艦隊これくしょん 幻の特務艦   作:アレグレット

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第五話 私の存在意義

呉鎮守府埠頭付近――。

 一人の正規空母が行ったり来たり落ち着かない様子で海上を滑っていたが、ふと視線を一点で止めると、不意に全速力で走りだした。

「瑞鶴!!」

飛びつくようにして力いっぱい妹を抱きしめながら翔鶴は頬を瑞鶴に擦り付けた。

「あぁ・・・よかった!!無事で、無事で本当に良かった・・・・!!」

ぎゅっと閉じられた両目のふちから涙が頬を伝っていた。それを見て紀伊は胸が一杯になってしまった。

(あぁ・・・・姉妹ってこんなにいいものなんだ・・・・・羨ましいな・・・・。)

自分には姉妹がいるかどうかもわからない。ここに来るまではずっと一人ぼっちに近い状態だった。家族、姉妹、そう呼べる人に囲まれて過ごすことはどのような感じなのだろうと漠然と思ったことはある。その答えの一端が今目の前にあるのかもしれない。

「しょ、翔鶴姉痛い、痛いってば!!」

瑞鶴が叫んだので、翔鶴は体を離した。そして恥ずかしそうに榛名たちに向き直った。

「すみません。取り乱してしまって。この度は妹がご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした。」

深々とお辞儀する。一足先に先行していた綾波の急報で駆けつけてきた鎮守府護衛艦隊のビスマルクたちと合流した榛名たちは、無事呉鎮守府に到着したところだった。ビスマルクたちはまだ哨戒があるからといって一足先に戻っていった。

「いいえ、私の判断ミスで瑞鶴さんを大破させてしまい、本当に申し訳ありませんでした。」

榛名も翔鶴以上に深々と頭を下げた。

「私が提督に報告します。ここはいいですから、早く瑞鶴さんをドッグに入きょさせてあげてください。」

榛名が促した。瑞鶴は気丈そうだったが、受けたダメージは相当のものらしく、引きつった苦しそうな顔をしている。

「はい。」

翔鶴は足を引きずる瑞鶴を支えながら行こうとして、ふと足を止めた。

「あの・・・・。」

翔鶴の視線は紀伊に向けられていた。

「妹を助けてくださったこと、本当にありがとうございました。感謝の言葉もありません。」

「いいえ、私なんか・・・・。」

紀伊は慌てて両手を振った。

「むしろ私の方こそ瑞鶴さんに色々と教わることができました。正規空母としての心構え、本当に尊敬します。」

「ご丁寧にありがとうございます。落ち着いたらぜひお礼をさせてください。すみませんが、ここで失礼いたします。」

翔鶴は深々と頭を下げた。

「はい。早く瑞鶴さんをドックに。」

紀伊が促すと翔鶴はまた一礼し、瑞鶴を伴ってドッグに去っていった。

「いい方ですね。」

紀伊が誰ともなしに言うと、榛名が自分の事のように少し誇らしげに答えた。

「ええ、とてもいい方です。私も何度もお世話になったことがあります。それでいてとても謙虚で礼儀正しくて・・・・。榛名はああいう方をお姉さま方と同じくらいに尊敬します。」

「榛名さんだって同じくらい礼儀正しくて謙虚ですよ。」

「そんな・・・私なんかまだまだです・・・・。」

榛名は頬を染めたが、不意に顔つきを改めると紀伊に言った。

「紀伊さん、すみませんが、提督への報告、一緒に来ていただけませんか?」

「私が、ですか?構いませんが・・・・私なんかでいいのですか?」

「構いません。ご一緒に来てくださると、榛名は嬉しいです。」

榛名はにっこりした。

「わかりました。」

「では、由良さん、申し訳ありませんが、後をお任せしてよろしいですか?」

榛名の言葉に由良はうなずいた。

「はい。綾波さんを探して、3人で入きょしています。ドックにいますね。」

「ええ。」

由良は榛名と紀伊に挨拶すると、不知火を伴って綾波を探しに出かけていった。

「私たちも行きましょうか。」

榛名の言葉に紀伊もうなずく。二人は埠頭から発着所に入港して、港に上がった。

「瑞鶴さんは大丈夫でしょうか?」

「瑞鶴さんに大怪我をさせてしまったこと、榛名はすごく胸が痛みます。でも・・・鎮守府にはまだ高速修復剤の備蓄はありますし、それにドックの施設は横須賀鎮守府に負けないくらいしっかりしています。どんなケガだって大丈夫。必ずよくなるんです。」

