光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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えー、最近小説投稿が遅くなり申し訳ありません…
理由は様々なのですが、またかなり忙しくなって投稿が思うように上手く捗らないんです…
と言うよりも、本当は少し頭をリラックスさせて小説書くほうが断然効率が良いのですが、なんか数日開いても「あれ?更新速度遅すぎじゃね?」と思うことがありまして…こう言うのなんて言うんでしょうね?お陰でヒロアカのアニメ…全然観れてねぇじゃんかもおおおぉぉぉ!!所で荼毘の声はまあ普通、トガの声可愛かった!次は弔が出てくるかな?あのマジ怖スマイル待った無しか?




106話「決着」

時間は遡り、Mr.コンプレスが拠点へ向かうその頃。

 

「本当に良いの?」

 

お茶子が危疑の眼差しを緑谷に向ける。緑谷は何も言わずただ頷いた。

飛鳥もそうなのだが、緑谷がこんな重傷の状態で何故動けるか?

アナドレリンの鎮痛作用が働いてるため、一時的に痛みを感じなくなってるが、効果が切れれば更なる激痛が襲いかかる。

ましてや両腕が折れてるのだから…

つまり、一時的には動くことは出来ても、後からは動けなくなるという話だ。

この中に治癒系の個性や忍法術を使える人間はいないし、リカバリーガールもこの合宿には来てないので、救急隊が駆けつけに来るまでは回復は期待できそうにない。

 

「これで良し…後は――」

 

「ええ、私が思いっきり投げれば良いのよね?」

 

障子は緑谷を背負ったまま複製腕で轟、飛鳥を抱きしめる。

端から見ればホモか恋人かと勘違いされることがあるだろうが、この状況は至って真面目だ。

 

「ウチもついて行きたいけど…でも、麗日ちんの容量考えると…」

 

「うん…ゴメンね?ウチも四季ちゃん連れて行って上げさせたいけど…傷酷いし…それに、最悪四人が限界だし…」

 

訓練の後で酔いも少しは克服したのだが、訓練は訓練…個性を頻繁に使ってた為、浮かせる力はこれ位しか残ってない…

トガとの戦闘では個性を使わず体術で駆使したので、何とか良かったものの、個性を使うのなら話は別だ。

 

「麗日さんの個性と、蛙吹さんの舌なら…追いつける!」

 

お茶子の個性『無重力』で皆んなの重力を無くす事で四人を浮かばせる。

そして蛙吹の鞭のように強靭な舌で障子を巻きつけ、方角へと放り投げる。

蛙吹の蛙の個性は折り紙つきだ、舌だけでなく脚力もあり、素でも充分に強い。

所謂、人間弾。お茶子はコンプレスとの距離を見計らい、タイミングで解除する。

 

二人の個性があれば突破口は開ける。

伊達に個性をノートに纏めてる訳じゃない、今まで培った知識をフルに活用する事で、初めて努力が報われるのだ。

 

「早く…アイツを捕まえなきゃ……!」

 

柳生さんが

常闇くんが

雲雀さんが

 

そして、かっちゃんが。

 

今動けるなら…こんな痛みなんて知ったことじゃない――!

 

その信念が、その前向きな強さが、心の芯が、彼を支え強くする。

仲間がいるから

今、救わなければいけない友がいるから。

まだ、手は届くから――

 

 

手の届く範囲なら、救けなきゃいけない…

オールマイトの約束だけじゃない、自分がヒーローとして進む、覚悟――

 

 

「絶対に皆んなを救けるのよ!」

 

「デクくん達なら出来るよ!お願い!」

 

「役に立てないけどさ…でも、応援はしてるから…マジで頑張って!」

 

「美野里も…あまり役に立ててないけど…でもお願い、皆んな美野里のお友達だから…だから――!」

 

四人が、心の底から応援してくれている。

皆んなだって辛いんだ必死なんだ、なら…絶対救ける事しか他が無い。

 

「任せろ…」

 

「このままやられてる訳にもいかないしな」

 

