艦隊これくしょん 幻の特務艦   作:アレグレット

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第二十七話 起死回生の一手(その2)

執務室にて、提督のモノローグ――。

 やっぱり航空機による輸送作戦にしとけばよかったか。だが、あれだけの物資を飛行機で輸送するには時間もかかるし、無理がある。そんなことをしている余裕もない。危険は承知だが、一気に運ぶしかないだろう。俺は鳳翔の立案した作戦を裁可した。

 今回の作戦は普段とは色が違う。ただの戦闘であれば俺はこれほど心配はしない。だが、無防備な輸送艦隊を護りぬいての、それも夜間、さらに長距離航行の重圧はとても普段の戦闘行動の比ではない。

 だから俺は護衛のイージス艦に乗り組んで一緒に行きたかった。事実そうしかけたが、副官たちの猛烈な反対にあった。こっそり抜け出そうとしたが、埠頭でとめられ、ここにこうして監視されながら残らざるを得なかった。夜間だから航空支援も期待できない。俺にできることは予定地点の航空基地に連絡し、支援依頼をすることくらいだった。くそっ!!!

 俺には例によって例の通り祈ることしかできないが、どうか全員無事で帰ってきてほしい。それだけだ。

 

 

 

 

 

輸送作戦の2日目も終わりに近づき、あたりは漆黒の闇が漂っていた。

 

「あ~あ、呉鎮守府に戻ったと思ったら、また横須賀に行かなくちゃならないなんて、司令官私たちをこき使いすぎ!!」

雷がぶーたれている。

「しっ!!静かにしなさいよ!敵に聞かれたらどうするの?」

と、暁。

「そっちこそ声が大きいわよ!」

「なんですって!レディーがこんな時にはしたない大声出すわけはないでしょ!」

「出してるってば!」

「出して――。」

パンパンッ!と二人の頭を軽くはたいたのは、ビスマルクだった。

「あんたたちうるさい!今大事な大事な作戦中よ!見張りをおろそかにしてどうするの!?」

普段は絶対に手を出さないビスマルクが殺気立っている。それほど重要なのだと二人は改めて身が震えあがる思いだった。

「ご、ごめんなさいなのです、ごめんなさいなのです!」

「あ~雷ちゃんが謝らなくていい気がする、かな。」

と、プリンツ・オイゲンが複雑そうな顔をした。

「持ち場に戻りなさい。警戒を厳にして。今夜が山場なんだからね!!」

『は、はいっ!!』

暁、雷、電の3人はあわただしく元の配置に戻っていった。

「やれやれ、大丈夫かしらね、これで。」

ビスマルクが腰に手を当てた。

「姉様、大丈夫ですよ。きっとうまくいきます!」

「だといいけど・・・・。」

その時、ビスマルクはかなたで一瞬光った光に目を向けた。それはすぐに消えたが、彼女にはその意味が瞬時にして理解できた。

「よし、所定の位置に到着。ここからが本番よ。」

その言葉と同時に輸送艦隊が速力を若干増した。艦隊は相模湾沖に差し掛かっていた。ここは以前横須賀に向かう途上の紀伊・榛名たちが機動部隊と会敵した海域であり、敵に制海権を握られつつある危険地域だった。最近も頻々と深海棲艦が出現しているとの報が入ってきている。

「ここを通り抜ければ、ひとまずは安心・・・・。なんとか無事に切り抜けたいところね。」

ビスマルクはつぶやいた。

「姉様、あれ・・・・。」

不意にプリンツ・オイゲンが指さした。

「何?どこ?」

「だから、あれ、です。ほら!」

ビスマルクは目にしたものを見て慄然となった。闇の中に光る白い痕跡が迫ってきている。

「魚雷!?」

ついに恐れていたもの、しかも闇夜にもっとも出会いたくないものに当たってしまった。

「・・・・チッ!!雷跡右舷より多数接近!!全艦隊、緊急回避!!」

彼女はすばやく周りを確認した。雷跡上にいる艦はないか。狙われているのは誰なのか。

「来ます!」

プリンツ・オイゲンが息を詰めるようにして叫んだ。

 

息詰まる一瞬――。

 

その数十秒は艦娘たちも乗組員たちも誰もが凍りついたように動かなかった。

 

