シノマスで夜桜の運全部上げて、プールも開放して…忍魂400個もためて、日影のイベで運上げしてる作者です。トラ者です。
デジモンハッカーズメモリーにハマってて…つい…遅れました?(一週間丁度の気がする)
荒野の如く、地平線の彼方を連想させる現状、オールマイトの怒りの鉄槌を軽々しく受け止めるオール・フォー・ワン。
「随分と遅かったじゃないか――オールマイト」
現在。
絶対正義と絶対悪が衝突し、頂上決戦の火蓋を切り落としていた。
そして、互いの力により衝撃の余波が生じる。
空気は震え、地面には大きな亀裂が木の根を張るように生じり、瓦礫の破片が宙を舞う。
両者引かず、一方で爆豪と雲雀は吹き飛ばされそうになり、連合は死柄木と漆月以外全員吹き飛ばされている。
地面はクレーターのように大きくめり込み、まるで小隕石が衝突したのかのように、大きな凹みが生じていた。
拳が離れた途端、双方は距離を置く。
「ここからバーまで五キロ余り、優に妖魔を中心に脳無を送ってから既に30秒経過しての到着…か、衰えたねオールマイト」
ここまでかなりある距離、グラントリノの個性でさえ到底出せない記録に対し、オール・フォー・ワンは鼻で笑い飛ばしながら弱いと一蹴。
「貴様こそ、何だその工業地帯のようなマスクは!大分無理をしてるんじゃないか!?」
二つの象徴は対面する。
まるで正義と悪の戦争を終わらせるかのような、頂上決戦。
一層と張り詰めた空気は、険しく痺れるような感覚と成り果ててる。
「もう五年前と同じ過ちは犯させん…貴様のような穢れた存在が、どれ程人々の大切な笑顔を奪って来たか…!!」
今でも思い出す。
彼の魔の手により、個性を奪われた人々が、悲しみに身を焦がし、笑顔を亡くした人間を。
笑顔を奪い、壊し、夢を潰して来たコイツは、生きてることさえ赦されないのだから。
「今度こそ貴様を豚箱にぶち込んでやる!死柄木率いる連合に、漆月を筆頭とした抜忍も全員!貴様諸共な!!」
「ハハッ、流石はNo.1。やる事が多くて大変だなぁ…」
オールマイトは大きく跳躍しオール・フォー・ワンに殴り掛かる。
無論、100%の威力を喰らえば、先生と言えど無傷じゃ済まない。
だがそれはあくまで喰らわなければの話。
シュッ――ドス!!
「いッ!?」
突如、少女の痛々しい悲鳴が微かに耳に伝わる。
視線をほんの一瞬逸らす。
オール・フォー・ワンの指先は赤黒い爪と化し、鋭利に研が澄まされた爪は、龍姫の腹部を突き刺していた。
赤い液体を吸うかのように、指先から自身の血液へと取り組んでいく。
「ゴメンね龍姫――」
そしてオール・フォー・ワンのもう片方の腕はブクッ!と膨れ上がり、掌をオールマイトに向けたその瞬間――
「個性〝合体〟秘伝忍法――」
凄まじい闘気を孕んだ龍が飛び出る。
「――【滅殺龍燼砲】」
猛虎の如く、龍神のオーラは生きてるかのようにオールマイトに食らいつき襲いかかる。
そしてオールマイトの身体を噛みつき、比にならない速度で推していく。
あのオールマイトが押され、軽く安全圏だったビルは何軒か倒れ崩壊し、街は一瞬で塵と化し、繁華街の光景は又しても無残な形へ塗り替えられた。
「秘伝忍法〝ドラゴン・ズロア〟+〝筋骨発条化〟〝瞬発力〟×4〝膂力増強〟×3。
