艦隊これくしょん 幻の特務艦   作:アレグレット

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第二十一話 新生第五航空戦隊

第四章――

激闘の末沖ノ島攻略に成功したヤマトは、横須賀から沖ノ島に司令部を進出させ、ここを太平洋上の前線司令部とした。これにより、いよいよ深海棲艦との本格的な戦闘が行われることとなる。広大な太平洋は深海棲艦に制圧されて以来、ヤマトが足を踏み入れたことのない未知の海域だった。ヤマト海軍軍令部は沖ノ島周辺にイージス戦艦を中心とする大艦隊を展開させ、航路確保を図った。

むろん、沖ノ島攻略がヤマトの終着点ではない。目標はノース・ステイトとの通信回復であり、そのためには東進をつづけなくてはならないが、沖ノ島からはノース・ステイトは遠すぎた。ヤマト海軍軍令部は、次なる作戦目標を定めるために、広大な太平洋に偵察艦隊を派遣することとした。

 

 

 

呉鎮守府。執務室にて、提督のモノローグ――。

 

嫌だ。まったく嫌だ。どうにも嫌だ。沖ノ島攻略作戦が無事に完遂し、ヤマトが前線基地を建設して橋頭堡としたという話を聞いたときには盛り上がったのだが、そのテンションを叩き落とされる報告が三笠・・・じゃなかった、葵の奴から入ってきた。

 一応士官学校の同期だという気安さからか、はたまた俺が奴の正体を知っているからか、奴は延々と1時間余り愚痴をこぼしていった。まぁ、かつての連合艦隊総旗艦も今じゃ一人の人間だっていうことなんだな。

『あんたこっちにいた時に何か爆弾仕込んでこなかった?』という失礼すぎる発言はともかくとして、今横須賀鎮守府の現状はとても険悪なのだという。尾張とかいう紀伊の妹のせいで、各艦種ごとにバルカン半島並の対立の火種が渦巻いていて、葵の奴でさえ鎮守府に近寄るのを嫌がっているという。

勘弁してくれ。せっかく艦種を越えた仲が売り物の呉鎮守府の奴らがそういう空気に当てられて変な気を起こさないかどうか、俺はそっちが心配だ。そう思ったが、それは心の中にとどめておいて、俺は奴の言葉に耳をずうっと傾け続けた。途中からは「ふり」だったけれどな。

 一応全部吐き出してすっきりしたのか、開き直ったのかはわからなかったが、奴は最初の暗い顔を改めると、いつもの快活な顔を取り戻して礼を言い、新しい話をいきなりぶち込んできた。

『あ、そうそう。呉鎮守府にね、最新鋭艦娘が配属されることとなったわ。』

 

何だって!?その最新鋭娘とやらの話は聞いてない。藪から棒に何だ?いや、それよりもだ、奴が自分の鎮守府から戦力をただで割くわけがない。俺は奴の性格を知り尽くしている。何かしらきっと、そう、きっと裏がある。(きっぱり。)

『ところで、その代わりと言っちゃなんだけれどさ、忙しいところ悪いんだけれど、一つお願いがあるのよね。』

 

ほうらきた、やっぱりだ。

 

 というか、艦娘を取引の道具に使うのはやめろ。(切実)

 

 お前ももとは艦娘みたいなものだろうが。なんだ、お願いって。嫌な予感がする。そう思った直後、奴はいつものしれっとした口ぶりで、残存艦隊の掃討作戦を依頼してきた。なんでも沖ノ島海域周辺にいた敵艦隊の一部が紀伊半島沖にノコノコやってきていているのだという。おい。どうしてこっちに来る。なんで東に逃げない。

 

 奴はすぐに詳報を送ると言って通信を切った。相変わらず一方的な奴だ。

 

 敵艦隊の残存戦力(予想図だったけれどな)を見てみると、思ったほどではない。まぁ、いい。先日ようやく瑞鶴と翔鶴が戻ってきたところだ。榛名たち主力艦隊がいないのは少し心もとないが、うちの艦娘の奴らもここのところ手持無沙汰だ。イベントっていうポジティブな考えで引き受けるか。どっちみち引き受けざるを得ないんだけれどな。

 

