光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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いやぁ、面白かったですしヒロアカファンには堪らないですね!これからもヒロアカファンとしてヒロアカを応援してます!さぁ、皆さんも行きましょう、Plus ultra!!




102話「救けるからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

相澤の許可が降りてから数分後、この場にいる全ての人間にマンダレイの声が頭の中に流れていく。

 

生徒たちは戦闘、及び個性の使用を許可する。

また、生徒のかっちゃんと雲雀は直ぐにこの状況から撤退すること。出来るだけ交戦は避けること――

 

様々な疑問を浮かべるもの、苦痛の表情を浮かべるもの、それぞれの生徒が動き出す。

一方で緑谷と飛鳥はヒーローたちに止められるも、先を急がんばかりに森の中へ突っ込んで行った。

マンダレイも虎も、無駄に詮索するよりも今相手をしてる敵を優先し、中断していた戦闘を再び開始する。

 

 

 

 

 

その一方で、今一番に最悪な状況に陥ってる三人組は…

 

「んのクソ野郎がああァァ!かっちゃかっちゃ煩えんだよクソデクの仕業かオイ!」

 

肝心の爆豪は憤慨に満ち溢れていた。

怒り荒ぶる爆豪は、掌を爆破させ吠えている。

 

「らしいな…敵のやろう、爆豪が狙いだそうだ…それと雲雀もか…」

 

轟は氷結で必死に氷の壁を何層にも張り巡らせながらも、爆豪に視線を傾ける。

美野里は半泣き状態で身を縮ませながらも、戦う決意の目は見受けられる。

 

「んなもんクッソどうでも良いんだよ!!ぶっ飛ばしゃ――」

 

しかし…

 

ザシュッ――!

 

「痛ッ――!?」

 

爆豪と轟というクラスの最強一、二位を争う強者であろうと、エリート校の死塾月閃女学館の忍学生であろうと、今の相手は手を焼く相手だ。

手を焼く…なんて生易しいものではない。

相手は宙に浮いてる。

手足を使わずどうやって?

拘束具で縛られ固められてる男の口から強靭で、伸縮自在の歯を伸ばし、地面に突き刺すことで体を支え宙に浮いてるのだ。

その歯は斬れ味もよく、そこらのナイフとは違う歯は、轟の氷の壁をいとも容易く貫き、爆豪と轟に襲いかかる。

服に切れ目が生じ、血が流れる。

 

美野里は轟の後ろに隠れて攻撃するチャンスを伺うも、相手は一瞬の隙も見せない…

爆豪は腕こそ落ちてないが、刃物の歯に腕を掠めて血が流れ、手で押さえる。

 

「うわァ…血…」

 

「んの野郎…チョコまかとヒョロヒョロしてそうな雑魚野郎のくせに…」

 

強い。

今相手にしてるのは人を殺す手練れのプロだ。

美野里はバケツに入ってるボールを思いっきり投げつける。

光を放つボールはその男に飛んでいくも、一点集中するように刃物の歯はボールを貫く。

遠距離だからか、ボールが爆発しても本人には届かない為、無傷に終わる。

 

「つ、強いし近付けない……敵さんって、こんなに怖いの…?」

 

「ねェ〜…ねェ〜…」

 

「!」

 

美野里が落ち込んでる中、男は三人に向かって口を開く。

そしてこう言った――

 

 

「皆んなの、肉、見せて――」

 

 

脱獄死刑囚・ムーンフィッシュ。

死刑判決を下された男、監獄を脱走し一時期ニュースで流された殺人鬼。

全てが、何もかも狂ってる狂人だ。

マスキュラーや黒佐波と同じく、人を殺すことに快楽を覚え、血に染まった肉を見ることに興奮を覚える、理解し難いイカれた人間の一人だ。

人を殺すことなど彼にとっては日常茶飯事、遊びでしかない。

つまり彼にとって殺す、というのは、遊ぶ、という言葉に値するのだ。

一人称が僕であり、殺すことに何の悪意も持たない、遊び感覚で人殺しする狂人、まるで歪みを持ってしまった子どもだ。

美野里とは偏り歪んだ方向性だろうか、純粋な人間もここまで来ると狂気でしかないし、恐怖でしかない。

どうしたらここまで歪んでしまうのだろうか…

否――理解出来ないからこそイかれてるのだ。狂ってるのだ。

 

ムーンフィッシュは刃物の歯から枝分かれするように歯から歯が生えていき、氷の壁が難なく突き刺されていく。

防戦一方。

退こうとするも後ろは毒ガスに覆われている。

此方には近づかず、一定の距離を保っているのが幸いだが、後に退けない事実に変わりはない。

 

