光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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ハイどーも皆さん!100話到達した作者でーす!
ありがとう2桁、よろしくね3桁。
いやあ嬉しいものですよね、100話記念に番外編とか考えてます。
ヒロアカすまっしゅ!版の話とか、ストーリーに出てこなかった少年少女達のストーリーとか。
話も少しずつ作ってるのですが、いつ投稿するのかはまだ不明なので、把握してくるだけで良いです。
これからも、この作品と作者を宜しくお願いします。




100話「飛鳥・オリジン」

 

 

魂の底から湧き上がる闘志の叫び、最後に放たれたデラウェア・デトロイトスマッシュにより、マスキュラーは暗闇の森の彼方へと姿を消していった。

視界にはポッカリとした穴を思わせるように、木々は跡形もなくなぎ倒されていた。

先ほどの奮闘から数秒後、静寂な空間が包み込む。

静かであり、ひんやりとした空気、真っ暗な森、その中で血まみれの緑谷は、一人勝利の雄叫びをあげて佇んでいた。

腕はプラ〜ンと垂れており、見るに惨たらしくバッキバキに折れて腫れている。

両腕ともに酷いが、腹部や頬を腫れ上がっており、アザが出来ている。

一方、吹き飛ばされたマスキュラーは完全に気絶、意識喪失している。

吹き飛ばされた彼は緑谷の火事場の馬鹿力による衝撃を食らった為、気絶から回復しても当分起き上がってはこれないハズ…

折れた腕で本気を撃ったとしても、威力は落ちてる…筋繊維を使って防御される可能性も充分あった、だからこそ躊躇なく緑谷は本気で個性を使ったのだ。

 

単純で攻撃特化の個性ゆえにタフだった。

しかも勝てたのは良いが、大分体力を削ってしまった。

もう腕の感覚が無い、視界はぼやけて意識も曖昧…体全身打撲を受けたような感覚…

少しでもどこかに触れると激痛でおかしくなりそうだ。

まだマシだと言うと背中くらいだろう…

背中も何回かは打ったが、前よりかはマシだ。

あと無事だといえば――

 

「ハァー……ハァ………うぅッ…!あッ!くぅぅ……」

 

呼吸が荒くなり、ふらりふらりと足元がおぼつかなくなる。

前に倒れそうになるのを必死で、足で踏ん張った。

ドシンという音が地面に響き、洸汰にまで届いたのだろうか、思わず体を反応させる。

 

「オイ…お前、大丈夫…かよ?」

 

いても経ってもいられない洸汰は、緑谷の元へ駆けつける。

こんなに重傷になってまで、自分を救けてくれた…もし緑谷が来なければ、あの殺人鬼に殺されてたに違いない…

自分の大好きなパパやママがアイツに殺されたのは悔しいし、許せないけど、それでもアイツは確かに強かった。

単純なる増強型…マスキュラーだけじゃなく他にもそう言った個性を持つものは少なからずいるだろう…

しかし、使い方や使う人間によってそれがこんな凶器になると考えると、個性も恐ろしいもの、背筋がゾッとする。

 

「うん、大丈夫……ハァ……それ、よりも……まだ、やらなきゃいけないこと…あるし…」

 

「やらなきゃいけないこと…?もう、充分だろ…?」

 

そんな重傷を負ってまでも、一体何をしなくちゃいけないんだ。そう訴えかける洸汰に、緑谷は顔を上げる。

 

「ううん、いっぱい……あるよ…

 

まず、()()()を先生とプッシーキャッツに伝えなきゃ…

 

それと洸汰くんを守ること…他のみんなだってそうだ…

 

この夜襲に来た(ヴィラン)が全員このレベルなら…それだけじゃない、相手は忍だっている…

抜忍…って言うのかな、多分飛鳥さんが闘ってるアイツだけじゃないと思う…他にもいるハズだ…

 

そうなると、皆んなの命が危険だ…!」

 

特に爆豪と雲雀。

マスキュラー(アイツ)は確かにあの二人が目的だと言っていた。

理由は?そもそもどう言った目的で?何の為に?

理由が定かでないからこそ、不安で仕方がない。

簡単に殺られる玉じゃない…と信じたいが、相手は強敵だ、三下や捨て駒とは訳が違う。

それ程今回の敵は強レベル…

相手によって本気で殺されるリスクは高い。

だったら…

 

「僕はまだ動ける……まだ手は届くんだ…

 

それじゃあ、僕が動けるなら…救けに行くしかないだろ…!」

 

皆んな苦戦してるハズ。

敵の実力。

敵の数。

敵の範囲。

それらが全て不明、しかも生徒の安否も不明。森の中にはラグドールがいるにしても不安だ…

今回の目的は恐らくプロヒーローや先生方範囲邪魔な存在…

確実に始末する気だろう。

洸汰は思わず息を呑む。

ここまでして、敵に勝利しても、誰かを救ける為なら己の傷など見返らない…

改めてこの男がどれだけ凄いのか、肌身で実感できる。

 

「その為には、洸汰くん…君の力が必要だ…」

 

「…え?」

 

突然、自分が必要だと言われたことに、思わず目を見開く。

こんな自分が、どうしてこの場で必要なのか、小さな自分でも理解できなかった。

だって自分は何も出来ない…荷物だと言っても過言じゃない…なのにどうしてこんな非力な自分が必要なのか…

すると緑谷はある方角に指を差す。

その方角に視線を向けると、森が燃えてる光景が映っていた。

そういえば、黒煙が森から出て来て燃え始めたんだっけ…

 

「ねぇ、あそこの森が燃えてるよね…?しかもよく見ればガスも周囲を漂わせている。

多分色的に見て毒ガスなんだと思う…

つまり、囲まれてるんだよあの森は…」

 

その中に生徒がいるとしたら?

