Fate/チェインクロニクル   作:ブロx

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イリヤファンの皆様。拙作でハートキャッチは、出ません。




第6話 戦士

 夜風が頬を撫でる。

凍てつく寒さを孕むそれは、撫でた者を寂しい気持ちにさせる。

目の前に広がるのは、殺風景な土と冬景色。

街灯がぼんやりと己の歩く道を照らし、腕を擦る指先は赤くかじかんで少し震える。

…この寒空の下、世界で自分は独りきりかも。

でも、それこそが自分の誇り。己の心臓が動いてる証。

冬は厳しく、雪は美しい。

わたしは今、生きている―――。

 

 

 

 

 

「あれは・・・!」

 

「誰だあの子?」

 

ツカム達が気付くと、そこには少女がいた。まるで冬が人の形となったかのよう。

 

「―――こんばんは、お兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね」

 

「知り合いか?衛宮」

 

「・・・そういえば、以前道端で会ったような」

 

「およよ?リリスみたいな子だね。聖女様みたいだ」

 

美しく長い銀髪。紫色のコート。煌く稲妻のような隙の無い細身の五体。真っ赤な目。

 

「惜しい。黒いボディだったらてつをだったのに」

 

「衛宮…。お前実は特撮オタだったのか?」

 

少女を見てはしゃぐ外野。

 

「はじめまして、リンにサクラ。わたしはイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

「アインツベルン・・・!」

 

「魔術の名門の・・・」

 

「しかし何処の国の人だ?」

 

「ドイツっぽいなあ。慎二は行った事あるか?」

 

「・・・あぁ、ドイツね。ドイツ風カツレツのドイツだろ?妹の誕生日に食ったぜ」

 

「戯言と捏造は止めて下さい兄さん。…しかしあれはマズイです。逃げた方がいいかもしれません」

 

「―――やば。あいつ桁違いよ」

 

 何がだ?とは誰も口にしなかった。それもその筈。

イリヤと名乗る少女の後ろには、ライダーが霞む程の大男がいた。

例えるなら、まるで山だ。佇むというより鎮座という表現が最もしっくりくる。

もしあれが動くとなれば天変地異が起こるだろう。大山鳴動。それほどの威圧感。

 

「下がってください!シロウ!!」

 

士郎たちの前に踊り出るセイバー。なお、凛のサーヴァントであるアーチャーはセイバーに斬られて負傷した為、戦闘に参加出来ない。

セイバーとライダーとツカム達で、相手を崩すしかない。

 

「あれ?なんだ、リン。貴女のサーヴァントはお休みなんだ。つまんないなぁ」

 

ちぇー…。そんな雰囲気を醸し出し、口を尖らせるイリヤ。

だが赤く光るその瞳は、真っ直ぐにこちらを射抜いていた。

 

「―――じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

「ーーーーーー!!!」

 

少女の命令に応え、咆哮を上げる動かざる山が如きバーサーカー。天変地異の始まりだ。

 

「 光をつかむ 」

 

絆アビリティ発動及び武装選択。

 

【優しき心・建築士の意地・忠犬の援護・行け!衛生兵!・生きる意志・世話焼き・疾風迅雷・白銀王女・宿命の鎌・領主の指南・頑丈な身体】

 

【武器:聖剣グランクルス】

 

一息で距離を詰めてくるバーサーカーへ素早く飛び込み、横一文字の斬撃を加えるツカム。

 

「……どうしたの?バーサーカー」

 

動きが止まり、立ち眩みのような動作をするバーサーカー。

 

 ツカムは一体何をしたのか?

 

簡単に言うと、攻撃力とクリティカル率を上げて被ダメージを極限まで下げて、時間が経過するごとに体力が回復するようにして、

こちらの攻撃が当たると一定確立で敵がダウンするようにし、敵の攻撃命中時に吹き飛ばされる及びダウンされる事を無効にした。

 

なおこの効果は、義勇軍及び盟を結んだ者全員に行き渡る。そしてツカムが持つ剣はクリティカル攻撃時に敵をダウンさせる効果を持つ、最上級ランクの聖剣である。

 

「今のうちに逃げるぞ!衛宮!!」

 

「セイバー達が戦ってるのに逃げろって言うのか!!!」

 

「馬鹿野郎!!僕達じゃ足手まといだって言ってんだよ!!!」

 

その通り。敵は正しく規格外の化け物だ。

現に、ツカムが敵をダウンさせるアビリティを多く発動させたのは、士郎達非戦闘員を逃がす為。

しかし、所詮は少しの足止めにしかならない。敵はすぐさま襲ってくる。

 ツカムはバーサーカーから離れると、イリヤに向かって斬りかかった。それを暴力で止めに来るバーサーカー。

 

