染めた敵が影でうようよといるもの。前回の騒動の波に乗り、馬鹿騒ぎをする敵も不思議では無い。

 

だからこそ、今度は雄英の教師陣達で絆を紡ぎ、強くしていかなければならない。

オールマイトというたった一人の英雄が繋ぎ止めたヒーローへの信頼を。

――次に忍学生の扱い、これは既に考え対策している。

 

 

オールマイト引退の事実にいち早く対策するべく、『不雪帰』が月閃家直系の忍を二名派遣させ、新たな敷地を設け――『忍基地』を設立させた。

 

 

忍基地とはその名の通り、忍専用の基地。

元々、〝シノビマスター〟という大規模な大会の為として用意されたらしいが、特例中の特例、及び体制を整えるべく創建したらしい。

莫大な資金を費やすも、負担は名のある財閥家達が出資しているらしいので、心配は無用らしい。

そもそも、巨大仮想敵という軍人が使用する兵器を所持している時点で知れてるが――

 

 

また忍基地は雄英の寮とは少し離れた場所に設立されてるので、距離感や授業の支障は出ない。

雄英生達と同じ寮にしなかったのには理由が存在するものの、決断したのは校長である。

学生寮と、忍基地と言う忍の寮。

因みに雄英の方の寮はA組とB組の二手に別れており、忍基地は半蔵学院と死塾月閃女学館の二校を合同にしてるそうだ。

なんでも忍学生の数は少ない故に、ペースも空いてるので、問題無いそうだ。

これも合同任務…として理に適ってるそうで、反対の意見は無かった。

半蔵学院は元々全寮制なので、手続きや説明、親の公認に手間はかからなかったし、月閃女学館も寮制なので異論は無かったそうだ。

当然といえば当然なのだろうか、手を焼いたのは雄英生たちの方だ。

忍学生と比べてヒーロー学生の数は1クラスで20人も所属しいるので、家庭訪問は二手に分かれて行われたのだ。

A組は担任の相澤とオールマイト、B組は担任のプラドキングと校長・根津。

オールマイト曰く、一番危なかったのは緑谷出久だったらしい。

危うい…と言っても家庭内による暴力という訳ではないが、緑谷だけ違う学校へ転入させられる所だったのである。

他の方なら致し方仕方ないことはあるが、彼はオールマイトの後継者、そしてオールマイト自身には弟子を育てるという師匠の役目がある。

師の元から離れてしまうのは無理にも程がある。

しかし親の意見を聞いた上で、物事を丸めて解決出来たのも、師匠であるオールマイトのお陰だろう。

 

こうして無事、何事も怖れることなく全員、全寮制として新たな学生生活がスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

雄英高校、校長室。

植木鉢や本棚が部屋に並べており、いい味を出している。

机の上には雄英に関する資料は勿論、忍学生による情報資料が置かれていた。

 

「忍学生も全員寮制の公認を貰ったし、今後は一先ず様子見かな…

 

取り敢えず忍基地の件、感謝するよ――『閃光』くんに『月光』くん」

 

「いえいえ、雄英が困ってる以上見過ごす訳にはいけません。

お力添えになれたのなら光栄ですし――」

 

「ああ、不雪帰様の命令でもあるからな」

 

妖美で穏やかな性格をした、柔らかな笑顔を絶やさず振る舞う少女の名が――月光。

月光とは対照的に違い、クールな振る舞いで沈着冷静という言葉そのものが具現化したような少女が――閃光。

 

二人は死塾月閃女学館創始者である月閃家直系の忍であり、腹違いである。

 

月光の腹違いの姉が閃光

閃光の腹違いの妹が月光

 

見た感じ二人は双子のようにも見える故に、二人でいる事が多い。

そして二人もまた、死塾月閃女学館の中等部所属である。

因みに月光は月閃女学館の購買部の役割を担っていたものの、二人ともとある事情で学校から離れ、海外に出張し修行を受けていたらしい。

 

「いやいや、充分に感謝してるさ。忍学生とはいえ学生の身……今までは漆月の件で協力態勢に謹んでた訳だが…一筋縄じゃいかないようになってね」

 