「絶対取り返そ!皆んな!」

 

「うん!」

 

そして、緑谷達は心意気と共に、人間弾が発射され、森の彼方へ吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んで現在。

Mr.コンプレスを捕まえ、タイミングよく重力で落下した今、目の前には不穏に佇む連合メンバー。

荼毘、トガ、トゥワイス、蒼志、鎌倉の五名。静かに燃ゆる炎がこの場を照らし、沈黙が漂う。

 

会敵。

四人も当然、目の前に敵がいることは知っている。今に至るまでは。

 

「おい、Mr避けろよ?」

 

手っ取り早く荼毘が掌から炎を発生させる。

その炎はまるで、人を焼き尽くす為に生まれ出したと言わんばかりか、異様な炎が揺らぐ。

コンプレスは荼毘の言葉に「ラジャー!」と短く伝え、拘束されてない右手で自分に触る。

 

その瞬間。

大爆発でも起きたかのような広範囲の炎が、波のように押し寄せ、数名は荼毘の炎をまともに食らってしまう。

そして肝心のMrコンプレスが消えてしまう。

まるで人が消えてしまうマジックが起きたかのように、突然消え出したのだ。

 

緑谷と障子の悲鳴が炎の中に聞こえる。

緑谷は折れた右腕が焼かれ、苦痛の叫びを上げてしまい、障子は複製腕を焼かれたので、緑谷程の悲痛は上げてはいない。

 

飛鳥と轟は間一髪に避けた為、荼毘の炎を浴びることはまずなかった。

無かったのだが…

 

「秘伝忍法――……【蒼狐炎・鬼火】!」

 

蒼志が立ち阻む。

『蒼刀・鬼火』は天下に纏わる宝刀――地獄の業火が雄叫びを上げ、生命を吸い取り燃え行く炎。

蒼白い炎は狐の尾の如く、炎の柱が九つ現れ、意思を持つかのように飛鳥目掛けて炎の波が押し寄せる。

追尾型なので回避は無理、しかも森の中で炎を躊躇なく発生させる彼女は、見境ないのだろう。

 

「秘伝忍法!――【半蔵流乱れ咲き】!!」

 

飛鳥は体に軸を回転させて、風が炎を消し飛ばす。

火の粉が森の中に付着する危険性もあるのだが、幸いこの森は燃えている。

その為大した被害はそこまで出る程じゃない。仮に炎の被害が酷くとも、轟の氷結があれば防ぐことなど容易いこと。

 

…なのだが…

 

「あー!轟くんだよね!?体育祭のイケメンだぁー!ね、ね!?殺しちゃっても良いかな?良いよね!?」

 

轟を阻む鎌倉に、苦戦を強いられていた。

大鎌を二本抜刀し、轟の首を刈りに来る。

一見ヘラヘラと笑ってるように見えるこのサイコパス少女。しかし内心に沸く殺意までは隠しきれる訳が無く、まるで霊に背中を撫でられたかのような悪寒が全身に走り、鳥肌が立つ。

轟は迷わず氷結で鎌倉を止める。

しかし、彼女がそう上手く氷結に飲まれるほどヤワじゃない――

 

「チッ!んでこれ全部斬り裂いてんのかよ…!」

 

苛立ちに思わず自然的に舌打ちをしてしまう。己の個性が相手に通じないと思うと、何故こう言う時に限って個性が通用しないのかと疑問を抱き、己の未熟さに怒りがこみ上げて来る。

まるで豆腐でも斬るかのように、滑らかで、繊細で、見てるこっちが立ち止まってしまう。

鎌倉は氷結攻撃に警戒したのか、上にジャンプし木の枝の上に乗る。

そして、チャンスを伺う…まるで「少しでも動いたら君を真っ二つにしてアゲル♪」と訴えかけるかのような視線。

しかし轟には鎌倉の視覚的な動作など関係なく、氷を出す。

氷山の一角が、鎌倉のいる場所めがけて貫くように突き進む。しかし――鎌倉は違う木へ飛び移り、直ぐ様轟に鎌の切れ端を振るう。

鋭い鎌の刃先はどんなものでも斬り裂き、刃こぼれする事なく、命を延々と刈り続ける凶器だ。

轟はもう一回、氷を発生させるも結果は初手と同じこと、アッサリと終わってしまう。

 