「ふ~ん…。少しは知恵が回るみたいね、英霊でもない余所者さん?」

 

「ありゃ、バレたみたいだよツカム」

 

「ねえ、お名前は?」

 

「オイラはピリカ。ハードボイルドな妖精さ!こっちはツカムだよ!」

 

「…出来れば、君みたいな子とは戦いたくないんだが」

 

「出来ない相談ね」

 

勝機は。

 

サーヴァントはマスターからの魔力供給が無ければこの世に現界できない。ならば、マスターを先に始末してはどうか。

敵方には強力なサーヴァントがいる。間違いではない。

 

「ーーーーーーーー!!!!」

 

「無駄よ。私のバーサーカーはヘラクレスなんだから」

 

意図を敵方に読ませなければの話だが。

見破られた策など無残なものである。

 

「ぐあッ!」

 

「大丈夫!?ツカム!!」

 

「…見ろよあの大男の筋肉を。まるで鋼みてえだ」

 

「減らず口が叩けるならまだ大丈夫だね!・・・所でヘラクレスって?」

 

桜に聞くピリカ。

 

「ギリシアという国の大英雄です。人の身であるにもかかわらず、死後神の一席に加わり星座にもなったといわれています」

 

「・・・マジ?」

 

「マジです」

 

一つの神話の極地だろう。一体どのような偉業を成し遂げればいいのか。想像を絶するとは正にこの事。

 

「ハァアアアア!!!」

 

騎士の力強い斬り下ろし、そして斬り上げ。

 

「セイバー・・・!?」

 

「シロウ。相手は相当の手練です。私が時間を稼ぎますので今のうちに撤退を!」

 

「でも!!!」

 

「……衛宮君。癪なのは分かるけど、何も出来ないのなら引っ込んでいた方がお互いの為よ」

 

何も出来ない士郎とは対照的に、凛は先程からバーサーカーに魔術を浴びせていた。それくらいしか、凛には為すべき事が無い。

 

本当に癪なのは凜の方であった。

 

「先輩。申し訳ありませんが、兄さんを連れて撤退を」

 

後輩の桜からも逃げろと言われる。

 

「逃げた方がいいよ、兄ちゃん」

 

「逃げるぞ!衛宮!」

 

ピリカと慎二も同じく言う。逃げろと。

 

―――何だこの体たらくは。俺は、何も出来ないのか・・・!

 

自分自身に対する怒りが、悔しさが、士郎の胸に込み上がる。

これがお前の限界だ。今は諦めよう。逃げるのも作戦の内だ。

誰もお前を責めやしない、大丈夫さ。

 

―――黙れよ。諦観如きが。

 

「シロウ」

 

「・・・え?」

 

いつの間に近くに来たのだろうか。バーサーカーを足止めしていたツカムが、背中越しに士郎に語りかけた。

 

「怒りを胸に沈めるな。怒りは両足に込めて、己を支える礎にしろ。そして繋げるんだ」

 

「何に・・・?」

 

「次に」

 

 小さな背中だった。その姿を士郎は見る。

圧倒的な暴力の化身、バーサーカーと死闘を繰り広げるツカムを。セイバーを。ライダーを。特に、ツカムは敵に押され始めていた。

だがその背は、不思議と大きいように感じた。

 

「…私と桜が、あのアインツベルンの魔術師を倒すわ。バーサーカーの足止め、お願いできる?」

 

サーヴァントはサーヴァント同士。マスターはマスター同士でケリをつける。

それが凛の考え付いた策だ。

 

「俺からも頼む。セイバー」

 

「―――承知しました。御武運を」

 

「ライダー、ツカムさん。お願いします」

 

「承知!!」

 

 

分断作戦、開始。

 

 

 

 

 

 

「―――貴女達二人が、私の相手をするというの?

