光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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はいどーも、皆さん…原作でヤクザに心打たれた作者です…
もうあんなの見せられたら、やるっきゃないじゃないかぁ…ヒーローもヴィランにも、守ろうとする姿勢は憎めないよ…
だからヴィランは魅力があって良いんだよ…





101話「反撃・逆転」

 

 

 

『あの女を殺せ!上層部からの命令だ!』

 

『クソッ!何処に姿を眩ませた…流石は忍の家系と言ったところか……幼女とはいえ逃げ足の早い…!』

 

遠い記憶…

思い出したくもない、血みどろな、暗く、殺伐とした記憶――

 

『見つけ次第連絡しろ、何をしやらかすか分からんからな』

 

嫌だよ、どうして皆んな私を、殺そうとするの?

嫌だよ、私だって人間なんだよ?生きたいよ…そんな、そんな酷いこと…しないでよ。

 

『半蔵からは止められてるとは言え…流石に上層部の命令には背けれないからな、子どもとは言え、心を痛めるな』

 

やめて、お願い…殺さないで――

私は…まだ……

 

『ッッ!見つけたぞ!!』

 

やめて、ダメ、嫌…イヤ!!

 

 

『やめてええェェェェェ――――!!!』

 

 

そこから、記憶は閉ざされた。

暗く、闇に覆われていて、この先の事は何が起きたか分からない…

幼い頃の記憶だからか、曖昧としている…いや、思い出そうとする度に靄が掛かった感じで、よく覚えてない…

なんで、自分が今もこうして生きてるのかすら、分からない…

誰かが救けてくれた、訳でもない…

私は、救われようのない…この世にいらない人間だ…だから、誰かが救けてくれる、なんて事は無いはずなのに…

 

何でだろう、何だろうこの胸にトゲが突き刺さったこの、痛々しい感覚は…

時々…この夢を見ることがある…

けど…今は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――き…――漆月?」

 

 

 

「――ッ!」

 

 

 

気に掛ける黒霧の言葉に、漆月は意識が戻る。どうやらボーッとしてたらしい…

夢に見る光景が、まさかボーッとしてただけで思い返すなんて…前まではこんなこと、無かったのに。

黒霧は首を傾げて此方を見つめている。

 

「どうかしましたか?さっきからボーッとして…」

 

「あ〜…ゴメン、何でもない…ちょっと考え事してた…ハハッ…」

 

「?そうですか…?」

 

「大丈夫、気にしないで」

 

何事もないように、何時もと変わらず笑みを浮かべ手を振る漆月、黒霧はこれ以上何も詮索しず、鵜呑みにしてグラスを拭いている。

 

「それより、死柄木は…?」

 

「ああ、彼でしたら――…」

 

ガチャッ…

 

扉が開く音が鳴る。

二人は話をやめて、自然と意識と視線をその先に向ける、黒いパーカーを着こなしながらも、写真に手を握る死柄木が、何事もなく普通に、平然と、歩み、バーの席に座る。

 

「お帰りなさいませ死柄木弔」

 

「……」

 

黒霧の挨拶など軽く無視をする死柄木は、資料をバーカウンターに置き、ゆっくりと見渡す。

リストには数々のネームが書かれており、資料の横には二枚の写真が置かれている。

最初は緑谷と飛鳥かと思っていたが、よく見るとその写真の人物は、体育祭で一位を取った凶暴な男、爆豪勝己と、半蔵学院の忍学科所属、一年の雲雀の写真が置かれていた。

 

「死柄木、何しに行ってたの?」

 

「先生からの資料…前から貰ったヤツ、もう一度見返そうと思ってな…持ってきたんだよ」

 