榛名の言葉に紀伊は安堵した。

司令部のある建物は発着所から少し奥まったところにあったが、司令部へ通じる道が通る十字路に差し掛かると、榛名は足を止めた。

「少し、回り道をしてもよろしいですか?」

榛名が紀伊に尋ねた。

「え?ええ・・・。構いませんが。」

「ちょっとお見せしたいものがあるんです。こっちです。」

榛名は直進して土手のほうに向かった。紀伊は不思議に思いながら黙ってついていく。

「こっちです。少し足元に気を付けてくださいね。」

「はい。」

紀伊は榛名に促されて、簡略な作りの木の階段を上っていった。

「わぁ・・!!」

上り詰めた瞬間紀伊は思わず声を上げていた。広く緩やかな川を挟んだ土手の両側には多くの桜の木が植わっており、花々が満開に咲きほこっていた。時折風に桜の花びらがさあっと舞い上がり、さながら吹雪のように二人に降りかかる。それでもなお木々には数えきれないほどの花が咲きほこっている。紀伊の感嘆の声に榛名は振り向いてにっこりした。頬が紅潮している。

「すごいですよね!ここは呉鎮守府の隠れた名所って言われているんです!こっち側は鎮守府関係者しか入れませんので、毎年艦娘だけの貸切でお花見ができるんですよ。」

「お花見ですか。いいなぁ。」

紀伊は腕を伸ばし、満開の桜の香りが混じった清々しい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。戦闘で高揚していた気分が落ち着き、穏やかになる。ここで出来るなら一休みして眠りたいくらいだ。

「お花見もただのお花見じゃありません。少し司令部側に行くと小さな広場があって、そこで毎年『鎮守府さくら祭り』を開催するんです。」

「楽しそうですね。こんな素敵な場所を教えてくださって、ありがとうございます。」

「いいえ、あ、そうだ。」

榛名は何か思いついたように両手を組み合わせた。

「私たちは毎年何かしら出し物をするんですけれど、紀伊さんもよろしければ一緒にどうですか?」

もう一度深呼吸しようとしていた紀伊は危うく桜の花びらを飲み込むところだった。

「ええっ!!わわ、私がですか!?」

「ええ!」

「わ、私はいいかな・・・・。」

「どうしてですか?」

「だって・・・・私なんか何もできないですし・・・・。」

風船がしぼむように充実した気分が消えていった。自分には何一つ誇れるものがない。料理だって今まで食べるだけで作ったこともないし、何か作れと言われても、何を作っていいかわからないし、出し物をしろと言っても何もできない。そう思い始めると急に自分がみじめにおもえてきた。

「そんなことないですよ。一緒にやってみませんか?もちろん今すぐ返事をいただかなくても結構ですし、無理にとはいいませんけれど、でも、やればきっと楽しいと思うんです。」

「・・・・少し、考えさせてもらってもいいですか?ごめんなさい、即答できなくて。」

「いいえ。でも・・・わがままかもしれませんけれど・・・・私、紀伊さんと一緒にやってみたいんです。だから、待っていますね。」

「榛名さん・・・・。」

自分を直向に見つめて受け入れてくれる榛名が紀伊には眩しかった。

 

執務室にて。提督のモノローグ――。

 紀伊の奴が榛名と一緒に来た。いつも第七艦隊の報告は榛名の奴がしにくるんで珍しいなと思っていたら、案の定だ。第七艦隊の連中は敵前衛艦隊だけでなく、敵の機動部隊とも会敵してこれを撃破したらしい。その殊勲艦娘は紀伊の奴だったというから驚きだ。奴は軽巡、軽空母、正規空母を撃沈し、艦載機を多数撃破したらしい。それだけではなく、最初に敵の意図を察知して的確に動いたのも奴だったというからまたまた驚いた。あんまり驚いたんで椅子からひっくり返りそうになったくらいだ。これで2戦2勝。自信が全くないといっていた割にこの戦果はなんなんだ。