うん、素晴らしい威力だ。流石は、弔の仲間、秘伝忍法の攻撃性能も、そして個性に見合う忍術、個性と秘伝忍法を混ぜ合わせるのは楽しいなぁ…
次はもう少し忍法と個性…特に増強系を足してみるかぁ」
オール・フォー・ワンはさぞ愉快そうに物語る。
龍姫の忍術は龍脈を操る闘気、龍闘忍法。
龍脈忍法なんて呼び名もあり、龍を具現化した強力なエネルギーで相手を翻弄し、爆発する戦闘向きの忍術だ。
それを、オール・フォー・ワンは何個も増強系の個性で補修しオールマイトをも吹き飛ばす力へ変えたのである。
「そして龍姫が忍法を取得する前までの個性は『龍脈』。
地面に流れる龍脈を吸い自身の身体能力を上げる個性…か。弔の性に合う優秀な個性――」
だが、個性因子を忍術因子の細胞へと変換した忍の能力は、個性とは呼ばない…それを忍術と呼ぶ。
忍の忍術を個性と呼んではいけないのは、この為である。
個性と忍術は似ているが実際は違う。
個性は使い方によって色んな使い道や方向性が可能だ。
大きなことから些細なことまで、個性を熟知していれば、不可能だった事が可能になる。
一方、忍術は必殺技みたいなもの。
遁術という属性を持つ術を発せる事が可能であれば、必殺技を軽々しく使える点。
個性を持つものは、必殺技を作る事が難しい。
忍術を持つものは、使い方による方向性、個性のように巧みに使う難易度が重視されている。
そして細胞を集中的に集め、血肉の材料を揃える事で妖魔が誕生する。
オール・フォー・ワンはそれらを全て熟知している。
「オールマイトぉぉ!!」
「オールマイト……そんな!」
「ああ二人とも心配しなくても大丈夫さ、彼はあの程度では死なない…から――」
二人の虚しい絶叫をあやすように、温もりのこもってない言葉でオール・フォー・ワンは
「黒霧、皆んなを逃すんだ」
ドッドッドッ――!!
五本の指を、赤黒い色から完全なる漆色に染め、鋭い爪で黒霧を襲う。
腹に突き刺され「ゔッ!」と悲鳴の声が全員に響き渡る。
「ちょっ、何してんのよアンタ!彼はやられて気絶してんのよ!?
アンタが一体何者か知らないけど、逃す事が可能なら、さっきみたいに私達を逃して頂戴よ!!」
「すまないねマグネ、僕のあの個性は特別でねぇ…
転送という個性は範囲が短く限られ、対象者及び転送元は人、完全に、安全に、逃げ切るなら僕の個性なんかより、座標移動の黒霧が適してる。
まあ出来立てだし、完全たる個性にはもう少し時間がかかるんだけど、許してくれ。
因みに黒霧の身体には何の害もない、傷の恐れは何ら心配はない――」
突如、黒霧の体から黒い靄が増幅する。
みるみると止まらないその黒い靄は、まぎれもないワープゲートだ。
仮称『個性強制発動』〝ワープゲート〟――
黒い禍々しい爪に刺された人間の個性因子を無理矢理といった形で、強制的に相手の個性を発動させる個性。
幾つもの個性を混ざり合わせ誕生した、オール・フォー・ワンだけの特別なオリジナル個性だ。
「さあ、弔。
仲間と共にその子達二人を連れて逃げるんだ」
オール・フォー・ワンは次にまた赤黒い爪で
「そうそう、その前に悪いけど君たちの分も取っておこう、長期戦になりそうだし、君らの忍術は素晴らしい代物だ」
ドッ――ドッ――ドッ――ドッ――!