死柄木は目を細め、資料を見つめていた。

それは優先殺害リスト…そして名のある敵ネームと抜忍…忍の力を持つ人間…数々の人物が書かれていた。

そこには、まだ見ぬ人物…見たことのある人物が、聞いたことがある名前が載っていた。

恐らく、今回の目的が達成した後のことを考えてるのだろう…

死柄木は今、仲間集めに専念している…前までは、癇癪を引き起こしていた彼だが、帰ってきた途端は驚いた…

死柄木は平然と、何事もないように、普通に笑っていたのだ。

別に笑うなとは言わないが…あんだけヒーロー殺しに苛立ちを覚えていた死柄木が、嘘のように、その怒りは消えていたのだ。

黒霧の言ってた通り、彼は自分なりに納得する答えを見つけたんだろう――

ただ一つ、問題なのが…

 

「ねェ死柄木、開闢行動隊…上手くいくかな?」

 

「…ああ、そうだと良いな…」

 

開闢行動隊。

敵と忍が結束を固め、林間合宿に攻めこむ為に作られたメンバーだ。

死柄木は軽い笑みを浮かばせる。

 

「敵連合開闢行動隊……素性はどうであれ、アイツら充分に上手く使える駒だ…

失敗しようが成功しようが関係ない…組織としては利益になることに変わりはないからな…」

 

ここに来た。

――という事実が、ヒーロー社会と忍社会の二つに大きくヒビを入れる。それが崩壊へと繋がることになる。

目的はオールマイト打倒なのには変わりはない…だが、それは今じゃなくても良い、いつか倒す、その為には準備が必要だ。

 

ゲームと同じ。

自分が主人公ではなく、プレイヤーであるべきだ。そしてあらゆる駒共を使うことで、相手の戦力を削ぎ落としていく。

格上を切り落とし、オールマイト(ラスボス)に挑む。

これらの行動は、ストーリーみたいなものだ。

それに駒の使い方も充分に分かってきた…

ヒーロー殺しの出張に感化されたもの、純粋に意識を引き継ぎたい者は、それらの思念で働かせれば良い。

暴れたい奴や理屈の通じない敵はもっと簡単、適当に暴れさせれば問題ない、ただ今回目的とするあの二人は殺されては困るので、出来れば殺害リストに載ってる人間を率先して相手にして欲しい。

社会に不満に思う人間は、死柄木の命令を聞いてくれるので、逆に助かる。

一番良い最終目標として言えば、殺害リストの人物たちをまとめて殺し、目標達成ゆえに全員無事に戻ってくる事…

だが相手もそう甘くはない…物事が都合よく上手く行くとは限らないので、これは仮としての最終目標…

きっと想像から察すると、駒は何名か堕ちる…

最悪は、失敗…全滅。

だがそれはあり得ないだろう…なんたってアイツらは経験豊富、強力なチカラを持つ狂人達だ。オールマイトがいないと言う情報も上がっているし、何ら心配はない。

 

「使える駒は、ドンドン使っていこう…」

 

「死柄木…抜忍は駒じゃないよ…?上層部みたい…」

 

「彼らは捨て駒と…?」

 

「バカ言えお前ら!俺がそんな薄情者に見えるか!?奴らの強さは本物だ!

 

特に抜忍(アイツ)らは希少価値だ、優先的には生き残れって命じてる!」

 

抜忍は他の敵と違って価値が違う。

行方を眩ませてるし、ヴィランの数よりも低いと推定されてる程だ。

こっちは敵十人、抜忍は五人、明らかに抜忍の方が少ない。

本当はもっと戦力を増やしたかったのだが、調査報告によって仕方なかった…

狙い(チャンス)なら今しかない。

出来れば忍は優先的に生き延びて欲しい…今回、林間合宿だけが敵じゃない…

この事件をキッカケに、上層部から派遣された忍達が、ヒーローと共に駆けつけにくるハズ…

敵はヒーローと、抜忍は忍と対立して欲しい…唯一、抵抗する術はそれしかない。

 

「アイツらは皆んなバラバラな方向に向いている…

だがそれと同時に信頼できる仲間さ…とにかく、成功を祈ってるよ――」

 

これは社会を壊す大きなキッカケだ、連合と絡む事で、マスコミはバカみたいに食らいつく、メディアに流されることで、他の敵と忍はもっと、飛躍的に戦力に加わり、組織拡大も夢じゃない…

