光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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やった、お久しぶりです。やった…
皆さん、この日はですね…なんとこの小説「ヒーローと忍・絆の想い」の作品がついに、一周年を迎えた日なんですよ!!
長かったようで短かったような…一年経ったのかァ…
やったあああぁぁぁ!!本当は長く続けられるか不安でしたし、多分あんま人気のないものだったら辞めてたかもしれないこの作品を、応援して下さり有難う御座います!
もっと高評価頂けるように、精一杯頑張りますので、どうかこの作品をこれからも末長く宜しくお願いします!!




104話「奇々怪々」

ザシュッ、ザシュッ!

肉の切れる音が、森の中に騒めく。

暗闇の中でも、ハッキリと視覚することが出来る。

無数の刃が嵐のように襲いかかり、月の光に反射し輝きを増す。

 

「肉面…肉めええぇぇん……」

 

ムーンフィッシュは先程から意味不明な言葉を何度も発している。

まるで、血肉を求む飢えた肉食獣のように…殺意を孕ませ、何度も歯から歯を生やし、氷の壁を切りつけ、三人の皮膚を少しずつ切っていく。

 

「んにゃっ!?」

 

美野里は猫のような可愛らしい声を上げる。

服がビリビリに破れ、下着が露わになる。黄色とオレンジ色の可愛らしい下着が、見えてしまい、一瞬頬を赤く染めるが、どうってことなかった。

羞恥心は多少はあるものの、今は死ぬかもしれない…生と死を賭けた戦いの真っ最中だ、恐怖に怯えてる中、そんな感情は一切芽生えなかった。

幼いとはいえ、小さい身のこなしに素早く動く美野里を、ムーンフィッシュはああも容易く、美野里の忍装束を破壊したのだ。

 

「美野里!」

 

美野里の悲鳴に、轟は声を張り視線を彼女に向ける。

しかしそれが一瞬の隙と呼べたのか、ムーンフィッシュの刃が一点集中し向けられる。

 

――しまった。

この数は不味い…下手に喰らえば跡形もなく体は貫かれ死ぬこと間違いなし。

稲妻のように駆け走るその刃は、轟とあと僅か30㎝という距離に追い詰めていた。

反応が遅れただけで、こうも致命的なミスをするのか…鳥肌が全身に立ち、絶え間ない恐怖と絶望を、浴びる事になる。

ムーンフィッシュの顔は隠されてるので、相手がどう言った表情をしてるのかは知らないが、微かに微笑んでるような印象が見受けられる。

轟は氷を出すも、その前に刃物が轟の腹部に迫っていた。

避けることも…多分間に合わない…咄嗟に目を瞑る。現実から目を背くように、轟は襲いかかる凶器に、目を瞑ってしまった――

 

ボオオォン!

 

「いっ…!?」

 

轟の横腹に、爆破が叩き込まれる。

転がるように倒れる轟は、咳払いしながらも横腹を押さえつけ、爆破が発生した所へ視線をやる。

 

「何ボケッとしやがる舐めプ野郎!

死にてえのか!!」

 

爆豪の爆破。

それ以外、この現象はあり得ない…

爆豪は荒々しい雄叫びに似た声で呶鳴り散らかし、歯の刃に爆破を叩き込もうとするも、歯から再び歯がニョキリと生えていき、爆豪を切りつけようとする。

運良く躱すことに成功したので、重傷には至らなかったが、微かに少量の髪の毛がハラリと、音を立てず切られてしまう。

そんな事などお構いなく、爆豪は二歩下がって相手の動きを観察し予測する。

 

「爆豪…」

 

「テメェにはまだちゃんと勝ててねえんだよ!!体育祭で俺にワザと負けやがってクソが!テメェが此処で死んだら完膚なきまでにブチのめせねえじゃねえか!」

 

一見、救けた訳じゃないと言うセリフ…しかし、その言葉に何処か優しさと温もりが存在していた。

爆破を受けた痛みが、スッと引いていくような感覚を覚えながら、轟は少し呆れた様子で、でも爆豪なりの優しさに、思わず「すまねえ、助かった」と一言。

 

「アァ!?だから救けてねえわ!