しかもB組や肝試すA組は勿論、膨大な被害を及ぼすハズ…

暗闇で視界が見え辛い森の中で確認することは難しいし、何処にいるかも分からない…

そしてもう一つ驚異的なのはは毒ガスだ、あのガスがある限り、ろくに近づけやしないし、その毒ガスがどんな効果を発揮するのかも不明な点…

即死系の毒ガスだったり、意識を無くす毒ガス、睡眠に似たガスだろうか…後者なら命の危険性は減るかもしれないが、これが前者だったら最悪だ、数多くの死人が出るのだから。

尤も、毒ガスに限った話だけでなく敵は全員殺す気でいるのだから…

 

「だから、少しでも被害を減らす為に、君の個性が必要だ…」

 

先ず炎が邪魔だ。

森は火に弱い、だから炎を洸汰の個性『水』で消せば、被害は和らぐだろう…

まあ仮にできたとしても発火元をどうにかしなければ意味がないのだが…

考えるだけでやる事がいっぱい頭の中に浮き上がる。

自分がどう行動すべきか、自分がどう考えるのか、何が正しいのか…

それこそ、ヒーローの本分なのかもしれない。

 

何より今の洸汰は不思議な感覚でしなかった…

あんなにも個性を否定してたのに、ヒーローや超人社会を嫌ってたのに、今ではそんな事気にしない…それも彼のお陰か、心の何処かで落ち着く自分がいる。

それは、緑谷(デク)という存在が、洸汰の心を変え、救けてあげたからかもしれない。

 

 

自分の力が必要としてくれている…そう考えると、なんでヒーローになりたいのか、ヒーローの気持ちが、個性を持った人間の気持ちが、薄々と分かって来るかも知れない…

 

 

洸汰は、静かに首を縦に振った。

 

 

緑谷は洸汰の反応を確認すると、帰り道を考える。

普通なら来た方向にそのまま施設に戻って先生に連絡する、その方が良いのかもしれないが…帰り道には飛鳥が敵と戦っている。

いや、秘伝忍法と言ってた辺り、抜忍だろう…

本当なら自分も参戦したいのだが、洸汰に被害が及ぶ危険性が高い。森の火を消す事も充分に高いのだが、ここはせめて仲間と一緒に行動した方が良い…

その為、飛鳥さんには少し悪いけど先生に頼んで貰う。

先生に洸汰を頼んで、直ぐに飛鳥さん所に戻って応戦する。

その方が今の危機的な状況を打破出来る考えだろう。

 

 

「飛鳥さんには悪いけど…取り敢えず相澤先生に連絡を――」

 

 

 

ズドオオオォォン!!!

 

 

「「!?」」

 

瞬間、とてつもない地震が襲いかかる。

訳も分からず突然地面が揺れだした。

マスキュラーとの戦闘もそうだったが、今回ばかりは大きな揺れだった…

大きな振動に洸汰は怯えるが、緑谷は「大丈夫…!」と元気付けるよう励まし落ち着かせる。

しかし、そんな笑顔とは反面…不安が大きく揺らいでいた。

 

(今の振動…結構近かった……まるで地雷でも起きたかのような大地震…

結構距離が近いってことは――)

 

ズドオオオォォン!またズドオオオォォン!と、激しい地震が何回も連発する。

流石の緑谷も笑顔から徐々に不安と絶望に染まっていく。

 

――ちょっと待て。

 

(ここの近くって、よくよく考えたら…僕を除いて飛鳥さんしかいないだろ…?

こんなに地震が頻繁に起こるって…オイ…待って…)

 

 

ズドオオオオォォオオオオーーーーーーン!!!!

 

 

――大丈夫だよな?飛鳥さん!?

 

最後の地震は特に凄まじく、二人の足元が僅かに浮いた。

メキメキとした音、大地が揺れて小鳥たちや小動物たちが振動によって逃げていく。

不安と焦りで、心が埋め尽くされるかのような感覚…

飛鳥さんは充分強いけど…でも、大丈夫なんだよね?

 

そんな疑問が膨らめば膨らむほど、不安も高まり、心臓の脈打つ音が早くなって行く気がした。

思わず唾を飲み込み、喉に引っかかったような錯覚さえも感じる。

 

 

 

違う予想が、頭の中に過る。

飛鳥さんなら大丈夫…と思ってた自分の心とは反面のソレ…

もしかしたら、飛鳥さん…

 

 

 

 

 

 

――殺られたんじゃ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少々遡り。

風神…と呼ぶに相応しいだろう疾風を見に纏い、刀が渦巻く。

下ろされた髪はたなびき、風によって激しく揺らぐ。

手甲はかなり強靭で、頑丈で、黒く重々しい黒佐波の拳を、飛鳥は受け止めていた。

仲間を、命を、笑顔を、守る為に彼女は、真影の飛鳥となった彼女は刀を振り下ろす。

 

その威力は、真影による刀は、先ほどまでの鈍刀でもなく、下忍が振るう刀でもない…

絶対的強さを誇る、風神の刃。

 

 

――ガアアァァァン!!