「厄介な忍も…いたもんだな…」

 

「う〜ん、柳生ちゃんよりかは……楽しめそう??」

 

不敵な笑みに、思わず吐き気を生じてしまう。

その気味の悪い笑顔は、まるで昆虫のようだ。鎌倉にとってのこの笑顔は、自分にとっての素顔なのだろうか、作り笑いをしてるような、いや…これが彼女の笑顔とは思えないのだ。

自分の欲求を満たす為なら、血を飲めるのなら躊躇などしない…それこそ、感情を持たない捕食する昆虫のよう――……

轟は「参ったな…」と一滴の冷や汗を流し、指で頬をポリポリと掻く。

自分の実力が通じず、炎もろくに出せない今では、状況も、相性も何もかも全て悪い。

炎は出せるにしても、大雑把。

コントロールが上手く行かないし、ろくに使えない…炎はここぞの時の為に使うつもりだ。

苦虫を噛み潰したような表情を立てる轟だった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「轟くんは…無理そうだね……」

 

「他人を心配する余裕が貴女にあると――?」

 

飛鳥は油断していた。

いや、自分でも油断してるつもりは無かったのだが…それはあくまで己自身の視点であり、相手にとって隙を突くに充分だった――

 

「秘伝忍法――【獄狼炎・鬼火】」

 

狼の如く吠える雄叫び、大地が轟、地獄の炎は狼へと生まれ変わる。

炎に身を包まれた地獄の番犬は、まるで今生きてるかのように、獲物を睨みつける。

 

「自分が選抜メンバーに居座ってるからと言って調子に乗らないで下さい」

 

氷のような、低い冷徹な声色に寒気を感じる。少女の目は憎しみに満ち溢れてる気がした。氷獄のように冷血で、獄炎の如く揺らめく憎悪の炎を燃やしている。…炎と氷が合わさった印象を与える蒼志に飛鳥は軽く戦慄する。

 

「さぁ、喰らい尽くしなさい。

()尽きるまで、永遠に――」

 

その言葉が合図となるように、番犬は動き出す。風を切り、空気を燃やし、裂ける口を目一杯大きく開き、飛鳥に喰らいつく。

 

「秘伝忍法――【二刀繚斬】!」

 

ならば此方もと…風を切り裂く斬撃をお見舞いするまで――

空気を飲み込むかのように、風神の刃が番犬を真っ二つに――

 

「グルァァ!!」

 

――出来なかった。

なんと、飛鳥の秘伝忍法を喰ったのだ。

 

「は…?え!?」

 

「だから…言ったでしょう?命尽きるまで…喰らい続ける…と。

 

さぁ、晩餐の時間ですよ――地獄の番犬のね」

 

秘伝忍法を大きな口で一喰らいしたのだ。

風が己の体内に纏わりつき、炎と風が合わさる体に、番犬は快感を覚えたのか、舌なめずりをする。

炎の生命体…なんて生易しいものじゃない…本当に生きてるのか?空想上の生き物が、目の前に?

それ程に蒼志の忍法はとても繊細で、再現力も高く、無駄がなかった。

 

何よりも見た事も聞いた事もない…秘伝忍法を喰らう秘伝忍法など…

この番犬は、あらゆる秘伝忍法を喰らう忍術を秘めている。

 

「ガアァァルァ!!」

 

獣は再び大きな口を開き、襲いかかる。

不味い…体力も思ったよりもまだ回復してないから忍法が全然使えない…!