調子に乗んなクソが!!」

 

爆豪は掌を爆破させ、忌々しい目で轟を威嚇するように睨みつけ、荒々しい言葉を発する。

 

「ふ、二人とも!前!前!」

 

美野里の指差す方向に、二人は息が合うよう同時に前の視線に向く。

刃先が数本、自分たちに降りかかってくる。

ムーンフィッシュの歯の刃はかなりの強度を誇っていた。

未だに一本も歯を折れてないし、その硬さは鉄をも容易く切り裂くような強靭な切れ味を誇り、チタン合金のような硬度を持っていた。

ムーンフィッシュは涎を垂らし、ポタリポタリと自分の真下に唾液が落ちていく。此処まで見ると、恐怖どうこう以前に、気持ち悪い。

人間、歪んでしまえばああなってしまうのか…そんな気さえ思えてしまう。

 

敵と交戦してから随分と時が経った気がする。

実際は15分弱しか経っていないのだが、厳しい状況下の中だと、時間感覚がズレてしまう。

人が同じ作業を何度も繰り返すと、時間感覚がズレるように、防戦一方の中を延々と繰り返していると、何時間も戦わされてるのではないかとさえ思えてしまう。

唯一この戦場の中で何かが変わったかと言えば、後ろを覆い囲んでた毒ガスが晴れたことだ。毒ガスが無くなった今なら撤退することも可能なのだが、その先はまだ未知数…

この先にまだ敵がいるのかもしれない…そう考えると撤退…と言うのも、敢えて危険を招くのかもしれない。

それぞれの可能性が、分岐点になるよう別れており、正しい選択が何なのか分からなくなってしまった。

救けは来ない、爆豪は戦えない、こちらもそろそろ体力の限界も近い…

個性訓練で体力を使い、ろくに本気すら出せない…森の中だと尚更だ。

美野里はともかく、爆豪や轟と言った、被害になりかねない個性を持つ者では、立場が悪いとしか言いようがない。

爆豪だって本気になれば強い、ただ無鉄砲に近づけば危険だという話だけで、戦闘訓練やオールマイトに放った最大火力をぶつければ、ムーンフィッシュも無事では済まないのだが…

爆破は衝撃的な爆発と共に火を放つ。

その散った火花が森の葉に引火し、大爆発を起こしかねない。

轟も、炎を使えばどうってことない相手だが、爆豪の例と同じく火事を起こしかねない。

下手すれば自分たちも巻き添えをくらい自滅するなど目に見えている。

 

「んの雑魚がァ!!」

 

「まずい!!」

 

爆豪と轟二人に、凶器と呼べる刃物が迫ってきている。

身体中の力が強張り、思うように動けない。

目にも留まらぬ稲妻のような速度で駆け巡るこの刃物…美野里もバケツで応戦しようとするも間に合わない…ダメだ、無理だ。

そう誰もが絶望したその時――

 

 

「〜〜――!!」

 

 

ムーンフィッシュの動きが止まった。

まるで時が止まったかのように、二人の前で刃物は寸止めとなっていた。二人はなぜ、ムーンフィッシュの動きが止まってるのか意味が分からず、相手を見やる。

森の何処からか、声が聞こえ、二人の耳にまでその喧騒は届いていた。

二方向から、何かを壊しながらやって来る…

それを知った三人は、二つの方角に目をやる。

 

ズドォン!

 

刹那。

大きな音が大地を唸らすように響き渡り、周辺にあった木が薙ぎ倒されていく。

最初目に移り出した光景は…

 

「!皆んな!!」

 

「飛鳥ちゃん!?…と、何あれ?柳生ちゃん!?」

 

ボロボロの体でなお、三人の元へ走り逃げる飛鳥と、それを追うように隠鬼が暴れ狂い、宙に浮いてる柳生。

 

「肉見せ――」

 

ムーンフィッシュは柳生と飛鳥が来たことなど動じずも、顔の方角も変えることなく、人形のように口を開き、刃先を飛鳥たちの方向へ変える。

しかし、隠鬼の目はムーンフィッシュの歯が自分の敵の対象と解釈すると、圧倒的なその力で、歯を折っていく。

爆豪や轟が手も足も出なかったあの刃を、柳生は何の躊躇いもなく、壊したのだ。

目には細長い刃の歯が突き刺さり、隠鬼の目が震え、弱々しく縮みこむように、体をクネクネと鰻のように動かす。

 

「――アぁ?」

 

ムーンフィッシュの疑問に満ちた声が発せられ、柳生に視線を向けようと体の方角を曲げようとしたその途端。

 

ズドオオォン!!