「敵連合の件ですか」

 

「うん。生徒が拉致されたのは我々にとっても大きな痛手となった……それだけじゃない、忍学生も狙われる後始末じゃ例え運良く二人とも無事に救出出来たとして、その後のことも考えると安心なんて出来やしないからね」

 

事の発端はUSJ襲撃から始まり、次に林間合宿でも敵連合の襲撃を受けてしまった。

裏でオール・フォー・ワンが操っていたという説もあるものの、どれも具体性がなく、根拠もない。

今後こう言った生徒の襲撃を許してしまえば、今度こそ雄英高校の安全性も無くなり、批判は殺到するだろう。

況してや生徒達の命を狙えるのは、学校だけとも限らない。

オールマイトがいない今、外出中に敵と遭遇し被害を受けたでは話にならない。

生徒の命を考えて、全寮制にしたのである。

 

 

「しかしそれはあくまで表面での話……本当の目的は幾つかあるのだろう校長?」

 

「流石は月閃家の忍、中等部所属とはいえ、伊達に並みの修行を受けてる訳じゃないね。その通りさ――

これはあくまで世間の目を誤魔化す為、生徒達の命の安全性を保証する為の手段…本領は――〝内通者〟探し」

 

職員会議でもあったように、幾つか不可解なケースが存在する。

USJ襲撃の時など、マスコミを利用し、混乱に乗じてカリキュラムを奪うなんて考えはオール・フォー・ワンか主犯格である死柄木達の考えによるものかもしれないが、それにしては呆気ない。

生徒達の情報も知らないとはいえ、オール・フォー・ワンも忍の存在を知っていたとはいえ、雄英高校自体に忍学生を派遣した情報は国家機密、教師陣にしか教えてない。

考えすぎであれば、敵連合の手が一枚上手だったとも言えるが、問題が大きいのは林間合宿だ。

親や生徒には内密にし、林間合宿の行先は教師と合宿先に務めてるプロヒーローでしか知らないようになっている。

前にプレゼント・マイクが言っていたように生徒達の位置情報などのケースもあり得るし、生徒の内通者疑惑も立っているが、向こうは生徒達全員を殺害しようと息巻いていた。

そんな連中が、態々内通者も巻き込み殺そうとするだろうか?

聞いた話によると、毒ガスと炎の森で囲まれ、大きな被害をもたらしたと聞いた。

実際にB組の殆どの生徒が被害に遭ったと聞いている。

その中で安全な生徒も極わずか…とても生徒だとは考えにくい。

そうなると、教師陣の中に情報を連合に流してる人物がいると見なして良いだろう。

といっても100%白だと証明することは出来ないものの、そのキッカケを掴むの事くらいは出来るはず。

 

「雄英学生と、他校の忍学生、二つの寮を分け隔てたのもそのためさ」

 

「成る程…忍学生にも内通者がいる危険性がある。

外は監視カメラで捉えてるし、怪しい動きがあれば駆けつけに行くという事か……」

 

「その通りさ!私も出来れば生徒に疑いの目を向けるのは胸が裂けるほど辛い…教師達もね。

職場の中でも彼等は仲間みたいなものさ、そんな中に内通者がいるとも考え難い…

それでも立場上は仕方ない」

 

「下手に動かすよりも泳がせて尻尾を掴む…という考えには大きく賛同です」

 

月光は優しい上に上品で大人の雰囲気を曝け出す、お淑やかな一面を備えてるが、こう見えても意外とサドっ気もあるのだ。

こう言った戦法は実は得意だったりする。

 

「君たちも、ここに来た以上やるべき仕事は沢山あるだろうが…どうか、我々雄英と供に、明るい社会を…未来を築き上げていきたいと、心の底から願っている」

 

「勿論です……敵の活性化…そして抜忍の悪事による暴走が働けば……」

 

「血の匂いに嗅ぎつけ、妖魔も増えるだろう……

いや、既に何匹かの妖魔も動き出してると聞く……野生型ならカグラが対応してるも、特殊な妖魔は話は別だ」

 