「がッ――!」
「ッ――!」
「くぅッ!」
「また…!」
鎌倉、蒼志、闇、龍姫の血を吸う。
漆月を除いた抜忍は、少量だが血を吸われ、腹部に傷痕が見える。
他者の忍の血を吸う事で忍術を発動させる。
仮称『忍術強制吸血』もまた、先生自ら作り出したオリジナル個性であり、五年前の戦いでは決して無かった個性だ。
忍の血を吸った人物は、文字通り忍術を発動する事が可能で、組み合わせることも、混ぜ合わせることも、全て可能。
彼の思うがままだ。
またトガや鎌倉のように、忍の血を飲んでも他者の忍術を扱えないのは、オール・フォー・ワンだけの特権だろう。
「僕が時間を稼ぐ、さあ…行け」
悪の象徴、ここまで来ると全国指名手配犯にして超災厄をもたらす敵も何故かと心強くなる。
いや、当然だ。
彼は先生、そして弔は生徒。
もちろん、連合諸共、弔と同じく大切な生徒達だ。
先生は、弟子の教育のために、生徒の為に胸を張る。
例えそれが、幾多もの命を奪い続けた極悪党だろうと、関係ない。
「先生は…?先生も逃げよう……だってアンタ、その体じゃ…ダメだろ?
下手すれば…死――」
ボガァン!
大爆発。
死柄木が初めて、他人に気遣いをするその刹那、遠方から爆発音が鳴り響き、数百メートル先にはオールマイトが追って来る姿が認識出来た。
「弔、常に考えろ――君はまだまだ成長出来るんだ」
片腕には蒼炎を纏い、腕からカマイタチの如く空気を斬り刻むかのような、斬撃を常に纏う。
蒼炎と斬撃、二つの組み合わせとオール・フォー・ワンの個性を組み合わせれば
「個性〝合体〟秘伝忍法――【鬼火丸鎌鼬・死ノ誘イ】
蒼志の秘伝忍法〝鬼火・蒼炎歌
鎌倉の秘伝忍法〝鎌鼬・獄ノ誘イ
個性〝空気を押し出す〟
個性〝瞬間火力〟
個性〝増幅〟
それらによって組み合わせられた個性は、オールマイトを殺す為に生み出された歪み持つ異能だった。
凡ゆる空間領域に踏み入れた対象を四方八方で斬り刻む空間ミキサーの斬撃、
凡ゆる空間を吸い込み瞬く間に膨張する蒼炎、
凡ゆる増強個性で秘伝忍法の威力を補助し、本人が扱う力量を上回る。
触れたものを火傷に負わせる蒼炎は、止まることを知らず、鎌鼬の如く研ぎ澄まされた斬撃は、オールマイトの皮膚を抉り血飛沫が飛び散る。
それらの忍法を〝空気を押し出す〟という個性で上乗せすれば、ジーニスト達を吹き飛ばした人間砲を、軽々しく超えることも可能。
オールマイトは蒼炎と斬撃に包まれ吹き飛ばされる。
オール・フォー・ワンは相も変わらずと何の変哲も様子も見せることなく、悠々と弔達に向き直る。
「僕の事は気にするな、安心しろ。大丈夫だ。弔、君がいれば何度だって連合は立ち直れる。
それに――漆月、君はこの社会では紛れも無い、特別な忍だ」
その言葉に、頭痛が生じる。
目眩も起こり、でも立ち眩む事はない。
不思議と脳が活性化するかのような、そんな錯覚を感じながら、ワナワナと体を震わす。
「………待って……貴方は……
疑問と不安が止まらない。
何故だろう、この人の事なんて知らないのに、初めて会うのに、なのに心の中にいるもう一つの存在が『目を覚ませ』と訴えかける。
(――そろそろ、潮時かな。)
マスクを被ってるその顔から、表情は隠されており一切見る事が出来ない。
黒霧からは聞いている。
先生と呼ばれるこの人は、全ての常軌を覆す程に、異常で万能で、全てを熟知していると。
だが、個人情報、ましてやトラウマと呼べるあの悲惨な過去を、まるで知ってるかのように語り告げる。
そんな先生が、不気味であり優しくもあるように、感情と感情が混ざり合ったような、そんな訳の分からない感覚に囚われながら、彼女は動かないでいた。
ズドォォン!