 そして嬉しいことがあった。翔鶴と瑞鶴が戻ってきたんだ。無事な姿を見て思わず俺は奴の手を取ってしまった。そうしたら妹の奴に平手打ちされるところだった。セクハラ呼ばわりされるのはさすがにどうかと思うぞ。

 また、翔鶴と瑞鶴から赤城について妙なことを聞かされた。南西諸島作戦の前の事、赤城の奴が木立にひっそりとたたずんで眠れない様子だったそうだ。第一航空戦隊の双璧として戦っていた奴がそんな状態だったとは。俺はつくづく自分の管理の甘さを思い知らされた。どうするか。赤城を呼び戻して誰かを交代させるか。だが、一度ついた有名・勇名は簡単には消えない。本人が望まなくても名前が独り歩きすることがある。赤城の場合もそうだ。可哀想だが、俺は赤城を残留させることとした。だが、これについては俺には信じられることがある。

 奴は努力家だ。人一倍練習も鍛錬もしてきた。多少大飯ぐらいのところはあるが、芯はしっかりしていると思う。多少めげるかもしれないが、奴は必ず立ち直る。きっと。それにだ。奴は一人じゃない。加賀がいる。そして紀伊もいる。榛名も、霧島も、夕立も。

 俺があれこれするよりも、そいつらと一緒にいた方がきっといいだろうから。

 

 

 

1時間後――会議室に鳳翔が主だった艦娘を召集していた。

「・・・・というわけで、ヤマト軍令部からの要請により、紀伊半島沖で確認された沖ノ島海域攻略作戦の残敵掃討作戦を発令します。」

「やれやれ、おいしいところはみんな横須賀が持ってって、私たちは残り物かぁ。」

「伊勢、そう言うな。現にあちらの方が激戦だったと聞いているし、残敵と言っても金剛型も一航戦も紀伊もいない今では、侮れない状況だぞ。」

日向が横目で伊勢を見ながら言った。

「紀伊はともかくとして、一航戦の代わりなら大丈夫!」

瑞鶴が胸に手を当てた。

「というか、一航戦以上に活躍して見せるわ。ねぇ?翔鶴姉。」

「瑞鶴ったら、駄目じゃないの。もう、何度言ったらわかるの?大先輩に対して失礼でしょう?」

いつものやり取りだったが、鳳翔も日向も伊勢も利根たちも皆が相好を崩した。一時は重体だった翔鶴がこうして元通り復帰したことに皆が喜んでいるのだ。

「稼働空母が減っている今、今の私たちには第五航空戦隊のお二人にがんばってもらわなくてはならない状況にあります。」

「はい。先輩方が支えてくださったヤマト空母機動部隊の名前を貶めないように、頑張ります。」

真っ直ぐな翔鶴の言葉に鳳翔は目を細めた。

「ありがとう。では、具体的な作戦の検討に入ります。」

鳳翔がディスプレイ上にヤマト紀伊半島沖周辺海域を映し出した。呉鎮守府もシステムが一新されてアナログから電子戦略に移行しつつある。

「これが紀伊半島です。軍令部からの情報及び基地航空隊からの偵察情報では、敵艦隊は紀伊半島沖南東約70キロ地点を西方に20ノット強の速力で進んでいるとのことです。」

敵艦隊の位置が時系列ごとに航路として表示されていく。

「速力から言って待ち伏せではないな。だが、行き先が西というのは少し奇妙じゃな。」

利根が顎に手を当てた。

「ええ。利根姉さんの言う通りです。南西諸島は既にヤマトが奪還して前線基地が敷かれていますし、あそこには佐世保鎮守府からの艦隊が少なからず常駐しているはずです。」

「指揮系統を失って、帰るべき家が見つからないんじゃない?」

「そんな間抜けな深海棲艦かしら?」

航空巡洋艦娘たちの言葉を聞いていた鳳翔は軽く咳払いして話を始めた。

「それについては提督のお考えがあります。敵深海棲艦は南西諸島沖をかすめ、遠くリパブリカ・フィリップに入る予定ではないか、ということです。」

「リパブリカ・フィリップって?」

と、鈴谷が熊野に尋ねる。

「南西諸島のはるか南にある大小数千の島からなる海洋国家ですわ。かつてはノースステイトに匹敵する海軍力を保有していたのですけれど、深海棲艦に制圧されてからはわずかに北に点在する数十の島にまで領有権が落ちてしまったの。今は周辺諸国の支援を受けながらかろうじて国を維持しているとのことですわね、鳳翔さん。」