特殊な妖魔とは、人間の体に妖魔が住み着いた、又は人間が妖魔になった特殊な個体が存在するそうだ。

忍の血が集い造られた妖魔などはカグラでも対処出来るので、補充さてあれば問題ないという上層部の意見が多かったが、人間の体と妖魔が合わさった特殊な個体はレベルが違うらしく、カグラの殆どが殺られたという報告もあったそうで、現在はカグラを呼び集め、近々会議が開かれるそうだ。

 

「うん、有難う。それじゃあ、不雪帰に宜しくと言ってくれると助かるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄英高校。

現在、出来立てホヤホヤのハイツアライアンスを前に、一年A組のクラスが全員集合した。

 

「えー、取り敢えずA組。何事もなくこうして無事にまた集まれて何よりだ」

 

相澤の言葉に周りはザワザワと喋り出す。家庭訪問で全寮制の説明をするのに回ったとはいえ、厳しい反応もあった。

林間合宿でガスの被害を受けた耳郎と葉隠や、複製腕とはいえ腕を斬られた障子、黒影で暴走し連合に拉致されたかけた常闇、そして合宿で飛鳥に負けず劣らず重傷を負った緑谷。

相澤は途中でオールマイトと別れ(緑谷の家庭訪問に行って)違う家を一人で回っていたので、緑谷の事情は分からなかったが、オールマイトから聞いた話だとかなり厳しかったようだ。

 

「けど全員集まれたのは先生もよ…会見を見たときはいなくなってしまうのかと思って悲しかったの…」

 

蛙吹梅雨の言葉に隣に立っていたお茶子も軽くうん…と頷く。

相澤やブラドの二人もかなり厳しい状況下、退職なんて事にならなかったのも、オールマイトの事件を通してという意味も含めている。

もし生徒に何らかの被害があれば、それこそ取り返しの付かない事態になっていたし、下手すれば教師退職なんてレベルでは済まされなかっただろう。

教師というものは、教育者であり生徒の命を第一優先に考え責任を負わなければならない。

こう言った意味ではヒーローにしろ教師にしろ、先生というものがどれだけ大変なのかが解る。

 

「俺もびっくりさ…色々あったんだろうよ…俺も〝あの人〟も…」

 

あの人…とは霧夜先生のことである。

今回の件で霧夜は上層部に責められており、下手すれば切腹すらもあり得た話なのだ。

しかしこうして爆豪と雲雀が連合の悪意に誘惑を受けることなく救出された為、今回の件ではオールマイトと半蔵の事もあり、お咎めは食らわなかったそうだ。

 

「さて、寮の説明の前に重大な話がある。

当面は合宿で取る予定だったが…仮免取得に向いて動いて行く。勿論、忍学生もな」

 

「わ、私達も?」

 

飛鳥の少し予想外な声に相澤は黙って首を縦に振り頷く。

 

「忘れがちだが…お前らが雄英と協力関係に当たってるのはあくまで漆月処罰の任務…だった筈だ。

しかし漆月が敵連合と接触した事によって、漆月だけでなく追加任務として連合の捕縛も加わった…

 

上層部が下した任務を受けてる身だ。よって連合に対して忍術を使用するのに許可を取る必要はないが、他の場合…話は別さ」

 

任務中での忍法使用は個人に任せられてるので問題は無いが、それ以外は話は別だ。

もし連合や漆月とは無関係な敵と遭遇したとしても、戦闘は許されない。

蛇女を始めとした悪忍が許されてる辺り、平等の批判もあるが、ソレは善忍と悪忍の区別のため仕方ないだろう。

何しろどれだけ正義感があって善良な行動に移ったとしても、下手すれば警察やヒーローが駆けつけに来る騒ぎにもなる。

近々犯罪率が上がれば当然、あの後の余波に当てられ暴走する敵が世の中に溢れるほどなど時間の問題。

雄英生は勿論、忍の存在が明るみになった彼女達にすら厄災が降りかかるだろう。

 

そのため、忍学生も仮免取得が必要になったのだ。

林間合宿では特に気にしてはなかったものの、今じゃ仮免は必須だ。

 

「おお!それじゃあ――」

 

「と、そしてもう一つ」

 

