Fate/チェインクロニクル   作:ブロx

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第5話 敵対

 

 

 

 ―――君の目の前には魔法のランプがある。このランプを擦ると、どこからともなく魔人が現れ、君の願いを何でも叶えてくれる。

不老不死だって、遥かな高みだって、最高の伴侶だって、黄金だって手に入る。望みのままだ。

例え君の望みがこの世の全てだとしても、間違いなく君の物になる。

 

さあ、どうする?

 

 

「・・・つまり、願いが叶う魔法のランプを手にする為の戦いが聖杯戦争って事か?慎二」

 

「まあ、簡単に言えばそういう事さ。何せ英霊なんていう規格外すらサーヴァントとして現世に召喚する事ができるんだ。

自分の願いの一つや二つぐらいなら簡単に叶うだろうね」

 

時刻は深夜。草木も眠るとまではいかないが、順調に夜が更けてきている時間。

 

一体自分は何に足を突っ込んでしまったのか?

 

士郎は友人である間桐慎二に、聖杯戦争についての説明を受けていた。

 

「叶えたい願いぐらい、人間なら一つ二つあるだろう?衛宮。ちなみに聞くけど、お前の願いは?」

 

「・・・願い、か」

 

うーん、と腕を組みながら考える士郎。

 

「・・・昔、魔法のライターっていうビデオを見たことがあってさ」

 

「?、ああ」

 

怪訝気味な慎二の目には、ジッポライターを点火する仕草をする士郎。その姿が、妙に堂に入っていた。

 

「―――これは魔法のライターだ。このライターの火をつけると、君は今の年齢のまま老いる事も死ぬことも無くなる。若い身体のままで、ずっと生きていける。

どうだい?火をつけるかい?・・・・ってね。

 小学校で何かの授業の時に見せられたんだけど、その後火をつけるかつけないかクラス全員で話し合いなさいって先生が言ってさ。

 …今思えばあれは議論・討論の練習で自分の意見意思をどう述べるか、考えるかの授業だったんだろうけど、そのテーマがな。今でも印象に残ってるよ。

今回のその聖杯ってのも、あのライターと同じ感じがする。きな臭い感じだ」

 

真実がなんであれ、良い結果は起こりそうも無い。それが士郎の考えだった。

 

「へぇ~。つまり衛宮、お前はつけない派だったのか?」

 

「ああ。つけない派だった。クラスの大多数がそうだったかな」

 

「ま、僕もつけないかな。不老不死なんてたまったもんじゃない。・・・・とすると衛宮、お前の願いは、」

 

はっとして慎二が視線を向けると、当然だと言わんばかりの士郎の顔があった。

 

「ああ。ねぇよ、んなもん」

 

「・・・はは、夢の無い奴」

 

「ほっとけ慎二。・・・ところで、俺たち何処に向かってるんだ?」

 

 後輩の間桐桜達義勇軍と同級生の遠坂凛に出会った士郎は、彼女らに連れられ夜道を歩いていた。

集団で歩いているとはいえ、人っ子一人いない夜道。道を照らしてくれる明かりは夜空に浮かぶ月と、ぼんやりと光を放つ街灯だけ。暗い夜の路を行く、彼らの終着点は。

 

「丘の上の教会だよ。聖杯戦争の監督役の神父がそこに住んでるんだ。…っと」

 

ひとしきり説明を終えた慎二は、先頭を歩く遠坂凛に声をかける。

 

「遠坂、そろそろ着くだろ?神父様によろしく言っといてくれ。僕は外で待ってるから。あの教会嫌いなんだよ、僕」

 

「……分かったわよ」

 

そう吐き捨て、苦虫を潰したような顔の凛。

 

「すごい顔だぞ、遠坂」

 

「……癪だけどその神父とは顔馴染みでね。私、大ッ嫌いなのよあいつ。

ああ、安心して。命を助けてもらった義理は果たすわ。セイバーの剣を止めてもらったのは衛宮君だし。ちゃんと案内するわよ」

 

―――でもそうだ、私のサーヴァントに狙撃させようかしら。

 

 凛は心中に期しただけだが、口には出さずともこの場にいる全員はその顔を見て察した。

 

彼女は本気でやる、と。

 

「…遠坂先輩。教会は中立地帯で不可侵の掟があります。サーヴァントを連れては入れませんよ?」

 

「分かってるわよチクショウ」

 

そうこう言う内に教会に到着する一行。

 

「シロウ。私は外で待機しています。何かあれば、令呪を使ってでもこの身を呼んで下さい」

 

「では先輩、行きましょうか」

 