飛鳥はダメだと判断しながらも、引く事も出来ず、前のめりに突っ走り、二刀丁を駆使して番犬に斬りかかる。

だが、蒼志の忍法…即ち、蒼炎で作られた番犬にはそんな攻撃通じるはずがなく、体を透き通し、大きな口で飛鳥の肩を喰らいつく。

 

「ッッ!きゃあああぁぁぁぁぁァァァァ!!!?」

 

鮫のように鋭い無数に生える歯、強靭で力強い顎、灼熱の炎。傷口が抉られる度に炎は少女の傷口を灼熱の蒼炎で燃やし続ける。

傷口に熱が通り、脳がはち切れそうな激痛が走り、涙を流す。

 

「――こうなったらァ!」

 

飛鳥は激痛により流した涙で視界がおぼつかなくとも、刀を地面に突き刺し、潜る。

 

「ほほう、考えましたね」

 

飛鳥の遁術は土。

なら、土に潜れば炎は酸素を取り込めず消えてしまうという考えに、蒼志は一発食わされたような顔を立つ。

しかし――…

 

「言ったはずです…命尽きるまで消えない…と。まあ、土に潜れば酸素も取り込めるはずがなく、消えてしまうのは本当です…だから…こうしちゃいます」

 

パチン…!と指を鳴らすと、地面が蒼白く発光し、じわじわと熱を増す。

そして、地面から突如…爆発が起きた。

轟音と共に空へと宙に舞う飛鳥は、痛みのあまり悶絶しそうになる。

体中がオーブンで焼かれたかのような焦げ焦げしい感覚…プスプスと嫌な音を立て、黒い煙が巻き起こり、焦げ臭い匂いが充満する。

蒼志は番犬を爆破させたのだ。

己の意思一つでこうも出来てしまうと、万能と思えてしまう。

 

「一つ教えておきましょう…

選抜メンバー…なんて称号は所詮唯の飾りです。

どれだけ名を馳せようと、自慢しようと、実力が無ければ無意味…

 

分からないでしょうね?どれだけ鍛錬を積もうと、その努力を決して誰にも見向きされない人間の気持ち…分かりますかね?いいえ、分かるはずありませんよね――」

 

飛鳥は膝を地面につき、荒い呼吸を立てながら意識を整えている。

クラクラする余り、考える力が彼女には残っていない…

突破口も見えないし、勝機だって見えない。

でも、戦わなければならない……早く…仲間を取り返さないと…

 

「オイオイ!よく見たらこの女、死柄木の殺せリストに載ってる忍ちゃんじゃねえか!

 

そしてそこの地味ボロくんと髪分けハーフくんとタコ野郎!無かったけどなぁ!!」

 

ふと太い声が後ろから聞こえた。

トゥワイスが腕についてるリングからメジャーを引き出している。

恐らく彼も強い…そう確信した飛鳥は、残る力を全て刀に注いで斬撃を飛ばす。

 

「当たった!安心!」

 

しかしトゥワイスは素早く避ける。

回避する俊敏さが彼にあるのか、それか偶々運が良かったまぐれか、何方にしろ飛鳥の斬撃は虚しく空振りに終わった。

 

「トゥワイス、やるなら真面目にやりなさい……と言うより、貴方は戦闘不向きでしょう?それなら私のサポートを…」

 

「あの山この桃ペッタンコ!

俺が強えって言ってるのか?こんな貧乳弱ってる今なら叩き込むのが一番だッつーの!

ダメだ可哀想さこんな強えボインちゃんほっとけねえ!」

 

「貴方はどっちの味方してるんですか!」

 

「勿論飛鳥ちゃんだぜェ!」

 

と言いながらトゥワイスは飛鳥に飛び蹴りするも、飛鳥は転がるように横に回転しトゥワイスの蹴りを避ける。

蒼志は溜息吐きながら、宝刀・鬼火を構え直す。

飛鳥に睨みつけられてるトゥワイスは蒼志の横に隣立つ。

 

「複製した荼毘は?」

 

「倒されちまったからいけねえぞ!おっぱい揉む?」

 

「結構です」

 

