艦隊これくしょん 幻の特務艦   作:アレグレット

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第九話 南西諸島攻略作戦(後編)その2

おびただしい水煙が艦隊の前後左右を包んだ。それを払いのけるように右手を振った伊勢が叫んだ。

「主砲、一斉射!!」

轟音と共に放たれた主砲弾が敵の先頭艦を吹き飛ばした。

「チッ!!どうして無傷の機動艦隊が、ここに殺到してくるわけ?!」

「愚痴をこぼしている場合か?だが、甘かったな。我々はとっくに佐世保鎮守府と合流して迎撃態勢を整えていたぞ。」

日向が応戦しながら叫んだ。

「戦力は互角・・・でも、艦載機戦だと敵に制空権を取られるかどうか、ぎりぎりなのよね。」

飛鷹が艦載機を飛ばしながら言った。味方の空母は翔鶴、そして飛鷹の2人だったが、敵はその倍、ヲ級が2隻、ヌ級が2隻、なんと4隻の空母を有していたのだ。さらに戦艦ル級が3隻、重巡リ級が4隻、そして軽巡2隻、駆逐艦7隻という大艦隊が殺到しつつあったのだ。

「ええ、でも撃ち負けるものですか!!絶対に、守り抜きます!!」

翔鶴が叫んだ。

「姉様は絶対にやらせないわ!!」

山城が主砲を撃ちまくりながら扶桑の前面に押し出て叫んだ。

「山城・・・・少し下がりなさい。みんな気になってうまく撃てないわよ。」

扶桑が穏やかに諭した。

「あっ!?は、はい、すみませんでした!」

山城が赤くなりながら後退したところに、古鷹、足柄、妙高、三隈、最上が突出した。

「近接戦闘なら私たち重巡が有利よ!!撃ちまくれ!!」

足柄が叫び、彼女の艤装主砲から放たれる主砲弾が軽巡を吹き飛ばし、重巡に多数命中して撃沈させた。

「私だって負けません!!主砲狙って、そう、撃てぇ!!」

古鷹が叫んだ。主砲弾は駆逐艦1隻を吹き飛ばし、重巡の周辺に落下しただけだったが、その影響か1隻が艦列を外れて、味方の左翼側に出てきた。

「わたくしたちも負けませんわ!モガミン、行きますわよ!!」

「そのモガミンていうのやめてくれないかなぁ・・・。っと今はそんなこと言ってる場合じゃなかったね!!撃て!!」

三隈と最上のはなった主砲弾が艦列を離れた重巡に命中し吹き飛ばした。その向こうにちょうどヌ級の姿が見えた。盾となっていた重巡以下が消滅したので、丸裸になっている。

「姉さん、今よ!!」

「ええ・・・。第一、第二主砲、斉射、始めます!!」

妙高が左手を振った。轟音と共にヌ級の姿は消えていた。

「やった!!」

足柄が叫んだ。

「まだです!!伊勢さん、日向さん、新手の敵機、左舷より接近中!!翔鶴さん、注意してください!!」

妙高の叫びに、日向、伊勢、が一斉に対空砲撃を行った。燃えがらとなって撃ち落とされても、後続の機は次々と飛来、爆弾を落としていく。

「翔鶴、飛鷹、あなたたちはいったん退避して!!」

水柱の林立し、水煙が立ち込める中、伊勢が叫んだ。

「でも・・・・。」

「このままだと被弾するわよ!!そうなったら、艦載機の発着もできない!!」

「わかりました。飛鷹さん!!」

「はい!」

二人は交戦する伊勢たちを残し、東北へ転進を開始した。彼女たちの護衛直掩機も後に続く。その残りは敵機と激烈な空戦を繰り広げていた。

(でも、どうして・・・どうして、機動艦隊が私たちを狙って!?南西諸島本島の防衛を放棄してまで・・・・なぜ?!)