「こりゃ一見大雑把に見えてるが、案外計算されてんな…

囲まれてやがる…」

 

前も後ろも無理、道はないとは言え横からでも逃げれるが、相手がそれを赦さないだろう…

ムーンフィッシュは涎を垂らしながら、先ほどよりもより素早く、的確に刃物の歯を生やし刺していく。

 

爆豪も手も足も出ない。

本当は最大火力を出せば倒せなくもないが、それだと爆破の余波で火花に森があたり燃えかねない。

一瞬で氷で覆うにしても森の中には生徒たちがいる、そんな危険な行動は出来るわけがなく、ただこの状況を耐えながら、打開の機会を伺うしかない…

 

「……みんな、こんなのと…戦ってきたの…?」

 

美野里の言葉が小さく、でもって轟の耳に届く。

不安がる美野里は、目の前の理不尽に目を背きたくとも、それでも前を向こうとするが、相手の圧倒的な恐怖と実力に、力が抜けてしまう。

月閃女学館たちは知らない、敵連合という闇組織がどれ程凶悪なのか…

オールマイトヴィランで経験したとしても、やはり怖いものは怖いのだろう…

 

「このまま、美野里も…大好きなパパとママみたいに、殺されちゃうのかな…?」

 

美野里は知っている。

大切な人間が殺された悲しみを、辛さを、苦しみを――

黒影に会い、拾われた時は嬉しかった。

だけど、死んだ時も苦しかった…そうやって大切なものを失ってきた彼女だからこそ、また誰かを失いそうな気で、仕方なかった。

それが何よりも、死ぬよりも怖かった――

 

「美野里…大丈夫だ…」

 

不安に心が支配されてる中、希望とも呼べる光が、声をかけてくれた。

 

「アイツは強い、でも…倒せない訳じゃない。それに倒さなくても、逆転できる立場もあれば、逃げれることだって出来るかもしれねえ、可能性は低いがゼロじゃない…

 

だから、今は頑張ろう…お互い」

 

諦めたらそこで終わりだ。

轟のこの励ましが、美野里の心に靄かかった不安という暗雲を晴らしてくれた。

今でも涙が溢れ出そうだった目からは、希望の光が灯る。

 

「うん…分かった…」

 

小さくとも、弱々しくとも、もう昔の弱虫で、泣き虫な自分とは違う。

どんなに辛い時でも、人は戦わなくちゃいけない…その言葉の意味が、今では大分分かってきた気がする。

 

「あんな変な人、さっさと倒しちゃおう…!」

 

「肉めえええええええェェェェェーーーーーんん!!

 

肉・肉・肉ぅ!肉見せてよおおおォォォ!!」

 

狂人は発狂する。

いつ迄経っても死なない三人に、苛立ちを覚える。

彼が何故、死刑囚になったのか、なぜ脱走できたのか、今ならほんの少しだけ分かる気がする――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

毒ガスが充満してる森の中、ガスマスクを付けてる三人は、草木を掻い潜りながらも、毒ガスが発生してる中心部へ足を踏み入れる。

 

「聞いたか夜桜!拳藤!マンダレイのテレパス、戦闘許可下りたぞ!」

 

「待てって鉄徹落ち着け!そりゃ確かに許可は得たけどさ…このガスがどういう意味を表してるのか分かるか?」

 

「……やべえって事だろ?」

 

「単直ですね」

 

「ハァ〜…鉄徹、お前バカ!」

 

鉄徹に頭を悩ます拳藤は、ガスマスク越しに溜息をつく。

夜桜もあまり拳藤が何を言いたいのか分からず、やり取りに突っ込まず流している。

 

「このガス可笑しいんだよ、さっきからずっとさ、一定の距離保ったまま動かないし、それにこのガスフィルターも限界があってさ、近付く度に濃度が増してるんだ、つまり…早くこのガスを解決しないとガスマスクの効果が切れて時間が来ちまうってこと!」

 

「………」

 

「拳藤…すげぇな」

 

「あー、やっぱな…二人とも分かんなかったか……夜桜はしっかりしてると思ってたんだけど、肝心な所が抜けてるあたり、やっぱ付いて来て良かったわ…」

 

「な、なんかすいませんね…」

 

「いーって別に、責めてるわけじゃないんだからさ」

 

母性の塊の夜桜は、確かに気は真面目でしっかりしてるが、あまりこう言った物事を考えたりしないのだ。

尤も、鉄徹など考えるより先に体が動く単細胞…この二人だけ行かすのはマズイし、それに…

 