 

 

そして、黒佐波は大きく吹き飛んだ。

籠手には刀の斬撃が残り、仰け反る。

突風…違う、風神によるその強さ…それがヒシヒシと音を立てている。

 

しかし…

 

「………」

 

黒佐波は、吹き飛んだものの、飛鳥の予想…いや、この場の誰もが予想を裏切っただろう。

黒佐波は飛鳥の一撃を耐えたのだ。

大きく吹き飛んだと言っても、数十メートルだけ吹き飛び、地面には擦った跡がくっきりと見える。

それでも体力主に怪力を誇る彼の力なら、耐え忍ぶのも不自然ではないのかもしれない。

たった一撃なのだから。

 

だから、飛鳥は止まらない。

 

「――まだ…まだァ!!」

 

飛鳥は突っ込んで来る。

真っ直ぐ正面に、黒佐波は「うらァ!」と殴りかかるも、避けられる。

そして、四方八方斬撃がやって来る。

 

「絶・秘伝忍法――【一刀繚斬】!」

 

「――なァッ!?」

 

驚愕色の声を上げる黒佐波。

その視界に映った光景に、声を荒げる。

ある一定の領域か、何処からともなく地面から岩が出現する。

大きさは約2m程か、飛鳥はそれを足場に水平に往復する。

一本の刀を手に持ち、飛ぶ度に、往復する度黒佐波に斬りつける。

当然疾風の如く、風を切る瞬間的な速さを持つ為、その素早さは並みじゃない。

目にも止まらぬスピードで斬りつけ、黒佐波の忍装束が初めて、切れ目が生じた。

 

(――やった!やっぱり、忍術じゃない…ちゃんと傷つく…!)

 

無敵と思えた黒佐波も、覚醒した飛鳥には敵わないのだろう、次々と斬りつけて行く。

黒佐波は悲鳴は上げず、口元を見る辺り、寧ろニヤリと口角を釣り上げていた。

そこが唯一不愉快なのだが…面倒なことになる前に、秘伝忍法が来る前に、と…連撃をかましていく。

 

「ッ――俺に傷を付けるなんてやるじゃ…ねぇ…か!」

 

声は途切れながらも、言葉を紡ぐ。

口より上を覆い隠すマスクは亀裂し、ピシリと音を立てる。

まさか、自分が傷を負うなんて…

いつぶりだろうか?傷を負ったのは…2年前か、3年前か…

昔のことなど覚えてやしない…

 

そして最後の一撃となるのか、飛鳥はトドメの一撃を喰らわせる。

血が流れる。

黒佐波に血が流れている。

不思議なものだ、絶対強者だと思ってた相手が血を流すと考えると、自分の力は相手に通用するんだと思える。

しかしまた逆に言えばこうだ、真影――覚醒がなければ相手には勝てなかった…とも言えるだろう。

そう思うと少し心は痛むが、この覚醒は自分の力だ…だから、特にこれと言った心配はしてない。

 

「どう…これが、守る盾の力だよ――!」

 

仁王立ちし胸を張って、堂々と…黒佐波にそう告げた。

対して彼は動きを止めたまま、風神を纏う彼女をジッと見つめた。

 

「刀だけが全てじゃない、守る力も立派な強さ…

この覚醒(ちから)は、守る盾があったからこそなれたんだよ――」

 

人を傷つける刀。

人を守る盾。

欠けてるものを補い、持ち合わせることで、人は強くなれる。

人を傷つけるだけの力は暴力であって、本当の強さじゃない。

そう大好きなじっちゃんに、教えて貰った。

それだけじゃない、忍学科の皆んなや焔紅蓮隊、雄英生に教師達、オールマイト…皆んながいてくれたから、強くなれた。

 

だから言わねばならない…皆んなが強くしてくれた…皆んながいてくれた、繋いで、結んでくれたこの力を否定する黒佐波には、言わねばならなかった。

それを、見せて上げたかった。

綺麗事?上等だ、綺麗なことを言って何が悪い、本当に悪いことは口先だけで何もしようとしない、努力しない人間のことだ。

守る盾も、力もない人間が、軽々しく「盾なんざ捨てろ」なんて言葉、飛鳥は許せない。

穏やかな彼女も、怒る時は怒る、人間…いや、生き物皆んな誰だってそうなのだから――

 

「――あァ…そうかよ」

 

嫌に普通に、黒佐波はそう答えた。

認めたのか、いや…見た感じまだ認めてない。

素っ気ない声、しかし彼の言葉はこれで終わった訳じゃない。

 

「弱え弱えと思ってた女が、まさか覚醒来るとはなァ…んなもん誰も予想付かねえよな?」

 

雑魚だ弱小がと罵ってきた、そんな相手が覚醒を持つなど誰が想像する?

覚醒こそ強力なものだが、覚醒前の飛鳥は黒佐波にとってただのひよ子でしかなかった。

これが伝説の忍の孫なんて、と笑ってた自分がいることに、不思議を持つ。

 

「でも…なァ…やっぱ盾は認めねえわ――」

 

しかし、嫌いなものは嫌いだ。

強くなれたとしてもそれは彼女自身…他の皆んなが強くなれた訳がなく、ただ一人自分が強くなっただけ…

それだけでは、盾を認める理由にはならないし、弱者が増え続け、強者が減っていく自体も変わらない。

もしそれが、人が自分の弱さと向き合い、考え強くなろうとするのであれば話は別なのだが――

 

「盾なんて弱さの象徴に過ぎねえし…

つーかお前思ったんだけど…

 

 

()()()()()()()()()()()とか思ってんじゃねえだろうな?」

 

――え?

 

その言葉に僅かに呼吸が乱れた。

黒佐波はガチんと両拳を打ち付け、金属音を鳴らす。

覚醒の力を前にしても、この男は、まだ戦おうと言うのか?

