艦隊これくしょん 幻の特務艦   作:アレグレット

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第三十八話 ミッドウェー本島ヲ攻略セヨ(前編)

 

ミッドウェー本島作戦概要は、赤城が立案した以下のとおりである。

 

『作戦第一次はまず空母部隊による艦載機の奇襲攻撃を遠距離から行います。100キロ地点から艦載機を発艦させ超低空飛行で機動艦隊及び水上部隊に接近、これに一撃を加えます。それに呼応して第二陣の高速艦隊を側面から突入、混乱する敵に一撃を加え、戦線を離脱させます。離脱方向はそれぞれ6時と11時の方向に。相対速度0を保ちながら敵を分散させるのです。第二次は主力高速艦隊での全力を挙げたミッドウェー諸島内への突入です。航空部隊と連携し、一気に同島を制圧、占領します。』

 

敵の水上部隊と対峙する艦隊は、大和、武蔵、山城、扶桑、長門、陸奥、愛宕、高雄、大井、北上、浦風、浜風、磯風、高波。そして護衛空母として大鳳が付く。

 

敵の機動部隊と対峙する艦隊は、赤城、加賀、飛龍、蒼龍の一航戦、二航戦を中核に、護衛戦艦金剛、霧島、古鷹、加古、川内、深雪、長月、黒潮、陽炎、そして防空駆逐艦として秋月が付く。

 

敵の巡洋戦隊への抑えは、矢矧、酒匂、白露、朝霜、朝雲、谷風が当たることとなる。

 

そして――。

ミッドウェー諸島攻略艦隊は紀伊、尾張、近江、讃岐の紀伊型空母戦艦4人に、比叡、榛名の2戦艦娘、麻耶、鳥海、阿賀野、能代、夕立、野分、舞風、清霜、吹雪が当たることとなった。

 

 

 

ミッドウェー本島近海海上――。

 

 最初は鯨かなにかの大群かと長門は思った。だが、近くに寄ってみてみれば、その黒い点は紛れもなく深海棲艦だった。ミッドウェー本島からこの近海に至るまで、びっしりと遊弋している。ものすごい数だった。

 敵は、全艦隊をミッドウェー本島付近に集中させ、まさに乾坤一擲の勝負に出てきたのだ。

「これは・・・・!!」

誰しもが声を上げなかった。凍り付いたように、目の前の状況が信じられないかのように。

「これは・・・撤退すべきじゃないかしら。」

陸奥が心持震えを帯びた声でつぶやく。

「ル級だけで数十隻・・・・信じられないな。全体ではおそらく数百隻がここに集まってきているだろう。まともに戦えば我々は消滅してしまう。」

「他人事みたいに!!」

叱咤しようとする陸奥を長門は軽く手を上げて制した。その落ち着きぶりに陸奥は声を飲み込んだ。

「いや、陸奥。正面から戦おうとするほど私は頑迷じゃないさ。策はある。敵は自ら失策を犯したようなものだ。大軍を狭隘の地に入れてすりつぶされた例は少なくはないからな。」

「でも――!!」

「心配するな。レーダー搭載深海棲艦を撃破され、迎撃能力が大幅に低下したことの表れだ。戦力分散をせず、我々を正面から迎え撃つということは、敵には奇策がないことを証明している。そうだろう?」

あ、と陸奥は声を上げた。大軍を目の前に見せつけることでの心理的動揺を狙ったのだと思っていたが、長門の言うことは一理ある。公然と大艦隊を集結させているというのは、逆に敵に策がないことを示しているのではないか。

 

長門は無線を取り出し、口元に当てた。

「みんな聞け!!」

長門が全艦隊に無線を開放した。隠密行動もここまでだった。ミッドウェー本島を目視できる地点に到達できた以上、派手にやってもいい。いや、むしろ派手にやらなくてはならないのだ。