 

 

これらの全ては、オールマイトに繋がる。

今までも、そしてこれからも――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず…これで、良しっと……」

 

紐で再び髪を纏め、折れた刀を腰掛けた鞘に納める。

黒佐波を倒した飛鳥は、気力を失うも、根性でなんとか意識を維持させる。

血がポタリと地面に垂れ落ち、真っ赤な血に染めながらも、視線を黒佐波に向ける。

見た所、気は失ってるし、立ち上がる体力も無さそうだ…

大の字になって倒れてる彼、多分死んでないと思う、相当タフだし、それに相手がどんな忍だろうと、殺生は働かない。

 

「生伝忍法…なんて知らないし、咄嗟にその名前を叫んだけど……もう、使えそうにないなぁ…」

 

緑谷と同じく、火事場の馬鹿力によって発揮したのだろうか、あの力がもう一度出せるのかと言われて縦に頷く事は出来ない…

ぶっちゃけ反動が強すぎるこれは、とてもじゃないが思った以上に体の自由が効かない。

 

「思った以上に……体力使っちゃった……」

 

しかし驚くべき事実がコレ。

敵連合のメンバーは恐らく何人かいるハズだ…それなのに、たった一人でこの選抜メンバー筆頭級の敵と戦わされた。

それがどんな意味を表すのか…こんな化け物が何人もいればどうなる?

自分は一人相手にするのがやっとなのに、こんな実力派揃いが向こうにもいると考えると、恐怖以外に何でもない。

最悪、本当に多くの生徒が殺される危険性は高い。

 

「いかな……くちゃ……」

 

ヨロヨロの体に無理に力を入れて立ち上がり、足を運ぶ。

こんなのに皆んなが戦わされてると思うと、心が裂ける程に痛くて仕方がない。

飛鳥は朦朧とした意識の中、必死に前へ進む。

もうダメだ…体の限界が…でも、皆んなが……

 

フラッ――

 

体の自由が効かなくなり、飛鳥は前のめりになって倒れていく。

意識が良くとも、体の自由が効かないのであれば…もう……

 

ガシッ――

 

誰かにキャッチされた。

体を、支えてくれた。

霞む視界が、晴天のように広がる。

 

意識を支えてくれた人物へと視線と共に向ける。

 

「だ、だい…じょう…ぶ…?」

 

自分と同じく、惨たらしく見てるだけで痛々しい…そんな気さえ思えてしまう。

血まみれの緑谷が、飛鳥を支えていた。

いつの間に来たのか、気付かなかった。

同じく、背中には洸汰が心配そうな眼差しで飛鳥を見ていた。

どうやら洸汰くんは無事らしい。

 

「あ、ありがとう…緑谷…くん……」

 

戻って来てくれたのは良いし、感謝してるが、緑谷も重傷…言葉で言い表せない傷を負っている。

――緑谷くんと当たった敵も、強かったんだ。

 

飛鳥は黒佐波を、緑谷はマスキュラーを倒した。どちらとも負けず劣らず手強かった…

圧倒的な怪力を誇るマスキュラーに、絶・秘伝忍法を軽々しく連発多発使用する黒佐波…

今回の敵は、比にならない。

雑魚の集まりなんて集団の面影はもうない、イかれた人間どもが集う、驚異的な犯罪連合…

 

「飛鳥さんも……酷い、重傷だね……」

 

緑谷は言葉をうまく紡ぐように呟き、壁に埋もれてる黒佐波に視線を送る。

見た感じ埋もれたまま気を失っている。

動く気配など微塵たりともないことから、暫くは放置してても大丈夫だと思う…

地震の騒動に不安を抱きながらも駆けつけて来たが、飛鳥が無事なことにはホッとしている。

 

「それは…こっちのセリフだよ……でも、強い……敵の目的も聞けなかったし…」

 

「ああ!それの事なんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボボゥ…。

蒼き炎は微かな音を立てる。

合宿施設の前で燃えてる炎は、虚無と化し消えていく。

少女は刀を持ったまま、合宿施設そのものを斬ろうと腕を振りかかるも――

 