瀬呂の胸弾ませる歓喜の声を上げようとした矢先に、相澤のドスの利いた声が、沈黙を作り出す。

また合理的主義か?と反射的に考えて込んでしまう。

 

 

「緑谷・轟・切島・飯田・八百万・飛鳥・柳生……以上が、あの夜あの場で爆豪・雲雀の救出に赴いた」

 

 

しかし、全員の予想は相澤の言葉に裏切られ、思わず息が詰まった。

病院での出来事、全員は反対した。

飛鳥と柳生は忍専門病院だったのでお見舞いに行けず、彼女二人が同行したのは夢にも思っていなかった。

 

 

この七人が、あの夜大規模な被害を受けた街にいたのかと考えるだけでゾッとする。

ソレがどれだけ危険なのか、下手すれば死人がいても可笑しくなかったものの、生きてるだけで奇跡のようなものだ。

 

 

「って言っても、忍学校…他校にも一人…雪泉と言う生徒とも同行してたそうだがな…

全員で八名だ。

その様子だと行く素振りは皆も把握してたワケだ

 

飛鳥と柳生は…当担任の霧夜先生からこっ酷く言われてると思う…ここでとやかく言うのも何だが…一応今はお前らの担任としても務めている。

色々棚上げた上で言わせて貰うよ――もしも、だ。

オールマイトの引退が無けりゃあ俺は、爆豪・耳郎・葉隠・雲雀以外全員除籍処分にしてる」

 

『!』

 

相澤の切り捨てたような物言いに、一同は息を呑む。

相澤は元々無駄が嫌いな合理的主義の人、ソレは入学初日の個性把握テストの時点で知っている。

況してや冗談嫌いな先生なのだから、問答無用で除籍処分にしてるのも可笑しくは無いし、寧ろオールマイト引退が有ったからこそ、こうして全員集まる事ができるのだ。

飛鳥と柳生の二人を除籍処分…と言うのは、些か可笑しいものだが、任務外で無茶無理無謀を通して死んでしまう危険なケースを考えると、学校に生徒を置いて行く訳にもいかない。

学校で死ぬことなど先ずあり得ない…といえば、超人社会何が起きるか解ったものではないので言い切れる確証はない。

 

「彼と飛鳥のおやっさん…半蔵の引退。明るみになった忍の存在…今後しばらくは混乱が続く。

敵連合の出方が解らない以上、今雄英から人を追い出す訳にはいかねえし、忍との協力体制も維持したいのが本望。

行った八人は勿論、把握しながら止められなかった者全て理由がどうあれ俺たちの信頼を裏切ったんだ。

 

お前らが負い目を感じるのなら、正規の手続きを踏み、正規の活躍をして信頼を取り戻してくれると有難い。まあ、今すぐにって訳じゃないけどな」

 

クルッと背中を向ける相澤は、空気を切り替えるかのように「さて、報告は以上!中に入るぞ元気でいこう」と無表情で指揮すると皆の表情は変わらず、重たい空気が支配していた。

 

 

「相澤先生にいざそう言われると…ね」

 

「てか飛鳥たち…行ってたの?」

 

葉隠は見えない顔でため息をつき、耳郎は横目で心配するよう彼女に声をかける。

飛鳥は「うん…まあね」と浮かない顔を立てながら頷いた。

 

 

 

 

 

 

雄英高校の全寮制の前の日、家庭訪問を終えての翌日。

半蔵学院の方では今後の教育方針と、全寮制に応じての説明が行われていた。

飛鳥たち三人は元々寮制だったので、雄英の寮に移るだけで難しい話は特に必要なかった。

因みに先輩の斑鳩、葛城の二名は卒業試験が迎えてるのと、半蔵学院にこれ以上人手が減れば学校側の立場も意味もないので、残念ながら寮に移る話は無いそうだ。

何しろ雄英から半蔵学院の距離は遠いし、霧夜先生が教師である意味もなくなってしまう。

月閃女学館も同じ理由だそうで、三年の雪泉や叢も移る事が出来ない。

 

それだけならまだしも、今回呼ばれたのは寮制の話だけで無かった。

 

 

「任務外での活動……忍術使用や殺生…又は担任の許可なく勝手な行動をするなと…あれ程言ったはずだお前ら……」

 