「サクラ。オイラ達も外で待ってるよ!」

 

「リラックスしなよ、遠坂。こいつらの面倒は僕がしっかり見ててやんよ」

 

笑う慎二。

 

「くたばりやがれ・・・!」

 

「まだ言うか、遠坂」

 

―――あんたも会えば分かるわよ。

 

すごい形相で士郎にそう呟く凛。

 

【あかいあくま】みたいだ。とは後の士郎の言である。

 

「所で衛宮くん。さっきの話なんだけど、」

 

「何だ?」

 

「慎二に話してた、魔法のライターの話よ。オチは?何もない訳ないでしょ?」

 

「私も気になってました。どんな最後だったんですか?」

 

ちょっと興味あり、という風な表情の凛と桜。三人は、教会に足を踏み入れた。

 

「ああ、たしか・・・・・」

 

 

 ビデオはこう締めくくった。

 

―――君達は、火をつけないという考えがほとんどだと思う。私のこの手にあるライターは勿論何の変哲も無いライターだ。

だが、私はもしも魔法のライターを手に入れたら、このように何の躊躇も無く火をつけます。

何故って? 君達が大きくなれば分かる事でしょう―――。

 

 

 魔法のライターは、ランプは、この街にある。

 

過程や結果がどうであれ、その人の望みを叶える。そんな代物が。

 

 

 

 

 

 

 聖杯戦争とは何ぞや。それを行う目的は?それらを説明し終え、教会を出てゆく三名を見やりながら、くつくつと嗤う男がそこにいた。

 

―――此度の聖杯戦争は、中々に愉しめそうだ。

 

男の名は言峰綺礼。ここ、冬木教会の神父である。

 

『聖杯戦争はこれで五度目。約六十年周期で行われるこの戦争だが、前回は十年前。今回は異例のサイクルといえる』

 

『・・・・・十年前?』

 

『その通り。ここ冬木の街に原因不明の大災害が襲い、まるで天地を飲み込むほどの大火災が起きた年でもある。

一つの例外も無くモノが焼け朽ちていったあれほどの災害が、もし、人為的に引き起こされたものだとしたら君はどう思うかね?』

 

『―――つまり、あの火災は、』

 

『前回の聖杯戦争の最期、相応しくない者が聖杯に触った。何を望んでいたのかは知らんが、結果は知っての通り。あれが聖杯戦争による爪痕だ。

奇跡的にあの災害を生き残った者は、今でも相当な苦労をしていると聞いた事がある』

 

『・・・・聖杯に触れてあんな災害を起こした奴が、前回の勝者って事か?』

 

『いいや。一時的に触れただけで、聖杯を手に入れるには及ばなかった』

 

遠坂凛。衛宮士郎。間桐桜。

 

三名は各々面白い反応を神父に見せてくれた。

 

一人は、つまらなそうだが闘志を目に宿して。片や、意志と怒りを胸に秘めて。

もう一人は、誰も傷つけまいという強い想いを足に込めて。

 

そして神父は、聖杯戦争を戦うか否か三名のマスターに問いかけた。

 

―――戦う意思はあるや否や?

 

 

『戦うに決まってるじゃない』

 

『俺は闘う』

 

『私も戦います』

 

 

「凛は予想通りだが、まさか衛宮の息子だけでなく間桐の娘も参戦するなどと。しかも英霊でも無いイレギュラーを引き連れて来るとはな」

 

良い。いい愉悦だ。

 

「片や、己の意志を為すために。片や、誰かを守るために」

 

願いなど無いと口にしようとも、どちらも等しく願望。人間が普遍的に抱くもの。それに気付いていようがいまいが関係はない。

 

実に愉悦。いいや、これこそが愉悦なのだろう。

 

「喜べ、少年少女よ。君達の望みはようやく叶う」

 

意志を為すためには越えるべき障害が必要。守るためには打ち倒すべき敵が必要。

 

戦が、必要だ。

 

「その中で、君達は一体何と言って死ぬのかな」

 

聖杯は自らを得るに相応しい者を選び、与えられる。

 

だからどうか、つまらないモノにはなってくれるな。

 

聖杯の為に。私の為に。

 

言峰綺礼は笑みを浮かべる。己を愉しませてくれる極上の娯楽を思い浮かべながら。

 

神父は跪き、祈りを捧げる。

 

 

 

 

 

 教会からの帰り道、桜たち一行は来た道を歩いていた。

急激に寒くなってきた今夜。こんな夜は、暖かくして寝るに限る。

ゆえに、畳み掛けるのは今だった。

 

「義勇軍に入ってくれませんか?遠坂先輩」

 