ダメージだって与えたはずなのに、それなのに…

 

「何で立ち向かう?って言う感じなツラぶら下げてんなァ…

簡単だよ、テメェらが負けられないように、俺もまだ負けられねえんだよ。

折角、ここに入っていっぱい暴れるんだからさ…お前一人に負けてちゃあここに入った意味がねえ」

 

まだ暴れたい。

まだ一人も殺してない。

もっと楽しみたい。

戦闘欲による殺意が、黒佐波を強くする。

想いとは色んな形が存在する、歪みだろうと善意だろうと悪意だろうと、人間の心によって人の強さは変わる。

 

刀と盾は、より強く。

諸刃の拳はより強く。

 

「だからよォ〜…

 

 

 

 

 

 

 

俺の為に、死んでくれよ――」

 

その言葉が、再戦の合図となった――

目の前にいる人間は、どうしようもなく理不尽で、身勝手で、不条理な忍だ。

 

「絶・秘伝忍法――…!」

 

「え!?」

 

ましてや、相手も絶・秘伝忍法を使えるとは思ってもなく、飛鳥は素っ頓狂な声を上げる。

 

「【破傷乱波・獄極拳】――!!」

 

凄まじい気と黒い渦巻く風を、圧縮し、赤黒い風が拳に纏わりつく。

球体に似た形は拳を覆い、ボクサーのパンチグローブを似せていた。

それを一発、殴る。

距離は遠くとも、その威力は壊滅級――波紋と遁術・風…更に絶・秘伝忍法による組み合わせ、殴っただけで地面は削れ、木々はへし折ることなく、無残に散っていく。

その威力はソニックブームなんてものじゃない、超衝撃波。

真影となった飛鳥は素早さも長けているので、何とか躱わせたものの、もしアレをまともに食らっていたらと考えると、絶望でしかない。

 

「面白え…面白えよお前!!!雑魚だと思ってた奴が強えなんて、嬉しいサプライズしてくれるじゃねえか最高だぜ!俺もそれなりのお礼、返さなくちゃあよォォ!!

 

 

絶・秘伝忍法!【天上天下唯我独尊波王乱殺拳】!!」

 

秘伝忍法と同じく、連発で絶・秘伝忍法を使用してくる黒佐波は、黒虎の化身を浮かばせる。

今にでも食らい付きそうな、野生的な黒虎の化身は大きく口を開き、牙を向け、それが何匹か現れる。

黒佐波が乱暴に殴ると、それに乗じるように黒虎が動き、飛鳥に襲いかかる。

まるで生きてるみたいだ…いや、これはまるで…大道寺先輩に似てる。

戦闘スタイルも、秘伝動物も…少なからず共通点が存在する。

 

「絶・秘伝忍法――【古式・半蔵流乱れ咲き】!!」

 

拳が数十個もあるように見える拳の残像…黒佐波の絶・秘伝忍法に対応するべく、飛鳥も本気で応える。

逃げてばかりでは追い詰められる。

仮に逃げたとしても、コイツを止められる人間は近くにいない。

同じバトルファイターの類として言えば緑谷たけだが、洸汰がいると思われてる秘密基地から地雷のような轟音がここにまで響き渡っている。

多分、敵と鉢合わせになって交戦中なんだと思う。

応戦?ダメだ、無理だ、逆に殺されかけない。

なら、全力を持って対抗するしかない。

こちらも負けずと黒佐波に追いつくような斬撃を叩き込む。

息が荒くなる、拳が掠って痛みが鮮明に蘇る。

拳圧がより重く、所々食らってしまい痛みに悲鳴を上げそうになる。

重火器で射撃しているかのように見えるその拳は、一切連撃の速さを落とすことなく、寧ろより速く、より重く、殴りにかかってくる。

 

「おいいイィ…お前ェ!

こんなもんなのかああぁぁぁぁ!?!

おッッせえぞオオォォ!!」

 

一気に押し寄せてくる。

まるで強い波がのし掛かってくるかのような重圧感、荒んだ勢いのある風は、飛鳥の体を次々と傷付け、拳の重圧感で口から酸素が放たれる。

思わず悲鳴を上げてしまい、黒佐波は「終わらせてやらああァァ!!」と荒々しく、若干興奮で声が高ぶり、獣のような雄叫びを上げて、黒い波動をブっ放す。

 

強烈な禍い風、圧倒的な戦力、一発だけで重々しい拳を軽々しく連発するスタミナ、此方が攻撃しても、傷こそ見えるが気にもしない様子…そのタフネス。

覚醒の力を持ってしても、黒佐波に追いつくのがやっと…いや、それ以下かもしれない。

飛鳥は岩の壁にめり込み、背中を打ち、背中全身から激痛が走る。

霞んだ目を開きながら、黒佐波を睨みつける。

 

「楽しくなって来たんだ飛鳥、速く立ってくれよ、なァ。

もっと俺に生きる意味を、価値を、見出させてくれや。

 

こんな所でヘバる程、じゃねえよな?言ったよなお前、一流の忍になるって――」

 

「ハァ……ハァ………」

 

頭がクラクラする。

疲労が蓄積し、思うように動けない…

覚醒とは言っても、訓練による疲労困憊と、受けたダメージが消え失せることはない。

肩が呼吸してるかのような辛さ、痛み、殴られた箇所が今でも焦げ目のようにこびり付き、痛みが生きてるかのように思えてしまう。

対して黒佐波は、飛鳥の秘伝忍法によって所々斬られた切れ目は存在するし、血も流れてるが、そんなの関係ないとダメージなど意に介しておらず、余裕を立てている。

 

「なんで…貴方は………抜忍になった…の?なんで、敵連合なんかに………そもそも、目的は…なに?」

 

飛鳥の言葉に黒佐波は薄ら笑いを浮かべる。

拳を下ろし、口を開く。

 

「あァ、教えてやろうか?