「……あァ、大人しく燃えて灰になれば良かったのですが…まさか、至近距離でアレを避けますか…

 

 

 

 

 

――イレイザー・ヘッド」

 

自分に敵意の視線を感じた少女は、手を休め横上に、施設の屋根に避難してた相澤を睨みつける。

呆れた目線、それは鬱陶しいという意味も込めた冷たい、眼差し。

 

「ったりめぇだ、プロを舐めんな――」

 

少女は矛先を相澤に向ける。

刃先…刀から蒼炎がブワリと炙り出る。

相澤は早くも彼女の能力を阻止するべく、抹消の個性を使用する。

目が赤くなり、乾燥するが関係ない…これで異能は使えないハズ――

 

ボオオゥ――!!

 

しかし、相澤の魂胆は少女には読めていたのか、躊躇なく炎を出す。

相澤が抹消してるにも関わらず、少女は炎を出すことが出来た、それがどんな意味を表すのか、相澤には直ぐに理解出来た。

 

「ッ!?消えねえ…ってことは――まさか…!」

 

「そう、そのまさかです――」

 

抜忍。

その答えが頭の中で一直線に辿り着く。

相澤も伊達に教師をやってる訳ではない、これくらいの推理は予想つく。

相澤の個性、抹消は見たものの対象の個性を消すことが出来る。

しかし、彼女は炎を出した…と言うことは、これは個性出ないことが証明できる。

つまり、忍術。

その答えが瞬時に辿り着くのは、当然なのかもしれない。

 

(忍者は忍術を取得する反面、()()()()を消す…!忍達が厳しい修行を積むのも、個性因子を消すためのもの…

 

厄介なものだな…!)

 

相澤は己の可能性を出来る限り、幅広く活用するべく近接戦闘を磨いて来た。

個性を消す。

相手の個性を使えなくすれば、直接近接戦で戦えばいい話。

相澤の動きはどれもこれもプロ並みだ、だからこそ、強いのだ。

 

しかし、今回ばかり例外がある。

秘伝忍法と言った忍術は個性ではないため、消すことが出来ないケースは、骨が折れる。

相手がどんな忍術を使ってくるのか…いやそれ以前に、相澤の個性が効かなければ、忍にとって相澤はただの人。

下忍相手なら相澤一人でもなんとか太刀打ち出来るだろうが、相手が手練れであれば話はさらに別。

つまり…

 

――死ぬと言うこと。

 

「――させぬわ!!」

 

「――ッ!?!」

 

ドスの利いたデカ声に、少女と相澤は声の主に視線を向ける。

しかし少女は視線を向ける前に、思いっきり壁にめり込む。

ドスンッ――と利いた手応えのある音、少女は殴られ壁にめり込み口から血を吐く。

痛みに表情を歪ませながら、睨みつける。

 

「ブラド!」

 

ブラドキング。

B組担任の彼が、相澤の声に反応し駆けつけに来てくれたのだ。

少女は痛みなど気にしず刀を振りかざすも、ブラドの拳から赤黒い血が流出し、スライムのように彼女の手を拘束する。

解けない、力を入れてもビクともしない。抵抗しようとするも、ブラドは更に拳に力を強く入れる。

 

「イレイザーの抹消で消せなかったと言うことは…

お前は…忍か!一人でノコノコやってくるとは…考え無しにガン攻めとは、随分と我々を舐めてるな女ァ!!」

 

ブラドキングの個性は『操血』

血を自由に操ることの出来る個性、血の量によって応じる。

相手の身動きを防ぐ一手にも使える。

 

「考え無し…ですか、それは貴方達が言えることでしょうか…?」

 

少女は激痛に悶えながらも、言葉を紡ぐ。

気味が悪い程に落ち着いてる彼女の冷静とした姿勢…態度、口調…引っ掛かる。

 

「もしかしたら、貴方達はもう既に掌の上で転がされてるかもしれませんよ?

