艦隊これくしょん 幻の特務艦   作:アレグレット

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プロローグ 私の歩んできた道

横須賀鎮守府 午後9時――。

 

 以前誰かに聞いたことがある。

 

今頭上に広がっている星々の放つ光は既に過去のものなのだという。その光は数十光年前の物かもしれないし、あるいはもっともっと前の物なのかもしれない。そして、その光を放っている星々は今この時間には存在していないかもしれないのだ。

 

 それでも、とその艦娘は、紀伊は思う。それでも、この星々が存在したことは事実だし、その輝きを目にしている存在は確かにいるのだ。私のように。

 

 赤、青、緑、そしてオレンジ。紀伊の頭上には不思議なことにまるでどこからかの銀河をそっくり切り取ってきたかのような色とりどりの星々がきらめいている。こんな光景は今まで見たことがなかったものだ。これほど壮大ではっきりした夜空は今まで見たことがなかったものだ。

 不意にその様相が一変した。その空は一面エメラルドグリーンの光に地上との境界線を染め、あたりにはエメラルドグリーンに輝く光球が優しく揺蕩う幻想的な光景が広がっていたのだ。黒ずんだ建物、巨大な起重機、広大なドック、メディカル施設、対空施設などがその姿を闇にうずめている現実的な姿との対照は、半ば夢を見ているのだと、紀伊に錯覚させていた。

 

 だが、現実には違った。紀伊は起きており、自分の眼で、耳で、肌で、これらの光景を感じていたのである。

「明日、いよいよ・・・・。」

紀伊は銀髪の中に赤い髪を混じらせた美しい長い髪を折から吹いてきた夜風になびかせながらつぶやく。明日は全艦娘、全艦隊の総力を上げた作戦、ミッドウェー本島攻略作戦が発動され、紀伊たちが横須賀から出撃する日でもあった。

 

 既に艦娘たちは決戦に備えて就寝している。本来であれば紀伊もそうすべきだったが、最後にこれまでのことを振り返っておきたいと思い、こうして独り埠頭に出てきたのだった。

「最初にここから旅立って、呉鎮守府に着任したのが・・・・。もう半年以上前の事なのね。つい昨日のように感じるのだけれど。でも、そうなのだわ。」

 

 初めての時のことを思うと、なんと自分は変わったのだろう。なんと周りの環境は変わったのだろう。そしてなんと自分は色々なことを経験してきたのだろう。辛いことも、楽しいことも、悲しいことも、寂しいことも、嬉しいことも。

 それらが良かったか悪かったかはわからない。だが、ひとつだけ紀伊にははっきりと言えることがあった。それはここまでの思い出、経験一つ一つが確かな自分を形作り、前へと進んでいく確かな道を作り上げていたことだ。

 

紀伊は胸に手を当てて、じっと目をつぶり記憶の海に自らの意識を揺蕩えていた。

 

ここまでの事が走馬灯のように紀伊の胸の中に広まっていく。時間は惜しいくらいになかったけれど、ほんの少しだけ、ほんの少し、それらの思い出に浸っていきたいと彼女は思った。だが、思い出に浸る前に、紀伊は胸に固く誓ったのである。

 

 

必ず勝利し、生きて、仲間と共にここに戻ってきます、と――。

 


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