「ここが正念場だ。我々が勝つか、敵が勝つか、そんな単純な話ではない。人類が生き残るか、深海棲艦がのさばるか、今日の海戦はその帰結が決まるときと心得よ!」

凛とした声は海上を圧するばかりに広がっていく。

「皇国・・・いや、違うか。」

長門はかすかに首を振って大きく息を吸った。

「そうね、私たちが背負っているのは、ヤマトだけじゃないわ。全人類の未来が、双肩にかかっているのだから。」

陸奥が静かに言った。先ほどの動揺の色は消えている。彼女も落ち着きを取り戻し、覚悟を決めたということだ。長門はそれを見て大きくうなずいた。

「陸奥、初砲撃終了後、大和と護衛艦とともに別働部隊として例の地点に急行、時期を待て。いいな?」

「わかったわ。」

赤城の作戦を遂行する上で、直前になって長門は一部修正を加えていた。別働部隊として陸奥、大和以下を割いたのだ。この部隊がどこでどう展開し同投入されるかは指揮官である長門、そして陸奥、大和のみが知ることであった。

 

長門は一瞬瞑目し、そして大きく叫んだ。

「全人類の興廃この一戦にあり!!各員一層奮闘努力せよ!!!」

ひときわ大きな声が海上にとどろいていき、全艦隊が高らかに叫び声を上げてそれに応えた。

「紀伊、頼む!」

長門の無線は紀伊にとんだ。それを聞き取った彼女は、

「尾張、近江、讃岐!!零式弾装填!!主砲集中全力射撃をもって、突破口を開くわ!!」

紀伊が姉妹たちに呼びかけた。3人は一斉にうなずく。そして、紀伊型空母戦艦4姉妹が横一列に展開し、主砲の仰角を上げた。

「構え!!」

凛とした声が海上を駆け抜けた。

「主砲全門全力射撃、開始!!」

紀伊が左腕を振りぬいた。

「テ~~~~~~~~~~ッ!!!」

轟然と砲門が火を噴き、発射された零式弾が青空を切り裂いて、とんだ。

 

 

 これより少し前――。

 

 横須賀鎮守府から続々と艦隊が出撃していく中、葵はマリアナ諸島にいる元呉鎮守府提督に向けて、極低周波電文を発していた。それは――。

『麾下ノ全戦力ヲ持ッテハワイヲ攻略セヨ。』

だった。呉鎮守府にいる空母艦娘の数は、横須賀鎮守府と同等以上である。つまり、マリアナ諸島には一大機動部隊が存在していることになり、その戦力をもってハワイを徹底的に攻略・爆撃することでミッドウェー本島攻略部隊の負担を減らそうという考えだった。

 これを受け取った呉鎮守府提督はすぐさま鳳翔以下にハワイへの出撃を命じていた。

「いよいよ横須賀鎮守府の連合艦隊がミッドウェー本島攻略に乗り出しました。」

会議室で鳳翔は厳しい顔を皆に向けていた。

「今回の戦いが正念場です!!今までの戦い、そして、犠牲・・・。」

鳳翔は一瞬目を閉じた。皆の顔にも綾波の事がうかんでいるに違いなかった。

「すべてはこの時のためです。いいえ、この戦いでつまずいてしまったら、今までの努力はすべて無に帰してしまいます。各員死力を尽くしてそれぞれの任務に当たってください!!」

『はい!!』

全艦隊がうなずいた。すでに南太平洋の島々は呉鎮守府の艦隊によって制圧され、航空基地の建設は終了していた。それら各基地航空隊からミッドウェーに向けて大攻撃部隊が発進している。それも一波だけではなく。第三波までもあるというすさまじいものだった。

 こうしてみると、ヤマトが今作戦をいかに山場とみているかがわかるであろう。

「機動部隊、出撃です!!目標ハワイ!!港湾部に展開する深海棲艦艦隊を徹底的に爆撃・雷撃し、敵の注意をミッドウェー本島からそらします!!全艦隊、出撃してください!!!」

艦娘たちは一斉に駆け出していった。

 

 