 

「ガッ――!?」

 

違う方角から、何者かの黒い手がムーンフィッシュを押しつぶす。

まるで這いずり回るゴキブリを虫叩きで 潰すように、ムーンフィッシュは地面に埋もれるように倒れてしまう。

その黒い手の正体は――

 

「――ア…アァ…ア…ガ――!!」

 

黒いカラスの外見が特徴の少年、常闇踏影。

そして黒い影が体を纏い、暴走してるダークシャドウ。

ダークシャドウは常闇の相棒とも呼べる存在で、常闇の個性だ。

体に黒い影のモンスターを宿してる。

ダークシャドウには危険的なポイントが一つ存在していた。

それは、暗い場所で個性を発動させることだ。

光が強ければより弱く、闇が深ければより強くなるダークシャドウの個性は、他の生徒達とは違った特殊能力類の個性を宿している。

それは体育祭でお披露目されている。

上鳴や爆豪のような光を発する個性にはてんで弱く、脆い。

しかしその逆…闇が深ければどうだろうか?

 

「アアァァァアアアーーーーーー!!!!」

 

それは、もう誰もが知るダークシャドウではなかった。

可愛らしく、親切で、気の利くダークシャドウではなく、完全に野生の獣を連想させるような…怪獣やクリーチャーを思い浮かばせるような、残酷な化け物へと成り果てたのだ。

しかもサイズも以前の頃とは比にならず、森を丸呑みにするような大きな口に、森の中でもくっきりと姿が見える程の凄まじい大きさ。

 

「ガルルァ…モット、モットォ!壊ス!破壊サセロォ!!!」

 

獣のような呻き声を上がる黒影は、次の獲物を追い求めんと言わんばかりに、荒々しい息を立てながら、周囲を見渡しては、薙ぎ倒された木を手で鷲掴みにし、メキメキと一握りし粉砕する。

思わぬ参上に、三人は唖然としていた。

頭の中が追いつかない、言いたいことがあり過ぎる。

先ず何だあの禍々しい目は、柳生の表情は酷く歪み、冷や汗を滝のように流している。

宙に浮いてる体は、多分…その赤黒い目が原因だと思う。

その目からは禍々しい殺意のオーラを異様に発していた。

常闇踏影。

今のダークシャドウはとてもじゃないが、普通じゃない。

雄英に入って半年も経つが、彼のこの暴走するダークシャドウは今までに見たことが無かった。

どうやったら一体あんな凶暴になるのか、そっち方面にさえ疑いを抱いてしまう。

しかし常闇本人は苦しみながら必死に押さえ込もうともがいている辺り、制御が出来ないのではと推測される。

 

「轟くん!かっちゃん!光をお願い!!」

 

戸惑う状況の中、聞き覚えのある声に、三人は反応する(爆豪は眉間にシワをよし付け)。

森の中から現れたのは、巨体を駆使して背負ってる障子と、ボロボロの血塗れになってる緑谷。

爆豪の表情は一段と険しくなる。

 

「光…?つーか、何が…」

 

轟は分からずとおぼつかない様子で口を開き呟く。

光…多分それは常闇にという意味で間違い無いと思う。

体育祭で常闇の弱点は明かされた、その為ダークシャドウに光を浴びせれば多分制御できるのだろうが…

柳生の方はどうなのだろうか?

隠鬼の目など此処では初見だ。

どう対処すれば良いのか分からないし、隠鬼の目については話すこともなかったし触れることすら無かった。

 

「…取り敢えず、柳生の方の目?は弱ってるみたいだな…目に刃物刺さってるからか…?