一々反語を語りかけるトゥワイスに鬱陶しさを覚える蒼志は、大体の言葉はスルーする。

調子が狂ってしまうし何よりこの男といると可笑しくなりそうだ。何を言ってるのか分からない時がある。

だがこれでも自分達には必要不可欠な人材。ただ性格さえマトモであれば良かったのだが、彼の過去を考えると仕方ないとも考えられる。

なので無理に言ってもこっちが疲れるだけなのだ。

蒼志はかなりの真面目なので、ジョークというものが通じないのである。

 

 

 

「…思ったよりも…結構骨が折れるね……」

 

飛鳥はこんな危機的な状況の中、無理やり苦笑を浮かばせながら、内心は焦っていた。

早く…早く雲雀ちゃんと爆豪くんを取り返さないと…

何が起きるか分からない……

 

 

 

 

「いったた〜…まさか飛んで追ってくるとは…発想が飛んでる…ハハッ――」

 

一方。皆んなが交戦してる中、何処からともなく平然と姿を現したMrコンプレスはコートについた汚れをパンパンと手で払い落とす。

仮面越しから聞こえる薄い笑い声に反応した荼毘は「爆豪と雲雀は?」と掌を見せて強要する。

 

「そう急かすな荼毘、ちゃんと持ってきたさ!それに見てくれ、二人だけじゃないんだ。他の二人も良い逸材がいてな?ソイツらも捕まえたんだ見てくれ」

 

喜々を弾ませた声を発しながら、自慢げに語り懐を探る。

ビー玉を探してるのだろうかそれが中々見つからず、コンプレスは「あれ?可笑しいな?」と首を傾げる。

何処を探しても見つからない…落としたか?という僅かな疑問が浮かび上がる中、荼毘が「どうした?」と顔を覗き込む。

 

「お前が探してるのはこれじゃないか?エンターテイナー」

 

すると障子の頼もしい声が森全体に響き、視線を向ける。彼の手に持ってるのは四つのビー玉、それはMrコンプレスが探してた品物だった。

 

「お前の個性がなんなのか…何故音も立てずに攫ったのかも分からん…

だが、お前が散々自慢し見せびらかしてた品物が、恐らく爆豪と雲雀…そして常闇と柳生の四人なんだろ?」

 

障子の推論に、コンプレスは「おおっ!」と声を上げる。

反応からしてみてビンゴ。あの時、コンプレスを捕まえた時、咄嗟に懐を探ってビー玉を盗み取ったのだ。

Mrコンプレスはそれに気付かなかった。

 

「まさかあの一瞬で…いやぁこれは一手やられたな!」

 

「何感心してんだ阿保…」

 

「これは……不味いですね……形勢逆転されました…」

 

荼毘と蒼志の顔色に焦りと苛立ちが出てるにも関わらず、コンプレスは障子を感心している。

 

「よし!んじゃ引くぞ!」

 

「いや、逃がさないよ」

 

轟の声に反応した鎌倉は、横殴りに鎌を振り、平行に一直線の軌跡を描く。

そこからまた縦横無尽に斬り裁き、斬影が残る。赤い一閃が交わり、赤い血が飛び散る。

この血は…ダメだ。

轟は氷を駆使して何とか止める。

大分行動パターンも読めてきたので、氷の壁で守れば此方に支障はない。

 

「よし…なら早く逃げなきゃ――!?」

 

バタン!

 

誰かに押し倒された飛鳥は、誰?と相手を見つめる。背中から押されたので、誰だか分からないのだが…

 

「ああー!!飛鳥ちゃんも血だらけでカァイイですねェ!ねェねぇ!

貴女からもお茶子ちゃんと同じ匂いがプンプンしますゥ!」

 

殺意爛漫の笑顔をめ一杯にして浮かばせ、ナイフを手に持つ少女、トガヒミコ。

ハァハァ…と飢えた獣のように息遣いが荒く、頬は血のように真っ赤になってる。

飛鳥は「え?!」と困惑しながら刀を握りしめるも…

 

「ダメです〜、飛鳥ちゃんはトガに刺されるのです…!