 だが、奴は相変わらずさえない顔だった。榛名がしきりに紀伊をベタぼめしているのに、奴は「たまたまです。まぐれです。榛名さんや瑞鶴さん、皆さんのおかげでした。私は何もできませんでした。本当です。」と、全力でこれを否定してきた。どんだけ謙虚、いや、謙虚じゃないな。これはネガティブ思考というやつだ。ここまでネガティブな奴を俺は見たことがない。ないが、それでも最初と比べて奴も変わってきたと思う。前はあまりの緊張ぶりに震え上がって真っ青になり今にも倒れそうだったものだが、今は曲がりなりにも受け答えはしっかりしてきている。これもみんなのサポートのおかげだろうが、奴自身も成長してきているということだ。俺はそれが嬉しかった。

 嬉しかったから、またまた間宮券を二人と第七艦隊の連中分くれてやった。後で好きなものを食えと俺が言うと、二人はびっくりしたような顔をした。俺の財布は大破したが、第七艦隊の戦意高揚につながるのなら、まぁ、いいだろう。

 そして、もう一つ俺には気になることがあった。まだ外洋とはいえ、紀伊半島沖付近にまで敵が進出してきている。それも偵察程度ではなく、かなり大規模な部隊が。となると、どこかに敵の中間根拠地があるんじゃないかということだ。そういうと、紀伊の奴が、それは南西のほうではないでしょうかといった。

ほう、南西か。実を言うと報告を聞いて俺もそう思っていた。低気圧の北上コースをぐるっと迂回するような、ましてそれを突っ切るようなまねを敵艦隊がとるとは思えない。前者は燃料が相当食う。後者は下手をすれば駆逐艦クラスは沈む。そうすると、低気圧の北淵をかすめるようにして南西から紀伊半島沖に進出してきたとみるのが妥当だろう。奴はなかなか頭が切れるんだな。

 南西諸島方面か、なるほどな。これを一応上層部に報告を上げると同時に威力偵察部隊を編成して哨戒させる必要があるかもしれない。

 おっと、桜の花びらが執務室に飛び込んできやがった。そういえば、もう桜の季節か。じゃあ、今年も例のあれが始まるころだな。楽しみだ。

 

 

* * * * *

 

 紀伊と榛名は提督の執務室を出るとどちらともなく一緒に瑞鶴を見舞おうということとなった。紀伊はドックに入るのは初めてだった。全部で5階建ての建物は広々として明るい。ガラス張りのフロアのためだろう。だが、病院のように静まり返っている。榛名が説明してくれたところによれば、ここにはメディカルバスと呼ばれる広々とした風呂の様な施設が1階にあり、2階以降は個室の病室が並んでいるのだという。艦娘は軽傷の場合にはメディカルバスで傷をいやすのだが、大破して重傷を負った艦娘は数日メディカルバスと病室を往復するのだという。専門のメディカルチェックを担当する妖精が常時在籍して面倒を見ているのだという。メディカルバスに入ってみるとちょうど瑞鶴は出た後だとのことだったので、二人は瑞鶴の病室をノックした。瑞鶴は姉の翔鶴に付き添われて病臥していたが、二人を見ると体を起こそうとした。

「いいえ、無理しないでください。傷に障ります。」

「ううん、ずっと寝ているのは飽きたから大丈夫よ。」

瑞鶴は翔鶴に助け起こされて起き上がった。弓道衣ではなく薄紫色の浴衣を着ている。そっと翔鶴が毛布を瑞鶴に羽織らせた。それを見て紀伊はとてもいい姉なのだと思った。妹のことをとてもとても大切に想っている。

「榛名さん、紀伊さん、この度は本当にありがとうございました。特に紀伊さん。あなたがいなければ、私は二度と妹と会うことができませんでした。本当に・・・ありがとうございました。」

翔鶴が深々と頭を下げた。

「いいえ、そんな!」

紀伊が慌てたように手を振り、榛名も首を振った。

「榛名は何もしていません。紀伊さんのおかげです。むしろ・・・・・。」

榛名は深々と頭を下げた。

「本当にごめんなさい。榛名が判断を誤ったせいで、大けがをさせてしまって・・・・・。」

瑞鶴は首を振った。

「私は大丈夫よ。数日寝ていればすぐによくなるし。ね、翔鶴姉。」

瑞鶴が翔鶴を見上げる。翔鶴は少し微笑み返したのだが、その顔色はあまりよくない。

「高速修復剤の申請は認められなかったのですか?」

榛名が聞いた。紀伊も不思議に思っていた。高速修復剤が使えれば、瑞鶴はここにいるはずがないのだから。

「ええ。ここのところ軍令部から支給される軍需物資が滞りがちなのに対し、出撃の頻度が上がってきていますから。制海権は相変わらず敵の手中に握られており、大陸からの補給も滞りがちであると聞いています。」