しかし、敵にそんな暇など与えてくれるはずが無く、オールマイトはボロボロになりながらも、血反吐を吐きながらも、それでもオール・フォー・ワンに立ち向かう。
「恐れ入るよオールマイト。
秘伝忍法と個性の組み合わせを諸に食らっても、それでもまだ立ち向かうその姿。
一体誰に似たんだかなぁ?心当たりが二つあって、流石の僕も解らないや」
「お前の奪って来たものを、全て返させてもらう!!!!」
そして、衝突。
衝撃の余波が、全方位を襲い、体制を維持できるのがやっとのメンバーは、手も足も出ない。
平和の象徴と悪の象徴のぶつかり会う衝動。
二人の空間だけは、全く違った。
この場に、今目の前に二人が見えてるのに、二人だけはまるで別世界で戦ってるかのように、自分たちの次元とは違う世界に、目の当たりにしながら、ただただ見つめることしか、出来なかった。
「死柄木!」
だからこそ――
「あのパイプ仮面がオールマイトを食い止めてる内に、爆豪と雲雀の二人を連れて逃げるんだ!!」
コンプレスは近くに気絶し倒れてる荼毘を個性で圧縮して、ビー玉サイズに縮小した荼毘を懐に入れる。
「死柄木弔、あの邪悪な男とどのような関係があるのかは存じません…
しかし、あの男が〝逃げろ〟と仰るのならば、あの方の為にも、我々が二人を連れて逃げる事が最善の選択なのでは?
安心して下さい…駒は持ちますよ、ちゃんと」
仲間がいる――
蒼志に腕を担がれ、体制を整える死柄木。
前までなら他人にすら興味のなかった彼女が、何故か初めて死柄木弔を支えたような気がした。
死柄木は数秒黙り込み「そうだな…やるしかねえよなぁ…」と呟き
「んじゃあ、始めるぞお前ら…
――ゲーム・スタートだ」
両手を広げ、全員動ける者はそれぞれ体制を整える。
全方位、敵が、抜忍が、爆豪と雲雀を囲む。
当然、連合の動きに感知した二人も
「ば、爆豪くん……来るよ!」
「見りゃ解んだよボケェ…言われなくたってなぁ、そうなる事くらい予想つくけどよ…
ガチで面倒臭えなァ…!!」
元よりこうなる事は解ってた。
まだヒーロー達が殴り込みに来る前に、もし来なかったらと、全力で連合に挑むつもりだった。
例えそれが無謀だと言われようが、無茶をしようが、無理な結果だろうが。
勝つ事に拘りを持ち、オールマイトの勝つ姿に憧れた爆豪からして、諦めるなんて選択肢は最初っから無かった。
だからこそ、戦闘の覚悟はしていた。
だが、戦闘にしては余りにもトラブルの都合上で、予想外な事が起きてしまった事は、咎める事は出来ない。
こんな、オールマイトが近くにいるこんな状態で戦えば、オールマイトは必ず躊躇する。
近くに救けるべき人間、人質を救出する為にも、隙あらばと状況を伺う。
「待ってろよ雲雀くん!爆豪少年!今すぐに救けてやるからな!!」
ヒーローは、困った人間を目の前にして救い出す。
だが――
「させないよ――」
「弔達の邪魔はさせない、その為に今こうして僕がいるんだから。
例えどんな手を使ってでも、君を阻止する事が僕の役目なんだから」
黒い禍々しい爪でオールマイトを引っ掻き、顔を地面に突きつけ、擦るように思いっきり後方へ吹き飛ばす。
一方でオール・フォー・ワンも確かに戦い辛い状態でいた。
何せ死柄木達を含めたメンバー全員、オールマイトに触れさせる事なく阻止しなければならないのだ。
有利な個性で何とかカバーは出来てるものの、その力があっても全盛期では彼に殺された。
もう同じヘマはしない為にも、常に相手の行動を予測し最新の注意を払いながら、対処する。
「邪魔を!!」
「ヒーローは常にピンチを覆す…やってみろよオールマイト、君の力でこの逆境を乗り越えて見せろよ――」
幾多もの個性と忍術を使用し、オールマイトを翻弄する。
焦る気持ちを抑えながら、なんて都合の良い話はそう簡単に出来るものではない。
ヒーローが目の前の人質を、どう上手く救えるか、そう悩むのはヒーローの弱点であり焦る部分でもある。
冷静な判断も大事だが、この状況を前にして落ち着けるほど、オールマイトも冷徹ではない。
もし、誰かの手助けがあれば…きっとこの困難を打ち破る事は可能なのだろうに…
壁越しにいる八人がいる事など、オールマイトは気付くはずも無く。
何度もの衝撃音が、個性を使用する音が、耳に鮮明に届く。
爆破の音に、雷の音、恐らく雷は雲雀の忍術による効果音だろう。
壁越しからは激しい戦闘音が鳴り響いている。
今思えば、自分たちはこんな危険な身に置かれてるのだと、痛いほどに思い知らされる。
勝手に首を突っ込んでしまったとは言え、元は仲間を救う為に行動に赴いた。
それが今じゃどうだろか?