前から思ってたんだけど忍ちゃんって皆んなカァイイんだねぇ!飛鳥ちゃんもトガとお友達になりましょう!最強のお友達になってくれますかァ!?」

 

胸めがけてナイフを振り下ろす狂人。

飛鳥は腕に力を入れるも中々どうして、トガが飛鳥をまたがってるからかビクともしない。

綺麗なバラには棘がある、と言うが…

トガは綺麗と言うより可愛いの部類だろう、正にそのままだ。

 

「離せ!」

 

「きゃっ!」

 

ダメだ。と思った瞬間、緑谷の逞しい声が耳に届いた。

重傷でも緑谷はトガに捨て身のタックルをかまし、トガは仰け反り体勢を崩す。

緑谷が来るとは思わなかったのだろう、油断してたからか躱す事は出来なかった。

 

「あ、ありがと…」

 

「早く!」

 

急かすように、まるで寝坊した学生のように彼女の腕を引っ張り轟の背中を追いかける。

無意識に傷だらけの、折れた腕で彼女の手首を掴んだことに躊躇いは無いが、彼女の手首を掴んだ…というシーンは何処かデジャヴを感じる。

 

しかし、少年少女達の努力も、成果も、目の前の理不尽に滅多に踏み潰されることになるなど、今になって分からなかった。

 

「いや、君らの負けだ――」

 

コンプレスが冷たい声で呟いたその途端、皆んなの目の前に突如、黒い靄が空間から現れる。まるで黒い煙が謎の空間から湧き出たかのような感覚、しかし…この現象は知っている。思い出したくも無い一ページに刻むに相応しいだろう記憶。

これは…この個性は…コイツは――!

 

「嘘でしょ…?」

 

「ワープゲート…!」

 

黒霧。

敵連合、死柄木の側近にして補佐の役割を務める重要人物。

非常に厄介にして最悪な敵だ。戦闘要員じゃ無いのは、彼が戦闘不向きなだけであって、個性を上手く応用すれば人を簡単に殺めることが出来る。

いや、黒霧だけなら…まだ良かったのかもしれない――

 

「あらあら、うふふ…こんな所に思わぬドブネズミが忍び込んでましたのね…」

 

右の茂みから姿を現わしたのは、眼鏡を掛けた美少女――呪術・闇。

端から見て美貌と呼ぶに相応しいだろうが、黒い血管らしき触手の模様は頬を蝕み、気味悪さの印象を与えている。

因みに忍法も実力も未知数、ラグドールを拉致した張本人。

 

「ネホヒャン!」

 

左の無数の木々からは現れるのは、頭部から脳が剥き出しになってる改人・脳無。

敵連合開闢行動隊のとっておきの秘密兵器であり、パワータイプの類では()()の内一人に入る。

紫のバイザーを付け、金属製の猿轡を嵌め、背中から複製の腕を生成し、凶器と呼べる工具を出している。

ハンマー、ドリル、金槌、チェーンソー、ソレらの武具は人を殺す為に所有してるのだと、見ただけで丸分かりだ。

体には血がこびり付いており、意味不明な言葉を発し続けている。

 

四面楚歌。

四方向、的確に敵が少年少女を囲んでいる陣形。此方は体力も底に近い状態で、手酷くやられてる始末だ。

この状態でどう逃げるか?完全に詰んだ。

そう誰もが認識しても可笑しくない状況。

此方は四人を取り戻したので、逃げきれれば問題ないのだが…そう上手く事が運ばないのが人生というものだ。

しかし、黒霧は四人の事など視界に入ってないのか、道端の石ころのように敢えてスルーし荼毘に語りかける。

 

「荼毘。通信から五分が経ちました、ヒーローと忍の増援が来る前にお早く。

龍姫、スピナー、マグネは既に回収済みです。残るは貴方達だけ――」

 

「待て黒霧、コンプレスの阿保が凡ミスしたせいで二人が…」

 

「いや、俺は凡ミスなど一切してないよ。このまま帰ろう――」

 

「何を仰ってるのですか…?貴方は何故そんな悠々と…」

 

お前のせいで…と荼毘と蒼志が苛立ち責めるも、コンプレスは片手で蒼志を制する。

 

「いやァね、お喋りが過ぎるのはエンターテイナーの悪い癖なんだよ。

つい喋っちゃうんだ、タネを明かしたくなるのも一つの所業…でもな?俺言ったよな?