 

簡単だよ、俺は()()()()()んだよ、忍に――」

 

捨てられた。

その言葉に幾つか疑問が浮かび上がるが、そんな飛鳥の心情など関係なく話を続ける。

 

「昔は殺害、破壊活動を専門として来た忍でよォ、下された任務は全部、喜んで受け入れたさ、殺すことが仕事なんて夢だしな。

俺は忍の家系に生まれた訳じゃないが……いるだろ?お前んところにも突然、忍になったヤツ――」

 

沈黙が続く。

忍の家系に生まれた人間だけでなく、昔はただの一般人として生きて来た人間が突然、何らかの理由で忍になった人間も少ないわけじゃない。

 

例えば養子の斑鳩。

両親を亡くし、貧しい生活を送って来た詠。

孤児院で育った日影。

家族の歪んだ愛に狂わされた春花。

 

理由はどうあれ、確かに存在する。

黒佐波が忍になった理由は簡単、幼い頃に個性を私利私欲や喧嘩、興味本位で公共の場で暴れたこと、それがキッカケで彼は家を放り出され、一人で生きて来た。

別に辛くは無かった、寧ろ嬉しかった。家族に愛なんてものは存在しないし、好き勝手暴れれるなら万々歳だ。

警察やヒーローも手を焼いていたが、黒佐波はまだ幼い子供、逆に暴れることの何が悪いか、彼には解らなかったのだ。

純粋で歪んだ子ども…

そんな危険的な子どもがあるとき、一人の悪忍にスカウトされたのだ。

 

『ウチに来ないかい?そうすれば君はもっと、強くなれる。

次第によっては、君を必要としてくれる人間もいるかもしれない』

 

ソイツの名前は『小路』

一般的な悪忍さ。

敵との関わりは極力避ける事…と悪忍業界からはよく言われてるが、敵としてはまだ認定されてない自分なら、教育を施せば悪忍としての大きな戦力になれると、見込んだらしい。

俺は言葉二つで返し、俺は悪忍の道に進んだ。

天賦の才が俺にあったのか、訓練も難なくこなし、テメェらの歳には選抜メンバーの筆頭に立っていた。

雑務やメンドくさいこと、殺生や破壊以外の任務は全部テキトーに他の奴らに押し付けた。

殺すことは全部一人でやって来た。

殺すことも、壊すことも、何もかもやりたい放題…

しかも悪忍だ、他の誰かが庇ってくれるし証拠は隠滅…つまり、殺して暴れても、誰にも文句は言われねえって訳さ。

 

「俺は悪忍学校を卒業してからか、悪忍集団組織に加入し速くも上層部から任務が下された。

殺しや破壊活動は難なくこなせて褒められてたっけ…

でも、そこからさ…俺が抜忍になったのは――」

 

ある時、上層部からの伝達があった。

メンバー全員ならまだしも、俺一人…不思議に思った俺は…まァ行くわな。

指定された場所は、名のある上層部が数人…老人が多く、若い野郎が一人…

命雲って名前だったか、ソイツが俺にこう言って来た――

 

『君は悪忍になる気はあるのかい?殺害・破壊活動以外、君は何の任務も受けてないじゃないか、そんな悪忍はこの社会に必要ない』

 

挑発か、やる気を引き出すためか、悪忍として矯正させるのか、何がともあれ遠回しに『悪忍として行きたいのなら全ての任務に全うしろ、背けばお前を抜忍にする』と言ってる事に偽りは無かった。

 

そんで俺は言ってやったさ。

『下らねえ、言ってろ。俺は俺のやり方で生きてくし、テメェらに誠意なんざ払ってねえ、俺は、好きな事出来れば何でもいい――』

ってな、そんで案の定俺はその場で数名の忍にその場で殺しあって、上層部の人間二名くらいか、ブッ殺したさ。

 

 

「そんで俺は抜忍になった訳だ。

そういや…俺を拾ってくれたあの小路とか言うヤツも、ある悪忍の忍学生に半殺しにされたんだと、笑っちまうよなァ?」

 

「……敵連合に入った理由は…?何なの…?」

 

「俺が敵連合に入った理由はもっと簡単、さっき話したように俺は人殺しがしたい、殺し合えれば何でもいい…

 

俺が天下の連合に入れば殺し合うことが出来るし、殺すことを仕事としてくれるからもっと楽、つまり…暴れたいんだよ俺は――

俺だけじゃねえ、マスキュラーも、ムーンフィッシュも、鎌倉も、事情はどうであれここにやって来てんだ…分かるか?なぁもう分かったろ?」

 

殺したいか為なら手段は選ばない。

敵連合に入れば、危機的に狙われる分殺し合いがしやすくなる。

効率的に考えれば、抜忍生活を送るよりもこっちの方がもっと楽しく且つ自由に殺れる。

何たってあそこはイカれた人間が多く集まる組織…もう雑魚集団の犯罪グループなんて生易しいものじゃ無い。

歴とした、カグラ集団の反対に等しい…それこそ、カムイ集団と呼ぶに相応しいものだ。

 

「駄弁りはもう終いだ…テメェはここで、俺に朽ち果てるんだよ!!」

 

――来る。

黒佐波の本気――これまでの経緯なら、絶対に連発で絶・秘伝忍法を使用して来るハズ…

なら、自分もそれに負けずと戦うまでだ。

出来るか?

素の自分で手も足も出なかった自分が、黒佐波に勝てるのか?

 

「ううん、勝つか負けるか…じゃない…コイツを止めないと…皆んなが危ない…!」

 

仮に自分が負けてしまったとしよう、この化け物を一体誰が止めるのだろうか?