「熊野さんのおっしゃるとおりです。したがって、リパブリカ・フィリップの大半は今や敵の前線基地と化しています。あまりにも数が多いので、ヤマト軍令部も攻略をためらうほどです。」

「奴らそこに逃げるつもりなのね!妙高姉さん、私たちでブッ叩いて二度と帰れなくしてあげましょう!!」

足柄が息巻いた。

「で、その前祝にカツを揚げるの?それはちょっと勘弁してほしいなぁ。」

鈴谷が言ったので、皆が大笑いした。今は妖精たちが担当してくれているが、以前出撃前には各艦娘たちが料理を作っていた。足柄が食事当番だったさい、彼女が大量に揚げたカツによって胸焼けを起こす艦娘たちが続出し、結局出撃が延期されたという笑えない笑い話が残っているのだ。

 当の本人は真っ赤になって早口でしゃべりまくった。

「こ、こ、今度は大丈夫よ!絶対大丈夫!大丈夫大丈夫大丈夫なんだってば!!!」

「へ~。そうなの?大丈夫なのかなぁ。あたしも食べたけれど、次の日に出撃できなくなったクチだからね~。」

「はいはい。鈴谷さんもそれくらいにして。話を元に戻すわよ。」

鳳翔が手を叩いた。

「でも、そこまで補給が持つんでしょうか?とても補給なしで行ける距離ではないですよね。」

長良が疑問を口にのぼせた。

「南西諸島から南には我が国はもちろんの事、いまだ各国も立ち入りできないほどに深海棲艦によって海域が制圧されています。つまり制海権は完全にあちらにあります。したがって補給艦隊も多く点在しているでしょうから、補給してもらいながら目的地を目指すことは可能でしょう。」

「なるほど。」

ですが、と鳳翔は言葉をつづけた。

「敵残存艦隊の戦力が大きいと、南西諸島を再攻略し、ヤマトの海上輸送路を封じ込めてしまうこともあり得ないことではありません。」

「そうか、その危険も―。」

「だから軍令部や提督は――。」

「また奪還されたら厄介だしね~。」

艦娘たちがざわめいた。もう一度鳳翔は皆の注意を自分に向けさせた。

「したがってこの作戦は敵を南西諸島攻略に向かわせる余裕を与えない程度の打撃を与え、かつ敵艦隊をヤマト海域から遠ざけることを第一の目的とします。殲滅は二の次です。」

各艦娘はうなずいた。

「ですが、急がないと敵艦隊を捕捉できません。既に基地航空隊が敵艦隊と接触、これを上空から監視して逐次報告を行っています。」

「わかったわ。それで、出撃艦隊は?」

伊勢が質問した。

「二個艦隊を出撃させます。以下敬称を略させていただきますが、第一艦隊は旗艦妙高、足柄、鈴谷、熊野、不知火、綾波 第二艦隊は伊勢、日向、利根、筑摩、由良、雪風、天津風、そして瑞鶴と翔鶴。」

第五航空戦隊の二人はうなずいた。

「第一艦隊が敵を足止めし、その間に主力艦隊と艦載機による波状攻撃で敵を確実に仕留めます。」

鳳翔は皆を見まわした。

「この戦いは時間との戦いです。ですが、焦らず急がず、確実に作戦を遂行してください。敵を撃滅する必要はありません。敵の残存艦隊の戦力を削いで、少しでも南西諸島への脅威を抑えることがこの作戦の目的です。」

何か質問はありますか、と鳳翔が皆を見まわした時だ。

「た、たっ、大変です~~~!!!」

ドアが吹き飛ぶような音を立てて開き、プリンツ・オイゲンが飛び込んできた。

「おいおい、どうした?そんなに慌てて。会議中じゃぞ。」

「あ、ごめんなさい。でも、大変なんです!!哨戒行動中の偵察機から緊急無電が!!」

「緊急無電?」

鳳翔の顔つきが引き締まる。

「は、はい。横須賀鎮守府からこちらに回航されている最新鋭艦娘とその護衛艦が深海棲艦艦隊に発見されて、敵艦載機部隊が飛び立ったって――。」

「まさか、沖ノ島海域での残存部隊と鉢合わせしたんじゃ!?」

足柄が愕然となった。

「その、まさかのようです。」

鳳翔は顔色を引き締めた。

「最新鋭艦娘はヤマト本土を護るうえで欠かせない存在だと提督はおっしゃっていました。作戦を変更します。プリンツ・オイゲンさん、偵察機から届いた敵のデータをインストールしてください。」