もう一方の常闇の方も落ち着かせ――」

 

「待てやアホ」

 

暴走する常闇を鎮めようと、炎を出す轟を制する爆豪は、不敵な笑みを浮かべ「見てぇ」と呟く。

こんな状況で何を?と美野里と轟は首をかしげる。

 

「皆んな!大丈――」

 

常闇を含め、飛鳥は三人に口を出すものの、それとは違う歪んだドス黒い殺意に、一瞬体を硬直させる。

殺意が発せられてる方角に視線を向けると…

 

「………肉…めぇん…」

 

倒れてたムーンフィッシュが、顔を上げ歯を伸ばし地面を突き刺す。

ニョキ〜っと伸びる歯を利用し、上手く立ち上がり態勢を整える。

見た目的には多少ボロついてる為、そこまで酷い傷を負ってない模様。

 

「その子達の肉面を見るのは僕の特権だあアァ〜!!

ああ、ああ、あアァ!ダメだ駄目だ許さない赦さない!その子達の血肉を…獲物を邪魔するお前は…赦さないいいィィ!!」

 

歯を剥き出し、鋭い刃物の歯を生やし伸ばしていく。

狙いはダークシャドウ。初めて敵意を向けるムーンフィッシュの矛先に、ダークシャドウは意識を向ける。

軽く唸り声を鳴らすダークシャドウは、訝しげな目を細めて

 

「ネダルナ…三下ガ…!」

 

伸ばした全ての歯を完膚なきにへし折り、握り拳を作り、ムーンフィッシュの体に直撃する。

ミシリと嫌な音を立て、ムーンフィッシュは悲痛の声をあげようも

 

ズババババァァン!と木々を薙ぎ倒すと同時にムーンフィッシュを殴り飛ばす。

まるでバットでボールを垂直に打つように、ムーンフィッシュは悲鳴をあげる間もなく、森の彼方へと吹き飛ばされてしまう。

ダークシャドウは影のモンスターなので、当然ゴム人間のように腕は伸び、刃物に貫通されようとノーダメージ、その為刃物の歯はダークシャドウには通用しない。

倒れた木々は所々血まみれになっている。

ムーンフィッシュは本当に、口の中にある全ての歯が折れてしまい、口から血反吐が出る。

彼を縛り付けてる拘束具もボロボロで、隠してた素顔が明らかになるも、白目を向いており失神した。

暗闇の中、血の海が広がり、ムーンフィッシュは木に背が当たったまま、気絶した。

人は麻酔なしで歯を一本抜くだけで泣き叫ぶ程の激痛を浴びてしまう。

しかし、ムーンフィッシュはその比でなかった…28本もの歯を、麻酔無しでへし折られたのだ。

口は血の色しか染まっておらず、見るに惨たらしい重傷を負った。

普通ならショック死してしまう恐れもある為、生きてるのかさえ不明だが…

 

爆豪や轟、美野里でさえも手も足も出なかった(状況によるが)あの敵を、ダークシャドウはたったの一振りで倒してしまったのだ。

 

「……すげェ…」

 

思わず息を飲む。

森の中とはいえ、苦戦してた相手を…ましてや人殺しのプロを、難なく戦闘不能に陥れたダークシャドウに、轟は呟かずにはいられず、つい口に出してしまった。

 

「アアアアァァァ!!!今度ハ、オマエダァ!!」

 

次は隠鬼の目が伸縮し、元に戻って来てる柳生を睨みつける。

柳生は冷や汗が止まりつつもあり、あの驚愕するべき隠鬼の目が落ち着いて来たのか、引っ込んでいく…

しかし、ダークシャドウは次の己の脅威と認識したのか、殺意を孕ませた声で、獣の呻き声を鳴らし、爪を向ける。

 

「暴レ足リンゾオオォォアァァァ!!」

 

ダークシャドウは己の欲望を貪るように、他者の血を求めんばかりに、必死になって襲い掛かってくる。

これぞまるで映画館の中に入ってるみたいな感覚さえ覚えてしまう。

ファンタジー系の魔物やモンスター、クリーチャーを連想させる。

 

ボォン!