何も出来ないまま、何も動けないまま、ただただ自分たちは身を潜めてる事しか出来ないのか。
自分たちの身に置かれてる愚かさが、責められるほどに痛感させられた。
何よりも、こんなピンチな時に、自分たちは――戦う事が許されない。
どれだけ綺麗事を一丁前に語ろうが、格好を付けようが、自分たちの行いは咎められる事になる。
法律が、ルールが、全てを縛る。
せめて隙さえ見せれば、救える術が見つかるかもしれない。
しかし、その隙があったにしても、どう救い出すのか…
下手すれば、オール・フォー・ワンの標的として狙われ殺される確率も充分にあり得る話だ。
あんな、オールマイトをも殺せる実の実力者に、ボスに、悪の象徴に狙われたら、一たまりもない。
平和の卵が、悪の象徴に敵うなど、到底あり得ない事だろう。
「何か…策が……策があれば…!!」
必死に、全力で、全開で、思考を働かせる。
自分たちは、どうすれば良い?
一体――どうすれば?!
今いる生徒たちの能力を、考えよう。
緑谷は、ワン・フォー・オールのフルカウルで軽く爆豪と雲雀の二人の元へ辿り着けるのに時間は要らない。
飛鳥は、風と土を操る術を持つ、対戦用としてはかなり最前線の位置に立つ彼女。
雪泉は、風邪と氷を操る術を持つ、だが飛鳥と違って風を巧みに使いこなす事が可能で、上手く使えば速度の調整も可能だろう。
柳生は、烏賊の忍獣を召喚させ、戦う事が可能。前の蛇女戦で雲雀を救出する事に成功したらしい。
飯田の個性エンジンは、急速度を発揮する事ができる。体育祭の騎馬戦で、痛いほどにその個性が強力なのか身に沁みた。
八百万は、何でも創造する事が可能だ。
だが大きな物を創るのに時間はかかる故に、路地裏の狭い範囲では、ろくに使うことすらままならない。
切島は、身体を硬化させる事が出来る。
強度は恐らく、コンクリートをも突き破る程に硬く、きっと岩も簡単に粉砕出来そうだ。
轟焦凍は、炎と氷を出す事が可能。
炎は危なっかしいのでこの際必要ないが、氷は地面からでも出現させる事が出来るので、使い方次第だ。
ザッとまとめた所はこんな感じで、これを如何にどう使いどう救けるのか…だ。
「救けるってどうやっ……………ん、待て……よ?」
スピード特化は三人、頑丈な生徒は一人。
これだけでもう爆豪と雲雀の二人の距離を簡単に詰める事が出来る。
ましてやレシプロバーストは、かなりの距離を一瞬で追い詰め、自身が鉢巻を取られた事にさえ気付かないスピードを誇る。
先ず、これでもう二人を救ける事が可能だ…
後はオール・フォー・ワンの隙を伺うだけ。
今はオールマイトと激戦を繰り広げてる。
「かっちゃんに、雲雀さん………そうか!!」
一瞬の閃き。
まるで探偵の如く、謎が解けたと推理を解くように、緑谷は納得する。
だが、顔にこびり付いた不安の暗雲は拭いきれない。
「おい、駄目だぞ緑谷くん……ダメだ、ここで動いてしまえば殺される……!」
ここで友を制するのが、我らが信頼する委員長、飯田天哉。
彼だけでなく、八百万や轟も頷いてる。
そう、今下手に動いてしまうえば、確実に殺される。
それは、間違いない。
だが――それは作戦がない状態での話だ。
「違うよ飯田くん!あるんだよ……ちゃんとした作戦が!!」
「本当に良いんだな?」
作戦を告げた緑谷に、険しい顔立ちを浮かべる七人。この作戦は、下手すれば全員死ぬ。