 

先生?ダメだ多分勝てない。

緑谷くん?これもダメ、今頃無茶してると思う。

生徒たち?これは論外…危険な目に合わせたくない。

プロヒーロー?タダでさえピクシーボブがあっさり、ああも容易くやられたのに、これ以上の敵をどう相手にしろと?

 

他の忍学生も場所が分からない…なら、勝たなきゃいけないじゃないか。

 

「終わらない!私はまだ、こんな所で終われない!!」

 

飛鳥は刀を交差させ、集中力を研ぎ澄まし、軽く息を吐く。

 

「絶・秘伝忍法――【破傷乱波・獄極拳】!!」

 

「絶・秘伝忍法――【古式・半蔵流乱れ咲き】!!」

 

魂を込めた、強烈な渾身の一撃、その拳。

大地が轟く風神を刀に宿らせ、暴風が唸るその刀を、振るう。

刀と拳がぶつかり合い、火花が散る。

黒佐波は一回拳を振るう毎に絶・秘伝忍法の破傷乱波・獄極拳を連発して来る。

何十回も拳を振るうということは、何十回も絶・秘伝忍法を繰り返して来るという意味だ。

飛鳥は一気に押される。

 

――負けられない、負けたくない、だってまだ一流の忍になってない、仲間と一緒にいたい、生きたい。

 

その想いが、飛鳥を強くする。

 

「たああああああああぁぁぁ!!!」

 

「オラああああああァァァァ!!!」

 

お互い、魂の底から叫び出す。

心も、想いも、力も、何もかも違えど、そこには確かに…輝かしい死の美が存在する。

 

ズッ――

 

「絶・秘伝忍法――【波紋・天地轟剛殲滅覇拳】!!」

 

ドゴオオオオオオォォォン――!!!

 

大地が揺れる。

波紋を大きく集中させ、相手に爆発的な振動を与えるこの技は、今までの秘伝忍法とは比にならないものだった。

大地が大きく轟き、悲鳴を上げているかのように、爆発的な音が、何度も響く。

まるで波が打ち合うように消えない音、地面は亀裂を生じ、今でも壊れかけないものだった。

それを、刀で弾こうとする飛鳥は、あまりにも馬鹿すぎる力に、呆気なく押され負けてしまう。

 

「アッ!?がああァァああああァァァァあ!?!!」

 

振動が、波紋が、拳が、飛鳥の全てを傷つける。

殴られた箇所には跡が残り、血が滲み出る。一発殴られただけでこの威力、どう訓練したらこんな馬鹿力を発揮できるのだろうか、飛鳥は血まみれになりながらも、必死になって、激痛に涙を流しながら、刀を振るう。

 

「一流の忍になるんだろ!?俺に負けてたら一人前の忍になんかなれねェぞ!!お前が死んだら、テメェの守るもん俺が全部壊すんだぞ!?!」

 

嫌だ、それだけは嫌だ…

飛鳥は心に小さく声を出す。

こんなヤツに、大切なものを壊されたら、それはきっと死ぬよりもずっと辛いし苦しいし悲しい…

だから、飛鳥は吠える。

 

「守る!!!絶対に!守るから!!この命に代えても!皆んなだけは絶対に守り通す!!!貴方なんかに指一本触れさせない!!」

 

一つ一つ、大きな言葉を発する。

気持ちで負けてたら、まずコイツには勝てない…だから、気持ちも負けず、力でも負けず、コイツに勝って見せる。

殴打の嵐の中、黒佐波のマスクがヒシヒシと音を立て、マスクに亀裂が入る。

不敵な笑みを浮かべる黒佐波は

 

「――そんなに守りてェなら…

 

 

 

 

 

守って見せろやああああァァァァ!!!」

 

最後の力を振り絞り、絶・秘伝忍法を最大限フルに活用する。

拳がさっきよりも激しく、強く、破壊的な拳の嵐が巻き起こる。

殴られただけで骨は折られ、意識が遠のいていく。

まるで、死へと少しずつ近づいていくかのように…視界がぼやけ、血を流し、それでも心を折れることなく、刃を振るう。

 

「辞められないィ…止まらないいいィィ!!

飛鳥ァ!頼む!強者(オレ)の為に快く死んでくれええェ!!」

 

抑えられない殺意の波動。

辞められない破壊の波動。

止まらない暴走。

 

「やめられねえんだ!!まだ楽しみたい!強者との命を削る闘い!!戦場でしかその価値を見出せない闘い!

嗚呼!ああ!楽しい…楽しいいィ!

 

俺の為に、敗者となってくれよ飛鳥ああァァァァ!!」

 

黒佐波も飛鳥の刀が何箇所か体に突き刺さるも、表情一つ変えずに殴っていく。

頑丈な籠手には飛鳥の血がビッシリとこびり付き、相手はもう押し潰されそうだ。

飛鳥は涙を流しながらも、心の中で必死に訴えかけるように叫び出す。

 

(皆んな!ゴメン、御免ね皆んなぁ…!斑鳩ちゃん、葛姉、柳生ちゃん、雲雀ちゃん…

 

緑谷くんに、先生、皆んなも…本当に御免なさい!!

 

――私、約束守れそうにない…立派な忍になるって夢、多分叶えれない…!)

 

頭の中に浮かぶ人物たち。

どれもこれも皆んな、飛鳥にとってかけがえのない、大切な仲間だ。

 

(――焔ちゃん、雪泉ちゃん、雅緋ちゃん、忍学生の皆んなも、不甲斐ない私で、ゴメンね…?)

 

もし自分が死んだら、皆んなは悲しむかな?