* * * * *

零式弾の一斉射撃によって、一面火の海と化したミッドウェー本島全面海域は深海棲艦たちの阿鼻叫喚の叫びで埋まった。

 戦艦、駆逐艦、重巡、空母等が焼けつくされながら消滅し、沈んでいく。それほど零式弾の威力はすさまじいものだった。

 だが、それでも撃破できたのは前面に展開する一部に過ぎない。他の深海棲艦たちは金属音のような叫び声を上げながらこちらに向かってきた。

「よし、かねての作戦通り、後退する!!」

長門が叫んだ。

 

 それぞれの囮部隊が敵との相対速度をゼロに保ちながら誘引してそのすきに攻略部隊がミッドウェー本島に突入、これを制圧する。

 

 単純な作戦だが、それだけに連携が物を言うことになる。

 

 敵艦隊は前進し、長門率いる水上部隊、赤城率いる機動部隊に真っ向から襲い掛かってきた。

 

やや後方に控えていた紀伊は水上部隊、機動部隊がそれぞれ敵と交戦しながら海域を離脱していくのを見て号令した。

「今よ!!零式弾再度装填!!」

尾張、近江、讃岐が一斉にうなずいた。

「発射!!テ~~~~~~~~~~ッ!!!」

轟音と共に青空に放たれた零式弾はミッドウェー本島前面に展開する残存部隊上空で傘を開き、再び猛烈な熱波と灼熱の渦に叩き込んだ。

 

 閃光がおさまった。

「全艦隊、全速前進!!尾張、讃岐、近江、艦載機隊を発艦させて!!!」

紀伊が叫んだ。ここから先は側面から突撃してこようとも、正面に立ちふさがろうとも、一瞬たりとも足を止めず、全速でミッドウェー本島に突っ込むことになるのだ。

 紀伊型空母戦艦4人は艦載機隊を発艦させて万が一に備えた。艦娘たちは全速力で白波を蹴立てて走り出した。紀伊、そして尾張を先頭に、ちょうど複縦の陣形である。紀伊が左翼艦隊を、尾張が右翼艦隊を指揮している。

「紀伊!!」

尾張が叫んだ。

「1時の方向から、敵艦隊!!」

「艦砲を斉射して、対処!!」

「了解!近江!!」

尾張は風に髪をなびかせながら近江を振り返った。

「はい!!・・・・各砲、全速航行射撃、開始!!」

右翼全艦隊が一斉に砲撃を開始した。その間紀伊たち左翼艦隊は左に注意しながら正面に進出してくる敵を正確に集中砲撃し、これをつぶしていったのである。

 

紀伊たちが最大速度で突撃してきたために、展開していた深海棲艦たちは慌てふためいていた。

こちらは停泊しているのに、向こうは航行、それも全速力で有る。まるで島を通り過ぎるようにして走り抜けていく艦娘たちに対して発砲を試みた深海棲艦もいたが、諸元がめちゃめちゃになってしまい、当たらなかった。

 あえて正面に立ちふさがろうとする深海棲艦は全力集中砲撃の餌食となって斉射を叩き込まれ、海の藻屑と消えていったのである。

『フガイナイ!!』

こう叫んだのは、戦艦棲姫たちであった。彼らは後方に待機していて前方の惨状からは免れていたが、無数に展開する深海棲艦たちの醜態ぶりを見ていらだっていた。

『タカガ艦娘デハナイカ!!我ラノ主砲ノ威力、見セツケテクレル!!』

戦艦棲姫4隻が隊列を組んで、ル級フラッグシップ以下の深海棲艦たちを引きつれて前面に出てきた。

「まだ、水上部隊の主力部隊が!?」

紀伊が愕然となった。これまでの深海棲艦たちとは違い、戦艦棲姫は装甲も火力もけた違いであり、とても一撃で沈められる相手ではない。

 

 それが4隻もそろっているのだ。

 

「紀伊!!」

尾張が叫んだ。彼女は今にも引きつらんばかりの凄まじい顔をしている。

「躊躇い無用!!全力集中射撃開始の指令を!!」

「わ、わかったわ!全砲門、開け!!」

轟ッ!!という主砲の発射音とともに巨弾が敵水上部隊に飛んでいった。火柱、水柱が無数に立ったが、敵は進撃をやめない。

「駄目!!艦載機隊、雷爆撃を敢行!!!」

讃岐の号令一下、超低空をとんだ流星改二の超雷撃隊は1600番という途方もない新型魚雷を一斉に放った。

現代の魚雷に匹敵するこの1600番は戦艦と言えども一撃で轟沈できるだけの破壊力を持っている。

 

轟ッ!!