「それと、マンダレイのテレパス、あれは多分違うと思う…

許可が下りたのは、敵と遭遇した時に対抗する為で、態々行って良いって訳じゃないんだとウチは思うんだよ…」

 

戦闘許可を下したのは、敵と戦う為ではない、自衛の術を身につける為。

態々敵と戦わせるために許可を下ろしたわけではない、拳藤の言い分は正しい。

敵との対立はプロだけで充分なのだから。

 

「分かった!んじゃぶん殴る!」

 

「はぁ!?ちょっ、聞いてたのか鉄徹!無理して戦えって訳じゃ」

 

「知ってるよんなもん!けどよ拳藤…

敵と戦闘するなとは言ってねえよな?つーことはだ、ブン殴っても良いって訳だ!」

 

極めたバカ、ここに来たり。

拳藤は面を食らった顔を浮かべる。

 

「ワシも、鉄徹さんの意見に賛成です」

 

「夜桜まで!?」

 

「考えてください、この毒ガスを吸えば意識を失うか、最悪の場合命を落す危険性だってあり得る訳です…

八百万さんのガスマスクがあればこの状況を切り抜ける可能性はありますが…もし、ガスマスクを装着してない人がこの森の中で、しかも敵と鉢合わせしていれば…また毒ガスのせいで逃げれない人もいれば…

その為には、このガスの原因をどうにかしなければなりません…」

 

その為には、今このガスに近い三人が対処しなければならない。

相手は恐らく毒ガスを発生させる個性の持ち主…ガスマスクさえあれば万全だ。

 

「つまり、儂等は全力でガスの主をぶち壊せば問題ねえって事じゃ!」

 

「そういう事だな!!」

 

「ハァ〜…まあ、そうだけど…」

 

意気投合する二人に、拳藤は冷や汗を流す。

こう言った単直な人間は、ここぞの時こそ強い…

夜桜の正義感溢れる生真面目さ、鉄徹の友を想う熱血さ――

しかし、それが決して悪いかと言うとそうではない…逆だ――

 

「なあ拳藤に夜桜、A組の連中…勿論忍学生もだけどよ、なんか思うことはねえか?

例えば、見えない壁の差とかさ…」

 

「見えない…」

 

「壁の差?」

 

二人は頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、分からずと首を傾ける。

そんな二人に鉄徹は何か思うことがあるのか、拳を握り締める。

 

「そう、体育祭の頃からか…俺たちはA組とB組とで大きな差があった…

天と地のように広がる差だ…お前らも感じてると思う…俺ァ感じてた!

じゃあ何が違うかって?ピンチだ!!」

 

体育祭前の、雄英高校襲撃事件。

あの時、生徒たちはピンチを肌身で感じ、理不尽な立場を覆したことで、成長として繋げた。

 

「人を脅かし、壊し、殺す、そんな胸糞悪いイカれ連中に、ヒーローがどうして背を向けられる?!

 

俺達一年B組ヒーロー科!ここで立たねばいつ立てる!?今こそ、この状況を覆すチャンスだ!!」

 

鉄徹の言葉に、夜桜は思わず胸が熱くなる。

正義がここで、立ち止まり背を向けられるか?

違う、出来ない。

自分の掲げる正義は、こんな所で躓かない。

ここで立ち向かわなければ、自分の正義の名が廃る、それこそ黒影様に顔向け出来ない。

 

「それに…塩崎や円場も、クラスの皆んなも、このガスに苦しめられてんだ…!

ソイツのせいで皆んなが苦しめられてんだ、ムカつくんだよ!!嫌なんだよ腹立つんだよそういうの!

だからここで立ち止まったら、俺は切島やクラスの連中に顔向け出来ねえ…

 

ここで、俺たちが立ち止まったら…俺はヒーローなんて口が裂けても言えねえ!」

 

クラスの皆んなが、身勝手な敵の毒ガスに苦しめられている。

ソイツの身勝手な悪意のせいで、大切な友達が苦しめられてる、そんなの許せない。

夜桜も、鉄徹も…もちろん、拳藤も――

 

自分の為じゃない、ヒーローとして背を向けられない、皆んなを救う為に、鉄拳を握りしめる。

 

「行くぞ!!拳藤…!」

 

「……」

 

――バカだ。

やっぱり、正真正銘…単細胞で、真っ直ぐで、バカ正直で、考えてることが丸分かり…

クラス一の熱血漢と呼んでも過言じゃないくらい、大馬鹿だ。

 

でも――そういう所、嫌いじゃないな…

だから、支えよう…折れないように…二人を――

 