 

上層部の呼び出しから一夜明け、霧夜先生の顔はいつに増しても険しかった。

今回怒られてるのは飛鳥と柳生、雲雀は拉致された被害者なので、関係ないといえば語弊だが、お咎めは無しだそうだ。

今回の件は、無許可で二人の救出に案件で叱責を受けていた。

教師の立場として、例え仲間を救うべく善良な心で行動を取ったにしても、幾ら何でも今回は情で勝手に首を突っ込んではいけない。

 

「蛇女の時とは違う…ヒーロー殺しの件とも別……超重要任務ゆえ、あと少し違っていれば…お前ら死んでたんだぞ!!」

 

霧夜の鬼気迫る怒号が飛ぶも、二人は表情を変えない。

柳生にとっては、アレがどれ程間違いだと上から責められようと、自分の心の中では「最善の手であり、正しいことをした」と思っている。

どれだけ他人から否定されようと、自分の行いが間違いだとは思わないし、悔いてもない。

逆に忍とは言え、雲雀を救って違法だと罵られ抜忍にされても、問題ないとさえ思っていた。

もし、妹の時みたく、二度と大切な存在を失わずに済むのなら…と。

 

「どれだけ善良の行いだろうと、お前たちはまだ学生の身……上の許可なく勝手に行動しろと俺が教えたか?」

 

「いいえ…」

 

「なら――「でも、これだけは言えます」――?」

 

霧夜の声を遮るように、飛鳥は立ち上がり、視線を逸らすことなく、真っ直ぐ面向かって口を開く。

 

 

「もし、あの場で私たちが動かなかったら、オールマイトは殺され、爆豪くんと雲雀ちゃんは助からなかったと思います」

 

 

迷わず、何の躊躇いもなく断言した飛鳥に、隣にいた柳生や、直面の霧夜は勿論、襖越しで聞いてた斑鳩と葛城の表情が曇り、動揺する。

確かに、忍とはいえ学生の身。ましてや飛鳥は林間合宿の襲撃で相当な痛手を食らっていた。

戦力も未知数な相手の巣窟に行き、二人の救出をするなんて端から聞けば無謀にも程があるし、霧夜先生がこうして怒るのも無理はないだろう。

 

しかし、目の当たりにした当の本人だからこそ、事件を目の前で目撃した自分だからこそ、言えるセリフ――

 

 

「私たちのやり方は…間違ってます。良い意味でも悪い意味でも…

 

でも少なからず私たちは、自分の行動に悔いがあるとは思えません!

そりゃあ…心配かけたのは充分に悪いですし…言い返せる立場じゃありませんけど…

 

でも、任務だからっていうのは可笑しいとは思います」

 

生徒の身を考え叱責するのも、怒りをぶつけるのも、致し方ない。

もし自分が先生の立場なら同じことを言うし、昨日親にこっ酷く叱られた。

雄英高校の任務も反対されたし、話がエスカレートして半蔵学院もやめる話に持ちかけて来た。

 

でも――任務外だから叱られるのは可笑しいと思う。

無許可で忍法を使用したり、殺生を始めとした悪事を働くのは悪いことだ。

それで抜忍が増えてるのも事実だし、其れに関しては特に何も言わない。

 

だが、例えそれが世の為人の為に、そして仲間を救う善良な行動でも、任務が無ければダメなのだろうか?

 

人が目の前で殺されかけてるのに、助けてはダメなのだろうか?

 

 

上層部の命令だから?

じゃあ自分たちは…傀儡なのか?

違う。自分たちには心がある、上から見ては道具に見えるだろうが、少なくとも傀儡や消耗品ではないのも確かだ。

 

 

「任務じゃなければ、正しいことをしてはいけないんですか?

私たちを道具として使ってるのなら、傀儡でも問題ないんじゃないですか?」

 

「飛鳥……お前はまだ――」

 

「学生なのに、こんなこと…言いたくないんです……でも、〝言って貰った〟から」

 

 

あの人に――生きてて良かったと。

あの人に――これから頑張ろうなと。

あの人に――次は、キミらだと。

 

本当に自分たちが任務に従うだけの駒なら、道具なら、果たして世界に名を馳せ轟かせるオールマイトが、自分の命を使ってまでも忍を守ろうとするだろうか?