最近呉鎮守府にも最新鋭の電子機器が導入され、戦略会議は立体的な海図などで立案することができるようになった。深海棲艦からのジャミングでまだまだ衛星を利用してのリアルタイムでの最新情報の更新はできず、偵察機からのデータを逐次インストールしての対応になる。

いずれ深海棲艦からのジャミングを受けない極低周波を利用した衛星回線での通信システムが完成できるのではないかという見通しが出てきている。むろんこのシステムを導入しつつあるのはヤマトだけであるから、他国にシステムを波及させるには、他の通信手段が封じられている以上、直接赴くしかない。軍令部が発動したノース・ステイトとの通信回復作戦の目的にはこの技術供与の側面も加わっていた。

「はい!」

プリンツ・オイゲンがコンソールに駆け寄り、あわただしく操作している脇で、鳳翔はディスプレイを表示させた。新たな情報が浮き上がり、敵艦隊の位置と最新鋭艦娘の位置が表示される。最新鋭艦娘のほかに護衛駆逐艦が2人ついているようだ。

 

驚いたことには敵艦隊の位置にほぼ重なるようにして最新鋭艦娘たちの位置が表示されている。

 

「これ、すぐ近くじゃないの!!ほとんど並んでいるよ!!」

伊勢が叫んだ。

「現在その子は紀伊半島南70キロをこの呉鎮守府に向けて航行中です。対するに敵深海棲艦はここ、紀伊半島南南東60キロ地点を航行中。このままでは追いつかれます。そこで、第一艦隊は護衛対象の艦娘と合流、これを保護。第二艦隊は敵艦隊の側面から集中砲火を浴びせ、その後反転離脱してください。」

「でも、それでは当初の目的が達せられないのではなくて?」

と、熊野。

「私から提督に申し上げて基地航空隊を発進させます。艦隊を護衛に回す分の不足は妖精たちが補ってくれるでしょう。」

翔鶴さん、瑞鶴さん、と鳳翔は第五航空戦隊の二人に目を向けた。

「敵は機動部隊の残存艦隊ですが、侮りがたい航空戦力を有しているようです。今回の作戦ではお二人の力がカギとなります。私は鎮守府の守備上ここを動けません。どうかお願いします。」

それにこたえるように二人は同時に立ち上がった。

「わかりました。行くわよ、瑞鶴。」

「任せてよ翔鶴姉!!鳳翔さん、五航戦の力、早速見せてやります!」

期待しています、と鳳翔は言ったがその眼は厳しかった。翔鶴は復帰したばかりである。その復帰早々にこのような緊急任務が飛び込もうとは思っていなかった鳳翔は不安だった。だが、迷っている時間はない。急がなくてはヤマト本土防空防衛を担う最新鋭艦娘、かけがえのない仲間が轟沈してしまう。

「直ちに出撃してください!」

鳳翔の声に艦娘たちは一斉に立ち上がった。

 