緑谷くんや生徒のみんなは泣くかもしれない。

霧夜先生は、鈴音先生のことがあって、心を閉ざしてしまうかもしれない。

相澤先生やオールマイトには迷惑をかけてしまうかもしれない。

斑鳩さんは三日三晩、泣きこもるかもしれない。

葛姉は自分がここにいれば…と自分を責めるかもしれない。

柳生ちゃんは悲しみで、心を閉ざして氷のように冷たい人間になるかもしれない。

雲雀ちゃんも斑鳩さんみたいに泣いて…多分、立ち直れないんじゃないかな、忍になるのを辞めるかもしれない。

 

焔ちゃんは「まだ勝負は付いてないのに負けて逃げるのか」と鼻息荒くして怒るかもしれない。

雪泉ちゃんは、再び悪に復讐心と憎悪を抱いて、昔よりも酷くなるかもしれない。

雅緋ちゃんは、余り関わったことはないけど、無茶して敵連合に一人で喧嘩吹っかけに行くかもしれない。

 

 

じっちゃんは――

 

 

 

「は・や・く!死ねやああああああああァァァァ――!!!」

 

 

黒佐波の猛烈な雄叫びに乗り、最大級とも呼べる秘伝忍法の限界を超える。

何度も地震が鳴り響き、治らない。

大量の血が流れ、表情を酷く歪ませる。

 

バキィン

 

――そして…刀が折れた。

 

 

ああ、ダメだ――カグラになんか、なれっこないや…

私は弱い…何も…守れないのかな…

 

命に代えても守り通したかった…でも、私じゃ何も守れない――

 

 

私は…

 

 

 

『じっちゃ〜ん、じっちゃん!』

 

意識が遠のき、消えていく中、僅かな光とも呼べる光景…

走馬灯のように浮かび上がる。

これは、まだ自分が四歳の頃だ。

当時は幼く、じっちゃんも少しだけ若く見えた。

 

『おおっ、飛鳥か!なんじゃ?』

 

その頃のじっちゃんはまだ忍として現役時代、名を輝かせていた。

修行をしていたのか、刀をしまいタオルで汗を拭う。

 

『じっちゃんのからだって、どーしてそんなにぼろぼろなのー?』

 

上半身裸の半蔵は、体に古傷が絶え間なくあり、ボロボロだった。

そんな半蔵に疑問を持った飛鳥が、純粋な眼差しを向けて問う。

 

『ああ、これか…

これはな、ワシの勲章みたいなものじゃ』

 

『くん…しょー?』

 

『そうじゃ…忍とは常に死が隣り合わせ。敵・味方問わず死ぬ時は一瞬…ワシはそういう現場を幾度となく見てきた――』

 

その時のじっちゃんの目は、とっても悲しい目をしていた。

大切なものを失った時の目…なんだか不思議とこっちも悲しく見えた。

 

『だからワシは決めたんじゃよ…

仲間のためなら安全な所だろうが、危険な所だろうが、先陣を切って突破しようとな。

 

ワシには、守れなかった大切なものがある…その時はとても辛くてのぉ、自分が死んだと思ってしまう程に、辛く悲しかった。

 

この傷たちはそんな戦いで付いた傷…その分だけ守った仲間がおる――だから、これはワシにとって勲章なのじゃよ』

 

じっちゃんはニカッと笑みを浮かばせ、ガッツポーズを取る。

守って来たものがあるからこそ、傷がある。

それは決して恥じることではない、それこそ、強さの証。

しかし当時の自分は何がなんなのか分からずといった顔で、口を開けて呆然としていた。

 

『はっはっは!まだ飛鳥には難しかったかのう!』

 

可愛らしい孫の髪をくしゃくしゃと乱暴に撫でるじっちゃんは、優しい笑顔で満ち溢れていた。

 

『お前がもう少し大きくなれば、分かるようになるかもしれんな…

 

何かを守る時、必要な力は、刀だけでも、盾だけでもない…

原点というものがお前を強くしてくれる。本当の意味を知ったその時、人は強くなれる。きっと、お前を…もっと先へと導いてくれるハズじゃ――そう、それは…』

 

 

――刀と盾。

 

 

 

「そうだ、じっちゃん…私は…」

 

「――あァ?」

 

――伝説の忍の孫なんて関係ない、大切なのは刀と盾…思い出した、これが自分の…忍の原点だ。

 

途端、風神が折れた刀の先を補うかのように形を作り出し、欠けてた刀が風神によって元に戻る。

 

「――んだコレッ?」

 

優しくもあり鋭い風は、まるで刃物のようだ。

飛鳥の身に纏う風は、彼女を優しく包んでくれる。

 

 

――コイツ…さっきまで瀕死だったろ?何で、アレだけ食らってまだ動けんだよ!?しかもコイツさっきより闘気がバカみてえに上がってきて…?

 

 

「もういっぺん…潰れろおおおおおオオォォォ!!!」

 

黒佐波は荒々しい声で殴打の嵐を巻き起こす。

殴れば殴るほどに、波紋は大きく、風は強く吹き荒げる。しかし…

 

「無駄だよ、黒佐波…貴方の負けだよ!!」

 

飛鳥の刀に力が入る。

その力は真影…覚醒の域を超えていた。

押される刀に黒佐波は焦りの顔色を浮かべる。

 

「ッ――そだろ!?有り得ねえ!俺が、んな…馬鹿な!忍学生だろお前!お前ェェ!!」

 

焦りのあまり、言葉の原型が所々保てなくなり、更に追撃と連打しまくる。

嫌だ、嘘だ、こんなガキに俺が負けるハズ――

 

「絶対に負けるもんかああァァァ!!!」

 

しかし黒佐波の拳は、飛鳥の刀の一振りによって全て弾かれ、衝撃が強く体制を崩し大きく仰け反る。

あの絶対強者の黒佐波が、簡単に仰け反ったのだ。

 

「行くよ!これが、私の原点!