逃げることと…()()()()が取り柄だよって。

 

マジックは基本見せびらかすものがあるとき…

 

見せたくないもの(トリック)もあるんだぜ?」

 

素顔が明らかになると同時に、男は口から舌を出す。

口の中にはなんと、四つのビー玉があったのだ。その中に僅かに感じるのは…柳生と雲雀…忍の気配。

薄っすらと四人の姿が見える。

 

じゃあ障子が奪った四つのビー玉は?

そんな疑問を問い出す時間はなく、コンプレスは指パッチンをする。

障子が奪ったビー玉は、氷へと姿を変えた。この氷は?なんて疑問は浮かばなかった…この氷が何なのか、問わなくても直感で分かる…これは、轟の個性、氷結を出した際の氷だ。

 

「万が一の時にね、こうなる事を予測しダミーと入れ替えたのさ。

ああそれと、君にはそのダミーをプレゼントしよう。走り出すほど嬉しかったんだろ?」

 

やられた。

Mrコンプレスの解説に、皆は暗い表情を浮かばせると同時に、仲間一同はホッとする。

まさか、触れた対象を圧縮して閉じ込める個性だとは思いもしなかった――

だが、彼の解説と行動を見れば筋が合う。

トガは「ごめんね出久くん!また今度刺すから、またね!」と言い残してワープゲートへ去っていく。

トゥワイスも鎌倉も、闇も脳無もワープゲートへ次々と姿を消していく。

 

「まさか…私たちまで欺くとは……Mrコンプレスにはやられました…が、予測を立てての最善策…お見事です」

 

「いやいや、それ程でもねーさ蒼志ちゃん。

んじゃツー訳で…お開きと致しますかァ…」

 

三人も黒霧のワープゲートへ姿を消そうとする。

「逃がすなぁ!」と轟が焦燥を孕ませた声を発し、皆はそれに応じて全力で駆け走る。

だが、緑谷はアナドレリンの効果が切れたのか、腕が、足が真っ二つにされたような、神経がブチ切れた感覚に苦しめられ、悶絶してしまう。

となると残るは飛鳥、轟、障子の三人。

 

しかし間に合わない――

 

 

 

バリィン!

 

 

「ッ?!」

 

そう誰もが諦めかけたその刹那。違う方角から輝きを放つ青白いレーザーの一閃が、コンプレスの仮面を破壊する。

狙いを定めたその個性…茂みからか、見てみると少年が怯えながら、ヘソからレーザーを発射させたのだ。

その少年は誰もが知ってる気障の男、青山優雅。

今までずっと、隠れていたのだ。

端から見ればヒーローらしかぬ醜態かもしれない…しかし己の恐怖を耐え凌ぎ、決行の時まで自身の存在を悟らせなかった青山は、誰よりも輝いていた。

 

横倒れてる耳郎を見放すこと無く、ずっと――

 

 

「がっ…」

 

青白いレーザーを面食らった所為か、口からビー玉を吐き出してしまう。飲み込まなかっただけでも幸いだ。

 

三人は勢いを殺すこと無く走り続ける。無我夢中に、食らいつくようにと、仲間を取り返すチャンスなのだから。

飛鳥は一つのビー玉を、障子も飛鳥と同じく同じビー玉…残るは二つ、轟が回収しようと手を伸ばしたその瞬間――

 

バッ!と横から奪い去るように一つの手が、轟の手前を横切る。

風を掴むように、轟の手は空振りに終わり――

 

「哀しいなぁ?轟 焦凍――」

 