今こうして、貴方達が立ち止まってる間にも、生徒達が殺されてる…なんてこと、考えもつかないでしょう?」

 

「――ッ!貴様!!何が目的だ!」

 

正義感溢れる熱血漢のブラドの頭に血が上る。相手の安い挑発だと知っていながらも、本性が自然に許すなと告げている。

 

「言えずじまいになれば今度は恐喝ですか?

誰もが夢見るヒーローも今じゃ笑いものですね、こうして見ると、ヒーローに憧れ、尊敬する一般人がどれだけ無能な愚民なのか、ハッキリと分かりますよ――」

 

時間稼ぎ。

少女の目的はこれだ、拉致が明かない――何より相手の筋が読めない…相澤は冷静になりながら彼女が何をするのか、どんな行動を取るのか…考えていた。

挑発してからの忍術?

時間稼ぎとは言え、呆気なさ過ぎる。

使い捨ての駒とも考えにくい…

 

何よりコイツらが何者で、何故この林間合宿の事がバレてるのか、第一目的は?

数は?目的は?位置は?

隅から隅まで全て謎、それにコイツがそう簡単に吐くとは思えない…さっきからブラドを挑発してるだけで、戦う意思すら見せない。

 

「先生!」

 

ふと聞き覚えのある委員長の声に、相澤とブラドは反応する。

飯田に他にも無事な生徒達が数名…全員無傷な事に安堵の息を吐くも、数が少な過ぎる事にやはり心を痛める…

他の皆んなは交戦中…のケースが高い。

当然、少女も…彼女は不敵な笑みを浮かべて生徒達一人一人確認するように視線を送る。

 

――おや、どうやらあの中にはターゲットはいませんね…

それどころか、忍学生もいないとなると…森の中が高い。それかマグネかスピナーが足止めしてる可能性もあり得ますね…

 

少女は諦念したのか溜息をつき、体の力を解く。

 

(となると、()()()はもう要りませんね…大分やられましたし、流石はプロだと褒めるべきでしょうか――)

 

「わっ!敵!?」

 

尾白が皆んなの声を代表するように叫ぶ。

ヘラヘラとした薄ら笑いを浮かべる少女は、もう狂ってるとしか見えない。

根は十分冷静なのだが、こうして血が付着してる状態で見ると怖い。

 

「取り敢えず、貴様をこのまま拘束する!足まではやらん、ブタ箱に入れるのに大変だからな…!」

 

「ふふふ、誠に残念ですがそれは無いかと……」

 

瞬間、皆んなは目の前の光景を疑った。

なんと、少女の腹には穴がぽっかり、ブラドの拳と同じサイズの大きさに空いてるのだから。

一同は驚き且つ唖然とする…

そして少女の体は次第と原型を保てずドロドロの、泥のように消えていく。

最後に「では、さようなら…」と言葉を遺して…

 

「相澤先生…今のは?」

 

「……お前ら取り敢えず中入ってろ、ブラドはコイツら頼んだ…」

 

相澤はそう呟くと、火と毒ガスが充満してる森に視線をやる。

胸騒ぎがする…最悪な事態が…起きかねない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァン!?蒼ちゃん弱!瞬殺てマジかよ!ダッセェなオイ!カッコ良かったぜ!!」

 

火事で黒煙が巻き起こる森の中。

薄らと浮かぶ不穏な人影が三人…

一人は蒼い短髪の少女、もう一人は黒髪が四方八方のギザギザした黒髪の男、そして黒いラバースーツを縫っている灰色の肌に三白眼の目つきをした男性が、燃える森の中に佇んでいた。

陽気な性格をした男性は、「蒼ちゃん」と呼ばれる女性に親指を下に向けて煽ったり励ましたりと、反語で話している。

 

「この…私が?まあ、私が何処ぞの馬の骨にやられたかは存じませんが…数の暴力でやられた…のであれば仕方ありませんね…()()()()()()と聞いてますし…」

 

「違えしー!そうさ負けたんだよ!数の暴力って俺好き!そう言うのマジでサイテーだよな!弱く無いさ、強いんだよ!」

 

「……オイ、煩えぞテメェら…」

 

荼毘が鬱陶しそうな声を上げ、二人は黙り込む。

 

「『蒼志』がやられたって事は…プロヒーローか忍学生のいずれかだろ…

 

 

 

 

 

 

 

まあ良い、今度は()()()()()『トゥワイス』、プロの足止めは俺と蒼志だけで充分だ」

 

「テメェら雑魚どもが何度やったって同じ事だっつーの!