 

そもそも、忍とは何なのか?

今に生きる忍たちは、何をどうしたいのか?

忍が今も生きてる理由とは何なのか?

 

昔までは、そんな事微塵も感じなかったのに…それなのに、あんなことを言われたら、自分たちが忍として生きる価値基準を見つめ考え直したくなるのも、必然。

 

考えに考え悩んだ結果、飛鳥が出した答えとは――

 

 

 

「だって私たちは、余計なことをするのが普通だと思うからです」

 

 

 

余計なお節介はヒーローの本質であるように、余計なことをする事が、忍の本領だと思うから。

霧夜先生は、面食らった顔で飛鳥を見つめていた。

霧夜だけじゃない、聞いてた葛城と斑鳩も、雲雀も――

 

「余計なことって……」

 

「だから、任務だろうとそうじゃなくても、余計なお節介をするのは…当然じゃないですか?」

 

自分の過ちを正当化する気は更々ないし、正直言って危険を冒して叱られるのは別に問題ない。

だが、任務だからというそんな道具みたいな物言いで言われるのは気持ちがスッキリしない。

忍は道具?それなら何故ロボットや傀儡に任務を任せないのだろうか?

忍である人間が手を汚すより、任務の為だけならば、傀儡など意思の持たない者が物事を成せば何も問題ないはず。

それでも世の中忍が必要なのは、妖魔の殲滅はもちろん、余計な物を守る為だからだと思う。

 

 

ヒーローが人々に笑顔を作るのなら、忍は笑顔を守る側。

 

 

「………参ったな…こりゃあ」

 

 

霧夜は思わず押され気味で苦虫を噛みしめる。しかし決して怒りに満ち溢れた顔立ちじゃない。

 

「何を言っても無理そうだな…まぁ、一応相澤先生からの話もあるだろうが……生徒にここまで言わされるとは、いっぱい食わされた」

 

飛鳥の言葉に納得がいく。

彼女がここまで教師に強く、熱心に語ることなど今まで無かった。

一体何が彼女をそう変えさせたのだろうか?

それ以前に、前まではこんな大それた事は言わなかった。

何がともあれ、善良な行為をした人間を責めるなど、本当の自分だったらしないだろう。

 

「解った…少し言いすぎたな…」

 

よかった…と心の奥底で呟く飛鳥。隣にいた柳生も思わず頬が綻び生じる。

 

「だが、それはあくまで任務としての話…個人的な説教はまだだぞ」

 

で、ですよね〜…

と、心の中で少女は少し落ち込んだ形で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまあ、そんな訳で色々とね…」

 

「色々とねって、飛鳥。もし相手が相澤先生だったら言える?」

 

「い、言えなくもないけど…あの変な布で縛られるのは間違いないんじゃないかな?

けど相澤先生は、私たちのことを心配しただけで、任務だからとかは言わなかったから…」

 

勿論、相澤先生は忍の教師ではないので強くは言えない部分もあるし、相澤先生なりに心配する事もあったのだろう。

 

「おいお前ら、早く入れ」

 

「あっ、はーい!」

 

相澤の呼び声に、立ち話をしてた飛鳥と耳郎は急かすように足早と雄英の寮に入っていく。

今日から新たな新生活。

変わったようで変わってないような、そんな曖昧とした時間を過ごすのだろうか。

 

こうして、雄英生達の寮生活が始まった。

 

 

 

 

 






初期の設定では、半蔵学院と月閃女学館の三年先輩達は同じ忍基地の寮に寝泊まり(但し半学校で修行する)という話だったのですが、別に態々出さなくても良いかなと思い、結果二年生までにしました。
確か本誌でも語られてた通り、A組とB組の二クラスが合同になって授業受けるとか言ってたので楽しみです。

それはそうと、個人的にはもし宜しければ、ヒーロー殺しステイン編の最後、85話「明かされる真実」を読み返して下さると幸い…(特に最後らへん)。


ではでは、プルスウルトラー


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