バーサーカーではなく私なら勝てる。なんて、そんな能天気を抱いているのなら微塵も残さず消してあげるけど?」

 

「お生憎様。マスター同士で戦いたかっただけよ」

 

 セイバー達サーヴァントは、道路向こうの外人墓地に戦闘を移していた。

ここでも聞こえてくる剣戟の音が、その激しさを物語っている。

好機を作ってくれた。その行動にマスターは報いねばなるまい。

 

「遠坂先輩、貴女は私が守ります。二人であの子をやっつけましょう…」

 

「あら、生意気な事言ってくれるじゃないの。でも、今は心強いわね」

 

凛は右手の五指をイリヤに向け、桜は左手の掌を同じくイリヤに向ける。

両者とも、考えるのは第一に不可避の速攻。

―――魔術による弾丸でまず敵を眩ませ、持っている宝石の魔力を至近距離にて開放。そこより生じる魔弾は防御不能の攻撃力を持ち、敵を打ち倒す。

―――魔術による弾丸で敵を衰弱させ、弱った所で渾身の魔力を叩き込み、敵を拘束する。

 

 もし敵がこちらの初弾を防いだら?

それこそ望む所だ。二人で接近戦に持ち込んでふんじばってやる。

 

対するイリヤは、

 

「…?、構えないの、貴女」

 

「構えるですって?」

 

微笑みながらだらんと両腕を下げ、自然体のまま。しかし若干胸を反らしながら、イリヤは凛と桜を眺めていた。

 

「構えるって、それ防御って事でしょう?リン。アインツベルンの私に構えなんて無いわ。

あるのはただ、前進制圧のみよ」

 

―――来ないならこっちから行くよ?リン、サクラ。

 

 滑るように移動し、不可視の速度で二人に近づくイリヤ。

まさか。 全く同時に、凛と桜は心中に期した。

イリヤは、最初から接近戦を想定していたのだ。

だが、怯まず、魔力の弾丸を打ち出す両者。

 

「ぇいッ!!」

 

その弾丸はイリヤの振るう両腕に吸い込まれ、霧散。

どのような魔術が込められているのか。凛と桜の魔術は無効化された。

そして速度が全く衰えない、イリヤの腕が手刀となって牙を剥く。

 

「はや…ッ!!」

 

間一髪。

攻撃を避ける桜。凛もまた同じく。

ふんじばるなど、カウンターを叩き込もうなど、もってのほか。

避ける事しかできなかった。

 

「……さて、バーサーカーの様子でも見に行こうかしら」

 

「何言ってるの?イリヤスフィール。まだ勝負はついていないわ」

 

「魔術を込めた貴女の攻撃は凄まじいですが、避けられない程じゃありません。今度はこちらから行きます…!」

 

相手は己の力に酔いしれ、油断している。

そう判断し、凛と桜は再度攻撃を敢行する。

 

―――足が動けばの話だが。

 

「あ、足が…!?」

 

傷を負い、血を流して動かない己の足を見やり、二人は気付いた。

先程の攻撃はかわせてなどいなかったのだ。

正しく不可避の速攻。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、それを成していた。

 

「避けた筈なのに!」

 

「速さが足りないわ。真の速さとは、音や空間をも置き去りにするものよ」

 

十文字に振るわれた超高速の手刀は真空状態を引き起こし、二人の足を切り裂いていた。

 

「こんな魔術聞いた事無い…! 貴女、アインツベルンなんて嘘でしょう?」

 

アインツベルンの魔術は主に錬金術や、力の流動転移のはず。

こんな品の無い力技などある訳が。

 

「…はぁ。負け犬の遠吠えなんて聞きたくもないし、そんな奴の止めを刺すなんてもっての他。拳を汚すだけね。

黙ってそこに立ってなさいな」

 

歩き出すイリヤ。その歩みは、まるで無人の野を往く帝王の如し。

 

「させるか!」

 

それを止める為、士郎はイリヤの前に躍り出た。

 

「あら、お兄ちゃん。逃げなかったんだ?」

 

「お前を足止めして、二人の体力回復を待たせてもらう・・・!」

 

その手には、どこから拾ってきたのだろうか丈夫そうな木の棒。中々の反りがあるそれは、さながら木刀のようだった。

 

「トレース、オン」

 

一発で成功する強化の魔術。それを両手で握り、全力で目の前の少女に叩き込む。

 

「……さっきのリンとサクラの攻撃の方が、まだ気合が入ってるよ?お兄ちゃん」

 

イリヤには、男性の渾身の攻撃など止まって見える。それを、手刀にて切り落としに行く。

 

「―――そりゃあ、そうだろうな」

 

イリヤに切り落とされる筈の棒きれは、手刀に当たる手前で、士郎の掌の中で正確に180度回転。

遠心力が加わったそれは不自然な軌道を描き、イリヤの手に命中する事無く空中で停止する。

 

―――何を?