良いぜ任せろ!」

 

この男の名前はトゥワイス。

一見陽気でギャグ満載…巫山戯てるように見えるが連合の中でも欠かせない重要なメンバーの一人だ。

彼がいるかいないかだけで劣勢が決まると言っても過言では無い。

荼毘が火で森を燃やし、トゥワイスは荼毘を増やし、蒼志は周りへの気の察知及び、二人のボディーガード。つまり二人の護衛だ。

敵は恐らくこの火事の騒動に駆けつけに来るはず…相手が手練れの忍やヒーローが来れば厳しい…

尤も、此方には『秘密兵器』がいるので万が一の時があれば呼ぶが…

 

敵も一筋縄ではいかない…強敵だらけだ。

だからこそ、お互い敵は敵同士協力しあう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の木々の中、広間に向かう相澤は息を切らし、呼吸を乱れながらも我武者羅に走り続けていた。

マンダレイは広間に敵が二名いると言っていた、二人の実力なら簡単にやられる玉ではないのは充分承知…だが、それでもどうにも不安で仕方がない。

この治らない胸騒ぎ…嫌な予感しかしかない…

 

「取り敢えず…生徒が全員無事であることを祈るしか…」

 

その間に、もう生徒が殺されていれば?

蒼志の言葉が相澤の頭の中を遮り、静寂な水辺に一滴の雫が落ち、波紋が生じるように、相澤の心は、不安に打たれていた。

 

しかしそんな不安も、僅かに和らぐ事になる。

 

「「相澤先生!!」」

 

「!?」

 

二人の重なった声に、相澤は自然とその視線の方角に向ける。

静まり返った森の中、二人の大きな声で誰なのか直ぐに分かった。

緑谷と飛鳥か、と相澤は声をかけようとするも、二人の姿を見て一瞬で硬直し、不安に染まる。

 

「………おい」

 

「相澤先生良かった!無事だったんですね……」

 

「あの、洸汰くんお願します!水の個性です守って下さい…宜しくお願いします…!」

 

「おい…」

 

「では僕もう行かないといけないんで!」

 

「わ、私も!他のみんなが心配だから行かないと…」

 

「オイって!!」

 

相澤の怒号が響き渡る。

二人は思わず立ち止まってしまい、ぎこちない感じの顔で相澤を見つめる。

 

「……お前ら、何だその傷は……」

 

「えっと、これは……」

 

相澤が怒るのも無理はない。

あんな短期間で、二人の姿はもう直視できない程の重傷を負わされてるのだ、ましてや大切な生徒の無残な姿を見て、相澤が落ち着いていられる訳がない。

洸汰はそんな相澤の足を掴み、緑谷たちに心配の眼差しを向ける。

 

明らかにこの二人は闘って良いなんてレベルじゃない。

 

「お前…また闘ったのか…

飛鳥、お前忍学生とはいえ、任務外や無許可で闘ってはダメだって、担任教師から言われてなかったか?」

 

忍学生も同じだ。

無許可で相手と戦闘を交わしてはいけないと言う掟がある。

悪忍は自由なのだが、最近は抜忍たちを炙り出すため一時は中断になってる…

ヒーロー殺しの事件では上層部が決めた事なので問題ないのだが…

 

「す、すみません…でも…――!」

 

行かなくちゃ。

しかしその言葉は相澤の言葉に遮られた。

 