 

という凄まじい衝撃と水柱と共に戦艦棲姫のうち2隻が一瞬で爆沈し、ル級以下を吹き飛ばしていた。

「ナ、ナンダト!?」

愕然となった一隻がつい行足を緩めた瞬間、真上から投下されたこれも彗星改二の1200番が続けざまに命中して大爆発をおこした。

「オノレ!!」

残る一隻が叫び、続けざまに主砲を斉射してきた。さらにその横合いから空母棲姫が続けざまに艦載機を発艦させてきた。

「空母棲姫まで!!あの艦載機隊は、私が引き受けます!!姉様たちは先に行ってください!!」

讃岐が叫んだ。

「駄目!!この作戦は絶対に足を止めないことが条件なの。讃岐、艦載機を指揮して防ぎつつ、手におえない敵は防空砲撃に任せなさい!!」

紀伊が叱った。

「わ、わかりました!!敵機、来ます!!皆備えて!!」

讃岐の言葉とともに無数の敵艦載機が襲い掛かってきた。ヲ級フラッグシップとは比べ物にならない練度である。最初から至近弾が降り注いできた。

「烈風隊!全力迎撃!!」

讃岐が叫んだ。烈風隊が迎撃に向かうその合間をかいくぐって、攻撃隊が残存戦艦棲姫に集中攻撃し、これを撃沈した。

「防空戦闘なら、この麻耶様に任せな!!」

改二となって対空偽装を大幅に強化した麻耶が紀伊型空母戦艦を守るようにして阿賀野たちとともに輪形陣形を展開して凄まじい弾幕を形成した。

「あぁ!いいじゃない!防空駆逐艦がいなくたって、私たちだけでもやれるよね!」

阿賀野が誇らしそうに言った。

「危ない阿賀野姉ッ!!」

能代が叫んだ。

「え。何?・・・・きゃあっ!!!」

阿賀野に艦載機からの爆弾が命中し、大爆発が海上に広がった。

「だ、大丈夫!?」

艦娘たちが動揺したが、紀伊が叫んだ。

「足を止めないで!!全速前進!!吹雪さん、阿賀野さんを護衛して退避してください!!」

「え?でも――。」

「足を止めている暇はないんです!!早く!!」

「わ、わかりました!!ご無事で――。」

吹雪はけがをした阿賀野を支えるようにして後方に下がっていく。

「き、紀伊さん、私――。」

何か言いたそうな阿賀野に対して、

「後で聞きます。・・・今は戦闘中です!!」

背中を向けながらそう言い捨てて紀伊は吹雪をせかし、そして自分はまっしぐらに空母棲姫に突入していった。主砲が発射される。轟音と共に空母棲姫が四散して吹き飛んだ。

「阿賀野姉。」

能代が怖い顔をしていた。

「紀伊さんは阿賀野姉を嫌ったんじゃないの。それだけ今回の戦いは厳しいの。誰かをかまっている余裕も叱っている余裕もないの。」

それだけ言うと、能代もまた皆を追って走り出していた。

「・・・・・・・・。」

阿賀野は悄然としてそれを見送っている。広い洋上に二人だけ残された。

「さぁ、行きましょう。」

吹雪が阿賀野を促した。

 

 この時、赤城率いる機動部隊は敵の機動部隊を洋上に吸引して一大航空戦闘を指揮していた。

 敵は空母7隻、対するにこちらは第一航空戦隊、第二航空戦隊の4人だったが、その練度と士気はすさまじく高かった。

 何しろ彼女たちは前世でミッドウェー本島に肉薄しながらそれを落とせず、かえって敵の艦載機隊に返り討ちにされたことにひどくトラウマを持っていたし、悔しがってもいたのだ。最初こそ恐怖が支配していたが、戦いが幕を開けたことで、恐怖は四散してしまった。前世の無念を時空を超えて今晴らせるのだから、士気が高まるのは当然である。