 

そう思わせる事こそが、士郎の策であった。

 

「―――捕まえ、た!」

 

木の棒から手を離し、士郎は自由になった両手でイリヤという少女を素早く抱きすくめた。

闘いの基本は格闘だ。武器や装備に頼ってはいけない。

まるで狐のような速さで、彼はサーヴァントのマスターを拘束した。

 

「この距離なら手はおろか足も出せないな!」

 

「衛宮!こっちは大丈夫だ!!」

 

 そう叫ぶ慎二は、動けない桜と凛の治療を行っていた。

ツカムの絆アビリティのおかげで桜の体力回復は順調だが、凛には時間による体力回復など無い。加えて、切られて動かなくなった二人の足が治るにはまだまだ時間が必要だった。

慎二は桜の手の甲に触ると、親指と人差し指の間を指で突いた。

 

「痛ッ!!!」

 

「ほら、遠坂も」

 

「痛あッ!!!」

 

バタバタと足を動かす二人。

 

―――あれ?

 

「この手に限る」

 

「…兄さん。まさか魔術を?」

 

「そんなわけ無いでしょ、桜。経絡ってやつね?慎二」

 

「ご明察」

 

「知りませんでした……。どこでそんな知識を?」

 

「説明書を読んだんだ。僕は物覚えがいいからね」

 

 半分、嘘である。

これは慎二が生まれながらに持つ天性のもの。間桐家の魔術回路は慎二の代で絶えたが、その残滓は慎二の身体に生き続けていた。

それがどのような化学変化を起こしたのか。目を凝らせば、彼には人体のツボ・経絡が輝いて見える。

どのツボ・経絡が何なのかは十年前から死に物狂いで勉強した。

その天稟でもって、子供の頃から慎二は妹である桜の痛みを僅かだが和らげていた。

桜は全く気付いていないが。

 

「とにかく感謝するわ、慎二。さて、これで形勢逆転ね。イリヤスフィール」

 

「数の暴力だなんて言うなよ?お前を殺さずに無力化させる為なら、何だってするさ」

 

「かっこよく決めてる所悪いけど、衛宮。傍から見れば幼女に抱きついてる変態だぞお前」

 

「ほっとけ!こっちはこれでも必死なんだよ!!」

 

 必死即ち生くる也。

彼らの行動は、イリヤを詰みに追い込んだ。

 

「―――お兄ちゃん」

 

「大人しくしていてくれよ?・・・・ぇ?」

 

押さえ込んだのが、士郎でなければ。

一眼二足三胆四力。

イリヤと目を合わせたのが、王手返しの狼煙だった。

 

「―――ハッ!」

 

イリヤの眼は、魔性の瞳である。魅了の魔術がかかっているそれは、対象を強制的に従わせる。

士郎の力が緩む。そして、イリヤは飛翔した。

 

「飛んだ!?」

 

「地に足がついていれば、造作も無い事よ?サクラ」

 

イリヤは空中にて前転。足を突き出し、踵落としの形となり重力に従って落下する。

 

―――それはまるで、天から失墜してくる小さな彗星。

 

「じゃあね。お兄ちゃん」

 

「先輩!!」

 

士郎はいまだ動けない。たとえ動けたとしても、この技の破壊力の前には為す術などない。

桜は士郎を庇う為、彼の前方に踊り出た。

 

 勝機を取られた。

 

「ーーーーーーー!!!!」

 

「ぉおおおおおお!!!!」

 

されど、その状況を凌駕し人を守る者こそ義勇軍。

 

絆アビリティ追加発動。

 

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バーサーカーと戦っていたツカムが、小彗星を凌駕する恐ろしい速度でこちらに近付き、士郎と桜をはるか後方へと投げ入れた。

 

 

 

 

「無事ですか!シロウ!!」 

 

 セイバーとライダーはツカムの後を追った。

そこには抉られている大地とイリヤ。バーサーカーと剣を交わしているツカム。

そして、五体満足な士郎と桜。

 

「・・・ああ、何とかな」

 

「先輩…、無事で本当に良かった……!」

 

「もう!全く無茶しすぎだよ兄ちゃん!」

 

安心する桜。叱るピリカ。

 

「面目ない・・・・・」

 

危うかったが、二人の命に別状は無い。終わりよければ全て良しだ。

 

「おい衛宮」

 

―――許されはしないが。

慎二の拳が、士郎の顔面を捉えた。続けて顎にスマッシュ。

 

「・・・、すまない慎二」

 

「妹を殺すつもりか?おい。

お前がどこの鉄人英雄様か知らないが、油断して今度またヘマをやらかすと、この僕の手で絞め殺して、クソ溜めに捨ててくぞ。・・・決して忘れるな。覚えとけ」

 