 

「ヒャッ!?」

 

しかし、後は簡単。

どれだけダークシャドウが強くなろうとも、光には敵わないのだから。

爆豪は掌から発光性の爆破を、轟は炎を出すことで、ダークシャドウは弱くなっていく。

そして常闇の後ろに隠れるように、子犬のように引っ込む。先ほどのモンスターとは偉い違いだ。

一方、柳生も皆んなと合流し落ち着いてきたのか、はたまた隠鬼の目の効果切れか、元に戻っていく。

 

「はわわ、常闇くんのダークシャドウくん…凄く強かったのに、光に当てると…なんか子犬みたい…」

 

「……?爆豪に、飛鳥…か?」

 

ようやく我に返った常闇は、冷や汗を流しながら、辺りを見渡す。

ダークシャドウが常闇を飲み込んでたせいか、先ほどまでの記憶は無く、自分が何をしたのかすら覚えてない始末だ。

 

「すまない……俺は障子の腕が飛ばされた途端、怒りに任せてダークシャドウを出してしまったのだ……

その影響か…俺は、皆んなを傷つけるために……己の心が未熟だったせいだ…本当に、申し訳ない……」

 

常闇は悔いを噛みしめるように謝罪する。

頭を深く下げる常闇を見て一同は黙る込んでしまう。

 

「という事は、あの腕はやっぱ障子の複製腕だったのか…」

 

常闇じゃ無くて良かった…とは言えないが、それでも障子の複製腕は再生が可能なので、腕を斬られても心配は無いという話だ。

不幸中の幸い…と言ったところだろうか。

 

「後悔するのは後にしろ…と、普通のお前なら言うだろうな…」

 

障子は常闇にそう告げると、横目で柳生の方に視線を移す。

 

「柳生は、大丈夫なのか?」

 

「あっ、柳生ちゃん!」

 

柳生は拗ねてるのか、此方に視線を合わせようとしない。

それは、雲雀を救えなかった悔しさか、皆んなを傷つけてしまったと言う悔恨か…

 

「……飛鳥、俺のことは……」

 

「まだそんな事言ってるの?」

 

飛鳥はうぅ〜っと唸るように言葉を発する。

どれだけ励ましの言葉を掛けようと、柳生の心が晴れることはないだろう。

しかし――

 

「だったら、雲雀ちゃんを取り返せば良い話じゃない!」

 

バカの考えることは至って単純だ。

分かりやすく、そして難しくも無く、至ってシンプルなのだ。

 

「……雲雀が何処にいるか分からないんだぞ?それに…」

 

「う〜ん…でもさ、敵がまだここにいるなら…もしかしたらまだ雲雀ちゃんは無事なんじゃないのかな?」

 

「……どう言うことだ?」

 

「雲雀ちゃんが目的って言ってたんだよね?でも目の前にいなくなっちゃったってことならさ、雲雀ちゃんが安全な場所へ避難したか、または敵と交戦中か…

私はよく分かんないけどさ、でも雲雀ちゃんの気配がなくなった訳じゃないんでしょ?」

 

言われてみれば確かに、雲雀の気配は微かに感じる。

いなくなった訳でもないし、あの雲雀がやられるとも考えにくい。

第一、敵の目的が雲雀と爆豪ってだけで、何が狙いなのか分からない。

イかれた連中のことだから、きっと命を狙ってると考えるのが妥当だろう。

 

「今度は救けようよ、ね?柳生ちゃん」

 

「………」

 

出来るのだろうか?

自分ですらあの鎌倉に手も足も出なかった自分が、果たして救けることが出来るのだろうか?