「敵深海棲艦の艦載機隊がいくら来ようと、鎧袖一触よ。」

加賀が冷静に艦載機隊を指揮しながら乾いた声で言う。

「この時のために、超猛訓練をつづけてきたんだもの!絶対に撃ち負けない!」

蒼龍が闘志を燃やせば、飛龍も、

「多門丸にどやされないように、ここで敵の機動部隊を全部たたき沈めて見せる!!」

と、叫ぶ。

「すべてはこの時のため・・・・絶対に這ってでもミッドウェー本島を攻略し、前世のトラウマを断ち切って見せます!!」

赤城が闘志全開と言った様子でこぶしを握りしめ、烈風隊に指示を送った。数機編成の烈風隊は、その10倍で押し寄せてきた敵を一瞬で撃滅して、燃えがらに変えてしまった。

「wow!!さすがは赤城たちネ~!」

金剛が感心しながら砲撃をつづけている。彼女と霧島は敵機動部隊の護衛戦艦と渡り合い、これを追って撃沈しつつあった。

「私たちも負けてはいられませんね!」

霧島が眼鏡を直しながら言う。

「その通りネ!皆さん、forrow me!!敵を赤城たちに近づけさせないで!!」

「応!!」

川内、加古たちが高らかに答えた。

 

 他方、水上部隊を指揮する長門以下は敵の戦艦部隊を相手にして、交戦しつつあった。こちらも大した被害は出ておらず、基地航空隊と大鳳の護衛艦載機隊との連携で順調に勝ちを収めつつあった。

「よし、紀伊たちが前進してミッドウェー本島に肉薄するのは、そろそろだな。」

長門がつぶやいた。

「頼むから異常事態など起こってほしくないものだ。」

今までの海戦でさえ、悉くと言っていいほど何か突発事態が起こっている。ましてこのミッドウェー本島攻略戦はまさに正念場というべきものである。

何も起こってほしくはないと、長門は祈るような思いでいた。

 