「 イヤよ 」

 

 ツカム達の事を話しながら、桜は凛に提案した。

貴女とは戦いたくない。ので、是非とも我々義勇軍に参加してほしいと。

桜とピリカ、ツカムには聖杯にかける望みなど無い。ライダーにも聞いてみたが、無いとの事だった。

 

『この身はサクラ、貴女を守る為にあるのですから』

 

正にサーヴァントの鑑。・・・ちなみに慎二は、

 

『金だ!金が欲しい!!金は命より重い!!!』

 

『資本主義者め・・・!』

 

『兄さん…。今度余計な事を言うと口を縫い合わすぞ』

 

―――ただのカカシにされたそうな。

 

それと、士郎とセイバーにも同じ提案をしたのだが、

 

『―――悪い。俺には聖杯にかける望みなんて無いけど、セイバーには・・・』

 

『無論です。私には叶えたい望みがある。……同盟というのなら、話は別ですが』

 

中々どうして、強かなお人だ。同盟は締結された。

 

「……では同盟関係を結びませんか?遠坂先輩。私達、聖杯には手出ししませんから。約束します」

 

「そんな言葉、信じられないわね。甘い言葉で誘って漁夫の利を得ようって腹じゃないの?桜」

 

「まあまあ、赤い姉ちゃん。オイラ達は義勇軍!決して約束は違えないよ」

 

「そうだそうだ」

 

うんうんと頷くツカム。

しかし、凛はまだ腑に落ちない様子だった。

 

「それに、その義勇軍?何で私がそんな得体の知れない所と組まないといけないのよ。私、認めてる奴とじゃなきゃ組みたくないの」

 

「…遠坂先輩といえど、降りかかる火の粉に身を焼かれるかもしれません。火の粉から身を守り、そして人々を助けましょう!」

 

「義勇軍は軍とか言ってるけど堅苦しくないし、ましてや人を束縛する集団でもない。ただ人を守りたいという想いを、志しを持っていればいいんだ」

 

「・・・へえ?」

 

ツカムの言葉に、目を細める凛。 まるで猫みたいだ。ツカムは思った。

 

「あなた、ツカムって言ったかしら。桜に変な事を吹き込んでどうするつもり?異世界の偽善者さん?」

 

「吹き込むだなんて!!」

 

桜はツカム達に確かに助けられた。だが決めたのは、彼の手を取ったのは、他ならぬ自分の意志だった。

 

「サクラ、ちょっと待っててくれ。・・・何が言いたいんだ?」

 

「人々を守る義勇軍ですって?助けてくれって誰かが頼んだのかしら?はっきり言って迷惑なのよ。

あなたが生きた世界がどんな所だったか知らないけど、ここは違うの。そんな独り善がりは、胸の内にでも秘めて口に出さないでくれるかしら?」

 

「遠坂! 放っておけば、さっきあの神父が言ってたように十年前の大災害が起こるかもしれない。…もうあんな事は起こさせちゃいけないだろ!」

 

「俺が偽善者だって事は認めよう。でもこれから始まるのは戦争なんだろう?君だってシロウだって、死ぬかもしれないじゃないか」

 

止められるのならば、それを止めたいと思うのは間違いか?

 

「だから言ってるでしょう。頼んでないのよ。自分の事は自分で決めるの、私」

 

―――人間の基本でしょう?

 

「・・・分かった」

 

「ツカムさん!遠坂先輩!!」

 

諦めるツカムと取り付く島も無い凛に、桜が叫ぶ。

 

「サクラ。彼女は気高い人だ。決して妥協なんてしない」

 

「…残念だけど、この姉ちゃんは無理っぽいね」

 

男だけじゃなく、誰にだって自分の世界がある。例えるなら空を駆ける、一筋の流れ星。

 

「…遠坂先輩。私諦めませんから。そして、貴女と戦いたくなんてありませんから…!」

 

「あっそ。お互いせいぜい頑張りましょ?」

 

じきに分かれ道に差し掛かる。あちらは遠坂邸、こちらは間桐邸。明日からは敵同士だ。

 

 

「―――ねえ。お話は終わり?」

 

 

このまま何事も無く夜を越えられればの話だが。

 

寒いはずだ。いつのまにか、目の前には雪が舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

愛の究極に、憎しみの究極に、ともに潜むのは殺意。
完全なる殺意は、最早感情ではなく冷徹なる意志。
人は神に似せて創られたという。
そして彼女は、人に似せて生まれたという。
それでは、神の意志に潜みしものは愛か憎悪か。
次回「戦士」
流される敵の血潮で、渇きを癒す。





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