呉鎮守府ドック発着所――。

不安そうな視線を感じて、翔鶴は瑞鶴を見た。

「大丈夫よ。もう体は元通りだもの。心配しなくていいわ。ありがとう。」

「で、でも・・・・ごめん。翔鶴姉のことなのにね。どうしても不安に思ってしまうの。」

「私ってそんなに頼りない?」

少しすねた様に言ってみると、目の前の妹は慌てた様に顔を朱に染めた。

「え、え!?ううん、そんなことないわ!!ごめんなさい!!」

翔鶴はくすっと手を口に当てた。

「ごめんなさい。少しからかってしまったわ。でも、ありがとう。私なら大丈夫よ。あなたに付き合ってもらって、リハビリもやってきたし。それに・・・・。」

翔鶴は自分の胸に手を当てて目を伏せた。そして自分に言い聞かせるようにしっかりとした口ぶりで話し出した。

「いつまでも足を止めていたら、いつまでたっても前には進めないわ。それはあなたも、榛名さんも、紀伊さんも、皆ががっかりすることだもの。」

「翔鶴姉・・・。」

瑞鶴がぱあっと頬を紅潮させた。やはり翔鶴姉は強い、と瑞鶴は思う。おっとりしているけれど、このような大事の時には決して取り乱さないし、足を止めたりしない。

それに比べて、と瑞鶴は一瞬しゅんとなってしまった。日頃自分は強気でいるけれど、いざとなると大きく動揺するし、姉に寄り添ってばかりいる。これはいつだったか、以前加賀にも指摘されたことだった。その時は、やたらムカついてかっとなってしまったけれど、今そのことが思い出されると、加賀の指摘は間違っていないと思う。

第一航空戦隊のことを考えると、どうしても過剰に意識してしまうが、それはそれとして、加賀の言う通り自分は自分。翔鶴姉に寄り添ってばかりいないで、良い意味で自立できるようになりたいと瑞鶴はふと思った。もちろん、第五航空戦隊としていつまでもタッグを組んでいきたいという思いには変わらないが、せめて自分で考え、自分の足で歩いていきたいと。

「あ、そうそう翔鶴姉。」

自分の中で波だった様々な思いを打ち消すように、瑞鶴は明るく言った。

「なぁに?」

「こんな時に何だけれど、今まで私たちが扱ってきた艦載機って、零戦と九七艦攻と、九九艦爆だったでしょ。それが今度から新型艦載機を搭載できるようになったの。」

「本当!?」

「ん~~まぁ、その、紀伊の烈風隊や流星隊には負けるんだけれどね。搭載するのは天山、そして彗星よ。零戦も21型から52型に変わったわ。火力と速度はパワーアップしたの。あ、まぁちょっと旋回性能は低下したけれど。それと・・・・。」

「それと?」

「航続距離は零戦に劣るけれど、局地戦闘機として強力な新型機が配備されたわ。」

「名前は?」

「紫電改よ。」

「紫電改?!でも、前世だと陸上基地でしか実戦配備がなかったはずじゃ――。」

紫電改は前世大日本帝国で開発された陸上戦闘機紫電の改良型である。紫電は零戦よりも強力なエンジンと武装、そして上昇力を備えた戦闘機として開発されたが、実際零戦よりも優れていたのは、機銃の命中率と高空での戦闘性能くらいなもので、旋回性能に至っては零戦よりも明らかに低下していた。

 紫電改はこの紫電の改良機体である。紫電に引き続き誉エンジンを装備し、零戦よりも強力な馬力と火力を装備する局地戦闘機で、上昇性能の向上、自動空戦フラップによる空戦性能の強化等で本土防空任務等で活躍した。

 前世で烈風の開発・配備が大幅に遅れたため、一部では零戦の事実上の後継機などともいわれているし、もし紫電改が艦上戦闘機としてもっと早く配備されていれば、前世に置いてF6F等に苦戦することはなかったという風にも言われている。

「一応艦上型を計画していたみたいね。それがこのヤマトにおいては実現化されて配備も間に合ったってわけ。ついでに言えばこの新型機を実戦で扱うのは私たち第五航空戦隊が最初なんだって!!」

瑞鶴が嬉しそうに言った。

「うれしいわ。新型機を扱わせてもらえるなんて!よし、行くわよ瑞鶴。新生した第五航空戦隊の力、皆に認めてもらいましょう!」

「はい!」

瑞鶴は力強くうなずいた時、アラーム音と共にアナウンスが発着所に響いた。

『第一艦隊の出撃完了。第二艦隊の水上部隊も出撃完了です。第五航空戦隊も出撃してください。』

「了解しました。」

翔鶴が発着台に乗ると、次々と艤装が飛んできて彼女の体に装填された。飛行甲板を付け終わり、弓を手に添えると、翔鶴は背を伸ばして叫んだ。

「第五航空戦隊、翔鶴、出撃します!!」

「同じく第五航空戦隊、瑞鶴、出撃よ!!」

ザアッと水音を立てて巨大な門扉が開き、青い大海原が姿を見せた。眩しいくらいに青い空と海が彼方に果てしなく広がっている。

 

翔鶴、そして瑞鶴は発着台から、その広大な大海原へと滑りだしていった。

 


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