「分かったよ鉄徹、夜桜、私もヒーロー科だもん…こんな所まで来て、引き返せ、なんて言わない…

やるからには…全力だ!」

 

拳藤はニカッと笑ってみせた。

可笑しなものだ、こんなピンチな状況なのに、笑ってる自分がいるなんて…

鉄徹のおかげだからだろうか、今なら、やれる気がする。

それ以前に、鉄徹の友を、仲間を思いやる気持ちが、凄く嬉しかった。

それを聞けて、気持ちが楽になったように、安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユラァ…

 

「ん?」

 

ピタリと、ガスマスクの男は止まる。

渦巻く毒ガスの中心部分に立ち止まってる少年は、ある異様な気に察知した。

毒ガスが僅かに揺らぐ…その揺らぎが少年に伝わることで、何が起きてるのかが分かる。

メンバーは全員ここには来ない…毒ガス担当は自分一人だけ、作戦には無かった…ということは。

 

(二、三人…真っ直ぐ僕の方向に、こっちに来てるな……

やっぱ普通に気付くヤツもいれば、切り抜けるヤツとかいるんだね、そこん所しっかりしてる辺り、流石は名門校だな…)

 

「でも悲しいね――相手がヒーローだろうと、忍者だろうと、所詮は――」

 

少年はある方角に視線を向け、学ランの中に隠されてる…銃を取り出す。

その方角から雄叫びに似た男の叫び声が聞こえる。

 

「見ィいいいつうけたあああァァァァァァァ!!!」

 

ガチャッ――!

 

「――人間なんだよね」

 

その言葉が合図となるように引き金を引き、銃声の音が二発、森の中に轟いた。

どれだけ強い個性を持ってようと、忍だろうと、銃には敵わない――

 

敵ネーム・マスタード。

正体は不明、年齢も不明、個性は毒ガス。

この少年がガスを発生させることで、多くの生徒たちの意識を奪い、戦闘不能に追い込ませる。

準備万端した彼にぬかりはない。

その銃弾は、鉄徹の顔に命中した――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銃声…?一体何事ですの…?」

 

ある少女はお上品な仕草で、手の指の先で口を覆う。

眼鏡を掛けた少女は、清らかで美しく長い白髪を下ろし、肌には黒い模様の血管が侵食してる。悍ましさと気品清楚溢れる美しさを兼ね合わせた少女は、読んでた本をパタンと閉じた。

 

「あァ、マスタードさんでしたか…

そう言えば彼、死柄木さんに銃よこせと申しておりましたっけ――」

 

毒ガスを発生させる個性、それは一見強力な個性だが、近接戦闘が出来る訳ではない。

人は、力に頼る。

己が身に付けてる力で人を傷つけ、いつしか実技の概念を失う。

それが善意であろうと悪意であろうと、個性に頼りきっている人間は、大抵個性なしの殴り合いに弱いものだ。

イレイザー・ヘッドなどが良い例えだ。

 

「となると、もう本格的な戦闘が行なっていますのね…

私ももう()()()()()()ので、仲間の加勢にでも行きましょうかね――?」

 

少女は軽い冷笑を浮かべ、ある人物に視線を向ける。

その人物は、この少女と同じく肌に黒い模様に侵食され、気を失っている、ラグドールであった。

ラグドールは意識がないのか、気絶したまま目を開けない。

そして…地面から黒紫色の棘状となった触手に身体を縛られ、締め付けている。

ラグドールは苦痛の表情など一切見せる事なく、無心の表情でいた。

まるで心そのものが無になっているソレは、見る者に対し不気味さを与えている。

 

「ヒーローも、忍も、全然大した事ありませんわね――♪

 

何よりもラグドールさん、貴女のその力は連合に必要です…このままお眠り下さい…」

 

少女の笑顔は美しくもあり不気味だ、二つの印象が強い事を表している。

彼女は気絶してるラグドールにそう告げると、ゆたりと遅く足を動かし移動する。

そして彼女は本を開き、何かを読み上げると、謎の黒い霧が発生する。

その黒い霧がラグドールに集まるように漂い、固形状の物体に覆われ、閉じ込めていく。

そこには、ラグドールの姿はなく長方形の柱が立っていた。

あの柱の中にラグドールがいる、脱出不可能の上に外からの救出もゼロに近い状態に終わらすと、彼女は森の中を彷徨うかのように、何処かへと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「柳生…ちゃん?」

 

「――ハァ……ハァ…来る……なぁ!」

 