交錯する敵機をよけ、自部隊に指示を出しながら翔鶴の胸の内はざわめいていた。

 

 

帰還してきた攻撃隊を素早く収容した瑞鶴と紀伊は榛名たちに追いつき、第七艦隊は一路南方に待機しているはずの伊勢たちを目指して進んでいた。

「前方に艦影捕捉!」

榛名が注意した。

「電探にも捕えました。あ、でもこれは――。」

「榛名!!」

大きく手を振っているのはビスマルクだった。鎮守府護衛艦隊と第七艦隊は洋上で合流することに成功したのだ。もっともこれは双方が予期したことではなく、偶然が生んだものに過ぎない。指定航路が同じだったとはいえ、どちらかがほんの数分遅れれば会合できなかっただろう。

「やっぱり!!」

榛名と瑞鶴から概況を聞いたビスマルクは舌打ちした。

「どこかに無傷の機動部隊が展開していて、私たちの誰かを狙っているのよ。」

その時だった。瑞鶴が電文をキャッチしたらしく、耳に手を当てた。

「翔鶴姉より緊急受電!!南方面で敵機動部隊が味方日向たちを捕捉、現在戦闘中とのことよ!」

艦隊の面々は顔を引き締めた。

「至急応援に行くわよ!!」

ビスマルクが叫んだ。

「待ってください!」

皆が振り返った。紀伊が一人海面に立っている。

「敵の位置も、ましてその狙いもわからないまま突出するのは危険です。」

「なんですって?!でも、このままじゃ伊勢たちが危ないのよ!」

「わかっています。ですから、現場には急行しますが、索敵を厳にし、直掩機もあげておきます。二重三重に偵察機を飛ばします。同時に南西諸島本島にいる攻略部隊にも打電して、索敵の開始と、周辺の警戒を厳にするように伝えます。」

「なるほど、そうか。頭に血が上ったまま突進しても、敵に手玉に取られるだけ。そういうことね?」

紀伊はうなずいた。

「でも、この状況で艦載機を飛ばせるの?」

雨こそ降っていなかったが、波のうねりは高く、風がひゅうっと音を立てて吹きすさんでいく。空には黒い雲が渦巻いている。水平線と黒雲とのあいだの空は妙にクリーム色がかっていて不気味だった。

「大丈夫です。この状況ではやるしかありません!」

「紀伊がそういうんだもの、正規空母たる私が飛ばせないんじゃ話にならないわよね。大丈夫、任せておいて。」

「わかったわ。みんな、それでいい?」

全員が一斉にうなずいた。

「紀伊、瑞鶴、お願い!!」

「了解!」

瑞鶴は矢をつがえると、空に向けて放った。同時に紀伊も飛行甲板を水平にし、体勢を保ちながら、艦載機を発艦させた。

「うまいわよ、紀伊。」

瑞鶴の言葉に紀伊は頬を染めた。

「ありがとうございます。」

「よし、発艦は完了したわね。では護衛艦隊と第七艦隊はこれより水上部隊の援護に向かうわ、全艦隊、出撃!!」

ビスマルクは叫び、全艦娘は水面をけって、走り始めた。

「ねぇ、紀伊。」

並走しながら瑞鶴が話しかけた。

「さっきはああいっていたけれど、どういうことなの?まさか今交戦している機動部隊のほかにも大規模な艦隊がいるっていうわけじゃない・・・よね?」

「確信はできないんですが、敵の規模からして、伊勢さんたちと交戦している部隊だけではないと思うんです。わざわざこちらに制圧させてまで敵がもくろんでいることは――。」

「敵の狙いは本島防衛ではなく。積極攻勢による私たちの殲滅だということですか?」

榛名が左から滑ってきて二人の会話に加わった。

「わかりません。でも、敵の立場になって考えてみると、何となくそういう狙いがあるんじゃないかと思うんです。なぜなら飛行場や司令部は復旧がききますし、海上輸送路を封鎖してしまえば、孤立したヤマトを仕留めることはたやすいからです。なので、奪還は後回しにしてもいいはず。それよりも作戦行動ごとに分かれて進撃してきた私たちを各個撃破できる機会の方がはるかに重要だと思ったんです。」

「ヤマトの持っている通常艦艇では駆逐艦はともかく、戦艦級の深海棲艦には歯が立たない。艦娘さえ撃破できれば、制海権を失ったヤマトは自然と消滅する・・・それが狙いってことね。」