翔鶴が顔を曇らせながら話したところによると、各鎮守府ではかろうじて近海の制海権を確保しているのだが、一歩外洋に出れば、制海権はないも同然だという。もっとも大陸とヤマトとの間の補給航路については、舞鶴鎮守府が全力を挙げて維持しているため、かろうじてつながっているが、それもいつまでもつかはわからない。ヤマトの各補給物資は大半が大陸から輸送されてくるもので賄われているため、それが滞ることはヤマト自身が死滅してしまうことを意味する。

「そうですか・・・・。」

紀伊は戦局がこんなにも悪化しつつあることに驚くと同時に申し訳なくも思った。

「ごめんなさい・・・・。」

「えっ?どうして謝るの?」

瑞鶴が不思議そうに紀伊を見つめた。

「だって、私のせいで瑞鶴さんが大けがを負ったんですもの。私が足手まといだったから・・・・・。」

「バカなことを言わないで。ケガをしたのは私の凡ミス。あなたが命がけで助けてくれなかったら、私は轟沈してしまっていた。そうなれば翔鶴姉とも会えなくなっていた。だからあなたをうらむどころじゃないわ。とても感謝しているの。本当に・・・ありがとう。」

瑞鶴はすっと右手を差し出した。驚いた紀伊は一瞬ためらったが、それをそっと握りしめ、すっと言葉が喉の奥から出てきていた。

「本当に・・・早く良くなってくださいね。私、待っています。また・・・・一緒に戦ってくれますか?」

「もちろんよ。必ず、約束するわ。」

瑞鶴は強くうなずいた。

「あぁ、そうそう。」

瑞鶴は翔鶴をまた見上げた。

「翔鶴姉。」

「ええ。」

翔鶴は微笑んで瑞鶴にうなずくと、姉妹はそろって紀伊を見た。

「あれから瑞鶴に聞きました。紀伊さんは素晴らしい才能があるのに自信をお持ちじゃないって。」

「そんな、私は――。」

翔鶴は穏やかに首を振って紀伊の言葉を制した。

「私、それがとてももったいないと思います。だから、私に少しでもお手伝いさせてもらえますか?」

「???」

紀伊が不思議そうに目を瞬きさせると、翔鶴は言葉をつづけた。

「一航戦の先輩方にはとても及びませんが、私も及ばずながら艦載機の発着や攻撃について紀伊さんに教えられたらと思ったんです。」

「本当ですか?!」

紀伊は頬を紅潮させた。

「あ、あの、あの!ぜひお願いします。私は下手ですし、イライラさせてしまうかもしれませんけれど、どうか――!」

「いいえ、妹を助けていただいたのですもの。それに紀伊さんはとても素晴らしい人だということがこうしてお話していて感じました。今度は私が紀伊さんをお手伝いさせてください。」

翔鶴が微笑んだ。

「大丈夫よ、翔鶴姉はとても艦載機の扱いが上手いの。一航戦なんかに負けはしないわ。」

瑞鶴が誇らしそうに言った。

「瑞鶴ったら・・・。私はあなたの言うほどじゃないわ。それに一航戦の先輩方をそんな風に言ってはだめでしょう?」

翔鶴がたしなめた。

 そして明日早朝から翔鶴が指導するということに話が決まった。面会時間が終わったので、二人は早々に部屋を出た。

「よかったですね!!」

榛名が自分の事のように嬉しそうに話しかけた。

「はい。これも榛名さんのおかげです。」

「いいえ、紀伊さんが自分で開いた道です。紀伊さんならきっときっとこれからも自分で道を見つけられるはずです。榛名も応援しています。」

「ありがとう・・・・。」

紀伊はこみ上げてくるものを懸命に飲み込んでこらえた。

 