士郎の胸ぐらを掴み、眼を覗き込みながら唸るような声を上げる慎二。

 

「兄さん!何も殴らなくても!!!」

 

「いや、いいんだ。すまなかった桜。・・・慎二、もう二度とこんなヘマはしない。肝に銘じる」

 

「だといいが?」

 

「兄さん!!」

 

「…悪いんだけど、お喋りはそこまでよ三人とも」

 

慌てる桜に凛が声をかける。

ここは戦場。まずは生き残る事を第一としなくてはならない。

 

「へ~…、中々の速度ね。余所者さん?」

 

「・・・なに、どうも」

 

イリヤは鳥のようにふわりと着地した後、バーサーカーの後方で己がサーヴァントとツカム達の戦いを見ていた。

 

「ーーーーーー!!!」

 

 咆哮を上げる、震える山。

マスターとしてイリヤはそれに命じる。命令は唯一つ、サーチアンドデストロイ。

動きが加速し激しくなる敵に、セイバー達サーヴァントは攻めあぐねっていた。

 

「埒が明かない。・・・あいつの筋肉の鎧を貫くぐらいの攻撃が必要だな」

 

「そのようですね、ツカム。では私が宝具を使い、埒を明けさせましょう」

 

「いや。分断作戦が失敗した以上、ライダーは士郎達を守護してくれ。俺が往こう」

 

 そう言うと、ツカムは腰を落として右手を引き絞り、その手に持つ聖剣の切先をバーサーカーに向ける。左手は、剣先に添えるだけ。

その姿はまるで、猛禽類が得物に飛び掛る為の準備動作。

全身が熱を帯び、輝くツカム。

 

「魔力が集まってる・・・?まさか宝具!?」

 

「あんた、やっぱり英霊だったの!?」

 

驚嘆する桜と凛。彼は英霊ではなくただの異世界人だ。そう思っていた。しかしこの状況を見ろ。

セイバーやライダーといった英霊と一緒とはいえ、ただの人間にあのバーサーカーを相手取れるか?こんなにも魔力を集中させられるか?

 

―――俺は、皆を守る。

 

「 光を、つかむ 」

 

・・・・男が消えた。

ツカムの背を見ていた者は皆同じ感想が頭に浮かんだ。

しかし逆に、ツカムを正面から見ていた者にとってはそうではなかった。

即ち、士郎や桜達にはツカムが消え。イリヤにはツカムの持つ剣の切先だけが眼に映った。

 

―――誰かを守る為には、貫き通す力が必要だ。それは意志力だったり行動力だったり、貫通力であったり。

 

 この剣は、ツカムが生前2番目に愛用した剣技。

消えたと見紛うばかりに速い突進。そこから発生する、何者をも貫通し標的を確実に殺傷する刺突。

剣を横にねかせた状態で繰り出すこの突き技は、突いた後瞬時に横薙ぎの払い攻撃に移行できるという利点がある。

 何かの影に隠れている標的にとって、その隠れ蓑を貫き瞬時に現れるこの剣は正しく魔剣といえよう。

 

 

 

―――隠し剣 クロノブレード

 

 

 

 ただもしも、この剣を防ぐ事が出来るとしたら。

 

「ーーーーーーーーー!!!!!」

 

それはおそらく、使い手以上に、誰かを守るという事に拘った者だけであろう。 

 

「・・・・ドジったな」

 

石斧が、ツカムの胴体を薙ぎ払った。

 

「ツカムさん!」

 

「嘘でしょ…。まさかあれって…!」

 

 その凶器の持ち主は先程ツカムが貫き、絶命させた者だった。

傷の治癒だとか、催眠術だとかそんなチャチなもんじゃあ断じて無い。

 

「命のストック…。あいつは、バーサーカーは複数の命を持っている英霊なのよ!!!」

 

曰く、大英雄。

 

曰く、ネメアの獅子退治から始まる12の試練を全て突破した者。

 

曰く、神に至った者。星となった者。

 

 

其の名を、ヘルクレス座のヘラクレス。

 

 

「言ったでしょう?私のバーサーカーは、ヘラクレスだって」

 

 

イリヤの盾となるバーサーカー。その目が、彼女を必ず守ると告げていた。

 

 

 

 




次回予告

冬木の街が、狂気をはらむ。
それぞれの望み、それぞれの運命。
せめぎ合う欲望と、絡み合う縁。
剣戟をくぐり抜けた時、突然現れた一刻の休息。
昇り往く朝日に、二つの影が重なる。
次回「嵐」
過去からの目覚めが、茶番を隠す。





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