荼毘の凍てつく笑顔が、こびり付く。

ヘラりと笑い、見下すその笑顔に、轟は奥歯を噛み締める。

「お前じゃ誰も救えねえよ」というその蔑んだ目が、イヤに心を突き刺す。

 

 

「オイMr。確認だ解除しろ」

 

「いてて…畜生!!んだよ今のレーザーはよォ!折角、景気良く片付けれると思ったのに…

 

俺のショウが台無しだ!」

 

紳士な覆面男も、青山の予想外なレーザーに苛立ったのか、口調が荒々しくなる。

コンプレスは苛立ちで歯を噛み締めながら、指パッチンする。

するとビー玉から解放され姿を現したのは…

障子が手にしてたビー玉から常闇。

飛鳥が手にしてたビー玉は柳生。

後はお解りだろう…荼毘が手にしてたビー玉は…雲雀と爆豪。

 

突如、解放された四人は訳分からずと辺りを見渡す。

雲雀と爆豪の肩に、荼毘の手がのしかかり

 

 

「問題なし――」

 

 

口元を歪めて、一言。

そして、黒い空間は徐々に狭まり、小さくなっていく。

 

「かっちゃん!!!」

 

「雲雀ちゃん!!!」

 

飛鳥は涙目になって叫ぶ。

目の前の友に、仲間に、精一杯手を伸ばす。

雲雀は最初の一瞬だけ何が起きてるのか理解出来ず、戸惑うものの、目の前の飛鳥の叫びに状況を理解し彼女も手をさしのばす。

だが、横からか…蒼志が雲雀の手を掴み、引っ込ませる。

黒霧のワープゲートが閉じる際に、手首を切断される危険性があるからなのか、単に抱いた希望を摘み取る為か…この際理由はどうでも良かった。

 

爆豪は、一瞬で理解出来た。

目の前に、ボロボロの緑谷が叫び手を差し伸べようとする。

遠くとも、三人よりもずっと遠くとも、自分の目には緑谷しか見えなかった。

そんな爆豪勝己は体を小刻みに震わせながら――

 

 

「来んな…デク」

 

 

そう一言、口に出し、首を横に振る。

そして空間は閉じ、消えてしまった――

 

敵連合開闢行動隊の姿はもう何処にもいない。目に映る光景は、静かに炎に燃える森のみ――

真夏の熱帯夜の中、雪国のように冷たい静寂な空間が全てを支配し――

 

 

 

「あ…ああ…ああああああァァああァァァーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

緑谷の苦痛と悔恨の叫び声が、虚しく森に包まれ、闇夜が空を支配していた。

そう、ヒーローが負けたのだ。

忍学生も、ヒーロー学生も、敵連合という理不尽な存在に、敗北したのだ――

 

 




ジャンプのヒロアカはもう言わない…今思えばネタバレ嫌う人もいるんだ…
と言うか今週は休みだったからどの道言えないけど…なんか二週間分ヒロアカ読んでない気がする…
さて、次章は…言いません。
多分分かってると思うので…



まさかのプロフィール。


蒼志

本名・不明
所属・敵連合開闢行動隊
好きなもの・刺身、鍛錬、熱湯浸かり
スリーサイズ B89/W53/H86
誕生日・7月14日
身長・152㎝
血液型・A型
出身地・不明
戦闘スタイル・近距離戦闘、中距離戦闘、指揮官支守

危険度 B

パワーB
スピードB
テクニックB
知力A
協調性A

秘伝動物 ケルベロス



荼毘とトゥワイスと共に動いていた抜忍。
非常に冷静且つ、真面目で些細な事も気を抜く事なく物事を取り組む敵連合開闢行動隊の指揮官補佐。
冷静でクールな性格の反面、蒼炎忍法を使う少女。
見た目的に油断してると本当に寝首を刈られるので油断は禁物。
しかし何故そんな彼女が抜忍になったのかは不明、故に彼女は抜忍狩には追われてない模様で、ある理由を機に敵連合に赴いた。



え?蒼志ちゃんのは何故か少しプロフィール載ってるやん…何で?
実はちゃんとした理由があるのです…

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