 紀伊たちはミッドウェー本島に全速力で突進し、そこに停泊している中枢艦隊の姿を捕えていた。

「見えた!!ミッドウェー本島上に中間棲姫と思しき陸上深海棲艦を確認!それを護衛しているのは、戦艦棲姫以下精鋭部隊よ!」

「零式弾、装填用意!!先制攻撃をかけます!!」

ここで紀伊は再び零式弾を装填し、紀伊型空母戦艦4姉妹が進出した。

「敵が、艦載機を射出!!」

比叡が叫んだ。前方の中間棲姫がその艤装から次々と艦載機を放ってくる。また、前方に展開する護衛艦隊の空母棲姫一隻からも艦載機が放たれた。

「零式弾発射まで、食い止めてください!!」

紀伊が叫んだ。

「応!!」

麻耶が前面に進出し、鳥海たちもこれに続いた。

「撃ちます!当たってぇ!!」

比叡が三式弾を装填し、これを敵艦載機に向けて放った。

「主砲、砲撃、開始!!」

榛名もこれに倣った。基地航空隊も上空にいる直援隊も負けていない。たちまち上空を無数の黒煙と炎が彩った。

「装填完了、諸元入力よし!!」

至近弾の雨をかいくぐり、振り払いながら紀伊が3姉妹を顧みた。

「いつでもいいわ!味方機は退避済みよ。」

尾張が応える。

「テ~~~~~~~~~~ッ!!」

零式弾が空を引き裂いて飛び、敵艦隊、中間棲姫、そして艦載機隊の上空で爆発し、灼熱地獄の渦に叩き込んだ。

 阿鼻叫喚の中、次々と艦載機と深海棲艦が消滅していく。

「まだよ!!ありったけの零式弾を相手に叩き込んで!!」

紀伊が手を振った。ここで先制攻撃をして相手を灰にしてしまわなくては、思わぬ反撃を被ることになるからだ。

「テ~~~~~~~~~~ッ!!」

灼熱の炎がミッドウェー本島をなめつくす。阿鼻叫喚にもだえ苦しんでいた深海棲艦たちもあらかた散ってしまったようだ。

これは勝ちか、紀伊の脳裏にそんな考えが浮かんだ時だ。

灼熱の狭間から轟音が立ち上った。それが何なのかを察知した紀伊は叫んでいた。

「回避!!」

巨大な水柱が立ち上り、直後強烈な痛みを左腕に覚えていた。

「ぐうっ!!」

第一機動艦隊との開戦で被弾した時は、まだ飛行甲板があったが、今回は直撃である。腕がちぎれ折れるかと思うほどの痛みに、紀伊は一瞬気が遠くなった。

「紀伊姉様!!」

「紀伊さん!!」

仲間が次々とそばに寄ってくる。

「だ、駄目です。まだ攻撃をやめないで!!」

紀伊が喘ぎ喘ぎ叱咤した。灼熱の中、傷を負いながらもまだ立っている中間棲姫がいる。

『オ前タチ、ヨクモ・・・・全員ココデ沈メ!!』

憎悪に満ちた声がエコーとなって響き渡った直後、いつの間にか忍び寄っていた艦載機隊が一斉に爆弾の雨を降らしてきた。さっき撃破したのは正面に展開する敵空母から飛んできた艦載機隊であり、今殺到してきているこれらは別働部隊としてミッドウェー本島周辺を飛んでいた艦載機隊だったのである。

 つい目の前の中間棲姫に気を取られた結果であった。

「きゃあっ!!」

「うわっ!!」

「ぐうっ!!」

 次々と被弾する艦娘たちはそれでも懸命に応戦し始めた。

「くっ!!ううっ!!」

よろめいた紀伊はそれでも零式弾を装填し、上空に撃ち放した。とたんに左腕を灼熱が走り抜けた。主砲発射の衝撃波は思ったよりも腕に負担を与えるのだ。

「姉様!駄目です、無理なさっては!!」

讃岐がかけより、手早くメディカルヒーリングを施した包帯で左腕を巻いてくれた。

「あ、ありがとう・・・・。」

紀伊がようやく立ち直った時には、既に艦隊の列は乱れ、皆がバラバラに敵と交戦し始めていた。

 正面艦隊を突破したとはいえ、このままでは左右から増援部隊が来て、挟撃されてしまう。

「紀伊。」

尾張がそばに寄ってきた。

「あの中間棲姫、普通の攻撃では倒せない。沖ノ島棲姫の時と同じよ。後ろから狙わなくては駄目なのかもしれない。」

「後ろ?・・・でも・・・・。」

紀伊は目の前の敵を見た。ミッドウェー本島はちょうどU字型の環礁に囲まれている。中間棲姫は最初陸上にいるのかと思ったが、よく目を凝らしてみると、U字型の出口をふさぐ格好で立っているのだ。

「後ろに回り込む隙が無いわ。」

やってみなくちゃわからないわよ、と尾張がいい、近江を連れて斜めに横切って進もうとしたが、中間棲姫と艦載機隊の猛攻を受けて、ひるんでしまった。ミッドウェー本島の周りには中間棲姫の後方の本島を除いて遮蔽物がない。正面に展開している紀伊たちでは、どちら側から回り込もうとも、必ず中間棲姫の目に留まり、攻撃を受けてしまう。