いや、出来るか出来ないかの問題じゃない…救けるんだ。

けど、今回は一人じゃない…

 

「ああ、勿論だ――」

 

 

――仲間がいる。

 

 

 

こうして、合流し陣形を整えた皆んなは、他の生徒達の安否を確認しながら、森の中を探索することになった。

 

――……爆豪を守りながら。

 

 

「待てテメェら!俺を守ろうとするんじゃねェ!!」

 

……若干、チームとしては偏ってるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ…さっきの騒音…?」

 

暗闇の中、数十分間の激闘が続いていた。

双方は血を流し、満身創痍の状況であった。

純白とした鋭利な爪は、血に染まり、タラタラと垂らし、雫が落ちる。

騒音と言えば森の木々を破壊していく物騒な破壊音、ダークシャドウの暴走。

森の中にポッカリとした空洞があり、道ができていた。

地面には血が少量流れており、誰かが吹き飛ばされたものだと理解した。

 

「まさか…だと思うけど…」

 

地面には何本か強靭な刃が刺さっていた。

どれも血に濡れてるものの、それが何の意味を表すのか、理解するのに時間は掛からなかった。

 

――ムーンフィッシュ!!

 

やられた。とは考えにくい…だが、あの歯は間違いない…ムーンフィッシュの個性、歯刃だった。

つまり、何者かがあの殺人鬼を再起不能にしたのだ。忍学生ですら苦戦すると高評価を押してたアイツが、何者かにやられたのだ。

 

(そんなヤツいたっけ…?)

 

しかし、幾ら思考を働かせたとしても、爆豪か夜桜…或いは今回の優先殺害リストのランキングNo.1、緑谷出久。

それしか考えられな――

 

「余所見してる暇…あるんだね!」

 

「ッ!?」

 

大鎌が振りかぶり、肩を切りつけられる血飛沫が飛ぶ。

頭に血を流す四季は、服に裂け目や鉤爪の痕を負いながらも、前に飛び龍姫の肩を切りつけ、そこから顔面も斬りつけようとするも、スレスレに避ける。

 

「んのッ!邪魔ァ!!」

 

龍姫は掌から思念化した龍の形をしたオーラを放出し、四季に食らいつくように向かっていく。

 

「またソレ…!本当に嫌になっちゃう!!」

 

この追尾型の龍はダメだ、喰らえば爆発に巻き込まれる。

爆豪の爆発の脅威力版、と言った方が良いだろうか、一つ喰らえば体が吹き飛ぶんじゃないかという程の絶大さを誇る。

 

「秘伝忍法――【クウソクZEX】!!」

 

無数の蝙蝠達が束になって龍のオーラに襲いかかり、相殺。

巨大な爆発音と轟音が鳴り響き、風圧が襲いかかる。

思わず仰け反ってしまうほどに、押されてしまい、二人はバランスを崩してしまう。

 

「マジで……強い…でも、向こうだって瀕死だし…もうちょいで……」

 

「あー…もー!頭クラクラするし、いつの間にか毒ガス晴れてるし…仲間も倒されてるし…ウンザリなんだけど…!!」

 

溜息交じりの愚痴を吐く龍姫は、拳を強く握りしめ、歯を食いしばり思いっきりアイアンプローを決めようと足を一歩前に出す。

 

「一か八か…秘伝忍――……」

 

「四季ちゃん!!」

 

「「!?」」

 

一つの声が仲介し、二人は思わずと動きを止めてしまう。

森の視線の先には、美野里や他の皆んなが来ていた。

少し変わったといえば、麗日と蛙吹が追加したことだろう。雲雀救出メンバーが一気に駆けつける。

 

「皆んな!?」

 

「……あァ?」

 

増援が来たことに苛立ちを覚える龍姫は、眉間にしわを寄せる。

四季はようやく手助けが来てくれたことに安堵の息を吐きながら、思わず体の力が抜けてしまう。

 

「コイツ…連合のヤツか?」

 

皆んなも直ぐに警戒態勢に入る。

四季と相手にしてると言う事は…だ、恐らく忍である可能性は高いだろう。

見た目的にヴィランだとは思えない。

 

「あー、増援来たか…本当は誰か一人でもって思ってたんだけど…やーめた――」

 

龍姫はつまらない物を見るような目で一人一人見ていくと、呆れた仕草で肩をすくめる。

一瞬、躊躇してしまう皆んな。

コイツらの目的が爆豪と雲雀以外の相手なら誰であろうと迷わず殺す、そんな連中が辞めた。と言った。

まるで先ほど会ったトガヒミコのように、簡単に諦めてしまう。

 