魚雷群は何事もなかったかのように輸送艦隊を通過していった。まるで回遊する魚の群れのように。

「あぁ、良かった。ひとまず安心ですね。」

「まったく、心臓が止まるかと思ったわ。危なかっ――。」

その直後、胸に腹に響く轟音があたりにこだまし、凄まじい水柱が噴き上がる音がした。

「被弾!?いったいどこに――!」

慌ててあたりを見まわしたビスマルクはあっと声を上げた。やや左にいた輸送艦の一隻の右舷に噴き上がった水柱が無数の霧となって海上に落ちていく。それがはっきりと見えるのは、被弾した艦が早くも火災を起こしているからだった。

「くそっ!!」

ビスマルクは臍を噛んだ。

「プリンツ、至急付近の艦娘とともに急行、乗員を救出して!私は残存艦隊を指揮してこの海域を脱出するから!!」

「わ、わかりました!!」

プリンツ・オイゲンは慌てながら火災を起こしている艦に走っていく。

「・・・火災を起こしてしまったために、無灯火航行は意味をなさなくなったわ。これでは――。」

その時、ビスマルクは異音にもにた叫び声を耳にした。

「――来る!」

身構えた彼女にいつの間にか接近していた深海棲艦が襲い掛かってきた。ビスマルクは巧みにかわし、深海棲艦を火災の光の方におびき寄せ、射程内に捕えた。

「夜戦か・・・。経験は乏しいけれど、何とか頑張ってみるか。絶対にここは通さない!!」

ビスマルクは右手を振りぬいた。

「FEUER!!」

38センチ主砲が火を吹き、突進してきた軽巡1隻を撃破、後続の駆逐艦を破壊した。火を背にしている分深海棲艦側が不利。そのことをわかっていても突進をやめなかった。

「私一人にこんなにかかってくるなんて、一体奴らは――。」

はっと顔を上げると、あたりには黒煙と炎を上げた輸送艦がいくつも漂っていた。深海棲艦の一大部隊が殺到しそこかしこで集中攻撃をかけてきていたのだ。

「やはり、ここで仕留める気ね。」

ビスマルクは主砲弾を装填し、身構えた。そこに見慣れない正規空母艦娘、そして利根が走ってきた。

「利根、雲龍、天城!!」

「ビスマルクよ、奴ら本気になって吾輩たちを叩き続けてきておるぞ。」

「望むところよ!むしろそっちの方が好都合だわ。」

ビスマルクはそう言った。そして不敵な笑みを浮かべた。

 

「バカな奴らよね、こちらが囮とも知らないで。」

 

 鳳翔は今回の作戦で伊勢と日向たちの案を基礎とし、さらにそこに常識を超えた発案をしたのだった。すなわち、ビスマルクたち鎮守府護衛艦隊主力には空の輸送艦隊を率いさせ、艦隊そのものを囮として深海棲艦を引き付け、そのすきに本隊は迂回して突破するというものだった。

 

 ビスマルク達は、鳳翔たちの後ろを進んでいる。本隊を狙われたら、という意見も出ないではなかったが、鳳翔は囮艦隊の方には不審がられない程度の灯火をつけるように提案、さらに本隊の周辺には絶えず直掩機や夜間偵察機をあげて周辺警戒に当たらせていた。さらに翔鶴と瑞鶴の第五航空戦隊は本隊の右側を航行して、絶えず周辺警戒をおこない、万が一の時には敵の盾となって足止めをすることとなっていた。

「じゃが、こちらも尤もらしく動いて見せんと、恰好がつかんぞ。既に筑摩、響、天津風が輸送艦残存艦を護衛して相模湾に退避しつつある。敵の半数はそれを追撃中じゃ。」

「残りは?」

「残る半数は私たちを殲滅する気です。妙高さんが指揮を執って防戦しています。」

と、雲龍。

「よし、雲龍、天城。艦載機を発艦させて敵を一気に仕留めてくれるかしら?夜間発進は困難だと思うけれど――。」

「大丈夫です。」

雲龍がうなずいて見せた。

「はい、雲龍姉様や天城たちはこの時のために訓練を続けてきました。見ていてください!」

天城も力強くそういうと、二人はいったん転進し、火災を起こしている輸送艦の光を受けつつ艦載機を次々と発艦させた。

「さすがね、よし、利根。私たちも負けてはいられないわ。何とか敵艦隊を足止めして支えるわよ!」

「望むところじゃ!」

利根はうなずいた。

 

 

 


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