それは、間違いはないだろう。
だが、その危険性がかなり低くなっただけの話。
成功すれば、全てが好機に転ずるのも確か。全員が納得してしまう程の作戦に、もちろん戦闘をしろという文字は無い。
「これが上手くいけば、オールマイトも思う存分に戦え、二人を無事に救出する事が可能…私たちの選択肢はこれしか無い…」
雪泉の言葉に一同は頷く。
時間もない、爆豪も雲雀も敵に囲まれ、オールマイトは思う存分に戦えない。
この現状を打破できる方法は、これしかないだろう。
ただ――問題なのがどうやって救うのかが問題だ。
別に、雲雀と爆豪をどう救けるのかはどうでもいい。
正直言って、強引なやり方でも悪くないだろう。
そもそも、姿さえ見れば自然と駆けつけに来るため、本当なら何も問題ない。
そう、もし本当ならばの話。
雲雀はともかく、爆豪は必ず躊躇する。
自分の立場が解ったとしても、その一瞬の躊躇いが、逆に隙を突かれる。
爆豪はプライド高い、みみっちぃ人間だ。
自尊心の塊と呼んでも間違いではない彼が、果たして緑谷の言葉で、本当に来てくれるのだろうか?
いいや、緑谷だけじゃない。
この場にいる飛鳥や雪泉も、飯田も八百万も、轟だって、柳生だって無理だろう。
だが…切島ならばどうだろうか?
彼は爆豪にどれだけ罵られても、友達だと平気で笑って、平等に接してくれる、懐が広い彼はどうだろうか?
「救けるキーになるのは、切島くん…君だ!」
今こそ、友の活躍の見せ場。
一年前。〝謎の巨大敵〟に震え、雄英を取り消した自分が初めて、自身で動いて友を救う瞬間だ。
切島鋭児郎は、簡潔に言えば、馬鹿正直だ。
真っ直ぐな気持ちで、昔の不良っぽいような雰囲気を兼ね備えているが、それは切島らしい彼の面なのかもしれない。
中学の頃は、てんでそこまで個性も強力ではなかった。
ただ身体を少し硬くするだけ、なんて地味な個性はヒーロー向きではなく、派手な個性を持って生まれたかったのが、本音だろう。
当初は性質の悪い同級生に岩を投げられ、個性を使っても壊せなかった程だ。
地味な自分が、唯一憧れてたのは、漢気ヒーローの〝紅頼雄斗〟。
中学時代の頃からはもう既にヒーローを引退した身だが、時代が流れ変わろうとも、切島にとっての憧れは、その熱血溢れる漢気ヒーロー、紅頼雄斗だけだった。
因みに、ヒーローネームの烈怒頼雄斗の名前は勿論、紅頼雄斗をリスペクトとしている。
そんな自分が、ヒーローを目指すのに通うべき学校は、雄英高校しか無いと決めていた。
他には士傑高校なんかも有名で、名が高いのが自慢だが、自分としては最高難関と呼べる雄英高校に、どうしても目指したかった。
中学は芦戸三奈も同じ学校に在籍していたし、人気のある元気っ子とだけは聞いていた。
同じ学校でもクラスは違ったので、ただの噂としか聞いてなかったが、ああ言う誰かを明るくする人間が、一番雄英に向いてるんだろうなと、心の片隅でそう想っていた。
想っていた…のだが、ある事件をきっかけに、自分は挫折してしまった。
学校帰り。
友達に進路の話を打ち明けれなく、悩んでた自分は、とにかく一人になりたかった。
確かに個性は地味でヒーロー向きじゃないかもしれない…だが、地味でも、心に漢気があればそんなの関係ないと、有耶無耶にして来た。
そうでも無ければ、ヒーローを目指すなんて、維持する事が出来ないから。