 

 

生・秘伝忍法――【飛鳥流・風神乱れ舞い】!!」

 

風神が、天罰を与えんとばかりに、強靭な風は黒佐波の体全身を大きく傷つける。

飛鳥の姿が見えない…それは、風に紛れ、速いあまりに目で追えないのだ。

何処にいるかも分からなければ、捉えることも難しいだろう。

回り込むように、体全身を捌くように、斬り刻んで行く。

 

「ッ!?あああああァァッ痛ッつああぁぁぁ――!!」

 

「生・秘伝忍法――【天下無明・二刀繚斬】!!」

 

天下に名を馳せたあらゆる亡き忍の魂が、一つになるよう刀に宿る。

魂が込められた斬撃が飛び、黒佐波に襲い掛かる。

 

「終わりだよ!これが、私の忍の道だああああああァァァァ――!!」

 

その斬撃に、黒佐波はなす術なく斬られ吹き飛ぶ。

斬ると同時に、打撃…似た忍法。

斬られた傷口に打撃を食らい、痛みが二重になって襲い掛かる。

 

黒佐波は激しい雄叫びを上げながらも、岩の壁に叩きつけられた途端、声を途切らせ、口から体力の血を吐き出す。

 

ピシリッ――!

マスクは嫌な音を立て、崩壊し素顔が明らかになる。

顔には筋一本の刀傷が斜めに残っており、壁に埋もれ白目を向いたまま、意識が途絶える。

上忍以上…一流の忍が相手にする黒佐波を、飛鳥は倒したのだ。

そんな相手に、飛鳥は見事、勝利を掴んだ。

 

「やった…やったよ…じっちゃん…皆んな、私…守れた……」

 

飛鳥は、乱れた呼吸を整える。

忍の定めは死の定め――

影に生まれて影に散る。

忍の命は儚い。忍の命は報われない。

それは誰も知らない名も無き花。

 

――本当の影は、誰にも見られずに知られずに、人を支えて守って生きている。

 

飛鳥の勝利も、黒佐波を倒したことも、皆んなは知らない…この場には飛鳥しかいないのだから。

でも、それでも良い…それで皆んなの命を救えるのならどうだって良い。

 

これこそ、その姿こそ正しく…かつて忍の象徴と謳われるに値する。

 

本物の忍――

 

 

 

刀と盾――

守る力があれば、人を救える。

戦う力があれば、人を倒せる。

対立する力にこそ、欠点がある、それを補うものこそ、刀と盾。

その意味を理解した時人は強くなれる…

 

全てを斬り捨てる刀――

黒佐波は強かった、守るものが無ければ失うものはない…ただ己の欲望を満たすが為に、幾度となく振り下ろしてきた。

そんな彼には強く、弱点が存在しなかった…

だからこそ、黒佐波は負けたのだ。

 

 

守る力、盾を持たなかった彼は、負けてしまったのだ。

そこに歴然とした差が生まれ、彼は飛鳥に勝てなかった。

それが生涯、彼の一番の致命的な弱点として遺るだろう…

 

弱さを受け入れてこそ、本当の強さを得ることが出来る。

人は最初っから弱い生き物だ…強ければ生き、弱ければ死ぬ…確かにそうなのかもしれない、否定は出来ない、だが刀と盾の意味も、否定出来ないのだ。

黒佐波は知らない、知らなかった…

弱さとは恥じないもの…恥じるべきものではないことを…

弱さは罪ではない、本当の弱さとは、何もしず怠慢に嘆くもの…

 

弱さも、強さの一つ。

弱いからこそ、人は強くあろうと生きていく。だからこそ生き物は皆強くなる。

弱さあってこその強さ…

 

黒佐波はもしかしたら、弱さを受け入れれば、自分が弱い事を証明されるのが嫌だったのかもしれない…それを恐れてたからこそ、否定して来たのかもしれない。

 

 

 

これが、飛鳥――オリジン。

 

 




はい、まさに100話にピッタリな話とサブタイです。
今思うと飛鳥って、最初皆んなから嫌われてたんですよね、仲間じゃなくて…焔とか、雪泉とか雅緋とかに…
まあ嫌われてたって言い方は少し語弊だけど、それでも飛鳥は忍として生温い存在だって言われてきたんですよね。
でも今の話ならハッキリ分かると思います、緑谷がヒーローなら、飛鳥…アンタは誰もが認める最高の忍だよ。



ちょいとプロフィール載せま〜す。


黒佐波

本名・不明。
所属・敵連合開闢行動隊
好きなもの・不明
誕生日・不明
身長・不明
血液型・不明
出身地・不明
戦闘スタイル・近接戦闘、遠距離戦闘

危険度A

パワーA
スピードA
テクニックA
知力D
協調性E

秘伝動物・黒虎



やりたい事はただ一つ、殺し合うこと。
抜忍となった自分を殺しにかかる抜忍狩を狩り殺してきた、正真正銘・忍殺戮快楽の黒佐波。
忍殺害は連合の中で群を抜いており、貴重な戦力として派遣された男。
ヒーロー殺しの主張には興味こそないが、社会を壊すという意見に関しては興味を持ち、死柄木に赴き加入。
社会を壊せば、もっと楽しくなる…殺し合いも自由にできるよと漆月が囁くことで、欲求に刺激を受け死柄木の意思の下で暴れ狂う。
今回の任務とは別で、邪魔者や殺害リストに載ってる人間を率先して殺せと言われてる為、死柄木としては戦力を減らす駒として使っている。

しかし飛鳥によって跡形もなく倒され敗北をした。


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