「だから、マンダレイにこう伝えろ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喧騒に溢れ返る広間。

先程の地震から数分後の出来事、マンダレイと虎はスピナーとマグネと戦っていた。

あれから今になっても状況は変わらず、どちらに優劣が転がるか分かったものではない。

マグネには何故か物理攻撃は効かないし、スピナーは凶器を振るうだけで個性を使ってきてない…

見目がトカゲだからか、異形型の類に入るのだろうが、異形型だからこそ、その個性の特徴があるもの…しかし、それでもスピナーはろくに個性らしいものを使用してきてない。

それは相手にするのに個性は不必要という彼なりの余裕か、はたまた無個性に近い個性か…何にせよ、この状況をどうにかしない限り、生徒たちの安否の確認が取れない。

 

「さっきの地震といい…本当にもう…!」

 

マンダレイは怒りを孕ませた声で舌打ちする。

洸汰のことやラグドールのことが心配だ…

洸汰は緑谷に任せたので信じるしかないが、ラグドールは別だ…さっきから何度も連絡を試してみるも、返信が来ないのだ。

普通なら直ぐに返してくれるのに…

 

「余所見してんじゃねえよ贋物が!!」

 

「ッ!」

 

刃物を束ねた大剣を、軽々しく振るうスピナーは、殺意を含めた目付きで襲いかかる。

まずい、間合いを詰められた…

同じ手は多分喰らわない…

 

「何がヒーロー!何が忍!

良いか?テメェらのような社会の汚染汚物になり兼ねねェクズどもはな、此処で全員!俺たちに粛清されて死ぬんだよおおォォ!」

 

若干、小物臭いセリフだが、マンダレイも苦戦する相手となると相当な実力者なのだろう…

一方マグネは受け身をとってるだけで攻撃はして来ない…

それは虎のキャットコンバッツで相手に余裕を与えない為でもあるのだが…

怪力を誇るあの虎の猛攻を物怖じせず、オカマの笑みを浮かべてるあたり、恐怖でしかない。

 

「さァ!とっとと死にやが――」

 

「――秘伝忍法【二刀繚斬】!!」

 

バリィン!という金属の弾ける音、何かが崩れたような音が広間に響き渡る。

黒い影が、斬撃を飛ばし、スピナーの武器を壊したのだ。

 

「れえェッ――!?」

 

突如、破壊された大剣はスピナーの素っ頓狂な声と共に、凡ゆる刃物が降り注ぐ。

まるで雨のように降り注ぐ刃物は、スピナーやマンダレイ…この場にいる人たちには当たらなかったが、それでもスピナーの自慢の武器が壊されたことは、大きな戦況を与えていた。

 

「ギャッ――!?」

 

同じくマグネは何者かに後頭部を蹴られたのか、体制を崩し前のめりになって倒れる。

虎の猛攻は一瞬で止まる。

 

「ムッ…!?」

 

「君ら…」

 

「ちょっ…何なのよ一体!?」

 

「き、貴様は…!」

 

 

「――虎にマンダレイ、洸汰くん無事です!」

 

緑谷出久。

マグネの後頭部を蹴った本人でもある。

飛鳥はスピナーの大剣を。

突如現れた二人の連携に敵も僅かに痛手を喰らい、バランスが崩れる。

 

「マンダレイ!相澤先生から伝言、皆んなに伝えて下さい!

 

 

 

 

 

『一年ヒーロー科、全忍学科、全生徒は個性及び忍術による戦闘を許可する!』」

 

その伝言が、相澤の許可が、生徒たちの希望になる。

既に戦闘を始めた生徒もいるが、それは緑谷や飛鳥だけの話ではない。

いつ迄もやられてばかりじゃない、反撃だ。

この最悪な状況を打破するのは、これしかない――

 

責任は全て、相澤が負う。

 

 

 

 




死柄木めっちゃ成長してますねww
そりゃ、もう幼稚的な彼から少しずつ大人へと近付いてきてますから。
そしてトゥワイス、原作読んでる人は知ってると思うけど、分身作るのに幾つか条件が必要なんですけど、蒼志ちゃんの分身作ったって事は…
蒼志のおっ… 次回もお楽しみに!


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