「はい。」

「そうはさせないわ!!もう二度と・・・・私は自分の国が負けるところを・・・・消えてしまうところを・・・・見たくはない・・・・!!」

「瑞鶴さん?」

紀伊は瑞鶴の横顔に悲愴な決意が漂っているのを見て少し驚いた。榛名も顔を引き締めて瑞鶴に話しかけた。

「私も瑞鶴さんと同じです。もう見たくはないんです。二度と自国の人々が悲惨な戦渦に巻き込まれないために・・ここで殲滅しましょう!」

紀伊の行足が緩んだ。二人は速度を落とさずに疾走をつづけていく。紀伊は一瞬二人が自分の手の届かない遠くに行ってしまったような虚脱感を覚えていた。前世の記憶によって今二人の脳裏には壊滅した自国の部隊や戦渦にさらされる国民のかつての姿が写っていたに違いない。それは紀伊が味わったことのない次元のもの、絶対に触れることのできない世界だった。

(でも・・・・いいえ、私にだって守るべきものはある。それは、過去じゃない。今、この時、この瞬間、そしてこれからの未来を!!)

紀伊は強くうなずくと、速力を上げて、二人を追っていった。

 

 

1時間後――。

水上部隊の面々は満身創痍のまま海上を漂泊していた。周囲には敵艦はなく、海上を燃えがらや艦の残骸が儚げに漂っているだけだった。

「こ、これで第何波きたの?」

足柄が肩で息をしながらつぶやいた。

「わ、わからないわ。でも、もう来ないようね。」

飛鷹が息を切らしながら答えた。翔鶴と飛鷹はいったん退避したが、その後回り込むように殺到してきた敵機動部隊の別働隊の奇襲を受け、再び伊勢や日向たちと合流していたのだ。

「だが・・・いつまでもここにいるわけには・・・・いかない。ぐっ!」

「日向!!」

伊勢が日向を抱きかかえた。戦闘終了間際に襲来してきた数機の敵機から放たれた爆弾が直撃していたのだ。

「バカ・・・・。どうして私なんか庇って・・・。あんなにいつも私の事叱ってばかりだったのに――。」

「バカであろうと何だろうと、伊勢は私の姉だ。体が勝手に出てきたとしか思えないな。」

日向が伊勢を見上げてフッと力なく笑った。

「日向・・・・。」

「伊勢さん。」

扶桑が近づいてきた。彼女は無傷のようだったが、艤装の主砲の一門が根元からねじまがっていた。

「ここは危険です。敵攻撃部隊を排除しましたけれど・・・・。」

扶桑は周りを見た。山城は扶桑をかばうようにして被弾した大小の砲弾のせいでボロボロだったし、古鷹も肩に傷を負っている。妙高や足柄は大丈夫そうだったが、だいぶ疲れているらしく肩を落としている。

「敵の狙いは明らかに私たちです。となれば先に行った三人が心配です。もし回り込まれていたら――。」

「そうね、集中砲火を浴びてしまう。今の状態ならひとたまりもなくやられるわ。」

「山城、あなたまだ動ける?」

「はい!姉様。」

ボロボロの山城だったがすぐに力強くうなずいた。扶桑は伊勢のところに行き、短く言葉を交わした。一瞬伊勢の顔が変わったが、すぐに強くうなずいた。扶桑はすぐに戻ってきて、

「あなたは足柄さん、妙高さん、古鷹さん、飛鷹さん、日向さんとともにすぐに翔鶴さんたちを追いかけなさい。急いで。まだ遠くには行っていないからすぐに合流できるはずよ。」

「ですが――。」

「これは、命令です。」

扶桑は声の調子を変えなかったが、一語一句斬りつけるような言葉に山城は身震いした。

「は、はい!!すぐに行きます。ですが――。」

「私なら大丈夫。」

扶桑は微笑んだ。

「伊勢さんと私とでここを支えます。いずれすぐにビスマルクさんたちが駆けつけて来てくれるはずだし、誰かがここに残って連絡役を務めないと。そうでしょう?」

山城はきっと扶桑を見た。

「わかりました。姉様、伊勢さん、どうか無事で!!」

山城は他の艦娘たちに声をかけると、全速力でその場を離れ、後を追った。伊勢と扶桑はそれをじっと目で追っていた。

 

そして――。

その遥かかなたで全速航行を続ける数人の艦娘がいた。

「翔鶴さん、しっかりしてください!!」

走り続けながら、最上が懸命に声をかける。最上と三隈の肩に支えられてうなだれたままだった。飛行甲板は大破し、艤装も服もボロボロで、全身に火傷を負っていた。

「翔鶴・・・さん・・・。」

三隈がそっと翔鶴をゆすったが、返事はなかった。

 

 


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