だから、何度も鍛錬し強くなって、地味な個性を強くして、ヒーローになるための努力を、陰で費やして来た。
そんな自分でも、やはり雄英は無理なんじゃないかと、不安が心を埋め尽くす。
(芦戸みてえな奴を見てると、俺は自信持ってヒーローを、雄英を目指すって、本気で言えんのかな……)
なんて漠然と考えてたその時だ――
寒気が、背筋を凍らす。
感じたことのない異様な気配。
道路の道端で、巨大な影を覆うマントを被った大男が、女子中学生に絡んでいた。
大男の身長は、ざっと三、四メートルはありそうで、首にラジカセを吊るしてる。
女子中学生は…見た事がないな……短い緑髪をした小動物系の女子、可愛らしくもあり髪止めは桜の花と習字の墨筆をモチーフにした、可愛らしい女性が、今にでも泣き出しそうな面で、怯えている。
大男は、震える女性にこう問いた――
「スプリンガーのヒーロー事務所は何処ですか?」
その威圧感の篭った声に、少女は「ヒッ!」と震える声を発する。
手に持ってた習字道具を落としてしまうも、今は関係まいと、心の奥底から湧き上がる恐怖を必死に耐え忍んでいる。
何秒経っても、答えない彼女に嫌気が刺したのか、大男は手を出す。
「……何で、教えてくれないんですか?」
男の声は先程とは少し重みを増した声で、言い放つ。
それでも彼女は、ふるふると震え、目を瞑る。目から一粒の涙が滲み出る。
怖い、怖い、この人が怖い。
それでも、彼女は動く事が出来ない。
たった一人のか弱い女子中学生に対し、男は目を微かに細める。
その目は、完全に殺意と怒りで染められていた。
「――オイ、どうして……教えてくれないんだ……」
パキッ――!!
建物の亀裂が生じる音。
ビルの建物は次々と嫌な音を立てながら亀裂を生じ、指で引っ掻くかのように、ビルに指で引っ掻いた痕が遺る。
恐らくこの男は、間違いない…
敵だ――
だが、誰も救けは来ない。
何故なら、今は警察もヒーローもいないからだ。
パトロールに出かけてるのか、偶々その場に居合わせていないだけなのか、何にせよ、このままでは彼女が危ない。
〝何でこんな時に限ってヒーローが〟そんな時、自分の心の中にいるもう一人の自分が、こう言い放つ。
――〝お前が行けよ〟と。
ダメだ。
無理だ。
動かない。
恐怖の余り、体が動かせない。
あの子は下手すれば死んでしまう。
そう、思った時だ
「待ってください!!」
颯爽と現れてくれたのは、学校でも有名で噂になってた、芦戸三奈だ。
彼女は直ぐに、的確にヒーロー事務所を教える。
彼女の顔色を見る限り、恐怖に身を震えている。
足が、腕が、体が、小刻みに震えている。
あんな元気で活発な女の子が、怖いもの知らずのあの子が、初めて恐怖を前にしたかのような動き。
男は数秒黙り込み「有難う…」と言うと
「――全ては主の為に……」
去っていった。
ただ静かな空間の中、彼が首にブラ下げていたラジカセの音だけを置いて、そのまま何の危害を加える事なく去っていった。
彼女は「大丈夫?」と少女に聞くと、思いっきり泣きだした。
「怖かったです……あ、有難う御座います……!うっ……うぅ…!」と、涙の嗚咽を漏らしながら。
芦戸も泣いた。
彼女も、いつ殺されてもおかしくなかった危険のリスクを背負ってたのだ。
そんな状況から解放されれば、誰だってこうなる。
一方で、それを黙って見てた自分は――
「何が、ヒーローだよ……俺……」
バッカじゃねえの?