「まあ…弔から、最悪な場合は命を優先にして逃げろって言ってたし…」

 

「逃すわけないで――」

 

四季が相手を逃がすまいと少し体を前に出した途端、龍姫は龍の化身とも言えるオーラを放ち、それを四季や緑谷達…ではなく、地面に放出する。

 

ボガアカァァン!と地面が揺らぎ、土砂が降り注ぎ思わず目に入ってしまいそうになる。

口に土の味が嫌に広がり、思わず唾と同時に吐き出したくなる。

目眩しとして忍術を使うとは少し誤算だった。確かに忍の道としては使い道はオールオーケーだろう。

行方を眩ませ、相手の目を欺く…これぞ忍の極意の一つでもある。龍姫は姿を消した。

 

「消えちまったか…」

 

「でも向こうが逃げるならこっちも本望よ…無理に戦わなくても良いし、相澤先生が許可を下ろしたのも、あくまで自分の身を守るためだと思うわ」

 

轟の言葉に蛙吹はそう言う。

拳藤と同じく、許可の意味を深くよく理解できている。

流石は、期末テストの実技試験を乗り越えただけの事はある。

 

「んなことより…皆んなどったの?手助けしてくれたのは嬉しいけど…なんか慌ててるように見えるし…というか緑谷ちんと飛鳥ちん傷が凄い…やっぱ敵に…?」

 

「うん、とっても強かった…今の私じゃ、歯が立たない位強かったよ……」

 

「そ、そんな事よりさ四季さん…雲雀さん見かけなかった?」

 

「雲雀ちん?そう言えば敵の目的が雲雀ちんと爆豪ちんなんだよね?見てないけど…」

 

「そっか……あのね、今僕らかっちゃんを守りながら皆んなの手助けと一緒に雲雀さんを探してるんだけど、四季さんも――」

 

「ちょ、ちょっと待って緑谷ちん!

……何、言ってるの?」

 

四季は「何言ってんだコイツ?」みたいな驚く視線で緑谷を見つめている。

いや、緑谷だけじゃなく…皆んなを見ている。

 

「あのさ、その肝心のかっちゃんはさ…何処にいるの?」

 

「――は?何、言ってんだよ?かっちゃんなら後ろに…」

 

後ろを振り返った途端、かっちゃんはいなかった。

かっちゃんを囲んでた皆んなも気が付かず、四季が言われるまでは理解できなかった。

どこに行った?だってかっちゃんはついさっきまで後ろにいたのに…

爆豪は確かに自分勝手で我儘で、自分のことしか見えてなかったが、幾ら何でもこんな状況下でフラッと何処かに行くなんて馬鹿はまずないし…

 

「何処に……」

 

「彼と雲雀ちゃんなら――俺のマジックで、貰っちゃったよーん」

 

ふと、若々しい男性の声が、上から聞こえた。

皆んなの視線が一点集中する。

木の枝の上に、土茶色のコートを羽織り、素敵なステッキを木の枝に突き、ハット帽と仮面を被った奇妙なマジシャンの男が一人、ビー玉サイズの球を四つ手に持っている。

 

「コイツらはお前らヒーロー(そっち)側に居るべき人材じゃあねえ!俺たち(こっち)側の人材だ!

 

――だから、俺たちが二人に相応しい輝かしいステージへと…導いてやるよ!!」

 

「!!?返せ!!!」

 

敵ネーム・Mr.コンプレス――

音も立てず、忍の気配すら掻い潜る奇妙な男は、爆豪と雲雀を拉致った張本人だ。

事態は急悪化。

奇々怪々と迫る事態、マジシャンは闇世の中で、嘲笑う。

 

 

 





これでもう終盤かな?
はい、一周年記念は何しようかな…って思ったんですけど、まだ100話記念やってませんでしたね…
先ずそっちから片付けるか…
しかし、一年で104話まで行くって自分でも驚きです。にわかに信じられませんね…
でも、皆んなが幸せなら…オーケーです!!

それはそうと林間合宿編、そろそろ終わりに近づいてきたな…となると次は…もうお判りですかね?


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