「くそっ!!」

尾張が舌打ちをした時だった。

「敵艦捕捉!!全主砲、薙ぎ払え!!」

凛とした号令が彼方の洋上に響き渡った。

「あれは・・・・大和さん!?」

紀伊が腕を押さえながらつぶやいた。

「そうよ!大和さん、陸奥さんたちよ!!」

讃岐が躍り上がった。

「きっと長門さんが別働部隊としていたのですね。だからこそ大きく迂回して中間棲姫の後ろに回り込むことができたんです。」

榛名が言った。

「こうしている場合じゃないわ。今よ、ありったけの砲弾を撃ち込んで中間棲姫の注意を引くわ!」

紀伊の指示にみんなうなずいた。大和、陸奥、磯風、浦風たちが接近する間、紀伊たちは再び砲撃戦闘を開始した。

「マダ来ルカ!!愚カ者メ!!」

中間棲姫が灼熱の中を叫んだが、次の瞬間大きな叫び声を上げていた。大和たちが放った砲弾が中間棲姫の後ろの命中したのだ。

「ガアッ!!」

振り向こうとした中間棲姫を今度は紀伊たちの主砲弾が襲う。挟撃された中間棲姫はもだえ苦しみながら崩れ落ちていった。

「オノレオノレオノレ・・・・!!勝手ナ艦娘共メ・・・・地獄ニ落チテシマエ!!」

断末魔の苦しみの中で中間棲姫が叫んだ。

「その言葉、そっくりそのまま返すわ。」

尾張が冷然と言い放った。

「私タチノ住処マデ奪イオッテ・・・・侵略者ドモメ・・・・・。ダガ、コレデ終ワリダトオモウナ!!」

憎々しげに言いながら中間棲姫は消滅していった。

「やった・・・・・。」

腕の痛みに耐えながら、紀伊はつぶやいた。その時には大きな勝利の歓声があたりを包み込んでいた。

「やった!!」

「やりました!紀伊さん!」

「紀伊姉様!!」

「勝利したぞ!」

どの艦娘も高揚感であふれている。紀伊もそれに飲み込まれそうになりながらも、しいてそれを押さえ、

「まだ終わっていません。速やかに長門さん、赤城さんに連絡――。」

その時だった。紀伊は異様な感じを受けた。

生温かく、ぬるい風があたりを吹き抜けたのだ。それを受けた艦娘たちの高揚感は一瞬で吹き飛んだ。どの艦娘も不安そうな顔を見せている。上空を見ると今まで晴れ渡っていた空が急速に黒雲に変わりつつあった。

「嵐・・・?」

紀伊は眉をひそめた。ただの黒雲ならいいのだが、何かその雲は黒く、そして赤い光を帯びているようで不気味だった。

「いや、これは普通の嵐じゃない。」

麻耶が近寄ってきた。

「これはやばいかもな、いったん撤退して様子を見ようぜ。」

「ええ――。」

そう言った時、讃岐の悲鳴が響いた。妹が怪我したかと紀伊が讃岐を見た。彼女はミッドウェー本島よりに立っていたが、その顔色は普通ではなかった。いや、もっと普通ではないものがそこにあった。

「これ、これ、なにこれ!?」

讃岐の方を見た一同は驚愕した。

 

海が、血の様に赤く染まっていた。それだけではない。そのミッドウェー本島正面空間には巨大な渦のようなものが巻きあがり、その中から見たこともない深海棲艦が姿を現すのが見えた。

「これ・・・・うそ・・・・・。」

讃岐が呆然となっていた。

「今までの奴らとは、桁が違うぜ・・・・・。」

麻耶がつぶやく。

「どうやら中間棲姫もただの前哨部隊に過ぎなかったようね。あれが・・・本隊なのだわ。」

紀伊がつぶやいた。

「皆さん。」

紀伊が艦娘たちを見まわした。

「ここからが正念場です。どうか気持ちを切り替えて――。」

「紀伊さん!!!」

後方にいた榛名が突然おびえたように叫んだ。日頃の彼女らしからぬ動揺に紀伊は思わずはっとなった。

「どうしましたか!?」

「あれを!!!」

 悲鳴のような声だった。榛名の指し示す彼方をみた紀伊は信じられない思いでいた。

 

長門、赤城たちが左右からこちらに全速力で向かってきていた。その後ろには狂ったような勝利の歓声を上げながら、殺到してくる深海棲艦の大艦隊があったのである。

 


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