「目の前で困ってる人、救えなくて、何がヒーローを目指すだよ……」
俺は――
「ヒーローになんか、なれねえよ――」
雄英を諦めた。
ヒーローになる夢を、諦めた。
ヒーローになる事を、諦めた。
ヒーローを目指すのを、諦めた。
自分なんかよりも、芦戸の方がよっぽど強えヒーローじゃん…
ニュースで、自分と同じ中学生が身を危険に侵してでも、友達を救うために飛び込んだ一人の少年のニュースを聞いた時に、決めた。
雄英高校を取り消す事を――
情けなくて、悔しくて、苦しくて、悩みに悩んで自暴自棄に走ってしまった自分は、近くにあった物を本棚に投げ捨てたその時――
『そうじゃあねえだろォ!?』
懐かしい熱血孕んだ声が、自分の部屋に響く。
――今思えば、ここからが本当の始まりだったのかもしれない。
自分が憧れてた、ヒーローから貰った漢気。
その熱意が、ヒーローの言葉が、切島鋭児郎の心に再び火が付いた。
過去の悔やむ自分があるからこそ、今のオレがいる。
もうああはなりたく無い…
目の前の現実にビビって、動かなくなる自分はもう嫌だうんざりだ。
だから、爆豪と雲雀が連合に拉致された時、何も動くとも救けに行くことも出来なかった俺は、後悔した。
先生の選択肢も、飯田を中心としと生徒の言葉も、正しいって解ってる。
でも、もう戻りたく無いんだ…
あの時のような、何も動くことも、救ける事のできない自分が――
一番怖いから。
もし今こうして、友達を救うために動かなかったら。
この先一生後悔する。
だから、いても立ってもいられなかった。
今になって思ったのが、高校に入って、忍なんて馬鹿げたお伽話のような、歴史の教科書に載ってそうな、そんな古風な感じの存在として言い伝えられてた彼女たちが来た時は本当にビックリした。
今は、任務で同行してるだけかもしれない。
でも、俺にとって特に一番印象的なのは、飛鳥と雪泉だ。
USJの敵連合襲撃の時に、恐怖に染まりながらも、悪に立ち向かおうと一心不乱に食いついてきた
学炎祭で、半蔵に月閃の選抜メンバー達が、黒影に拾われた弟子だと知った時、一番驚いた。目頭が熱くなり、本気で涙が出そうになった。黒影の意思を継ごうと、日々努力を怠らず、悪の憎悪を断ち切った
二人の孫は人生の経験が違いすぎて、当然比べる事も出来なければ、自分などまだまだ優しい方だろう。
けど、あの二人みたいな凄いヤツじゃ無くたって良い。
爆豪や轟みたいな、クラス最強の一、二を争うような、凄いヤツじゃ無くたって良い。
そりゃ勿論強くなりたいし、体育祭だって一番を譲る気は無かった。
けど、今の自分は…ただ――
目の前の友を救えるヒーローに!!
「爆豪!!」
「雲雀!!」
友の叫びが、二人の意識を変える。
爆豪と雲雀は、友の叫びに上を向く。
声がしたのは、上からだ。
綺麗な星が広がり、黒く埋め尽くす夜空の中、聞き慣れた友の叫びが耳に届く。
二人は反射的に動き出す。
友の叫びなら、考えるよりもまず先に、体が動く――
囲んでた連合を出し抜き、二人は見事に
「バカかよ、テメェら」
「柳生ちゃん!!」
友の手を掴む。
戦況は一転。
友は微笑む。
過去があるからこそ、今がある。
友がいるからこそ、自分は救われる。
縁とは、切っても切れないように作られてるそれは、正しく友情だ。
タイトルの名前、本当は「切島鋭児郎 オリジン」にしようか悩んでたけど、またなんかありそうだし、原作でも①とかになってたから、サブタイでオリジンはやめた。
緑髪の少女、多分…勘の良い人とキャラを知ってる人は知ってるはず……
解った人はいるかな?まあこれ言ってたらもう解っちゃったもんか?これが漫画とかなら絶対に解ってた件について(絵があるからな!!)。