 一方同時刻――。提督の執務室横の会議室では主だった艦娘たちの会議が行われていた。

「提督のご意見ではここ最近の大規模な敵艦隊の跳梁の裏には敵の一大根拠地の存在があるとのことです。」

鳳翔が口火を切った。

「そしてその根拠地は南西諸島方面にあるとお考えです。」

「なるほどな。確かに南西諸島は敵の手中に落ちたまま。あそこは海上の要衝だ。敵の補給基地があったとしても何ら不思議ではない。」

日向が両手を机の上に組んで顎を乗せながら言った。

「だから特に最近燃料弾薬やボーキの補給が滞りがちだったんだ。大陸からの船の半分はあそこを通ってくるからね~。西側からの船とかさ。」

と、伊勢。それにうなずきを返した鳳翔は皆を見まわした。

「これ以上見過ごしていては、わが方が不利になるばかりです。そこで、提督が軍令部に意見具申した結果、佐世保鎮守府と共同し、大規模な偵察部隊を反復して出撃、敵の根拠地を発見後、全力を挙げてこれを撃滅し、南西諸島から深海棲艦を一掃する作戦を発令することとなりました。」

これを聞いた面々は一斉に色めきだった。

「やった!久しぶりの積極攻勢ね!!いいわ、燃えてきたわ!!」

足柄が目を輝かせた。

「駄目よ、まずは偵察からだと鳳翔さんがおっしゃっていたでしょう。落ち着きなさい。」

妙高がたしなめた。

「わかっているわよ。もう・・・せっかく気分が盛り上がったのに。それで、まずはどうするの?」

「まず高速艦を主体とする偵察部隊を派遣し、敵の動向と根拠地発見に全力を注ぎます。佐世保鎮守府も同じく偵察部隊を派遣することとなっています。それに伴って佐世保鎮守府近海まで護衛艦隊を派遣して、警戒に当たらせます。提督からのオーダー表は・・・・。」

鳳翔が紙片を取り上げた。

「以下敬称を略させていただきますが、偵察艦隊の旗艦は長良。航空巡洋艦利根、筑摩。そして第6駆逐隊の暁、響、雷、電。護衛艦隊は旗艦ビスマルク、プリンツ・オイゲン、霧島、天津風、雪風、夕立で編成します。」

各艦娘はうなずいた。

「一方佐世保鎮守府からは、軽巡川内を旗艦とする水雷戦隊が出撃します。護衛艦隊は戦艦扶桑、山城に航空巡洋艦最上、三隈、重巡洋艦古鷹、軽空母飛鷹です。」

ですが、と鳳翔は付け加えた。

「敵の前線がはっきりしないこと、また敵がどれほど制空権を有しているか不明なことから、別働空母部隊を編成し、万が一に備えたいと思います。」

「別働隊を?」

「別働空母部隊として、日向、足柄、私、そして紀伊を投入します。」

日向の眉が跳ね上がった。

「留守部隊の統括は赤城さんにお任せします。」

赤城はうなずいた。

「補佐に加賀さん、伊勢さん、榛名さんと妙高さんをお願いします。」

「わかりました。」

「異論がある。」

日向が発言した。

「この作戦は偵察とはいえ反抗作戦の初動として重要なものだ。にもかかわらず先日配属されたばかりの新人を投入するとはどういうことか?」

「彼女の能力は戦艦、空母、両方にまたがるものです。強力な主武装は敵戦艦との交戦において、その艦載機保有能力は敵との制空戦において大きな威力を発揮するはずです。もう一つ付け加えれば、彼女は第七艦隊に配属されて早々、敵のヲ級とヌ級を撃沈しています。それも瑞鶴さんが重傷を負って艦隊の戦列が乱れてからの事です。」

「この目で見ていない以上、話だけ聞いても、な。」

「ちょっと日向さぁ。」

伊勢がたしなめた。

「普段あんたに色々言われているからあまり大きなこと言えないけれど、自分が優秀だからって人を落とすのはやめなよ。」

日向はむっとした色を見せた。

「でも、日向さんの言うことも一理あります。いくら性能が高くてもいざというときに足手まといになれば、全軍に影響が出ます。」

「加賀さん!」

赤城がたしなめた。

「もちろん。」

鳳翔が口を開いたので、4人は口を閉ざした。

「もちろん、紀伊さんが艦隊の足を引っ張るようでしたら、即刻帰投させます。彼女の命にも係わることです。ですが、私としては紀伊さんにぜひ同行してもらいたいのです。これは提督のお考えでもあります。」

そこまで言われてしまえば、日向も加賀も何も言えなくなった。

「具体的な計画、実施日など詳細についてはまた後ほど会議にて伝達します。他に質問はありませんか?」

誰も何も言わなかった。

「では、会議を散開します。」

鳳翔が宣言した。

 

 


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