一方、マンダレイと虎から離れた飛鳥と緑谷は、それぞれの方向に向かって走っていった。

飛鳥は肝試しに向かうスタート地点の入り口から行き、緑谷は出口から…

遠い方向には獣のような雄叫びが聞こえるが、今目の前に置かれてる状況に、飛鳥は呆然としていた。

 

「ひば…り……!飛鳥ァ……ああ…あ…!!」

 

呆然…?違う、恐怖だ。

先程から、体の言うことが効かない。

さっきから体がガクガクと小刻みに震えている。

 

「柳生…ちゃん、一体何があったの!?」

 

ヒュン――

飛鳥の言葉に反応したのか、何かが飛鳥に向かっている。

鞭のような音、風を切る勢い、飛鳥は反射的に避けた。

体の自由が効かない…とは御幣だったのだろうか、しかしそんなこと気にすることもなく、問いかけようとするものの――

 

ズドオオォン!

 

地面が何かに殴られたのか、クレーターのように凹み、地面の破片が飛び散る。

大きな岩盤も抉られ、木々はへし折られ、その光景は最悪だった。

 

「……俺は…いい!雲雀を……探して…くれ!」

 

それは余りにも異常なものだった。

柳生の赤黒い目が、眼帯から飛び出ていたのだ。

その目は見るに余りにも悍ましく、まるで鬼のようだった。

隠鬼の目――

学炎祭で四季が言ってた隠鬼の目とはこのことだ。

柳生が今まで制御し防いでたこの目が暴れ出したのだ。柳生も何とか制御しようと抑え込むも、治らない。

隠鬼の目の暴走は止まらない。

柳生の表情は、酷く苦痛を浴びせられてるような顔だった。

冷や汗は止まらず、まるで蒸発してるかのようにさえ思えてしまう。

 

「雲雀ちゃん…?一体…何があったの!?」

 

「うっ…!」

 

柳生は苦痛に悶えて、身体を僅かに動かすも、隠鬼の目が飛鳥に矛先を向ける。

刹那。

飛鳥の横に大きな衝撃音が響き、土煙と共に視界が遮られる。

後少し、横にいれば確実に死んでたであろう…

 

「柳生…ちゃん…」

 

ただ名前を呼ぶことしか出来ない飛鳥は、己の未熟さに恨んでしまう。

こんな状況の中、自分は何も出来ないのか…

傷を負ってるとはいえ、苦しんでる友を、自分は何も出来ないのか…

柳生をよく見てみると、体に刃物やらで傷付けられた傷跡が見える。

無数に傷付けられ、傷口一つ一つから血が滲み出ている。

早く応急処置をしないと、大量失血で死亡してしまう恐れだってある。

 

傷口からしてみると、恐らく…敵と遭遇したのだろうか…

しかしその肝心の雲雀と敵が見受けられない…

 

「………ううん、ダメだ。

弱気になっちゃ…」

 

飛鳥は元気付けようと、己の両頬を掌で叩く。バチンと音がなり僅かに痛みが走るが、先程の戦闘と比べればこんなの屁でもない。

飛鳥は柳生を見つめる。

 

今の柳生ちゃんは隠鬼の目で暴走してる事は間違いないんだと思う。

でも、問題は柳生ちゃんをどうするか…だ。

暴走してしまった上に、傷口も酷い…どうやって彼女を止めるか…が問題。

普通なら闘って落ち着かせる…が正当方なのだが、これ以上傷付けてしまえば逆に彼女を殺しかけない…

しかも雲雀ちゃんがいないのも心配だ…

 

でも、今は――

 

「大丈夫だからね柳生ちゃん…ちゃんと、救けてみせるから――!!」

 

目の前に苦しんでる友を、仲間を救うことだ。

 

 

 





この作品設定その①
忍結界ってどうなったの?の件について。

はい、今までスルーしてたこの設定に関してですが、あれは今後とも出ないと思います。
理由はこの作品のストーリーが成り立たないからです。
前はアニメの知識でやってたのですが、後々と気付いたのが「これやったらピンチにならなくない?」という点が存在したので、却下となりました。
後々と紅蓮の少女たちのゲーム作品のストーリーでやれば良かったと後悔してますが、アニメでも面白かったので、これはこれで…と言う点がありましたので、以後忍結界は出ないと思います。
妖魔の設定もそれに応じて変わりますね。
妖魔は忍結界に流れた血から生まれる膿のようなものですが、これは『そこらにたまった』忍の血によって生まれる設定です。
なんか付け加えてすいません、この設定に不満に思ったのが、学炎祭が始まる頃に思い出しました、一応報告しておきました(今になって)。


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